人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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番外編1-6・再会

 2009年10月4日 影時間

 

 ~作戦室~

 

 今日は満月。作戦室には緊張の面持ちで特別課外活動部の面々が集まっていた。

 

「今日は満月だというのに、荒垣と天田が不在とは……明彦、何か聞いているか?」

「シンジは影時間になる前に、少し出てくると言って出て行ったきりだ。天田からは何も聞いていない。まさか、葉隠に闇討ちでもされたんじゃないだろうな?」

「でもあいつ、あの日から一度も見てないっすよ?」

「元の世界に戻ろうとしてるなら姿を見せる可能性が高いって言われて、私達もずっと警戒してましたけど、一切音沙汰がありませんでしたね……」

「風花の言う通り。私達も忙しくてほとんどタルタロスに行けてなかったけど、それにしてもなんか不気味だよね」

「ワン!」

「いないものは仕方ない、できることをやるしかない、とコロマルさんが言っています。私も修理のついでに全身のオーバーホールをしていただけたので、状態は万全。私のやるべきことに全力を注ぐであります」

「そうだね。今日が大型シャドウの出る日なのは2人も知っているはずだから、それでも必要なことなんだと思う。私達だけでも行っておこう」

 

 公子が座っていた椅子から立ち上がり、外に続く扉へ向かうと、特別課外活動部のメンバーは各々で自分を奮い立たせながら後に続く。それは互いを信じ合うチームのようにも、誘蛾灯に誘われる虫の群れのようにも見えた……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~巌戸台駅前商店街付近~

 

「皆さん、ちょっと止まってください」

「どうしたの? 風花」

「何か、変な感じがして……」

「大型シャドウが目視できるであろう地点までもう少しだ。何か動きがあったのか?」

「いえ、そういう事では……!! 皆、上を見て!!」

 

 風花の鋭い声で仲間達が顔を上げると……近くのビルの屋上に不気味な満月を背にした、忍者装束の影虎が佇んでいた。

 

「アイツっ!?」

 

 順平の声と同時に影虎はビルから身を躍らせ、壁面を駆けるように落下。そのまま地面に墜落する寸前で壁面を蹴って跳躍すると、特別課外活動部の前方に降り立った。まるで進路を阻むかのように。

 

「そっちから来て攻撃してこないってことは、私達に用があると思っていいのかな?」

「話ができるなら、それに越したことはない」

 

 咄嗟に臨戦態勢に入りかけた仲間を抑え、緊張の面持ちで公子が声をかけると、影虎は同意した。初対面の時ほど言葉選びは丁寧でないものの、一度交戦した事を考えればまだ穏便と言えるだろう。

 

「葉隠。我々は君に失礼では済まない事をした。私達も改めて謝罪と話をしたいと考えているが、今は時間がない」

「理解している。君達の目的はこの先にいる大型シャドウを討伐することだろう。この影時間中に倒したいのであれば、あまり長々と話すことはできない。

 こちらとしても時間をかけるつもりはないので本題に入るが……大型シャドウを討伐を辞めてくれないか?」

 

 影虎が率直に告げた途端、特別課外活動部の面々が気色ばむ。特に顕著だったのは、やはり以前から強硬な姿勢を崩さなかった真田だ。

 

「貴様ッ! まさかストレガと手を組んだのか!?」

「ハァ……接触はしたが、まだ(・・)組んではいない。いきなり出てきた所属不明のペルソナ使いを、簡単に信用はできないだろう。特に今は彼らも君達と争っている最中で警戒が強くなっているらしいしね。

 現状の我々の関係は、とりあえず相互不可侵で様子見。大型シャドウの討伐を辞めてほしいという要求は彼らと重なっているが、俺個人の意思だ。付け加えると、大型シャドウを討伐しても君達の目的には近づかないどころか逆効果でしかない」

 

 影虎は事実を淡々と語る。しかし、その言葉がすんなりと受け入れられるわけはない。特に岳羽の反発は強かった。

 

「どういうこと!?」

「ちょっ、ゆかりっち落ち着けって!」

「落ち着けるわけないでしょ!? いきなり出てきて偉そうに! この前のことは確かに私達が悪かったと思ってるけどねぇ! アンタがシャドウや影時間の何を知ってるってのよ!?」

「……少なくとも今の(・・)君達よりは知っているよ」

「もしかして、貴方が魔術師であることに関係してるの?」

 

 ここで公子から出た一言で、頭が痛そうな顔をしていた影虎が若干の関心を見せた。

 

「魔術についてはバレていたのか」

「私から回収された記憶データが解析されました。貴方がルーン魔術師であることはマルっとお見通しであります」

「であれば話が早いか? その通りだと言っておくが、それだけじゃ納得はできないだろう。だからここで一つ、俺の能力を見せようと思う。証拠とまではいかないが、少なくともシャドウへの理解が君達以上であることは示せる。

 攻撃の意思はないのでよく見ておくといい、特に山岸さん(・・・・)はな」

「っ! ルキア!!」

 

 山岸が素早くペルソナを召喚。他の仲間達も戦闘態勢まではいかないものの、体に力がこもる。そんな特別課外活動部をよそに、影虎は一言呟き力を解き放った。

 

「“召喚”」

 

 精神と肉体のエネルギー、そしてMAGが横に伸ばされた手を通して練り合わされ、瞬く間にスーツを着た外国人男性の形を成す。片膝をついた状態で顕現した男は速やかに立ち上がり、軽くスーツの襟を正して影虎の隣に立った。

 

「え? あの人どこから」

「バウ! バウバウ!!」

「シャドウ反応あり! コロマルさんも“違う、あれは人じゃない”と言っているであります」

「はぁ!? マジで!?」

「葉隠は“召喚”と言っていたな」

「つまり、シャドウを呼び出す能力か」

『いえ、少し違います……あれは呼び出すのではなく、作る力。タルタロスとかにいる既存のシャドウを連れてきているのとは違って、一から作るから能力や姿の自由が利くみたいです。あんな風に』

「魔術的に言うなら“式神”とか“使い魔”と言った方が分かりやすいかもしれないが、そこはあまり重要じゃない。とにかく俺はシャドウをある程度自由に作り出せる知識と技術を持っている。これは暫定的に“エージェント・スミス(改)”と呼んでいる。

 これを前提として言わせてもらうと、あの大型シャドウは1匹のシャドウであると同時に、もっと大きな何かのパーツなんだ。現状は大型シャドウという形で安定しているが、討伐してしまうと消えることはなく元の形に戻ろうとするだろう」

 

 影虎は多少のこじつけをしたが、大型シャドウについては原作知識に沿った説明を行った。

 

「大型シャドウが存在することで影人間が増えることも、討伐することで影人間になっていた人が元に戻るのも事実ではあるが、それは小康状態に過ぎない。大型シャドウの討伐を続けていけば、より大きなシャドウと問題を引き寄せることになる」

「……確かに、これまで大型シャドウを倒してきたけど、段々と影人間になる人は増えてるけど……」

 

 影虎の説明と街の様子の変化が結びつき、公子が僅かな納得と迷いを見せる……しかし、受け入れるよりも前に、岳羽がより強硬に反発した。

 

「……嘘つかないでよ、そんなの信じられるわけないじゃない! 適当なことを言って、私達を騙そうとしてるんでしょ!?」

「騙すつもりはない」

「だったらアンタが間違えてるだけよッ! 私達だってシャドウの研究をしていた人から話を聞いて行動してるの! アンタと違って信頼できる人が、命と引き換えに残してくれた言葉を馬鹿にしないでよ!!!」

「ゆかりちゃん!」

「ゆかり! 落ち着いて!」

 

 岳羽が弓に矢を番え、文字通り射殺しそうなほどの剣幕で叫ぶと、慌てた山岸と公子が止めに入る。しかし、岳羽は弓を下ろそうとはしない。険悪な雰囲気が流れる中、今度は桐条が口を開く。

 

「すまない。岳羽が言っているのは、実の父上の言葉なんだ。彼女が感情的になってしまったのは目を瞑ってもらいたい。

 だが、彼女の意見には私も賛同する。シャドウについての研究は、我が桐条グループが長年継続してきたことであり、大型シャドウと影時間の関係についても結論が出ている。それを君一人の言葉で覆すわけにはいかない」

「そうか、なら仕方がない」

 

 交渉が決裂したことで、今度こそ双方が完全な臨戦態勢を取る。

 数秒間の睨み合いの後に、口火を切ったのは怒り心頭の岳羽の矢だった。

 

 単純に放たれた矢など、今更影虎に当たるわけがない。一歩横移動で躱し、次に続く真田と相対。

 

「前と同じにはならんぞ!!」

「……」

 

 気合十分だが、確かに以前よりは無鉄砲に突っ込むことはない。ヒットアンドアウェーに専念して捕まらないように、影虎の牽制を行う腹積もりだが──確かに前回とは違った。

 

「シッ!」

「チィ──なっ!?」

「明彦ッ!?」

 

 影虎の迎撃から逃れた次の瞬間、背後から接近したスミスに腕を取られ、真田は取り押さえられてしまう。

 

「バウ!!」

「先輩を放しやがれ!!」

「“鉄塊”」

 

 すかさず真田を助け出すべく、コロマルと順平がスミスに切りかかる。しかし2人は間に滑り込んだ影虎の両腕に容易く阻まれてしまう。

 

「かって──」

「ハァッ!」

「ギャウン!?」

「グへッ!?」

 

 薄手の服に見合わない手ごたえに怯んだ隙を逃さず、影虎が半歩前進。攻撃を防いだ両腕を突き出す事で、切りかかった2人を逆に弾き飛ばす。

 

「皆──」

『攻撃が来ます!』

「──防御に専念!!」

「“嵐脚”!」

 

 近接攻撃チームの攻撃が止まり、フリーになった隙を影虎は逃さない。蹴りから放たれた二本の鋭い気の刃が商店街の道路を削り、後方から遠距離攻撃やペルソナを召喚しようとしていた4人へ襲いかかる。

 

「ちょっ!?」

「私が守るであります!」

 

 前に出たアイギスが体で攻撃を受けるが、嵐脚で巻き上げられた道路の砂埃や瓦礫は後ろにも飛び、公子、桐条、ゆかりの体を打つ。故に彼女達は気づくのが遅れた。体を打つ小石の中に、瓦礫でないものが混ざっている事に……

 

『ダメっ! マハジオジェムが』

 

 山岸の鋭い注意が飛ぶが、対応は一歩間に合わず。攻撃を受けて硬直した特別課外活動部の足元から(・・・・)、広範囲の雷撃が迸る。それはほんの一瞬だが、攻撃を受けた彼ら・彼女らの苦悶の声をかき消すほどの轟音を伴う。

 

 常人が受ければ命はないが、ペルソナ使いである彼らは大きなダメージこそ受けたものの、意識は保っていた。

 

「ペルソナッ! “だいそうじょう”!!」

「メディアラハンか」

 

 公子が苦痛を堪えて呼び出したペルソナの力が、特別課外活動部全員を癒す。これにより体力的には全回復した。しかし一度大きなダメージを受けた事実は変わらず、精神的には満身創痍に近い。真田に至ってはスミスの拘束を振りほどけずにいる。

 

 それでいて相手の影虎は全くの無傷と、特別課外活動部は圧倒的に不利な状況に追い込まれた形だ。

 

「開戦からほんの数秒でこの惨状。そもそも前回はフルメンバーで挑んで撤退したのに、今日は2人足りない。それで勝てるわけがないだろう。改めて言うけど、大人しくしておいてくれないか?」

「何度言われても同じよ! 私達は、私は絶対に諦めないんだから!」

「ゆかりさんに同意であります。シャドウの殲滅は、私の存在意義の一つですから」

 

 声を上げなかったメンバーも、目には抵抗の意思を滾らせている。

 

「……だったらどうする? そちらにも意地があるのは認めるが、状況は悪くなるだけだぞ?」

「ぐうっ!?」

「真田先輩!?」

 

 ここで真田が苦悶の声を上げたことで一瞬そちらに、続いて影虎へ、特別課外活動部の厳しい視線が向けられる。

 

「明彦!?」

「俺のことは、気にするな……!」

「そんなこと、できるわけないでしょ!?」

「おい葉隠! 先輩を放せよ!?」

「今まさに交渉が決裂した敵を、放せと言われて放す奴はいないだろ。というか、別に痛めつけているわけではないぞ?」

『葉隠君の言葉は事実みたいです。拘束されたうえで体力と魔力を吸われていますが、怪我など肉体的なダメージはありません。あのシャドウ、エージェント・スミスは──えっ!?』

 

 山岸の報告で僅かな安堵が特別課外活動部に広がったところに、続いた驚きの声で緊張が走る。そして公子が何事かを尋ねる前に、原因が発覚する。

 

 拘束されていた真田の隣に、2体目のスミスが現れた。

 

「増えた!?」

「ワウゥン」

「そうか、まだ作れるのか、と言っているであります」

『作られたのは事実だけど、葉隠君じゃありません。あのシャドウです!』

「なんだと!?」

「その通り。このシャドウのスキルは“体術の素養”、“吸魂”、“邪気の左手”、そして“召喚”。

 擒拿(きんな)を中心に組み技・関節技に特化させた体術で敵の動きを封じ、エネルギー吸収によって抵抗を抑制するだけでなく、吸ったエネルギーで自分と同じシャドウを複製する。捕縛と自己増殖をコンセプトにして作ったシャドウだ」

 

 影虎が明かすシャドウの能力を聞いて、桐条が眉をしかめる。

 

「交渉の時点で、堂々と仕込みをしていたわけか」

「交渉の意思があったことは事実だ。話した内容にも嘘はないと誓える。ただ、交渉をすんなりと受け入れてもらえるとは思わなかったからな。こうなることも想定して備えるさ。

 そっちも情報収集に長けた山岸さんの力を使って、事前に大型シャドウの位置を把握して、準備を整えてから戦闘に入っているんだろう?」

「それを言われると反論できないね……」

 

 気丈に振る舞いながら、公子は脳内で次の戦い方を考える。ここで影虎は追撃よりも、さらに言葉を続けた。

 

「前回も思ったけど、君達は突発的な戦闘や待ち伏せに弱い、というか“準備を万全にした状態からの戦闘”に慣れ過ぎているんだろうね。

 上から目線を承知で言わせてもらうが、君達は決して弱くはない。けど、実力があるだけに突っ込んでいくだけでも大して困ることなくシャドウを倒せてしまう。情報収集に特化した山岸さんの力があれば大抵の奇襲は防げてしまうし、常に奇襲を仕掛けられる。

 あとは、相手がシャドウ中心だった事も一因か? 本能的に戦うシャドウとは違って、俺は人間なんだから策だって練るし道具だって使う。一方の君達にはそれがない。早い話が猪突猛進。リーダーが必死にチームをまとめていても、個々はバラバラで分かりやすいんだよ」

「耳が痛いなぁ……? ッ!! 風花!! 周りの索敵! 急いで!」

『は、はい!』

「……気づかれたか」

 

 公子の鋭い指示に従って索敵を始めた山岸の表情が青ざめ、影虎が笑う。

 

『新たなエージェント・スミスが八方から接近中! 数は80、90、どんどん増え続けてます!!』

「90ってマジかよ!?」

「ちょっ、流石にズルくない!? ていうかどこにいたのよ!?」

「敵戦力が過剰。撤退を進言します」

『既に包囲されています。今は全ての道を封鎖しながら、輪が狭まっていて、すぐにでも見える範囲まで来ます』

「やられたな……私達に姿を見せる前に、既に潜ませていたわけか」

『ごめんなさい、私がもっと早く気づいていれば』

「風花が謝ることないよ、気づけなかったのはリーダーの私もだし……そもそも気づけないように(・・・・・・・・)、最初から仕組んでたんでしょ?」

 

 苦い表情と鋭い視線を向ける公子に怯まず、影虎は淡々と答えた。

 

「山岸さんの能力は強力、敵に回すと厄介だ。しかし前回、俺と戦った時には情報を得るまで時間がかかった。能力を十全に発揮するには相応の集中と時間が必要なんだろう? だったらつけ入る隙はある。そちらに集中をさせなければいい。

 最初は気取られないように、索敵を妨害する能力を持ったシャドウと一緒に、距離を置いて1体ずつスミスを配置した。その上で、気づかれる前に姿を現して注意を引いた。一度ボコボコにされた相手が目の前に出てきたら、嫌でもそっちに集中するだろう? 

 戦闘になれば、余計に外には目が向きにくくなる」

「交渉は本気だったのかもしれないけど、シャドウの能力を説明したり私達の弱点を指摘したりしていたのは、数を増やして包囲が完成するまでの時間稼ぎ……有利な状況で長々と喋ってることに、もっと早く違和感を覚えるべきだった……」

「直接全滅もさせられると思うけど、またこの前みたいに粘るだろうし、この後を考えるとなるべく力は温存しておきたくてな」

「この後って、アンタ何する気!?」

 

 絞り出すような公子の反省、そして影虎が軽く放った言葉に岳羽が噛みつくが……その声は四方八方から迫る革靴の音に飲み込まれてしまった。前後左右、大通りはもちろん路地や建物の隙間から、一瞬にして全く同じ風貌の男達が溢れてくる。

 

 その不気味な光景を見て岳羽は顔を引きつらせ、会話が強制的に中断された。

 

「詳しく説明している時間もないし、聞いても納得はしないだろう。とりあえず君達はここで大人しくしていてくれ。大型シャドウはこちらで対処してみる」

「なっ、待て!!」

 

 桐条の制止を無視して、影虎は軽々と跳躍。近くの建物の壁を駆け上がり、屋根を渡って大型シャドウがいる場所に向かっていく。特別課外活動部の面々も後を追おうとはするものの……立ちはだかる大量のシャドウとの戦闘からは逃れられなかった。

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