戦器絶衝シンフォギアX   作:なおTEL

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第一楽章
前奏


 

 その日、小日向湊人は音楽学校の友人達と共にロイヤル・チャールズ・ホールの大演奏会に訪れていた。

 およそ一年前、日本のピアノ演奏会で著名な音楽家と知り合う機会を得て、指揮者としての道を歩む志を語るとロンドンの王立音楽学校への推薦を受けた湊人は即座に親と──最も難敵であった妹を説得させて高校から飛び級入学を果たした。決して日本では知り得る機会のない多くの知識を学び、学友達と共に音を奏で、将来や今を語り合いながら異国の地でも音楽と共に過ごしていた。

 そして二週間前。目をかけていただいている指揮課の教師よりオーストリアのウィーン管弦楽団とドイツのコーミッシェ・オーパー音響楽団、フランスのストラスブール管弦楽団による丸一日を使っての合同の客員演奏会の招待状を譲り渡された湊人はこの多国籍合同演奏会という異例の音楽祭に不可思議なものを感じながらも、好奇心に従うままに誘った四人の学友達と共にロイヤル・チャールズ・ホールのボックス席に着くこととなった。

 そして、眼下に広がる劇場内、アリーナには溢れんばかりの聴衆が静聴する中、美しく幻想的な舞台美術と役者たちの力強い、あるいは魅惑的に伸びやかに表現豊かな歌声が胸高鳴るコーミッシェ・オーパー音響楽団によるオペラ『ホフマン物語』が佳境に向かおうとしていた時、それは起きた。

 始まりは一つの不協和音。聴き慣れぬ歌。続いて広がる雑音は騒音となり────爆発した。

 突如として出現した認定特異災害・ノイズによって。

 有史以来から確認され、十年前に人類に驚異的な存在として国連に特異災害と認定された災厄獣(ディザスター)の飛び入り参加は劇場を混乱させるには十分であった。しかし、決して高くない遭遇率から現状を理解できない者も多かったであろう人々が我先にと逃げ惑うこととなったのは、ノイズの存在よりもほぼ同時期に建物内に発生した爆音と爆震によるものであった。

 湊人もまた、友人らを引き連れて出口に向かったが──

 

「どけどけえッ!!」「なにやってんだよォッ!?」「崩れてやがるッ!」「助けてよーッ!!」「なんなんだよッ!!」「人が……人がぁ……ッ!」「早くしろぉッ!」

 

 この騒動にて崩れた瓦礫によって本来の半分の面積となった正面口に殺到する人々は必死に誘導を試みるスタッフたちを無視し、薙ぎ倒しながら目の前の出口に群がる。その様子を見てケビンが舌打つ。

 

「こんなところにいたんじゃあ助かるもんも助からねえ……ッ」

「だけどどうすれば……」

「裏口や他の出口を探そうッ!」

「そ、そうだね」

 

 湊人の提案にジェイクが震えながら頷く。

 

「でもノイズが……ッ!」

「逃げ場もねえようなここよりはマシだッ!」

 

 渋るシェスカの手を引いて走り出すケビン。湊人達も迫り来る人波に逆らいながらそれに続く。

 

「まるで異星人と戦う映画みたいねッ!」

「ハハッ、違えねえッ!」

 

 緊迫した状況を誤魔化すように自嘲するアリスに、湊人はバカ笑いで返す。そうでもしなければパニックを起こしかねないのだ。ケビンも「確かに」と苦笑するが、それどころではない者がすでに二人いた。

 

「冗談になってないわよッ!!」

「そ、そうだよ……!」

「ジェイク! あんた男のくせに泣いてんじゃないわよッ!! 泣きたいのはこっちよッ!」

「ご、ごめん……」

 

 継続的に届く爆音を耳にする関係者用通路を駆けながら何とか五人はくだらない問答を繰り広げて平常心をわずかでも保とうとしていた。

 

「君たちッ!!」

 

 正面から聞こえた大人の声に振り向けば、スタッフだろう男性が手を振ってこちらを呼んでいた。

 

「よくここまで来たッ! さあ、こっちに!」

 

 男は湊人達を誘導しながら把握している現状を伝える。

 

「すでに正面口付近はノイズで溢れているらしい!」

 

 湊人達のように即座に裏口を目指した者たちのほとんどはすでに脱出しているが、正面口に殺到した人の半数はノイズの犠牲になったと聞く。

 

「クソッ、特務部隊の連中は何をやってるんだッ!」

「特務部隊?」

 

 突然の男の苦言に訝しながらも、それどころではない自分達の状況を思い出して足を動かす。

 そして、またも近くで生じる爆発。

 

「きゃっ……!」

 

 その揺れに足元を掬われたアリスが倒れる。 それに最初に反応した湊人とケビンが駆け寄る。

 

「アリスッ!」

「大丈夫かッ!?」

「へ、平気よ……ッ!」

 

 湊人の差し出した手に引かれ立ち上がろうとしたアリスの目が大きく見開く。

 

「危ないッ!!」

 

 ──え?

 

 驚愕するアリスの視線の先、湊人の顔、その後方を見た。

 天井を抜けたナメクジ型のノイズが男に覆いかぶさっていた。

 

 ──え?

 

 固まる思考と身体。

 目の前では驚きと怖れに表情を崩してこちらに救いを求めて手を伸ばす男────だったもの。

 

 

 

『うわああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁああああああああああ────────ッッッ!!!』

 

 

 

 全ての理性と思考をかなぐり捨てて、僕たちは逃げた。

 

 

 

 




第3期GXの夏季放送決定とディザーサイトの開設で胸の内に秘めていた妄想を形にしたい衝動に逆らえませんでした。
とりあえず形にした以上はワイルドアームズの名に恥じない作品にしていきたいと思いますッ!(違
金子節とポエムをどこまで再現できるか不安でいっぱいですがね。
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