戦器絶衝シンフォギアX   作:なおTEL

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気がつけばまた前回から四カ月も経ってしまった。
あの熱狂的に想い出を焼却したシンフォギアライブ2016(詳細は活動報告にて)はまだ昨日の事のように感じながらもう一カ月以上も経っていた絶望。

少し想い出に浸かり過ぎていたのかも知れません。
遅筆を抜きにしても何周もシンフォギアを無印からGXまで観還して常に耳に流される音楽はシンフォギアやWAの楽曲(最近はイグナイトアレンジのオフボーカルを聴くのがマイブーム)。
にも関わらず執筆に当たった日数は数えて数日の体たらく。

それでもこの作品を描き切る事だけは諦めません。
それは絶対に絶対です。
渡り鳥として、適合者としてこの言葉に誓うつもりです。


#8-1.近くにありて、遥かに遠く《前》

 

「トッテンパーの、ニャンパラリ〜♪」

 

【特異災害対策機動部二課】本部中層区画に備えられた研究室も兼ねた倉梯命(くらはしみこと)の私室に、彼女はいた。

 私室にも設置された大小の機材により研究室から伸びたパイプの様に太い電線が床を(ひしめ)き書類や資料が散乱した部屋で命は先日の大気圏外に迫る激しい戦闘にて再び破損した湊人の変身ベルト──正式名、倉梯式アンチノイズプロテクター理論装甲粒子展開実験機『アイマム』(本日命名)の改修作業に当たっていた。

 

「パーンチ♪ ドランカ〜♪ 刹那主義〜〜♪」

 

 罅割れた外装部は完全に取り外されて新たなパーツを取り付けると予定して内部に生じた歪みを調整するために、安全ゴーグルのレンズ越しに基盤を覗きながらその手に様々な工具を取っ替え引っ替え回しながらへんてこなリズムを口ずさみ着々と修復、改装を進める。

 ──まぁ、元々大した素材使ってないから強度に難があるのは仕方ないんだけど。

 あくまでも一理論の検証のための実験機に過ぎないこの玩具にはロマン以外の想いは一切入っていない、というより自らのモチベーションのために実験機を変身ベルトの体にした(にロマンを突っ込んだ)だけなのだ。

 

「とはいえ、データは十分に録れたし、湊人クンのためにもそろそろ最終実験を兼ねた本番を……と言いたいけれど」

 

 はあ〜、と盛大なため息を吐きながら椅子の背もたれに力なく倒れ込む。

 

「〝アレ〟に必要な肝心要の鉱石がないんだよね〜」

 

 それはシンフォギアにも用いられている鉱石。

 櫻井了子の提唱した『シンフォギア・システム』は適合者たる装者の歌によって聖遺物の欠片に残された力を呼び醒ます事で、その力を鎧という形に定着させるものであるが、この歌を最大限に聖遺物に感応させるための鉱石が聖遺物の欠片と共にギアのコアとなっている。

 その鉱石の名は『感応石』。人の思念を増幅し、固有のパルスに変換する性質を持った鉱石であり、その出力は大きさ・純度によって決まり、多くの聖遺物を始めとした異端技術(ブラックアート)の結晶の根幹ともなった幻の鉱石である。現に、先日の戦闘にて持ち主たる湊人の呼びかけに応じて『ガエボルガ』が意思を持つように彼の手元に戻ったのは槍に埋め込まれた『感応石』の力に他ならない。

 最早、現代の地球にほとんど残されてはいないが、今でも発掘できないわけではない。もちろん新たな聖遺物を製造できるほどの『感応石』は望めないが、命が望む材料としてならばまだ辛うじて望める土地はあるのだ。

 そこの発掘隊にも当然伝手というか知り合いもおり合流も難しくはない。

 問題は……、

 

「……ま、そんなこと気にしても仕方ないしこれは二課のためにもなるからね〜♪」

 

 所詮外様の私には関係のない話なのだから。

 

「さあさあ未だ見ぬ新世界が私を待っている〜♪ この星の重力に引かれた私を待っている〜〜♪」

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 翌日。彼女の部屋を訪れた弦十郎はその入口のドアに貼られた『(要約すると)旅に出ます』という書き置きと休暇届を目にする事になる。

 

「だから休みは事前に報告しろといつも言っているだろう────ッ!!!」

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

「え? またですか?」

「ああ。また……だ」

 

 この司令部の最高責任者である弦十郎から倉梯命の無断休暇を聞いたオペレーター陣は皆一様に眉を顰めたりと難色を示した。

 

「こんな時に何を考えてるんだあの人は……」

「倉梯博士の気まぐれは今に始まったことじゃないけれど」

 

 藤尭朔也と友里あおいは揃ってため息を溢すと確かにいつもの事だと再び意識を業務に戻す。

 しかし、やはり気になるのかモニターから視線を外すことなく藤尭が問いかける。

 

「それで、今度はどこに?」

「それについては念のため、緒川の班に確認を取ってもらっている。書き置きを見る限りは欧州に向かったらしいがな」

「欧州、ですか……まさか『暗黒大陸』じゃないでしょうね?」

「確かこの前は南米に行っていたわね……元バル・ベルデ領内の」

「その前は中東だよ。軽く世界危険地帯一周ツアーをしてるよあの人」

「目的は遺跡調査や知人に会いにと言って……な」

 

 思い返して改めてこの組織の天才の天災っぷりに苦悩の沈黙が司令室を包む。

 

「それより……」

 

 しかし、そんな沈黙は数瞬と続かずに藤尭が話題を変えた。

 

「湊人君は大丈夫なんですか?」

 

 それは前日の戦闘後、湊人が響が保護した彼の妹にして彼女の幼馴染、小日向未来に隠し事をしていたことが発覚したことに起因する。

 二人が機密事項の厳守から一般人である未来に二課やノイズ、シンフォギアに関わる事を話せなかったのは仕方がないことであったがそれぞれ『隠し事をしない』という約束をしていた三人にとって各々に割り切れないところがあった。だからこそ、未来の拒絶は湊人と響の心に大きな衝撃を与えた。

 逃げるように未来が退出した部屋に一人残された湊人はショックから真っ白に燃え尽きたのように茫然自失となり、行き当たった響もまた動揺を隠せずに元気印の陽気は見る影もなく打ちひしがれていた。

 しばらくは二人揃って死んだように伏せていたが、翼を始めとした二課の面々の慰めを含めた呼びかけにより何とか立ち上がり湊人は自分の部屋に、響は学生寮に帰って行った。

 そして、一夜を空けた今日も今朝から部屋から出てこない湊人を藤尭は心配していた。藤尭だけではない。この場にいる全員が湊人と、学校こそ行ったらしいがその精神状態に不安がある響を案じていたのだ。

 その事は弦十郎は重々承知した上で頷いた。

 

「うむ。今回の事は事前に湊人君から言い含められていてな。一応、こちらでできる対応は準備していた……のだが」

 

 そう。湊人は響がシンフォギア装者としてノイズとの戦闘に出るようになってから、いつか未来にこの隠し事が露見する事を予見していた。弦十郎にもそうなった時の未来の対応について検討しており、あくまでも彼自身から直接彼女に説明する手筈ともなっていた。

 

「彼も覚悟こそしていたが、やはり実際に言われるとかなり堪えたようでな」

 

 ままならないものだと弦十郎は苦笑する。

 

「まあ何にせよ、今回の件については〝本人達〟に任せるつもりだ。俺達は俺達にできることをやるとしよう」

 

 ──一度言い出したのだ。男ならやり遂げてみせろ、湊人君。

 

 

 

 風鳴翼は湊人の部屋を訪ねようとしていた。

 翼も湊人の妹の存在は彼自身の口から度々耳にしていた。それこそ共に聞かされた奏に『尻好き変態シスコン野郎』と揶揄されるほどに。

 湊人がどれだけ妹を大事にしているか、大切に想っているか。他人事ながらも理解しているつもりだ。

 小日向湊人の戦う理由にはいつだって小日向未来と立花響がいた。

 それほどまでに護りたいと真に願う存在がいることを羨ましくも思う。

 だからこそ、昨日の湊人の姿に胸を痛めた。

 

(もし、私が奏に拒絶されたら……)

 

 嗚呼、想像すら震え慄いてしまう。

 それでも昨夜の別れ際に無理にでも笑みを見せてみせた湊人と響の二人の強さには感服する。

 一体、その心をどれだけ傷めたのか想像に絶するというのに。

 

(持たぬ者に、何が言えるかわからないが……)

 

 仲間として、友としてその心を晒して欲しいと願いながら、翼は湊人の部屋の電子扉を叩──こうとしてその声は聞こえた。

 

 

 

「変身ッ!!!」

 

 

 

 室内から(こだま)した鬼気迫る重質な声色で気合の入った呼気に翼は硬直した。

 声の主は間違いなく彼女が訪ねた青年のものである。

 しかし、何故あのような発声をここ二課本部の自室でする必要があるのか。

 まるで、倒すべき敵と相対した様な──

 

(──まさか……敵襲ッ!?)

 

 ここが強固な自陣本丸である事に慢心して敵の侵入を赦していたというのか。

 防人である自分とした事が何たる失態だと即座に胸に提げたIDカードを扉横の電子盤に走らせると扉が開くと同時に室内に踏み込んだ。

 

「湊人ッ! 助太刀する──……ぞ…………?」

 

 胸元から取り出したギアペンダントを堅く握り締めて敵を斬り伏せんと歌おうとした翼の目に入ったのは、

 まるで荒らされた痕跡のない適度に整頓された室内、ではなく、

 部屋主が愛好する特撮番組を映したテレビの画面、でもなく、

 姿見の前で不可思議なポーズをキメ顔で取る部屋主の姿であった。

 

「おー翼、おはよう。どした、そんな神妙な顔して?」

 

 部屋主の青年、小日向湊人は突然の訪問者に動じることもなく顔だけ振り向いた。

 

「…………一体、何をしているの……?」

 

 翼は顳顬(こめかみ)を震わせながら、あくまでも平静を装って訊ねる。

 そう、ここでこの阿呆にすぐそこの壁に立て掛けられた訓練用木棒でそのどたまをカチ割る事は容易い。しかし、まだ昼間だ。ヤるなら夜も更けてからがいいだろう。

 自制に拳を固く握り締める翼に、湊人は一度ポーズを解くとこう(のたま)った。

 

「いやー実は命さんから変身ベルトを貰ったのはよかったんだけど今の今までまともに変身ポーズを決めた事がなくてさー。ほら、やっぱりヒーローの変身にポーズは必須だろ? この際ちゃんとポーズ決めとこうと思って……ん? どうした、翼? ポンポン痛いのか?」

「…………ま」

「ま?」

 

 

 

「紛らわしいわァアーーーーーーーーッッ!!!」

「ブリューゲル──ッ?!」

 

 

 

 彼女が放ったその一閃は、こと一撃という観点のみでいえば彼女のこれまでのあらゆる一太刀を凌駕していた事をここに記す。

 

 

 

「全く、貴様という奴は……人が心配してきてみれば」

 

 仏仏(ぶつぶつ)と唇を尖らせる翼に、湊人は先の御巫山戯──彼からすれば真面目に本気──を抜きにしても本当に申し訳なくその笑みを濁した。

 ──というか割と本気でその脳天に打ちおろしてみせたのだが、どうやら鍛錬を怠ってはいないらしい。いや、しばらく伏せていた私の不足か。

 

「悪かった。正直そこまで心配かけてたとは思わなくて……響はともかく」

「その秤はやめろ。私にとっては二人とも戦場を共にする仲間だ」

 

 どうしてこの男は二人の事になると自身を省みれないのか。いや、これがそういう性分だというのは遠の昔に理解している話なのだがそれでもやはりその在り方に危うさを感じずにはいられない。

 そんな翼の胸中を知ってか知らずか、湊人は当然のようにこう言った。

 

「ああ。これからもよろしく頼む」

「…………」

 

 果たして、それは何に対して口にしたものか。

 

「……まあいい。それで、湊人の方はもう大事ないと考えていいのか?」

「ああ。本当なら昨日の内に済ませられたんだがな」

「仕方あるまい。大切に想う妹君にあのような事を言われては」

 

 翼の慰みに、湊人は首を振る。

 

「いや、そうじゃない」

「何?」

「まあ、確かにそれもショックで一瞬思考停止はしたけど……さ」

 

 それくらいの事を言われる事は十二分に覚悟していた。それでも覚悟が足りなかったとするなら、それはまた別の話。

 何よりも兄としての直感から、妹の拒絶が心からの本気のものではないと薄っすらと感じていたのだ。それでも一瞬でもショックを受けていた辺りやはり相当な兄バカである。

 

「本当は、まだ躊躇いが残ってたんだよ。あいつを、未来までもこちら側に踏み込ませて本当に良いのかって」

 

 当然、こちら側が招き起こしうる危険からは二課の人達の力を借りてでも護り切ると誓いはしたが、やはりそれでもこちら側に置くよりは今のままの方が安全なのではないかと。

 一瞬でも考えてしまった。

 それが、あの時未来を引き止められなかった本当の理由。

 

「本当に……そういうところはもっとバカにならなきゃいけないのに」

「やめろ。それ以上はこちらの身が持たん」

 

 私からすればもう十分過ぎる程に馬鹿者だと翼は釘を刺す。

 

「案ずるな。貴様の妹に迫る危難は我が剣も全身全霊を以って斬り捨てよう」

「ありがとう。翼ならそう言ってくれると思ってたよ」

 

 その背に友がいるから、その言葉が背を押してくれるから、小日向湊人(ヒーロー)は立ち上がれる。

 

 

 

 小日向未来は自身が抱く嫌悪の感情に苛まされていた。

 昨晩の事は言わずもがな。一夜を空けた今朝からも響と口を聞いていなかった。

 自分でも思ったより意固地になっている自覚もあるが、それでも簡単に済ませていい問題ではないと彼女は考えていた。

 小日向未来という少女は嘘も隠し事も嫌いな真面目で誠実、そして親友に負けず劣らず純粋な少女である。だからこそ彼女は親しい人にこそ嘘も隠し事もしない様に心がけてきた。

 何よりも──

 

(──隠し事しないって約束したのに……)

 

 彼女がそういう考えを持ったのは、大好きな兄との約束があったからに他ならない。

 それはまだ彼女が立花響と出逢う前の日の事だ。

 物心ついた時から常に兄の後ろをついて歩いていた人見知りの彼女には友達が全くできなかった。

 彼女自身から誰かに歩み寄る事もなければ誰かが歩み寄っても怖がり逃げてしまう始末。

 当時それを気にかけていた兄の湊人であったが、まだ小学生であった彼にうまくそれを解決する手立てもなく、仕方なく自分の友達連中から人と慣れさせようと友達との遊びに連れて行く事が多くなった。結果としてそれ自体は功を奏し、彼の友人達も自分達の妹の様に未来を可愛がり受け入れた。まあ可愛かったから仕方ない。

 未来も兄の友達という事もあり必要以上の警戒をせずに少しずつではあるが彼らの輪に馴染んでいった。ちなみにこの時の経験からどちらかというと少年趣向な大親友の活発な行動についていける様になったのだが、現在確執のある間となっているのでこの辺で控えよう。

 しかし、自分達の幼稚園や保育園、小学校低学年の環境を思い返してみてほしい。この時分の友人関係、それが成すグループというものは子供達が家や家族の外で初めて作るテリトリーそのものなのである。グループ同士の交流もあるだろうし、一人で幾つものグループを渡り歩く猛者も少なからずいる。それでも皆最初は何かしらのグループを形成して所属していたはずである。

 そして、その仲間意識は非常に強く、同時に外様に対して非常に排他的である。まだ成熟な倫理観を持たない子供特有のそれは悪意とかそういう意図的な理性によるものではなく人間の遺伝子に遺された動物的本能に素直に従ったれっきとした防衛行動である。その無邪気な攻撃性はともかくとして。

 その対象は当然、自分達よりも弱い立場の者に向けられる。

 例えば、最初のグループ形成に失敗してひとりぼっちになってしまった人見知りの女の子とか。

 皮肉にも小日向未来が家族以外の誰かと接する事に慣れた頃には、もう彼女の居場所は周囲にはなかったのである。

 それどころか排他(イジメ)の対象となり、涙を流す日々を送るのであった。

 しかし、内気ながらも──いや、内気だからこそその内に年上の少年達の遊びについていける様な強い芯を持つ彼女は涙を笑顔の仮面にひた隠し、家族に心配をかけまいとした。

 両親はそれにとりあえず安心しながらも、兄だけは常に自分の知らない妹の笑顔を気にかけていた。──まあ両親も薄々気づいていたが特に懐いていた兄にならと先に一任していた節もあったりした訳で、色々気を回してはいたのだが。

 それでも大好きな兄に迷惑をかけたくない一心で「学校は楽しい」と()()()()()

 だが、長く堪え忍ぶものだと思っていたそんなイジメはある日簡単になくなった。

 きっかけは、率先して未来をイジメていたグループのリーダー的な存在であった女の子が自分の兄に溢した何気ない吐露。気に入らない子がいる、という言葉から始まる自分を正当化してやっていることを赤裸々に語った。女の子にとって不幸だったのは彼女の兄が湊人のクラスメイトであり、よく遊ぶ友人だったこと。そして湊人についてばかりいた未来は、湊人の友人たちに妹分として可愛がられていたこと。

 その後の流れはあっという間であり、女の子の兄が怒って叱り、女の子をクラスメイトのいる教室で頭を下げて未来に謝らせた。

 全くもって予期せぬ事態の急展開に思考が追いつかぬ内に、その事は瞬く間に兄の耳に届いていた。

 後はよくある話だ。

 兄は妹の隠し事に気づけなかったことを謝り、辛いことは話す様に約束した。

 妹は兄に隠し事をしていたことを謝り、二度と嘘をつかないことを約束した。

『隠し事はしない』と。

 普通に考えれば、そこで終わるような話だ。

 ただ、今となっては不幸な事に、二人の『約束』に対する認識にはズレがあり、妹たる彼女はその約束をそれからの自分の人生観の一つとしてしまった。

 嘘をつかない。

 隠し事はしない。

 それが身近な人であるなら尚更に、むしろそれこそが誰かとの心の距離を測るものなのだと。

 誰かに言えないことは当然ある。

 しかし、それは親しくなればなるほどになくなるものと、してはならないことだと。

 小日向未来は認識してしまった。

 だから彼女はそれ以降、兄に対して嘘はつかないし、親友にも隠し事はしなかった。

 二人もそうしてくれていることを信じて。

 何かがあり、一時的にでもそうなってしまっても、すぐに打ち明けてくれると信じて。

 

 

 しかし、世界は悠長にそんな生易しい展開を待ってくれなかった。

 

 

 不幸だったのは、彼女にとって大切な二人が時を同じくして自分に嘘をついていたことか。二人が揃って自分に同じ隠し事をしていたことか。あるいはそれら全てに対してか。

 小日向未来は、怒りや悲しみ、悔しさや恥ずかしさを綯い交ぜにした心を、叫ぶように吐き出した。

 

「嘘つきッ!!!」

 

 それが仕方がないことだとわかった上で、心の爆発を抑えることなく叫んだ。

 悲しみに歪む湊人の顔を見た。

 哀しみに崩れる響の顔を見た。

 そうして、()()()()()情けなく思い、自分の一方的な想いを押しつけて二人を責めてしまったことを怒り、悲しみ、悔やみ、恥ずかしんだ。

 自虐な想いは、やがて他者まで拒む。

 自分のせいで、また誰かを傷つけてしまうと、大切な誰かが傷ついてしまうのは見たくないと。

 小日向湊人を、立花響を拒んだ。

 

「これ以上、私は()()()()()()()()()()

 

 その言葉が、誰かを泣かせることを知った上で、彼女は涙を流して言葉を紡ぐ。

『二人のヒーロー』が最も望まなかった悲劇がこうして訪れる。

 しかし、まだ遅くない。

 訪れてしまったこの悲劇をひっくり返してこそ、ヒーローなのだから。

『二人のヒーロー』が立ち上がったなら、その悲劇はもう終わっている。

 それでもこの逆転劇が描かれる事は必然であり、避けては通れない。

 

 

 それは『終わりの始まり』に向かう最初の一歩。

 何もかもが始まったばかりであり、何も始まってない。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 櫻井了子はいつの日の様に自身の研究室にて一人閉じ籠り、今日までの研究資料を総括するように数え切れないレポートを辺り一面に広げ、モニターにもなる特殊素材のガラス壁に空く事ない映像を展開していた。

 そのほとんどが自身が専攻とする考古学に関わる資料であり、さらにそのほとんどが超先史文明時代と異端技術に関わる資料であり、自身の脳をもって現代に遺された知識と知恵から提唱した『櫻井理論』から用いられたシンフォギアと聖遺物に関わる資料でもあった。

 

(そも、兵器としての役割をもって造られた聖遺物のほとんどは、超先史文明初期の英雄達の再現のためのものだった)

 

 伝承された数多の神話や伝説の中にも、特別な力を宿した武具を持たずとも魔物を代表とした災厄や化身を討ち果たした英雄はいる。

 そして、数ある聖剣魔剣を始めとした神器に似通った伝承があるのも再現した英雄が同じであったからだ。

 

(生まれながらにしてその身に『絶対たる力』を宿らせた人を超越した存在)

 

 了子は目の前に映し出された映像データ、その中で人並み外れた動きを見せる青年二人の戦闘を観察する。そこに映る二人は最早聖遺物の力を抜きにしても法則と常識をかなぐり捨てた神話の戦いと呼ぶに相応しい力と力をぶつけ合う。

 時に人はそれを神と崇め、英雄、救世主と奉り、また……怪物と畏れた。

 

(……『因子適合者』)

 

 映像に映る片割れであるレイモンド・クルースニクが正にそれ。

 人類最初の超越者にして当時の新人類と呼ぶに相応しい上位存在。

 中でも強大な力を持つ者は神をその身に宿すが如く『神人合一体』と呼ばれた。

 当然、聖遺物が英雄がその身に宿す『絶対たる力』の再現であるなら、直接ただの人に『絶対たる力』を宿らせて後天的にそれを生み出そうと考える者も出てくる。

 

(だが、当時の異端技術を持ってしても後天的に人の身に『絶対たる力』を宿らせる事は不可能であった)

 

 そのほとんどは机上の空論であり、人の技術でそれらが成される事はなかった。

 三流が成功と声を挙げて叫んだ結果も、度が行き過ぎてとても人類と形容できなくなっていた代物ばかり。

 少なくとも、彼女が知る限りでそれは生まれなかった。

 

(しかし、悠久の刻を経て──それは生まれた)

 

 小日向湊人。

 おそらくはあの魔槍の機能もその一端であったのだろう。もしくはその要因は機能ではなくあの青年の中にあったのかもしれないが、確かに小日向湊人はその身に『神の血』──超先史文明期の『神人合一体』の力を宿らせた。

 レイモンド・クルースニクを『先天的因子適合者』と呼ぶなら小日向湊人は『後天的因子適合者』、または『後天的合一体』と呼ぶのだろう。

 それは正に異端技術の一つの悲願。

 

(まだその力は十全とならずとも、実に興味深い観察対象だった)

 

 そう、だった。

 今の彼女はそんな忘れられた赤の他人の悲願よりも、探究心の唆る存在がいた。

 彼女のまるで獲物を舐める様な妖艶な視線はいつの間にか映像から手元に散らばる無数の写真に注がれていた。そこに映るのは一人の少女。

 

「立花響」

 

 その身に聖遺物『ガングニール』の欠片を宿し、シンフォギアを纏う少女。

 

(人と聖遺物の融合体──)

 

 ただそれだけであるのなら、先の『後天的因子適合者』とそう変わりはしない。

 問題は彼女がシンフォギアを纏いし『適合者』へと至った事だ。

 そして──、

 

(いや、それは正確ではない、か)

 

 生まれながらの先天的に高い適合係数を持ち恒常的に至った風鳴翼を『第一種適合者』と、投薬と訓練により時限的に適合係数を高め至った天羽奏を『第二種適合者』と呼ぶ。

 当て嵌めるなら、聖遺物との融合により適合係数を無理くりに得て偶発的に至った立花響は『第三種適合者』と呼ぶべきだろう──いずれはの話だが。

 今の彼女はあくまでも人と聖遺物の『融合体』に過ぎない。

 だが今はそれだけで十分である。

『因子適合者』でも『装者』でもない我が身が超越者として人類に立つに足る存在となる現存唯一の可能性なのだから。

 如何なシンフォギアといえども万能ではない。

 

(装着した適合者の身体機能を上げると同時に体表面をバリア・コーティングする事でノイズの侵食を阻止する防護機能、さらには別世界に跨がったノイズの在り方をインパクトによる固有振動で調律、強制的にこちら側の世界の物理法則下に固着させ位相差障壁を無効化する力こそシンフォギアの特性であり、同時にそれが人が扱えるシンフォギアの限界でもある)

 

 シンフォギアから解放されるエネルギーの負荷は容赦なく装者を蝕み傷つけるものだ。

 その究極形であり、代表となるのが『絶唱』。

 人とシンフォギアを構成する聖遺物とに隔たりがある限り、負荷の軽減は凡そ見込めるものではない。

 それが『櫻井理論』が提唱するシンフォギアの可能性にして限界。

 しかし、

 

(唯一、その理論を覆し得るのが『融合体』たる立花響)

 

 人と聖遺物の融合という稀有な存在へと至った『融合症例第一号』。

 それが示した力の可能性は、風鳴翼と天羽奏という二人の装者のライブとそれによりオーディエンスから引き出し、引き上げられたフォニックゲインにより起動された『ネフシュタンの鎧』に並ぶ完全聖遺物『デュランダル』の力をただ一人で呼び醒ました事実が否が応でも物語っている。

 

(人と聖遺物が一つとなる事で、『因子適合者』をも超える新たな『パラダイムシフト(新人類の誕生)』が引き起こされようとしているのは、疑うべくもない)

 

 そのまごう事なき事実に了子の口角もまた自然とつり上がる。

 

(人がその身に負荷なく『絶唱』を口にし、聖遺物に秘められた力を自在に使い熟す事ができるのであれば、──それは遥けき過去に施されしカストディアンの呪縛から解き放たれた証ッ!)

 

 その表情は何を物語っているのか。

 切望か野望か悲願か宿願か冀望か念願か、あるいは憧憬か欲求か。

 おそらく普段の彼女を知る者こそ理解に及ばないだろうそら恐ろしさをその眼の奥に秘めていた。

 

(真なる言の葉で語り合い、手を取り合い、ルル・アメルが自らの力で未来を切り開く時代の到来ッ!!)

 

 それは過去からの超越だ。

 

「そうして初めて、人類は立ち向かう事ができる」

 

 忘れ去られた世界の終焉に────。

 

 

 

 





今回のワイルドアームズ6thシンフォギア

・〜へんてこなリズムを口ずさみ……に用いられたセリフ。
WA2を代表する世界観の違う二匹の片割れのセリフより。
セリフだけなら他のキャラに言わせても問題ないトカ、そうでないトカ。
?「次章に登場するあの雄姿が吾輩には見えーるッ!」
?「気のせいだろ」

・『感応石』
WA2のファルガイアでは欠かせない通信技術の要。
人の思念を増幅し、固有のパルスに変換する性質を持った鉱石。出力は大きさ・純度によって決まり、離れた場所の別の感応石に共振させることで通信器として利用され、巨大な感応石を中継点とすることで、ラジオ放送も行われている。使い方によってはあらゆるスクリーン(鏡や池の水、メガネやトイレの水まで)に映像や音声を送ることも可能。

・『因子適合者』
WA4に登場する『ARM』──Ambient Reorganization Material(環境再組織化機械郡体)を扱える遺伝子内に特殊な因子を有した存在。読み名は『ジーンドライバー』。主人公ジュード・マーヴェリックはとある理由により生まれながらに『ARM』を扱える『先天的因子適合者(インヒレント・ジーンドライバー)』である。
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