『もう、先月も帰ってきてたなら電話くらいしてもよかったじゃない!』
「悪いな。この前のは本当にテレビとか取材のスケジュールでいっぱいいっぱいでさ。会えもしないのに連絡だけするのは気が引けて」
『言い訳は聞きません。それで、今回連絡してきたってことは会える時間があるってことなの?』
立花響の『ガングニール』の覚醒から端を発した小日向湊人と風鳴翼の衝突からおよそ一月後。
結果として二人の私闘は、開始直前に風鳴弦十郎の鉄拳介入によって国道に多大なる被害を残して幕を下ろした。無論、この被害は二課からの特異災害対策活動による被害報告を受けた政府が特異災害対策費から補償し、数日で交通を回復させている。
そんな道路のように都合よく大人の仲介で彼らの仲も修復するはずもなく、どころか響のある失言が拍車をかけて三人の間にわだかまりを残したまま、湊人は翌日には英国に戻ることとなりこの一カ月をノイズとは無縁な学業に費やした。
そんな湊人もまた日本に帰ってきていた。今回は現代の人智を超えた完全聖遺物を扱う湊人が受ける身体への影響を調べるために定期的に行われる身体検査を行うためにだ。
そして、あくまで数日の滞在ではあるが、前回と違いスケジュールに余裕があった湊人は久しぶりに妹の未来に連絡を入れるのであった。
当然のように開口一番からお小言をくらったわけだか。
「ああ。大事な急用が入らない限りは問題ないよ。明日と明後日の昼間は予定あるけど、そっちも昼間は学校だろ」
『うん。なら、明日の夜は大丈夫ってこと?』
「ん? まぁ、大丈夫だと思うが、逆にそっちが大丈夫なのか? 寮の門限があるだろ」
『それは心配しないで。その日は急用で実家に泊まるってことにしておくから。響も一緒に』
「お前って、たまーにそういう悪知恵が簡単に働くよな」
『ふふ、なんのことでしょう?』
愛らしくとぼける妹に、湊人の顔は自然と綻ぶ。
「まぁいいや。そっちが大丈夫なら気にしないけど、明日の夜ってまたどうして」
『お兄ちゃん知らないの? 明日の夜に獅子座流星群が見れるの』
「まったくサッパリちっとも知りませんでした」
生憎と昨日まで日本を離れていた彼がそれを知るには妹以上に天体に関心を持っている必要があっただろう。
『そうだ。響に替わるね。響も久しぶりにお兄ちゃんの声が聞きたいだろうし、何より凄く会いたがってるから』
「あ、ああ」
実は先月妹より早く再会していたとはとても言えない湊人であった。
『響ー! お兄ちゃんから電話よ。響も何か話したら?』
『うへい!? わ、私のことはいいからホラ、久しぶりの兄妹の会話なんだしお邪魔虫はおとなしくレポート書いてますからどうぞどうぞお構いなくー』
『今更何を遠慮してるのよ。らしくないことまで言って。……もしかして照れてるの?』
『そそそんなことないよ! この不肖立花響に照れや緊張なんて乙女心があるとでもッ!?』
『響……、そこは年頃の女の子としてあると主張するところじゃない? いいから早く電話に出なさい! お兄ちゃん待ってるんだからッ!』
『わかったよぅ……』
電話越しに聞こえる二人の会話。
数年前は毎日のように見聞きしていた微笑ましい情景を懐かしむように、湊人は鮮明に変わらぬ彼女たちのやり取りを思い描いていた。
それは決して失くしてはならないもの。湊人が守ると誓ったいつか帰るべき場所。
『え、っと……もしもし?』
やはりというべきか、響は恐る恐ると遠慮がちに電話に出た。
「もしもし。久しぶりだね……響」
『あ、はい。……お久しぶり、です』
未来がいる手前、下手なことは互いに口走れない二人であったが挨拶だけは実際に一月ぶりに声を聞くだけあって違和感なくこなす。
「そっちは最近どうだい?」
聞くのは、あの日から装者として正式に二課の所属となった響の近況。
『え、と……まだまだ自分の勉強不足を痛感する日々でして。周りのみんなのおかげでなんとかやってる感じです。やっぱり、今よりもずっときっともっと頑張らなくちゃいけないんだなって』
機密漏洩防止のため、湊人は英国に滞在する間は二課内の情報を得ることができない。響が装者として活躍できているかは勿論、そもそもノイズの発生件数も把握していない。
しかし、響の口ぶりから湊人の不在の間にノイズは発生しており、響は自分の不甲斐なさを反省するほどに事件に貢献できていないのであろう。
(そして、翼ともうまくいっていないんだろうな)
戦力は己ただ一人と独断専行でノイズを斬り伏せる翼とそれに必死についていこうと一人翻弄する響の姿が容易に想像できてしまった湊人は、溢れんばかりのため息を何とか押し留める。
「そっか。でも無茶はするなよ。僕も明日には〝そっち〟に行くから。詳しいことはまたそこで改めて、な」
『はい』
「……響」
『はい?』
「お前は、お前として頑張ればいいんだ。未来のためにも。……あいつらのためにも」
『……それって』
「お前は『立花響』なんだから。それ以上でもそれ以下でも……それ以外でもないってことさ。だからお前の覚悟でやりたいようにやれ」
『なんだかよくわかりませんが、わかりました! 私は、私にできることをやりますッ! 私にも、護りたいものがありますからッ!!』
『響。何の話してるの? まもりたいものって』
『うえぇい!? な、なんでもないよ! それじゃ湊人さん、また明日ッ!』
『ちょっとひび──
慌てた響によって電話は切られた。
確かに響の最後の言葉は第三者からすればなかなか不自然なものだろう。少なくとも久しぶりに会話する幼馴染み同士の会話から出るものではない。
少々不用意だったと反省しながら、湊人は腰掛けていたホテルのベッドに横になった。
そして、思いに耽るはたった一人の親愛なる妹のこと。
(響まで巻き込まれた以上……一体いつまで隠し通せるか)
この三年間。ノイズや聖遺物に関わる機密事項は全て隠し通してきた湊人であったが、それが可能だったのも彼自身がそもそも英国という遠い地に身を置いていたからだ。一時的な帰国で実家に足を運ぶことはあっても決して長居せず、国内では基本的に二課の施設内か、師匠の家で寝泊まりしていた。
湊人はそうして極力身内との接触を避けることで機密漏洩による危険から家族を護ってきたのだ。
しかし、今現在、その妹と同室で寮生活を送っている響が湊人と同じ立場に立たされている中で、これまで通りに未来に隠し通せるかというとなかなか難しい話になってくる。
(はてさて……どうしたものか)
その答えを見出せぬまま、湊人の意識は暗い混濁に溶けた。
『────約束だよ。お兄ちゃん!』
遠く懐かしい夢を見ながら。
◇◆◇◆◇◆
「どう思う?」
翌日。
宿泊したホテルまで迎えに来た緒川が運転する送迎車で私立リディアン音楽院に着くと、一般に知られていない機密で設けられた隠し通路を使って校舎内に入り、いつものように超下層エレベーターを使い二課の地下本部に直行した。
そして、司令室にて帰還報告を終えた湊人は弦十郎からこの一カ月の特異災害記録を見せてもらっていた。
「まぁ、ある意味予想通りといいますか。……しかしそれにしても、ですかね」
その内容は概ね湊人の予想通りであり、翼の独断先行と響の空回りが見事に見て取れた。
問題は、
「響は、
「…………」
そう。この一カ月間、立花響はまるで戦えていなかった。
勿論、単独でもノイズを倒した記録はある。
しかし、湊人が言いたいことはそれ以前の問題。
響はまるで戦い方を知らないのである。最初の数日くらいは元々一般人であった少女である以上は仕方ないだろうと考えていた湊人であったが、あろうことかこの一カ月、響の戦い方は全く進歩していなかったのだ。
かつての自分のように誰かに師事した形を見せずに。
「一課を使えないまでも、最低限の身体の使い方くらい教えられなかったんですか?」
「一言もない限りだが、俺もこの一カ月は立場的に休みもなかった状態でな。……何より、俺の教え方は少々厳しいからな」
「……確かに、僕も司令の伝手を頼った身ですが」
流石に映画観て強くなるという発想には至れなかった湊人は弦十郎への師事を早々に諦めた口である。今ならついて行ける自信もあるが。
「それと、なんですかこのノイズの発生数は?」
湊人は巨大モニターに映し出されたこの地域の周辺図とそれを埋め尽くす大小無数の赤い円を見る。
赤い円はノイズの発生地点とその規模を表していた。
弦十郎は重々しく頷く。
「それが君に問いかけた本題だ」
「軽く見ても二十近い数ですよ。よく隠し通せましたね」
この発生率は完全に世界報道レベルの異常事態である。確実に数は誤魔化されているだろう。
「それはいつものことだが、さっきも言ったろう。おかげでこの一カ月休みなしだ」
「なるほど。ご苦労様です」
大きな肩を竦めてみせる弦十郎に、湊人は苦笑で返す。
数が数である。よほど各方面への根回しに翻弄したのだろう。
「数も数だが……、気づかないか?」
「このモニター見せられたら誰だって気づきますよ。
まるでここを中心にノイズが発生してるっていうのは」
それはノイズの発生地点を映したモニターの中心が二課本部──私立リディアン音楽院であった時点で察することができる。
「そうだ。そしておそらく、件のノイズは人為的なもので、目的はここ……【特異災害対策機動部二課】本部と俺たちは推測している」
「二年前のことも考えると、二課が保有する聖遺物が真の目的ではないかという見方も」
「実際、ここ最近で安保条約を盾に聖遺物の譲渡を米国が頻繁に要求してきてるし、出処は特定できてないけどこっちのネットワークへのハッキングを試みた形跡がいくつも発見されてるんだ」
弦十郎の言葉に、作業中であったはずのオペレーターの友里あおいと
「まだ確証はないが、米国が絡んでいる可能性は無視できんな」
「…………」
しかし、湊人は全く異なる見解を展開していた。
(そもそも……ノイズが発生する頻度が高くなったのは一カ月前から…………。……一カ月前……何があった……?)
簡単だ。
(僕と『ガエボルガ』の帰国。そして……、響の『ガングニール』の覚醒)
あおいの言う通り、二年前と同様の状況から目的が聖遺物……それも湊人が保有する『ガエボルガ』や二課本部のさらに地下深くに保管されている『サクリストD』といった完全聖遺物である可能性も高い。米国が黒幕にいるというのなら尚更に。
だがそうなると、二年の空白期間が気になる。
(二年前の〝アレ〟が人災なのは確かだ。そして目的は完全聖遺物たる『ネフシュタンの鎧』だった)
敵は確かに目的を完遂した。だからこそ、アレ以降ノイズの発生率は通常の数値に落ち着くようになった。
当然、敵が国家組織規模なら完全聖遺物そのものではなく、それを利用した上での目的もあったのだろう。
(ネフシュタンでは求めた結果を得られなかった故か新たな欲、か……それとも……やはり…………)
その最悪な想定に、湊人は背筋に悪寒が走るのを感じた。
「司令」
「む?」
「少し、頼みたいことが……」
湊人は本来の目的である定期検査のためにメディカルルームに向かっていた。
地下にてそれなりの規模で展開された本部内部をしばらく歩き、司令室より一層分階下のメディカルルームに辿り着いた湊人は自身のIDカードを通してセキュリティを解除すると自動で両開きにスライドする入り口をくぐる。
その部屋はまさに医療目的にあると言える造りであった。全面的に白を基調とした室内には一般病院にも最近配備されたような最新式のものから近未来的な機器まで配置されており、その技術の高水準振りを伺わせる。
そして、そんなSF映画にも出てきそうな部屋には一人の白衣を着た人間が機材の一つをモニタリングしていた。
湊人から見て背を向けているが、その小柄な体躯と肩にかかった両縛りの髪からその人物が少女だと伺える。
「失礼します。小日向湊人。ただいま参りましたー」
「んん〜?」
その呼び声に反応して、少女がモニターから顔を上げると湊人の方に振り返った。
するとどうだろう。湊人と目が合った顔は国家機密の中枢たるこの場にいるのがおかしいとばかりに言えるまさに小中学生のように幼いものであり、その顔は見た目相応に無邪気に満面の笑みを浮かべて見せた。
「ひっさしぶりだねー湊人くーん☆」
アハハと笑いながら湊人のもとに駆け寄る少女はそのまま彼の腰に飛びついた。
「んー♪ 湊人くんまた見ない間に逞しくなったね〜。お姉さん嬉しいよ〜♪」
「お久しぶりですけど……毎度毎度抱きついてくるのは止めてくれませんかね?」
「えーなにー? 聞こえなーい。湊人くんの高鳴る心臓がうるさくてー」
じゃあ離れて下さい──と湊人は少女を無理矢理引き剥がす。
「ハァ……、いい
「でも見た目的には問題ないでしょ?」
「自覚してるところがタチが悪い」
十代前半の少女──に見える彼女は数年前に立派に成人を迎えた女性であり、学生時代にノーベル物理学賞を受賞し数多の博士号を取得した【特異災害対策機動部二課】所属の〝もう一人の天才〟科学者、
ご覧の通り性格に難あり。
「湊人くん」
「なんでしょう?」
「前より二.六キロ体重が増えたね」
「僕が女性だったら張っ倒してますよ」
ちなみに増えた体重は伸びた身長と鍛錬によるものだろう。
「湊人くんが女性だったら抱き着かないよ」
「抱き着いただけで体重がわかるなんて女性にとっては割と脅威ですね」
「そもそも私にそんな趣味はないよ。そりゃ人間の身体調べるのも弄るのも好きだけどさ。
私は魔法少女より変身ヒーロー派だから。特に改造人間は最高」
「それについては甚く同意しますし、深く語り合いたいところですが……今日はこの後に大事な予定もあるんで早く検査を始めて下さい」
「ハイサーイ。じゃあちゃっちゃと脱ぎ脱ぎしちゃってねー♪」
そう言って液晶機器を取り出した彼女の目は、先ほどとは打って変わった全てを探求せんとする科学者の目であった。
三十分後。
「命さん。一ついいですかね?」
「ん〜? なにかな?」
身体検査を終えた湊人は私服のシャツを着ながら命に問いかける。
「響の状態は視てると思いますが、どう思います?」
それは湊人が最も懸念するシンフォギア『ガングニール』の欠片を身に宿して力とする響の身体への影響について。
通常の法則から外れて自らの身で直接聖遺物の力を運用する響にどんな副作用があるのか湊人はこの一カ月気にかけていた。
「そうだね〜。私の理論的には実に面白い子ではあるよ」
「それは一体」
「そもそもだね。あの子の身体に『ガングニール』の欠片が残っていたこと自体が異常なんだよ?」
「?」
「わからないかな? あの子の身体の中にある欠片は確かに『ガングニール』のシンフォギアのものだけど『ガングニール』の欠片そのものじゃないんだよ」
「あ」
湊人も気づく。
「そう。アレはあくまでもガングニールの欠片に残された力から精製されたモノに過ぎないんだ。奏ちゃんの歌の力でね。だから奏ちゃんが死んだ時にそれは本来の力に戻らなくちゃいけないはずなんだよ」
「じゃあ、どうして」
「元々適性はあったんだと思うよ? だけどどうして『ガングニール』のシンフォギアは響ちゃんの中に残ったのかは私も了子さんも興味深く考察してるところなんだよ。
確かなのは、今現在間違いなく『ガングニール』は響ちゃんの身体の一部として馴染んでいるということだよ。それはまさに──……」
そこで命は不意に言葉を切った。
「まさに……何なんですか?」
事が事だけに湊人は嫌な予感を膨らませる。
しかし、そんな湊人の思いとは裏腹に、命はニカっと表情を崩した。
「今の響ちゃんはアレだね。湊人くんも知ってると思うけど、仮面英雄伝シリーズの『マスクドヒーロー剣鬼』と同じだね♪」
「はあ?」
いきなり何を言い出すんだと湊人は顔を歪ませた。それでも構わずに命は言う。
「だって剣鬼も千年前の妖魔と戦った魔剣の欠片が体内に融合して変身してたじゃん? 今の響ちゃんも全く同じじゃないかな♪」
「いや、まぁ、確かにそうですけど」
そうじゃないだろうッ! ──と心の中で強くツッコミを入れる湊人。
「心配しなくても響ちゃんは妖魔にはならないよ♪『ガングニール』はそんなものじゃないしね。知らないけど♪」
「当たり前ですよ。……とりあえず響は大丈夫なんですね?」
「私の理論的にはそれを結論づけるのは早計だけど、今のところ目立った問題はないとだけ言っておくよ。それを抜きにしても響ちゃんはとっても特異な観察対象だよ。──……まぁ、それはキミも負けちゃいないけどね」
「何か言いましたか?」
「なーんでもなーいよー♪ あ、そうそう! キミに渡したい物があったんだッ!」
命は一度身体をくるりと一回転させると得意げに白衣の前をはだけて見せた。
「なんですか、それ?」
姿を見せたのは小さな身体に見合った慎ましい胸部──より下の腰に巻かれた銀色に光る機械フォルムのベルト。湊人にも見覚えのある部位がいくつか見られるが、元になったそれらとは異なる意匠で造られたそれは──
「変身ベルトだよッ!」
「……それは、なんとなくわかります。というかくれるんですかそれ?」
「勿論♪」
「マジっすか」
変身ベルト。ただそれだけの響きだけで、二人の顔がだらしなく破顔する。
「前々から思ってたんだよ。せっかく日々人類のために戦ってるのに毎回毎回シャツとか私服じゃ様にならないなーって。確かにキミの場合は『ガエボルガ』が発する特殊な電気の鎧でノイズから身を守れているから、翼ちゃん達のような装束は必要ないんだけど、見栄えは大事でしょ♪」
命はそう説明しながら腰にしていたベルトを外して湊人に手渡す。
「じゃあ、僕のためにわざわざ……?」
「半分は趣味だよ♪ 知ってるでしょ。私が科学者になった理由」
「ええ。〝巨大合体ロボを作るため〟ですよね」
「イエス。変身ベルトも夢の一つでね♪ 了子さんと造った『シンフォギア・システム』で理論の整合性は実証してたんだけど、やっぱり一人でオリジナルを作りたかったからねー♫」
にゃははと朗らかに笑うのは夢の実現を為した歓喜と達成感からか。よほどの自信作らしく、彼女のベルトを語る口は止まらない。
「で、使うのにいくつか注意点を説明するね。
まず一つ目が一番肝心。変身するにはベルトの上っ面にあるボタンを押して『変身ッ!』って言ってね♪ じゃないと起動しないから。
二つ目は変身時間で、一度の変身で九分五十五秒まで。
三つ目は使用回数。このベルトは充電式でね。一度の充電で三回までは変身できるよ。ただしオーバーロード防止のために次の変身まで三分の冷却時間があるから。
四つ目は充電時間。普通に電気で充電するならフルには半日かかるけど『ガエボルガ』のエネルギーなら三分もいらないね。つまり使うなら『ガエボルガ』とセットが理想ってこと。
こんなところかな。他に何か質問ある?」
「いや、特にはないですけど」
それを聞いた命は不服と言わんばかりに頬を膨らませる。
「え〜ないのー? もっと他にさー、どうやって造ったのーとかさー、どこがどういう仕組みになってるのとかさー、聞くべきところはたくさんあると思うなー」
「それも聞きたいといえば聞きたいんですけど、長くなりそうだしこれから大事な予定もあるので」
同じ趣味趣向を持つ同胞の浪漫譚は是非とも拝聴したいのも本音だが、やはり妹との約束は無碍にできないのだ。
実際、彼女の発明品自慢が一度でも始まれば最低でも数時間止まらず最後まで拘束されてでも聴かされるのは彼に限らずこの建造物内の人間なら誰でも知っている。そのためにほとんどの者は彼女に近づくのさえ躊躇いを見せる。一国家公務員として彼女に捕まり仕事を放棄せざるを得ない状況に陥るのは例え彼女の問題性を知る上司が許しても避けたいものなのである。
「ブー、わかったよぅ……」
「すみません」
それでもここまで素直に引き下がるのは彼が珍しく自分を避けない、むしろ同好の士として語り合える稀少な存在と認識しているからだろう。
「じゃあ今度はそのベルトの秘密を余さず教えてあげるからねッ!」
そんな彼女の人によってはある意味死刑宣告とも捉えかねない宣言を背に、湊人はメディカルルームを後にした。
「「あ」」
司令室に続く廊下にて、湊人と翼は気まずい邂逅を果たした。
しかし一月ぶりに会った以上は挨拶はしなければならないと湊人はなんとか言葉を紡ぐ。
「えっと、久しぶり、翼」
「……あ、ああ。久しぶりだな。その、司令からはメディカルルームにいると聞いていたが?」
「さっき用事は終わったよ」
「そう、か」
「うん」
「…………」
「…………」
一度会話が詰まると互いに押し黙るまるで初見のお見合いのような沈黙が二人の間をさらに気まずくする。
(ほんと……何て言えばいいんだろう)
思い出すは一月前、彼女の顔に見た落涙。
私闘について見咎めようとして、同じくそれを見た弦十郎に告げた言葉。
『泣いてなんかいませんッ!』
『風鳴翼は、その身を剣と鍛えた戦士です。だから──ッ!』
そして、
『私、自分がダメダメなのはわかってますッ!』
『だから、これから精一杯頑張って奏さんの代わりになってみせますッ!』
そんな翼に向けて無邪気にも最も避けたかった地雷を踏み抜いてみせた
(流石に、アレは擁護できねえし)
即座にその頰に叩きつけられた翼の平手は止められるはずもなく。むしろ仕方がない。
(かといっても……)
それを今になって蒸し返すわけにもいかず。
(まずはどうやって二人を会わせるべきか)
「──────か?」
「へ?」
時間にしておよそ五秒ほどの沈黙を破ったのは翼であった。生憎と湊人はそれを思考に耽り聞き逃したが。
翼はその怒りにわずかに頰を紅潮させながらももう一度、強く言い放つ。
「異常はなかったかと聞いているんだッ!!」
「あ、ああ。詳しいことはまた今度にだが、特別目立ったことはなかったよ」
「そ、そうか。それは何よりだ」
つれない態度ではあるが心配してくれる彼女に、湊人は気まずさも忘れて笑った。
「ありがとう」
「べ、別に貴様を心配したのではないッ! せっかく戻った戦力が使えないのでは話にならないと思っていただけだッ! ただでさえ重荷がいるというのに──」
《ブーブーブーッ!!》
「「ッ!?」」
突如として施設内に鳴り響く警鐘音。
それはノイズの出現を知らせるものであった。
湊人は真宿区の自然公園にてノイズ討伐に当っていた。
奇しくも三箇所に同時発生したノイズ討伐に向けて戦闘員三人が分散する形となった状況に妙な作為を感じた湊人は焦燥感に駆られるままに戦っていた。
それを証明するように、湊人の姿はすっかり身につけたベルトの存在を忘れて黒のシャツにジーパンといういつものように完全な私服姿であった。
一応途中から気づいてはいたのだが今更変身してもタイミングを逸してしまった手前仕方ないと諦めていた。
『あとで私の部屋に来な』
例え閻魔様から地獄の沙汰を言い渡されても。
はっきり言ってここまで彼女が怒りに声を座らせたのは二課に配属されてから初めてだろう。湊人は知らないがこの声を聞いた本部の人間の動きはぎこちなく無駄にいつも以上に忙しなくなっていたのだ。
そんな本部が見守る中、夕日から赤く照らされる姿から月光から影差す姿に移した湊人は『ガエボルガ』の放つ稲妻を変幻自在に駆使してノイズを次々と炭の塵とする。
《
《
《
倒せど倒せど新たに現れるノイズ群。しかし負けじとそれを上回る火力と速度で確実にその数を減らしていく。その激しい戦闘の余波に多くの人々を惹きつける景観な自然公園は無惨にも荒れ果て、大地に無数の傷跡を刻んでいた。
しかし湊人は周囲の変わり果てた光景にも目もくれずただただ倒すべきノイズを蹂躙する。
「ハアアァァァアッ!!」
《
振るい描く深紅の一閃から放たれた雷撃の散弾は周囲のノイズたちを容赦なく貫く。
「これでッ!」
最後だと『ガエボルガ』の穂先がノイズの体を貫き、弾けた。
炭と霧散する最後のノイズを見届けて、湊人は力みに力んだ力を抜くように軽い息吹を溢す。
「フゥ……」
その溢れた吐息と共に彼の鬼気迫る気魄も抜け落ちる。
しかしそれで終わりではないと彼は再び闘志に眼光を鋭く光らせる。
次に行うは『立花響の援護』。自分の持ち場での役目を終え次第、現状最も多くの不安材料を持つ少女の援護に向かうのは弦十郎から湊人と翼に言い渡された命令である。無論、幼馴染みにして大事な妹の親友を戦う理由に置くこの青年には言われるまでもないことであったが。
そして湊人はオペレーターの情報を頼りに響のいる場に飛ぼうとして──
《_ー➖ ̄ー─ー_ ̄➖─ー》
その耳にもはや聞き慣れた不快な雑音を聴いた。
同時に空間を歪ませて現れる十数体のノイズ。
「またかよ……ッ!」
思わず舌打ちして即座に現れた塵芥の邪魔者を消し去ろうと《
だがしかし、次に湊人は目の前の光景に完全に動きを止めた。
「え」
現界したノイズ達は一寸でも動くことなく上下真っ二つに断たれて炭に帰り、夜風に浚われて闇夜に溶けた。
すると入れ替わるように一つの足音が静寂な闇夜の中から響いた。
「あー、本当に煩わしい化物共だ」
「ッ!?」
月明かりが照らす中でも薄暗い木々の中から聞こえたその声に、湊人は聞き覚えがあった。
忘れるはずがないその東欧訛りの英語と男性特有のテノール。
「そう思わないか? ミナト・コヒナタ」
二年前のあの惨劇の日。
小日向湊人を舞台裏に縛りつけた男は二年前と変わらぬ薄汚れたローブに顔を深く被った姿で、その手にはやはり二年前と変わらぬ金装飾の大剣を携えて現れた。
「お前、は……ッ!!」
蘇る記憶と共に込み上がる遺憾の念。
唇は噛み締め切られ、槍を握る手から血が伝う。
あの日の無力感と喪失感、怒りと哀しみ、流れた涙と失くした絆。
その全てを一つの念として左手に突き詰めて、湊人は腰のベルトに叩きつけた。
「変身ッ!!!」
一人の青年の復讐の念に、少年たちの夢は輝きを放った。
次回予告
忌まわしき因縁が心地よいと剣が刻む。
己が心まで斬りつける少女はその身を厭わず命奏でる。
燃える片翼を胸に刻み、飛び立つ小鳥に、君の手は虚空を摑む。
#4.その身貫くは
繰り返される過ちに、映る両翼は朧に誓いが揺らぎ、折れた意地に獣は牙を剥く。
◇◆◇◆◇◆
今週のワイルドアームズ6thシンフォギア
・「まったくサッパリちっとも知りませんでした」
シンフォギア9話次回予告においてウィッチクラフトの公式ブログにて金子氏はこのように語っている
あんまり楽しみすぎて、
さっき公式ホームページの予告を見に行ったら、
まったくサッパリちっとも意味がわかりませんでした。
世の中には、
いい加減な仕事をする奴がいるんだなあと思いました。(言い訳みたいな笑顔)
自分で言ったら世話がないとはこのことである。
・折れた意地に獣は牙を剥く
WA4に登場するヒロインの兄にして敵対するブリューナク副長を務めるクルースニク・アートレイデの主人公たちからの協力を力になれないと断わった際のセリフ「意地が……折れたんだ」から
回想省いたせいでワイルドアームズのOTONAを紹介できないのは残念でならない。2丁拳銃の発砲で空飛んでパンチで迎撃ミサイル受け止める人とかビームソード白刃取りしたり大地を埋め尽くさんゴーレムの軍勢を一人で引き受けて生存する人とか……
その他
・仮面英雄伝マスクドヒーロー剣鬼
すでに半世紀近く特撮ドラマシリーズであるマスクドヒーローシリーズの新世代となる仮面英雄伝シリーズ、その五作目(旧世代含めて十五作目)。全四十八話。
旅行中のトンネル崩落事故から千年前に砕けた魔剣の欠片をその身に宿し妖魔と戦う力を得た主人公国見小太郎と千年前から妖魔と戦い続ける破魔の剣を継承する一族の末裔蔵麻倭が千年の眠りから目醒めた魔王クダラとその配下たる妖魔十二神将から人類を護るべく宿命の戦いに身を投じていく勧善懲悪ストーリーから敵たる妖魔側にもスポットを当てて相容れぬ存在の在り方を示したエゴイズムや共生意識の芽生えたるインターカルチャリズムといった主義思想も描いたドラマへと展開していく。
キャッチコピーは『勇気という心の剣を取れッ!』
仮面英雄伝シリーズについてはまた別の場で語ろう。
・変身ベルト
おかしい……プロットにはそんな代物なかったはずだ……
何か天才が勝手に作ってました。
「変身ッ!」か「アクセスッ!」か……それが問題だった。