戦器絶衝シンフォギアX   作:なおTEL

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二週間で仕上げると言ったな。
アレは嘘だ(DOGEZA)

いやまあ仕上げたいとは言っても仕上げるとは言ってませんでしたがね。見事に間に合いませんでした。
対人戦は書くの楽しいんですけどめんどくさいです。


#4.その身貫くは

 

「私にも、守りたいモノがあるんです! だからッ!!」

 

 立花響は伝える。あの日、言葉にできなかった胸の内の覚悟を。

 憧れの風鳴翼と、共に戦うために。

 

「……」

 

 弦十郎の指令から響の援護に翔けつけた翼は彼女が取り零したノイズを討伐し、背に語りかける彼女の言葉を待つ。その言葉に期待こそしていないが、何故か彼女の言葉を聞かなければならない気がしたのだ。

 しかし、そこに一人の闖入者が割って入る。

 

「だからァ……? んでどうすんだよ?」

「「ッ!?」」

 

 明らかな敵意を孕んだ声色に振り返った二人の先には、一人の少女が立っていた。

 そして、威風堂々と現れた少女の身は刺々しい白銀の鎧に身を覆われていた。

 

「なっ……!?」

 

 翼はその鎧に確かに見覚えがあった。

 何故ならその鎧は〝二年前〟まで【特異災害対策機動部二課】が保有していたのだから。

 見違えるはずがない。二年前のあのライブにて、己が至らなさから喪われた片翼と共に失われた完全聖遺物──

 

「『ネフシュタンの鎧』ッ!?」

「へえ? てことはあんた、この鎧の出自を知ってんだ?」

 

 どこか挑発混じりに、鎧の少女は嘲笑う。

 そんな少女の言葉に、皮肉を込められたと翼は奥歯を噛み締めた。

 

「二年前、私の不始末で奪われた物を忘れるものか」

 

 握った得物は、目の前の倒すべきと判断した敵を討つために構えられる。

 

「何より、私の不手際で奪われた命を忘れるものかッ!!」

 

 今こそ、忌むべき過去を清算するために。

 

(奏を喪った事件の原因と、奏が遺したガングニールのシンフォギア……時を経て、再び揃って現れた巡り合わせ……)

 

 それは何とも残酷な神の悪戯だと、心打たれる事もあるだろう。

 

(だが、この残酷は私にとって心地いいッ!)

 

 今この瞬間、風鳴翼は確かに始まる抗争に昂揚感を覚えた。

 無自覚に無意識に、感情を殺して戦いに身を投じてきた少女は生まれて初めて感じる昂りを殺そうともしなかった。

 それが二年間、自らを責め斬り詰めた因縁に終止符を打つと信じて。

 風鳴翼は開戦の歌を口ずさむ。

 

「止めてください、翼さんッ!」

 

 響は、今にも斬りかからんとする翼の身体を抱き止めた。

 

「相手は人です! 同じ人間ですッ!」

 

 だから戦う理由などどこにもないと主張せんとする響に、相対する二人は揃って一喝した。

 

「「戦場(いくさば)で何を莫迦なことをッ!!」」

 

 その見事に揃った呼吸に、二人は互いに敵ながら微笑み合う。

 

「むしろ、貴女と気が合いそうねッ!」

「だったら仲良く戯れ合うかいッ!?」

 

 同時に二人の足元が爆ぜた。

 

 

 

 翼と鎧の少女が対峙する五分前。

 北に十キロ離れた都内別区の自然公園。

 小日向湊人はその身を緋みに帯びた紫金属の装束で纏っていた。その形状は右手に握った《ガエボルガ》を仮にシンフォギアで纏ったかのようであり、流麗かつ鋭利なフォルムが頭部のフェイスから脚部のレギンスに見て取れる。

 変身稼動による装束分解再構成といった素粒子レベルに干渉するエネルギー運動からベルトは人が容易に触れられないほどの熱を発しているのだが、変身を終えた今尚、腰にあるベルトはエンジンを蒸すように小さな唸りを上げながら排熱し、内部の冷却装置によって装着者の身を守っていた。

 これが倉梯命が二年の歳月をかけて塾考した『変身ベルト』の性能である。無論、シンフォギアと異なり聖遺物の力に頼らないこの変身に装着者の肉体を強化する力はなく、あくまでも見た目重視のロマン発明品である。

 

「ほう」

 

 湊人の変身を見たフードの男が関心するように呟く。

 

「なかなかイカした格好じゃないか。それで? そんなヒーローみたいな格好して〝あの時〟よりも進歩してないなんてことはないよな?」

「当然だよ」

 

 派手さはないが洗練された美しさと風格を備えた金装飾の大剣の柄をいじりながら剣呑に問いかけるフードの男の言葉に、湊人は短く答えた。そこに憤怒や憎悪といった激情こそなかったが、静かな闘志が滾るようにあった。

 

「〝あの時〟ほど……僕に力がなかったことを悔いたことはない」

 

 得物たる槍を両手で握る。

 

「この二年間……、僕はお前を倒すために……いや」

 

 握った槍を大地に平行に構えながら片足を男に向けて踏み込み腰を落とす。

 

「どんな敵からもみんなを護るために強くなったッ!!!」

 

 瞬間──、まさに瞬きの間に湊人の姿が消える。その場に弾けた閃光を残して。

 

 

 

「なるほど」

 

 男は、手にした大剣を背に構えてその一撃を受け止めた。

 

「確かに使えるようにはなっているらしいな。身のこなしも別人だ」

「そこまで余裕げに言われると、皮肉にしか聞こえないな」

 

 横幅二十センチはあろう刀身の腹、その中心に穂先を突き立てながら湊人は少し困ったように笑う。

 

「事実だぜ。ただ振り回すしか武器として使っていなかったお前が、ちゃんと槍を振るっているんだからな」

「もう一度言う。当然だよ」

 

 弾いた金属音と火花を散らして湊人は距離を取る。

 そして今度は穂先を男の頭部に向けて構える。

 

「強くなったのは胸に誓った意地を貫くためだが……、この二年で磨いてきた技は、お前を倒すためにあるんだからッ!」

「そうか」

 

 心なしか、フードから覗いた口元が笑ったように湊人には見えた。

 

「だったらやってみろよッ!!」

 

 

 

 ──これが、完全聖遺物のポテンシャルッ!?

 翼はネフシュタンの少女相手に苦戦を強いられていた。

 別にその背後で少女に操られたノイズの粘液に動きを封じれている響を案じてのことではない。

 

「ネフシュタンの力だとは思わないでくれよなァ! あたしのテッペンはまだまだこんなもんじゃねえぞォッ!!」

 

 そう猛る少女との力の差が確かにあったのだ。

 少女の言うように、彼女が戦いを知る者だということはその動きから翼も推し量ることができた。少女は決して弱くない。それは如何に完全聖遺物の力を借りたとして、幼少期より戦士としてその身を鍛え上げ、数年の実戦経験も経たその年では百戦錬磨の兵たる風鳴翼を圧倒している事実からも彼女の戦闘センスが窺える。

 しかし、それでもこの状況を小日向湊人が見ていたならこう断じていただろう。

『何を焦っているんだ』と。

 それほどまでに翼は焦燥感に駆られていた。本人も気づかぬ内に。それを義務や責任からの重圧と勘違いして。

 ただただ勝手に自分で自分を追い詰めていた。

 それが本来の動きを阻害しているのだ。いつもよりワンテンポ早く速く繰り出される一足が、その後の一挙一動全ての動きを鈍らせていた。

 故に、普段の彼女の動きを知る者であれば今の彼女が万全でないことは一目瞭然だった。

 

「翼さんッ!」

「外野がピーチクパーチク喚くんじゃねえッ!」

 

 少女が響に注意を向けた隙を突くように、翼が大剣を構えて懐に入る。

 

「その子にかまけてる場合かッ!」

 

 しかし、頭上から振り下ろされた一撃も少女は鎧から伸びる格子状の鞭で塞ぐ。

 だがそれで翼の攻撃は止まらない。少女の意識が頭上の刃に向けられた一瞬を狙ってその足元を刈る。そこから体勢を崩された少女の頭に左回し蹴りからの旋風脚を繰り出すが、少女は一周目を背を反らして躱し、二週目を軌道上に構えた右腕で受け止める。

 

「お高く止まるなッ!」

 

 受け止めた翼の右足首を掴むと、少女は無造作に投げ飛ばして地に叩きつける。そして転がる翼の頭を、先回りした少女が右足で強引に踏み止めた。

 

「逆上せ上がるな人気者! 誰も彼もが構ってくれるなどとと思ってんじゃねえッ!!」

「ぐっ……」

 

 少女は浴びせる罵倒と共に翼を踏みつけた足にさらに力を込める。

 

「この場の主役と勘違いしてるなら教えてやる」

 

 そう言うと少女は、ノイズに囚われた響を指差した。

 

 

「──狙いははなからこいつを掻っ攫うことさ」

 

 

「え……?」

 

 予期せぬ突然の指名に響は呆けた声をあげる。

 

「鎧も仲間も、あんたには過ぎてんじゃないのかァ?」

「繰り返すものかと、私は誓った……ッ!」

 

 少女の挑発に答える様に、夜天から無数の刃が降り注いだ。

 

 

 

 湊人と男の完全聖遺物を交えた戦闘は苛烈を極めていた。

 聖遺物の力を知らぬ第三者がこの光景を目にすれば、その眼前に繰り広げられる凄まじい戦いにただ驚愕に立ち竦み息を呑むばかりであったろう。

 ぶつかり合う槍と大剣は金属と金属が奏でる打音を甲高く響かせながら鍔競り合っていたが、それが纏う力は常識を逸した規格外。

 音が鳴る度に飛ぶ衝撃は波となって周囲に爪跡を残す。

 緑の芝は抉れ、木々はへし折れ、街灯はひしゃげ曲がる。

 嵐の様に荒れ狂う烈しさを見せる剣戟は最早人間離れした高速の域に達していた。

 この光景を見て、二人を人間と認識できるものがどこまでいるのだろうか。そもそもとして、普通の人間には何が起こっているのかさえ認識できないだろう。

 それほどまでに二人の戦いはまさに異次元の領域にあった。

 

「あんた、本当に何者だ?」

 

 だからこそ、湊人は問う。

 シンフォギアと違い、聖遺物の力をそのまま身体能力の向上に回せない湊人は『ガエボルガ』の雷で脳の電気信号から神経、筋組織に刺激を与え無理矢理に活性化させることで常人離れの身体能力を発揮しているのだが、対する男はそんな()()()を背負っている風もなく湊人の動きについてきていた。

 それも明らかに湊人の槍より重量を持った大剣を持って。

 男の身の丈は湊人と大差ない。湊人より大きくとも間違いなく百八十はないだろう。

 そんな男が身の丈ほどの重厚な大剣を振るい、湊人の高速の剣戟に対応しているのだから彼の疑問も最もだろう。例えその問いに『本当に人間か?』と含めても。

 しかしそこで男の気配が変わった。

 

「知るかよォッ!!!」

 

 怒気と殺意を纏った愚直なまでに力任せな、それでいて無駄のない凄烈な斬り払い。

 

「ぐく……ッ!」

 

 その一撃を『ガエボルガ』で受けるも、完全に力負けした湊人の身は後方に弾き飛ばされた。

 そして男は、追撃をかけることなくその場で大剣を地に突き立てると先の一瞬に見せた感情を一切見せず小さく呟いた。

 

「……なるほど」

 

 そう感心するように男は湊人が握る『ガエボルガ』を見据える。

 

「流石にかの『クランの番犬』が決め手とした、海獣の骨から造られた魔槍なだけはあるな。〝こいつ〟と五十合打ち合って傷一つつかんとは」

 

 自らの得物に自信を持ったその言葉に湊人は苦笑した。

 

「よっぽどの名剣のようだね。あんたのそれは」

「ああ。お前じゃないが言わせてもらう。当然だとな。

 何せこいつは〝伝説の小人が作った『巨人の短剣』〟だからな」

「巨人の、短剣……?」

 

 聖遺物の正体に繋がりながらも聞き慣れぬ由来に訝しむ湊人に対して「まぁいいか」と男は大剣を構え直す。そして大きく振り被るように構えられた大剣に、淡い光が覆う。()()()()()()に湊人の全身は強張った。

 

(あれ……は……ッ)

 

「それよりも、確かにお前は強くなったようだ。正直に言えば、()()()()()()名前も忘れていたんだが……どうやら覚えておく価値があるらしい」

 

 光は大剣から解放された力に呼応してその輝きを増す。

 

「──まあそれも」

 

 瞬間、光は刀身に収束すると大気を震わすほどの高周波の音波を発した。

 

「これを越えてからの話だがなアッ!」

「ッ!?」

 

 否。大気を震わすどころか、湊人の周囲の空間が完全に超高速の波動による高周波振動で固定化され、空間内の動きを封じていた。

 それは二年前、湊人が男に破れた技。男の完全聖遺物の能力。

 空間固定超振動。

 振動の波は震わす空間全てを一体化させて呑み込むことでその全てを振動の檻に捕らえる。

 何よりもこの能力の脅威は、本来の物理法則なら振動する間は、大剣が振動を発する間は発振源たる大剣もその所有者も不動を余儀なくされるのだが、大剣と対象の空間を切り離して尚、数分間余震とも言える空間単独での振動が可能となる点である。

 現に槍を構えたまま周囲の空間と共に震える湊人とは対照的に男はすでに平然と動きを見せていた。

 

「一度捕らえられたら最後。例え完全聖遺物の力でもこの波動の拘束から逃れられないのはお前とネフシュタンで実証済みだ」

 

 男はあまりにもつまらないとため息を溢す。

 

「結局、お前は〝あの日〟から何も変わっちゃいないってことか」

 

 一歩一歩踏みしめるように男は湊人に近づく。

 得物の間合いに湊人を入れると、男は大剣を大きく振り上げた。

 

「また、自分の無力を嘆けよ」

 

 そして、男は無慈悲に刃を振り下──

 

 

「それはどうかな?」

「な……ッ!?」

 

 

 ──そうとしたところで、驚愕に身を固めた。

 男の目には確かに〝自らに穂先を構える湊人の姿〟があった。

 彼の──正確には彼が教えを乞うた技を含めて槍術とは常に討つべき敵に向けて穂先を構えるものである。何故なら槍の真髄はその鋭き刃で穿つ『突き』にあるからだ。

 それを理解していたからこそ、男は湊人との剣戟にてその穂先から身体をズラし、得物で払うことでそれを避けていた。当然、湊人が身動きを封じられた時でも自然と穂先の延長線上から外れたはずであった。

 にも関わらず、『ガエボルガ』の穂先は確かに男に向けられていた。

 

(バカ、な……ッ)

 

 気づけば、湊人を捕らえていた振動の空間は完全に消え、代わりに彼の周囲には迸る稲妻があった。

 

(一体、何が……ッ!?)

 

 しかし疑問よりも早く、自身の中でけたたましく鳴り響いた警鐘に従うように男は湊人から距離を取った。

 それは(まさ)しく(ただ)しく、男のいた空間を切り裂くように一条の光が射した。雷撃纏いし『ガエボルガ』の突きであった。

 そして湊人はその状態から男を目で捉えたまますでに次の構えを取っていた。

 

「逃がさないッ!」

「チィッ!」

 

 今までにない荒ぶるような激しさを増した雷光に、男も特大の一撃を放たんと大剣震わせ迎撃の構えに入った。

 

 

 

雷鳴の牙(ヌァ・シャックス)

《tempestoso》

 

 

 

 夜天に轟く霹靂と震天。

 二つの完全聖遺物の人智を超えた力の衝突は、空間から大気を消し飛ばし、衝撃は周囲の空間を捻じ曲げて歪み、それを修整しようと膨大なエネルギーが鬩ぎ合う力と力の狭間に集結して、爆発した。

 それは一帯の全てを薙ぎ払い、自然に溢れていた緑の大地を生命を感じさせぬ死の荒野へと変えた。

 最早、神の一撃ともいえる人災なる天災の中で、その中心部にいた人間二人は人の身を保ってそこにいた。

 その出で立ちこそ激しい力の衝突で、衣服は所々大きく乱れ破れてこそいたが、その身を残して立っていた。

 

「あ」

 

 すでに変身時間も過ぎて破れた上着が辛うじて肩にかかっていた湊人は、男の顔を隠していたフードが完全に消し飛び、素顔を晒しているのに気づいた。

 それはまさに白人の美丈夫であった。歳上にもあまり見えないが歳は湊人と変わらぬであろう二十歳前後の青年といったところか。

 その目鼻立ちは美しく、今尚湊人を睨む碧眼は人形のようで、薄い小麦色の髪が爆風の余波でたなびく様はどこか芸術的である。

 

「……ミナト・コヒナタ」

 

 男は呟く。

 

「一つ聞かせろ。何故動けた?」

 

 その問いに答えるべきか一巡する湊人であったが、男の有無を言わさぬ凄みを感じさせた強い視線に応えた。

 

「あんたのアレは、振動周波を利用したものだろう? 水晶振動子やマッサージ機の原理を応用とした。振動する固体に触れることでその固体と共に振動し固体から離れられなくなる現象をあんたはその聖遺物の大剣の力で空間ごとやってのけた。違うか?」

「その通りだ。だがそれがわかったところでどうにかなる話でもないはずだ」

「そうだな。僕もあの時は知らなかったけど、アレを観測してくれた〝天才〟がいたんだ。おかげであの厄介な技の振動数を知ることができた。

 あとは『ガエボルガ』の力で電波振動を発して相殺すればいい」

 

 湊人の言葉に、男は驚きに目を見張った。

 

「まさか……振動数を、ハーモニクスさせることでの干渉中和……だとッ!?」

「まあ、あんたの聖遺物と違って、こっちの能力の本質は『電気エネルギー』だからね。電波振動の調整にはかなり手を焼いたよ」

 

 それこそ湊人の言う〝天才〟命の協力がなければ成功し得なかった。

 その労力の甲斐があったと笑む湊人に、男は苦笑で返した。

 

「そうか。──『エッケザックス』の特性にも気づいたか」

 

 今度は湊人が驚きに目を見張る。男は何てことのないように言う。

 

「特性を知られた以上、名を隠しても意味はねえだろ。所詮は記号だ」

「だけど納得したよ。小人が作った巨人の剣……考えればそれしかない。それほどの名剣であるなら『ガエボルガ』で貫けないはずだ」

 

 あらゆる盾や鎧といった防具もその剣の前では紙細工同然であったと聞く。男が用いた大剣の特性を知れば十分に理解できることだ。

 要は高周波振動ブレード。現在実用が目指される空想上の武器とされる技術の結晶が完全聖遺物『エッケザックス』なのだ。

 

(命さんなら絶対に『奪い取ってこいッ!』って言うんだろうな)

 

 あのロマン武器を前にロマンに生きる天才が黙っているはずがないと考える湊人の腰のベルトから途切れ途切れのノイズが走る。

 

『──ガガ、み──んッ!』

 

 それは本部からの通信であったが先の激突で周囲一帯に電波障害が起きたのか届く音はノイズ混じりの不安定なものであった。だがそれも十秒ほどで徐々に回復していく。

 

『湊──ピーさ──ガガ、湊人くん──ッ!』

 

 ようやく聞き取れるまでになった通信であったが、その声からは尋常ではない焦燥が感じられた。

 

「あおいさん? どうしました!?」

 

 焦燥の声に充てられて、湊人の声も緊張で強張る。

 

『翼ちゃんが大変なの! 可能であればすぐにその場を離脱して翼ちゃんの援護にッ!』

「……わかりました」

 

 あおいの要請に、湊人は平淡な声色で答えると通信を切った。

 男に向き直った時、湊人からは表情が完全に失われいた。まるで自我を持たぬ人形のように。

 

「悪いけどこれ以上はもう付き合えない。お暇させてもらうよ」

 

 男は整った顔立ちを小馬鹿にしたように歪め鼻で笑う。

 

「それを聞いてはいそうですかと引き下がれたらとっくに引き下がってるんだよ」

「そうか」

「おうよ」

 

 平静を装いながらも殺気立つ湊人の静かな闘志に、男は滾るような剣気で応える。

 

「なら力尽くで押し徹す」

「上等だッ!」

 

 雄叫びはなく、されど裂帛した気合と共に距離を一足で間合いに詰めた双方の得物が交差する。

 

 その刹那。

 二人の耳に、響いたものが自然と動きを中断させた。

 

 剣戟は交わることなく互いの身だけが交差して背を晒す。

 しかし二人は互いにその隙を突こうともせず、その耳に届いた歌声(・・)に導かれるように遠く南方に目線を向けた。

 

「これは……」

 

 

 

「フン、まるで出来損ないッ!」

 

 見下ろすネフシュタンの少女の前には不恰好に倒れる傷だらけの翼の姿があった。

 防戦を強いられながらも一度は《千の落涙》の奇襲を起点に太刀から短刀、大剣と型を換えての攻め手に回ったのも束の間。完全聖遺物の力をモノにした少女の戦術を前に破れることとなった。

 それでも翼は立ち上がる。

 

「この身を一振りの剣と鍛えてきたはずなのに……あの日、無様に生き残ってしまった」

 

 まだ、倒れない。やり残した事があると。それを為すために。

 

「出来損ないの剣として、恥を晒してきた。……だがそれも、今日までのこと」

 

 防人としての覚悟を胸に、翼は戦う。その命を賭して。

 

「奪われたネフシュタンを取り戻すことで、この身の汚名を濯がせてもらうッ!!」

 

 風鳴翼は、自らの命を燃やす。

 

 ──Gatrandis babel ziggurat edenal──

 

 翼の全身全霊を懸けたその旋律に、少女は戦慄した。

 

「お前、その歌は──なっ!?」

 

 それを理解し、それを止めるために動こうとしたところで、少女は自らの身が大地に縛りつけられているのを感じた。

 

《影縫い》

 

 足元を見れば、月に照らし出された自身の影に刺さる一本の短刀があった。それは先の戦闘で翼が牽制に放ち少女が弾いたものの一本であったが、たった一本の短刀で見事に身動きを封じられていた。

 

 ──Emustolronzen fine el baral zizzl──

 

 その歌は、シンフォギア装者が放つ最高にして最後の最大攻撃。

 

「立花響!」

 

 身に纏うシンフォギアの核となる聖遺物の欠片のエネルギーを歌唱にて増幅放出するその技は、装者の命を削る諸刃の剣。

 

「防人の生き様、覚悟を見せてあげる! 貴女の胸に焼き付けなさいッ!!」

 

 シンフォギアに施された保護機能すら容易く凌駕する増幅されたエネルギーは強化された装者の肉体をも蝕み、破壊する。

 心身が万全な状態であっても命の危険に見舞われるこの歌は文字通りに装者の命を燃やすのだ。

 かつての装者、天羽奏がそうであったように。

 歌女の全てを懸けたその歌唱(うた)の名は

 

『絶唱』。

 

 

 

 国立病院機構統轄にして政府機密にも融通の利く政府直轄の首都中央病院。一見すると病院というよりは美術館、展示場の様な趣きのある造形がなされているが政府機密にも融通が利くだけあり、その医療技術は国内最高峰といっても過言ではなく、多くの患者達が日々門をくぐる。

 そんな大病院も夜の帳が下りる時間には静寂の闇に沈む。

 すでに消灯時間も過ぎて非常灯以外の光源が断たれた病棟の待合室の片隅にて、外来者用の消毒液の容器が倒れて中身が溢れたテーブルを前に、湊人は一人ソファに腰を下ろしていた。

 

 風鳴翼の手術の結果を待つために。

 

 結果として、湊人は間に合わなかった。

 無我夢中で男を振り払い、駆けつけた時には全てがおわっていた。

 ネフシュタンの少女が宣言した立花響の拉致は防いだものの、少女は逃亡し、少女を撃退するために『絶唱』を歌唱った翼は満身創痍の重態で倒れた。

 そして今、緊急搬送された翼の一命を取り留めるための手術が行われている。

 湊人は何をするでもなく、何もできずにただただ手術の結果を待っていた。

 

「ここにいましたか」

 

 緒川慎次はようやく見つけた湊人に安堵する。

 

「……」

 

 しかし湊人は俯いたまま沈黙する。

 緒川は困ったように苦笑う。

 

「響さんには、何も言ってあげないんですか?」

 

 湊人と同じく、また別の場所で手術の結果を待つ響のことを告げる。

 しばしの沈黙の後、緒川がまた別の話題を切り出そうとしたところで、湊人は口を開いた。

 

「……何を、言えと?」

 

 弱々しい震えるような声で湊人は言う。

 

「あいつは、きっと自分を責めているでしょう。自分に戦える力がなかったせいだと、翼と共に戦えなかった自分の不甲斐なさを責めて責めて責め詰めているでしょう。

 そんなあいつに、『お前のせいじゃない』と『悪いのは全部僕にある』と言えばいいんでしょうか?」

「それは、」

「たぶん、今の僕にはそれしか言えず、今の響はそれを頑なに否定するでしょう。そこからは、ただ自己満足な責任の背負い合いです」

 

 今の自分では彼女を慰めることはできないと、湊人は言った。

 緒川は、何も言えなかった。きっとおそらく、今の彼を響に会わせても湊人の言う通りになってしまうのだろうと理解できてしまった。

 ならば、今その役目は僭越ながら自分が務めるべきなのだと緒川は考えた。

 そんな緒川に、湊人は改めて口を開く。

 

「緒川さん」

「はい。なんでしょう?」

「僕は、何のために戦っているんですかね?」

 

 それは、誰よりも自分自身が理解っていたことだったはずなのに。

 

「みんなを、護るため……といつも君は言っていました。自分の周りにいる人々の生活を護りたいと、君は強くあろうとした。僕はそう記憶していますが」

「……はい。別にノイズとかはどうでもよかったんです。確かに、倒したいと思う奴が現れたのは事実ですが。……あの日、僕が力を求めた理由は、ただ目の前の友達を助けたい……そのためにも、死にたくないという自分勝手なものです」

 

 湊人は願った。

 死にたくないと、死んでほしくないと。そのためにも生きたいと、死なせたくないから死にたくないと。生きて護るために生きたいと。

 そして湊人は『魔槍』という絶対たる力を得た。

 

「それなのに……、僕は二度も……友達を、仲間を助けることができなかった。

 僕は一体、何のために戦ってきたんでしょう?」

 

 あの日、力を得ると共に誓った意地は何だったのか。

 ここまで徹して尚、届かぬ意地に何の意味があったのか。

 

「わからない。わからないんですよ」

 

 血塗れに倒れる翼を見て、ポッキリと何かが折れてしまったのを感じてから、湊人は自分がどうしてここにいるのか、ここまでどうやって来たのかもわからなくなっていた。

 

「それでも」

 

 緒川は顰めていた眉を一度目を固く瞑ることでほぐすと、まっすぐに湊人を見下ろして告げる。

 

「あなたに救われた命があります。あなたが助けた命があります。それを忘れないでください」

「……」

「湊人君、僕達は君達と同じ戦場には立てません。それを数え切れないほどにもどかしく思い、自分の無力さを痛感してきました。

 それでも僕達は僕達にしかできないことで、君達を微力ながらに支えていけたらと願っています」

 

 それが戦場で戦う子供たちを見守ることしかできない【特異災害対策機動部二課】の大人たち全員の覚悟と責務。

 

「今回、翼さんを助けられなかったのは湊人君だけでも、響さんだけの責任でもありません。僕達の責任でも(・・)あるんです。どうか、一緒に背負わせてください。

 そして、一緒に翼さんの無事を祈りましょう」

 

 それが、若輩者ながら一人の先達として無力に打ちひしがれた青年(こども)に返せる答え。彼の求めた答えを返せたとは思っていない。それでも、彼の心が少しでも救われるならと願った答え。

 

 湊人は、うつむいていた顔を上げて、力ない笑みを浮かべた。

 

「ありがとう。緒川さん」

 

 

 もしも、緒川が待合室に入った時に部屋の電源を入れていればその部屋の異常に気づけただろう。

 もしくは、湊人がテーブルに置かれた消毒液の容器を倒していなければ、その部屋の異臭が消毒液の臭いに掻き消されることもなかっただろう。

 そして何よりも──

 

「湊人君……?」

 

 向けられた笑みを見て緒川の背筋が凍った。

 そのあまりに生気の抜けた笑みを浮かべたまま、湊人は崩れ落ちた。

 

 

 

 薔薇の棘のように鋭利な突起物を生やして溢れ出る血で真っ赤に染められた右腕を曝して。

 

 

 

 





次回予告

生死の狭間においても生を、
力を求めた心に応えて雷鳴は轟く。
少年は、戦場を生きる力を得て、
戦場で生きる呪いを負う。

#5.魔槍

その手に握り締めるは一振りの覚悟。
この重さは命の重さ、この意味は生きる意味。

 ◇◆◇◆◇◆

今回のワイルドアームズ6thシンフォギア

・「私にも、守りたいモノがあるんです! だからッ!!」
WA4のアルノーの戦闘ボイス「俺にだって守りたいモノがあるッ!」及びWA:Fのロディの戦闘ボイス「この手には、戦う力がある……だからッ!」から。

・「〜……どうやら覚えておく価値があるらしい」
WA2のファルガイア全土に電波ジャックして放ったテロリスト集団『オデッサ』首領ヴィンスフェルト・ラダマンテュスの自己紹介文最後の一言「おぼえておく価値があるッ!」から。
ちなみに私は彼のフルネームをちゃんと覚えていたことがあまりありません。あの電波ジャック映像が使用中のトイレや風呂の水面にも映し出されていたというのは覚えてるんですが。

・《雷鳴の牙(ヌァ・シャックス)
WA、2、Fに登場する雷を司る守護獣『雷鳴の牙』ヌァ・シャックスから。

・「まさか……振動数をハーモニクスさせることでの干渉中和……だとッ!?」
WA3に登場するアースガルズのセリフ「バリアにバリアを合わせるかッ⁉︎ 振動数をハーモニクスさせることでの干渉中和ッ! ぬうん……やらいでかッ!」から。
OTONAの活躍もありここはかなりの名シーン。

・「わからない。わからないんですよ」
WA2の主人公アシュレーの苦悩のセリフ「わからない……わからないな……」から。

・この重さは命の重さ、この意味は生きる意味
WA3のデウス・エクス・マキナにおけるBGMタイトル。オリジナルサウンドトラックDisc3の14番目より。

その他
・変身スーツ
デザイン参考としては『スクライド』のストレイト・クーガーのアルター最終形態『フォトン・ブリッツ』を採用。顔はカズマや劉鳳のように出てますが。
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