戦器絶衝シンフォギアX   作:なおTEL

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第三期GX新情報続々投下ァアッ!
魔法少女事変ッ!?
魔法少女とはなんだ! いつ発動するッ!?

ノイズに代わる怪人怪物枠がいないが大丈夫か金子ォオッ!!


#5.魔槍

 

「あの青年の正体が分かったとは本当かッ!?」

 

 風鳴弦十郎は受けた報告の確認のために首都中央病院から本部に直帰していた。

 報告の内容は『完全聖遺物エッケザックスを持つ青年の素性が判明した』というもの。

 まず間違いなくネフシュタンの少女とも繋がる敵方の正体を知る取っ掛かりとなり得る情報に、弦十郎は翼の安否を気にかけながらも司令としてこの最優先案件の処理にかかった。

 そして、直帰した弦十郎に応えたのは組織内で情報処理能力に長けた司令部オペレーター六人の中で最も解析に優れた藤尭朔也であった。

 

「はい。と言っても、素顔だけですぐに引っかかりましたよ」

「何?」

 

 怪訝な表情の前に、藤尭は最初に見つけたプロファイルをモニターに投影した。

 

「何せ彼は、三年近く前に国家反逆罪として億の懸賞金で国際指名手配されてましたから」

 

 そのプロファイルには、確かに湊人のベルトに備えられていたカメラによって映されていた青年の薄い小麦色の髪に端整な顔と同一人物であると言える顔があった。

 

「彼の名前はレイモンド・クルースニク。現在二十二歳。クロアチアで中世から続く名家の音楽貴族であり、……十二年前のクロアチアで起きたノイズ災害における唯一の生き残りです」

「その後に、現欧州評議会事務次長ユーリ・アーデルハイドが後見人となって支援を受けて、若干十五歳にして欧州特別災害防衛部隊【氷狼騎士団(フェンリルナイツ)】に史上最年少での入隊を果たしています」

 

 藤尭の後を引き継いだ友里あおいの言葉に弦十郎の身が驚愕に震えた。

 

「【氷狼騎士団(フェンリルナイツ)】、だとッ!?」

 

 欧州特別災害防衛部隊【氷狼騎士団(フェンリルナイツ)】。

 日本における【風鳴機関】、【特異災害対策機動部】と同様に元は欧州連合直轄の特務機関であったが、欧州連合の経営破綻を契機に当時の欧州連合運営委員長であったユーリ・アーデルハイドの援助を受けて独立。あらゆる災害に対して欧州各国の依頼を受けて行動する防衛部隊となった。

 その実態はトップシークレット。その規模、構成員の数すら欧州各国首脳陣の一部しか把握しておらず、世間では普通の人間はおらず、魔術師や超能力者、吸血鬼などの人外が所属しているといった都市伝説が各国に流れるほどに謎に包まれた特殊部隊である。さらに欧州連合が経済破綻した今となっては一部のメディアで欧州連合の瓦解の原因とも言われている曰く付きの組織でもあるが、その数十年の実績は確かなモノであり、ノイズに限らずあらゆる災害から民衆を守ってきた。

 弦十郎が驚いたのも、かつて彼がまだ若き日、【風鳴機関】の実行部隊の一人に過ぎなかった時分に総長であった父と共にその精鋭部隊の勇姿を目の当たりにしたからである。

 

(あの時の俺は、彼らの一人分の働きをするので精一杯だった)

 

 全員が全員、実戦に向いた能力を持っていた訳ではなかったが、父ですら彼ら数人の連携には遅れを取り、当時の自分も一人と並ぶのがやっとのことであった。

 なるほど。あの特務機関に十五歳で所属していたのが事実ならば二年前の湊人が相手にならなかったのも無理もない。戦闘のプロを相手にたった数ヶ月の経験しか持たなかった元一般人が敵う通りではないのだから。

 しかし、だからこその疑問が浮かぶ。

 

「彼は、何故に国家反逆罪など犯したのだ?」

 

氷狼騎士団(フェンリルナイツ)】は国際的なエリート部隊であり、欧州に対する絶対防衛権限を許されたと言っても過言ではない特務機関。そこに史上最年少という肩書きで入団したエリート中のエリートであるはずのこの青年がどうして国家反逆罪などという最大級の犯罪に手を染めたのか。

 弦十郎の問いに、藤尭は固い表情で答える。

 

「何でも、欧州評議会本部にて事務次長ユーリ・アーデルハイド氏を襲撃し失敗。逃亡の際にも本部内の議員への傷害や本部議場の半壊等で罪状が出たようです。

【氷狼騎士団】も出動した様ですが結果として逃亡を許し、彼が何故そのような凶行に至ったかという詳しい動機は不明とのことです」

「そうか。……ちなみにあの完全聖遺物──『エッケザックス』について何かわかったことはあるか?」

 

 それに応えたのはあおいであった。しかし、その顔は渋かった。

 

「彼との関連から欧州評議会や欧州各国にも照会したのですが、どこも『経緯は不明だが件の聖遺物は間違いなく欧州で発掘したものであるから一刻の回収と返還を求める』という内容ばかりで」

「詳細はわからずじまい、か」

 

 おそらくはこちらの『ネフシュタンの鎧』同様に掠奪されたのだろうが国際機関の矜持と沽券から詳細な経緯が公開できないのだろう。

 儘ならぬ事態にため息を溢すも、青年の正体がわかっただけでも良しとした弦十郎は今回の敵に対して改めて把握できたことを整理しようとして、彼の携帯端末が鳴り響いた。

 

「おっと」

 

 ポケットから取り出した携帯端末のディスプレイから翼の事を任せて病院に待機させた緒川からの通信と知った弦十郎は翼の身に何かあったのかと不安に駆られて端末を繋いだ。

 

「どうしたッ!?」

「司令! 大変です。湊人君が──ッ!」

 

 しかし、その不安は思いも寄らぬ報せによって裏切られた。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 青年は自分が何者であるかを知らない。

 ただ三年前、〝あの女〟に死にかけたところを救われた。

 あの女が呼ぶ「トレス」の名とあの女が束ねる怪物に妙な苛立ちと頭痛を覚えることだけがあの時から自分を形成する個。あの女だけが自分という個に形を与えた。

 だからこそ、青年はあの女に付き従い、あの女を嫌悪する。

 青年にとってあの女だけが本当の自分を取り戻す唯一の手掛かり。正確には、あの女が従える異形の怪物に覚える苛立ちと頭痛だけがかつての自分を自覚できるのだ。

 憎悪と憤怒。それだけが取り戻せた自我。

 あの女が与えた個とあの女に覚える個の鬩ぎ合いからくる不快感が彼女への嫌悪を生み出した。

 まず間違いなく、青年は一人の人間としてあの女を嫌っていた。

 それでもあの女は命の恩人に他ならず、あの女が連れてきた個のない少女は放って置けず。

 

「オレは、何がしてェんだろうな」

 

 青年は山林に覆われた湖畔にて、映る朝日の奥を見えぬ未来に見据えながら呟く。

 思い出すは黒髪の青年。かつてはその力に振り回された弱者はその力を振るう強者として青年の前に立ちはだかった。

 それはようやく自身と同じ土俵に立ったというだけで、決して苦戦を強いられたわけでもなく、まだ遠く及ばない。

 故に、終始青年は黒髪の青年、小日向湊人を戦いにおいて見下してはいたが確かに彼という個は認めていた。認めざるを得なかった。

 初めて会った時はその個を不相応に貼り付けただけの張りぼてであったが昨日に相対した男はまさしく個を体現した力を見せた。

 

「羨ましい、ってのはこういうことか」

 

 あいつの様にありたいと思うこの感情は、嫉妬。

 また一つ、青年は自分を取り戻す。

 それでも、自分の真ん中にぽっかりと空いた穴は埋まらない。

 そこに朧げながら浮かび上がる光もまた先日の戦いの中で掘り起こされた過去。

 

「道理で戦えたわけだ」

 

 しかし、一体いつどこでその術を得たのかは霧がかったように不透明。ただかつての自分は、どこかで訓練を受けていたらしいことだけはわかった。思い出した、というべきか。

 

「さてと、」

 

 青年は湖畔に背を向けて、そこに聳える古びた洋館を見上げた。そこが青年達の活動の拠点にして生活する家。

 

「いい加減、止めてくるか」

 

 洋館の中からかすかに届いた少女の苦痛の叫びに、眉を顰めながら青年は歩き出す。

 

 気に入らない上司からのとばっちりは御免だが、気に入らない上司のお楽しみにはそろそろ御暇を願おう。

 思わずあの女の肢体を上下に分けてしまう前に。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 ミーティングルームには重々しい空気が充満していた。

 特に室内に並んで設置されている椅子の列の真ん中で深刻に腕を組み腰掛けている弦十郎の気迫に、普段ならば軽い調子の一つでも見せる二人の天才科学者もその顔を引き締めていた。

 その原因は小日向湊人の身に起きた異常事態であった。

 突如として右腕を内側より無数の棘に貫かれた湊人は事が事だけに倒れた病院ではなく、本部の医療施設に緊急移送された後、医療スタッフによる手術が行われた。現在は無事に手術も終わり、湊人は残った麻酔によって安静に眠っている。

 先に峠を越えたと朗報が届いた翼の現状にも揃って安堵しながらも、弦十郎は今回の事態の究明に働いた組織切っての天才科学者二人の調査報告に耳を傾けるのであった。

 

「それで、湊人君の身に……一体何が起きたんだ?」

 

 回りくどい問答を善としない弦十郎の問いに、二人の天才はどこか困ったように目を合わせると、その片割れである倉梯命が確認する。

 

「司令は、湊人くん以外の『ガエボルガ』を使った人間がどうなったかは知ってるよね?」

「ああ」

 

 弦十郎は頷く。

 

「全員が全員、不幸な事故に遭っているという記録は見たからな」

 

 適合者以外は扱えぬシンフォギアとは異なり、完全聖遺物は一度でも起動させれば誰にでもその『絶対たる力』を振るうことが可能とされているが『ガエボルガ』は完全なる起動を終えて尚、その使い手を選んだ。

 

「ほとんどは死亡。生き残った者も槍を握れる身体ではなくなっていたという話だ」

「欧州としては歯痒かったでしょうね。多大な被害を出しながらもようやく悲願の完全聖遺物の起動に成功したかと思えば、外様である湊人君以外の力を使った人間は全員再起不能に陥ったんですもの」

 

 仮に湊人君以外に『ガエボルガ』()()()()()人間が本国から出ていたら彼は処分されていたでしょうけど──ともう一人の天才櫻井了子は肩を竦めてみせた。

 

「そして、その原因は『ガエボルガの毒』にあるということは三年前にはわかっていたことですが」

「待て」

 

 そこで弦十郎に疑問が生じる。

 

「それはつまり、今回の湊人君の症状はかつて『ガエボルガ』に拒絶された者のものと同様ということか? だが、なぜ今になって……」

「それは勿論、拒絶されたからだよ。今になって」

 

 命は科学者らしく淡々と、事実だけを率直に告げる。

 

「『ガエボルガ』そのものに意思があるのか、あるいは何らかのシステムによるものかは定かではないけど、確かにあの槍には持ち主を選定する仕組みが施されてるんだ」

 

 それが『ガエボルガの毒』。

 

「あの槍に直接触れた者に対して、極小の針かなにかを刺してそれを注入。そして槍が相応しくないと判断した者には毒が効くというね。直接調べてみてわかったけど、あの毒の核は槍と同じ構成物質でできてたんだよ」

 

 つまりはあの毒も『ガエボルガ』の一部ということ。

 

「一応、定義として毒なんて呼んでるけど、アレ、実は超絶ミニマムなナノマシンなんだよね」

「ナノマシン、だと?」

「うん。正確にはそのナノマシンがあるもので毒性物質と抗生物質を精製してるんだよ。さっきは相応しくない人間に毒が効くって説明しちゃったけど、どちらかというと湊人くんのように『ガエボルガ』に選ばれた者に対してのみ毒に対する抗生物質を精製してるんだと思うよ」

「ならば今の湊人君はその抗生物質が打ち止められた状態ということか」

 

 弦十郎の言葉に、命は目線を逸らした。

 

「まあコトはそう単純じゃないんだよね」

「?」

「そもそも、『ガエボルガの毒』はただの(・・・)血液だからね」

 

 弦十郎は怪訝に顔を固めた。

 

「それは、どういう……?」

「問題はその血液が現代人のどの型にも当て嵌まらないってことだけど。人間の血なのは確かなんだよね〜」

 

 命は独り言のように解説する。

 

「じゃあ誰の血かって言えば『ガエボルガ』が造られた時代の人間ってのが妥当だろうしー。伝承を信じるならスカサハとかクー・フーリンだよね。となると──」

 

 命は子供のような無邪気な笑みを浮かべた。

 

「〝神様の血〟が混じってるってことだ」

 

 …………………………………………

 

 あまりにも突飛な結論に、弦十郎は開いた口が塞がらなかった。

 

「神の、血だと……」

 

 聞けば世界中のそれぞれの絶対神を崇め奉る宗教組織が狂乱と混沌の渦となりかねない代物がここにあるかもしれないという恐怖の事実に弦十郎は理解が完全に及ばず、その真偽を確かめんと縋るように了子を見た。

 

「……それは、確か、なのか?」

「ん〜まあ、一口に『神の血』だとは言えないけれど、まず間違いなくあの『ガエボルガの毒』となる血液は現代人のどれにも当て嵌まらない数値が出ているわけだし。そうなると考えられるのは先史文明時代の人間のもの。それも異端技術(ブラックアート)に精通する、ね。造り手や使い手がまさに伝承通りのものとは断言できないけれど、そんな神話にも重なる太古の時代に『絶対たる力』を持つ者。

 ──それはやはり、神と呼べる存在じゃないかしら」

 

 どうやら天才二人の意見は合致しているらしい。

 しかし、それにしても弦十郎はわからなかった。いや、そもそもまだ自身の問いに対する明確な答えが返ってきていなかった。

 

「それで、その『神の血』とやらと今の湊人君の状態にはどんな関係があるというんだ?」

「関係、か……」

 

 今更のように、そりゃそうだという具合に命はミーティングルームのモニターを起こして一つの電子記録を映し出した。いや、正確には記録は二つあった。全く同じ形式の記録であったが、その記録には確かな差異があった。

 

「これは、湊人君のパーソナルデータだよ。今から二年七ヶ月前に初めて検査した時のと、つい先日に検査した時のね」

 

 その記録欄には身長や体重といった一般的かつ簡単なものから心電図や骨密度、血液に関しても血球数値や血液酸素濃度などの専門的なものまで事細かに記されていた。正直、弦十郎にもよくわからないデータも少なくない。

 

「まずわかりやすい変化が見えるのは身長だね。司令も気づいてると思うけど」

 

 その変化には弦十郎も頷く。数値を見るまでもなく、初めて会った時に比べて湊人の身長は伸びているのは目に見えて明らかであった。何よりも鍛錬の結果、彼の肉体は一回りも二回りも逞しくなっているのだ。

 

「当時十八歳だった湊人くんはおよそ二年半で身長が九センチ伸びて今は一七六センチ。まあこの時期にしては伸び過ぎだよね。第三次成長期ってやつかな」

 

 しかしこの程度は問題ではない。

 

「問題はこの辺だね」

 

 命が軽く手を振ると映し出された記録のいくつかがクローズアップされる。

 

「筋繊維量は二.八倍、骨密度は三.六倍、血球数値も血液酸素濃度も平均を大きく上回っててどれも二倍から三倍増えてるわけだけど。てか神経も血管もなんか太くなってるし。

 ──これ、どう思います?」

 

 命の問いに、弦十郎は口は開けど言葉を発することができなかった。

 確かに彼は強くなった。それは誰もが認める変化だ。二年の歳月を経て鍛錬と修練を重ねた結果で得た努力の賜物。決意と覚悟と意地と後悔から生まれた己だけの力の結晶。

 しかし、それだけではなかった。

 おそらく彼はその事実を特に気にも留めないだろう。元々、彼の戦う力は『ガエボルガ』によるところが大きいのは彼自身が一番よく理解している。

 それでも弦十郎は同じく血の滲むような修練を重ねた一人の戦士として、この事実に複雑な面持ちを浮かべずにはいられなかった。

 

「最早、別人……だな。いや……、まだ人の領域に留まれているだけでも幸いと言うべきなのかもしれないな」

「まあ司令自体がなかなかに人間離れしてるのは置いといて。……彼がすでに人の領域から踏み外れようとしているって言ったら?」

「なん、だと……ッ!?」

 

 今度こそ、弦十郎の身は驚愕に震えた。

 

「湊人くんの身体に流れる血は、『ガエボルガの毒』によって──『神の血』とほぼ同じモノに変質しているんだよ」

 

 やはり命の声色は平坦で、残酷な真実は、しかしてなんでもないように告げられた。

 

 

 

 立花響は過労で倒れた(・・・・・・)湊人の見舞いに訪れていた。

 ノックをしてもやはり返事はなく、報告通りまだ寝ているのかと自動にスライドした扉から忍び足で病室に入る。

 

「失礼しまーす」

 

 そこは一人一部屋の個室だった。部屋は壁も床も天井も白を基調に明るい色調であり、明かりを点けた今、寝ている患者には眩しいのではないかとも思ったが、肝心の青年は穏やかな寝息を立てており起きる気配はなかった。それに安心する一方で目を覚まさない湊人に不安を覚えた響は表情を曇らせた。

 翼の手術結果を待っていたところに湊人が倒れたと緒川から報らされた時は心臓が握り潰されるかと思うほどの動悸と得も言われぬ吐気に襲われたものだが、それでも命に別状はなく、倒れたのも度重なる長距離移動と戦闘による過労が原因という報せを受けて安堵したのは夜も明けた明朝の事であり、学校もあったためこうして様子を見に訪れたのは放課後の夕方となってしまった。

 そして、響は彼に伝えるために、ここにきた。

 

「湊人さん」

 

 例え伝えるべき人が眠っていようと、響は一つの覚悟を決めるために、その決意を語る。

 

「私、決めました」

 

 それはこの一月の間、有耶無耶になっていた自分の意思。

 

「私は、やっぱりどうしようもないくらい頭が悪くて、湊人さんの言っていたことも、翼さんの気持ちも理解することができなくて」

 

 そのために知らず知らずに彼に苦労を負わせ彼女を傷つけて、さらには二人の仲に確執を生んだ。

 おそらく、自分と未来のために自分たちに話すこともできない葛藤の中で自分たちが望むヒーローであるために戦ってくれていた小日向湊人(敬愛する人)

 そして、何も知らない弱き人々を守るために、強い剣として悲しみと孤独の涙を圧し殺して一人で戦い続けていた風鳴翼(尊敬する人)

 自分の軽々しい気持ちが二人の心を踏み躙った。

 

「それでも、湊人さんは私を気遣ってくれて、翼さんも……私を守ってくれて」

 

 結果的に、何もできない自分だけが残された。

 そう思っていた。

 守られた負い目と責任から、どれだけ無茶だとしても何が何でも強くなって二人の代わりに戦おうと考えていた。

 それだけが私にできる償いだと。

 

「未来に言われて、気づいたんです」

 

 誰かの代わりなんて、他の誰にもできない。

 

「私は他の誰でもなくて。立花響は、最初からそれしかできなかったんです」

 

 それは少女を守るために初めてシンフォギアを纏った時に胸に宿した意思。助けたいというただそれだけの単純な理由。

 

「私は誰かを助けたかった」

 

 初めは憧れだった。やがて憧れは願いとなり、願いは信条となって行動という形となった。

 それが立花響の『人助け』。

 

「いつも私は、誰かに助けられて、誰かに守られてばかりで」

 

 時には親友に、時には母に、時には祖母に、時には憧れの人に。常に自分は与えられるだけで、だからこそ誰かに与えることが喜びとなった。

 何も変わらない。自分がやりたいこと。やるべきこと。できること。何一つとして変わることなんてない。

 

「今度は私の番なんです。助けてもらった。守ってもらった。だから私が助けるんです。守るんです。今度こそ、本当に大切なものを守るために!」

 

 それが立花響がシンフォギアに宿す胸の覚悟。

 自分に守れるものは何気ない小さなこと、些細な日常だけなのかもしれない。それでも、守りたいものを守るために。

 

「私は、立花響は──歌いますッ!」

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 そこは瓦礫の山だった。

 衝撃と震動で崩れた建物の中で、時折聞こえる乾いた破裂音や地響きを耳にしながら小日向湊人は一人覚束ない足を運ぶ。

 噎せる粉塵と煙硝の匂い、極度の緊張状態に強い吐き気が胃袋の中からせり上がる。

 死んだ。人が死んだ。もう七人の屍体と十五人の生きた人間が炭化する様を見た。

 その度に涙を流して、声にもならない叫びをあげて、あるいは見て見ぬ振りをして、生き残ろうと身体を無我夢中に動かした。

 そこは紛うことなく地獄だった。

 夢同じくした友と共に笑い合った日常は異境の彼方に消えた。

 友人たちと離れ離れになってどれだけ経ったのかもわからない。

 まだ生きているのだろうか。無事に逃げ出したのだろうか。誰か死んでいるかもしれない。何人死んだだろうか。もう誰も生きていないのか。

 混濁する意識の中で蒙昧する思考が伽藍を巡る。

 その時だった。

 

 がらり、と崩れた壁の瓦礫が転がり落ちた。

 

 吹き抜けた壁の先に、小日向湊人は見つけた。

 恐怖に顔を涙で崩して赤子のように鳴き助けを求める友人の姿を。

 その命を消炭にせんと迫る異形の怪物を姿を。

 

 そこから先の記憶はひどく曖昧だった。

 考えるより先に動いた身体は友のもとに駆けた。

 友の手を引いた。

 走った。

 誰かの悲鳴が聞こえた。

 走った。

 足元が崩れた。

 倒れた。

 怪物が襲った。

 友を押した。

 友は気を失った。

 囲まれた。

 叫んだ。

 

 咆んだ。

 

 吼んだ。

 

 哮んだ。

 

 吠んだ。

 

 泣んだ。

 

 呪んだ。

 

 望んだ。

 

 欲んだ。

 

 求んだ。

 

 喚んだ。

 

 

 

 応んだ。

 

 

 

 





次回予告

両翼の天使の軌跡を奏者はなぞる。
奏でる旋律に片翼は情熱に舞い、片翼は清廉に舞う。
大空舞い散る羽根は少女の灯火。

#6.軌跡──それは始まりの奇蹟

想いの全てを尽き詰めて、墜ちる少女は空っぽの歌を唄う。
現在(いま)を生き抜くために、私たちは出逢ったのかもしれない。

 ◇◆◇◆◇◆

今回のワイルドアームズ6thシンフォギア

・【氷狼騎士団(フェンリルナイツ)
WA:Fに登場。アークティカ公国が擁していた騎士団であり、パーティメンバーであるザックが所属していた。メンバーは全員武具に関する二つ名を持つ。
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