戦器絶衝シンフォギアX   作:なおTEL

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まさか書くのに一ヶ月半も要するとは思わなかった(愕然)
しかも普通に前後編に分けられる分量になるとも思わなかった。それでもちょいと省いたわけで。

なんもかんも翼ちゃんが悪い(責任転嫁)
いやだってSAKIMORIッシュな翼さんと違ってOTOMEチックな翼ちゃん全然書けないんだもん!(実力不足)
アレ誰ッ!?
何度書き詰まったことか! そして出番省いたことかッ!
金子氏が吐血しながら百合百合書いた気持ちがわかった気がしました(小並感)

そして民主主義に屈して未来さん装者化に続きアルカ・ノイズなるものを出してきた金子氏。リストラされたのはノイズだからセーフだって? 許されないよ! 武士ノイズとバナナノイズ出さなかったらオレ許さなかったッ!!
キャストまで工作してギリギリまで隠し通されて見事に騙されましたよ。
でもやっぱりOPでOTONAが切られたのは残念でならない。

エルフナイン=チャン、アヤシイ。
オレもあの容姿ならついてるトカついてないトカ関係ないと思うね。


#6.軌跡──それは始まりの奇蹟

 

 そこは見慣れてきた天井であった。

 小日向湊人はすぐにそこが【特異災害対策機動部】が擁する医療施設の個室だと理解した。

 しかし果たして、自分はどうしてこんなところにいるのだろうかとまだ覚醒しきれていない鈍らな思考を巡らせて最初に思い至ったのは、

 

「あー……未来、怒ってないかな?」

 

 最愛の妹との久々の再会の約束を反故にしてしまったことへの罪悪感。

 いくら事前に念を押していたとはいえ一度交わした約束を当日の三時間前に断りを入れてしまったことに軽い自己嫌悪に陥った。この憂鬱な気持ちを文章にしようものなら必要な原稿用紙を刷るために山が一つ開拓できるかもしれないので詳細は省こう。ページの無駄だ。おそらく切っていた携帯電話の電源を入れればあれから届いたであろう文句の書かれた無数のメールがボックスを埋めることは必須。着信もあったかもしれない。早く改めて謝罪の電話を入れるべきだろう。

 そして、妹との大切な約束より優先せねばならなかった事態を思い返す。

 

「翼……」

 

 強くなったつもりだった。けれどそんな自信も意味はなく、その手にある力は大切なものを守るにはあまりに無力だった。

 どんな過程も、努力も、求めた結果を導き出さなければ意味がない。これはその類のものだ。結果だけを見れば、小日向湊人は何もできなかったという一点に尽きた。

 おそらく多くの者が言うだろう。大事なのは結果ではないのだと。それも間違ってはいない。結果を出すために努力する行為が決して大事でないわけがない。だがそんなものは前提条件なのだ。真に結果を求めるに相応しい者は皆、当然のように努力しているのだ。結果を求めるのは証が欲しいからだ。努力した証。その最高の形が結果を出すということに他ならない。結果を出すことだけが唯一、それまでの努力も苦節も意味があったのだと、「頑張った」と言える手形なのだ。

 結果を出すということは人生という大きな過程の中で一つの区切りをつける史蹟となりえるのだ。

 なら、それ以外の結果は?

 結果にも様々な形があるように、それもまた形がある。何もないということはないのだ。

 時には失敗も、何かしらの形が残る。それを糧にすることもできるだろう。

 しかし、何もできなかったという結果は、ただの石になる。重石と言ってもいい。ただただ自身に降り積もるだけの(後悔)に。それを戒めにはできるかもしれない。それだけを積まなければ。

 

 だから、それが、湊人の意地を折った。

 簡単な話、張り詰めていたものがプツリと切れてしまったのだ。

 

 湊人は力ない笑みを浮かべて唇を震わせた。

 

「言えねえなぁ……あいつのこと」

 

 結局のところ、湊人もまた一人で背負い過ぎていただけであった。

 それに気づいたのも、『ガエボルガ』に拒まれてからだ。そう。アレは拒絶反応だったのだろう。

 そこで思い出した。

 

「そういえば」

 

 目の前に掲げることができた包帯に巻かれた右腕を見る。

 

「痛く、ねえな」

 

 正直、あの時も最早感覚が麻痺して自分の腕でないようにどこか達観しながら血塗れの右腕をただぶら下げていたが。というかアレはいつから生えたのか。そして、どうやってこの右腕は治ったのだろうか。

 

「それより」

 

 何よりも気になるのは──

 

「翼は、生きてるのか?」

 

「あんなことがあっても人の心配とは湊人くんらしいね」

 

 まさに今部屋に入ってきたのであろう倉梯命は自分の状況を理解しているか怪しい湊人に苦笑してみせた。

 

「命さん」

「やっほ湊人くん♪ ついでにさっきの疑問に答えておくと翼ちゃんは無事だよ。命に別状はないってね」

「そう、ですか」

 

 どこか虚ろに答える湊人に、命は眉を顰めた。

 

「気にかけてた割にはずいぶんと薄い反応だね?」

「まあ、生きていれば……それ以上はありませんから。何より、まだ〝チャンスがある〟ってことです」

 

 とはいえ──と湊人は苦い表情を作りながら続ける。

 

「今の僕が、それをモノにできるかは別ですが」

 

 まだ満足に動かせない右手のこともあるが、果たして一度は〝裏切ってしまった〟自分がまた『ガエボルガ』を握ることができるか。もしかしたら、もう完全に見限られてしまった可能性もあるが、それ以上に今の湊人にあの槍を握る意志がなかった。

 そんな湊人の心情を知ってか知らずか、命は湊人の右腕に触れた。

 

「そうだね。君は少し頑張り過ぎたよ」

 

 優しく、包帯が巻かれた右腕を撫でる。

 

「私は自分でもイイ具合に人格が破綻してるって自覚してるから湊人くんが何を考えて何で頑張ってるかなんて上っ面でしかわからないけど。君はアレだよ。ヒーローに似合わないくらい真面目過ぎで考え過ぎ。ヒーローというよりその相棒やライバルみたいな。もうちょっと響ちゃんを見習わないと」

 

 それは、つまり──

 

「ヒーローやるんだったらもちっとバカにならないと潰れるよ?」

「それはまた散々ですね」

 

「そりゃあ君、ちょっと大きな力を手にしたくらいで何でもできると勘違いしてる節があるし」

 

「え」

 

 湊人は思ってもみなかった言葉に固まった。

 それに構わず、湊人の反応を否定と捉えて命は言葉()を突きつけた。

 

「してないとでも? だったら何をナイーブになっているのさ。自分は強くなったから誰でも守れるなんて勘違いしてるから今めちゃくちゃ落ち込んでるんでしょ」

 

 違う。自分はそこまで思い上がってはいない。〝あの時〟だって。思わず浮かべた否定の言葉は、何故か口からは出てこない。それは確かに否定するべきものでもあったが、何より湊人自身が納得してしまったのだ。命の言う通り、自分の勘違いによる理想とのギャップに勝手に絶望しただけではないのかと。

 そんな風に簡単に納得してしまうほどに彼の精神は疲弊し空虚となっていたのだが、幸か不幸かそれに気づく者は当人を含めこの場にいない。

 

「確かに今さっきバカになれとは言ったけど、そういう馬鹿はいらないんだよ? うん」

 

 自分の言葉に首肯すると、命は話を区切るように両手を叩いた。

 

「さてさて、だいぶ話が逸れちゃったけど本題に入ろうかな」

「────────」

 

 まだ先ほどの話が尾を引いている湊人を置いて、命はマイペースに告げる。

 

「とりあえず君、一週間安静ね。少なくとも二週間は戦闘無理だと思って。

 言っとくけどね。これ、本来ならリハビリ含め一年近くは必要なレベルでボロボロだったんだからね? いくら治癒力が格段に上がってるといってもここまでとは私たちも思わなかったけどサ。あー、うん。こっちの話。とにかく、まず一週間は右腕を動かさないようにしてね〜。完全快復までは一ヶ月はかかると思うから〜。

 私は今回の出撃で壊れちゃったベルトの修理で忙しいのだーバーイ♪」

 

 最後まで言いたいことだけ言って命は部屋を出た──かと思えば、頭だけひょっこりと部屋を覗いた。

 

「そうそう。()()()()()()()()()湊人くんはイイ具合にバカやってたと思うよ?」

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 どんなこんがらがった頭も一度寝てしまえば色々と整理されるらしく、湊人は命に言われたそれなりに衝撃的な指摘を汲んだ上で、これまでの、『ガエボルガ』を手にしてからのことを思い返してみた。

 

(まあ、確かに考え過ぎだったってのはそうなんだろうさ)

 

 だからバカになれという命の言葉も理解できなくもない。自分や彼女が憧れ愛したヒーローは皆すべからくそういうバカであったのだから。けれどやはり性分なのだ。こればかりは仕方ない。

 

(だけど、もう少しシンプルに考えてもいいのかもな)

 

 結局のところ、どこまでもついて回るのは自分が掲げたヒーロー()だけ。未来と響、二人だけのヒーロー。そこから始まったシンプルな答え。

 大切な人の笑顔を護りたいというただそれだけのシンプルな答え。

 

(ああ、うん。やっぱり命さんの言うことはちょっと違ったな)

 

 間違ってもいなかったのだろうが、正しくもなかった。

 奏を喪ったことで消えた翼の笑顔と翼が倒れたことで失った響の笑顔。

 そして、もう二度と見ることのない奏の笑顔。

 

(だからこそ、僕は挫けたんだろうな)

 

 それらを支えにしてきたからこそ、それらを護れずに小日向湊人は折れた。

 

「弱いな……僕は」

 

 まだ二人の笑顔は取り戻せるのに勝手に諦めて、槍に愛想を尽かされるのも当然だ。そのために誓って得た力のはずなのに、あの時の響の打ち拉がれた顔を見て無意味だったと何もせずに勝手に悟ってしまったのだから。

 

 しかし、そうとわかれば話は簡単だ。

 湊人はベッドから起き上がる。

 

「ちょいと意地を立て直しに行ってくるかな」

 

 明日を諦めないために。昨日までできなかったことを、今日挑むことを恐れない。

 

 だからまずは、久しぶりに〝彼女〟に会おう。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 思えば彼女との出会いがなければ、今の僕はなかっただろう。

 第一印象は最悪の一言に尽きたが。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

「なんかひょろいな」

 

 天羽奏は、初対面の、年上の人間に、そう切り捨てた。

 

「完全聖遺物を起動させたっていうからどんな奴かと期待して来たのに、ガッカリだぜ」

 

 まるでつまらないと言わんばかりにため息を吐く赤毛の少女に小日向湊人は苛立ちを覚えた。

 その隣で、此度の小日向湊人送還任務を承った巨漢の政府要人にして奏の上司である風鳴弦十郎は彼女を鋭く睨んだ。

 

「おい、奏」

 

 奏は長く羽毛のようなボリュームのある髪を掻きながら視線をこちらから逸らす。

 

「わあってるよ。自分で言い出して来たんだ。こいつの護衛くらいはちゃんとするさ」

「別に君の護衛なんていらないけど」

「あァ?」

 

 先の失礼な発言からつい口を滑らした湊人であったが、それも無理からぬことだろう。何せ彼は友人たちと共に訪れたコンサートにて巻き込まれたノイズ災害に訳もわからぬまま生還したかと思えば、英国政府に保護という名目の下で四ヶ月もの軟禁生活を強いられてきたのだ。自分の置かれた特殊な立場はある程度の説明こそ受けたが納得に至る通りもなく、しかして受け入れざるを得ない現状を日々多少不満を溢すことこそすれ妥協して過ごしていた。そして、ようやく、湊人にとっては長い、それを行使した者たちにとっては短い裏取引扱いの外交交渉の結果、一週間前に日本への送還が決まった彼の心境は察して知るべしだろう。

 だが、首を長くして待った送迎者たちに湊人は驚きを隠せなかった。風鳴弦十郎と名乗った大男はまだいい。どっからどう見ても大人だ。軟禁生活の間に面会した様々な欧州政府要人とは異なる雰囲気を持っているが特殊な部隊の人間というのには納得できた。問題は弦十郎が紹介した天羽奏という少女である。そう、少女である。見た目はどう見ても高校生ほどの少女である。とてもこれまでの生活を招いた自身の立場とは縁遠いであろう年頃の少女が、しかも自分の護衛としてやってきたという事実にも驚きであったが、正直に言えば帰れるのならなんだっていいという少し投げやりな考えが勝り、突っ込む気はなかった。

 少女のあの態度がなければ。

 

「大体、どうして君みたいな女の子がここにいるのかが疑問なんだけど。しかも護衛ってなんですか?」

「いや、うむ。それについては──「へー、ずいぶんな口を利くじゃねえか」

 

 彼女は何者なのか。その説明を求めた湊人であったが、問いを受けた弦十郎の前に奏が踏み出した。その顔に青筋を浮かべて。

 

「完全聖遺物を使えるからって()()()()()()()()()()()()()だなんて思ってんじゃねえだろうなッ!」

「は……?」

 

 ノイズを倒す? 何を言っているんだこの女は。──そう湊人は本気で目の前の少女の言葉を疑った。

 確かに湊人は〝その力〟を望み、得て、友を救い、生き延びた。そして、それ故に湊人は捕虜のように不自由な生活を今日まで過ごす事になった。

 どんな力であれ、結果として友を生きて守ることができたのだから望み得た力に後悔はなく、この軟禁生活も力を得た代償というのなら甘んじて受け入れるのも吝かではなかった。ただ政治家お得意の御高説をほぼ毎日のように聴かされる苦行には参ったものもあったわけだが。

 そんな力を、彼女も持っているという。

 

「それは一体……」

「すまないが、今ここで話せることではないんだ。彼女を同行させたのも念には念をということで、最悪な事態を防ぐためのものでかなり無理を通してな」

 

 いまいち要領を得ない弦十郎の説明ではあったが、その意味を湊人は明確に理解できた。つまるところ、湊人がこの四ヶ月御上から耳にタコができるほど聴かされた機密事項というヤツだろう。それが示すものは──

 

「じゃあ、本当に?」

 

 湊人は驚き、少女を見る。

 少女は、自信に満ちた態度で不遜に笑った。

 

「ま、そういうこった。あいつらが現れたら旦那と一緒にあたしの後ろに隠れてな」

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 そして、本当に彼女の言うとおりにしなければならなかったのは当時の最大の不覚であった。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

「おかげで、しばらくはお前にバカにされまくりだったよな」

 

 そこは郊外の墓地公園。湊人は園内でも特に見晴らしの良い立地に建てられた天羽家の墓前にいた。

 その墓には、誰も葬られてはいない。埋葬されるべき遺骨どころか遺体も残さずに一家全員は亡くなったのだ。せめてもの慰めとして、鎮魂の意味も込めてこの墓は建てられた。

 その慰めが、誰のためにあるのかを知って尚、ある時は少女のために、ある時は目の前の少年のために、天羽家の墓石はある。

 

「それでも年上としての気概かな。軽く受け流すように務めたんだが」

 

 湊人は当時を思い出して苦笑う。

 

「お前、それがますます気に入らなかったんだよな。イタズラのような嫌がらせをするようになって」

 

 事ある毎に料理に合わない調味料を混ぜたり、財布や鍵を隠したり、落とし穴や鉄球、木人形等々の罠を仕掛けたり。

 

「そんで、いつだったかそれに翼が巻き込まれて激ギレ。揃って三時間くらい正座で説教喰らったっけ」

 

 あの時は翼があそこまで怒るなんて思いもしなかったから、かなり驚かされた。そして恐かった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 思えば、それをきっかけに奏との関係は改善されたのだったか。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

「お、こんなところにいたのか」

 

 二課本部に職員の慰安目的で設けられた娯楽ホール。その中でも比較的面積を持つスタジオルームにてピアノを独奏する小日向湊人の姿を天羽奏は見つけた。

 しかし、突然の来訪にも湊人は決して鍵盤から目を離すことなく、旋律奏でる十指を流麗に弾き続けた。初めこそ見向きもしない湊人の態度に眉を顰めた奏であったが、耳に浸透する柔らかな音色に彼女の顔は知れず綻び、自然と聴き入っていた。

 

 それから数分、演奏を終えた湊人に奏が軽い拍手を送った。

 

「へー、ピアノができるとは聞いてたけど、結構上手いんだな」

 

 湊人は苦笑する。

 

「これでも、国内のコンクールを総なめした実績はあるんだけどな」

「でも今は指揮者やってるんだろ」

「そりゃあ元々、指揮者やりたくてピアノを始めたからな」

 

 なんだそりゃ? ──と首を傾げる奏に湊人は鍵盤をなぞりながら言う。

 

「ピアノってのは色々な楽器と伴奏する機会がある。例え何かしらの独奏と言われてもピアノの伴奏がつくことも少なくないしな。

 様々な楽器からなるオーケストラを率いる指揮者を目指す上で多くの楽器を知り得るピアノ演奏の経験を積むのは非常にタメになるんだよ」

 

 実際にはピアノだけでなく一通りの楽器の基礎も当然学んではいるが、最も音に触れたのはピアノであった。ピアノの音であればどんな些細な異音も聴き分ける自信が湊人にはあった。

 

「そういうもんなのかぁ?」

「あくまでも僕の持論と経験則だけどね」

 

 ところで──、と湊人は奏に訪ねてきた用件を伺おうとして、スタジオルームの入口がまた開いた。

 二人の視線が向けられた先にて新たな訪室者、風鳴翼は探し人を見つけて一息つく。

 

「奏、ここにいたんだ」

「お、翼。どうしたんだ?」

 

 何事かと首を傾げる奏に、翼はまだ幼さ残る顔立ちに眉を立てた。

 

「どうしたんだ、じゃないよ! 奏が今日一緒に司れ──叔父様の誕生日プレゼントを買いに行こうって言ってたんだよ?」

「あー、悪い悪い。ちょいと荷物係の確保をな」

「荷物係かい」

「え?」

 

 特に悪気もなく奏が親指を向けた先で仏頂面を浮かべる湊人の存在に、翼は気づいた。

 

「湊人さん⁉︎」

「やあ、翼」

 

 ピアノの陰から顔を出して穏やかな声で挨拶する湊人に奏はいかにも不機嫌だと言わんばかりにムスリとした顔をする。

 

「相変わらず翼には優しいんだな」

「第一印象の違いじゃないか?」

「はんっ、随分と器の小さいことで」

「構ってほしくてイタズラしちゃう子供もいるみたいだけどね」

「あァ?」

「あん?」

 

 火花を散らし睨み合う二人。そこに──、

 

 

「ね、二人とも? いい加減にしようよ?」

 

 

 修羅姫がいるのも忘れて。

 

「「ハ、ハイ」」

 

 二人は身の内から伝わる戦慄に従い、ただただ首を不乱に振り続けた。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 その日は一日中、二人揃って翼に対して敬語で接してさらに彼女を困らせたものだが。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 それからさらに数週間。

 

 都市近郊にノイズ反応を観測した【特異災害対策機動部二課】本部からの出撃要請を受けた湊人と奏、翼の対ノイズ実働部隊は手配された軍用ヘリコプターに搭乗して現場に急行していた。

 

「さあて、久しぶりの実戦だ。腕が鳴るぜ」

 

 実に一ヶ月振りとなるノイズとの戦闘に、奏はその意気込みを表すように左の掌に右の拳を打ちつけた。

 湊人は向かいに座る彼女の様子にため息をこぼす。

 

「奏、張り切り過ぎるのはいいけど、また壊し過ぎるなよ」

 

 まだ奏の戦闘は二度しか見ていないが、その戦い振りは一言で派手と言わざるを得ないほどに豪快なものであり、戦場となった土地に必要以上の損害を出していたと湊人は記憶している。

 

「んなこたわかってるって。けどあたし達の仕事はノイズのヤローを残らずブチ殺すことだろう。それにやり残しはあってもやり過ぎるってことはねえさ」

「それで民間人を巻き込んだら元も子もないだろって話だよ!」

「あーもー! うっせーなーッ!」

 

 ダンッと奏は床を強く鳴らす。

 

「そんなこたあ弦十郎の旦那からタコができるほど聞かされてるんだよッ! 心配しなくてもあたしだってそれくらいは気ぃつけてるし、そんなことにならないために翼もいるんだッ!!」

 

 それからプイッと奏は湊人から顔を反らした。

 

「……それに、そうならないようにお前もなんとかするんだろ?」

 

 どこか気まずそうにそう呟いた奏に、湊人は柔らかく微笑んだ。

 

「ああ。任せとけ」

「ぉぅ」

 

 そんなやり取りを前に、翼はくすりと笑う。

 

「大丈夫だよ、湊人さん。奏、こう見えてちゃんとしっかりしてるから」

「……確かに、翼の部屋よりはよっぽどちゃんとしてるわな」

「ちょっ、奏ッ⁉︎」

 

 笑ったお返しと言わんばかりにニシシと嘲笑う奏に翼は羞恥に顔を真っ赤に染めた。しかし、〝まだ〟事情を知らない湊人は小さく首を傾げて訝しんだ。

 

「部屋?」

「なんでもない! なんでもないから! ないったらッ!!」

「お、おう」

 

 有無を言わせぬ翼の訳のわからない気迫に何故か押される。

 

「皆さんっ、現場上空に到達しましたッ!」

 

 今回のパイロットを務めた一課の青年は、操縦席から畏まった報告をする。どうやら過去に奏と翼にノイズからの危機を救ってもらったらしく、以来二人に憧憬の念を抱いており、二人が表業界で活躍するボーカルユニット『ツヴァイウイング』のファンでもあるらしい。

 

「ありがとうございます。津山一等陸士!」

「いえ、お気をつけてッ!」

「ほんじゃま、」

 

 奏がヘリコプターのカーゴドアを開く。途端に内部の空気が入れ替わるように抜けると吹き荒れる上空の気流が舞い込む。

 激しく波打つ髪から不敵な笑みを覗かせて、奏はシンフォギアのコンバーターである赤い結晶型のペンダントを取り出した。

 

「人助けの時間と行くかねえ! 行くぞ二人ともッ!」

「ああッ!」「うんッ!」

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 結局、一人躍起になり過ぎてやり過ぎた奏は司令から拳骨と始末書という名の反省文をいただくことになったのはわざわざ語る必要もないだろう。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

「まあ、それでもなんやかんや僕たち三人でうまくやってきたんだよな。不思議と」

 

 湊人は墓石を磨き終えると慎ましい小さな花束を供える。

 

「今でも時々思うんだよ」

 

 桶から水を掬うと微笑んでいた湊人の表情に影が差す。

 

「あの実験は、本当にやらなくちゃいけなかったのかって」

 

 先の広木防衛大臣の言葉ではないが、事を急ぎ過ぎたのではなかったか。

 

「そりゃあ、アレがお前のためで、時間がなかったのは確かだけどさ」

 

 シンフォギア装者、天羽奏は本人が語るように『インチキ適合者』であった。生まれながらに高い適合係数を有して纏ってみせた風鳴翼と異なり『LiNKER』という制御薬を投与し続けることによって後天的に適合者となった奏の身体は、度重なる戦闘と投薬の末にボロボロとなっていた。

 だからこその『ネフシュタンの鎧』であった。

 すでに鎧が有する能力は粗方推測推察がなされており、その一つである再生能力をもって奏の身体を快復できないかと。何よりも完全快復が望めずとも『ネフシュタンの鎧』の起動に成功すればその力をもって奏がこれ以上『シンフォギア』と『LiNKER』に頼らず戦うことができると期待されたからこその実験が『Project:N』であり、誰もがあの実験に望み臨んだ真意であった。

 あの実験の成否に関わらず、あの日こそが〝シンフォギア装者天羽奏〟の最期となる──はずであった。

 

「だから──」

 

 パシャリと、墓石に水を掛ける。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 あの日、僕は君を止めることができなかった。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

「いやー、楽しみだなぁ明日!」

 

『Project:N』発動前日。

 湊人は明日のライブのリハーサルを終えた奏と翼の二人と共に風鳴邸の客間にいた。正確には、湊人に割り当てられた客間に奏が前夜祭だと菓子やジュースを手に翼を連れて入り浸っていた。

 そして、酒もなしに若さによる勢いだけでいい具合に出来上がった奏は畳の床に大の字で寝転がる。それとは対照的に、終始行儀よく正座姿を崩さずにいる翼はそんなだらしない相方に口を尖らせた。

 

「もう、本当にわかってるの奏? 明日のライブは──」

「大事だって言いたいんだろ?」

 

 わかってるわかってると気の抜けたように手を振る奏。

 

「湊人さんも何か言ってください!」

「いいんじゃないか? 奏はアレで」

「ええええッ!?」

 

 思わぬ援護射撃に翼は面食らい、奏自身も意外なモノを見るようにきょとんとした顔を上げた。

 

「珍しくいいこと言うじゃねえか。まさか明日の実験に緊張してらしくないこと口走っちゃったり?」

「それこそまさかだよ」

 

 茶化すようにイタズラな笑みを浮かべる奏に湊人は穏やかな笑みで返した。

 

「明日のライブが大事だからこそ。お前たちにはいつも通りに楽しんで歌ってほしいんだ。誰かを楽しませるにはまず自分が楽しまなきゃ。楽しいはいくら分け与えても減らないんだから」

 

 そしてその胸の昂りが、二人の歌にさらなる力を与え会場を呑み込み、『ネフシュタンの鎧』の再起動に必要なフォニックゲインを高めるのだ。

 

「だからむしろ、もうカチンコチンになってる翼が心配だよ」

「だ、だって、明日のライブは今までで一番の規模でそれだけで張り裂けそうなのに……実験のこともあるし、不安にならないのが嘘だよ!」

 

 湊人の指摘に翼は当たり前だとどこか拗ねたように言う。

 その気持ちもわからないでもない。今回の公演(実験)は〝アーティストである風鳴翼〟としても〝シンフォギア装者である風鳴翼〟としても、そして何よりも〝天羽奏の相棒である風鳴翼〟としても絶対に失敗するわけにはいかない重責を担うものなのだ。

 司令たる弦十郎にも『人類の未来が懸かっている』と言わしめる最大級のビックイベントの舞台に若干十五歳の少女が立つ重圧は、舞台裏の警護に過ぎない湊人には計り知れない。

 それでも、湊人はかつて妹が初めてピアノのコンクールに参加した時の姿に今の翼を重ねて、その小さな頭を優しく撫でた。

 

「真面目な翼には難しい話かもしれないけど、ライブが始まったらそういった些事(・・)は忘れて思いっきり歌ってこい。楽しんでこい。笑ってこい」

「湊人さん…….」

「間違いなく、会場のファンはみんなそれを望んで来てくれるんだから……な」

「……は、はいッ!」

 

 満足のいく返事によしと頷いて、湊人は撫でていた手を離す。

 

「おやおや〜、相変わらず翼さんに優しいこって。もしかして好きなのか〜? やらねえぞ〜?」

「そんなわけないだろ。てかお前のかよ」

「あったりめえだ! 翼は誰にも渡さねえぞッ!」

「か、奏⁉︎」

「ハイハイ」

 

 お熱いことで──と戯れ合う美少女たちを肴に湊人はコップに入ったジュースを飲み干した。

 

 それから一時間後。

 

 明日に備えて休息を取りたいと強く唱える翼に呼応する形で茶話会は閉会することになった。──主に湊人一人で──片付けを終えると寝る前に用を足そうと建物的に厠と呼びたくなるがしかしてきちんと洋式に備えられたトイレに向かう。

 その道中、夜も更けたとはいえいやに冷めた空気が流れるのを感じながら本邸に続く中廊下から縁側に出ると、そこに彼女はいた。

 雨戸を開けて、疎らに広がる星空を見上げながら縁側に腰掛ける天羽奏がそこにいた。

 

「────」

 

 それは普段の彼女からは想像もつかないほどに幻想的な美しさと、触れれば砕けてしまいそうなまでに儚い印象を受けた。

 あれは、本当に天羽奏なのか。そんな疑問すら生じてしまうほどに、目の前の天羽奏は湊人がよく知る天羽奏と乖離していた。

 ただ呆然と、間抜けみたいに立ち尽くしていた湊人に奏は気づいた。

 

「何そんなところに突っ立ってんだ?」

「あ、いや……」

「ま、いいや。座れよ」

 

 奏はトントンと隣に位置する床を軽く叩く。

 それに促されるように、湊人は彼女の隣に腰を下ろした。

 

「……………………」

「……………………」

 

 特に何を語るでもなく、ただ二人並んで月に照らされた夜空を見上げる。

 静寂。先ほどまでの賑やかさは嘘のように夜の静けさに包まれた風鳴邸。その縁側に腰掛ける二人しかいないとさえ思う、少しでも物音を発てることさえ躊躇われる無音の世界。

 重苦しいとは思わない。むしろ心地よいとさえ思う空気の中で、湊人は対照的にひどく狼狽していた。

 

(……なんだ、これ? どういう状況なんだ?)

 

 一種のパニック状態である。

 

(オイオイなんだよいったい……、僕はいつから奏とこんなロマンチックな空気作るようになったんだあッ!?)

 

 一見ポーカーフェイスが完璧に決まっているように見えて、内心では某怪盗さえ真っ青な百面相を展開する湊人。一応断っておくと、彼は本来こんなキャラではない。

 

「なあ」

「ひゃひぅいィィイッ!!?」

 

 突然のことに何とも素っ頓狂な奇声をあげてしまった湊人に、奏は一瞬、呆気に取られると、思い出したように噴き出した。

 

「プ……アハハハハハハハハハハ! ヒヒ、ハハハハッ! なんだよそりゃ!」

 

 奏は夜も遅い時間だということも忘れて、腹を抱えて笑った。馬鹿笑いした。

 

「ハハハッ、こっちが緊張してバカみたいじゃないか!」

「……は? きん、ちょう?」

 

 湊人は本気で奏が何を言っているのかわからなかった。それほどに彼女と緊張という単語に接点が見出せなかったのだ。むしろ最も無縁に位置するだろうと。

 それを察してか、奏はややも不貞腐れながら鼻を鳴らした。

 

「あたしだって人並みに緊張くらいするさ。──特に、明日があたしの最後の戦いになるかもしれないからな」

 

 しないわけがないだろ──と笑ってみせた奏だが、その笑顔にどこか無理があったのを湊人も見逃さなかった。

 

「奏……」

「んな顔しなさんな。イイ男が台無しだゾ?」

「思ってもいないことを。お前の口から聞いたこともないぞ」

「ハハハハハハハハ」

「誤魔化すなよ──オイ」

 

 わざとらしく笑っていた奏の身体が、ゆっくりと崩れるように湊人に垂れかかった。心なしか、いつもよりその呼吸は荒かった。

 まさか、と湊人の動悸が不安に乱れる。

 奏は、『ネフシュタンの鎧』の起動実験に備えて起動に必要なレベルのフォニックゲインを得るために不確定要素(ガーベッジ)の混入を可能な限り排除しようと数週間前から『LiNKER』の投与を止めていた。『LiNKER』そのものに害悪な中毒性こそないが、投与を頼りにシンフォギアを纏ってきた奏の身体はそれなしではまともに戦えぬほどに骨抜きに脆くなっていた。それこそ、今この様に通常生活にさえ支障を齎すまでに。

 

「お前」

「大丈夫だっての。……ちょいと、疲れただけさ」

「だけど」

「……本、当に……大丈夫、だからさ」

「…………しょうがねえなぁ」

 

 もう何を言っても大丈夫の一点張りだとわかった湊人は変わらぬ強情っぷりに呆れた笑みを浮かべた。

 

「湊人」

「なんだ?」

「アレ、歌ってくれ。いつもの」

「わかった」

 

 

 それは、初めて湊人が奏の前で歌った歌。

 

 ──どんな場所でも自分の強さを

 ──信じることは簡単じゃないね

 

 それは、唯一奏が湊人一人の前で歌った歌。

 

 ──だから積み重ねてきた勇気を

 ──見上げた空に掲げて

 

 それは、いつの日か二人で歌った歌。

 奏の声も自然とその旋律に融け込んだ。

 

「キミの前に続いてる道を

 守りたいんだ──全てをかけて

 たとえ明日にたどりつけない

 運命に飲み込まれても──」

 

 それは、明日(未来)に向かう決意の歌。

 

 ──空を見上げる君がいるから

 ──信じているよ──終わりじゃないと

 ──嘘をついても震えたままでも

 ──ここから逃げたりはしない

 

 

 その頬に伝うものを忘れるように、歌った。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「奏! 奏ぇッ!!」

 

 風鳴翼は溢れ出る涙で端麗な顔をぐしゃぐしゃにしながら、崩れ落ちた親友の身体を抱き締めた。

 目の前で散ろうとする親友の命を繋ぎ止めるように。

 死んでは嫌だ。目を開けて。動いて。話して。笑って。

 懇願するように、翼は親友の名を呼び続けた。

 

「お願い奏!」

「……どこだ、翼……」

 

 重々しく薄く開かれた双眸。その奥に光はない。

 

「真っ暗で……お前の顔も、見えやしない……」

「ここだよ。ここにいるよ……そばにいるよ……奏」

 

 もう、その身体のほとんどに感覚は残っていない。光も痛みも感触も。何も感じない。

 嗚呼、これが、そうなのか。

 奏は数少なく感じるそれらに、何故か顔が綻んだ。

 

「悪いな……もう、一緒に歌えないみたいだ……」

 

 掠れ枯れた声で告げる言葉を、翼は頑なに拒絶した。

 

「どうして……どうしてそんなことを言うの? 奏は意地悪だ……」

「……だったら翼は、泣き虫で弱虫だ……」

「それでも構わない! だから、一緒に歌ってほしいッ!」

 

 奏が生きていてくれるなら、どんな罵りだって蔑みだって受け入れる。そんな安いことでまた一緒に歌えるなら喜んで受け入れる。

 それでも、やはり彼女の命の灯火は、確かに小さく消さく燃え尽きようと揺らいでいた。

 だから──

 

「……ああ、そうだ……」

 

 これだけは、言っておかないと。

 

「湊人を、頼んだぞ」

 

 ハッと俯いていた顔をあげて、翼は奏の虚ろな顔を見た。

 

「あいつは……人一倍、臆病者で、くちばっかりなくせに……誰よりも……意地っ張りで強がり、だから」

 

 その先は聞かないと、翼は首を振る。

 

「それは、奏がやらなくちゃ、ダメだよ……。だって、奏は──」

 

 まだ彼に、何も告げていない(・・・・・・)ではないか。

 そんな風に告げられて、奏は霧がかり薄くぼやけた思考の中で、燦然と輝く煌びやかな想い出に思い巡らせる。

 そんなことを口にする暇もないくらい忙しなく慌ただしい、バカみたいな日々の中で自分たちは笑っていた。それだけでよかった。

 ただただ、家族を殺したノイズへの憎悪と復讐に力を求め戦ってきた血に塗れたその生に、戦友だった相方との歌が光を差した。いつしか戦友はかけがえのない親友となり、彼女との歌は、誰かの救いになった。

 いつしか復讐の力は、何処かの誰かのために歌う希望のカケラとなった。歌があるから、生きるのを諦めないと言ってくれたダレかのコトバ。

 それが天羽奏の戦う理由。

 そして、彼と出逢った。

 最初はただの好奇心だった。自分と同じ地獄の中で力を得たそいつは一体どんな眼をしているのか。それが知りたくて無理を言ってまで英国に飛んだ。

 そして愕然とした。そいつはまるで地獄などなかったかのように絶望も憎悪も感じさせない真っ直ぐな眼をしていたから。

 ただ自分の信念と意地を徹して戦っただけだと言わんばかりに語る彼に、堪らない怒りを覚えた。つまりは嫉妬してしまったわけだ。

 それからあの手この手で彼を怒らせんと工作したわけで、いつの間にかそれが楽しくなって過剰になった挙句終いには親友を巻き込んで折檻されてしまったのだ。

 彼と初めて一緒になったことが親友からの折檻だというのだから今思うとひどい話だ。

 けれどそれをきっかけに任務以外で三人で行動する時間が増えた。彼が英国に戻る日々をどこか物足りなく思い、彼が帰ってきた日には翼と共に真っ先に出迎えた。

 つまりはそういうことなのだが。

 

(まあ、アレだ……今さら口にすることでもないだろ)

 

 だから、最期の言葉は──

 

「知ってるか、翼? 思いっきり歌うとな……すっげえ、腹……減るみたい……だ…………ぞ……」

 

 こんなものでいい。

 

 

 

 あいつは、あたしの最期の(想い)を、聴いてくれたかな────。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 首都中央病院。その準集中治療室にて、手術から十数日ぶりに風鳴翼は目を覚ました。

 まだ混濁する意識の中、その朧げな瞳から自然と涙が溢れた。

 あの日、奏から託された想いを何一つ継いでいなかったのは自分自身ではないか。

 それなのに、よくもあの子に御高説を建てられたものだ。

 不甲斐ない自分を棚上げに、彼に当たり散らせたものだ。

 

(ごめんね……奏)

 

 あの悲劇から目を背けてきた泣き虫を許してほしい。

 約束を守れなかった弱虫を赦してほしい。

 今度はちゃんと、前を向くから。

 

(ああ、そういえば……)

 

 仕事や任務以外で学校を休んだのはこれが初めてか。

 

(精勤賞は絶望的だな)

 

 そんなどうでもいいことで、久しぶりに笑えた気がした。

 

 

 それから数時間後、彼が訪れた。

 

 

 





次回予告

錯綜する迷図より出ずる者は背に少女の慟哭を聞く。
慟哭は抗えぬ真実を語り、傷だらけの心を曝け出す。
今尚、迷える子羊に差し伸べるは誰の手か。

#7.空撃ちの残響

終わりの名を持つ者が放つ投石は、一つの波紋と新たな傷を刻む。
寂しさに負けそうな君は、まだ闇の中。

◇◆◇◆◇◆

今回のワイルドアームズ6thシンフォギア

・明日を諦めないために。昨日までできなかったことに、今日挑むことを恐れない。
WAXFに登場するプリンセスフェンサー(ゴリラ姫)ことアレクシアのセリフ「昨日までできなかったことに、今日、挑むことを恐れない……明日を、諦めないために……ッ!!」から。
カッコイイ。

・『LiNKER』
今更な説明かもしれないがWA4に登場。ARM適正の低いクルースニクがARMの使用のために服用する薬。これにより適正数値を上げることができるが、依存性と副作用が強く使用者の寿命を縮める。

・「〜。楽しいはいくら分け与えても減らないんだから」
WA3に登場するケイトリンのセリフ「元気って不思議だよね。分けてあげても減らないのに、もらうとちゃんと増えるんだよ」より。
作中でもトップレベルで好きなセリフ。ちょっとうろ覚えになってたけど。

・湊人と奏が歌った歌
WA4のOP「空を見上げる君がいるから」より。一部歌詞抜粋。
なるけみちこさん、麻生かほ里さんすみませんでしたあッ!!!

・「泣き虫で弱虫」「臆病者で口ばっかり」
WA4のCMのキャラクター紹介。それぞれユウリィ(ヒロイン)とアルノー(ヘタレ)より。

・錯綜する迷図
WA3のダンジョン名。

・寂しさに負けそうな君は、まだ闇の中
WA3のBGMタイトル「寂しさに負けそうな君は」と「まだ、引き返せる闇」より。それぞれサウンドトラックDisk2の15番とDisk3の19番より。
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