戦器絶衝シンフォギアX   作:なおTEL

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まさかこんなにも早く一話を前後編に分けることになるとは……
そして久しぶりの未来さん登場。やったね。

GXもいよいよ佳境。多分この後も二転三転する。流石はシンフォギアの物語の起承転結の「転」を司るだけはある。誰もそんなこと言ってないけど。
しかし予想以上に使いづらい響父である。出す予定があっただけに悩ましい。なんとかするけど。


#7-1.空撃ちの残響《前》

 

 都市部から車で一時間ほど外れた郊外の山奥、山林に囲まれた湖畔にて、一月足らず前に『ネフシュタンの鎧』を身に纏い立花響と風鳴翼を襲撃した少女は、純銀の鎧ではなくダーククリムゾンのワンピース姿で湖畔に隣接する洋館を背に桟橋にいた。

 少女は先の立花響の拉致に引き続き、つい先日に【特異災害対策機動部二課】が保有する完全聖遺物『デュランダル』の移送中の強奪に失敗していた。

 そればかりか、

 

(あいつは、私が半年も拘ったことを一瞬で……ッ!)

 

 立花響は瞬く間にその歌で『デュランダル』を覚醒起動させ、制御こそされてなかったが際限なき『絶対たる力』を振るってみせた。

 少女は同じ完全聖遺物『ソロモンの杖』の起動に半年の月日を割いたというのに。

 

「化物め……ッ!」

「これはまた、随分と穏やかじゃないな」

 

 噛み締めるように吐き出す少女に、後ろから聴きなれたテノールの声がかけられた。振り返るとそこにはやはり見慣れた薄い小麦色の髪の青年がいた。そしてその格好は無地のシャツにカーゴパンツとこれまたいつも通りにラフなものであった。

 

「トレスか」

「ああ。ただいま、クリス」

 

 青年トレスは、少女の名を優しく呼びかけた。それに少女クリスはどこか気恥ずかしげに応える。

 

「お、おぅ……ぉかえり。……んで、お前は昨日からどこ行ってやがった?」

 

 クリスが『デュランダル』強奪の任務を請け負ったと同じく、目の前の青年もまた別の任務を請け負っていた。もし彼と共に強奪任務に挑んでいたらという悔やみからその問いには刺々しさがあった。

 

「よくわからんが、あの女の客人を迎えにな」

 

 ため息混じりの返答の内容に、クリスは眉を顰めた。

 

「客?」

 

 そいつはなんとも珍しいこともあるとクリスは率直に思った。

 何せあの館にはこの二年、今ここにいる自分たちを除けば、今館内でトレスの言う客人とやらを迎えているだろう自分に生きる道を示した女以外には誰一人踏み入った者はいないのだ。だからこそ、そんな異例な客人に興味が沸いた。

 それを察してか、どうせ口止めもされていないとトレスは自身が連れてきた客人の情報をわかるだけ説明した。

 

「ああ。どこの人間かは知らん……おそらく英語圏のだろうが、見た目は俺と変わらない歳の、金髪の男だったな」

「大丈夫なのか?」

「お前の心配することじゃないさ」

 

 そもそもトレスとしては〝あの女〟がどうなろうと知ったことではないのだ。いかに彼女に番犬の役割与えられたといえども、所詮は野良犬。忠誠心はもちろん、依存性すらほぼ皆無と言ってもいい。目の前の、傷だらけの少女と違い。

 

「それよりも、何かあったのか?」

 

 それだけが、彼を縛る唯一の首輪、或いは鎖か。

 飼主すら思いもしなかった心の枷は、確かにあった。

 

 

 

「しかし驚きましたよ」

 

 湖畔と断崖を跨ぐように建てられた洋館にて、客人たる純金髪の青年は館の主人たる白金髪の女に肩を竦めてみせた。

 それは女が、絵にもすれば芸術と呼ばれるであろう艶かしい肢体を惜しげもなく晒していることにではない。目の前の女が平時はこのような破廉恥な姿でいることなど青年にとっては今更な話なのだ。

 

「まさか彼を迎えに寄越すとは思いがけませんでした」

「私なりの誠意というヤツだ」

「誠意……ですか。まあいいですよ」

 

 その主が一糸纏わぬ不誠実な姿で出迎えたところにそんなものを感じる隙はなかった金髪の青年であるが、わざわざこちらから話を拗らせる必要はない。おそらく女は、こちらが失態を犯すことを狙っているのだ。()()()()()()()()()()()()今後の関係で優位にあるために。

 かつての同士(・・・・・・)と変わらぬそんな女狐の思惑を一笑に付すと招待に際して得た情報の確認を取る。

 

「それよりも、小日向湊人に拒絶反応が出たとか」

「ああ。これまでにない反応だった。資料は渡っていると思うが、どう思う?」

「やはりいい具合に()()()()()()のが原因でしょうか……『合一体』というのは伊達ではないですね。何よりも拒絶反応と言っても、今までのはあくまで〝人体〟からのであって、〝槍〟からではありませんから」

 

 そう。これまで観測された『被験者』は皆、『魔槍』の持つ力──その毒に耐え切れず死に絶えた。ある者は全身の穴という穴から血を噴き出し、ある者は身体中の血管や内蔵を破裂させ、ある者は手足から肉が腐り落ち、ある者は異形の肉塊となった。しかし決して槍そのものが持ち主を傷つけることはなかった。

 

「どちらかというと──」

「シンフォギアシステムのバックファイアと同じ、か」

「そうなりますね。──結局、聖遺物を動かすのは『人の心』ですから」

 

 金髪の青年の言葉に、女はどこか懐かしむように呟く。

 

「『心』『願い』『欲望』……、か。現代の人類が最も脆弱となった人が持つべき『絶対たる力』の根源」

「貴女は聖遺物の力を呼び醒ますために、それをより強く具現化するために、歌を用いた」

 

 そして、その一つの在り方が『シンフォギアシステム』。櫻井了子が修めたはずの理論を、彼らは当然のように、彼らにしかわからない物言いで語る。

 

「そうだ。──人が……ルル・アメルがバラルの呪詛に苛まされるよりも遥か昔に、まだカストディアンより統一言語すら与えられていなかった時代に、互いの心を映し出すための、その胸の内を伝えるために生まれた……『始まりの言語』」

「中でも、女性が歌に秘めるその『想い』はいつの世も変わらない。貴女の自論でしたね」

「真理だ」

 

 それは、元来より女としての矜持か。決して揺るがぬ意志を宿したその眼には、これだけは誰にも覆させないと憚る力が込められていた。

 それも仕方ないことだ。何せ彼女自身が、その強き『想い』を胸にあらゆる障害を跳ね除けて悠久の時を駆け抜けてきたのだから。

 だから、その弁論は彼女の前で語るだけ無駄だと、金髪の青年は話題を擦らす。

 

「しかし、己が『心』でのみ聖遺物を呼び醒ました者が現れた」

「小日向湊人、か。──まあ脆弱したとはいえ、人の歴史を見ればああいう輩は珍しくもない」

 

 どんな人間にも当てられる役割がある。世界に蔓延し過ぎた人々に対して、その役が不足しつつあるのも確かだが、生まれながらにその役割を背負わされる者がいる。その役割に見合うだけの者が現れる。その役割を不相応に背負う者が生まれる。

 いつどんな時代でも、必然のように、世界に、人々に選ばれる。

 

「『英雄』となるべき、人間がな」

「…………」

 

 どこかどうでもいように語る女に、金髪の青年は思うところがあるのかわずかに目を細めるがそのまま一度瞬きと共に表情を直すと、最後に伝えるべき要件を口にする。

 

「とりあえず、私もしばらくこの地に滞在するとしましょう」

「ほう、そう(ことづ)けられたか?」

「ええ。現地にて『合一体』の動向()観察するようにと、マスターから」

「相も変わらぬ忠誠心だ。ウチの番犬に爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいよ」

 

 冗談にしては言の重みを感じこそしたが、金髪の青年は気にする素振りもなく愉快に笑ってみせた。

 

「ハハハ、彼を〝バケモノ〟にでもするつもりですか。──フィーネ?」

「〝人形〟に、だよ。──クロス」

 

 洋館に、男女の笑い声が不気味に響いた。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

「知らない間に幼馴染みの女の子が『飯食って映画観て寝る』生活送っていた件」

 

 安静期間の無断外出による謹慎含め三週間の入院生活を終えた小日向湊人は二課に復帰して知らされた近状報告の内容をそう締め括った。

 

「よくも堪えたもんだ」

「それがもうへとへとのへろへろでとろとろですよ〜」

 

 その過酷さをよく知る経験者が同じ長ソファに座る頼もしい後輩を褒め称えると、頼もしい後輩──立花響は彼の横で力なく横になった。

 そんな幼馴染みの変わらぬ様子に一度柔らかく微笑むと今度は対面に座る風鳴弦十郎に険しい表情を向けた。

 

「しかし、広木防衛大臣の暗殺に……移送中の『デュランダル』の起動、ですか。なかなかどうして事態が大きく動いたみたいですね」

「ああ。正直、広木防衛大臣という後ろ盾を失ったのは大きいが、その結果として覚醒した『デュランダル』を手元に置けるのは皮肉としか言えんな」

「そうですね。あの人は苦手な部類の人ではありましたが、日本という国の安寧を誰よりも考え、僕たち──二課のような特殊過ぎる部隊の立場すら配慮して政府との間を取り持ってくれました」

 

 政府への秘匿公開を始めとした当初こそ『シンフォギアシステム』の絶大過ぎる〝武力〟の運用においては否定的であり、保守的な考えだと思われたがあくまでもあらゆる方面へ考慮して慎重な姿勢でいただけであり、シンフォギアを現在の〝秘匿された力〟から〝公の力〟として活動させるべく改定九条推進派として働きかけていたことは事情を知る者であれば誰もが知っていたことである。

 シンフォギアを公に人民を守る力として運用するというその理想的な考えから湊人もまた彼に感銘を受けたのだ。それでも緩急のある捉え所のない性格に、求めた説明が時折回りくどく、それでいて嫌な事ははっきりと口にする彼が苦手であったことに変わりはなかったが湊人が知る中で最も責任感の強い政治家であった。

 そして日本政府現存唯一保有する完全聖遺物『デュランダル』。数年前の欧州連合の経済破綻による不良債権の肩代わりとして譲渡され、日本政府が管理することとなった第五号聖遺物。

 特異災害対策機動部二課本部最奥区画『アビス』にて厳重保管されていた『デュランダル』こそが一連の事件の狙いと判断した政府上層部が『デュランダル』を永田町最深部特別電算室──通称『記憶の遺跡』に移送すべきと二課に勅令を発したのが事の始まり。

 その最中のノイズ襲撃からの『デュランダル』の〝不慮の起動〟に作戦は急遽中止。移送計画は一時断念され、覚醒状態の『デュランダル』は再び『アビス』への格納へと至ったわけだが。

 

「まさか、響が『デュランダル』を起動させるとは」

「そうね。『天羽々斬』の欠片を覚醒させた翼ちゃんの歌に、『ガエボルガ』を覚醒させた湊人くんの心ですら起動には至らなかったけれど」

「やっぱり相性というのがあるんですかねー?」

「それについてはシンフォギアを含めて仮説を立てていたけれど、これはひょっとしてひょっとするのかしら」

「ていうかひょっとしちゃいましたかねー。響ちゃんが特殊ってのもあるでしょうけど──」

「ええ──」

 

 湊人の驚きに天才二人が各々の科学者としての見解を広げていく。それをとりあえず無視して、湊人は頑張った幼馴染みの頭を撫でた。

 

「ま、なんにせよよく頑張ったよ」

「ふへえッ⁉︎ そ、そんな私なんて湊人さんや翼さんに比べたらまだまだ全然これっぽっちも──」

「ありがとう……、響」

 

 突然の愛撫に慌てふためく響に追撃するように告げられた感謝の言葉に、たちまち彼女は飛び起きて(かぶり)を振った。

 

「そんなお礼なんて! 私はただ好きな()()()をしただけでッ!」

()()()……か」

 

 彼らが常に信条とするその言葉に、湊人は憂いの笑みを浮かべた。

 

 

 

 久しぶりに少し二人で話をしようと湊人は響を本部内で職員が主に休憩所として使うコモンスペースまで連れ出した。そこに設置された自動販売機──職員IDパスにて無料──からココアを取り出すと響に手渡す。

 湊人は響にどうしても確認したいことがあった。

 

「響は、どうして人助けを?」

「それはもちろん、湊人さんに憧れて!」

「そう、だな。昔は未来と一緒に僕の後ろをついて色々手伝ってくれてたっけ」

 

 今でもよく覚えている。初めて出会った時から英国に飛ぶまでのおよそ六年。二人は人助けのために外に出る自分のあとを必ずと言っていいほどについてきていたことを。

 子供ながらに狂信的に小日向湊人をヒーローと崇め奉るその姿に中学生の時には罪悪感とそこからくる責任感にも苛まされたこともあったがそれでも慕ってくれる愛しい子たちの眩しい笑顔を守るために、その理想を貫くために湊人は人助けを続けた。

 湊人が英国に留学してからは響は彼の背を追うように邁進して人助けに明け暮れた。

 共に懐かしくかけがえのない想い出に耽っていると、響の顔に一瞬の陰りが見えた。

 

「でも、それだけじゃあないんですよね」

 

 それは、あの二年前の惨劇。

 多くの命が喪われた中で残された、命の一つ、天羽奏によって救われた命、だからこそ送れる当たり前のような日々の中で、気づいた。考えた。至った。

 

「あの日、奏さんに救われたこの命で、今日と同じ明日を生きるために誰かの役に立ちたい。──そう思うようになったんです」

 

 そして、響の人助けは歪な形となった。己を顧みない、他者にのみ重きを置いた一方的な救い。それが立花響の今の〝人助け〟。

 

「そうしたら、もっと色んなことができるような気がしたんです。それと同時に、私にできることの少なさにも気づいたんですけど」

 

 えへへと響ははにかむと、今度は慈しむように胸に手を重ねた。

 

「でも、今は違います。奏さんが私に遺してくれたこの胸のガングニールは、今までよりももっと多くの悲しい想い出を刻むはずだった人々を守ることができる。助けることができるんです」

 

 だからこそ、立花響は歌うのだ。それはまぎれもない一つの信念。戦うことを知らなかった少女が、かつての地獄にて救われ、受け継いだ力を手に死地を駆けて尚、否、それ故に固めた意地。

 湊人は少女の歪なまでに真っ直ぐな想いを噛みしめるように一度天井を仰ぐと、ココアを一気に飲み干してポツリと漏らした。

 

「僕は、ヒーローに憧れていた」

 

 響は頷く。知っていますと。

 彼が幼い頃からヒーロー番組にハマり、それに登場する数々のヒーローたちに憧れ、正義の味方を夢見たことから始めた人助けをする姿を、自分たちは見てきたのだから。それはまた、彼がヒーローに憧れるように、そんな彼の姿を自分たちのヒーローとしてきたのだ。

 そして、今でも英国に戻る期間の全てのヒーロー番組の録画を実家や二課の面々に任せていることも。彼が本当に、ヒーローが大好きだということは、彼を知る者なら知っている。

 

「あれ?」

 

 だからこそ、今の湊人の物言いに違和感を覚えた。

 

「今は、違うんですか?」

 

 問いに、湊人はそうだねと答える。

 

「もちろん、今でもヒーローは僕の目指すべき生き様さ。ただ、そのヒーロー像が昔とは違うかな」

「それって、いったい……」

「昔はただ、誰かの助けになれればそれで良かった。──〝みんなの笑顔を守るためだったら何回死んでも構わない〟。そう思っていたんだ」

 

 冗談でも何でもなく、本気で小日向湊人は他者のために自己を犠牲にできた。守りたいものを守るためならその身、その命すら削る子供ゆえの無邪気で無鉄砲な意志で小学校時代の彼は骨が折れる怪我をすることも珍しくはなかった。妹たちの同行を以って多少の無茶は抑制されることとなったが、その根本たる行動理念が覆ることはなかった。

 

「でも、ガエボルガを手にする時……ノイズに殺されそうになった時、死にたくないと思った。そして、気づいたんだ。自分の理想は、とてつもなく無責任なものじゃないのかって」

 

 誰かを守るためにその命を捧げる。聞けば美談とも取れるが、実際問題にして湊人が理想としていたが、そこに未来(みらい)はなく、言ってしまえば後の諸問題を丸投げするに等しい。ましてや、死んでしまってはもう守りたいものを守ることもできなくなってしまうし、何よりも自分が命を失うことで守りたいものを傷つけるのだ。当たり前のことではあるが、その当たり前にも気づかないほどにかつての小日向湊人は自己犠牲の精神に盲目的になっていた。

 しかし、多くの命が散る様を目にして、本当の死に直面して、いつしか湊人の意識は──〝憧れ〟のみで被られた仮初めの精神は十年の積み重ねも虚しくいとも容易く崩れ落ちた。

 目の前の友を助けたい、守りたい、救いたい、共に帰りたい、また笑い合いたい。

 故郷に残した家族の笑顔をまた見たい。

 自分の死で大事な妹の笑顔を、大切な幼馴染みの笑顔を曇らせたくない。

 そのためにも、残された生存本能を剥き出すしかなかった。

 死にたくない。

 生きたい。

 ただそれだけを望み、

 

 そして、生き残った。

 

 そこでようやく気づいたのだ。

 大切なモノを守るために、本当に必要なことが何なのかを。

 

「だから……、僕は死ねない。生きて、活きて、守り抜く。それが僕の戦う理由……目指すべきヒーローなんだ」

 

 湊人の語るそのヒーロー像に、響は二年前の惨劇を思い出した。

 私は、それを知っていると。それを体現しようとした()()の言葉を知っていると。

 その言葉は、自然と口から溢れた。

 

「──『生きるのを諦めるな』」

 

 湊人は頷く。

 

「そうだ。あの日、あの場にいた響なら聴いていたはずだ。奏の最期の歌を──あいつの『想い』を」

 

 湊人はくしゃりと空になった紙コップを握り潰す。自分が語る『想い』を握り締めるように。

 潰したそれを自販機の横に備えられたゴミ箱に捨てると、再び響と対峙する。

 彼女の『想い』と共に、自分の『想い』を伝えるために。

 

「もし、今でも響が僕をヒーローと呼んでくれるのなら……、響にも、そうあってほしい」

 

 それはきっと、立花響を守ってくれると信じて。

 

「自分も、守るべきものも、みんなが生きるのを諦めない──そんな〝人助け〟を、立花響の『想い』に汲んでほしい」

 

 大切なモノを守れた時、人は笑顔になれるから。

 そして笑顔の花が、未来(みらい)の陽だまりにさらなる温もりを与えるのだ。

 だからこそ、今ここに湊人は決意する。

 

(そのためにも──)

 

 まずは陽だまりに、その温もりに包むべき花の居場所を教えるべきなのだと。

 

(僕は、二人の笑顔を守ってみせる──ッ!)

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 小日向未来は最近の親友の変化に戸惑っていた。

 元々楽天家でややずれた感性を持ちながらも純粋無垢な眩い心を持つ親友は兄に感化されて他人本位な人助けを信条とするちょっと変わった子なのだが、常に行動を共にするパートナーとも呼べる存在であった。

 それがこの春から、共に私立リディアン音楽院に入学してしばらく、彼女は一人どこかに出かけては疲れた様子で、時には傷をこさえながら寮に帰ってくる様になった。おそらくは自分の知らないところで趣味と言い張る人助けをしているのだろうと思っていたのは先月までの話。

 一緒に見ようと約束しながらも当日のドタキャンを受けて双子座流星群を一人で見た日から間もなく、時折『修行に行ってきます』という書き置きを残して学校まで休む日も出てきた次第である。

 流石の未来も、今まで一緒にいたのが当たり前であったのにその時間が極めて減ってしまった響に含むところは当然あるわけで、それでも響の行いがきっと大切な事なのだと理解した上で、もしかしたらという今の関係を壊したくない一心でその事に口出しする勇気もなくただただ貴重になった彼女との時間を過ごしていた。

 のだが──

 

「響、昨日からずっと上の空でどうしたの?」

 

 昨日、正確には昨夜寮に帰ってきてからというもの響の様子はどこかおかしかった。

 いつにも増して集中力に欠け、こちらの問いかけにも空返事で意識がどこかに飛んでいる印象であり、今朝などおかわりしないなど信じられないくらいに食欲を感じず何度箸からおかずを取りこぼしたことか。

 とにかくこんな立花響を未来は見たことがなかった。

 だからこその体調を案じての問い。心なしか健康的に赤みを帯びている頬もいつもよりその色を深めているような。

 

「未来」

「ん、なあに?」

 

 教室の席に着いてしばらく、今日初めての響からの呼びかけに内心の安堵を隠しながら優しく問い返す。すると、

 

 

「湊人さんって、やっぱりかっこいいよね」

「…………」

 

 

 何を今更そんな当たり前のことを言っているのだろうか。未来は本気で親友の気持ちが理解できなかった。大体兄の素晴らしさは彼女も昔からよく知っているはずであるし何よりも初めて会った時から惚の字であったのを知らないわけがない。親友たる立花響だからこそそれを許したわけであってむしろ彼女の気持ちを応援するし兄が私の響のモノとなればそれは引いては兄は私のモノになるということ。いや元々私のお兄ちゃんだけど──というかちょっと待ってほしい。今の響の言葉は、まるでつい最近そんな姿を見たような物言いではないか。

 

「……………………ねえ、響」

「なにー未来ー?」

「昨日お兄ちゃんと会った?」

「…………………………………………」

 

 響の身体が銅像のように固まった。

 なるほど。この親友とは少し、ええほんの少しちょっとだけ話し合う必要があるらしい。ここは教室でもうすぐ担任が入室して朝のHRが始まるだろうがそんなことは今些細なことである。とにかくトイレだろうが保健室だろうが屋上だろうが校舎裏だろうが今すぐ二人っきりでOHANASHIしなければいけない。これは義務なのだ。何のかはこっちが聞きたい。

 とにかく行動あるのみだと席を立とうとして、鞄の中の携帯電話がメールの着信音を鳴らした。

 響のことを心配するばかりで電源を切り忘れたことや突然の着信音に教室中の視線が集まったことなど未来には思考する暇はなかった。

 何故ならその着信音に設定した人物は世界中でただ一人しかいないのだ。

 

「お兄ちゃんッ!?」

 

 そこからの動きは早くて速く、そして疾くて迅かった。全ての動作が反射の領域で動き、その身体運びに一切の無駄がなく、歴戦の兵に通ずる気魄があった。

 

「──え?」

 

 開かれた着信メールには簡素に『二人で大事な話がしたい。学校が終わったら連絡してくれ』と書かれていた。

 

「私、まだ十五だよ?」

 

 ちょっと何を言っているかわからないですね。

 

 

 

 





今回のワイルドアームズ6thシンフォギア

・特異災害対策機動部二課本部最奥区画『アビス』
WA奇数ナンバリングシリーズに登場する隠しダンジョンにしてラギュ様のお住まい。

・『記憶の遺跡』
WAシリーズお馴染みのダンジョン。初出はWAのザック編プロローグにて登場。以降も記憶に関わるダンジョンなどに使われる。

・「でも、今は違います。奏さんが私に遺してくれたこの胸のガングニールは、今までよりももっと多くの悲しい想い出を刻むはずだった人々を守ることができる。助けることができるんです」
WA3に登場する主人公ヴァージニアのセリフ「〜わたしの(アーム)が誰かの心に刻まれるはずの悲しい想い出をひとつでも少なくできるのなら……」より。

・「だから……、僕は死ねない。生きて、活きて、守り抜く。それが僕の戦う理由……目指すべきヒーローなんだ」
WA2に登場する主人公アシュレーのセリフ「僕は死なないッ! 生きて、守り抜くッ! 僕が見つけた戦う理由はそれなんだッ!!」より。
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