真剣で私に恋しなさい ACC (アドベントチルドレンコンプリート) 作:ヘルム
まあ、なんていうか本当に申し訳ありませんでした。
ここは、川神市内にある緑が生い茂る森…
だったというのは、もうここは森と呼べるものではなくなったからである。そこにあるのは一面の…
火の海である。
釈迦堂「オラァ!!」
釈迦堂の拳が緑色の体壁をした怪物の腹へと行く。
大蠍撃ち…この技はどんな武術家であろうと、一生武術が出来ないほどの後遺症を残すほどの凄まじい一撃である。
それは、蠍の毒のように全身に回っていく。
イフリートはその拳の危険度がわかったのか。後ろへ跳ぶようにして避ける。
釈迦堂「ちっ!チョコマカと…デケエくせに良く動きやがる。」
若干の皮肉を込めながら、相手を賞賛する釈迦堂。
勝負はほぼ互角と言って差し支えないほどに接戦していた。
だが、圧倒的に釈迦堂の方が不利である状況となっている。
イフリートが攻撃する時、彼は腕に炎を纏わせ肘まで覆っている。そのため、腕力や攻撃力において釈迦堂が拮抗していても攻撃範囲という点で圧倒的に不利である。
加えて、彼の腕は自分の足に届こうかというほどに長い。釈迦堂が試しに蹴りを試してみて距離を測ろうとしたが、それでも、届きそうになったほどである。
そして、そういうアドバンテージはいざという時に決定的な一瞬を与えることになってしまう。
イフリート【ブアアアア…】
深く、深く息を吐く。イフリートは本来その炎を使った中距離からの攻撃を戦闘の主とする。故に、彼は釈迦堂から距離を離した状態の方が戦いやすいのである。
今まで、それをしなかったのは、単純に彼の手を知りたかったため、もちろん今まで距離を置くことも出来たが、本能が知らせたとでもいうべきか。どうしても彼は最初、自分の土俵で戦うのを拒否した。
それは、恐怖から来るものなのか、それとも単なる迷いから来るものなのか…イフリートにはどちらなのか分からなかったが、一つだけはっきりしたことがあった。
それは、この目の前の男は間違いなく強敵だということ。
ならば、迷いを打ち捨て、ここは自分のアドバンテージを最大限に活かした闘い方をすべきだ。とイフリートは考えた。
距離を離し、まっすぐに釈迦堂を見つめるイフリート。次の瞬間、イフリートは手で作り出した火炎玉を相手に向けて発射する。
釈迦堂はそれに対し、落ち着いた様子で横に行きながらかわして行く。すると、炎のロープのような攻撃がしなりながら前方から迫る。
釈迦堂はそれも難なく避けるが…
釈迦堂「けっ!なんだぁ!?ビビってこっちに近づかねえってか?デケエくせに随分と肝が小せえんだな!!」
距離を置かれ、中距離からの攻撃に専念しようとしているイフリートをみて、効くかどうかも分からない挑発をする釈迦堂。
たとえ、意味が分からなかったとしても、その態度から大体の見当は相手にだって着くだろうと考えた上での言動だった。だが、イフリートはピクリとも反応しない。
釈迦堂(ちっ!やっぱ、来ねえか!)
内心でそんな舌打ちをする釈迦堂。それもそうである。ここは森の中、一番燃えやすい木がある場所である。そのため、彼がその気になれば、中距離からこの付近に結界のように炎を巡らせることも可能。
だからこそ、釈迦堂は何としても中距離からの攻撃をさせない意味合いも含めて気を放出し、相手を威嚇させることによって接近戦に持ち込もうとした。
釈迦堂(オレだって、壁は超えてる。そりゃ、普通の炎ごときにやられるようなヤワな鍛え方はしちゃいねえ。)
だが、このイフリートに関しては別だった。先ほど後ろに引いて避けようとした釈迦堂だったが、そこにはイフリートが燃やした木があり、そこからは何も出ないだろうと思っていた。
だが、その次に、釈迦堂が見たものはなんとそこからの炎が手の形になって襲いかかってくる瞬間だった。
驚いた釈迦堂だったが、それをなんとか避け、体勢を整えた。
その一瞬のことを思いながら、釈迦堂は考えた。
釈迦堂(野郎は炎が体から出てる。というより、
らしくもなく、面倒な考え方をする釈迦堂。だが、目の前の怪物はそう考えざるを得なくなるほど、炎そのものであった。
釈迦堂「はは、やべえな〜!悪い癖だ。結構、ピンチだっつーのに…
楽しくて仕方ねえじゃねえか!」
そんな獰猛な笑みを浮かべながらの叫びと共に2人の闘いは文字通り加熱する。
釈迦堂「おら!喰らいやがれ!リング!!」
輪っか状の気弾が相手に向かっていく。それをイフリートは紙一重で避け、自分も炎気弾を投げつける。釈迦堂もそれを避け、また、リングを放つ。
気弾同士のぶつかり合い、それは白熱を極めた。
だが、それでも徐々に追い詰められるものは居た。それは…
釈迦堂「はぁ、はあ、はあ、」
やはりというべきなのか釈迦堂であった。
四方を炎に囲まれ、身動きが取れなくなった釈迦堂。上へ飛ぼうにも、炎が手に形を変え、襲いかかって来る。
それに対し、イフリートがすべきことは簡単だった。
自分のとっておきの一撃を釈迦堂に対してぶっ放す。
イフリート【バオオオオオオオ!】
祈るように手を掲げながら炎をそこへと集め出す。
その技の名前は「地獄の業火」。一瞬にして全てを炭に変える文字通り地獄を体現した火炎である。
その炎弾が最大になり、イフリートの身の丈を優に超えた瞬間、さすがの釈迦堂も息を飲んだ。
釈迦堂「ありゃ、やべーな。あんなの喰らったらさすがに、気の壁だけじゃ対応仕切れねえ…」
だが、諦めてはいない釈迦堂。こんな時に限って自分の思い出したくない顔を思い出す。闘いながらでも気づいたあちらこちらで起きている気のぶつかり合い。
その中には、当然自分は気に食わないが、認めてもいるルーがいた。
釈迦堂(別に、対抗意識からってわけじゃねえけどよ。ここで、もしもこの怪物に負けて、ルーがあっちの闘いで勝っちまったら、やっぱ、なんか気に食わねえんだよな!)
だから、釈迦堂は渾身の気を片拳に込め、イフリートを睨みつける。
イフリートの上の気弾はもはや、辺り一帯覆い尽くさん限りに巨大になっていた。そして…放たれる。
もはや、一個の星と言っても過言ではないだろう。その星は釈迦堂に向けて、ゆっくりとだが、着実に迫って行く。
着弾しようとした次の瞬間…
轟音に近い墜落音と共に莫大な破壊が放たれる。辺り一帯は炭になり、その範囲外にある木々まで焼き焦げていく。
破壊が終わり、文字通り全てが炭になった平野に着陸するイフリート。全て終わった。もう、ここに用はない。ここから立ち去り、早々に次の仕事へ行こうと、踵を返すイフリート。
釈迦堂「よう…」
イフリート【!?】
驚愕したイフリートは、そちらの方へと顔を向ける。すると、そこから拳が飛んで来て勢いよくイフリートの顔面へと突き刺さる。
ズザザ、と仰け反りながらも体勢を整え、再度距離を取ろうとしたが…
釈迦堂「ここまで来て…にがすかよ!」
そう言って、釈迦堂はイフリートの足を踏み抜くように足で固定する。
イフリート【バグ!!】
苦悶の表情を浮かべながら、イフリートはなんとか抜け出そうとし、試行錯誤を重ねながら、口から炎弾を放とうとするが…
釈迦堂「こんな近くで、んなもんが効くわけねえだろうが!!」
頬を抉るようなフックがイフリートの顔を弾き飛ばす。
そこに、立て続けという風に釈迦堂は…
釈迦堂「オラ、オラ、オラ、オラ、オラ!」
好機と判断し、足を離し、連続でイフリートに蹴りや拳の連打を浴びせまくる。
そして、締めに回し蹴りを頬に目掛けて放ち、そこで強制的に距離を離れさせる。
そこが唯一許される限りの後退の機会だと考えたイフリート。さっと身を退くようにドンドンと後ろへ下がっていく。
だが、この時イフリートは気づいていなかった。自分のしていることは距離を取っているのではなく、
逃げた獲物を狩ることほど、狩人に取って腕の見せ所はない。
その逃げていく
釈迦堂「川神流…無双正拳突きィー!!」
イフリートの巨体が突き飛ばされ、木々をなぎ倒しながら山の大地に大地衝突した。
イフリートには最後まで彼がなんで生きていたのか分からなかった。イフリートは彼の実力を正確に測りその上で彼が弾き飛ばさないほどの炎玉を放ったはず…だが、結果は今自分がこうしてるように、自分が地べたを舐めるような真似をする羽目にまで陥っている。
何故?
最後までそう考え、結局分からずにイフリートは星屑のように体を散らしながら消えていった。
釈迦堂「イテテ…やっぱ、ありゃ無茶だったなー。全身が火達磨にならなかったのは良しとして、やっぱあちこち火傷だらけだしよ…」
釈迦堂はそんな自分の状態を見回しながら呟いた。
無茶とは一体なにをしたのか?
あの時、彼は結局、逃げられなかった。
炎玉は彼に迫り、彼に当たろうとしていた。その時、彼は地面に向かって拳を叩き下ろしたのである。
川神流 畳返し
この技を応用することにより、彼は未だ燃え続けている地面を炎玉にぶつけることができた。
山火事において、どのような方法が最も効率よく山火事を抑えられるか?それは古い炎に対し、新しい炎をぶつけることである。
そうすることで、お互いが酸素を食い合い、それらは自然消滅するのである。無論、炎玉ともなれば規模が違う上にその程度では本来、炎が弱まったとしても大した違いはない。
だが…イフリートは最後まで、釈迦堂が逃げないために自らが出した炎に気を張り巡らせ、操り、威力を強化していた。
このような様々な事象が起こった末に釈迦堂はイフリートに勝利した。
偶然のように言っているが、ある意味最も攻撃的な彼でなければ成しえない偶然であり、勝利であった。
イフリートvs釈迦堂 勝者 釈迦堂
川神院
ルー「うー、寒いネ。ここまで身体が冷えるとさすがに戦闘に支障が出るかもしれないネ。」
最早、川神院の至る所は氷漬けにされ、絶海の孤島ならぬ絶氷の孤院になりつつあった。そんなことになった発端の主に対し、睨みを利かせるルー。
シヴァ【うふふふ…】
相変わらずなにが楽しいのか。彼女は変わらず笑っていた。
その姿は人間にイタズラをした後見せる妖精の素顔のように感じられるが…相手をしているルーはどちらかというと死神だと感じていた。
静々とした華やかさという、正反対の特性を併せ持った彼女の外見とは裏腹に彼女の攻撃は自分の体力を確実に削っていく、正直言ってエグいものであった。
ルーは気による防壁によりなるべく体力を削られないようになんとかしていたが、それでも確実に削られていった。
かといって、彼女を攻撃しようにも彼女が吹き付けてくる氷の息吹が体を締め付け、前進をさせてくれない。
釈迦堂のような短期決戦とは真逆の長期戦を余儀なくされた状況というわけである。
ルー「ふー…」
この場において、防御は自分の勝利を逃す要因となりうる。
だから、ルーは覚悟を決めたように小さく息を吐き、再度氷の妖精へと双眸を向ける。そして、息を止めると同時に突進する。
シヴァはその姿にあっけにとられたが、すぐに気をとり直して、空中に氷の鏃の軍勢を作り出す。
一つ一つが確実に肉を裂き、骨を断つほどの鋭さを持っている。それに対し、ルーは一瞬を息を呑むが、それでもなお、前進を止めない。
ルー「おおおおお!!!」
己を奮い立たせるように怒号を発した瞬間、氷の鏃たちがルーへと襲いかかる。
ルー「フィストファイヤー!!」
ルーはその氷を手から繰り出す気弾の弾幕によって防ぐ。だが、数が多すぎる。氷を苦としない彼女にとって現状況は彼女が優勢だと言って過言ではない。だから、彼女がくりだせる攻撃の数がルーの手数を超えるのはある意味当然と言える。
次第に弾幕を避けてきた鏃が当たるようになってきた。
だが、それを避けようともせず、ルーは進む。自分でもなんでこんな攻撃をしてるのか分からなかった。
確かに現状が好ましくなくとも、もっと時間をおいて考えればこれ以外の方法を考えられたかもしれない。
そんな考えが頭に過ぎっては消え、過ぎっては消えを繰り返していく内に何も考えられなくなり、ただ無心に走り続けた。
そんなルーの姿にシヴァは驚愕を露にする。致命傷を避けているのは見て取れるがそれでも走り続けられるようなぬるい弾幕を作り出したつもりはなかったからである。
シヴァ【っ!?】
遂には、後5メートルというところまで詰められシヴァは、そこから詰められることを初めて
ルー「させないヨ!ストリウム光弾!!」
手から速攻性の気弾を放つ。それにより、手を弾かれ氷を発動することができなくなる。そして、それはわずか5メートルの間でされていた攻防である。
シヴァは手元を気にし、一瞬、目を逸らした。だが、今はそんなことをしてる場合ではない。と思い立ちすぐに視線を上げる。そこには突進するかのような構えをしたルーがゼロ距離にまで迫っていた。
慌てて距離をとろうとするが、
ルー「遅い!!ファイヤーストリーム!!」
怒号のような声とともにシヴァに炎の突進を仕掛けた。
シヴァ【ギ…アァアアア!!】
とても先ほどまで君の悪い笑顔を浮かべながら攻撃を仕掛けていたものから発せられるような声だとは思えない叫びが出た。
だが、その一度だけである。ルーの一撃はよほどまずい位置に当たったのだろう。彼女はそれっきり立ちながら白銀の霧になるように消えていった。
ルーはその姿をひどく申し訳なさそうな顔をして見つめた後、バタっと機械仕掛けのように倒れていった。
ルー「いや…全く、慣れない戦法は取るものじゃないネ。どこもかしこも傷だらけ…これじゃ、門下生に合わせる顔がなイ…」
師範代としてこの場を任せると鉄心に言われたため、ずっとこの場所になるべく損害を与えないように戦っていたルーはある意味釈迦堂よりも不利な状況に立たされながら戦い続けたようなものである。
そんな中、どうやったらこれ以上川神院に傷をつけずにいられるかと考え出した結果、突撃と言う手に至ったのである。
なんとか止められたからよかったものの、正直危ないところだった。
そんなことを考えながらルーは体力を回復する意味合いも含めて眠りについた。
ルーvsシヴァ 勝者ルー