真剣で私に恋しなさい ACC (アドベントチルドレンコンプリート) 作:ヘルム
川神市 上空
鉄心「やれやれ、まいったのう…」
鉄心は空中を全身に覆った気で浮かせながら、頬をかき、困ったような表情を浮かべた。
この男の目の前には現在、シマウマに装飾を施した一本角のユニコーンに似た獣と長い髭を垂らしている老爺が二者同様に雷を纏わせながらそこにいた。
鉄心(火力じゃわしが上じゃが、あの者たち、纏わせた雷で超加速をしてきよる。『毘沙門天』の攻撃にも反応してみせたところを見ると、反応の方も上がっとるのう、ありゃあ…)
0.001秒の内にその攻撃を叩き込む『毘沙門天』は今まで初見であろうが、無かろうが見切るまでその攻撃に反応されることはなかった。
そのため、彼が『毘沙門天』を使えばほとんどの使い手たちは何が起きたのか分かることなく、文字通り潰れていくのである。
だが、二度目にこの技を二体の怪物に使った後、彼らはそれを見切って躱すのではなく、
そんなことは孫娘であり最強の名を継いだ百代ですらできた試しがない。
正直な話、ショックがないといえば嘘になるが、それならば簡単な話である。
鉄心(この戦い、活路はある。じゃが、そうなるとどうしても場所が問題になるの)
0.001秒よりもさらに鋭く短い反応時間を算出する必要がある。それはあまりにも速すぎる一撃である。自分で制御できる速度域を超えた攻撃、そんな物を今から放とうとしているとしたら彼の攻撃は確実に大地にすら癒えない傷を与えることになるだろう。
鉄心「そんじゃ、行くかの。」
重い腰を上げるような仕草をして二体に向かい合う鉄心。それを見たイクシオンとラムウもその双眸を鋭くする。
ラムウ【来るな…気を引き締めろよ。イクシオン。我らとて気を抜けば即座に全てを持って行かれ兼ねん相手だ。】
その言葉に対して、イクシオンはブルルと鼻息を荒げる形で応答した。
三者は互いに睨み合った後、雷鳴と共に激突した。
鉄心「顕現の七・神須佐能袁命からのー…」
気によって出来上がった巨神が剣を構える。
鉄心「八岐斬り!!」
そこから8連続の高速連続斬りが繰り出される。
毘沙門天ほどの速度ではないにしろ、これは初見の技である。少しはかするかと思っていたが、やはりというべきか彼らはスルスルとまるでそこに何もなかったかのように避けていく。
それを見て、鉄心は内心で舌打ちしながら、次の技を出す。
鉄心「顕現の壱・摩利支天!!」
鉄心の姿がユラユラと陽炎のように揺れた瞬間、彼の姿は消えた。
ラムウ【ぬ!?】
ラムウとイクシオンはそこに僅かな動揺を滲ませた後、逡巡し、杖を持っている右手と一本角を空に掲げる。
そして、電磁フィールドを辺り一帯に広げる要領で一気に、雷を爆発させる。
鉄心「ぬ…ぐ!?」
姿が見えなくなってもその姿がそこからいなくなったわけではないので、その雷を諸にとは行かずとも食らってしまう鉄心。だが、それでも構わない。彼は必要な仕事を終えた。後は、この二体にどうやって攻撃をぶち込むかによる。
ラムウ【…何か狙っているようだが、妙なことは起こさせんぞ。イクシオン!!】
杖と角の先端に雷を貯めていく双方。彼らはまっすぐに目の前の鉄心を見つめた。
先端を中心に雨雲が集まっていく。それにより、激しい気流が鉄心たちを文字通り巻き込む。
鉄心「あいたたた…ったく、小石が舞い上がってくるもんじゃから、そこかしこが痛くて仕方ないわい。」
そんな呑気なことを言っている鉄心だったが、内心はそれほど穏やかではなかった。雨雲の中のの激しい気流が自分の動きを阻害していることもあるが、何よりも今現在、彼の眼の前で気とともに雷を溜めに溜めている者たちがいることがその原因と言えるだろう。
鉄心「一々そんなことを素直に待ってやれるほど、わしは素直じゃないぞい!」
激しい気流の中を抗うように進むのではなく、気で受け流すことによって鉄心は大きく前進していくが…
ラムウ【言葉を借りるようで癪だが、そんなことをさせてやるほど我らも未熟ではない!】
ラムウは一体で攻撃を溜めているイクシオンに自分が溜めていた気を与えた後、鉄心を止めようと前に出た。
鉄心「毘沙門天!!」
闘神がその足裏による超速の攻撃を放つ。それはもう効かないはずの攻撃であり、実際また、避けられてしまった。
だが…
鉄心「自分を過大評価しすぎじゃのー。ほれ、こんなに簡単に近づけてしまったぞ?」
言った瞬間にラムウの目の前へと移動した鉄心。
鉄心はスピードではかなわないものの、技量や火力で上をいっている。彼らは確かに鉄心を圧倒的に超す超速の持ち主、
であっても…
走ってしまう以上、空中であろうが何であろうが必ず停止する。これだけ超速を見せつけられたのだ。馬鹿でも、どうやって動いているのか、その軌跡はどうなっているのかぐらいわかってしまう。
というのが、見ていた鉄心の感想である。
まあ、もっとも、彼らの超速はどう考えてもそれらを度外視した速度だから、まず見るという段階に至るのにもとてつもない苦労が強いられるのだが…
ラムウ【っ!?】
一方ソレを見ていたラムウは急いで防御の体勢を取るために杖を前に出そうとしたが…
鉄心「遅いわ!川神流 無双正拳突きー!!」
ラムウ【ご…ふ…!!】
深々とその拳をラムウのヒゲで隠れた胴へと撃ち込む。
悶絶し、荒々しく雷を溜め込んでいる雷雲に覆われた空を見上げる。
そして、その瞬間、ラムウはその老爺の姿には似合わぬほど、口がにったりと裂け始めていた。
そのことに遅ればせながら気づいた鉄心は急ぎ、上を見上げる。
すると、シマウマに似たユニコーンの姿をした獣が太陽と見紛うほどの神々しい光をその角に溜めた雷で発し、こちらに構えていた。
「トールハンマー」と呼ばれるその一撃は確かに、その瞬間鉄心に降り注がれようとしていた。だが…
鉄心「…やれやれ、似たようなことを考えていたわけかの…全く、真似していたみたいで気が引けるのー…」
そんなことを言われたラムウは一体何を言っているのか分からなかった。だが、それを一瞬で分からされることが起きていた。
今もラムウは空を向いている。ふと、ラムウは違和感に気がついた。
後光のように我らを照らしている雷光、この光と雷雲による視界の悪さが相まって、彼らは上空に絶賛迫っている危機に気づくのに遅れたのだが、
ラムウ【なんだ?あれ…は…?】
それの正体に気づいた瞬間、ラムウは固まってしまった。
あり得ないと思った。だが、目の前の怪物はそれを可能にする怪物。
すぐにその考えを改め、イクシオンに対し、怒号を送る。
ラムウ【上だ!!イクシオン!!上を向け!】
金切声に近い大声は、しかし雷音が響いている雷雲の中でも正確にイクシオンの耳に届いた。
上を向き、その光景に目を見開くイクシオン。
それは、自分の雷など生易しい光に見えるほどの業火の光だ。
そう、彼らの上空には随分前に鉄心が仕掛けた…
隕石があったのだ。
鉄心「九の顕現
驚いた両名であるが、スピードは毘沙門天ほどではないことに気づいた後、すぐに撤退を始めようとする。だが…
鉄心「そうはさせぬ!」
手を挙げ、叫ぶ。
鉄心「顕現の参 毘沙門天!!」
一体、何を言っているのか分からなかった。その技はすでに見切っている。自分たちよりも遅いと確認している。
ラムウは困惑をしながらも、技を避けるために加速の準備をする。
きっと、相手も困惑してどうにか捉えようした結果間違いを起こしたのだろうとその時は思った。
だが、すぐに異常性に気づいた。技名が言われているにもかかわらず、いつまで経っても闘神が姿を現さないのである。
おかしい、なぜだ?とラムウは思う。
と次の瞬間。
イクシオン【バ…ヒヒーーン!!】
悲鳴に似た叫びが響き渡る。見ると、イクシオンが異常な加速を経た礫によって身体中を貫かれていた。だが、それを見ても、それがイクシオンの物だと分かるのにわずかに時間がかかってしまった。なぜなら、イクシオンも自分と同等の反応速度を有し、間違ってもあんな隕石に当たるようなヘマをやらかすものではないと思っていたためである。
だから、急いで離れなければと思うのにも時間がかかってしまった。だが、もう、遅い。
次の瞬間、隕石の破片という破片が文字通りラムウの体を貫いた。
そんな事態になった後、彼はようやく理解した。なぜ隕石が急に加速し、その破片が身体を貫いたのかを…
闘神が隕石のさらに上のところに召喚されてるのである。
そう、鉄心は技を出したあの時その闘神を隕石の上に召喚し、その攻撃により、隕石は踏み砕かれると同時に毘沙門天以上のスピードを帯び、礫の雨となって降り注いだのである。
ラムウ【く…そ…】
悪態を付きながらイクシオンとともに落ちていくラムウ。その姿が塵になる様はまるで落つる星屑のように儚くも美しいものであった。。
次でようやく、人外大戦は終了します。
いや、正直な話退屈だと思ってる人がいないか心配です…