異端者も異世界へと呼び出されたようですよ?(一時凍結) 作:レール
それではどうぞ‼︎
ルイオスが提示した“ペルセウス”の試練をクリアした上哉と十六夜は、挑戦権を示す紅と蒼の宝玉を手に入れて“ノーネーム”へと帰った。
行きは開催地を特定しつつ向かったため半日ほど掛かったが、帰りは箱庭都市へ向けて一直線なので行きよりも短時間で帰ることができ、夕方頃には本拠前に着いていた。
「思った以上にあっさりと帰って来れたな」
「だな。黒ウサギなんてかなり心配していたのに、結果を見れば無傷で一日半しか“ノーネーム”を空けてねぇし」
結果論ではあるのだが、黒ウサギの完全な取り越し苦労だったとしか言いようがない。
二人が廃墟と居住区を抜けて屋敷へと歩いていると、貯水池付近で子供達が洗濯物を取り込んでいるのが目に入った。同時に子供達も二人に気付いたようで、何故かポカンとした表情で見ていた。その中の一人が頭に疑問符を浮かべつつ訊いてくる。
「あれ?お二人とも試練に向かったのでは……何か不都合でもあったんですか?」
どうやら何か問題があったから一時的に帰って来たのだと思っているようだ。それならば二人を見た時の表情も頷けるというものである。
「いや、試練をクリアして帰って来たところだ」
「え⁉︎ たったの二日でですか⁉︎」
上哉の言葉を聞いてポカンとしていた他の子供達の表情が驚愕と尊敬に変わる。今までは日銭を稼ぐのが精一杯だったのに、加入した新たな同士は格上のコミュニティが開催するギフトゲームをあっさりとクリアする程の猛者なのだ。子供達にとっては憧れの人物と言ってもいい。
「取り敢えず黒ウサギ達にも知らせねぇとな」
十六夜の提案で子供達と別れて貯水池を後にする二人。一日とはいえ野宿をした後に屋敷に帰ると、不思議と久しぶりな感覚に陥るのは気のせいだろうか。
屋敷内にいた子供達に黒ウサギ達の居場所を訊き、食事中だということで食堂に向かった。
「あれ?お二人とも試練に向かったのでは……何か不都合でもあったのですか?」
何やら何処かで聞いたことのある黒ウサギの台詞に十六夜はクツクツと笑い、上哉は黙って紅と蒼の宝玉を取り出して机の上に置く。
「戦利品だ」
「え⁉︎ たったの二日でですか⁉︎」
完璧にシンクロした反応に十六夜は堪え切れずに哄笑を上げ、そんな十六夜を飛鳥と耀は訝し気に見てから顔を見合わせている。
黒ウサギは少しの間唖然としていたが、食堂・晩飯時という状況を思い出して慌て始めた。
「あ、すみません。まさかここまで早く帰られるとは思っておらず御食事の用意が……今すぐ御用意をーーー」
「俺はそこまで腹は空いてない。用意なら逆廻の分だけでいいぞ」
“わ、分かりました‼︎ ”と言って厨房に走っていく黒ウサギ。その背中を見つつ、耀がふと思い出したという風に言う。
「そう言えば、上哉」
「なんだ?」
「上哉ってご飯食べてるの?」
唐突な耀の質問に対し上哉はピクリと反応するだけで、言葉を発する前に十六夜と飛鳥が口を開く。
「普通に肉を捌いて食ってたぜ?」
「春日部さん、どうしたの突然?」
「うん。昨日たまたま狐耳の女の子の独り言が聞こえてきたんだけど、“今日は十六夜様の分のご飯も準備しなくていいのか”って……“も”ってことは普段から上哉の分の料理は作ってないってことだよね?」
耀の言葉を聞いて十六夜と飛鳥は箱庭に来て試練に向かうまでの食事を思い返すが、上哉が“ノーネーム”で何かを食べているという記憶は一切なかった。今と同じように、何時も何かしらの理由を付けて食事の席に座らないようにしていたと思う。
「……何時かは話す時が来ると思っていたが、ここまで早くバレるとは思わなかったな」
上哉も必要以上に隠すつもりはなかったようで、溜め息を吐きつつ遠回しに耀の言葉を肯定する。
「なんてことはない、ただの身に付いた習慣として自分で作っているだけだ」
「習慣?自炊してたの?」
「あぁ。ーーー
唐突な耀の質問に帰ってきた上哉の返答も、平和な世界で暮らしてきた三人からすればまた突拍子のないものだった。
上哉は色々と訊きたそうな三人の機先を制するように話を続ける。
「もちろん“ノーネーム”の人間がそんなことをするとは思っていない。話し始めたら長くなるから省くが、過去に似たような状況で毒を盛られたことがあって以降、少しでも自分の目が離れた料理は食べないようにしている」
淡々と話している内容は、壮絶な上哉の過去の一端を物語っていた。逆にどうして淡々と話せるのかが分からないような内容だ。
「でもそれは貴方の世界での話でしょう?ゆっくりでもいいから直していったらどうかしら?そうすれば狐耳の女の子も喜んでくれるだろうし、私もみんなで食べる方が楽しいと思うわ」
上哉が内心どう思っているかはともかく、飛鳥としては彼に悲しい話を続けさせるのは嫌だと思ったので方向性を変えることにした。過去にどんな人達にどんなことをされてきたのかは知らないが、自分達と出会った箱庭でくらいなら幸せになってほしいとも思う。
「……あぁ、考えておく」
出会ってからの飛鳥の言動を考えれば、本当に自分のことを考えて言っているのだろうということは上哉にも分かる。恐らく普段通りに話しているのも意図してのものだろう。それに応えるためにも、今後どうなるかは分からずとも前向きな姿勢は見せておこうと上哉は思った。
「十六夜さん、お待たせしました‼︎」
話の内容に反して後味が悪くならなかった空気の中、黒ウサギの慌ただしくも明るい声がさらに上書きされる。
だが、今のような話から生まれた空気を引き摺る必要は何処にもないのだから、それでよかったのだろう。上哉にはまだ参加できるとは思えないが、飛鳥が言っていたように楽しみたいと思う食事の時間なのだから。
★
上哉と十六夜が試練をクリアして帰ってきてから二日後。上哉達は箱庭第五桁・二六七四五外門に本拠を構える“ペルセウス”へと赴いていた。
“ペルセウス”の本拠である白亜の宮殿内部には黒ウサギが向かい、今頃は二つの宝玉を差し出してゲームの開始を迫っているところだろう。
少しして中から彼女が戻ってきて、手に持つ“契約書類”を五人に見せてくる。
【ギフトゲーム名 “FAIRYTALE in PERSEUS”
・プレイヤー一覧:逆廻十六夜、久遠飛鳥、春日部耀、不夜上哉
・“ノーネーム”ゲームマスター:ジン=ラッセル
・“ペルセウス”ゲームマスター:ルイオス=ペルセウス
・クリア条件:ホスト側のゲームマスターを打倒
・敗北条件:プレイヤー側のゲームマスターによる降伏。プレイヤー側のゲームマスターの失格。プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合。
・舞台詳細・ルール:ホスト側のゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない。ホスト側の参加者は最奥に入ってはいけない。プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く)人間に姿を見られてはいけない。姿を見られたプレイヤー達は失格となり、ゲームマスターへの挑戦資格を失う。失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うだけでゲームを続行する事はできる。
宣誓:上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。
“ペルセウス”印】
“契約書類”を確認して承諾した直後に光に呑まれ、気付けば周りは切り離された空間のような場所へと変貌していた。
「……このルールなら、俺一人で五秒と掛からずにクリアできると思うが……どうする?」
“契約書類”の文面を見て上哉は告げる。瞬間移動を可能とする彼ならば、今すぐにでもルイオスの背後に移動して意識を刈り取ればそれで終了となる。
それをわざわざ言葉に出してみんなに質問したのは、短い付き合いながらも彼らーーー十六夜、飛鳥、耀の性格を知っていたからだ。
「「「却下、そんなの面白くない」」」
声をハモらせて言い返す三人に、動作を揃えて溜め息を溢す黒ウサギ、上哉、ジンの三人であった。レティシアが賭かっているのに不謹慎というべきか、それともこんな状況でも変わらない三人を頼もしく思うべきか、悩みどころである。
「言うと思ったよ。だがなんの策もなく、俺がクリアできないと判断するような策ならば許容できないぞ?」
効率を優先してクリアを確実にするならば、彼らの主張を無視してしまうのが最善であろう。しかしそれでは三人は何も成長することができない。箱庭で戦い抜くためには積める経験は積ませた方がいいと上哉は考えた。
「安心しな。お前抜きで打てる最善の策を許容させてやるよ」
十六夜の提示した策は、一人がジンと一緒にゲームマスターであるルイオスを倒し、一人が見えない敵を察知して撃退し、一人が失格覚悟で囮と露払いをするという役割分担だった。
結果としては、最も戦闘能力が高い十六夜がジンとともにルイオスを倒し、見えない敵を感知した実績のある耀が五感を駆使して索敵と撃退を行い、一対一よりも不特定多数を相手にする方に向いている飛鳥が囮と露払いの役割を担うこととなった。
「不夜はどの役割でも果たせそうだから何処でもいいぜ。どうする?」
「そうだな……」
確かに十六夜の策は現状打てる最善の策であろうが、だからと言って成功するとは限らない。これを確実に成功させるのが自分の役割だと上哉は考え、
「久遠に着いていって露払いをしつつ、春日部の索敵・撃退をサポートし、逆廻が見つかってもルイオスに何時でも挑めるように姿を隠しておこう」
「そ、そんなことができるんですか?」
上哉が自分に課した無理難題を聞いて、黒ウサギは驚きながらも疑問を呈する。
「可能だ。……ジン、少し近くに来い」
「は、はい」
突然指名されたジンは、大きなゲームの前に緊張しつつも言われた通りに上哉へと近付く。それを見ていた四人は、白夜叉の試練に挑もうとしていた耀に“
「何をするんですか?」
「ジンが見つかって負けることがないようにしておく」
言いながらジンの頭に手を置き、彼の身体周囲の空間を指定して改変を行う。すると見る見るうちにジンの身体が薄れていき、最終的には完全に姿を消した。
「空間を捻じ曲げて光学迷彩のように景色と同化させた。光を透過・偏向しているだけだから春日部にはいるのが分かるだろう?」
上哉の問いに首肯する耀。ジンの姿は見えないが、ジンの匂いは変わらずそこにある。言ってしまえば“ペルセウス”の見えない敵と同じ状態だ。これに“空間支配者”の空間把握を加えて自らも透明化すれば、確かに全ての役割を果たせることになる。
「逆廻にも同じ対処をすれば手っ取り早いが、それだと俺がルイオスを倒すのと変わらないからな。あくまで俺は負けないサポートに徹させてもらう」
ーーー勝利を勝ち取るのはお前達だ。
言外にそう言う上哉の檄を聞き届け、改めて気合いを入れ直す三人。
だが黒ウサギはやや神妙な顔で不安を口にする。
「残念ですが、十六夜さんでも必ずルイオスさんに勝てるとは限りません。彼自身はそれほど強くありませんが、彼が所持するギフトはーーー」
「隷属させた元・魔王様」
「そう、元・魔王の……え?」
黒ウサギの話に割り込んだ十六夜の一言に彼女は一瞬言葉を失ったが、彼は素知らぬ顔で構わず続ける。
「もし“ペルセウス”の神話通りなら、戦神に献上されたゴーゴンの生首がある筈がない。それにも関わらず奴らは石化のギフトを使っている。つまり神話以外に登場するゴーゴンの生首を使っているということになる。これらを合わせて考えるとーーー」
「奴らは星座としての“ペルセウス”である。ならば奴のギフトは“アルゴルの悪魔”ーーー“悪魔の頭”という意味を持つペルセウス座の
今度は十六夜の話に上哉が割り込み、最終的な結論を述べた。
「せ、星霊って……」
「白夜叉と同じ……」
十六夜と上哉の推測を聞いた飛鳥と耀は、“ペルセウス”の予想以上の切り札の可能性に固唾を呑んでいた。
「まぁ星霊の力を十全に使えるならば、奴の性格的に“サウザンドアイズ”の傘下にいるということはないだろう。何かしら制限があると考えるべきだ」
上哉は二人の緊張を
「……驚きました。上哉さんはともかく、十六夜さんも意外と知能派だったのですね」
「心外だな。俺は生粋の知能派だぜ?」
言葉を失っていた状態から戻ってきた黒ウサギの発言に、十六夜は軽薄に笑いながら胸を張って自らを親指で指し示す。
作戦会議も終わり、ゲームを開始するために白亜の宮殿の門前に立つ“ノーネーム”一同。
「それじゃあ、正々堂々と真正面から完膚無きまでに勝たせてもらうとするか‼︎」
十六夜は宣言するとともに拳を作り、振りかぶって思いっきり白亜の宮殿の門を殴り付ける。
轟音を立てて門は吹き飛んでいき、“ペルセウス”へ向けて派手に開戦の狼煙を上げるのだった。
食堂の下りはどうしても“ペルセウス”戦後の一コマに必要だったので、原作での女性陣作戦会議の代わりに挟み込みました。上哉君の過去話については原作二巻でちょこっとやるつもりです。
そして期待されている人がいるかどうか分かりませんが、上哉君はルイオス・アルゴールとは戦わない予定ですので悪しからず。