異端者も異世界へと呼び出されたようですよ?(一時凍結) 作:レール
宣言通りもう一つの作品を優先しつつ現実も忙しくなってきたためこれまで以上に更新は遅くなると思いますが、最低でも月一で更新していくつもりですのでよろしくお願いします。
それではどうぞ‼︎
十六夜が勢いよく開幕を告げた後、十六夜と耀とジンの三人は迅速にその場を後にし、正面ではなく外回りに白亜の宮殿内部へと姿を消した。ジンは上哉の手によって透明化しているものの、開始直後の轟音を聞いて“ペルセウス”の騎士が駆けつけて姿を見られたら元も子もないからだ。
逆に囮と露払いの役を請け負った飛鳥と透明化できる上哉は、悠然と三人を見送ってからゆっくりと歩いて正面へ向かう。
“ペルセウス”の本拠地というだけあって面積は広く、正面入り口まで多少距離があるため飛鳥は歩きながら上哉へと問い掛けた。
「上哉君はどうして私の方に来たの?」
「多勢を相手取るからには人数がいるに越したことはないと判断したからだ。サポートするにしても直接戦った方が効率がいい」
上哉の好む戦闘は様々な道具を駆使した格闘戦を中心に、それをギフトで補うというのが基本戦術だ。
だが飛鳥は上哉の返答に納得がいっていないようで、さらに言葉を続ける。
「……これは私の自意識過剰かもしれないんだけど……」
「なんだ?」
「……私を心配して一緒に来てくれたってことはない?……ガルドを殺した私が対人戦闘をすることに対して」
飛鳥もただ言われたことを信じる馬鹿ではない。上哉の言い分は間違っていないと思うが、だからこそ見えない“ペルセウス”の騎士を耀とともに把握できる彼が相手取り、飛鳥が危ないと判断した時にサポートする方が勝率はいいはずだ。
何故なら飛鳥はあくまで囮であり、“ゲームマスター”であるルイオスへの挑戦資格を放棄して相手に姿を見せるのだから。
「……あぁ、自意識過剰だ。俺がそんな人間に見えるのか?」
「見えるわ」
上哉が自嘲気味に否定するのに対して考える間も無く即答する飛鳥。彼女が箱庭に来てから知り合い少ない日数で得た上哉のイメージは、“関係のない他人には酷く感情が乏しく合理的に物事を考えるものの、関係を持った相手にはぶっきらぼうで分かりにくいながらも手を貸す優しい人物”である。
本人が否定していたとしても、上哉と接してそれを実感してきた飛鳥には効率だけを優先して自分に着いてきたとは思えなかった。
「……まぁ、多少はそういう思惑があったことも否定しないが、他にもーーーっと、もうお喋りの時間は終わりだ」
既に白亜の宮殿の正面入り口まで距離もなく、耳を澄ませば“ペルセウス”の騎士達の声も聞こえてくる。
姿を見られては挑戦権を失い保険としての役割も果たせなくなるので、ジンに施した透明化と同じものを自身にも展開して飛鳥の視界から徐々に消えていく。
「俺はあくまでサポートだからな。油断はするなよ」
「あ、ちょっと待ーーー」
飛鳥が呼び止める間にも消えていき、すぐに誰も見えなくなった。相手に透明化した自分の存在を知らせないためか、声も発さないので彼女には何処に上哉がいるのかも分からない。
「ハァ……取り敢えず、私の攻撃に巻き込まれるなんてことはないようにお願いね。多分無差別になると思うから」
飛鳥は見えはしないがいるであろう上哉に心の中で感謝しつつ注意を促し、少し軽くなった気持ちで白亜の宮殿へと入っていくのだった。
★
白亜の宮殿に足を踏み入れてすぐ、飛鳥はギフトカードを掲げ、そこに入れたままの水樹から水のみを顕現させて騎士達を洪水の如く呑み込んだ。
「さぁ、お相手願いましょうか」
襲撃から態勢を立て直している騎士達へと向けて飛鳥が言い放つと同時、さらに水量が増して彼女の姿を包み隠す。そして水のヴェールが晴れた次の瞬間には、顕現して成長した水樹とその枝に乗る飛鳥が姿を表した。
「水樹よ、纏めて薙ぎ払いなさい‼︎」
飛鳥は水樹に命令すると、上哉に宣言した通りに白亜の宮殿も騎士達も消えている上哉も関係なく攻撃し始めた。
(なるほど、本拠を破壊して自分を無視できないようにする作戦か)
水樹から発射される高圧縮された刃物のような水を避けながら、飛鳥の思惑を理解する上哉。
本来のギフトゲームならば本拠を保護するギフトを準備してからゲームに望むのであろうが、ルイオスが何処までも“ノーネーム”を舐めきっていたことと、一週間と経たずに試練をクリアするとは思っていなかったであろうことから本拠の保護は準備不足のようだ。それは飛鳥の暴挙に対して焦る騎士達の声からもそのことが窺える。
「ええい、小娘一人に何を手間取っている‼︎」
「不可視のギフトを持つ者は残りのメンバーを探しに行け‼︎」
一人の騎士が大声で命令し、見えない騎士達の大半がその場から離れていくのを上哉は感じ取っていた。だが言葉にした命令に反して少数の見えない騎士が残っていることも感じ取った上哉は、騎士達のゲームメイクに少し感心していた。
(今の命令で少なからず久遠の意識は見えない敵から逸れたはずだ。本拠を守るためにも奇襲に出たか)
騎士達が飛鳥に対して為す術がないのは、水樹の広範囲攻撃と狙撃を組み合わせて狙われるからだ。上哉と同じように姿を消し、無差別に振るわれる攻撃にさえ気を付けていれば避けられないことはない。
だがそれは同時に、騎士達も攻撃と回避に意識が集中して攻撃されるという意識が疎かになるということだ。そこを上哉は音もなく狩っていく。
「ぐわッ⁉︎」
「え?」
突然聞こえてきた呻き声に、飛鳥だけでなく騎士達も疑問符を浮かべる。飛鳥は突然何もいない所から声が上がったことに、騎士達は透明化した同士が何をしているのか、といった疑問だ。
その後も続けて呻き声が続いたかと思うと、次の瞬間には透明化していた二人が透明化のギフトーーー“ハデスの兜”のレプリカを取られて倒れた姿が現れた。それによってその場の全員がその意味を理解した。
「“ノーネーム”にも透明化のギフト持ちがいるぞ‼︎」
「周囲を警戒しろ‼︎ 些細な変化でもいい、敵の位置を割り出せ‼︎」
上哉の存在に気付いた騎士達は今まで以上に周囲へと意識が向かい、今度は上哉に気を取られ過ぎてこれまで避けられていた飛鳥の攻撃にも当たるようになってしまった。
「ありがとう、助かったわ」
そして騎士達が飛鳥の操る水樹によって蹂躙される中、独り言のように感謝を述べる飛鳥。もちろん透明化しているのが一人であると悟らせないために名前は伏せている。
(さて、この場の見えない敵は倒した。見える敵も問題ないだろう。あちらも順調にーーー)
“空間支配者”で十六夜達の動向も窺っていた上哉だが、順調に見えない敵を撃破して“ハデスの兜”のレプリカを手に入れた十六夜とジンをルイオスの下へと送り出した耀が、次の瞬間には殴り飛ばされていた。
(どうして避けられなかーーー兜の細部がレプリカと違うな…ということは本物の“ハデスの兜”か?)
上哉には本物であろうと偽物であろうと空間に存在する以上は把握できるため気付くのに遅れたが、現在耀の近くにいる見えない敵は手に入れた二つの兜と比べて
その後は何とか躱し始めて攻防を繰り広げていたが、戦闘の流れが硬直状態になりつつある。
(……仕方ない、少し手を貸すか)
★
耀は見えない敵を相手に苦戦を強いられていた。苦戦といえば語弊があるかもしれないが、耀が押されているのではなく戦闘が長引いているのだ。その理由は敵が見えないからではなく、攻撃がまともに入らないところにあった。
本物の“ハデスの兜”は熱量・臭気・物音でさえ完全に消し去る代物であり、幾ら五感の優れた耀でも最初は訳も分からず攻撃を受けていた。だがそれにも耀はすぐに対応して見せ、透過はできない“ハデスの兜”を冠った敵の位置を超音波の反響を利用して特定したのだ。
そして無防備に攻撃してくる敵に対し、耀はカウンター気味に回し蹴りで襲撃して蹴り飛ばした。しかし耀の脚力を持ってしても一撃で沈めることはできず、その後は超音波で見えない敵を感知しつつもただの格闘戦へと
(私にもう少し力があれば一撃で終わってたのに……)
耀の力は野生の力が上乗せされているため、一般的な女の子と比べれば桁違いに人間離れした力であると言える。だが力が強いだけで平和に過ごしてきた耀の格闘術はあくまで我流であり、戦闘経験の浅い耀が細かい駆け引きなどできるはずもなかった。
逆に相手は仮にも五桁のコミュニティで戦ってきた歴戦の騎士であり、純粋な力では耀に及ばずとも武練と戦闘経験を活かした格闘戦で応戦している。
耀は力と速さで戦い、騎士は戦闘経験で戦う。耀が拳を繰り出せば騎士は拳筋を読んで対応し、騎士が武器の鉄槌を振り下ろせば耀は野生の反射神経と膂力で対応する。
二人はお互いに相手より劣っている分野で戦いを展開しているため、お互いに優れている分野がそれを凌駕することで千日手の様相を見せ始めていた。
(何かこの状況を崩す切っ掛けがあれば……)
と、藁にも縋る思いで思考を展開させながら何度目か分からない鉄槌の振り下ろしに対応しようとしたその時、
「なッ⁉︎」
鉄槌を振り下ろした騎士が驚愕の声を上げた。だがそれも仕方がないだろう。鉄槌が耀に到達する前に何もない空間で弾かれてしまい、予期せぬ衝撃に手が痺れて鉄槌を落としてしまったのだ。
耀は箱庭に来た初日に同じ現象を目の当たりにしているので、何が起こったのかすぐに分かった。さらに超音波で周囲を探っている最中だったので、より鮮明に何が起こったのかを理解することができた。
振り下ろされる鉄槌の軌道上に、鉄槌より少し大きい程度の物理障壁が展開されたのだ。それも耀の動きは阻害しないように振り下ろし始めてすぐの所に展開されたため、現在の騎士の態勢は腕を挙げた状態で腹部が無防備になっている。
(ここだ……‼︎)
耀は透かさず騎士の懐に潜り込んで渾身の力で両手の掌底を叩き込む。
(一気に決める……‼︎)
相手は同じような不意打ちでの最初の一撃にも耐えたので、此処で耀も手を止めるようなことはしない。
掌底を叩き込まれて身体がくの字に折れ、頭が下がった騎士の顎へとバク宙の要領で膝蹴りを放つ。さらに跳び上がった状態で鷲獅子のギフトを使用して大気を踏み締め、全身のバネを利用して騎士の斜めに浮いた身体目掛けて突撃し、両拳を胸に突き立てる。さらに勢いを殺さず騎士の服を掴んで一回転し、遠心力を利用して思いっきり壁へと投げつけた。
その拍子に“ハデスの兜”が頭から取れて騎士の姿が現れる。
「これで…どう……?」
全力で連続攻撃を繰り出したため、多少息切れしながら地に伏せている騎士を眺める。騎士は力を振り絞って起き上がろうと
「……ふぅ。上哉、ありがとう」
気を失ったのを確認してから緊張を解き、この場にいない人物へと向けて感謝の意を示した。
★
(これで春日部の方も問題ないな)
耀が苦戦していたのは、本物の“ハデスの兜”であったことや本物の兜を与えられる程の実力者であったことが原因だ。そもそも既に十六夜とジンがルイオスの元へと向かっている以上、それが判明すれば相手が耀を執拗に追い回すことはないだろう。飛鳥が今現在も戦闘をしているのは本拠を破壊していて放っておくことができないからだ。
(それももう終幕を迎える。残るは逆廻とジンだけだ)
上哉は二人が最奥の最上階に到達したのを把握してジンの透明化を解除する。兜を取った十六夜とともに姿を現した二人に対し、ルイオスは翼の生えた靴で空を飛んで炎の弓をギフトカードから取り出していた。もう少しで最後の戦闘が始まるだろう。
(……流石に星霊のギフトを“空間支配者”で防げるとは思えないな)
戦闘が始まればルイオスはすぐにでも星霊を召喚するだろう。レティシアに向けられた“ゴーゴンの威光”を防ぐことができたのは、あれが星霊の発したものではなかったからだ。仮に星霊が発したものであれば、展開した物理障壁ごとレティシアを石化させていたに違いない。
そして一度星霊が解き放たれれば、少なくとも白亜の宮殿内にいる人間全てを石化させることぐらい容易いだろう。上哉もこのままでは石化させられてしまうだろうことから、保険としては働くためには何かしらの対策を施す必要がある。
ルイオスが何やら飛び上がって首元にある装飾に手を伸ばした段階で上哉も準備を開始する。
「……全てを斬り裂く不滅の刃よ。その存在を持って我に力を示せ」
飛鳥に聞こえないよう音声遮断障壁を展開しながら上哉は静かに詠唱を唱えた。
「顕現せよ、
詠唱により異空間に封印されている武具の一つが顕現する。現れたのは細長く鋭い両刃の長剣であり、剣そのものが圧倒的な威圧感を放つ伝説上に存在する聖剣・デュランダル。
だが、このデュランダルは“ペルセウス”の“ハデスの兜”同様の存在、謂わばレプリカであって性能としては限りなくよく斬れる長剣でしかない。
「デュランダルを携えし聖騎士よ。我が身に宿りて現世に降臨せよ」
さらに詠唱は続き、デュランダルを手にした上哉を依り代にしてレプリカを本物足らしめる存在を呼び出す。
「憑依せよ、シャルルマーニュの聖騎士・英霊ローラン」
ローランとは、フランスの叙事詩 “ローランの歌”に登場するデュランダルの使い手である。
“神依の武具”は伝説の武具のレプリカとしての性能とともに、然るべき存在が手にすればその性能を本物と同等にまで高める武具なのだ。デュランダルの使い手であるローランを憑依させた上哉が使うそれは、既によく斬れる長剣ではなく全てを斬り裂く長剣へと変貌していた。
上哉が準備を整えて憑依状態により霊格が肥大したのと同時にルイオスが星霊を召喚し、白亜の宮殿をレティシアを石化させた光と同じ褐色の光が閃いた。それに対して上哉もデュランダルで迎え撃つ。
本物のデュランダルの性能は全てを斬り裂く力に加え、その名が示す通りの不滅を謳う刃である。たとえ光であろうとそれが刃を損なうものであれば斬り裂いていく。
そこでふと、状況を把握できていない飛鳥が視界に入り込む。
自身の力をできる限り隠蔽して底を見せないようにしている上哉にとって、この場面では飛鳥を見捨てるのが最善である。十六夜が勝てば石化は解除できるし、十六夜が負けてもその後に上哉が瞬殺すれば結果は変わらない。
なのに、気付けば飛鳥の前に躍り出て褐色の光を斬り裂いていた。
「久遠、大丈夫か?」
上哉はデュランダルを封印し直し、ローランの憑依を解いてから飛鳥の前に姿を現す。
呼ばれた飛鳥は突然の光で瞑っていた目を開けて愕然とした。自分達から後ろだけを避けるように世界の全てが石化していたのだ。
上哉がデュランダルも消してローランの憑依を解いたのは、ルイオスが二回も無差別に世界を石化させる可能性は低いと考えてのものだった。
「……貴方が…これを防いだの?」
飛鳥は愕然としたまま周囲を見回し上哉へと疑問を投げかける。明らかに“空間支配者”で防いだものではないと分かるが、これを上哉が防いだのだと半ば確信していた。
「あぁ。だが方法を言うつもりはない」
上哉もこの状況で誤魔化せるとは思っていないようで、逆に開き直って肯定しつつ口を閉ざした。
「まぁ、訊かれたくないものを無理に訊き出すつもりはないけれど……」
相変わらずの秘密主義である上哉から意味もなく訊き出せるとは思っていないので、飛鳥も詰め寄ることはせず素直にこの場は引くことにする。
「今は逆廻が戦闘中だ。俺達ができるのは待機することだけだろう」
その後少ししてから勝敗が決したようで、“契約書類”が舞い降り“ノーネーム”の勝利が宣言されてから元の世界へと戻っていった。
今回最も原作と違う動きをしたのは耀であると思います。十六夜がいないから一撃で仕留めきれず、最後は相手をフルボッコにしました。
遂に上哉の力の一端も発揮され、“神依の武具”という謎武器も出てきました。全てとは言いませんが、これらは原作二巻で明かされることでしょう。