異端者も異世界へと呼び出されたようですよ?(一時凍結) 作:レール
まぁ早めといっても二週間近くは経ってるんですけどね……内容もあまり進んでいませんし。
それではどうぞ‼︎
リリが持って来た手紙の内容を要約すると、“祭りに行ってくる。祭りのことを隠していた罰として捕まえられなければコミュニティを脱退する”というものだった。追記として“ジンも連れて行く”とも書かれている。
「これは黒ウサギも爆発するな……」
確認した上哉は呆れを含む声音で呟きを漏らす。
黒ウサギは“ノーネーム”を建て直すため、上哉を含む四人をわざわざ異世界から召喚したのだ。その過程はどうあれ、コミュニティに属している者が軽々しく脱退を口にしていい訳がない。
「こうしてはいられません‼︎ すぐに確認をーーー」
「確認したが、領地内のめぼしい場所には四人とも居なかったぞ」
「……さ、流石お仕事の早いことで…………」
黒ウサギが駆け出そうとしたところで上哉が報告する。彼のギフト、“空間支配者”を駆使すれば領地内の確認など造作もないことであった。
「“火龍誕生祭”に行くには“
「ちょっと待て。上哉は北側の大祭を知っていたのか?」
淡々と行動方針を決めていく上哉へと疑問を投げ掛けるレティシア。
手紙を読む前、コミュニティ再建の話をしている時にも北側の大祭の話は少し出ていたのだが、その時にも手紙にも“火龍誕生祭”という名称は出ていない。
「日頃から情報収集をして耳には入っていた。言う必要性は感じなかったので黙っていたがな」
何時の間に情報収集などしていたのかと驚く黒ウサギとレティシアだが、今はそれよりも北側に向かった十六夜達を捕まえる方が先である。
「ならばギフトで“境界門”付近も確認できないのか?」
「残念ながら適応外だ」
上哉の索敵能力の詳細は知らないが、黒ウサギに負けず劣らずの性能を持っていると思われる上哉でも探すのは難しいようだ。
「では仕方ないな。黒ウサギは上哉の言う通り“境界門”へと確認に向かってくれ。捕まえられずとも“箱庭の貴族”であるお前なら“境界門”の起動に金は掛からない。私と上哉は“サウザンドアイズ”の支店に行く。招待状を出したのが白夜叉ならば無償で北の境界壁まで送り届ける可能性もあるからな」
「分かりました‼︎ ではまた後ほど……‼︎」
レティシアの指示を受け、黒ウサギは怒りで髪を淡い緋色に染めて爆走していく。その後ろ姿を見るだけで今回はかなりキレていることが想像できる。
「では我々も行くぞ」
走り去った黒ウサギを見送ったレティシアも上哉を促して“サウザンドアイズ”の支店に向かう。
「ハァ。手を煩わせるなよな、あいつらは……」
上哉は気怠げな雰囲気を隠しもせず溜息を吐きつつ、前を行くレティシアの後を追うのだった。
★
東と北の境界壁・自由区画・商業区。赤窓の歩廊。
そこにある店と店の間にある横道に十六夜と飛鳥は隠れていた。
「……いないか?」
「えぇ、多分。なんとか撒いたみたいね」
そんな場所で二人が何を警戒しているのかというと、もちろん黒ウサギの追跡を振り切るためである。
レティシアの読み通り白夜叉を頼った三人は難なく“火龍誕生祭”の会場である北側に着くことができたのだが、その直後に怒り狂った黒ウサギに追いつかれたのだ。その時に耀は捕まってしまい、残る逃走者は十六夜と飛鳥だけになってしまった。
安全を確認した飛鳥は大通りに出て、スカートを靡かせるようにステップを踏み振り返る。
「さ、それじゃ散策を開始しましょう。エスコートはお願いできるのかしら、十六夜君?」
「へぇ?てっきりエスコートを頼むような相手は不夜だと思ってたんだがな」
「……?どうしてそこで上哉君の名前が出るのかしら?それにいない人に頼める訳ないじゃない」
“ノーネーム”を出て北側へと行く前。もちろん三人は上哉も誘うことを考えていたが、黒ウサギと一緒にいたため断念したのだ。
「いやいや、歓迎会の日の夜は良い雰囲気だったろ?箱庭に来てからお嬢様との距離が一番近付いたのは不夜だと思ってな」
「それは私も近付いたと思いたいけど……………
……………どうしてあの日のことを知っているのかしら?」
普通に会話していた飛鳥だが、途中から頰を引き攣らせ始めた。それに比例するように十六夜の表情はニヤニヤしている。
「覗いてたからだが?春日部と一緒に」
「……し、趣味が良いとは言えないわね。覗きなんて」
「ちなみに春日部の感想としては、“赤面してテンパってる飛鳥可愛い”だそうだぞ?」
「……………」
引き攣っていた表情どころか身体の動きまで固まってしまった飛鳥。少しすると顔を背けるように身体を反転させてしまったが、その前に頰に朱が差しているのを十六夜は見逃さなかった。
「も、もうその話はいいわ‼︎ エスコートも結構よ。代わりに従者として付き合いなさい‼︎」
「……はい、畏まりましたお嬢様。お気の済むまで付き合わせていただきましょう」
恥ずかし混じりの声音で命令する飛鳥に、十六夜は芝居掛かった言葉遣いと仕草で返す。
散策を開始した飛鳥は最初こそ平静を保って主人よろしく上から目線を貫いていたが、美麗な街並みを見回っているうちに機嫌を直して普通に楽しんでいった。
★
「この中から探すのか……」
北側に着いた上哉は再び溜息を吐きそうになるのを抑え、祭り特有の人混みを前に辟易としていた。
“サウザンドアイズ”の支店に到着した上哉とレティシアは店前でいつもの女性店員に話を聞いたのだが、既に四人と白夜叉が北側に行った後だった。“ノーネーム”に“火龍誕生祭”の招待状を出したのは白夜叉なので二人とも送ってもらえたのだが、北側にある今は閉店した支店と東側の支店を繋げる時間を要したため少し遅くなってしまった。移動先には白夜叉を含めて十六夜達の姿はなく、先に来て探しているはずの黒ウサギと合わせて三人での捜索が始まったのだった。ちなみにレティシアは空から探しているので一緒ではない。
「人探しに向いてれば良かったんだが……愚痴を零していても仕方ないな」
上哉の“空間支配者”だが、広範囲を調べられるという反面、特定のものを探し出すということには向いていなかった。どう向いていないのかを端的に言うと、適応範囲内の輪郭だけが映し出されるような感じであり、人混みで人探しに使うには相手がそれなりに特徴的でなければ分かりにくいのである。
そもそも上哉はそこまで真面目に探すつもりはなかった。“軽々しく脱退を口にしていい訳がない”とは言ったが、あの三人が本気で言っているとは思えないので悪質な冗談だと受け止めていた。仮に本気なのだとしても自分には止める理由がないと考えている。
そんなわけで気楽に地道に探していこうと足を踏み出したのだが、
「ねぇ、そこの貴方」
声を掛けられてすぐに足を止めることとなった。
声の方を向けば、そこには白黒の斑模様のワンピースを着た少女がいた。見た目の歳はジンやリリとあまり変わらないであろう。
「……何か用か?」
話し掛けられた上哉は、少女から感じられる威圧感を警戒して応対する。威圧感とは言っても少女が分かりやすく敵意を向けて威圧している訳ではない。屹立する大木のように、内に秘められた存在感が大きいのである。
「そんなに警戒する必要はないわ。貴方が気になったから声を掛けただけよ」
警戒しているとは言っても警戒心を隠して平静を装っている上哉だったのだが、この少女はそれに気付くレベルの実力者ではあるようだ。
「そこまで気になるような出で立ちはしてないと思うが?」
「そんな表面の話じゃないわよ。そうね……貴方が私を警戒しているのと同じ理由、とでも言っておこうかしら?」
つまり第六感やインスピレーション、あるいは自己の経験から何かしらを感じ取ることのできた上哉への好奇心で声を掛けたと言うのだろうか。
「ということで、特に用があった訳ではないわ。けど貴方さえよければ一緒にお祭りでも回らない?」
「残念ながら人探し中なんでな。悪いが他を当たってくれ」
「……そう、それは残念ね。では機会があればまた会いましょう」
上哉が少女の誘いを断ると、思いの外すんなりと引いて人混みの中へと消えていってしまった。何となく少女が消えていった方向を見つめていたのだが、すぐに視線を逸らして十六夜達の捜索に向かうことにする。
暫くは色彩鮮やかなカットガラスや歩くキャンドルランプを眺めつつ捜索していると、
「なんか“月の兎”が向こうで戦ってるみたいだぞ‼︎」
「本当か⁉︎ “箱庭の貴族”の戦闘なんて滅多に見れないぞ‼︎」
「クソッ、今から見に行って間に合うか⁉︎」
という会話が耳に入ってきた。
どうやら黒ウサギが何者かと戦っているようだ。しかし“箱庭の貴族”の名は伊達ではなく、下層で黒ウサギと戦える者など限られている。
(このタイミングで黒ウサギと戦える相手となると……逆廻か。だとすれば残るは久遠と春日部の二人だな)
実際には既に耀が黒ウサギの手によって捕まっているので残るは飛鳥だけなのだが、そんなこと上哉が知る由もない。
「……ん?」
そんな風に考えていると、前方から何やら小さな黄色い物体が飛来してきた。ぶつかりそうだったので咄嗟に片手で掴み取って手の中を見れば、それはとんがり帽子を被った小人の女の子だった。
「んー?…………ひゃーーー‼︎」
小人は突然動きを封じられたことに疑問を抱いたのかキョロキョロと視線を動かし、上哉と目が合うと愛らしい声を立ててバタバタと手足をばたつかせ始めた。
「ちょっと待ちなさ……って上哉君‼︎」
その後を追うように飛鳥が姿を現した。
「久遠か。この小さいのがどうかしたのか?」
「いえ、近付いたら逃げ出したから追い掛けてたのよ。できれば仲良くなりたいと思ってね」
そう言う飛鳥を見れば軽く汗をかいており、手の中の小人を見れば疲れたのかばたつかせていた手足をだらんと垂らしている。二人で壮絶な追いかけっこをしていたのだとよく分かる。
「ところで上哉君。暇ならその子と一緒にお祭りを回らない?それとも何かしていたのかしら?」
「あぁ。誰かさんの手紙に書かれた、脱退なんて
上哉に言われた瞬間、サッと目を逸らして疲労とは違う意味の汗を流す飛鳥。別に上哉としては怒っている訳ではないが、彼女自身悪いことをしたという意識はあるようだ。
「……ハァ。後で黒ウサギに謝っておけよ。それはそうと、春日部はもう捕まってるのか?」
追及を早々に切り上げた上哉に飛鳥はホッと安堵し、訊かれたことについて答える。
「えぇ。私もレティシアに捕まったから残るは十六夜君だけだけど、今は黒ウサギと追いかけっこしているはずよ」
“やはり逆廻か”と先程の予想が当たっていたことを確認する。よって突発的に始まった“鬼ごっこ”は終わったのだと結論付けた。結果として上哉はただ祭りを見て回っていただけである。
「だったら最初の質問に対する答えは問題ない。ちょうど暇になったところだ」
答えを聞いた飛鳥は嬉しそうに笑みを浮かべ、小人を捕まえていない空いている方の手を掴む。
「よかった。だったら早く行きましょう。まだまだ見ていない場所がいっぱいあるもの」
手を引かれている上哉は、落ち着いている普段より年相応に楽しんでいる飛鳥を見て軽く頬を綻ばせる。偶には純粋に楽しむのも悪くないと思いながら、引っ張る飛鳥に抵抗せず祭りの喧騒の中を歩いていった。
★
「あれが、不夜上哉……ね。
そう呟くのは、少し前まで上哉と話をしていた白黒の斑模様のワンピースを着た少女である。二人はお互いに名乗っていないはずだが、少女は上哉の名前を口に出していた。
「本当に、機会があればまた会いましょう。近い未来、混乱と悲鳴が渦巻く戦場の中で……」
皆さん御察しの通り、あの斑ロリが早めに登場‼︎ “あの女”の存在がいったいどのような影響を与えるのか。
恋愛っぽい描写って醸し出すの難しい……。