異端者も異世界へと呼び出されたようですよ?(一時凍結) 作:レール
その代わりというわけではないですが、後半は結構オリジナルです。
それではどうぞ‼︎
境界壁の展望台にある“サウザンドアイズ”旧支店に帰ってきた上哉達はいつもの女性店員に迎えられ、“鬼ごっこ”の結果として問題を起こしたらしい黒ウサギと十六夜、その責任として二人とともに運営本陣営に呼び出されたていたジン、共同の主催者として同じく運営本陣営にいた白夜叉、“造物主達の決闘”というギフトゲームに参加していた耀ーーーつまり、“火龍誕生祭”へと赴いたメンバーが揃うのを待ってから風呂に入ることとなった。
実のところ、上哉は全員を待っていただけで十六夜やジンと一緒に風呂に入るつもりはなかったのだが、ついでに色々と話があるというので十六夜に連行させられていた。
「ーーー“魔王襲来”の兆しあり、か。また面倒な……」
二人から運営本陣営での話を聞いた上哉は率直な感想を述べる。
「不夜のギフトは利便性が高いからな。面倒だとしても、魔王が来たら前衛だろうが後衛だろうが働かざるを得ないだろ」
十六夜は口ではそう言ったが、もしそうなった場合に上哉が後衛というのは考えられなかった。
純粋な戦闘力という意味でもそうだが、効率優先でありながらツンデレの上哉は何かを言われる前に自主的に行動を起こすと思っている。
「楽観はできないものの今回は白夜叉様もいることですから、どちらかと言えば上哉さんは後衛の方に必要かもしれません」
十六夜とは逆で、上哉は後衛の可能性の方が高いとジンは考えていた。
最強の“階層支配者”である白夜叉が前線に出る以上、その戦闘の余波や不測の事態から衆人を守るのに広範囲を把握できる“空間支配者”は最適だと思っている。
「要するに臨機応変に動けるようにしておけということだろう。任せておけ」
魔王の力がどのようなものか分からないため、具体的な作戦など立てようがない。そういう状況ならば、前衛・後衛のどちらにしても応用性のある“空間支配者”は需要が高い。
「ーーーとまぁ、魔王の話はこれくらいにしておくか。……それよりも前から不夜に訊いてみたいことがあったんだ」
魔王の話は終わったと言っておきながら、十六夜の纏う雰囲気は非常に真剣なものだった。もしかしたら魔王の話をしていた時よりも真剣かもしれない。
質問の内容によっては答えないかもしれないが、上哉も真面目に聞く姿勢を取る。
「……お前のギフトで覗きってできるのか?例えば隣の女湯とか」
「……………真面目に聞いた俺が馬鹿だった」
十六夜の質問にしばらく言葉を失っていたが、今日一番の深い溜息を吐いて目を瞑り、肩まで温泉に浸かる。
そんな上哉の様子を見ながら雰囲気を崩して笑う十六夜であった。
「い、十六夜さん?いきなり何を言い出すんですか?」
困ったように訊き返すジンに、十六夜は何を当たり前のこと訊いているんだとでも言うように答える。
「おいおい、おチビ。男が温泉に来て考えることなんて決まってるだろ?」
「少なくとも覗きじゃないと思いますけど……」
「細かいことは気にするな。……で?実際どうなんだよ?」
もう関係ないとばかりに沈黙を続けていた上哉へと十六夜が話を戻す。
上哉はもう雰囲気から億劫そうにしていたが、十分温泉に浸かったことだし適当に答えてさっさと上がることにした。
「前に見せたレティシアの虚像みたいに、“空間支配者”で把握した場所を映像化させることで俺だけじゃなく逆廻達にも見せることが可能だ。無論そんなことは頼まれてもやらないがな」
質問に答えるだけ答えてから立ち上がり、上哉は二人より先に温泉から上がるのだった。
★
温泉から上がった一同は、レティシアと女性店員を除いて用意された来賓室へと集まっていた。
その来賓室の席の中心には白夜叉が陣取り、何時になく真剣な声音で話を始める。
「それでは第一回、黒ウサギの審判衣装をエロ可愛くする会議をーーー」
「始めません」
「始めます」
「始めませんっ‼︎」
初っ端からふざけ始める白夜叉と悪乗りする十六夜に、黒ウサギが速攻で断じていた。真剣な雰囲気からふざけに入る辺り、十六夜と白夜叉は似た者同士である。
真面目な話をすると、十六夜との“鬼ごっこ”で黒ウサギーーー“月の兎”が来ていることが判明してしまったので、ギフトゲームで見られるのではないかという期待が高まっているとのこと。主催者としてはそんな期待にも応える必要があると考え、審判・進行役を正式に黒ウサギへ依頼したいということだった。
黒ウサギも拒否する理由がないので快く引き受け、話の流れはギフトゲームの審判・進行役の依頼からギフトゲームの内容へと移っていく。
「白夜叉。私が明日戦う相手ってどんなコミュニティ?」
そのギフトゲームーーー“造物主達の決闘”に参加している耀が白夜叉に訊ねた。
「すまんが、主催者としてそれは教えられん。教えてやれるのはコミュニティの名前までだ」
そう言いながらパチン、と白夜叉が指を鳴らすと羊皮紙がその場に現れる。各々そこに書かれているコミュニティの名前を確認し、その中で飛鳥が驚いたように顔を丸くする。
「“ウィル・オ・ウィスプ”にーーー“ラッテンフェンガー”ですって?」
「うむ。この二つは珍しい事に六桁の外門からの参加者でな。詳しくは話せんが、格上と思って覚悟はしておいた方がいいぞ」
白夜叉の真剣な忠告に、コクリと頷く耀。
飛鳥と同じく上哉も内心では驚いていたが、格上どうこうよりもどちらの“ラッテンフェンガー”が出てくるのかが気になっている。決勝は補佐として一人だけ耀の他に参加できるようだし、場合によっては上哉も出た方がいいかもしれない。
「へぇ……“ラッテンフェンガー”?成程、
“
“契約書類”を睨みながら物騒に笑う十六夜の漏らした言葉に、黒ウサギと白夜叉が驚嘆の声を上げる。
「ハ、“ハーメルンの笛吹き”ですか⁉︎」
「待て、どういうことだ小僧。詳しく話を聞かせろ」
思いがけない反応に瞬きしている十六夜を見て、黒ウサギと白夜叉は説明をしてくれた。
“ハーメルンの笛吹き”とは“
「つまり、大元の魔王はいないが、その残党として“ハーメルンの笛吹き”が行動している可能性があるということか」
上哉が話の要点を纏めて相槌を打ち、黒ウサギも肯定するように頷く。
「はい。しかし黒ウサギは童話の類に詳しくありませんので、“ラッテンフェンガー”と“ハーメルンの笛吹き”との繋がりが見えません。十六夜さん、よろしければ万が一に備えてご教授していただけませんか?」
黒ウサギの要求は、魔王が現れた時のことを想定してのことだろう。事前情報があるのとないのでは雲泥の差だからだ。
「なるほど、状況は把握した。そういうことなら、ここは我らが御チビ様にご説明願おうか」
「え?あ、はい」
十六夜から唐突に説明役を任されたジンは、顔を
“ラッテンフェンガー”とは“ネズミ捕りの男”という意味のドイツ語であり、グリム童話である“ハーメルンの笛吹き”を指す隠語でもある。さらに言うならば、ハーメルンというのは舞台となった都市の名前であり、その街で起きた実在する事件を原型にして創作されたグリム童話が“ハーメルンの笛吹き”である。
「ふむ。ではその隠語が何故にネズミ捕りの男なのだ?」
話を聞いていた白夜叉が疑問に思ったことを問い掛け、ジンも淀みなく答えていく。
「グリム童話の道化師が、ネズミを操る道化師だったとされるからです」
「まぁ俺が確認した自称“ラッテンフェンガー”は女だったから、今回来てる奴は隠語とは少し異なるみたいだが」
何気なく呟かれた上哉の言葉に、その場の一同は頭上に“?”を浮かべている。
そんな中で逸早く言葉を発したのは、やはり“ラッテンフェンガー”と対峙するその場にいた飛鳥であった。
「あ、もしかして私達を襲ってきた相手のこと?」
「あぁ。今の話を聞くまで報告する緊急性を感じていなかったから、この話し合いが終わってから久遠だけに話しておくつもりだったんだ」
二人の会話を聞き、お風呂での“ネズミに襲われた”という話を思い出した女性陣は疑問が解消して驚きに変わっていく。ちなみに先にも言った通り、上哉は報告する緊急性または必要性を感じていなかったため、十六夜とジンに話していなかったりする。
「そ、そういえば、上哉さんと飛鳥さんはネズミに襲われたと聞きましたが……その相手が“ラッテンフェンガー”だと?」
「あぁ。相手がそういうニュアンスで喋っていただけで確証はないが、まず間違いないだろう。残念ながら捕縛はできなかったがな」
十六夜とジンが飛鳥や黒ウサギに話を聞いている横で、上哉も魔王の話を聞いて別の疑問を解消していた。
明日の耀の対戦相手である“ラッテンフェンガー”。群体精霊か魔王の下部コミュニティの二択ならば、出てくるのは展覧会にも出展していた群体精霊の方だろう。何かしらを企んでいるならば、そのような目立つギフトゲームに参加するわけがない。
「ふーむ。ということは“ラッテンフェンガー”が“ハーメルンの笛吹き”と仮定したならば、魔王の残党が既に忍んでいるのは確定か。早めに対策を立てておいて正解だったな」
「対策?何かしていたのか?」
十六夜達への説明が終わったところで白夜叉が結論付けたが、初めて聞いた内容があったため訊き返した。
白夜叉の言う対策とは、“参加者以外はゲーム内に入れない”・“参加者は主催者権限を使用できない”といったものであり、確かにこれならば魔王は“主催者権限”を発動するどころか“火龍誕生祭”に忍び込むことすら難しいだろう。
その場で話し合えることはもうないと判断して解散することとなり、明日に備えるためそれぞれに宛てがわれた自室へ向かうのだった。
★
「久遠」
「……上哉君?何か用かしら?」
上哉は来賓室から出て自室へと向かっていた飛鳥を呼び止めた。その手には眠っているとんがり帽子の精霊が収まっている。
「安心しろ。そいつは魔王の配下じゃない」
飛鳥は隠しているのだろうが、“ラッテンフェンガー”が魔王の配下であるという話を聞いてから不安になっているのが上哉には分かった。
唐突な一言に飛鳥は目を丸くして驚いていたが、不安に思っていると悟られたくないのか平静を装っている。
「……どうしたのよ突然」
「いや、勘違いならそれでいい。言いたいことはそれだけだ」
上哉も無理に指摘するつもりはない。ただ不安そうにしている飛鳥を安心させようと言いに来ただけの、謂わば自己満足だ。
上哉は言いたいことを言ったので、飛鳥に背中を向けて自室へと歩いていく。
「……………待って」
と、その背中に小さく声が掛けられた。
呼び止められて振り返った上哉が見たのは、平静を装っていた表情が剥がれて不安そうに目を伏せている飛鳥であった。
「その言葉、本当に信じていいの?」
表情を露わにした飛鳥の声は、その不安を表すように小さい。
「……昼間、無邪気にはしゃいでいたそいつが魔王の配下に見えたのか?ーーー俺の言葉を信じられないなら、そいつを信じてやれ。友達になったんだろ?」
そう言って再び歩き始めた上哉。飛鳥に表情を見られないようにした上哉の顔には、自嘲の笑みが浮かんでいる。
(“信じてやれ”、か。周りのほとんどが信じられなくなった俺の言う言葉じゃないな)
らしくないことを言ったと自覚しているが、言うだけなら問題ない。飛鳥の不安を取り除くために来たのだから、自分の感情など二の次だ。
(だが、もしも俺の考えが間違っていて群体精霊と魔王に関係があり、信じた久遠を危険に晒してしまったならばーーーその時は己の全てを賭けて助けよう)
自分の言葉に覚悟を決めて自室へと戻る上哉に、再び飛鳥の声が掛けられる。
「ーーー私はこの子を信じるわ。それに……貴方の言葉も信じられる。わざわざ言いに来てくれてありがとう、おやすみなさい」
「……あぁ、おやすみ」
お互いに表情は見えないが、少なくとも飛鳥の声にはもう不安を感じられず穏やかなものだ。
そのことに上哉は自嘲とは異なる笑みを自然と浮かべ、振り返ることなく就寝の言葉を送るのだった。
次はいよいよ斑ロリの登場‼︎ 上哉との再会の場面をどのようにするかは考え中です。