異端者も異世界へと呼び出されたようですよ?(一時凍結)   作:レール

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十二日遅れの明けましておめでとうございます!
今回は予告通り、審議決議まで進めていきます。

それではどうぞ‼︎


異端者、考えを改める

十六夜が白装束の女と軍服の男を落下途中で強襲している一方、遅れて彼に続いた上哉とレティシアは落下してきた斑模様のワンピースの少女と陶器の巨兵と対峙していた。

 

「……また会ったな。こんな所で再会するとは思わなかったぞ」

 

「昨日、“機会があればまた会いましょう”って言ったじゃない。また会えて嬉しいわ」

 

「こっちは全くもって嬉しくない」

 

これから戦うというのに他愛ないやり取りをする上哉と斑模様の少女に、レティシアは疑問を抱く。

 

「……上哉。あの少女と知り合いなのか?」

 

「知り合いという程じゃない。昨日逃走者三人を探している時に話し掛けられただけだ」

 

レティシアはギフトゲームをクリアするための情報を得られればと思って質問したのだが、軽く話した程度の上哉に有益な情報など与えられているわけもない。

 

「ーーーシュトロム」

 

斑模様の少女が呟くと、シュトロムと呼ばれた陶器の巨兵が全身の風穴から空気を吸い込んで四方八方に大気の渦を造り上げる。

 

「BRUUUUUUUUM‼︎」

 

「くっ……‼︎」

 

地上に生じた乱気流の渦が周囲の瓦礫を吸収し始め、翼を広げて空中を舞っていたレティシアもなんとか乱気流に引き寄せられないようにしていた。上哉は物理障壁の上に立っているので足腰に力を込めただけである。

 

「挨拶も済んだことだし、そろそろ始めましょうか」

 

開戦の合図とともにシュトロムから吸収して圧縮された瓦礫の山が放たれた。

同時に吸い込む力と放つ力が切り換わって乱気流が弱まったので二人とも難なく迫る瓦礫を躱したが、ちょうど上哉とレティシアの間に放たれたため躱した際に分断されてしまう。

 

「上哉、挟み込むぞ‼︎」

 

その状況を利用して相手の注意を逸らすように大きな声でやり取りするレティシアだったが、斑模様の少女は構うことなく上哉へと注意の割合を多く割いている。

 

(私への注意は最低限だけ……まぁ現状を考えれば当然か)

 

シュトロムの起こす乱気流の影響で思うように動けない()()()()()()()レティシアなど、相手から見れば取るに足らない存在であろう。

逆に上哉のギフトは初見では判断の難しい代物だ。鷲獅子のように旋風を操り大気を踏み締めているわけでもなく、パッと見ではなんの力場も発生させず空中に立っている彼に注意を向けるのは当然だと言えた。

 

(それならそれで好都合。遠慮なく行かせてもらうぞ‼︎)

 

シュトロムが吸収を止めて瓦礫を放出した瞬間、レティシアは翼を畳んで急加速することで少女の懐に攻め込み、ギフトカードから長柄の槍を取り出して少女の身体に突き刺した。

 

「やったかーーー⁉︎」

 

「やってないわ」

 

だが、レティシアが突き刺したと思った槍を見れば、驚くことに少女の身体に当たって拉げていた。

斑模様の少女は驚くレティシアを他所に槍を掴んで身体を引き寄せると、その手から黒い風を発生させてレティシアを捕縛する。すると、傍目から見ても分かるほどレティシアの意識が朦朧としていくのが見て取れた。

 

それを見た上哉は腰のホルスターから拳銃を取り出し、射撃線上からレティシアを外した位置で少女の側頭部へと狙いを定めて発砲する。と同時に少女の頭上へと瞬間移動し、レティシアを捕縛している腕に踵落としを放った。

防御も何もせずに槍の突進を受けて平然としていることから銃弾ごときでは致命傷など与えられないだろうが、発砲音とともに打撃武器として考えればレティシアから注意を逸らせるかもしれない。それでなくとも少女の死角となる頭上に瞬間移動したのだ。不意打ちで腕を蹴り抜けばレティシアを解放できると算段を立てたのだが、

 

 

 

「ーーーそんな小細工、私に通用するとでも?」

 

 

 

斑模様の少女は自らレティシアを手放すと、全方位に向けて黒い風による衝撃波を発生させ上哉やレティシア、迫る弾丸などの全てを吹き飛ばした。

 

「チッ……‼︎」

 

上哉は即座に体勢を立て直すと、再び瞬間移動して受け身すら取ろうとしないレティシアを受け止めた。どうやら今の衝撃波で完全に意識を断たれたようで、目を閉じてぐったりとしている。

サッと見て命に別状はなさそうだと判断すると、レティシアを異空間へと放り込んだ。これでレティシアの安全は確保されたと言っていい。

 

しかしレティシアの容態も少し心配だが、上哉にはそれよりも気になることがあった。少女が敵として現れた時からある疑問を抱いていたのだが、今の攻防でその疑問は確信に変わりつつある。

 

「……お前ーーー」

 

上哉が少女に話し掛けようとしたその時、紅い閃光がシュトロムを撃ち抜いた。紅い閃光はシュトロムの陶器のような身体を貫いた部分から溶解させ、原型を留めないほどに崩れ落とす。

 

「……そう。ようやく現れたのね」

 

上哉と斑模様の少女が見上げた紅い閃光の先には、轟々と燃え盛る炎の龍紋を掲げた北側の“階層支配者”ーーーサンドラが龍を模した炎を身に纏って見下していた。

 

「待っていたわ。逃げられたのではと心配していたところよ」

 

「……目的はなんですか、ハーメルンの魔王」

 

「あ、ソレ間違い。私のギフトネームの正式名称は

黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)”よ」

 

斑模様の少女改め“黒死斑の魔王”は律儀に自己紹介をすると、サンドラの問い掛けに対して太陽の主権者である白夜叉の身柄と星海龍王の遺骨である現在サンドラが付けている龍角が欲しいと言ってきた。それも欲しいから取りに来たとでも言いたげな軽い口調で。

サンドラはその口調に腹を立てている雰囲気だったが、彼女が口を開く前に上哉が発言する。

 

「おい“黒死斑の魔王”、俺からの質問にも答えてくれないか?」

 

“黒死斑の魔王”の目的を聞いた後、上哉も先ほど訊こうとしてサンドラに遮られた疑問をぶつけてみることにした。サンドラに目的を聞かれてわざわざ答えている辺り、案外普通に答えてくれるのではないかと考えたからだ。

 

「別にいいけど、何かしら?」

 

そして予想通り、少女は上哉の問い掛けに首肯してきた。

 

「お前、()()()()()()()()()()?昨日は偶然を装っていたが、俺のことを知っていて接触したんだろう?」

 

昨日会った少女が魔王として現れた時点で疑念を抱いていた。普通ならば魔王としてギフトゲームを始めるまで潜伏するか目立たないよう行動するのが定石だろうが、何の思惑があってか上哉に声を掛けてきた。

何よりも決定的だったのは、初見でありながら瞬間移動による奇襲を寸分の狂いもなく対処してみせたことだ。あれは上哉の“空間支配者(スペース・ルーラー)”を知らなければできない動きである。

 

「えぇ、その通りよ。貴方のことは大まかにだけど聞いているわ。神々に魅入られ、人類に見捨てられた人間……不夜上哉」

 

「神々に魅入られ…人類に見捨てられた……?」

 

“黒死斑の魔王”の発言を、サンドラは繰り返しながら上哉へと視線を向ける。その言葉の意味を今日あったばかりの彼女に理解できるわけがないし、“ノーネーム”の同士であっても確証のない推測しかできないだろう。

そんなサンドラの視線を無視して上哉は考える。

 

(ついに介入してきたか。問題はいったい誰が送られてきたか、だが……)

 

異世界ーーー箱庭に送り込んで上哉の対応をさせられるほどの実力者となると、上哉の知る限りでは思い当たる人物は両手の指で数えられる程度しかいない。

 

「もういいかしら?」

 

黙り込んだ上哉を見て、“黒死斑の魔王”は黒々とした風を両手から発生させる。これ以上話を聞くのは無理そうだ。

 

「上哉様。そちらにも気になることは御有りでしょうが、今は目の前の魔王を」

 

「あぁ、分かってる。アシストするからアタッカーを頼んだ」

 

サンドラは轟々と荒ぶる火龍の炎を両手に携えながら、上哉の提案の意味を理解したのか黙って頷いた。上哉も弾丸が衝撃波で弾かれないように拳銃、正確には装填された弾丸に圧力波遮断障壁を展開する。

お互いに実力も手の内も分からない以上、どちらかが一方に合わせた方が戦闘では上手く機能するはずだ。そしてその役割を担うとすれば、応用力のある“空間支配者”が最も適していると上哉は自負していた。

 

「では、行きます‼︎」

 

そう言うとサンドラは両手の龍炎を“黒死斑の魔王”へと放ち、“黒死斑の魔王”は両手の黒い風を荒ぶらせて放たれた龍炎を受け止めた。

二つの衝撃波が空間を歪めるほどの強大な力の波となり、境界壁を照らすペンダントランプを余波で砕いていく。

 

ペンダントランプの残骸が煌めきを放って霧散する中、上哉は残像を残すほど連続して瞬間移動を行い、目や喉元といった本能的に危機を察知する部位を中心に分かりやすく速射していった。

銃弾が決定打とならないのは百も承知しているが、流石の少女も眼球に弾丸が直撃して平然とできるとは思えない。弾丸を避けるなり防ぐなりすればわずかに隙ができる。それらを回避するために衝撃波で弾丸を弾こうものなら、圧力波遮断障壁に包まれた弾丸が構わず少女へと到達するだろう。そうなれば隙どころか視界を奪うことも可能かもしれない。

 

彼女は迫る銃弾を前に、眉根を寄せて不快感を露わにしながら銃撃を躱したり腕で弾いたりしていく。先ほどのように衝撃波で弾丸を弾かなかったのは、自身のギフトを見た上哉が弾丸に細工を施していると判断したからであろう。

その隙を見逃さずサンドラはさらに龍炎を叩き込んでいくが、“黒死斑の魔王”も負けじと銃弾を躱して弾く隙間を縫って黒い風で迎撃している。

 

(……見たところサンドラの火力ではあの黒い風を抜けそうにないな。……これは俺が前衛に出るしかないか)

 

弾丸を装填して銃撃によるアシストを続けながら、戦っている二人を見て力量差を確認した。現段階で劣っているわけではないが、優れているというわけでもない。膠着し始めた戦闘を打開するためには何かを仕掛ける必要がある。

 

上哉は弾丸の圧力波遮断障壁を解除し、“神依の不滅刃(デュランダル)”を呼び出す言霊の詠唱を唱え始めた。できる限り他人の目には晒したくなかったが、“空間支配者”と戦闘技術だけで倒せる相手ではないと判断する。

恐らく“神依の武具”や“降霊憑依術”も知られているだろうと考え、悟られないように音声遮断障壁を周囲に展開するのも忘れない。

 

「……全てを斬り裂く不滅の刃よ。その存在をーーー」

 

「ッ、させないわ‼︎」

 

やはり知っていたようで、それに口の動きだけで気付いた“黒死斑の魔王”が妨害に入った。これまでとは比較にならない勢いと範囲で黒い風が殺到する。

上哉は咄嗟に音声遮断障壁を解除して瞬間移動し、黒い風の吹き荒れる範囲から逃れた。圧力波遮断障壁を再展開してもよかったが、彼女が弾丸を防ぐのに黒い風を使用していないため防げると立証できていないものに頼るのは危険が大きい。

気付かれた以上は詠唱を隠蔽する必要もない。そのまま詠唱を続けようとしたその時ーーー激しい雷鳴が鳴り響いた。

 

「そこまでです‼︎」

 

街全体へと浸透させるように幾度も轟く雷鳴を発していたのは、軍神・帝釈天より授かったギフトーーー“疑似神格・金剛杵(ヴァジュラ・レプリカ)”を掲げた黒ウサギであった。

黒ウサギは輝く三叉の金剛杵を掲げ、高らかに宣言する。

 

「“審判権限(ジャッジマスター)”の発動が受理されました‼︎ これよりギフトゲーム “The PIED PIPER of HAMELIN” は一時中断し、審議決議を執り行います‼︎ プレイヤー側・ホスト側は共に交戦を中止し、速やかに交渉テーブルの準備に移行してください‼︎」

 

 

 

 

 

 

境界壁・舞台区画。大祭運営本陣営、大広間。

 

宮殿内に集められた“ノーネーム”一同と、その他の参加者達。負傷者も多数いる中、“ノーネーム”でも耀とレティシアが交戦して疲弊しており、飛鳥に至っては姿も確認できていないとのことである。

そこにマンドラを引き連れたサンドラが現れて審議決議を行うというので、“箱庭の貴族”である黒ウサギと、“ハーメルンの笛吹き”についての知識があるジンと十六夜が同行することとなった。

 

審議決議とは、“主催者権限”によって作られたルールに不備がないかを確認することのできる“審判権限”の権限の一つだ。奇襲を仕掛けてくることが常の魔王のゲームを強制中断できる強力な権限だが、不備を探してルールを正す以上は対等なゲームとなるため遺恨を残すことができないーーーつまり負けたから今度はこちらから挑むという報復行為ができなくなるという欠点もある。

 

そんなわけで残る参加者は負傷者の手当てをしながら審議決議が終わるのを待つばかりだったのだが、上哉は一人、人気(ひとけ)のない場所へと来ていた。

 

(……自分の不甲斐なさに腹が立つ。いつから俺はこんなにも腑抜けてしまっていたんだ……)

 

飛鳥が白装束の女と交戦したきり姿を確認できていないというのを聞き、守れなかったことを悔やんでいるーーーわけではなかった。

割り振られた役目を果たす中で、自分の知り得なかった状況にまで対処できなかったことを悔やむほど自身の実力を過信してはいない。それに姿を確認できなかったということは死体も確認されていないということである。生きている可能性があるならば、守れなかったことを悔やむのはまだ早い。

 

そして飛鳥達が白装束の女と交戦したということは、白装束の女と軍服の男の対応をすると言った十六夜が対応できなかったということになるが、それもまだ問題ではない。相手の実力やギフトが不明である以上、規格外の実力を持つ十六夜であっても徒手格闘術だけでは対応できないこともあるだろう。

 

 

 

問題は、その状況下で十六夜に複数人の相手をさせることに疑問を抱かなかった、見通しの甘くなった自分の考え方だ。

 

 

 

あの場で三人のうち誰が誰の対処をするかは適当に決めても構わなかっただろうが、実力が未知数の相手が複数人いても対応できるだけの応用力があるギフトを持つ上哉が二人受け持つべきだったと考える。

 

(“ノーネーム(あいつら)”は仲間だ。もう一ヶ月近く行動を共にしているし、信用…はできる。だが信頼するのは間違いだった。結果として判断力を鈍らせた)

 

それに元の世界からの介入があった。これまで以上に気を引き締めなければならないし、少なくとも今回のギフトゲームは自分の手の内が知られていることを理解した上で戦闘を行う必要がある。

 

(……()()()()()()()()()()。相手が拘束されている今のうちに手札を整理しておこう)

 

上哉は一人、次の戦闘に備えて準備を進めていく。




作中に単語だけ出た“降霊憑依術”は、“ペルセウス”戦でローランを憑依させたアレです。
戦闘時に障壁を展開したり消したりしてたのは“空間支配者”の制限の一つなので、これは次回明らかにする予定です。
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