異端者も異世界へと呼び出されたようですよ?(一時凍結) 作:レール
書きたいことが色々と多いです。
それではどうぞ‼︎
敷地内は煉瓦でできた街路が地面から隆起した巨大な根によってバラバラにされており、人が通れるような道ではなく何処から奇襲されてもおかしくなかった。
そんな道を、基本的な身体能力が常人であるジンと飛鳥は緊張した面持ちで周囲を警戒している。
「大丈夫。近くに私達以外の匂いはしないから」
「ついでに生き物と
逆に“生命の目録”で五感が強化されている耀や実戦経験が多いであろう上哉は、周囲の状況を探って安全を確保していた。この二人の感覚をすり抜けて何かを仕掛けるのは至難の技だ。
「……これだけの大舞台を造っておいて何もしてこないなんて、少しおかしくないかしら?」
二人の報告を聞いて飛鳥は疑問に思う。二人の感覚をすり抜けて奇襲を仕掛けることはできないとしても、仕掛けようとする動きや気配まで皆無というのは相手の意図が掴めない。
「……考えても分からないものは仕方ありません。とにかくまずは指定武具を探しましょう」
「いや、それよりもガルドを探した方がいい」
ジンはガルドと相対するためにも指定武具の捜索を提案するが、上哉は指定武具よりもガルドの捜索を提案してきた。
「それだとガルドを見つけても攻撃を与えられないわよ?」
「その通りだな。それじゃあ久遠に質問するが、仮に自分を殺せる唯一の武器があり、敵対する存在が努力すれば奪取できる場所にそれを配置しなければならない場合、それを何処に配置するべきだと思う?」
「えぇ?そうねぇ……」
飛鳥は突然の質問に戸惑うがしっかりと考えてみる。そんな危険な代物は絶対に誰にも手が出せない場所に保管するのが一番だが、条件は誰でも手にすることが可能な場所に配置すること。そんな条件でそんなものを手放すなどリスクが高すぎる。
「……なるほど。上哉君はガルドが指定武具を守護していると考えているのね?」
「そうだ。“
この仮定が正しければ、鬱蒼と生い茂る木々の間を歩き回って指定武具を探すための労力を消費しなくても済む。それに信憑性も十分高い。
これを踏まえてジンは新たな方針を提案することにした。
「でしたら耀さんの力でガルドをーーーあれ、耀さん?」
耀にガルドの捜索をお願いしようとして上哉から目を逸らすが、気付けば耀の姿が消えていた。その反応に飛鳥も周りを見回すが見当たらない。
「あぁ、春日部なら既に仕事をしてくれているぞ」
二人の様子を見て上を指差す上哉。釣られて上を見上げると樹の上にいる耀が目に入る。どうやら話を聞いて自分の役割を言われる前に察したようだ。
少ししてから彼女は樹から跳び下りてきて、煉瓦の残骸が残る街路を指差しながら報告する。
「影だけだったけど、本拠の中にいるのを目で確認した。本拠はこの先にある」
耀の瞳は普段とは違い猛禽類のような金の瞳となっていた。鳥の視力を使用しているのだろう。これで当面の目標は決まったので、念のために警戒を怠らないようにしながら本拠の館へと向かう。
しかし罠と呼べるようなものはそれからもなく、精々が侵入者を拒むように街路を侵食している木々が邪魔であることくらいだ。本拠の館に着いても変化は見られず、外装内装含めて全てが木々やツタに蝕まれてボロボロになっている。
耀の情報ではガルドは二階にいるということなので、階段へと向かいつつ上哉は言った。
「今から二階に向かうが、ジンと久遠は階段前で待機だ」
上哉に指名された二人は表情を不満気に変えて訊き返す。
「どうして私達は階段前で待機なのかしら?」
「そ、そうですよ。僕だってギフトを持ってますし、足手纏いにはーーー」
「ならない、と二人は断言できるのか?」
ジンと飛鳥が問題ないと考えている現実を、上哉は今ある情報から冷徹に切り捨てる。
「待機の理由は二つ。一つは退路の確保。何が起こるか分からない以上は慎重を期すに越したことはない」
今の行動方針はガルドが指定武具を持っていることが前提で動いているが、もし指定武具がなければ撤退する必要があるし、指定武具があっても状況次第では一時離脱する必要があるかもしれない。その退路を確保するのが二人の役割だ。
「この理由でジンと久遠を退路の確保役に選ぶ必要はないが、問題は二つ目だ。ギフトが効かない状況でお前達の身体能力的にやり合えるとは思えない。はっきりと言えば足手纏いになる可能性の方が高いと考えている」
どれ程のギフトがあろうとも今回必要とされるのは直接戦闘だ。上哉以外は三人とも戦闘は素人であろうが、それでも連れて行けると上哉が判断できたのは身体能力的に耀のみである。
ギフトを応用して使用するにしても何処までその応用が効くのかが分からない。もし仮に誰かが闘ってやられた場合、戦闘情報から得られたガルドの情報を残るメンバーに伝えるためにも複数人は必要だ。戦闘という意味でも情報収集という意味でも、この組み合わせがベストであると思われる。
「……………分かったわ。それじゃあガルドのことはお願い」
飛鳥は沈黙が長かったものの、客観的に分析した結果は上哉の結論と変わらないと判断したのだろう。ジンも同じようで、二人ともしぶしぶではあるが了承してくれた。
二人を残して階段を登っていく上哉と耀も、簡単ながら事前の打ち合わせをしておく。
「指定武具があった場合、俺が引き付けるから春日部は指定武具を奪取後に無理はせず離脱。指定武具がなかった場合、階下で待機している二人に撤退を伝えるため俺が
「分かった」
小声でのやり取りをしつつ、階段を登った先にあった最後の扉の両脇に立って機会を窺う。上哉はそこで、手首の部分に鉄球のような装飾品が付いた黒い手袋を右手にのみ装着して突入準備を整えた。
意を決した二人が勢いよく飛び込む。
「ギーーー………GEEEEYAAAAaaaa!!!」
そこには先日見たワータイガーであるガルドの姿はなく、言葉を失って紅い瞳を光らせる虎の怪物そのものとなった姿で白銀の十字剣を背に待ち構えていた。
「鬼、しかも吸血種‼︎ やっぱり彼女が」
階下でガルドの変化を確認したジンが何かを言っているが、今はそれどころではない。
「チッ。ジン、久遠‼︎ 退路はもう必要ない、先に撤退しろ‼︎」
それを見た瞬間に上哉は階下で待機しているジンと飛鳥へ指示を飛ばした。どう見ても知性が残っていない虎に戦略などあるはずがない。それよりも何かの拍子で標的を二人に移される方が面倒だ。
背後の足音で離れていったことを確認しつつ、目にも留まらぬ突進を仕掛けてきたガルドの前の空間に物理障壁を展開させてみるも一瞬で破られ、上哉と耀は左右に跳んで回避した。
上哉は回避と同時に拾った石をガルドの頭上へ向けて投げ、物理障壁で軌道を修正して頭頂部に当てる。するとガルドは石が頭に当たった瞬間に頭と爪を振り回して払うように空間を薙いだ。
(軽い攻撃にも反応した、ということは衝撃は通る)
時間を置かずに今度は腰のホルスターに収めた拳銃に手を伸ばし、ドゥンドゥンドゥン‼︎ と三発早撃ちで頭部を狙う。が、頭を弾く程度で何事もなかったかのように接近してきた。そのまま丸太のように太い前脚を振るってくる。
(脳を揺さぶるつもりだったが……衝撃は通るだけで脳にまで影響を与えられなかったか)
上哉は紙一重で躱しながら考察を進めていき、作戦通りにガルドを引き付けている間に耀が指定武具であろう白銀の十字剣を取りに走った。
「GRAAAAaaaa!!!」
「やはり優先順位は指定武具が最優先か」
上哉へと攻撃していたガルドは瞬時に方向転換して耀へと肉薄する。そうはさせまいと上哉は手袋に付いた鉄球のような装飾品を引っ張り、内蔵されたピアノ線を鉄球を振り回して遠心力によってガルドの首に回し、左手で返ってきた鉄球を掴んで動きを抑える。動きを止めるのではなく、あくまで指定武具の奪取に必要な時間抑えるだけだ。
その隙に耀は無事に指定武具へと辿り着き、上哉はすぐさま暴れようとするガルドに引き摺られないよう鉄球を離してピアノ線を自動で巻き取る。
指定武具である白銀の十字剣を手にした耀はすぐには動かず、その場でガルドの様子を窺っている。あとは飛鳥達と合流して作戦を練るため、隙を見て一時離脱するだけだ。焦って動く必要はない。耀の身体能力ならば、ガルドが攻撃してきたところを冷静に躱して館から飛び出せるはず。
そう思っていたのだが、
(あの馬鹿ッ)
ガルドが動き出したのと同時、耀は白銀の十字剣を構えて迎え撃つ体勢を取った。上哉は耀が逃げるためのサポートに徹しようと構えていたため、動き出しが一歩遅れてしまう。
その間にガルドの前脚が振られて耀の身体を切り裂こうとするが、耀はそれを見事にバックステップで回避、転じて白銀の十字剣を攻撃直後で無防備と判断した横腹に突き刺そうとするーーーその判断が間違いであるとは思わずに。
ガルドは振り抜いた前腕の勢いのままに身体を回転させ、攻撃しようとして回避や防御が疎かとなってしまった耀へと向けて尻尾を振り回し白銀の十字剣を弾く。
それに一瞬呆然としてしまった耀を他所に、ガルドは背中を向けた状態で後ろ脚を使って彼女を蹴り飛ばして壁に叩きつけた。そして崩れ落ちてしまった耀に向け、鋭利な牙を覗かせる口を大きく開けて飛び掛かろうとしている。
一歩遅れて駆けつけるまでにそこまで状況が進んでしまい、残りは
そこまで理解し、上哉はこの場で最善であろう手を打つために動き出す。
★
耀は自分の過信がこの状況を作り出してしまったのだと一人後悔していた。
ガルドの敏捷性は最初の突進とそれまでの上哉とのやり取りで把握していたから、無理もなくそのまま返り討ちにできると思い迎え撃った。だが敏捷性以上に野生独特の思いも寄らない動作を予測できずに不意を突かれ、対応もできないままに蹴り飛ばされてしまった。
もうすぐそこまで獰猛な牙が迫っており、壁に叩きつけられた衝撃で避けることもできそうにない。耀は噛み裂かれる激痛を覚悟して目を固く閉じるが、正面からではなく真横から衝撃を受けて飛ばされる。
驚いて目を開くとガルドの背後にいたはずの上哉が気付かないうちに移動して横に立っており、遅くなったように感じる視界の中でその後の流れを見続けることしかできなかった。
左手で耀を突き飛ばした状態の上哉。
耀から上哉へと標的が代わっても構わず襲い掛かるガルド。
そして容赦なく上哉の左腕に噛み付きーーーそのまま噛み千切られる左腕。
「上哉ッ!!!」
耀は今度こそ本気で自分の行動を後悔した。自分の行動で自分が傷付くのなら自業自得だが、上哉を傷付けてしまったのは言い付けを守らなかった耀の責任だ。
今更何をしても許されるとは思わないが、せめてこれ以上彼を傷付けさせないようにガルドに突っ込もうとした時、それを見た。
上哉は左腕を噛み千切られたにも関わらず、即座に左脚を軸にした後ろ回し蹴りをガルドの鼻面に叩き込んで体勢を立て直している。
(な、なんで……?だって、腕を……)
腕の消失直後にどうしてそこまで冷静な対応を取れるのか訳が分からなかった耀だが、そこで今まで動揺して気付かなかったことに意識が向く。
腕を噛み千切られたはずなのに上哉からは血が流れていなかった。耀の嗅覚をもってしても鉄臭い血の匂いを嗅ぎ取れないので間違いない。
さらにガルドと一緒に蹴り飛ばされた左腕を見てもやはり血は流れておらず、その代わりにネジやボルトなどの部品が散らばっていた。噛み千切られた上哉の腕の断面からもそれらの部品が覗いている。
そこまで認識してからどういうことか理解した。
不夜上哉の左腕は義手であったのだと。
「春日部、指定武具を拾って久遠達と合流しろ‼︎ 迅速にだ‼︎」
「ッ‼︎」
少し荒い口調で言われて周りを見れば、先ほど弾かれた白銀の十字剣がちょうど突き飛ばされた場所の横にあった。
今度は判断を間違えないよう、言われた通りに白銀の十字剣を拾ってから窓を破壊して飛び出す。それに続いて飛び出してきた上哉とともに、今度こそ飛鳥達と合流するために撤退するのだった。
隠された真実その一、上哉君の左腕は義手だった‼︎
この調子で次々と真実を明かしていきますのでよろしくお願いします。