異端者も異世界へと呼び出されたようですよ?(一時凍結) 作:レール
それではどうぞ‼︎
“フォレス・ガロ”の本拠から一時撤退した上哉達は、耀の五感を頼りに先に本拠から離れていた飛鳥達を探していた。
「か、上哉君……⁉︎ 貴方、腕が……‼︎」
飛鳥達と合流すると、真っ先に上哉の左腕があった場所を見て驚愕の声を上げられる。いきなり知人の腕が消失していれば同じ反応をするのが普通だろう。
心配した表情で駆け寄ってきた二人を安心させるように、腕に残った機械の部分を見せつける。
「問題ない、俺は義手だ。新しい腕にも当てはある」
「上哉、その………ごめんなさい。私のせいで………」
それを改めて見た耀は、泣きそうな顔を俯かせて謝る。上哉は問題ないとは言っているが、その原因を作ったのは耀だ。責任を感じてしまうのは無理もない。
「別に謝る必要はない。……そもそもの根源的な原因は俺にある」
「え?」
「いや、何でもない。それよりも今後のゲームについて話し合おう」
上哉は話を切り替える意味でも戦闘で得られた情報をジンと飛鳥に話し始めた。それらを聞いた二人は各々に考えを巡らせている。
「もしこれらの情報で戦術の立てようがないと言うのだったら、今度は俺一人でガルドの元に戻るが…何か思いついたか?」
ガルドと数手やりあって確信したが、上哉には誰にも見られていない状態でギフトを隠す必要もなく本気で闘うならば、たとえ片腕でもガルドを瞬殺できる自信があった。
「何か思いついたか、ですって?これだけの情報があればあいつを叩きのめすのには十分だわ」
上哉の問い掛けに飛鳥は自信を滲ませて言う。こちらの作戦は如何にして指定武具の攻撃を与えられるかに掛かっている。そして説明された飛鳥の考える作戦を聞いた限りでは、十分に勝率の高い作戦だと思われる。
「分かった、その作戦で行こう。春日部、指定武具を貸してくれ。久遠の作戦に合わせて……俺がガルドを殺る」
この発言に上哉を除いた三人は反対した。
「何を言っているんですか⁉︎ 片腕を失った状態では危険過ぎます‼︎」
「その通りよ。それに身体能力が低くてもこの作戦なら問題ないわ。タイミングでは私が適役でしょう?」
「飛鳥の身体能力が不安だって言うなら、ガルドを倒す役は私がやる。ううん、私がやらなくちゃいけない」
作戦的に片腕を失った上哉がわざわざ矢面に立つ必要はないし、三人の言っていることに間違いはない。しかし上哉は耀の言葉を聞いて三人に現実を突き付ける。
「倒すのではなく殺す…命を刈り取ると言っているんだ。昨日あれだけ殺しに拒否反応を示していたお前達に殺れるのか?」
それを聞いた三人はハッとして彼の言いたいことを理解する。どれだけ極悪人であろうと、昨日までは多少なりとも理性ある人間として接していたのだ。ガルドを殺すということは人殺しと言っても過言ではない。
「それが真っ当な人間の反応であることは否定しないが、最後の瞬間に殺せなかったら危険なのはお前達だ。俺なら躊躇いなど感じる前に、無感情に確実に仕留められる」
ーーー上哉が偶に見せる圧倒的な負の側面。それが命のやり取りという状況において、圧力を持って三人に伸し掛かる。
殺す覚悟をすることと殺しを実行すること、そこにある隔絶された意識の差を。そして上哉に殺らせないと言うのなら、その役を三人のうち誰がやるのかという選択を。
「……だったら尚更よ」
ポツリと、上哉が発する圧力を押し退けて飛鳥が言葉を零す。表情に悲しみを表して言葉を紡いでいく。
「貴方が命を刈り取ることに何も感情を抱かないほど何かを殺してきたと言うのなら、これ以上それを重ねる必要はないじゃない」
昨日のカフェテラスで上哉は言っていた。進んで悪行ーーー殺しを行うようなことはしないと。それなのに今は殺しに慣れているという発言をしている。それはつまり、
「貴方のいた世界がどれだけ貴方に残酷だったとしても、私達は……少なくとも私は、もう貴方にそんなことをして欲しくない。だから、その役は私がやる」
飛鳥の表情が悲しみから決意の色へと塗り替わる。それを見た上哉は、もうどれだけ圧力を掛けても彼女が折れることはないと理解させられた。
「……本当にいいんだな?」
「……この先、魔王と闘っていくなら、きっとこれは避けられない運命だわ。ーーー覚悟はできてる」
半ば睨み合いのようにお互いの瞳を捉えてぶつかる視線。この覚悟が殺した後も気丈に保てるかは、もはや行動に移してみないと分からないがーーー上哉は飛鳥の覚悟を認めて折れるのだった。
★
ガルドは上哉と耀がいなくなった後、守護するべき指定武具が奪取された後も屋敷の二階に居座っていた。その部屋は彼に理性が残っていた頃の執務室であり、僅かに残った理性が誇りを象徴する部屋でもあったからだ。
上哉はガルドをその部屋から引きずり出すために再び戻ってきた。
「どうした、テリトリーに侵入した敵を排除しないのか?」
上哉がいるのは執務室の扉前であり、一階と繋ぐ階段を登ったすぐの場所だった。開け広げられた扉からガルドに語り掛けたのだが、その部屋を最重要と認識しているようで威嚇はしていても出てくる気配はない。
「ったく、引き籠もりか。だったら引き籠もりを引っ張り出す最も簡単な方法を取らせてもらおう」
そう言ってサバイバルポーチからある物を取り出して部屋に放り込み、自分の前に物理障壁を展開する。
「引き籠もりへの対処法。引き籠もる部屋を吹き飛ばす」
放り込まれたある物ーーー安全ピンを抜いた手榴弾が地面に落下して爆発する。
扉面の壁を崩壊させ、隣接する壁にも
「GEEEEYAAAAaaaa!!!」
もちろん“契約”に守られたガルドには擦り傷すら付いていないが、テリトリーを破壊されて怒りが湧き上がったのだろう。咆哮を上げながら上哉に突進してくる。
「ーーーさて、俺の役割はこれで終わりだな」
突進してきたガルドの下に滑り込み、思いっきり蹴り飛ばすことで突進の勢いのまま一気に階下へと突き落とす。受け身も取れないように背中から落とされるガルドだが、それだけでは終わらない。
階下で待ち構えていた耀が、ガルドが体勢を立て直す前に懐に飛び込む。
「ハアァァァァアアアア!!!」
耀は“生命の目録”から引き出した、あらゆる動物の野生の力を腕に込めてガルドの横腹へと叩き込んだ。ガルドは手榴弾の爆発に巻き込まれた時と同じように吹き飛ばされ、ついに屋敷から放り出される。
屋敷から叩き出されたガルドは、怒りのままに獲物を求めて屋敷に目を向け、そこでふと鼻に本能を刺激する臭いが漂ってくる。獣として、何より吸血鬼としての本能を
本能に導かれるまま不自然に左右に分かれた木々の間を走り抜けると、血の滴る臭いの元には小さな体躯の少年がいた。
「……皆さんが身体を張ってくれているんです。誘き出すための囮くらいは完遂してみせます」
その指には刃物で斬ったような傷があり、そこから血が滴となって流れている。ジンが吸血鬼となって完全な獣と化したガルドの特性を考慮して訴え出たのだ。
「GEEEEYAAAAaaaa!!!」
ガルドはそのままジンへと突っ込んでいく。獣の本能から見ても明らかに弱者である少年を食らうのに躊躇いなどあるはずもない。一直線に突き進むーーー否、一直線にしか突き進めない道を駆ける。
「今よ、
突如として真上から響いた声によりガルドは一瞬動きを制動させ、そこへ飛鳥の“威光”によって操られた鬼種化した木々が殺到して動きを封じる。
飛鳥は
最初は真正面から“威光”で白銀の十字剣に破魔の力を宿して相対するつもりだったのだが、上哉が保険として仮に破魔の力を宿さなくても飛鳥の細腕で突き刺せるようにと画策し、気付かれないように五m程上空に物理障壁を横向きに展開させた上で匂いを遮断する空間を形成して待機させていたのだ。
しかし身体能力は普通の飛鳥が五m上空から飛び降りるのは危険だろう。そこで確実にガルドを突き刺せるように、何より着地地点を地表より高くするために、鬼種化した木々を操ってガルドを持ち上げて切っ先に近付けさせる。
その結果、飛鳥は実質二mも落下しておらず、見事にガルドの頭部を白銀の十字剣が貫いた。飛鳥は絶命して動かなくなったガルドに向けて、送り出すように言葉を掛ける。
「……これで終わりよ。最期くらい安らかに逝きなさい」
★
ギフトゲーム終了後、上哉はすぐには合流せずに一人で指定武具が設置されていた部屋に戻ってきていた。ガルドに噛み千切られた左腕を回収するためだ。義手そのものには既に価値はないが部品や仕込み道具はまだ使えるかもしれない。そもそもこの義手は手榴弾に巻き込まれても壊れるような作りではないため原型が残っている。今回いとも簡単に壊れた原因は、“契約”によって傷付けられないガルドが超硬の義手に噛み付き、逆に牙が傷付かないように攻撃に“契約”の力が付与されたからだろう。
屋敷に一緒にいた耀も手伝うと言ってきたが、彼女も一撃もらっていたのでーーー何より一人の方が都合がいいので休ませるため帰らせた。のだが、
「……何でここにいるんだ、久遠?」
耀の代わりに何故か飛鳥がいた。
「春日部さんに聞いたからよ?片腕で細かい部品を集めるのは大変だと思って」
「……精神の方は問題ないのか?」
作戦を決行する前に上哉の不安材料としてあった、殺した後の心境の変化について問うてみる。
「何ともない、って言ったら嘘になるけど……何か作業をしていた方が気は紛れるわ」
「そうか、なら好きにしろ」
「えぇ、そうさせてもらうわ」
ぶっきらぼうな口調で手伝うことを許可する上哉に対し、飛鳥は心の中で思う。
(やっぱり……上哉君はすごく優しい)
彼は物事に合理的かつ自己的な振る舞いをしているように見えるし、本人も意識しているのかは定かではないが、その根底にあるのは優しさだと飛鳥は思う。
自分と関わりのない人間にはかなり冷たく、冷酷な人物に映るかもしれないが、関わりのある人間には色々と理由を付けながらも助けを出している。
昨日のカフェテラスでは何も言わず飛鳥を助け、白夜叉とのゲームでも耀に手を貸していた。今回のゲームでも義手とはいえ片腕を失いながらも耀を助け、誰にも殺しという重荷を背負わせないように自分が手を汚そうとし、最終的に殺しをした飛鳥を今も気遣っているように思う。
何が彼をそこまで両極端な性格に変えてしまったのかは分からないが、飛鳥はそんな彼を支えたいと思った。
「あ、ここにも部品があったわよ」
「あぁ、こっちに持ってきてくれ」
今はこんな小さなことでしか彼の手助けなどできないかもしれないが、いつかはその心に掛かった負担も自分に背負わせてくれる日が来るよう、強くなることを飛鳥は心の中で誓うのだった。
この時点では飛鳥はまだ恋を自覚していません。あくまで仲間のためと認識しています。いったい何時になったら自覚するんでしょうねぇ。まだまだ先は長くなりそうです。