異端者も異世界へと呼び出されたようですよ?(一時凍結) 作:レール
それではどうぞ‼︎
上哉と飛鳥はギフトゲームが終了してから義手集めをしており、暫くした後に居住区から出てくるとそこではジンの前にズラリと人が並んで列を作っている姿があった。恐らくは“フォレス・ガロ”に合併吸収されていたコミュニティの面々だろう。
「これはいったい何の騒ぎかしら?」
「あ、飛鳥さん。それに上哉さんも。戻ってらしたんですか」
飛鳥の呟きに反応した黒ウサギが近寄ってくる。十六夜と耀は旗印を返しているのであろうジンの斜め後ろに待機している。
「えぇ。少し細かい部品を集めるのに苦戦しただけで、それほど時間は掛からなかったわ」
黒ウサギは上哉の右手にある袋を見る。そこには今回のゲームで破壊された義手の左腕が収まっている。
「……本当に義手だったなんて、黒ウサギは気付きませんでしたよ」
「そのための人工皮膚で覆っていたからな。見抜ける奴の方が少ない」
今は無残にも爆発に巻き込まれて人工皮膚は破けているが、筋の隆起も右腕に似せて造られた精巧なものであった。事前に義手だと知らされていたとしても判別は難しいだろう。
「……上哉さん。お訊きしたいことが幾つかあるのですが」
黒ウサギが神妙に畏まった顔で上哉へと声を掛ける。これまでの彼女と比べても珍しい表情だ。
「何だ、義手についてか?」
「いえ、それもあるのですが……黒ウサギがお訊きしたいのは、上哉さんが耀さんを助ける時に使った
その言葉を聞いて上哉にも珍しく苦い表情が浮かんでいる。彼は少し考え込んでから苦い表情を諦めの表情に変える。
「……そういえば、ジンが“箱庭の貴族”は特殊な権限を持ち合わせた貴種だと言っていたな。それを知っている理由はその特殊権限か」
「はい。“
二人の話はガルドと最初に戦闘した時の話だったので飛鳥は詳しい内容は分からなかったが、上哉が瞬間移動を行ったということは理解できた。
「どういうこと?貴方の“空間支配者”は空間に属性を付け加えるギフトではなかったの?」
「あぁ、間違いじゃない。ただそれがギフトの効果の全てではないというだけだ。……もう彼方の方も終わりそうだ。質問は本拠に帰ってからでいいか?」
上哉の言葉に人集りの方を見れば、十六夜が“打倒魔王”を掲げたコミュニティであることを宣伝し、ジンが十六夜に後押しされて衆人の前で自己紹介をしていた。ジンがゲーム前に気合を入れていたのはこのためだったようだ。
「……分かりました。ただ、黒ウサギもこの後に用事がありますので、少し遅れますがよろしいですか?」
「あぁ。だったら帰ってくるまでに残っている左腕を解体しておくさ」
上哉の左腕は噛み千切られたとはいえ根元の部分が残っている。新しい腕を付けるにしても日常を過ごすにしても邪魔なのだ。
「私も簡単な作業なら手伝うわ。いいかしら?」
「助かる。一人だと時間が掛かるからな」
集まっていたコミュニティが解散し、一仕事を終えたジン達も此方に戻ってきて帰路に着く。その途中で黒ウサギとは別れ、一行は本拠に戻るのだった。
★
「それじゃあ始めるか」
本拠の三階にある談話室で、黒ウサギが帰ってくるまでに残った義手の解体を始める。飛鳥は手伝うということで横に待機しており、十六夜と耀は対面のソファでそれを見物している。
「私は何をすればいいの?」
「別に難しいことじゃない、ただネジやボルトを外すだけだ。俺の手が届きにくい後方と側面を頼む」
サバイバルポーチに手を伸ばしてドライバーやレンチなどの作業道具を取り出そうとしーーー
「……いや、どうせ話すのならこれは隠す必要もないか」
サバイバルポーチから取り出す
これには三人とも目を丸くしていた。
「……それが“空間支配者”の本当の力なの?」
「あぁ。空間に属性を付け加えるギフトではなく、空間を改変するギフトが本当の“空間支配者”の力だ。異空間を作り出して物をストックしている」
非力な飛鳥のために電動系の道具を渡しながら答えていく。もちろんサバイバルポーチに入らないような大きさだ。
「なるほど、それで合点がいったぜ。属性付加の何処が空間の支配者なのか少し疑問だったからな」
どうやら十六夜はギフトの説明を最初から疑問に思っていたようだ。今は納得顏で満足そうにしている。
「じゃあ私をガルドから助けてくれた時、いきなり横に現れたのは……」
「空間と空間を繋いで瞬間移動した。つまり俺がギフトを隠していなければ、左腕を失うことはなかったんだよ」
耀は屋敷からの撤退後、謝罪した時に言われたことを思い出していた。“根源的な原因は俺にある”という言葉の真意はそういうことなのだと、表情に理解の色を浮かべている。
「他にはどんなことができるんだ?」
「そうだな……目視しなくても空間を把握することで、目視以上に周囲の状況を確認することが可能だ」
言いながらソファから立ち上がり、窓辺に向かって歩いていく。そして窓を開け放ち、外にいる人物に声を掛ける。
「だからお前の存在もガルドとのゲーム中から気付いていた。敵対の意思がないなら入ってこい。隠れてコソコソと鬱陶しくてしょうがない」
「……まさか、ゲーム中からバレていたとは思わなかったな」
上哉に言われて入ってきた人物は、美麗な金の髪を特注のリボンで結び、赤いレザージャケットに拘束具を彷彿とさせるロングスカートを着た少女だった。
「俺が瞬間移動をした時も覗いていただろう。そうでもなければ、わざわざ部外者がいる時にギフトの説明などしない」
上哉はこの少女に敵対意思がないことを理解していた。ガルドを焚き付けて上哉達を殺そうとしていたのならば、戦闘能力の低い飛鳥とジンが別行動を取らされた時点で襲撃されていたはずだ。それに敵対するつもりなら、わざわざこんな手が届きそうなほど近くに潜んでいた理由が見当たらない。
まぁ少しでも敵対意思があると判断できる行動を取っていれば上哉が即対処していたが。
「へぇ、つまりアンタが今回の“ハンティング”を仕組んだのか」
二人の会話を聞いていた十六夜が少女に確認する。
「あぁ、その通りだ」
十六夜の質問を肯定し、その後に飛鳥へと顔を向けて頭を下げる。
「……君には少々辛い役目を押し付けてしまったようだ。済まない」
「私が覚悟して臨んだことよ。貴女の思惑はどうであれ、謝られる謂れはないわ」
あの場面で覚悟がなかったのなら、上哉なり耀なりに押し付ければよかった話だ。飛鳥は自分の選択を誰かのせいにするつもりはなかった。
「それで、貴女は誰?」
話が一区切りついたところで耀が少女に問い掛ける。訊かれた少女も名乗っていなかったことに気付いて自己紹介をしようとし、
「レ、レティシア様⁉︎」
その答えは何時の間にか戻ってきた黒ウサギの驚愕の声が教えてくれた。それにレティシアは苦笑して返す。
「様はよせ、黒ウサギ。今の私は他人に所有される身分。“箱庭の貴族”ともあろうものが、モノに敬意を払っていては笑われるぞ」
“他人に所有される身分”という言葉に十六夜が反応した。
「あん?ってことは“サウザンドアイズ”のギフトゲームに出品された昔の仲間である元・魔王ってアンタのことかよ」
十六夜は昨夜、侵入者を追い返した後にジンとコミュニティ再興のための作戦として、“打倒魔王”を掲げて知名度を上げ、賛同者や魔王を隷属させてコミュニティを強化していくという案を出していた。それに対してジンは、十六夜にその作戦を行うだけの実力があるのかを証明するため、仲間を取り戻すゲームに参加しろと条件を出していた。
これらの情報と今の会話を合わせて導き出される答えは、レティシアがその出品される昔の仲間であるということだ。
「え、十六夜さんはご存知だったのですか?っと、色々とお訊きしたいことはありますがお茶の方をお先に淹れますので少々お待ち下さい‼︎」
色々と忙しない黒ウサギである。お茶を淹れるというので、上哉は出したままである作業道具を机の上から消失させる。レティシアの登場と黒ウサギの予想より早い帰りによって、解体作業は全く進んでいなかった。
「これ、ギフトカード要らないね」
「全くだ。見られると手の内を明かすだけで、メリットは異空間のカモフラージュくらいだからな」
耀の端的な感想に、辟易とした声で応える上哉である。
黒ウサギの淹れたお茶を飲みつつお互いの話を聞くと、黒ウサギの用事とは“サウザンドアイズ”傘下の“ペルセウス”が主催した、レティシアが商品となるギフトゲームへの申請に行くことだったようなのだが、それが延期もしくは中止となってしまうようで予定より早く帰ってきたそうだ。
現在は他人の所有物であるレティシアが何故ここにいるのかを訊けば、再建を掲げた新生“ノーネーム”の力がどの程度か確認するために見に来たらしい。彼女は鬼種の純血と呼ばれる強力な吸血鬼であり、ガルドに鬼種のギフトを与えたのもその一環だそうだ。
「その結果は?」
「生憎、ガルドでは当て馬にもならなかったよ。飛鳥と耀はまだまだ青い果実、上哉は秘密主義のようで実力を抑えているから判断に困る。十六夜は神格を倒したと聞いたがこの目で見ていないからなんとも言えないな」
黒ウサギに訊かれてつらつらと述べられていく判定に、飛鳥と耀は未熟と言われてむっとしていた。上哉に至っては全く間違っていないので無反応。十六夜のことは白夜叉にでも聞いたのだろうか。
「つまりレティシアの判定としては、現段階では俺達に仲間を安心して託せるには至らない、ということか」
それを聞いた上哉のド直球な確認にレティシアは答えることができなかった。実力の底が見えないのではなく、まだ原石の状態で未知だから不安を拭えないのだ。しかも“フォレス・ガロ”を倒して“打倒魔王”を宣言してしまっている以上、コミュニティを新しく作り直すように諭す段階は過ぎている。
「ということはだ。現段階でも魔王と戦えるか証明できれば、安心して託せるってことだろ?ならそれを判断できる方法が一つだけあるぜ」
黙ってしまったレティシアに対して十六夜が軽薄な声で上哉の言葉に続いた。十六夜はレティシアの疑問の浮かんだ表情を見ながら立ち上がって言う。
「“ノーネーム”が魔王と戦えるかどうか、元・魔王様がその力で試せばいい。実に簡単だとは思わないか?」
十六夜の意図を理解したレティシアは一瞬唖然としたが、すぐに哄笑を上げて立ち上がった。
「ふふ……なるほど、それは確かに簡単なことだ。下手な策を弄さず、初めからそうしていればよかったなぁ」
「ゲームのルールはどうする?」
「どうせ力試しだ。双方が共に一撃ずつ撃ち合い、受け合って立っていた者の勝ちでいいだろう」
十六夜とレティシアは互いに笑みを交わして窓から中庭に飛び出していく。飛鳥も耀に抱えられて跳び出し、黒ウサギと上哉もそれに続く。
十六夜は地に足を着け、レティシアは黒い翼を広げて対峙していた。彼女は金と紅と黒のコントラストで彩られたギフトカードからランスを取り出して掲げる。
「悪いが先手は譲ってもらうぞ」
「好きにしな」
レティシアは呼吸を整えて全身をしならせ、その反動で衝撃が波紋のように視認できる程の力で撃ち出した。摩擦で熱を帯び、流星の如く大気を揺らして一直線に十六夜へと落下する槍を前に、十六夜は牙を剥いて笑い、
「カッーーーしゃらくせぇ‼︎」
気合いとともに
「「ーーーは……!!?」」
「凄いわね」
「凄いね」
「人間の規格を超えているな」
素っ頓狂な声を上げるレティシアと黒ウサギ。対照的にマイペースな感想を述べる飛鳥と耀と上哉である。
(ま、まずい……‼︎)
しかも殴り返された槍は鉄塊となって現在進行形でレティシアへと散弾のように、だが散弾を遥かに超える威力と速度で迫っている。たとえ鬼種の純血であろうと、今の彼女にはそれを防ぐ術はなかった。
「レティシア様‼︎」
レティシアが血みどろになって落ちる覚悟を決めた時、黒ウサギが跳び上がって彼女の鼻先まで迫った鉄塊を払い落とす。それと同時にレティシアからギフトカードを掠め取っていき、中身を確認した。
「ギフトネーム・“
震える声で向き直る黒ウサギに対し、さっと目を背けるレティシア。歩み寄った十六夜はそれを聞いて、彼女が弱りきった状態であることを理解して舌打ちする。
「ハッ、道理で歯応えがない訳だ。他人に所有されたらギフトまで奪われるのかよ」
十六夜の言葉は黒ウサギによって否定される。恩恵とは魂の一部であり、隷属させたとしても合意なしにギフトを奪うことはできないそうだ。
つまりレティシアは自らギフトを差し出したということになる。
「レティシア様は鬼種の純血と人格を備えていたため“魔王”と自称する程の力を持てたはずなのに、どうしてこんなことに……‼︎」
黒ウサギの苦い顔での問いに、レティシアは口を閉ざして俯いてしまう。
「貴方達、話があるのなら屋敷に戻ったらどうかしら?」
今まで傍観していた飛鳥達も近寄ってきて提案する。そのままではお互いに沈黙して話が進みそうにない。
二人が沈鬱そうに頷いて屋敷から戻ろうとした時、ふと顔を上げると遠方から褐色の光が射し込んできた。
「あれは……ゴーゴンの威光⁉︎ まずい、見つかった‼︎」
レティシアはその光に気付くとともに、全員を光から庇うように前へと立ち塞がる。が、上哉ただ一人だけが彼女が庇ったのも虚しく前へと歩み出てきてしまう。
「バッーーー」
横に並んできた上哉にレティシアが叱咤の声を上げようとするも、そんな時間すら許さないように降り注いだ光は二人を無情にも飲み込んだ。
隠された真実その二、“空間支配者”は空間を改変するギフトだった‼︎
まぁこれについては皆様の予想の範囲内だとは思いますけどね。その他の秘密にしているギフトについては、恐らく原作二巻に突入すれば少し明かされる筈です。