異端者も異世界へと呼び出されたようですよ?(一時凍結) 作:レール
それではどうぞ‼︎
空から差し込んだ褐色の光に飲み込まれた上哉とレティシア。光が降り注いだ場所は目が眩んで直視できないが、レティシアの“ゴーゴンの威光”という言葉から光の正体が分かった黒ウサギは、希望が薄いながらも飲み込まれた二人の安否を気にして叫ぶ。
「上哉さん‼︎ レティシア様‼︎」
「呼んだか?」
「うっきゃぁぁぁぁ!?!?」
予想外にも真後ろから上哉の声が間髪開けずに返ってきて奇声を上げてしまう黒ウサギ。驚いて振り返って見れば、抱き寄せられて呆然としているレティシアと呆れた表情を浮かべている上哉が何事もなかったかのように立っていた。
「……何をそんなに驚いてるんだ?瞬間移動を使えるのは知っていただろう。それにその耳は一km範囲の情報を収集できるんじゃなかったのか?」
「じょ、情報を収集できることと情報を把握することは別なんですぅ‼︎ もう、驚かせないで下さいよぉ‼︎」
呆れられて若干語尾が幼くなっている黒ウサギ。しかし黒ウサギ以外は瞬間移動したことについて何も反応していないので、上哉としてはせっかくの情報収集器官が勿体無いと呆れるしかなかった。
「……それで、何時までレティシアを抱いているつもりかしら?」
瞬間移動には反応しなかったのに、レティシアと密着している状態になにやら少し不機嫌となっている飛鳥が上哉に問い掛ける。
「いや、別に触りたくて触っているという訳じゃないからな。他者を瞬間移動させるプロセスとして密着しているほど効率的であってだな……」
上哉も一般常識的に女性を気安く抱き寄せるのはどうかと思っているので、レティシアを解放しながら簡単に弁明しておく。ただ、飛鳥本人は女性の扱いどうこうではなく何故不機嫌になっているのかよく分かっていないので、感情的な飛鳥と効率的な上哉では認識が噛み合っていなかったりする。
「その辺にしとけよ、お嬢様。ーーーお客さんのお出ましだ」
十六夜の言葉に空を見上げると、光が射し込んだ方向から翼の生えた靴を装着した騎士達が大挙して押し寄せていた。
「どういうことだ⁉︎ 吸血鬼が石化していないぞ‼︎」
「構わん。再度ゴーゴンの威光を使用すれば済む話だ」
「例の“ノーネーム”もいるようだがどうする?」
「邪魔をするようなら斬り捨てろ」
ゴーゴンの首を掲げた旗印ということから、この騎士達はレティシアを捕らえに来た“ペルセウス”だと判断できる。だが光を照射するという位置関係上、どうやってレティシアが石化を免れたのか分かっていないようだ。
「……お前達に迷惑を掛けたくない。私は大人しくーーー」
騎士達の物騒な言葉にレティシアは投降する姿勢を見せようとするが、またしても上哉が一歩前に出る。
「……下がってくれ。お前が私のために何かをする必要はーーー」
「レティシアのため?……そんな高尚なことを俺がするとでも思っているのか?」
レティシアの言葉は、普段と比べて冷めた声音の上哉によって遮られた。
「俺は攻撃を仕掛けてきた奴らに報復するために前へ出た。さっきの光も俺が気に入らなかったからお前を助けた。ただそれだけだ」
上哉は感情を殺した表情で騎士達を見上げながら腰のホルスターへと手を伸ばす。それを見た黒ウサギは慌てて制止の声を上げた。
「お、落ち着いて下さい‼︎ “ペルセウス”は“サウザンドアイズ”の幹部を務めるコミュニティです‼︎ 手を出してしまえば“ノーネーム”はただでは済みません‼︎」
黒ウサギも
それを聞いた上哉がホルスターへと伸ばしていた手を元に戻したのを見て黒ウサギが安心したのも束の間、
「……だったら、最終的に“ノーネーム”へと被害が及ばなければ問題はないわけだな?」
それを聞いて嫌な予感が身体中を走り抜ける。そしてその予感は的中したと言ってもいいだろう。
「ーーーレティシア。お前、一度石化されに行け」
★
予想通りというかなんと言うか、上哉の発言にギャーギャーと喚き始めた黒ウサギを言いくるめ、レティシアにも納得させてから十六夜を前へと出させる。
時間がなかったので作戦の詳細は説明していないが、レティシアを助けるためと言って全員を納得させた。
「おい、お前ら。勝手に人様の敷地内に入ってきて何の用だ?」
「要件など聞かずとも分かっているだろう?貴様らの後ろにいる吸血鬼を捕獲しに来たのだ」
「俺が訊いているのは“勝手に”って部分だ。不法侵入についての謝罪はねぇのか?」
「ふん。こんな下層に本拠を構える“名無し”に礼を尽くしては、我ら“ペルセウス”の旗に傷が付くわ」
両者の会話を聞いていた黒ウサギは、納得したとはいえレティシアに危害を加えるという上哉の作戦に加え、“ペルセウス”の無礼・侮辱によって拳をプルプルと震わせている。あと少し切っ掛けを与えればすぐにでも黒髪を淡い緋色に変幻させそうだ。
「レティシアを賭けたギフトゲームを撤回しておいて、その上でこの無礼は“ノーネーム”とか関係なく失礼過ぎるのではなくて?」
色々と
「ギフトゲームの撤回については我らの首領が取り決めた交渉だ。箱庭の外とはいえ、一国規模のコミュニティとの取り引きを台無しにするわけにはーーー」
「は、箱庭の外ですって⁉︎」
騎士達の発言でついに黒ウサギは声を荒げる。ただ、怒りよりも驚きの方が
「彼らヴァンパイアはーーー“箱庭の騎士”は太陽の光を受けられないのですよ⁉︎ それを箱庭の外に連れ出すなんて……‼︎」
箱庭の天幕が不可視となっているのは、そういう直接太陽の光を受けられない種族のための装置だったのだ。そして太陽の光を浴びるために箱庭を守った姿から、吸血鬼の純血は“箱庭の騎士”と呼ばれている。
それなのにレティシアを箱庭の外に売ると言っているのだから、黒ウサギに黙っていられるわけがなかった。
「そんなことは我々の知ったことでは…「おい、吸血鬼が逃げたぞ‼︎」…なにッ⁉︎」
黒ウサギが叫んで騎士達の注意が逸れた瞬間、レティシアはその隙を突くように走り出していた。
「クソッ、此処まで来て逃げられてたまるか‼︎ 見失う前に石化しろ‼︎」
リーダー格であろう騎士の言葉により、再び褐色の光がレティシアへと降り注いだ。先程のようにその場から姿が消えているということはなく、光が収まった場所ではレティシアが石像となっていた。
そして動かなくなったはずのレティシアが一人でに宙に浮いて騎士達の元へと飛んでいく。
「……見えないけど二人、レティシアを抱えて飛んでる」
石像となったレティシアを見ながら耀が言う。恐らくペルセウスの伝承にも登場する“ハデスの兜”を装着しているのだろう。
「ふぅ、任務完了だ。もうこんな所に用はない、引き上げるぞ」
レティシアを回収し終えると騎士達はすぐに帰っていった。
★
「レティシア様……すみません」
黒ウサギは騎士達の後ろ姿を眺めつつ、顔を俯かせてレティシアに謝罪を向ける。
「どうせ助けるのなら生身だろうが石だろうが同じだ。石化したとしても後で解除すればいい」
こうなるように仕組んだ張本人である上哉は割り切ったもので、レティシアが石化した場所から“空間支配者”である物をこっそりと回収しながら黒い笑みを浮かべる。
「細工は流々仕上げを御覧じろ、ってな。……最後の仕上げだ。誰でもいいから手伝ってくれ」
「分かったわ」
本拠に戻ろうとする上哉に言われて飛鳥が着いていく。耀は今あったことをジンに報告しに別館へと向かった。
未だに騎士達が消え去った方角を見ている黒ウサギに十六夜が言う。
「気持ちは分かるが今は切り換えろ。あいつの最後の仕上げとやらが終われば“サウザンドアイズ”に乗り込むんだからな」
レティシアが十六夜達のことを知っていたのは白夜叉が関係しているのだろう。ならば“サウザンドアイズ”の傘下である“ペルセウス”も、レティシアが逃げ出せたことについて白夜叉の元を訪れるはずだ。
「……レティシアを助け出すんだろ?」
「……はい。必ずお助け致します」
黒ウサギは決意の籠った声音で十六夜に言葉を返す。
戻ってきた上哉は身体をすっぽりと覆う黒の外套を羽織っていた。それで準備は完了したのだろう。
ジンには本拠で待機してもらうことにし、残りの五人で“サウザンドアイズ”二一〇五三八〇外門支店を目指すのだった。
★
“サウザンドアイズ”の門前に着いた五人は女性店員に迎えられて店内に入り、中庭を抜けて離れの家屋へと案内された。そこにいたのは、白夜叉と亜麻色の髪に蛇皮の上着を着た線の細い男ーーー“ペルセウス”のリーダーであるルイオスだった。
「うわぉ、ウサギじゃん‼︎ うわぁ実物初めーーー」
黒ウサギを見たルイオスが盛大に歓声を上げ始めたのだが、途中で急に声が途切れる。だが、声が途切れただけで口は今もパクパクと動いている。
いったいどうしたのか不思議に思う一同だったが、
「聞いても意味なさそうだったから音声遮断の障壁を張ったぞ」
という上哉の言葉で何が起こっているのか理解した。念のため上哉は読唇術で確認しているが、やはりどうでもいい内容である。
「上哉さん、超グッジョブです」
ルイオスのテンションと視線から嫌悪感のする内容であろう事は分かりきっているので、対象にされた黒ウサギは上哉に親指を立てて称賛を送った。
「ーーーがるぜ?」
「……………」
言い終わるタイミングで障壁を解き、何かを決め顏で言い終えたルイオスだったが上哉を除いて誰も詳しい内容が分からないので、リアクションもできずにその場を静寂が包み込む。
「……えっと、あの……御来客の方も増えましたので、よろしければ店内の客間に移りましょうか?」
「そ、そうですね」
居た
「なんだよ無視しちゃって。つまんないの」
そんな空気の中でこの発言ができるルイオスはある意味すごいと思う。
所変わって“サウザンドアイズ”の客室にて。
黒ウサギがでっち上げた罪状を含めて白夜叉に説明し、なんとか“ペルセウス”との決闘に持ち込んでレティシアを取り戻そうとする。それに対してルイオスものらりくらり言及を躱し、このままでは逃げられてしまいそうだ。
「まぁ、どうしても決闘に持ち込みたいというならその罪状をちゃんと調査しないとね。……もっとも、調査されて困るのは全く別の人だろうけど」
「そ、それは……」
白夜叉に視線を移して言葉を詰まらせる。今まで彼女には感謝しきれない程の支援を受けた黒ウサギにとっては、これ以上の苦労を彼女に掛けるのは避けたかった。
これ以上は黒ウサギには重荷だと考えた上哉は割って入る。
「なぁ白夜叉。傷害罪って箱庭ではどれくらいの罪だ?」
「は?」
突然の関係なさそうな質問に白夜叉はポカンとしたが、取り敢えず訊かれた内容に答える。
「…ギフトゲーム内でのルールに則るならば無罪だが、それ以外ならばもちろん違法だ。罪は程度によって変わるだろうがな」
「そうか。なら……」
白夜叉から言質を取った上哉はギフトカードを取り出し、“
「左腕の損失という傷害だったらどれ程の罪に問える?」
言うと同時に外套を捲り、包帯を巻いて義手部分を隠して無くなっている左腕を露わにする。
黒ウサギ達は何時の間に義手を石化させていたのかという点について驚き、義手だと知らない白夜叉とルイオスは左腕の損失という点について驚いていた。
「お、お主、その腕はどうしたのだ⁉︎」
「なに、吸血鬼を捕獲する際に“ゴーゴンの威光”とやらに巻き込まれてな。その時のゴタゴタで壊れた。……それで?このレベルだと罪はどの程度になるんだ?」
それを聞いてルイオスは内心で舌打ちする。ただの傷害ならば些細な賠償で済むだろうが、四肢の一部が欠損となれば話は別だ。この先の人生にまで影響を与えるため多額の賠償となる。
それだけならばまだいいが、そんな傷害事件を引き起こしたとなれば信用が大事な商業コミュニティである“サウザンドアイズ”という後ろ盾を外される可能性が高い。あとは連鎖的に話が広がっていけば“ペルセウス”そのものの信用がなくなってしまうかもしれない。
あくまで可能性の低い話だが、あり得ない話ではないのだ。
「……僕達にどうしろと?」
取り敢えず様子を見るためにもルイオスは質問する。要求を飲めるかどうかは内容次第だ。
「本当なら問答無用で吸血鬼を渡せ、と言いたいんだがな。左腕損失の代償として吸血鬼を賭けてギフトゲームをしろ。これならば、“ペルセウス”が勝てば箱庭外との商談は成立して傷害の罪も有耶無耶になる。悪い話ではないだろう?箱庭ならチップと商品はフェアに行こう」
左腕一つに対して取り引きの取り止めとそれによる損害、さらにレティシアを“ノーネーム”に渡すとなれば“ペルセウス”のデメリットは大きい。
だが、左腕一つに対してギフトゲームの開催のみならば勝てば何も問題ないのだ。“ノーネーム”を名無しと見下している以上、この条件で乗ってこないわけがない。
「……いいだろう」
予想通り、ルイオスはこの提案に乗ってきた。しかしそれもすんなりとは行かなかった。
「だが条件がある。うちのコミュニティが最下層で常時開放している試練をクリアするんだ。期限は一週間。それくらいの資格は示してくれないと困る。うちも暇じゃないからね」
なるほど、どうやらその試練で“ノーネーム”を倒して“ペルセウス”は戦わずに勝利するという計画なのだろう。“ノーネーム”としても、それくらいは乗り越えられなければ“ペルセウス”になど勝てるわけがない。
「分かった。だが此方もその条件を飲む条件として、吸血鬼を白夜叉に預けること。その一週間の間に何かされたら困るからな」
「オッケーオッケー。その程度は問題ないさ。もちろん中立の立場でお願いしますよ、白夜叉様?」
「ふん、分かっておるわ」
嫌味ったらしく釘を刺すルイオスに、白夜叉も無愛想に承諾する。これで双方が納得して話し合いは終了した。
★
ルイオスが帰った後、その場に残ったまま飛鳥がジト目で上哉に言う。
「作戦と言う割には少し
あの状況であれば、上哉の提案を断ってレティシアを売り払った金で賠償するという手段もあったはずだ。“サウザンドアイズ”が“ペルセウス”を傘下から外すという確率も曖昧であり、“ペルセウス”の悪評を流したところで名無しの戯言、名無しなんだから仕方ないなどと無視される可能性もあったのだから。
「失敗した時は次の作戦に移るまでだ。何も問題はなかった」
「次の作戦って?」
耀も飛鳥と同じで気になっていたのか、上哉の言葉に反応して訊いてくる。いったい上哉は幾つの細工を施しているのだろうか。
「持ち帰ったレティシアが本人ではないと示唆して交渉に持ち込む予定だった」
上哉は空間をホロディスプレイのようにしてレティシアの実物大映像を映し出した。正にレティシアそのものであり、人によっては確認しようとしなければ本物かどうか見分けがつかないかもしれない。
「これだけ精巧ならば、持ち帰ったのが本人だとは言い切れないだろう」
「んなもん石化解除されれば一発でバレるじゃねぇか」
今度は十六夜に指摘されるが、それでも上哉は何処吹く風である。そして今話した作戦について必要であった、驚愕の事実を告げる。
「いや、あいつらが持ち帰ったのは本当に本人じゃない」
パチンと指を鳴らすと、ホロディスプレイーーーなどではなく、本物のレティシアが目の前に現れた。
「…?此処は……」
レティシアは状況が掴めていないようで頭が疑問でいっぱいのようだが、他の人達は疑問どころか突然のことに思考が停止してしまっていた。
あっさりと石化を逃れていた上哉とレティシアでした‼︎
次回は上哉が考えていた作戦の全貌と“空間支配者”の詳細になる予定です。