神水戦姫の妖精譚(スフィアドールのバトルログ)   作:きゃら める

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第五部 撫子(ラバーズピンク)の憂い 第三章 4

 

 

          * 4 *

 

 

 ――まぁ、違うよね。

 僕が連れてこられたのは、ホテルの中にある一室だった。

 ただし、ベッドがあったりする泊まるための部屋じゃない。

 小ホール。

 大きな会議とか、それほど大きくないイベントを行うためだろう広い部屋には、いまは何も置いてなくて殺風景だった。

 ただ、エイナが僕をここに連れてきた理由はわからない。

 可能性だけなら、思いつけるけど。

「なんで僕をこんなところに連れてきたんだ?」

「何か、よからぬ期待でもしていましたか?」

 ふたりきりになったからか、帽子とサングラスはもちろん、ダッフルコートの前も開いてその下に着ている、煌びやかな服も露わにする。

 ふんわりと揺れるピンク色の髪。

 スカートの地味さに対して、飾り気の多い上着。

 いたずら心を含んだ笑いを漏らしつつも、少し丸い感じのあるその顔は可愛らしい。

 人のそれと違って瞳の模様が描かれただけのカメラアイをしていても、エイナは確かに、アイドルとしての可愛さと美しさを兼ね備えている。

 さすがに彼女の身体はエルフドールなんだ、やましい期待なんて抱いてるはずが、ない。

 でもむしろ、そんな期待の方がよっぽどよかったかも知れないとも思えていた。

「期待は、していたよ。ある意味で」

 広い部屋の真ん中辺りまで進み、振り返ったエイナを見据え、僕は言う。

「別の予想が外れていたら、っていう期待を、ね」

「……すみません」

 口元に笑みを浮かべ、でも僕から目を逸らすエイナに、予想が外れていないことを確信した。

『そろそろ出てきてもいいよね?』

 イヤホンマイクから、朝からずっと黙っていたリーリエが声を出し、デイパックからごそごそとアリシアが出てきた。

「ありがとうございます、リーリエさん。叶わないと思っていた夢が叶いました」

『嘘吐き。半分も叶えてないじゃない、エイナ』

 言葉を交わし合うエイナとリーリエ。

 ――あぁ、やっぱりか。

 たぶん僕は、エイナからデートしたいと言われた瞬間から、ひとつの可能性と、それに付随するもうひとつの可能性について思いついていた。

 でもそれを考えたくなくて、的中していないことを祈っていて、言い出すことなんてできなかった。

 でももう、いまのふたりのやりとりで、それは確信になった。疑う理由がなくなった。

 ――いまさらだけど、考えてみれば当然なんだよね。

 ほぼ姿を見せていなかったふたりのエリキシルソーサラー。相当な強さを持っているはずなのに、可能性のある人物を抽出することができなかった。

 それは、想像の外にいる人物だったからだ。

「もう、克樹さんは、わたしが貴方をここに連れてきた理由がわかっていますね?」

「うん……。でも本当は、やましい期待の方が当たっていた方がよかったよ」

「わたしのこの身体には、そうした機能はついていませんよ」

 にっこりと笑いながら、エルフドールのエイナは床に置いた鞄から、身長二〇センチのエイナを取り出した。

 微笑みながらも、表情が固定されたようにフェイスパーツから人間味が失われたエルフドール。

 対してエルフドールの手のひらに立ったピクシードールのエイナは、小さな身体で僕ににこやかな笑みを見せる。

 物々しい武器を腰や背中に装備しつつも、その衣装はピンクを基調にした、ステージに立つ彼女のミニチュア版。ひらひらとしたミニスカートを穿き、飾りが多いのにボディラインをはっきり見せる、魅力的な姿をしていた。

 彼女は、残りふたりのうちの、片方のエリキシルソーサラー。

 そしてもうひとりは――。

『おにぃちゃん。いまはあたしとおにぃちゃんの目の前に敵がいる。たぶん、これまで戦ってきた中で、最強の敵だよ』

「……そうだな」

『いまは戦うときだよ、おにぃちゃん』

「あぁ、そうだな。そうだな、リーリエ」

『うんっ』

 リーリエの元気のいい返事を聞き、僕は鞄からスマートギアを取りだし、被る。

「でも、後で全部聞かせてもらうからな」

『うん……』

 僕の手のひらの上でアリシアを振り向かせ、悲しそうな顔で頷くリーリエ。

 スマートギアのディスプレイを下ろし、各種アプリを起動させ、僕の準備は整った。

 頷いて見せた僕に頷きを返し、リーリエは手のひらから飛び降りる。

『ゴメンね』

 そんな声を僕の耳に残して。

 同じように床に立ったピクシードールのエイナと、リーリエの操るアリシアが距離を取って対峙する。

 そして、僕は唱えた。

 願いを、込めきれないまま。

「アライズ!」

 三種類の声が同時に響き、二体のドールが光に包まれた。

 

 

             *

 

 

「やっぱりここか」

 メールで送られてきた座標にたどり着いた彰次は、そう悪態を吐いた。

 もう青空がほぼ消えた頃に到着したそこは、都内の霊園。

 最後に来たのは大学卒業前だったから、一〇年以上訪れていない場所。

 真新しい花が花瓶を飾り、燃え尽きていない線香が立てられたその墓石には、東雲家と彫られていた。

 忘れるようにしていたのですっかり思い出せなかったが、座標と一緒に書かれた日時を見て思い出した。

 ――今日が命日だ。

 久しぶりに来たというのに、彰次は手を合わせる気にもなれず、苛立ちに唇を噛む。

「誰だっ、こんなこと仕込みやがったのは!」

 人気のない墓地で叫び声を上げてしまったが、返事が返ってくることはなかった。

 その代わり、音とともに眼鏡型スマートギアに新たなメールの着信が告げられた。

 開いてみると、やはり差出人不明のメール。

 書かれているのはさっきと同じように三次元の座標と、いま現在といっても差し支えのないくらい近い時間。

「つき合っていられるか!」

 眼鏡を外し、羽織ってきたコートのポケットの中に突っ込んだ彰次は、足を踏みならしながらその場を立ち去ろうとする。

 けれど立ち止まり、振り返った。

 墓石を見ていても声がかかってくるわけではない。

 死んでしまった人が現れることなんてあり得ない。

 それでも彰次は、死んでしまった人のことを、冷たい墓石を見て思い出す。

「くそっ!」

 悔しさを声に出して吐き出した彰次は、眼鏡を取り出してかけ、早足に墓場を後にした。

 

 

 

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