神水戦姫の妖精譚(スフィアドールのバトルログ)   作:きゃら める

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第七部 第三章 人間と人間と神
第七部 無色透明(クリアカラー)の喜び 第三章 1


 

 

   第三章 人間と人間と神

 

 

          * 1 *

 

 

 担当教師が注意を述べ、日直の号令で礼をした途端、教室内は一気に冬休みモードに突入した。

 出かける予定を話し合う女子や、成績表をうっすら開けて覗き込みため息を吐く男子を横目で見つつ、明美は振り向いて克樹の姿を探す。

 魔女との戦いがすでに終わっているのか、これからなのかは聞いていない。百合乃に会いに何度か彼の家を訪れたが、ここしばらくは忙しいと言われて拒否されていた。

 気にしても仕方ないとわかっていたが、心配な気持ちは抑えきれなかった。

 鞄を肩に担いだ克樹と、目が合った。

 ――え?

 明美の視線に気づいて、ニッコリと笑みを浮かべた克樹。

 奇妙な違和感。

 ここのところの彼は、悩んでいるのか難しい顔をしていたり、疲れているように眠そうな顔をしているかのどちらかが多かった。

 いまそんな笑みを浮かべられるのは、昨日は充分に睡眠時間が取れたのかも知れない。

 でも彼の清々しい笑顔に、何とも言えない気持ちが明美の胸にこみ上げてきていた。

「克樹っ」

 彼に声をかけてどうしたのか聞こうと思ったが、ひと足早く克樹は教室を出て行ってしまっていた。

 夏姫も、近藤ももう教室にはいない。

 もやもやした気持ちは残っているが、どうにもできない。明美もまた帰るために教室を出た。

「克樹たち、大丈夫なのかな……」

 一斉に学校を出て来た生徒たちに揉まれるように歩きながら、明美はつぶやく。

 同じ制服を着た人たちの中に、見知った背中は見つけられない。

 駅には向かわない道まで来て人混みが途切れたとき、彼女は振り返っていた。

 心配していても、何かができるわけではないのはわかっている。

 克樹たちが関わっているのは、いまでも夢だと言われたら信じてしまいそうなほど、不可思議な事柄。何の力もない明美では、遠くから見つめて、報告を待っていること以外、できることなどなかった。

「……でも」

 押さえた胸のもやもやが収まってくれない。

 たまに知り合いから怖いと言われることもある予感を、自分ではあまり信じていなかった。外れることが多いことも、知っていたから。

 でもさっきの克樹の笑みが、どうしても頭から離れてくれない。

 足が、克樹の家へと歩き出す。

 関わるべきでないと言われていた。危険だと教えられていた。

 悪い予感を覚えるもやもやとしたものの奥にある、重くて硬いものが、もう抑えられない。

 いつのまにか小走りになり、最後にはほとんど全速力で、明美は克樹の家にたどり着いていた。

 格子になってる門の前で一瞬ためらう。

 けれどいままさに閉まり始めた玄関の扉を見た彼女は、思い切って踏み込んだ。

「克樹!」

 閉まりきる前に指を滑り込ませて扉を開けると、驚いた顔をした克樹が振り返った。

 靴を脱ぐ前に玄関の隅に置かれたデイパックを覗き込んでいる彼。

 大きく開いたデイパックから覗いているのは、確かピクシードール用のアタッシェケース。

「これから、戦いに行くの?」

 克樹が何かを言う前に、明美はそう問うていた。

 ぽかんと開けていた口を閉じ、睨むような視線を向けてきた彼に、明美は確信した。

 ――今日が、決戦の日なんだ。

 すぐに目を逸らして、迷ったように視線をさまよわせた後、顔を上げた克樹。

「……なんで、遠坂がうちに来てるんだよ」

「なんとなく……、イヤな予感がしたから。――今日、なんとかって魔女と戦うんでしょ?」

「お前には関係な――」

「ないよ! ワタシには関係、ないかも知れないよっ」

 肩に提げていた鞄を放り出し、克樹に詰め寄って、明美は立ち上がった彼の襟首を両手でつかむ。

 驚いてる顔に自分の顔を近づけ、彼女は言った。

「確かに関係ないよ。ワタシはエリキシルバトルなんて知らないっ。克樹たちがどんな戦いをしてきたのかも、百合乃ちゃんがどんな風になってるのかも、この前聞いたこと以上にはわからないっ。でも……、でもさ、克樹。その魔女ってのは、凄く強くて、恐ろしい人なんでしょ?」

「あ、あぁ」

「なんでそんな人と、克樹が戦わなくちゃいけないの?!」

 わからなかった。

 克樹が戦わなければならない理由が、明美には理解できなかった。

 理由はあるのだろうと思う。けれど克樹でなければならない理由も、彼が戦うつもりでいる理由も、わからなかった。

 理解なんて、したくなかった。

「そんなの、大人に任せておけばいい。克樹より強い人だっているんでしょ? 誰か別の人に頼めばいい!!」

「いや……、僕と、百合乃しか戦う資格がある人がいなくって……」

 玄関の壁に押しつけられて、明美の剣幕に困惑した表情を浮かべている克樹。

 さらに詰めより、揺らいでぼやけている視界で彼を明美は睨みつける。

「それでも……、戦える人が克樹しかいないんだとしても、ワタシは行ってほしくないっ。負けたら、殺されちゃうかも知れないんでしょ? 怪我だってするかも知れないんでしょ?」

「……」

 口をつぐんで克樹は答えてくれない。

 ――どうしてワタシ、こんなこと言ってるんだろう。

 自分でもわからなかった。

 彼のことを見るまで、こんなことを言うつもりではなかった。何かを考えて、ここまで来たわけではなかった。

 今日彼が魔女と戦いに行くと確信した瞬間、明美の中で何かが弾けた。弾けた気持ちを、止められなくなった。

 克樹のことを目で追うようになったのは、いつからだったろう。

 仲良くなった百合乃と一緒に過ごしていたはずなのに、いつの間にか克樹のことを見るようになっていた。彼から目が離せなくなっていた。

 同じ小学校と中学に通って、仏頂面が多くて人付き合いが苦手な彼とはあまり仲良くはなれなかったけれど、ふとしたときに百合乃に見せる優しさが、胸に突き刺さった。

 百合乃が亡くなって、ふさぎ込む彼に声をかけられなくて、荒れていくのも止められなかった。

 克樹の気持ちが落ち着いたら――。

 なんていうのは、自分に対する言い訳に過ぎない。どう触れていいのかわからなくて、嫌われるのが怖くて、近づいていけなかった。

 いまは、克樹の側には夏姫がいる。

 遠巻きにしている間に、迷っている間に、彼の隣は埋まってしまっていた。

 そこに入り込む隙間は、ない。

 それがわかっていても抑えることができない。これから克樹が命懸けで戦いに行くんだと知ってしまったら、抑えることなんてできようはずがない。

 頬を零れ落ちていく熱い滴を感じながら、明美は胸の奥に、奥底にずっと隠していた気持ちを叩きつける。

「ワタシは、克樹に死んでほしくない!!」

 

 

 

「ワタシは、克樹に死んでほしくない!!」

 そう言ってぽろぽろと涙を零す遠坂に、僕は気がついた。

 ――僕は、莫迦だな。

 どんな気持ちで、どんな想いを込めて叩きつけられた言葉なのか、僕は理解した。

 というか、理解するのが遅すぎた。

 ――なんで気づかなかったんだろう。

 遠坂との出会いは、小学生の頃。

 両親の仕事の関係で、僕と百合乃は学校が終わると学童施設に預けられていた。施設職員の子供でもある遠坂は、自分も預けられているのに子供たちのまとめ役だった。

 しっかり者で、可愛らしかった同い年の遠坂のことが気にならなかったと言ったらウソになる。

 細かいことに口うるさくて、何かとちょっかいをかけてきてウザったくもあったが、中学に入って接触する機会が減った。

 百合乃が死に、彼女が心配して頻繁に家を訪ねてきてくれてたのも覚えているけど、沈んでいくうちに彼女への気持ちは消滅した。

 家に引きこもり、いま思えば気持ちの整理にもなっていたヒューマニティフェイスの開発をやったり、リーリエを稼働させたりで忙しく、彼女とまともに向かい合ったのは中学三年になってから。

 百合乃が掠われて殺されたのに、不用心に僕しかいない家に踏み込んできた遠坂を押し倒した。男は怖いという警告の意味と、溜まっていた鬱憤の八つ当たりと、どうにもできないやるせなさとでぐちゃぐちゃだった。

 恐怖ではない、悲しそうな遠坂の泣き顔を見なければ、あのとき僕はどうなっていたのかわからない。

 その後、百合乃を思わせるリーリエと過ごし、中学を卒業し、高校でまた声をかけてくるようになった遠坂は、以前より少し遠巻きながらも、受け入れてくれた。

 僕は遠坂がどんなことを考えて、どんな想いを抱いてるかなんて、考えてもいなかった。

 怒りが湛えられた、でも恐れと、寂しさが籠められた遠坂の瞳に、僕はやっといま、彼女のことを知った。

「遠坂……。僕は――」

「克樹!」

 僕が言おうとした言葉を遮り、彼女は額が当たりそうなほど顔を近づけてくる。

「ワタシは、克樹のことが――」

「そこまでです」

 遠坂の言葉を制したのは、二階から下りてきた百合乃。

 突然の百合乃の登場に遠坂は僕から離れ、少し寂しそうな笑みを浮かべる空色のツインテールが割って入るように立つ。

「それをいま言うのは、卑怯です」

「だけど……、だけどワタシはっ!!」

「時間切れです。せめて……、せめてエリキシルバトルが始まる前だったら、わからなかったと思います。でももう遅いんです。明美さん」

 たぶん、百合乃と遠坂のふたりが話してるところに来たんだったら、いまくらいクリティカルな会話でも気づかなかっただろう。

 でもいまならわかる。

 遠坂が言いたかったことも、百合乃が言ったことの意味も。

 振り返って寂しげな笑みを見せる百合乃に、僕は自分がどんな顔になってるのかわからなかった。複雑な気持ちをどうしていいのかわからなかった。

 歯を食いしばって一歩遠ざかっていった遠坂は、袖で涙を拭って口を開く。

「克樹がっ、克樹と百合乃ちゃんが戦う必要なんて、ないじゃないっ」

「あたしとおにぃちゃんしか、魔女さんと真正面から戦うことができないんです。それに、終わらせないといけないんです、あたしと、おにぃちゃんとで」

 寂しげな色は残っているけれど、優しい色を湛える瞳を向けてきた百合乃の肩に手を置き、また涙を溜めている遠坂と向き合う。

「モルガーナは、百合乃が死ぬ原因をつくった奴だ。復活したと言っても、百合乃は普通の人間とは違う。復讐したい気持ちも、残ってるんだ。それだけじゃなく、全部に決着をつけたいんだ」

「決着を、つけたい?」

「うん」

 問い返してきた遠坂に、僕は力強く頷く。

「モルガーナに関わってから、いろんなことがあった。いろんなことを考えた。復讐だけじゃなく、あいつは倒さなくちゃいけない。みんなのために、なんて大きなことは言わない。エリキシルバトルに関わって、願いを叶えられなかったソーサラーたちのために。僕と百合乃のために。そして何より、リーリエのために」

 モルガーナは百合乃の仇であり、リーリエの仇とも言える。

 私怨と言われればそれまでだけど、僕は僕の想いのために、あいつと戦う。あいつを倒す。

 それが本当の答えだ。

 それを、誰かに邪魔させるわけにはいかない。

 真っ直ぐに見つめた遠坂は、唇を噛んで、両手を握りしめて、僕から目を逸らした。

「必ず帰ってくるから、大丈夫だ。遠坂」

 そう声をかけるが、彼女の表情が和らぐことはない。

「おにぃちゃんのことは、あたしが守るよ」

 肩に乗ってる僕の手に自分の手を重ね、百合乃が言った。

 それでも表情を歪めたままの遠坂は、こちらを見ようとはしない。

「おにぃちゃんが帰ってきた後、さっきの言葉の続きを言うかどうか、もう一度考えてみてください」

 百合乃のそんな言葉に、遠坂は僕のことをちらりと見た。

「絶対に、絶対に帰ってこないと、許さないから!」

 言い残して、鞄を拾った彼女は玄関から飛び出して行った。

 零れる涙を手で押さえながら走って行く遠坂を追いかけようと、玄関の扉に手を伸ばした手は、空振る。

「意外とモテるんだな、お前」

 扉を開けて姿を見せたのは、猛臣。

 行く手を遮るように立っている彼に、僕は追いかけるのを諦める。追いかけてもどうしようもないことも、わかっているから。

「夏姫のことならいつでも引き取るぜ」

「……冗談は止めてくれ」

 気の利いた返しもできず、ため息をひとつ吐き出した僕は家の中に入る。

 出発時間にはかなり早く、集合時間にも余裕があるから、猛臣が一番最初に到着した形だ。

「でもなんで、全員行くことになってるんだ? 何があるのか、わからないんだぞ?」

 学校に帰ってきたばかりの僕は脱いだコートをダイニングテーブルの椅子にかけながら、一緒に入ってきたニヤニヤした笑みを浮かべる猛臣のことを振り返る。

 決戦日を伝えたときにスフィアロボティクス総本社への運転手を買って出た猛臣を筆頭に、夏姫や灯理、近藤も一緒に着いてくると行って譲らなかった。

 気持ち的には心強くもあるが、何があるのかわからないから建物の下まででと説得したけど、モルガーナと対面したいと言うみんなに押し切られた。

「てめぇが勝てば問題ないだろ」

 ニヤリと唇をつり上げて笑う猛臣は、百合乃が淹れて置いてくれたお茶に手を伸ばし、大きく呷る。

 苦笑いを返すことしかできない僕だったけど、少しだけ気分が楽になった。

 ――勝てば、いいんだよな。

 できる限りの準備は、みんなに協力してもらってやってきた。

 万全かどうかは、モルガーナのエイナの強さが推し量れないからわからない。

 けれど、勝つ以外の結果はいらない。

 勝つことが自分のためにも、遠坂のためにも、夏姫や百合乃、他のみんな、それからなにより、リーリエのためになる。

 ――絶対に、勝つ。

 腰だめで拳を握りしめて決意を新たにする僕に、百合乃が微笑みかけてきてくれる。

 僕もまた、そんな彼女に笑みを返していた。

 

 

            *

 

 

 うつむいていた顔を上げると、ダイニングから見える窓の外が、だんだんと暗くなっていっているのがわかった。

 ――そろそろ、克樹たちは家を出た頃か。

 眼鏡型スマートギアの視界の隅にある表示で時間を確認し、ダイニング用の質素なソファに座る彰次は大きなため息を漏らした。

 もしかしたら今日、世界の、人類の未来が決まるかも知れない。

 午後までは普通に仕事をし、用事を理由に早めに帰宅をしたが、家でやることがあるわけではなかった。

 決戦の日が今日であることは聞いていて、社長にも話して念のため自宅で待機することにしたが、気が焦るばかりで何も手に着かない。

 帰りしなに見た街では、クリスマスイヴの今日を楽しむ恋人たちや家族連れが多くいた。幸せそうで、平和そうな空気で溢れていた。

 その雰囲気が今日、消滅してしまうかも知れない。

 変化があるのは今日でなくても、今日の克樹たちの戦いの結果で、消滅するか、存続するかが決まるかも知れない。

 彰次自身は現地には行かない。

 子供たちだけで行かせるのは不安であったし、着いていくことも考えたが、準備の手伝いはできても現地では役に立たない。むしろ足手まといになることがわかっていた。

 心残りはある。

 けれどエイナの意思が封じられている以上、何もできることはない。

 それが彰次の結論だった。

 ため息を吐き出した彰次は、ソファから立ち上がってダイニングの隅の棚へと歩み寄る。ガラスの扉を開け、常備してあるウィスキーの瓶に手を伸ばした。

「……そういうわけにも、いかないか」

 酔って酒の勢いで眠ってしまいたかった。

 抱えきれない気持ちを、いまは忘れていたかった。

 けれどそういうわけにもいかない。

 今日は何があるのかわからない日。克樹から連絡があるまでは、眠るわけにも、ましてや酒に溺れているわけにもいかなかった。

「アヤノ、コーヒーを淹れてくれ」

 振り返って声をかけたが、反応がない。

「……そうだったな」

 ダイニングテーブルの椅子のひとつに、まるで眠っているかのように目をつむって座っているエルフドール、アヤノ。

 芳野の面影を微かに感じるデザインのアヤノは、いまは動かない。スフィア一斉停止以来、動かしていない。

 仕事の方が忙しいのもあったが、何となく動かす気になれなかった。

 AHSは正常で、テスト用のクリーブも家にあるから、それに交換すれば稼働できるのはわかっている。

 念のためと思って、エイナが使っていたという、リーリエから渡されたスフィアに入れ替えて動かないのを確認して以降は、稼働させる気になれないでいた。

「仕方ないか」

 棚の扉を閉めて息を吐いた彰次は、キッチンに入ってヤカンに水を入れ、コンロで火にかけた。

 美味しいコーヒーが飲みたかった。

 喉が渇いただけならインスタントもあるし、すぐに熱い湯が出るウォーターサーバーだって、コーヒーメーカーだってある。

 けれどいまは手持ち無沙汰で、何かしていないといられなくて、ヤカンで沸した湯でレギュラーコーヒーを淹れたかった。ほとんど変わらない気がするのに、コーヒーメーカーで淹れるより、手で淹れた方が美味しいと感じるから。

 ――先輩との過去の清算、ちゃんとするって約束したんだがなぁ。

 湯が沸くのを待つ間、家で家事をさせるようになってからアヤノに任せっきりで、やっとほしいものがどこにあるのかわかるようになってきたキッチンを探り、コーヒーを淹れる準備を整える。

 ――本当はもう一度、あいつに会うべきなんだろうな。

 あのホテルの小ホールの、克樹と戦っている現場に踏み込み、一度だけ会って言葉を交わしたエイナ。

 東雲映奈とのしがらみに決着をつけるためには、エイナともう一度会って、話をする必要があると感じていた。

 いまはもうそれは叶わないこと。

 モルガーナによって意思を封じられ、エイナは二度と自分の意思で動くことはできないだろうと、百合乃から説明されていた。

 話ができないのなら、会う意味はない。

「だが、な……」

 けたたましく鳴り始めたヤカンに火を消し、マグカップに直接乗せたドリッパーに湯を回しながら注ぎ入れる。

 度々湯を注ぎ足しながら、彰次は考え込んでしまっていた。

 ――今日がたぶん、最後なんだよな。

 今晩、克樹とモルガーナが戦い、決着がつく。

 エイナともう一度会うことができるとしたら、それは克樹たちが負けるということ。それはあまり考えたくなかった。

 克樹が勝つ前提で考えた場合、倒されることになるエイナと会えるのは、今日が最後の機会だった。

「会って、どうすりゃいいってんだ……」

 会ったところで、エイナと話すことなどできない。

 何よりも、会う勇気がない。

 リーリエを例に考えるなら、どの程度かわからないが東雲映奈の記憶を持ち、性格的には彼女と似ているだろうエイナ。

 決着をつけると約束したクセに、東雲映奈を思い出させるだろうエイナと会う勇気が、彰次は出せないだけであることを、自覚していた。

「結局、俺が克樹たちに着いていかなかったのは、怖かったからだよな」

 エイナと会う勇気が出なくて、本当だったら着いていくべきだとわかっていたのに、そう言い出すことができなかった。

 大きなため息を漏らしつつ、コーヒーを淹れ終えた彰次はドリッパーを流しに置き、マグカップを手にダイニングへと戻る。

「どうすればいいんだろうな」

 過去を清算するべきだという想い。

 エイナに会って話すのが怖いという想い。

 そのふたつに挟まれて、カップをテーブルに置いた彰次は、顔を手で覆ってうつむいてしまっていた。

 そんな彰次に、ふとかけられた声。

「本当、相っ変わらず、意気地なしだよね!」

 

 

 

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