神水戦姫の妖精譚(スフィアドールのバトルログ) 作:きゃら める
本文を書く前にわたしが書いているプロットなどといったものに該当するものです。わたしの場合、こうした形の下書きと呼ぶものを書いた上で、本文の執筆に入ります。
作品には関わるものではありますが、こちらの下書きは読まなくても問題のないものです。こうしたものを公開してもいいかな、と軽い気持ちで公開したまでです。
なお、自分用に書いているものですので、誤字脱字は気にしていません。指摘は無用に願います。
読みづらいのは理解していますが、参考程度の公開のため、可読性を気にしての公開ではありませんので、気にしないでいただければ幸いです。
また、ActやSceneなどのまえにピリオドを打っていますが、こちらは階層付きテキスト対応のエディタで書いて、読むための記号です。テキストで保存をして、Vertical EditorやWZ Editorといった階層付きテキストに対応したソフトで読み込んでいただければ読みやすいと思います。
読んでいただけるとわかりますが、本文と違うところがちょこちょことあります。場面が消えていたり、追加されていたり、内容が違っていたりもします。その辺りは本文を書きながら修正していたった部分です。
下書きの長さは作品によってまちまちですが、SDBLのものは少し長めです。下書きの段階で場面などは割ってあり、伏線なども概ね張り終えていますが、本文を書いている間に不足を感じた場合には、下書きを変更したり、本文のみで対応したりと、状況によっていろいろ対応方法は異なります。
小説本文でないため、こうしたものを公開していいのかどうかはよくわかりませんでした。
利用規約上は大丈夫なのかダメなのかいまひとつ判然としませんでしたので、もしダメということであれば指摘いただければと思います。その際は下書きについては削除いたします。
なお、第一部終章の後書きに載せた第二部「黒白(グラデーション)の願い」については、現在のところ下書きには取りかかっていません。その前の前、メモ書きをつくっているところです。
あちらにも書いた通り、公開予定の方は未定です。第二部の下書きを公開するかどうかについては考えていません。
次は第二部の本文にて、お会いしたいと思います。
第一部 天空色(スカイブルー)の想い 下書き
「神水戦姫の妖精譚(スフィアドールのバトルログ) 第一部 天空色(スカイブルー)の想い」 下書き
今回の公開部分は二九話までとなる本編とは異なり、本編を書く際に使用した下書きとなります。読者の方についてはこちらは読まなくても本編には影響がないものとなります。
.Act1
..Scene1 Cut1
夜道を後ろから尾けてくる人物がいるような気がした克樹は、こっそりとスマートギアを頭にはめた。途端にリーリエが歩きながら使うのはと文句を言ってくるが、背後の方向を確認するのと同時に、レーダーの情報を確認するように克樹は言う。
リーリエの警告の声が耳に響いたのは、ちょうど曲がり角を曲がったとき。分厚いコートを身に纏い、フードを目深に被った長身の人物は、すでに戦闘の準備を整えていた。
尾行者の前に置かれていたのは、身長十二センチの人型人形。レインアーマーを被っていて詳しい形状はわからなかったが、鞄から同じピクシードールを取り出していた克樹もまた、足下にそれを置いた。ほとんど同時のアライブの声とともに、二体の人形は百二十センチのサイズへと変化した。
.Act2
..Scene1 Cut1
一般家屋とは異なる厨房で洗い物を続ける克樹。スマートギアをはめたままの視界の隅では、十二センチの人形がバイク型の起動オプションに乗って足下にやってきた。
耳元でする声は、甘えた感じの可愛らしい声。リーリエとその人形のことを呼ぶ克樹は、次はすぐそこの食料庫を確認してきてくれ、と言った。こんなところに入ってないんじゃないのか、と文句を言うリーリエだったが、他に探してないところはそこくらいしかないというと、嫌がりながらも克樹が開けた扉の向こうに消えた。
スマートギアを通して映されるリーリエの視界には、ここ一週間急にメイドが休みになったためだろう、雑多に食材が置かれている様子が見て取れた。
赤外線投射装置と暗視視界によって見える食料庫の中を回って確認していくが、この屋敷の主人に依頼された指輪は見つからない。
片隅に置かれた樽の影を見ようとリーリエがバイクを降りたとき、そこに何かが反射するのが見えた。
確認しようと接近すると、赤いたくさんの光が見えた。やばい、と克樹が思ったときにはもう遅い。耳をつんざく悲鳴とともに、圧縮した空気が解放される音が連続して聞こえた。
情報が早すぎてわからないが、おそらくリーリエが装備している無頭画鋲を射出する画鋲銃を連射しているのだと思った。飛び出してきたのはネズミたちで、悲鳴を上げながらも着実にリーリエはネズミを撃退していく。
撃退を終えたリーリエがもうやだ、と文句を垂れているとき、もっと接近しろ、と克樹は指示する。ネズミがいなくなったその場所には、銀色に輝く指輪があった。
...Scene1 Cut2
適当な片付けと捜索を完了した克樹は、リビングで優雅に過ごしていた夫人に指輪を渡す。
これよ、と大切そうに指輪をなでる夫人だったが、その指輪はどう見てもプラスティック製の、おもちゃ屋か露店で売ってそうな安物。主人との想い出の品なのよ、という夫人は、優しく指輪を手に収めながら、それをきらびやかなアクセサリが入っている宝石箱の一番奥に収めた。
ありがとう、と言ってテーブルの上のリーリエの頭をなでる夫人。この屋敷でメイドとふたり暮らしの夫人は、数年前に旦那を失い、その資産を受け継いで運用して生活しているということだった。二年前に行われたピクシードール同士の戦い、スフィアカップの際に知り合った夫人は、意外にも他の繋がりもあり、いまでは年齢差はあるものの、同じピクシードールのソーサラーとして友達のような付き合いをしていた。
相変わらず人間みたいね、とリーリエを評する夫人に、克樹は曖昧な答えを返す。
でも気をつけなさいよ、と言う夫人。つい先日、ピクシードールを狙った通り魔が出たのだと言う。その事件については知っていたが、ピクシードールは一体安くて十万近い価格がする。物取りじゃないか、という克樹に、夫人は二件目の事件で、殴って奪われたドールは、スフィアを奪われて発見されたのだと言う。
リーリエのことを気をつけてあげて、という夫人の言葉に、克樹は頷いていた。
..Scene2 Cut1
帰り道、最寄り駅に降り立った克樹は、夕暮れが近づく駅前広場で人だかりができているのに気がついた。
移動用の大型モニター車などが設置されたその場所で行われているのは、ローカルピクシーバトル。十年ほど前、スフィアロボティクスが開発に成功したスフィアと呼ばれるロボット用の制御装置により一気に人型ロボット、スフィアドールが広がることとなった。
いくつかの世代を経て、つい二年前から出てくるようになった第四世代ドールでは、それ以前に比べて大幅な低価格化が実現し、いまではスフィアドールはかなり一般に浸透しつつあるが、その中でも完成品よりもパーツでの組み立て要素の大きい最小タイプのドール、ピクシードールは第四世代ドール登場とともにいまなお小遣いで気軽に買える価格でないものの、かなり流行始めている。
第四世代の登場と同時にスフィアロボティクス主催のスフィアカップはいまだ第二回が開催される予定はなかったが、スフィアロボティクスが協賛するローカルなピクシーバトルは週末になると頻繁に行われるようになっていた。
大型モニターで映し出されているピクシーは二体。おそらく決勝戦と思われる戦いだった。
飛び入りOKということになっていたので、リーリエが飛び入りするか、と問うて来るが、さすがに商店街のイベント。一位の商品は米一俵だと言う。
呆れつつも戦いの推移を見つめる克樹。片方は斧槍を持った標準的な十二センチドールで、少し小太りな感じのするスマートギアをつけた男が操作していた。おそらくその動きから言って、フルコントロールだろうと克樹は予想する。対する相手は、比較的珍しい十五センチドール。少し古くさい鋭角的で深い青色をするアーマーで、剣を構える姿をしていた。そのドールを見て、見たような憶えを感じる克樹。そのドールを操作するのは、ポニーテールの女の子で、ピクシードールのソーサラーと言えばたいていはスマートギアによる操作が一般的なのに、彼女は手のひらサイズのスマートタームを操作していた。
現在のピクシードール操作は、半自律ソフトの充実によりセミコントロールが主流であるが、熟練したフルコントロールにはまだまだ及ばないと言われている。
斧槍のピクシーは体格差を感じさせない動きで武器を振るい、おそらくスピードタイプだと思われるのに最小限の動きしか見せない女の子のドールをリング端に追いつめていく。
勝負あったな、と言う克樹に、リーリエがどっちが勝ったのと問うてくる。それに応える時間もなく、斧槍を大振りに振ってリングアウトを狙った攻撃は、剣で受け流されるのと同時に、体勢を崩したところを投げ飛ばされ、逆にリングアウトを食らっていた。
決着が付いたのを見て、克樹はピクシーバトルか、と呟く。
スフィアカップが終わって以降、克樹はピクシーバトルをまともにやっていない。しかし今回ばかりは戦いは避けられないんだろう、と思っていた。何しろ、戦う理由を見つけてしまったのだから。
..Scene3 Cut1
一週間前のその日、克樹は順次発売予定の情報が出ている第五世代パーツの情報をネットで収集しているときだった。
不明な番号からの着信。親か誰かからかと思ったら、表示されたのは「エイナ」という名前だった。エイナと言えば、現在アイドル活動などを行っている、世界で唯一とされている人工個性の実験モデル。いったいなんだろうと思った克樹は、コールに応じてみる。
映し出されたのは、テレビなどを通して見るエイナだったが、同時に彼女の姿はビデオ通話のウィンドウから飛び出して、スマートギアを通してまるで目の前にいるかのように、机の上に腰掛けた。
あなたは選ばれました、と言う克樹に言ってくるエイナ。クラックでもされたのかとリーリエを呼び出そうとするが、返答がない。まるで現実にいる少女のように微笑むエイナは、これから始まるエリキシルバトルへの参加の権利が、特別なスフィアを持つ貴方にはある、と言う。
特別なスフィア、という言葉に、克樹はリーリエの端末として使っているピクシードールに搭載しているスフィアに思い当たることがあった。それはスフィアカップの地区大会、フルコントロール部門で優勝したときに賞品として得た次世代型のスフィアだった。
もしエリキシルバトルで戦い続ければ、いつか貴方は命の滴エリクサーを手に入れることができる、とエイナは言う。それで何ができるのか、と問うと、寿命の延長も、若さを取り戻すことも、死んだ人間を生き返らせることも可能だ、と言う。
もしエリクサーを得たいと思うならば、貴方の願いを言いなさい、とエイナは言う。突然のこと過ぎてわけのわからない克樹は少し考え、エイナに問う。その答えが肯定だったことで、克樹は戦う決意を決めた。
エリキシルバトルを戦い、スフィアを集めなさい。と言うエイナの脇に現れる新しいアプリのインストールを促す表示。そして願いを込めて叫びなさい、というエイナの言葉に、克樹はアライズ、と力の解放を告げる言葉を叫んだ。
その途端、それまで十二センチしかなかったピクシードールが、百二十センチサイズへと変化した。
..Scene4 Cut1
突っ伏していた克樹に起きるように言う声。
起こった顔をしている女の子は、同じクラスの明美。日直の仕事さぼったでしょう、と起こる明美に、徹夜してたから眠いんだ、と言う克樹。
そんなことで言い逃れできると思ってるのか、と言う明美は今日ゴミ捨てはやってから帰りなさい、と言う。
文句を言いながらも、明美の身体を上から下まで眺める克樹。相変わらず身長しか変わらないなぁと言う克樹に、顔を真っ赤にする明美。揉んだら胸は大きくなるらしいぞ、と言う言葉に決して大きくない胸を隠す明美。
文句を言おうとした明美の言葉を遮るように現れたのは、背の高い男。誰だっけというと、明美は同じクラスでも半年以上もいるのに覚えてないのか、と呆れる。近藤誠と名乗った男は、空手部に所属していて、陸上部の明美とは知り合いらしい。そう思えば、と突然誠は話を切り替える。ソーサラーが狙われてるって話が出ていて、誰か狙われそうな奴がいるか、と克樹に問うてきた。知らないという男に興味のない克樹は応える。
なんで自分に訊くのか、と問うと、根暗そうだからその手の仲間がいるんじゃないかと思って、と言う誠。悪意があるのかないのか、もし学校の奴で狙われそうなのがいたら、自分が守ってやろうと思って、などと言う。
誠の熱血振りに辟易した克樹が適当に返事をして話を切り上げようとしたとき、廊下で女子が呼んでいると声を掛けられた。
貴方も気をつけなさいよ、と言う明美の声を適当に返事して席を立って廊下に出たが、誰もいなかった。声を掛けた男子に訊いてみるが、いままでそこにいたのに、と言って首を傾げていた。どんな奴だったかと聞くと、ポニーテールの女の子だったという。
克樹の知り合いにそんな女の子はいなくて、首を傾げるしかなかった。
..Scene5 Cut1
明美から逃げ切れずに、校舎裏にゴミ捨てにやってきた克樹。
掃除はすっかり終わった時間ですでにゴミ捨て場に人影はなく、さっさと教室に戻って家に帰ろうとしたとき、行く手を塞いだのは女の子だった。
自分と戦いなさい、という女の子は、鞄からピクシードールを取り出した。
それは先日駅前で戦っていた、十五センチドール。こんなところでピクシーバトルもないだろう、と言う克樹に、エリキシルバトルだ、と女の子は言う。やろうにも持ってきていない、という克樹だったが、いまエリキシルドールを持っているのはわかっている、と言って、女の子は手にしたスマートタームを見せ、距離二メートルのところにエリキシルドールがいると言う。
エリキシルバトルのアプリはダウンロードしていたが、そんな機能があるなんて調べてすらいなかった克樹。
仕方ない、と言って克樹は懐に入れたリーリエ用のドール、アリシアを取り出した。
始めるよ、という声とともに、克樹と女の子はアライズと叫んだ。
...Scene5 Cut2
どう攻めるか、と問われて、とりあえず防御主体で相手の動きを見る、という克樹。女の子がヒルデと呼ぶピクシーは十五センチサイズと大型なものの、ハードアーマーの形状からすると機敏性を重視したスピードタイプだと思われるのに、その特性を生かした動きをしていなかった。
あの剣には一応気をつけろよ、と言いつつ、克樹はリーリエに先手を打たせる。
繊細な指を守るためのナックルガードを構えつつ前に出たリーリエは、予想していた剣のひらめきを紙一重でかわした、と思った瞬間に返す刀が振り下ろされてきていた。
防御主体で攻撃態勢に入っていなかったためにかろうじて腕のアーマーで流すものの、リーリエの悲鳴が上がった。間合いを取って油断なく構えるものの、リーリエの視界内に映る腕のアーマーには鋭利な刃物で切り裂いたような亀裂が入っているのが見えた。
ピクシーに持たせる武器は多種多様にあるが、どれも形状は刃物でも刃があるわけではなく、基本打撃武器。しかしアライズしているときには、そうした武器は現実の武器と同じように刃ができるようだった。
やばいと感じて冷や汗を流す克樹だったが、同時にヒルデの動きに違和感を感じていた。
リーリエに先ほどの動作を分析させ、結果を見た克樹は作戦を授ける。おそらく予想通りなのだろう、あちらからは攻めてこない女の子に、克樹は再度リーリエから仕掛けるよう指示した。
摺り足でヒルデに近づいたリーリエは、剣の間合いに大胆に踏み込んだ。左下段からの切り上げをかわした瞬間、克樹はリーリエに「電光石火」と叫んだ。おそらく相手にはその瞬間消えたように見えただろう。一気に懐に飛び込んだリーリエは、振り上げた拳をヒルデの左肩に叩き込んでいた。よろけたヒルデに追い打ちの回し蹴りを、同じ左肩に浴びせかけるリーリエ。イヤな音がしたと思ったとき、ヒルデの左腕が力を失い、人でもドールでもあり得ない方向に曲がっていた。バランスは悪くなってもまだ戦闘が終わったわけではない、とさらに攻撃ができるようリーリエに構えを取らせる克樹だったが、涙を目に貯めた女の子は、カームと唱えてアライズを解除し、左肩を破損したピクシーを拾い上げた。
これじゃお母さんを生き返らせられない、と言ってその女の子は泣き出し始めた。
.Act3
..Scene1 Cut1
ヒルデを抱いたまま泣きやまない女の子をとりあえず自分の家に連れ帰る克樹。状態を確認するからとヒルデを借り、充電ベッドに寝かせてチェックを行うと、左肩と左腕のフレームが見事に折れていた。それ以外のところをチェックしてみると、よくこれで動いていたなというほど、メインフレームを除くフレームも、人工筋も劣化していた。
そしてどこか泣いている女の子に似ている表情の変化するフェイスパーツをリーリエに検索させる。検索にヒットし、やっぱりかと思う克樹。
ベッドでチェックできる項目はパーツの情報だけで、所有者の認証がなければ所有者や機体の個体名は見ることができない。
女の子にドールの正式な名前はブリュンヒルデか、と問う克樹。不思議そうに頷く彼女に、じゃあ君が浜咲夏姫か、と問う。頷く夏姫。夏姫が生き返らせたいと願っているのが、浜咲透子であることを知る克樹。でもこれじゃもうバトル続けられないし、自分はもう負けちゃった、と言う夏姫は、また泣く。
どうするべきか、といろんなことを考えて、克樹は突然夏姫を後ろから抱きしめ、胸をつかんだ。服の上からではわからない思いの外量感のある感触に嬉しげな声を上げる克樹に、夏姫は逃げようとあらがう。無理矢理ベッドに押し倒した克樹は何をするのか、と問われる。両親のいない家に女の子を連れ込んで、やることなんてひとつだろう、と言う。慰めてあげよう、とにやりと笑って夏姫の身体をいじり始める克樹だったが、ふと後頭部辺りに嫌な予感を憶えた。可愛らしいアライズの声とほとんど同時に、後頭部に強い衝撃を受けた克樹は夏姫の胸に顔を埋めることとなった。柔らかい感触を楽しむ暇もなく、克樹の意識は遠のいていった。
...Scene1 Cut2
止めてと声を上げているとき、何か重い音とともに克樹が胸に顔を埋めてきた。抵抗しようと腕を動かすと、克樹の手から力が抜けていた。何が起こったのかと顔を上げてみると、女の子が克樹にまたがって座って不思議そうな顔をしていた。
表情豊かな顔はまさに幼い女の子であったが、思い悩むように唇に添えた指のサイズが手袋をはめたように大きく、腕から指先まで装甲に覆われているのを見た夏姫は、彼女がエリキシルドールであることに気がつく。
克樹はドールにアライズの指示など出していないのに、勝手にアライズしているドールを見て夏姫は混乱する。
人間のように振る舞うドール用の自律行動システムはあるものの、それでも勝手に行動するわけではない。主人が気を失っているのに勝手に動いていると言うより、主人のことを気を払っている様子のないそのドールのことが、夏姫にはわからなかった。
おにぃちゃんを誘惑する悪女め、と可愛らしい声で言うドール。襲われたのはこっちで、そんなつもりはない反論する夏姫。泣き落としで克樹に取り入ろうとしていただろう、と言うドールの言葉に、まるで人間に向かって言うように、夏姫は思わず否定の言葉を叫んでいた。
..Scene2 Cut1
まだ後頭部に残るコブをさすりながら、リーリエのアライズを禁止していなかったことを後悔する克樹。昨日は気がついたら夏姫はいなくなっていて、リーリエも何か怒っていて話してくれなかった。これで終わりならそれでもいいか、と思ってリーリエを通して残っているはずの映像記録も確認していなかった。
夏姫に出くわすのも気が引けて、昼休みの間だけ解放されている屋上の片隅でゼリー飲料だけで食事を済ませている克樹の前に立ったのは、夏姫。
意外とタフな女の子であることにため息を漏らしている克樹に、夏姫はリーリエはいったい何なのか、と問うてきた。
新型の自律行動システムにリンクしたドールだ、と適当に答える克樹。そんなはずはない、と言う夏姫は、あれは本当に人間みたいで、まるでエレメンタロイドのエイナのような、と言う言葉を遮る克樹。
話を切り替えてブリュンヒルデはどうするのか、と問う克樹。不機嫌そうな顔になる夏姫は、お金ないけどいつか修理する、と言う。あれは浜咲透子の形見か、という問いに頷く夏姫。夏姫の願いは透子を復活させることか、と重ねて問うと、そうだと答える。
そうだろうと予想していたことではあったが、考え込んでしまう克樹。本当に死んだ人を生き返らせることができると思うのか、と問うと、あんなことができるんだからできても不思議じゃないと思う、と少し声を揺らしながら言う夏姫。
まぁいいか、と思った克樹に、夏姫は問う。自分は負けたのだから、スフィアを奪うのか、と。そのつもりはないと言う克樹に、夏姫は戦って集めなければならないのではないかと言う。集めて、克樹の願いを叶えなくちゃいけないんじゃないのか、と。ちょっと悩んでるから、いまは回収しないと言う克樹。
それよりも、と言う克樹は、夏姫にドールのことは詳しくないだろう、と言う。セミコントロールの精度は二年前のスフィアカップでも地区大会準優勝をするほどの力量だが、おそらくピクシードールについては素人同然なのだろうと思っていた。
どういうことか、と言う夏姫に、日曜に連れて行きたい場所がある、と言う。どこに連れて行くのか、と問われ、デートに、と言うと、夏姫は顔を真っ赤にして何を考えてるのか、と大きな声を出した。
他の人が見てるぜ、というと口をつぐむ夏姫。じゃあ明後日の一時に駅前で、と待ち合わせ、克樹は教室に向かった。
..Scene3 Cut1
一時十五分になっても指定の駅に夏姫は姿を見せず、遅いことに文句を言うリーリエの声を聞き流しながらもすっぽかされたのかと思った克樹が帰ろうとしていたとき、走ってくる人影が見えた。
バイトを切り上げて走ってきたけど遅れた、と言う夏姫。この前あんなことされたのによくミニスカートなんてはけるな、と言う克樹に、アンダースコートだもん、とめくってみせる夏姫。見られても恥ずかしくないと言うのでじっくり見てやる克樹だったが、隠されてしまった。
学校ではバイト禁止のはずだったが、と言う克樹に、家の事情で、とごまかす夏姫。どこに行くのか問われて、秋葉原と答えて電車に乗る。なんでまたそんなところに、と言う夏姫に、自分の持ってるドールがどんなものいか知らないのかと言って呆れる克樹。行ってみればわかるといい、それ以上取り合わないことにする。
降り立った秋葉原のこぎれいな町並みを抜け、古い店が残る場所へと足を向ける克樹。そのうちつぶれるんじゃないかと思うほど古く、奥まったところにあったのは、相変わらず雑多な品々が吊り下げられてる秋葉原でも最古の部類に入るロボット専門店、ピクシークラフトワークスだった。
届いてる商品や新しい仕事に浮いて軽く打ち合わせた後、店主は夏姫に話を振る。ブリュンヒルデを取り出させて見せると、店主はひと目でヴァルキリードールズのナンバー四であることを見抜いた。
訳がわからずきょとんとしている夏姫を放っておいて、克樹はこいつの修理用パーツがほしいんだ、と言った。
...Scene3 Cut2
ブリュンヒルデは第三世代型のピクシードールの代表的なドールの一体だった。
第一、第二世代はスフィアの開発元であるスフィアロボティクスを主導に開発が進められたスフィアドールであるが、第三世代からは規格が後悔され、まだまだ高価であったものの、様々な会社により開発が行われるようになった。
その第三世代終盤に登場し、高性能低価格なピクシードールの実現を目指して開発されたのが、ヴァルキリードール社の五体の試作ピクシードール、ヴァルキリーシリーズだった。その後ヴァルキリードールズは経営難からスフィアロボティクスに吸収合併され、すでに登場し始めていた低価格を標榜し性能の低下も同時に招くことになった通称暗黒時代の第四世代の後、価格と性能の両立を目指した新企画として登場しつつある第五世代パーツには、ヴァルキリーシリーズで取り入れられた技術が多数使われているとされている。
試作型の五体は一体が開発中の事故で廃棄され、二体は所在がわかっているが、残りの二体は所在不明となっていた。
説明を聞いてそんな貴重なものだったのか、と驚く夏姫。ブリュンヒルデを買い取ったと噂があったプロフェッサー浜咲は、と店主に問われ、一昨年の夏頃になくなったと夏姫は告げる。
そんな様子をよそに、克樹はパーツカタログからブリュンヒルデに適合するパーツを選んでいた。店主に見積もりを取ってもらうが、バトルにも使えるものとなると工業用途のパーツも含まれるため、軽く十万を超えてしまっていた。ソフトアーマー、ハードアーマーにも変更が必要で、十五センチドール用のアーマーはまず見あたらない、と言うと、夏姫は泣きそうな顔になっていた。
そんな彼女の様子に、例の人から捜索願いは出ているのか、と克樹は店主に問う。取り下げたという連絡はないから、と言う店主の言葉に、克樹は夏姫に言う。もし取り外したサブフレームやアーマーを全部売り払うなら、このパーツのすべてが手に入る、と。店主も助け船を出し、ピクシードールの収集家で、ヴァルキリーシリーズの捜索をしている人がいる、と言う。たとえ劣化して壊れていてもその人であれば買い取ってくれるだろう、と。もちろん全部ならばもっといい金額になるが、パーツだけでも買い取ってくれるだろう、と。
泣きそうな顔でどうしたらいいだろう、という夏姫に、克樹はブリュンヒルデは飾っておくだけの人形か、と問う。否定する夏姫に、戦いはまだこれから続けるつもりなのか、とさらに問う。バトルドールは戦えなければ飾りだ、と。
頷いた夏姫は、その人と交渉をお願いします、と言った。
..Scene4 Cut1
できるだけいいパーツを揃えるし、専用のアーマーもつくっておく、という店主の言葉に送られてPCWを出た克樹は、夏姫にもう一カ所寄りたい場所があると言った。
電車に乗って数駅、閑静な住宅街の一角で、豪邸とも家の呼び鈴を鳴らした克樹は、アヤノという人に呼びかけて鍵を開けてもらう。
克樹たちを待っていたのは、小学生ほどに見えるが、メイド服を着た女の子のような人物。お茶を淹れるという彼女にお構いなくと告げて、寝ているという叔父を起こしてもらうことにする、その間にリビングを物色する克樹は、携帯端末をひとつ掘り出して夏姫に渡した。
所有権の委譲についてはショージに確認してほしい、というアヤノをまじまじと見る夏姫。彼女はエルフドールで、いまここで趣味と実益を兼ねて実験中なんだ、という。誰の家なのかと問われて、ヒューマニティパートナーテックの技術部長の家だ、と言った。
リーリエにはアヤノと同じ自律行動システムを使っていて、本体は別の場所にあってネット経由でリンクして人間のような行動が可能なんだ、という言葉に、夏姫はあまり納得した顔はしていなかった。
ヒューマニティパートナーテックは夏姫でも聞いたことがある会社で、最近ピクシードールの制御ソフトとかヒューマニティフェイスとかのパーツをつくってる有名な会社だよね、という夏姫は、そんな人の家に上がり込んでいいのか、と言う。ここは叔父で実質的な保護者の家でもあるから大丈夫だ、と言う。両親はどうしてるの、という問いにどう答えようか悩んでいるとき、やってきたのはショージこと、音山彰次。
夏姫のことを見て彼女をつくったのか、と言う彼だったが、夏姫がそれを否定する。無理矢理襲おうとしたらリーリエに邪魔されたというと、女の子はもっとデリケートに扱わないとダメだという彰次。ひそひそと彰次が可愛いじゃないかと耳打ちしてくるのに性格はけっこうきっついみたいだと答えている克樹。それを聞いていた夏姫は文句を言う。
落ち着いて自己紹介をした彰次に克樹は使ってない端末を彼女にあげて良いかと問い、了解を得て所有権の委譲と環境移行を行う夏姫を横目で見ながら、克樹は彰次に問う。
魔女の居場所を知らないか、と。今更あいつに何の用があるのかと厳しい顔をする彰次だったが、理由は言えないができれば会いたいんだ、という克樹。克樹の顔を見て、細かく事情は問わずにいまはどこにいるかは知らないが、たぶんスフィアロボティクスだろう、と言った彰次。やっぱりと思う克樹は、会う方法はあるかと重ねて問う。いま具体的にどこにいるかはわからないが、どうしてもというなら知り合い関係に聞いてみると言う彰次にお願いをする克樹。
魔女とは誰なのか、と問うてくるそれをごまかしているとき、夕食の準備をするというアヤノが言う。まだまだ法律的な問題で免許や介護方面には進出できていないが、アヤノのつくる料理はかなりおいしいぞ、と言って克樹がそろそろ遅くなるから、という言葉を押して、彰次は食事に誘った。
..Scene5 Cut1
最寄り駅からしばらく。夕食を結局食べてずいぶん遅くなってしまった帰り道に、機嫌の良さそうな夏姫と彼女の家に向かって歩いていた。
今日はありがとう、と言う夏姫。ヒルデも復活できそうだし、新しい端末は画面が大きくなっていままでよりも使いやすそうだから助かったという夏姫は、これからもまだ戦えそうだ、と言った。
でも、スフィアを回収しなくていいのか、という夏姫の問いに、少し考えていることがあるから、いまはスフィアを奪ったりしない、と克樹は言う。魔女に関わることかという問いには、克樹は黙して答えることはなかった。
自分は母親を生き返らせるためにエリキシルバトルに参加したのだ、という夏姫。自分の家の父親はだらしがない人で、いまもどこで何しているのかわからない。でも、母親が頑張って、ピクシードールの開発なんかの仕事をして支えてくれていた、と言う。でも仕事が好きすぎて、過労で去年亡くなったのだ、と言う。その形見であるヒルデを失わなくてよかった、という夏姫。
そして夏姫は、克樹にどんな願いでエリキシルバトルに参加したのか、と問うてくる。その話はいまはする気はない、という克樹に。頷く夏姫。でももし、話したくなることがあったら絶対にちゃんと聞くから、話してほしい、と言った。
この前みたいなことをしたら今度は容赦しないけど、でも、スフィアをまだ自分に預けてくれている間は、克樹の手伝いくらいはする、という夏姫。
古びたアパートの前で夏姫と別れた克樹は、自分の願いはそんなに良いものじゃない、と言ってその場を離れた。
..Scene6 Cut1
夏姫の家からしばらく歩き、克樹は尾けてくる人物がいることに気がついた。
住宅街のど真ん中のここは、夜になってまだそれほど時間は経っていないものの、人影は決して多くなかった。かすかな足音が自分の動きに連動しているのを見て、克樹はこっそりとスマートギアを頭に被った。途端にリーリエに文句を言われるが、後ろを監視しつつ、レーダーの状況を確認するように言う。
できるだけ人通りのある道に出ようと角を曲がったところで、リーリエの警告の声がしたが、すでに遅かった。
曲がったところにいたのは、背の高い人物。フードを被っていて顔は見えず、そしてすでにピクシードールを目の前に置いていた。
舌打ちをした克樹はアリシアを取り出しながら、PCWでパーツ交換をしたことを悔やんだ。ベンチテストもやっていないパーツでは、どれくらいの性能があるのか全くわからないから、劣化してて性能が低くても、いままでのパーtの方がマシだった。
防雨用のレインアーマーを被っていてシルエットもわからないが、おそらく標準より少し背の高い十三センチドールと思われるピクシーに対峙し、行くぞ、とリーリエに声をかけ、アライズの声をかけた。それと同時に、尾行者のドールも百三十センチに巨大化した。
...Scene6 Cut2
どんな攻撃をしてくるかわからないとリーリエに注意を促す克樹。
尾行に気づかれて居直ったのか、と思いつつ、相手の出方を待つが、仕掛けてくる様子はない。こっちからいくよ、というリーリエに頷きつつ、克樹は相手のことをしっかりと観察する。
近づいてくるリーリエに反応して右手を上げたのを見て、克樹はリーリエに回避を指示した。途端に右手の装甲の隙間から発射されたのは、激しい炎。
内蔵型ファイアスターター? と呟く克樹に、当たるなよ、とリーリエに注意を促す。頷きつつ接近しようとするリーリエだったが、動きに反応して発射される炎は、容易に近づけるものではなかった。
夏姫と戦ったときに装備品も巨大化するだけでなく、現実の剣のようになるのはわかっていたが、一時期だけ物好きがつくって店に卸して販売していたファイアスターターなんてものまで兵器のようになるなんて思わなかった克樹。本当に魔法のようだと思いつつも、ファイアスターターにも弱点があることを知っていた。
リーリエにイメージボイスで疾風怒濤を指示する克樹。頷くリーリエは、ファイアスターターが途切れた一瞬、姿が消えたようになった。
ベンチテストもやっていないパーツでやるのは一種の賭だったが、リーリエは一瞬にして尾行者のドールの近くに接近していた。
装備重視型なら接近してしまえば、と思ったが、リーリエのパンチを尾行者のドールはわずかな動きで回避していた。
追撃のパンチと回し蹴りも思いの外素早い動きで回避される。距離を離されないようさらに接近するようにリーリエに指示したとき、レーダーに反応が見えた。角を曲がって現れたのは、夏姫。来るなという声をかけたとき、リーリエが逃げちゃう、と言った。振り返ると、ドールとともに襲撃犯は走り去っていくのが見えた。追わないと、という夏姫だったが、やめておこうと言って克樹は姿を消した通り魔のことを考えていた。
.Act4
..Scene1 Cut1
通り魔を自分の手で捕まえよう、と言う夏姫に、面倒臭いとやる気のない克樹。
昼休みにやってきた夏姫は、克樹に拳を振り上げながらそう言ったが、克樹としてはそんなことをやる気はあまりなかった。
自分が襲われたのにどうも思わないのか、という夏姫に対し、また襲ってくることがあったら戦うさ、と答えるだけの克樹。リーリエも耳元でそんなのでいいのか、と言ってくるが、一応わかる範囲では調べるよ、と言うだけであまり取り合わない。
自分は通り魔を許せないし、母親を生き返らせるためにできることはするから、と言う夏姫に無理はするなよ、という克樹。行ってしまった夏姫の背中を見ながら、克樹はため息をついていた。
いいのか、と問うてくるリーリエに、心配はするが、通り魔も夏姫も自分の願いを叶えるために必死なのだろうから仕方ない、と言う克樹。
でも同時に、ふたりは踊らされているんだ、と思う克樹。
魔法のようなアライズの機能。特別なスフィア。戦ってエリキシルスフィアを集めることで得られるという命の水エリクサー。エリキシルスフィアを持たせ、戦いをするように仕向けているものがいる、と思う克樹。魔女モルガーナ。それがおそらく今回のバトルの仕掛け人。リーリエに検索してもらうのが早いが、写真があるわけでもないので難しかった。一応リーリエにスフィアロボティクスの社員の写真があったら集めておくように指示はしてあったが、結果は芳しくなかった。
バトルに寄って得られるエリクサー。しかしおそらくモルガーナは、それ以上のものを得るためにバトルを開催したのだと、克樹は思っていた。
..Scene2 Cut1
克樹の態度に文句を言いながら靴を履きかえる夏姫は、ちょうどそこにやってきた明美に声をかけられる。
受験のときにたまたま隣の席になって以来友達になった明美とは、別のクラスになっているいまでも仲がよかった。
陸上部は今日はなかったんだということで、バイトに行く夏姫は、駅に向かう明美とともに歩く。
克樹ともめていたらしいけどどうかしたのか、と問われて、エリキシルバトルのことを言うわけにも行かず、適当にごまかす夏姫。
変なことされてないか、と言う明美の言葉に、たじろぐ夏姫だったが、大丈夫だったんでしょう? とわかったように言う明美。卑猥なことを言ってひたすら女の子に嫌われてる克樹だったが、それも考えのことがあってのことだと言う。でも覚悟がないなら暴走してもおかしくないから気をつけろ、と言われて、克樹に何かあったのか、と問うてみる。
彼には妹がいたんだ、という明美。でも二年前、スフィアカップの地区大会が終わった直後に、妹は誘拐事件に遭い、車から投げ出されて死んだのだと言う。
克樹とは、共働きで家に帰るのが遅い家であったために、妹の百合乃が児童館にちょくちょく来ていて、親が児童館の職員であったこともあって中学の頃に手伝いみたいなことをしていて、百合乃が引っ張ってくるので出会ったのだ、という。
中学の頃から面倒臭がりで家に引きこもってることの多かった克樹だったが、妹のお願いは断れなかったし、表に出す態度ほど悪い人間ではないことは、百合乃の話を聞いているとわかった。
それが百合乃が死んで、百合乃をかすがいのようにしていた克樹の家は親がほとんど帰らなくなってしまって、百合乃を大事にしていた克樹はさらに引きこもるようになったのだと言う。克樹が女の子に卑猥なことをしたり、襲い掛かったりするのも、おそらく女子に警戒心を持たせるようにするためじゃないか、と明美は言う。何しろ百合乃は、道を教えてほしいと言われて近づいたときに、克樹の目の前で掠われたのだから、と。
でも本当に気をつけて、という明美は、どうして克樹の側にいたのか、と改めて問う。
ピクシードールのソーサラーだからその繋がりで、と苦しいいい訳をすると、明美は自分もあんまり真面目にやってないけどソーサラーなのだと言う。なんかパーツが劣化してきたから、交換とかしないといけないけどよくわからないから教えてほしい、と言う言葉を聞いて、週末で良ければPCWにお願いしたパーツが届くからいいか、と思ってOKする夏姫。
克樹もまたバトルをやればいいのに、という夏姫。スフィアカップのフルコントロール部門で優勝までしたんだから、かなり強いはずなのに、という夏姫に対して、表情を曇らせる明美は言う。
スフィアカップでドールをコントロールしていたのは、百合乃だったのだと。百合乃は当時いろんなところから注目されているという話もあったくらいの、スマートギアの適正者で、まるで自分自身のようにドールを操作することができるんだ、と百合乃自身から聞いたことがある、と言う明美の言葉に、じゃあいまはリーリエがいるじゃない、と思う夏姫。でもそのリーリエとはいったい何なのだろう、と疑問に思っていた。
新型の自律操作システムだ、とは聞いていたが、あの自然さは、テレビの中で見たことがあるエイナと同じ人工個性と遜色がないもののように思えていた。
そこにやってきたのは、近藤誠。
部活はないのかと問う明美に、通り魔のパトロールのために早めに切り上げた、と言う。危ないことはやめなさいとたしなめられるものの、何の話をしていたのか、と問うてくる。
週末にピクシードールのパーツを買いに行くのに夏姫に手伝いをお願いしたの、という明美は、でもそんなの言われてもわからないでしょう、と空手莫迦の誠に言った。ぜんぜんそんなのわからないと笑う誠。
そんなやりとりを横目で見ながら、夏姫は克樹は妹の復活を願っているんだ、と思っていた。
..Scene3 Cut1
被害に遭わないためにも犯人を絞り込もうと、家に帰ってきた克樹はリーリエに任せていた情報をスマートギアを被って表示させる。
おそらくエリキシルバトルの参加資格は、スフィアカップの一位と二位に配られた、次世代型スフィアだ。第四世代初期ながらすでに次世代型のスフィアが完成していることに疑問を抱かなくもなかったが、第四世代の間にも一般販売分の次世代型スフィアは販売されていったから、おそらくその特殊性に気づいている人は少ない。
基本的には運動制御を行うスフィアは、ボディの他の部分に制限されて充分に機能を発揮できるものではなく、基本的にオーバースペックな代物であることは、ずいぶん以前から知られていたことだった。しかしそれはリーリエによる制御と組み合わせると、次世代型スフィアの機能は充分と言っていいほど発揮できる。ボディから送られてくる情報と、送信する情報のタイムラグが極端に少なく、通常ならば操作司令の方が遅れるために気づかないが、ほぼタイムラグのないリーリエであれば、そのわずかなタイムラグが大きく影響するのだった。
一般販売分のものもテストしてみたが、スフィアカップで配布されたものとは性能が一段も二段も落ちるものでしかなかった。
特別なスフィアがそれだとして、エリキシルバトルへの参加資格はおそらく無条件ではなく、エイナが言ったように、強い願いを持っているもののみを選んで呼びかけたのではないか、と思えた。
そうした願いを持っていそうで、エリキシルスフィアを持っている人物を抽出してみようと思ったが、願いを持ちうる条件の方の絞り込みがリーリエをもってしても困難で、膨大になりすぎるか、少なすぎて、今回の通り魔事件の犯人と思える人物にぶつかることはなかった。
しかし身近で、一人だけ該当しうる人物がいた。背格好も近いその人物は、夫人。旦那を失っているというエリキシルバトルへの参加資格もあるということで、可能性はかなり高いと思われた。
しかし夫人の性格を知る克樹は、通り魔などをする人物ではない、と思えたが、人の内面なんてわからないとも思う。一度会ってみようと思って電話を入れてみたが、携帯電話の番号は不在着信。家に電話をしてみてもメイドが出てきて、出掛けていて帰宅予定は不明だと言われた。
思い悩んでいるとき、リーリエが彰次が来た、と言った。
近くに寄ったから定期メンテと、新しい情報だ、と彰次は言った。
思い悩んでいるとき、叔父から連絡が入る。
おそらく魔女の居場所がわかった、という彰次。どこに、と問うと、おそらくエイナに張り付いてる、と言う。送られてきた画像を見ると、エイナのライブの後と思われる画像の隅に、顔が半分しか写っていないが、あの赤い唇がハッキリと見えた。
次のエイナのライブ予定を確認してみると、週末の夕方に開催される予定になっていた。しかしチケットは完売。スタッフカーに乗り込むタイミングに捕まえられるか、と思ったが、会場は地下のスタッフ用駐車場を完備しているところで、少なくとも会場に入らなければ探すこともできそうになかった。
ネットオークションなども探してみるが、どれも高額で取引されている上に、一瞬にして入札されて入手は難しそうだった。
招待客のチケットでも手に入れば、と言う彰次は、今回のチケットは手に入れる機会はあったが、他の奴に回してしまったという。本当に何してるのかと問われるが、言えるようになったら言う、とだけ答えた。リーリエのことがあるのはわかるが、おかしなことするなよ、と言われて頷く克樹。誰か知り合いにチケット持ってる奴がいないかどうかは当たってみると言う彰次に、お願いするしかない克樹だった。
家に帰ってきた克樹は、リーリエに指示して絞り込みをさせていた情報をスマートギアを使って表示させた。
エリキシルスフィアを持っているのは、おそらくスフィアカップに出場して上位に残った人に贈られた次世代型のスフィアで間違いはないだろうと思った。
魔女の意図はハッキリとはわからなかったが、エリキシルスフィアを持っている者同士を戦わせることが、何か目的に近づくために必要な要素で、盛んにバトルをやっているのはピクシードールに偏っていて、とくにバトルの強さが見込めるスフィアカップ上位入賞者を選んでスフィアを配ったのだろうと思われた。スフィアカップ上位入賞者に配られた次世代型スフィアすべてがエリキシルスフィアなのかどうかはわからなかったし、おそらくエリキシルバトルへの参加資格は、身近な人を失っているなどの強い願いがあるかどうかだと思われた。
できうる限りの情報を調べてみるが、スフィアカップの上位入賞者で、エリキシルスフィアを得る前後に家族や友人などを失っている人物ということで検索をかけても、全国で数人いるにはいたが、事件性がない死者の情報だと出てこないことが多く、PCWで見たファイアスターターの購入者の女の子の情報も上がってきたりはしない。
次世代型スフィアを持っている人物だけでも百人以上いるのだから元々調べるのは困難なのは仕方ないが、雲を掴むような話だった。
しかし身近で、一人だけ該当しうる人物がいた。背格好も近いその人物は、夫人。旦那を失っているというエリキシルバトルへの参加資格もあるということで、可能性はかなり高いと思われた。
しかし夫人の性格を知る克樹は、通り魔などをする人物ではない、と思えたが、人の内面なんてわからないとも思う。一度会ってみようと思って電話を入れてみたが、携帯電話の番号は不在着信。家に電話をしてみてもメイドが出てきて、出掛けていて帰宅予定は不明だと言われた。
思い悩んでいるとき、叔父から連絡が入る。
おそらく魔女の居場所がわかった、という彰次。どこに、と問うと、おそらくエイナに張り付いてる、と言う。送られてきた画像を見ると、エイナのライブの後と思われる画像の隅に、顔が半分しか写っていないが、あの赤い唇がハッキリと見えた。
次のエイナのライブ予定を確認してみると、週末の夕方に開催される予定になっていた。しかしチケットは完売。スタッフカーに乗り込むタイミングに捕まえられるか、と思ったが、会場は地下のスタッフ用駐車場を完備しているところで、少なくとも会場に入らなければ探すこともできそうになかった。
ネットオークションなども探してみるが、どれも高額で取引されている上に、一瞬にして入札されて入手は難しそうだった。
招待客のチケットでも手に入れば、と言う彰次は、今回のチケットは手に入れる機会はあったが、他の奴に回してしまったという。本当に何してるのかと問われるが、言えるようになったら言う、とだけ答えた。リーリエのことがあるのはわかるが、おかしなことするなよ、と言われて頷く克樹。誰か知り合いにチケット持ってる奴がいないかどうかは当たってみると言う彰次に、お願いするしかない克樹だった。
...Scene3 Cut2
克樹の家の一室を占有しているコンピュータ群。それがリーリエの本体だった。
彰次が通っていた大学で研究され、ある程度の成果を上げつつも中止された特別な設計のコンピュータを買い取って設置して、リーリエを構築していた。
状態を見た彰次は問題ないな、と言って接続していた端末を取り外した。
一つため息をついた後、なんでいまさら魔女の会おうとする、と彰次がいった。それは、と言葉を濁す克樹。
魔女と会ったのは一回だけ。百合乃が誘拐され、車から投げ出された現場にたまたまやってきたときだった。いまから考えれば本当にそれがたまたまだったのか疑問にも思うが、魔女の車で病院に運んでもらったが、百合乃は助からなかった。
そのとき何故か手術室に入っていった魔女は、助けられなかったという医師の後に出てきて、ディスクを克樹に手渡した。
その中に入っていたのは、百合乃の脳内情報だった。
あいつの性質はオレがよく知っている、と言う彰次。あいつに触れるのは危険だ、と警告する。
大学時代、脳の機能をコンピュータ上に再現する研究を彰次は行っていたのだと言う。企業と提携しての研究で、企業側の技術者として現れたのが、魔女だったのだと以前聞いたことがある。
スマートギアの原型のようなものでの脳内情報の取得はある程度成功したものの、費用などの面から研究は大きな成果を得られることはなく、結局企業側に買い取られる形で中止になったのだと言う。
あのときオレの知り合いがひとり死んでる。関係があるかどうかはハッキリしないが、魔女は他人の命なんて気にしていない奴だと言う彰次。百合乃もまたそれに巻き込まれた可能性があるし、もしかしたら克樹もまたあいつの思惑に乗せられてしまう可能性がある、と言った。
押し黙る克樹は、言葉もなかった。
百合乃の脳内情報は、彰次によってそうであることがわかり、大学で廃棄直前だった脳内情報を展開するために設計されたコンピュータによって、再現されることとなった。情報には欠損があるがためにオリジナルの人間と同じにはならず、百合乃の記憶までを再現することはできなかったが、百合乃と同じ性格を持つリーリエが生み出された。
リーリエを維持するのはけっこうなお金がかかるし、ヒューマニティフェイスの関係で入ってくるお金でどうにか維持できているが、今後リーリエの情報量がどんどん増えた場合、拡張も考えなければならなかったが、特殊な設計のコンピュータを改めて購入することができるほどの金額は、克樹も持っていなかった。
百合乃とは別れを済ませただろう、と言う彰次。その上でまだ魔女と会う必要があるのか、という問いに、うん、と頷く克樹。
理由を問われるが、言えない、と答える。睨むように見つめてくる彰次の視線を、克樹は真正面から受け止める。リーリエをつくるとなったときもそうだった。思いに流されているのはわかっていたが、結局彰次は手伝ってくれた。
深くため息をついた彰次は、魔女はおそらくいまはエイナに張り付いていると思う、と言った。見せられた写真に写っていたのは、歌いながらダンスを踊るエイナの写真。その向こう、幕の裾に、あの赤い唇がハッキリと見て取れた。
ポケットの中のナイフに伸びる克樹の手を押さえる彰次。持ってるなとは言わないが、刺してもどうにもならないし、おそらくあいつは死なないぞ、という彰次。魔女は自分が知り合ったときから姿形が変わらない。老いてもそれが見えないだけかも知れないが、魔女と呼ばれるだけあって不老不死でもおかしくないし、そうと思わせる雰囲気と、能力を持っているのだから、と言った。
何をしたいのかはわからないが、あいつに流されるようなことだけはするなよ、という彰次の言葉に、頷く克樹。
リーリエに探させたエイナの次回のライブチケットは、どこでも手に入りそうになかった。チケットならオレも入手先は知らないし、技術発表の場でもあるから本来なら手に入れることはできたが、今回は他の奴に回した、と言う。誰か知り合いが持ってないか当たってみる、と言って、彰次は出て行った。
..Scene4 Cut1
耳元でリーリエが文句を言っているのを聞き流しつつ、できればいまここにスマートギアがあればいいのに、と思って座っている克樹。
目の前ではサッカーの試合が展開されていたが、体調が悪いと適当なことを言って見学をしていた。
そこにやってきたのは夏姫。なんで見学してるの、という文句に、体調が悪いからだ、と言う克樹。どうせ嘘でしょ、というが、夜中までいろいろやってたから眠くて体調悪いのは本当だ、という。そういう夏姫はどうしたのか、と問うと、試合待ちだ、と言ってバレーをしている女子の方を示した。
夏姫の姿を見て、思わず制服よりもそそるな、と言ってしまう克樹。今日も家に来いよ、という言葉に夏姫は目をつり上げるが、ため息を吐きつつ、それもなにかのジェスチャーなのか、と問うてくる。目を逸らす克樹に、明美から妹のことを聞いた、という夏姫。卑猥なことを言われるのはイヤだけど、理由があってのことなら自分は気にしない、という。そんなことを言ってると本当に襲うぞ、と言うと、じゃあやっぱりこの前のはただのジェスチャーだったのか、と突っ込まれ、さらに目を逸らすしかなかった。
昨日も襲われた人がいた、という夏姫の言葉に、うんと頷く克樹。襲われたのは会社員の男性で、すれ違いざまにドールを入れた鞄を奪われ、その拍子に倒れて軽い怪我をしたと言う。エリキシルスフィアを持つ、スフィアカップに出た人物かどうかはわからなかったが、近くの川原に頭部を破壊されたスフィアドールと鞄が捨てられていたのから見て、ピクシードール狙いなのは確かだろう、と言った。
どうして普通の人を襲ってるんだろう、と言う夏姫の質問に、たぶん自分と同じでレーダーの使い方を知らないんだ、と言った。それと、もしかしたらエリキシルスフィアを持つのがスフィアカップの出場者であることを想像できてない奴なのかも知れない、と克樹は言う。
それから、早くエリキシルスフィアを集めて、叶えたい願いがある奴なんだろう、とも言った。
このまま通り魔を続ければいつかは警察に捕まって一巻の終りだから、放っておいてもいい、と克樹は言うが、納得していない顔を夏姫はしていた。
もしかしたら自分や克樹が襲われるかも知れないし、ソーサラーの知り合いは学校にもいるから、身近な人が怪我したり、ドールを奪われて嫌な思いをするのはイヤだ、という夏姫。大切なものを失うのが嫌なことだということくらい、知っているでしょう、と言われて、克樹は黙り込む。
自分はあんまりたいしたことはできないけど、通り魔を探すよ、と言う夏姫は、試合の時間だと言って立ち上がった。
何か声をかけようと思って、言葉が思い付かない克樹。もう少し真面目に探してみるか、と思っていた。
...Scene4 Cut2
意外と真面目に考えているらしい克樹の様子を見て、夏姫は思いきって克樹の願いを聞いてみる。ごまかす克樹に、百合乃の復活が願いなのか、問う夏姫。
動揺する克樹だったが、明美かと苦い顔をしつつも、彼はそれを否定する。じゃあリーリエはいったい何なのだ、と問うてみる。明美の話からするに、リーリエはまさに百合乃そのものの性格をしているのではないか、と。だったら克樹が願っているのは百合乃の復活なんじゃないかと言うと、克樹はひとつため息を吐いた。
自分が願っているのは百合乃の復活ではない、と克樹は言う。あいつとは別れを済ませたから、生き返ってほしいとは思っていない、と言う克樹。
じゃあ、という夏姫の言葉を遮って、克樹は告げる。
リーリエはおそらくエイナと同じ、人工個性なのだ、と。リーリエは、複雑なことは省くが、百合乃の脳の情報を再構成してつくられたもので、記憶こそ受け継いでいないものの、性格や、ドールを操作する能力は受け継いでいるのだと。
そんなことを誰が、というと、おそらくエイナもまたリーリエと同じものなのだとしたら、エリキシルバトルの主催者であり、魔女と言うべき人物だ、と克樹は言った。
どちらにせよ自分はあまり積極的に戦う気はない、という克樹。自分はぼちぼちは戦えるが、スフィアカップのときも強かったのは百合乃で、いま強いのもリーリエがいるからだ、と。リーリエは二回線か三回線の通信回線が確保されている状況でないと充分に能力を発揮できず、電波の乱れがそのまま弱点になり得る、と。場所を選べば大丈夫だが、ヘタなところで戦うのはそのまま敗北につながる、と。
そのときは自分が戦うから大丈夫だよ、と夏姫は言う。スフィアを奪わず、ヒルデを壊さないでくれた克樹のためなら、少しくらい手伝うよ、と言って夏姫は克樹に笑いかける。
そこでやってきたのは誠。呼ばれてるぞ、と言われて、夏姫は急いでコートに走って行った。克樹に手を振りながら。
..Scene5 Cut1
パーツが届いたという連絡があって、克樹はPCWを訪れていた。送るのに、という親父の言葉を聞きつつ用事があって、と言う克樹。
新しいパーツを店の奥で組み付けつつ、依頼していた新品のソフトアーマーとハードアーマーも含めてアリシアに組み込む克樹。これであとベンチデータさえ取れば、次に通り魔が襲ってきてもおそらく対処できるだろう、と思う克樹。
リーリエに動かさせると、かなり調子がよさそうだった。
本当にエイナみたいだな、とリーリエのことを見て言う親父。
エイナはスフィアロボティクスの子会社、エイナプロダクションというところで実験が進められている人工個性と呼ばれている新型のAIの一種だった。
本当に人間と遜色なく話し、通話だけなら人間と人工個性を区別することが困難なほどの出来になっているという。プロモーションとして、スフィアドールの自動制御システムも組み込まれ、アイドルのような活動もやっているエイナは、来週には都内でライブが行われる予定だった。
他に追随を許さないエイナを完成させたのは、おそらくモルガーナだと思う克樹。リーリエのシステムと、エイナのシステムはおそらく同一のもので、リーリエが百合乃をベースにつくられてるのに対して、エイナもまた誰かをベースにつくられているのだろう、と思う。
エイナが制御しているエルフドールのライブ映像のCMが終わった後、克樹は親父にファイアスターターの顧客リストを見せてほしいという。渋る親父だったが、宣伝のためのデータ取りには自分も協力しただろうと言って説き伏せる。
ピクシードール用のライターとして物好きな個人がつくったファイアスターターは、それをおもしろがったPCWでのみ販売された商品だった。しかしガスのタンクと腕のアーマーの内側に取り付ける発火部分をつなぐチューブの一部に劣化したものが発見されたため、念のため親父が回収することにしたものだった。
顧客リストには回収済みと未回収の名前が並んでいる。その中で回収不能の文字を見つけて、これはどういうことか、と問うた。
女性らしい名前は、克樹は見覚えがあった。リーリエに確認させてみると、隣県のスフィアカップ地区大会で優勝し、全国大会で三回戦敗退という結果を出していることがわかった。
優勝のときに撮られた写真には、優勝カップを手にしてる線の細い女の子と、その両隣に両親と思われる男女。それから彼女の後ろに、スマートギアをつけた若い男が立っていた。
これは誰かと聞いてみると、確か梨里香はドールのオーナーで、ソーサラーは別という、克樹と同じタイプの出場者だった、という。ふぅんと思った克樹は軽くその情報を検索してみるが、ソーサラーの情報までは出てこなかった。
この子は回収のために連絡を入れたが、病気で亡くなったのだと言った。彼女の持っていたピクシードールも処分したというので回収不能だと言うことだった。
他にリストに知った名前はないかと思っていたら、さらに最近見たことのある名前があることに気がついた。
夫人の名前を見て、克樹は思い悩む。背が高く、そしてエリキシルバトルに参加する資格のある、身近な人物が亡くなっている人物。夫人がもしかしたら通り魔の犯人かも、と思っていた。
そこでリーリエが告げる速報。第三の通り魔の被害者が出た、ということだった。
お前も気をつけろよ、という親父の言葉に、克樹は頷いていた。
.Act5
..Scene1 Cut1
克樹の家に来た夏姫は、呼び鈴を鳴らす。日曜日、出掛ける格好でヘンでないかどうかを確認しつつ反応を待つものの、応答はない。カメラに向かってリーリエに呼びかけてみると、何しに来たのか、と少し不機嫌そうな声がした。
まだ克樹は寝ているというけど、起きそうならちょっと用事があると頼み込んで入れてもらう。
克樹の部屋に入り、ヘンなことをするな、とリーリエに注意をされつつ、ベッドに近づく。
すやすやと寝ている克樹は、いつもの取っつきにくさとは違って、子供のような寝顔をしていて、可愛らしいと感じてしまう夏姫。いつもこんな顔だったら割と悪くないのに、と思いつつ頬をつついてみると、リーリエに文句を言われた。
秋葉原に行くから誘おうと思ったのに、起きる様子がないから仕方ない、と思ってるときと、ぱちりと目を開けた克樹が起き上がった。夏姫のことを無視して、チケットが取れたかどうか確認してみるが、リーリエは空振りだった、と答えるだけだった。
突然のことに驚く夏姫。考え込み始めた克樹がやっと彼女の存在に気づいて、なに勝手に入ってきてるんだ、と言う。夏姫から襲いに来るとは積極的だな、という言葉を受け流し、秋葉原に行くから克樹も行くかと思って誘いに来たんだ、というと、今日は用事があるからいけない、という。
ちょっと残念に思う夏姫の背中にかけられる、気をつけろよ、という言葉。心配してくれるのか、という返事に対しては、うるさいという少しうろたえた声しか返ってこなかった。
本当は優しいお兄ちゃんなんだろう、と思う夏姫は、もし何かあったら連絡するから、助けに来てね、と言って克樹の家を出た。
...Scene1 Cut2
ぶつぶつと夏姫の文句を言うリーリエを放っておいて、克樹は今日のライブをどうするか、と考えていた。ここ数日ライブのチケットを得ようといろいろ手を尽くしてみたが、今日になっても手に入れることができないでいた。会場近くでダフ屋が出ていないかどうか探すか、一か八かに賭けて会場の外に出てこないか待つかと思っているいとき、電話が入る。電話の相手は夫人。今日時間があるかしら、という言葉に克樹は頷いていた。
..Scene2 Cut1
メイドの持ってきたお茶をすする克樹。メイドが休みを取っていたときと違って、すっかり綺麗になった屋敷で、夫人は優雅にお茶を飲む。
彰次から話は聞いた、という夫人に、知り合いだったのか、という克樹。ヒューマニティパートナーテックには出資をしているから、という夫人。それから、スフィアロボティクスにも出資をしている、という夫人は、鞄の中からエイナのライブチケットを取りだした。
チケットを渡してくれない夫人に、どういうつもりか、と問う克樹。あなたのところにもエイナが現れたのでしょう、と問われ、克樹は思わず鞄の中ですぐに取り出せるようにしたアリシアを掴んでいた。座りなさい、と言う夫人は、自分のところにもエイナが現れたのだ、と言った。それでどうしたのか、と問うと、断ったのだ、という。
どうして、と問うと、旦那に生き返ってほしいと思うことはあるものの、そう世の中は簡単にはいかないのだ、と言う。大切な人に生き返ってほしいと思ってそれを実行に移せてしまうのは、子供か状況を考えられない人だけだろう、と言った。
泣きそうな顔をしている夫人だったが、彼女は何故ライブのチケットがほしかったのか、と言う。会いたい人がいるから、と言う克樹に、魔女のことか、と言われて、克樹は驚く。
こういう業界にいると、スフィアロボティクスの特殊性はイヤでも目に付くし、その裏側にいる人物の噂くらいは耳にする、と。
魔女がエリキシルバトルの主催者なのね、という言葉に、頷く克樹。あなたは踊らされないように気をつけて、という夫人。もし踊らされている人間がいたら、目を覚まさせてあげるといい、と言った。
..Scene3 Cut1
リーリエのオプションも含めていろんなものを鞄に詰めてライブの会場にやってきた克樹。招待客の座る席には向かわず、後ろの方でライブの様子を眺める。
会場には熱気があふれ、まるで本物のアイドルのライブのような状態になっていた。
エレメンタロイドのエイナは、モニターの中の映像だけでなく、ステージの上ではおそらくエイナに操作されているエルフだと思われるドールが踊っていた。
事前にプログラムなどをする必要もなく、歌い、踊り、さらにスフィアドールのコントロールも行えるエイナは、まさに人工個性と言うべきものだった。そしてそれはリーリエにも言えること。エイナをつくったのがモルガーナなのだとしたら、ここにモルガーナがいるのも納得できる、と思った克樹。
熱狂するファンの間を抜け、克樹は警備員の目を盗んで会場の裏へと忍び込んだ。
アイドルと違って、エイナはしょせんスフィアドールであるためか、控え室周りの警備は薄いようだった。スタッフと思われる人物は行き交っているが、怪しい人物をチェックしているだけのようで、素知らぬ顔で他のスタッフらしい人が通り抜けるのに着いていくと、特に呼び止められることもなかった。
しかしどこをどう探せばいいのか、と考える克樹。控え室と思われる扉が並んだ場所に来たが、磨りガラスの向こうはどこも灯りが点いている様子はない。スフィアロボティクスかエイナプロダクションの人が詰めている部屋でもあるかと思ったが、ここにはないようだった。
そんなとき、リーリエがエリキシルスフィアの反応がある、と言った。すぐ近くだというのですぐそこの扉を見てみると、とくに灯りが点いているのが見えた。
間違っていたらどうしようと思いつつも、克樹は扉を開いた。
...Scene3 Cut2
部屋の中にいたのふたりの人物。いくつも置かれたモニターを見ながら話をしていた女性ふたりが、克樹に気づいて振り返った。誰だ、と声をかけてきたのは、おそらくスフィアロボティクスかエイナプロダクションの社員と思われる地味なスーツに身を包んだ女性。もうひとりは赤いスーツに身を包んだ妖艶な女性、モルガーナだった。
どうしようと思ったのもつかの間、モルガーナが自分の客だ、と言って女性を下がらせた。
あまり見たくない顔に吐き気のようなものを感じつつも、二年ぶりと声をかけてくるモルガーナに返事をする克樹。わざわざこんなところにどんな用事かしら、と言って唇の端をつり上げるモルガーナに、聞きたいことがある、と克樹は言った。
問いたいことはいろいろあった。この女性が、百合乃の脳内情報を取り出した人物であり、おそらくエイナについても誰かからそういうことをしたのだろうと思われた。そしておそらく、エリキシルバトルの仕掛け人だった。
魔女、と自分で名乗るようなモルガーナは女性であること以外、わからない。彰次とも知り合いであったが、彼が大学の時代から姿は変わった様子はないという、年齢不詳の人物だった。
あの子の情報は有効に使われているようで安心したわ、と言うモルガーナ。わかるのか、というと、スフィアを使っているならたいしたものではないが、ある程度ならばわかる、という。そのことから、やはりモルガーナがエリキシルバトルの仕掛け人であることがわかる。
自分はいそがしいのだけど、今日はわざわざここに来た理由はなにかしら、と問う。聞きたいことがある、と言うと、モルガーナはここまで来た褒美に、ひとつだけどんなことでも答えてあげる、という。
何を聞くかで、克樹は迷う。でももし、いま聞くとしたら、と克樹は口を開いた。
..Scene4 Cut1
まだ明るいうちに秋葉原を出たのに、その後服を見に行ったりして時間を取ってしまい、最寄り駅に着いたのはずいぶん遅い時間になっていた。
夏姫は明美と途中の道で別れ、家路に着こうとする。
克樹からの連絡はとくにない。どこに行ったのか聞いてみたかったが、こちらから連絡するのもためらわれた。
そう思って端末を取り出したとき、点滅しているアイコンがあることに気がつく。それはエリキシルバトルアプリの印。開いてみると、レーダーにエリキシルスフィアの反応があることに気がついた。遠ざかっていく反応を追うために、夏姫は走り出す。
距離が狭まる方向は、明美が歩いて行った方向と同じだった。
明美のピクシーを狙っているんだ、と思ったとき、夏姫は急ブレーキの音を聞いてさらに走る脚を早めた。
見ると、道路に倒れている明美。それから止まっている車。さらに明美の持っていた鞄を手に硬直しているコート姿の人物が見えた。
明美に駆け寄った夏姫だったが、頭から少し血が流れ出している彼女に意識はない。降りてきた運転手が突然倒れ込んできて、と慌てた様子で説明するものの、夏姫はすぐに救急車を呼ぶように言いつける。
頭を打っているかも知れないからあまり動かさない方がいい、と思い、救急車を呼んでいる運転手の様子に安堵した夏姫は、コート姿の人物が走り始めるのを見て、明美のことを見る。心配であったが、許せなくもあった。
集まってきた人々に明美のことをお願いして、夏姫は走り始めた。
克樹に端末にコールをしながら、夏姫はコート姿の通り魔を追って走った。
..Scene5 Cut1
やっぱりか、と思う克樹に、モルガーナは本当に質問はそれでよかったのか、と問うた。
聞きたいことがあったらまた今度聞きに来る、という。今度はそう簡単にはいかないと思うと笑うモルガーナは、もしまた会うときに、まだあなたがエリキシルバトルを続けているなら、と言った。
そこにかかってくる夏姫からのコール。
要領を得ない夏姫をなだめて、明美が通り魔に荷物を奪われる際に転んで、車にぶつかったという。明美は大丈夫なのか、と問うがわからないと答える夏姫。救急車を呼んだし、自分では明美にしてあげられることはないから、犯人を追いかけている、という夏姫は、克樹も早く来て、と言って通話を切った。
大変なことになっているようね、と笑うモルガーナを睨みつける克樹は、夏姫のもとに向かうために部屋を出ようとする。
部屋を出るとき、もしできるなら頼みたいことがある、とモルガーナに克樹は言った。
頼み事ができるような立場か、と言うモルガーナだったが、エリキシルバトルにとっても悪いことではない、と言う克樹は、ひとつの願い事を言ってから、部屋を出た。
会場の外に出た克樹は、夏姫がオンにした位置情報を見てけっこう遠いことに気がつく。とにかく急ぎたいと思った克樹は、アリシアと同時に二輪バイクを取り出して補助バッテリのラインを接続した。さらにオプション装備を装備するようにリーリエに言い、そのままアライズと叫んだ。
できるだけ人目を避けて、対物センサー、熱感知センサーもオンにして急げと言い、バイクに乗り込んだリーリエの後ろに克樹も乗り込んだ。
すぐに行く、と心の中で夏姫に声をかけながら。
..Scene6 Cut1
何度か見失いながらも、レーダーで再発見してどうにか通り魔に追いついた夏姫は、公園へと入った。
視界の悪い公園の中で急接近するのを見た夏姫は走ってその場を逃げる。
舌打ちした通り魔に、こっちはあなたとの距離がわかるのよ、と言う夏姫は、ちゃんとバトルで決着を付けなさい、と言ってヒルデを取り出した。
スポーツバックからレインアーマー被せたドールを取り出し、アライズした敵と対峙する夏姫。
克樹に言われたように新品の人工筋は、少しではあったが動かして馴染ませていた。充分とは言えないが、それでも克樹と戦ったときと違って完調のヒルデは決して弱くない。
右手を構えた相手を見て克樹から聞いてるのよ、と叫びつつ、ヒルデに臨時の行動パターンを次々と打ち込む夏姫。
人工筋もフレームもぼろぼろだったときと違って、ヒルデを充分に動かすことができる。火炎放射を回避させつつ、剣によりレインアーマーに裂け目を入れていく夏姫。
火炎放射を諦めたらしく、何かの格闘技らしい構えを見せた相手に、容赦なく剣を打ち込む。レインアーマーが大きく裂け、相手の正体が見えると思ったとき、ソーサラーの姿がないことに気がついた。
どこに、と思ったとき、夏姫は腹部に強い衝撃を受け、意識が遠のいていった。
ごめん、と克樹に謝りつつ、夏姫は意識を失った。
.Act6
..Scene1 Cut1
何度か人に目撃されつつも、どうにか警察に追われたりせずに夏姫のいる場所の近くまでやってこれていた。夏姫の位置情報に大きな変化がなくなってから五分。おそらく戦闘に入ったと思われたが、やられていないといいが、と思う克樹。
夏姫が倒しているなら何か連絡があると思うが、今のところ連絡は入っていなかった。
見られても構わないと思いつつも、克樹はバイクに乗ったまま夏姫のところに向かう。
見えてきたのは、倒れている夏姫と、その側に立っているコートの人物。
バイクをぶつけるつもりでリーリエに突撃を指示すると、コートの人物はどうにかそれを避けた。
バイクを降りたって夏姫のことを抱き起こしてみるが、目立った外傷はない。リーリエのセンサーでチェックさせてみると、たぶん気を失っているだけだと言った。
良くも夏姫に、明美に、と怒りをあらわにする克樹は、ヒルデを拾って通り魔と対峙する。
逃げだそうとする通り魔に声をかける克樹。もう正体はわかっている、と言う克樹の言葉に脚を止める通り魔。誠、お前を許さないぞ、と克樹は言った。
振り返った通り魔は、フードを降ろしてその顔をあらわにした。
...Scene1 Cut2
なんで気づいた、と問う誠。
エリキシルスフィアは、スフィアカップで配布されたもので、それを持つ人物を追ってる間に、梨里香に気づいた、と言った。そしてある人から、スフィアを受け取った人物ではなく、現所有者でもエリキシルバトルの参加資格はあるのだ、と聞いた、と言った。
スフィアカップの地区大会優勝のときの写真の中で、梨里香と一緒に立っているお前を見つけたんだ、と言う克樹。
どうして自分がエリキシルソーサラーであることを知りながら真っ先に襲ってこなかったのか、と問うと、お前が強いのはわかったから、先にひとつくらいスフィアを手に入れて、パワーアップでもできればと思ったという誠。
たぶんそんな機能はないぞ、という克樹に、そうか、とため息を吐く誠。自分をどうするのか、と問う誠。警察にでも突き出すか、と言うと、克樹はせっかくだからエリキシルバトルで決着を付けよう、と言った。それがモルガーナとかわした約束だから、というのは、口にしなかった。
わかった、という誠に、バッテリ交換を促す克樹。
諦めたようにバッテリを交換し、レインカバーを外してガーベラを足下に置く誠。
もしお前が勝ったら、自分は通報したりはしない、という克樹。でももし自分が買ったら、自首するんだ、と言われ、そんなこと言われて従えるわけがないだろう、と言う誠。梨里香を生き返らせるために、どうしてもエリキシルスフィアが必要なんだ、と。
おそらく踊らされてるだけだ、と言う克樹。このバトルには仕掛け人がいて、そいつの思惑に乗せられているだけだ、と。しかしアライズと唱えればドールが巨大化する上、ただのオモチャか飾りでしかなかったライターや剣が現実のもののようになるんだ。まるで魔法のようなその力があれば、本当に人間だって生き返るかも知れないじゃないか、と誠は叫ぶ。
魔女がそんな優しい奴だったら良かったんだがな、と言う克樹は、だったらお前を叩きのめしてわからせてやるよ、と言った。
誠にアライズの声と当時に、バトルが始まった。
..Scene2 Cut1
隠すことなく右手のファイアスターターを構えたガーベラ。
バトルの場所から距離を取りつつ、リーリエに画鋲銃を構えさせる克樹。まずはそれをつぶさせてもらうぞ、と言って、克樹は画鋲銃の連射を指示した。
どうにか回避するガーベラを射線が追う。
ファイアスターターをつぶすのと同時に、画鋲銃の残弾が尽きて、リーリエは不要になったそれを地面に投げ捨てた。
格闘戦になれば充分に勝ち目がある、という克樹は、リーリエに敵の動きをモニターさせる。
空手の構えを取ったガーベラ。スフィアカップでも、ガーベラはまさに格闘家そのものと言うべき動きで対戦者を圧倒していた。
けれどもリーリエも負けてはいない。ソーサラーによる操作を受けないリーリエの動きに、タイムラグはない。見てからでも判断が可能であり、それを実現しているのはリーリエ本体との通信機能だった。
オレは負けるわけにはいかない、と誠が言うのと同時に、スマートギアの中にエラー情報が乱舞した。どうしたのかと思うと、モバイル通信がカットされているらしかった。攻撃を受けるアリシアのボディを見て、セミコントロールのソフトを立ち上げる克樹。
どうにか持ち直すものの、夏姫や百合乃ほどスフィアドールの操作が上手くない克樹は劣勢に陥る。おそらくモバイル通信を妨害する装置を使ったのだと思われるが、それをどうにかしないとまずい、と思っている克樹は、もし夏姫であれば、と思う。
バトルの様子を見ながらも、克樹は思う。ヒルデはまだアライズした状態で止まっていて、夏姫が先に倒れていた。いったいどんな方法で夏姫を気絶させたのか、と思う克樹は、ふと思い付くことがあった。戦闘中のリーリエから警告の声。やっぱり、と思う克樹は、反射的に懐に入っていたナイフを取り出して背後に突きつけようとした。
しかしそこにいた誠は、反射的に克樹の手を取って捻っていた。
感じたのは腕の痛みだけでなく、鳩尾のあたりの違和感。
誠に押された右手が、ちょうどそこにあった。ナイフを掴んだまま。
冷たい感触だと思った瞬間、そこから熱が発生すると同時に、こみ上げてくるものを堪えきれずに、克樹は血を吐き出した。
..Scene3 Cut1
お腹に痛みを感じながらも目を覚ました夏姫は、後じさっていく誠のことを見る。
その前に立っているのは、呆然とした顔の克樹。
リーリエと、たぶん誠のものだと思われるドールとのバトルは停止していた。
何が起こったのかと見てみると、克樹の腹にナイフが突き立っていた。
倒れ込む克樹は、さらに大量の血を吐き出す。なんてことをしたの、と誠に言う夏姫だったが、克樹に対してどうすることもできない。誠も、こいつがナイフを突き出してくるから、と言って何もできないでいた。
救急車を、と思うが、痙攣している克樹から目を離すことができなかった。それに電話をかけようとしたが、圏外になっていた。
そんなとき、どいて、と言って近づいてきたのは、アリシア。
なんでそんなものもってるの、と文句を言うリーリエ。そう思ったが、いつものリーリエと何か違うような気がした。
モバイル通信はまだできないはずだ、という誠に、じゃあいまのこれはなんなのか、と思う夏姫。
もうお別れは済ませたんだけど、いまだけは特別だよ、と笑むのは、たぶん百合乃だった。ほんの少ししか溜まってないけど、でもいまはこれで充分だと思うから、と言い、百合乃はアライズと唱え、握った両手を傷の上にかざした。そしてそこから、一滴の滴が落ちていった。
勝手にナイフが抜け落ち、しかし血は流れ出さずに、傷がみるみるうちにふさがっていくのが見えた。
目を疑う光景に、夏姫は呆然とするが、百合乃と思われるその女の子が、あとはおにぃちゃんをよろしくね、と言って、膝を突いて意識を失った。
そして克樹が目を覚ました。
..Scene4 Cut1
目を覚まして、自分がどうなっているのかわからない克樹。刺されたはずの腹に傷はなく、しかし血に染まったナイフが落ちていた。
泣きながら抱きついてきた夏姫が、よかったと繰り返す。何が起こったのか、と聞いてみると、百合乃が現れたんだ、と言った。どういうことか、とさらに聞いてみると、手のひらから滴が落ちて、それが克樹の傷を塞いだのだと言う。
本当なのか、と思うのと同時に、聞くことができなかったモルガーナの真の目的を予感して震える克樹。エリクサーすらモルガーナにとっては目的ではないのかも知れない、と思っているとき、誠が笑い声を上げる。
ほんの一滴のエリクサーで瀕死の人間を蘇らせることができるなら、コップ一杯もあれば本当に死んだ人間くらい生き返らせられそうじゃないか、と言う誠は、だからオレはやっぱりスフィアを集める、という。
彼の手にある妨害電波の発生装置を見て、克樹はそれを蹴り飛ばした。夏姫と名を呼ぶと、落ちたそれを拾って電源をオフにする。
だったらやっぱり叩きのめしてやるよ、と言って立ち上がる克樹。リーリエとの通信を再接続し、第二ラウンドだ、と言ってアリシアを起動させる。
自分も戦う、という夏姫を、こいつは自分が叩きのめしたいんだ、と言う克樹。やってやるさ、と言い、誠もまたガーベラを操作した。
..Scene5 Cut1
何があったのかわかるか、とリーリエに問うて見たが、電波障害でリンクが途切れた後はわからない、という彼女。でも稼働記録がある上、克樹からの操作をしていないときにも動いた形跡がある、と言った。後でその情報を解析するぞ、と言いつつ、空手の構えで接近してきた誠の正拳突きを軽く流す。
百合乃譲りのリーリエによるドール操作は、格闘制御ソフトと組み合わせることで、おそらくスフィアカップの全国大会でも充分以上に戦える性能を持っているだろうと思った。けれど対峙する誠もまた、全国大会二回戦に進出した手練れ。
スマートギアを通した思考操作によるガーベラの動きは、まさに空手家のそれであった。
正拳突きに続いて、回し蹴り、回転回し蹴りと人ではバランスを取るのも難しいはずの連続攻撃がガーベラによって繰り出されてくる。
アライズの残り時間も少なくなってきたのに気づいた克樹は、解析結果をリーリエに要求した。
誠の使っているフルコントロールソフトはバトルアクションバージョン二ないし三系のもので、最新のバージョン五ではない。稼働可能範囲が主に第四世代向けに設定されているが、おそらくガーベラの人工筋の出力やフレームには第五世代のものに交換してある。そしてアリシアもまた第五世代ドールへのパーツ交換も済ませていた。
一気に決めるぞ、と言う克樹は、リーリエに電光石火を入力する。
ほんの一瞬だけ人工筋に流れる電圧を上げて、仕様上の性能を越える動きを見せてガーベラの顎に拳を叩き込むリーリエ。
どうにか建て直して距離を取るガーベラに対し、克樹は疾風迅雷を指示した。
脚部に限定した電圧上昇によって、五メートルの距離を人間すら不可能な速度で詰めるリーリエ。かろうじて反応した誠は反撃の拳を放ってくるが、克樹は同時に疾風怒濤を入力した。
拳と蹴りの連続攻撃が、ガーベラの手足のフレームを粉々に砕いていた。
通常サイズに戻したガーベラを手に逃げ去ろうとする誠だったが、先回りした夏姫が、ヒルデの剣を彼の喉元に突きつけていた。
観念しろ、と言われ、誠はがっくりと肩を落とした。
.Act7
..Scene1 Cut1
机に突っ伏していた克樹に、朝から眠そうだね、と言って近づいてきたのは、夏姫。
机の上に座る彼女に、見えるぞ、と言うと、今日は体育があるからショートパンツ履いてるもん、と短いスカートをめくり上げる彼女。ストッキングがないのは残念だが、青と白の縞模様も意外といいな、と言う克樹。驚く夏姫に、ショートパンツは裾を抑えないと中が見えるぞ、と指摘する克樹。
新年早々中がよろしいことで、と言って近づいてくる明美。
車にぶつかったものの、ブレーキが間に合って軽い打撲で済み、短期間の入院と精密検査だけで済んだ明美は、すっかり元気になっていた。
静かな方が好きだ、という克樹だったが、家でもどこでもリーリエがうるさいクセに、と言って笑う。
もうひとり入ってきたのは、丸坊主の背の高い男、誠。神妙な顔をしつつも、彼は自分の机に座った。
全員同じクラスになるなんてなんてうるさくなりそうなんだ、と克樹は呟いていた。
...Scene1 Cut2
かったるい始業式が終わって、克樹は混み合う下駄箱が空くのを待って、屋上に出てきていた。
結局、百合乃が動かしたと夏姫が言っていたときのログについては、不明なままよくわからなかった。動作の指示がどこから出ていたのか、判然としないままドールが動いたという記録があるだけだった。
しかしエリキシルスフィア自体にエリクサーが溜まっていくのだとしたら、モルガーナの目的はエリクサーではないのかも知れない、と思う克樹。いったいどんな目的でこんなバトルを始めたのか、と思っているとき、やってきたのは誠。
特に気にすることなく久しぶり、と言う克樹。
あの後警察に自首した誠は、窃盗の容疑で逮捕され、簡易裁判にかけられて短期間ながら少年院に入った。しかしそれも三月には出てきて、学校も退学にはならず、こうして無事二年生になることもできていた。
あのときモルガーナに願ったことではあったが、どこまで効果があったのかはわからない。しかし様々な人脈を持っているだろう彼女であれば、多少なりとも手を回しているだろうと思えた。
何かを言おうとして言いよどみ、けれど何も言えない誠。
どうせ諦めきれないんだろう、と言う克樹は、鞄の中からガーベラを取りだした。
おそらく証拠品として回収されてしまうだろうガーベラを、克樹は誠に返さずに回収していた。それを受け取った誠はなんでか、と問う。
ちょうどそのときやってきた夏姫は、誠を睨みつける。
どうしてガーベラを返すのか、と問うてくる夏姫に、自分たちはバトルの主催者によって踊らされてるだけだ、という克樹。それが誰なのか、と問うてくる夏姫に、いまは言えない、という。魔女というべきそいつとは、たぶん本当は関わるべきではないだろう、と。でもそのうちバトルを続けるなら関わることになるだろうし、そのうち話すべきときも来るだろうし、そして自分ももう一度あいつと対峙しないといけないことが来ると思う、と克樹は言った。
何で克樹は自分のも、誠のもスフィアを取ったりしないのか、という問いに、克樹は答える。エイナは戦って集めろ、と言った、と。集めろとは言ったが、奪い取れとも、自分のものにしろ、とも言わなかった、と。
いまこうして自分の側には三つのエリキシルスフィアが集まってる。それで大丈夫なのかどうかはわからないが、それがハッキリするまでは預けておくことにする、と言う。
戦うのか、という夏姫の問いに、やるしかないだろうな、と克樹は空を仰いだ。