神水戦姫の妖精譚(スフィアドールのバトルログ) 作:きゃら める
第二部 黒白(グラデーション)の願い 第三章 1
第三章 黒い人々
* 1 *
照明が当たっているのは、壁にはめ込まれた超大型平面モニタの前にある演台だけで、部屋の光源は他にはなかった。
反射して微かに広がる光で、会議室のような広さの部屋には、真ん中に楕円形の大きなテーブルが置かれているのが見える。テーブルを取り囲むように座る人影が微かな光で浮かび上がっていたが、髪型や背の高い低いがわかる程度で、人相を露わにするほど、部屋の灯りは強くない。
誰ひとり言葉を発せず、息づかいすら押し殺して、何かを待つようにしているばかりだった。
「お集まりいただいてありがとうございます、皆さん」
言いながら演台に立ったのは、鮮やかな紅いスーツを纏い、闇よりも黒い髪をし、深淵よりも深い色を湛える瞳をした、魔女。
スーツの色よりも艶やかな紅をした唇の端をつり上げ、モルガーナは集まった人々のシルエットを眺めた。
「まずは現在の進捗についてお話ししましょう」
前置きなどは一切なしに、モルガーナは少し脇に下がり、平面モニタの脇に立つ。
暗めの光を放ち、電源の入ったモニタには幾種類かの言語で文字と、いくつかの図が表示される。
「スフィアドールについては第六世代の解放内容がほぼ決まりました。内容については事前に知らせていたのとあまり違いはないけれど、詳細は一部変更があるので、後ほど確認をお願いするわ」
言葉遣いこそ丁寧で、プレゼンテーションのように平面モニタに表示した内容にポインタを使って説明を続けていくモルガーナだが、その声音には丁寧さは欠片もない。
わずかだが顎を突き出し、集まった人々を見下ろすような視線で眺め、説明を続ける。
「第六世代の最大の特徴は運動性の向上。そして百五十から百六十センチのエルフドールの実現。そのためのスフィアの制限解除が一番の柱となるでしょう」
「スフィアドールを兵士として利用することは可能なのか?」
集まった人々のひとりから、そんな質問が発せられた。
「スフィアの機能、性能としては可能。けれどボディに使うフレーム、人工筋、バッテリなどがまだ兵器として利用できる段階に達していないでしょう。正直その辺りの技術については、一部は私も関わっているけれど、ここにいる皆さんの領分じゃないかしら? 生身の肉体の代わりに、遠隔操作の兵士の実用化には、あと十年から二十年はかかるでしょう。技術的な問題のクリアには、五年程度で充分でしょうけれど」
一度言葉を切り、紅い唇の端をつり上げて笑み、モルガーナは言う。
「その頃には、第七世代の規格を発表し、スフィアの機能解放ができるようになっていることでしょう。第七世代は、皆さんが待ちかねていた、スフィアドール以外へのスフィアの解放となるわ」
私語ひとつなかった部屋に、ざわめきが起こった。
机の上に出した拳を握りしめる者、大きく何度も頷く者、「ついに……」と感慨深く呟く者。
それまで身動きすらほとんどしていなかったほぼ全員が、何らかの反応を示していた。
そんなざわめきを切り裂くように、モルガーナから一番遠い端で、机の上に脚を組んでいる人物から嗄れた声が発せられた。
「そんなものはどうだっていい。それよりもバトルの方はいまどうなっているんだ。ここに集まってる奴らはスフィアなんかよりもよほどそっちの方が知りたいはずだ。それに釣られて集まった奴らばっかりなんだからな。そっちの話をしてくれ」
途端にざわめきが収まり、居並ぶ人々の視線が魔女に集中した。
「貴方がそれを訊くの? まぁいいわ」
楽しそうに「くくっ」と喉の奥から笑い声を漏らしたモルガーナ。
「失礼。連絡した通り、バトルは中盤戦に入ったところよ」
「んなこたぁわかってる。決着はあとどれくらいで着きそうなんだ。儂らが知りたいのはそれだよ」
「そうね。どれくらいになるかは正確なところはわからないけれど、もう半数以上が脱落しているし、私の予想では、最後の決戦が行われるのはおそらく半年後くらいになると考えているわ」
「ならば、半年後にはわたしたちの願いが――」
「えぇ。叶うことでしょう」
再びのざわめき。
先ほどまでは言葉を交わさず、視線すら合わせることのなかった人々が、隣り合う者たちとささやき合い始めた。
「それまでにはまだまだ多くの準備と手順が必要よ。そして全員の願いが叶った後の世界のためにも、足りないものがたくさんあるわ。これからもさらなる協力を、約束してくださるかしら?」
演台に手を着き、全員を見渡すように言ったモルガーナの言葉に、拍手と賛同の声が殺到する。
それを一身に受けながら、魔女は唇の両端をつり上げ、笑った。