神水戦姫の妖精譚(スフィアドールのバトルログ) 作:きゃら める
* 4 *
「こんな結末、納得できるかーーーっ!!」
沈黙を破ったのは猛臣。
ヘルメットを脱ぎ捨てた猛臣は、雄叫びを上げながら僕に走り寄ってくる。
振り上げた拳を見てスマートギアを外そうとするけど、汗で滑って一瞬手間取ってる間に、彼は僕の目の前まで来ていた。
「ぐっ」
頬に食らった拳に、うめき声が上がる。
よろめいた僕に二発目、三発目と殴りかかってくる猛臣。
スマートギアを投げ捨てて両腕でガードするけど、さっきまで風林火山でアリシアと深くリンクしていた僕は、まだ現実の認識が上手くできない。
「ふざけるな! 俺様が引き分けだと?! あり得るか! 俺様は勝つっ。エリキシルバトルを勝ち抜いて願いを叶えるんだ!! シスコン野郎なんかに躓いてられねぇんだ!」
叫びながら感情のまま、がむしゃらに拳を振るう猛臣に、隙を見つけた僕は反撃に転じた。
「ウルサい! お前だって似たようなもんだろ!!」
「ぐっ……」
腹に叩き込まれた僕の拳で、猛臣はうめき声を上げる。
「お前の願いは穂波さんの復活だろ?! 僕をシスコンなて言ってられんのか!」
もう一発腹に食らわせ、さらに最初の一発をもらった頬にお返しする。
「てめぇに何がわかんだよ! シスコンのてめぇとは違う! あいつは俺様の召使いだったんだ!!」
「召使いって……」
あんまりな言葉に一瞬戸惑ってると、顔面に拳が飛んできた。
倒れ込んだところに猛臣が乗っかってきて、僕はラッシュを食らう。
「逃げておけと言ったのに! 人を連れてくるまで耐えろと言っておいたのに! あいつは死んだんだ!! 主人の命令が聞けない召使いは、躾してやるしかないだろ! でもあいつは死んでるから、復活させなけりゃ怒鳴りつけてやることもできないだろ!!」
まるで子供のように、殴る場所なんて狙わずに叩きつけるだけのパンチ。
半分は腕で凌ぎながら、僕は涙を流す猛臣のことを見ていた。
「死んだままでいさせてやるか! あいつは俺様の召使いになるよう言われてきたんだっ。一生でも、俺様の命令を聞いてないといけないんだ!! 死ぬなんて、俺様が許せるものか!」
怒りに表情を歪ませながら、それでも泣いてる猛臣。
「てめぇの願いだって、妹の復活なんだろ? 俺様と同じじゃねぇか!!」
「僕は違う!」
反論の言葉と同時に猛臣の両腕をつかんだ僕は、引き寄せて顔面に頭突きを食らわせてやった。
痛みで声も出ない猛臣を、どうにか引き抜いた脚で蹴り飛ばしてどかす。
立ち上がった僕は言葉を続けた。
「僕の願いは百合乃の復活なんかじゃないっ。あいつを殺した犯人を、追い詰めて、苦しめて、殺すことだ!」
「そんなこともひとりでできないような奴が、エリクサーなんて求めるんじゃねぇ!」
「お前はどうなんだよっ。穂波さんを殺した犯人たちをどうにかしたって言うのかよっ」
「とっくに全員やったことを後悔させてやったさ!」
ふらふらと立ち上がり拳を振り上げた猛臣。
意識が遠退きそうになりながらも、僕も拳を構えた。
「俺様は負けねぇ。勝って願いを叶えるんだ!!」
「僕だって同じだ! それに、モルガーナを放っておけるか!」
お互いに言い放ちながら繰り出した拳。
避けることもできず、頬を殴り合って、僕たちは同時に倒れ込んだ。
うつぶせになった身体を仰向けにし、上がってしまった息を整える。でももう、まともに動けそうにはなかった。
同じように天井を仰いだ猛臣も、身体を起こす気力はなくなっているらしい。
「お前は穂波さんのことが、好きだったんだろ、猛臣」
「……あぁ、そうだよ。あいつが側にいてくれさえすればよかったんだ。能力と成果しか見ない槙島の家で、何の取り柄もないあいつだけがまともな人間だったんだ。俺様を、人として扱ってくれたんだ……」
「そっか……」
泣いているのか、目元を腕で覆った猛臣を、寝転がったまま首だけ動かして眺める。
「モルガーナを放っておけないってのは、いったいどういう意味なんだ?」
「モルガーナはエリキシルバトルの主催者だ」
「それは知ってる。スフィアドール業界を眺めてりゃ、そんなのは見えてくる」
「百合乃はたぶん、モルガーナの犠牲に、いやもしかしたら、エリキシルバトルの生け贄になったんだ」
「なんだそりゃ」
身体を起こして、唇の端から流れた血を拭った猛臣は、訝しむように眉根にシワを寄せた。
「人工個性。あれは人間の脳情報からつくられた、疑似脳だ」
「ただの高度なAIじゃないのか? 何を根拠に」
信じてないらしい猛臣の表情に、僕は側に落ちていたスマートギアを引き寄せて、外部スピーカーのスイッチを入れた。
『おにぃちゃん、大丈夫なの?!』
殴られてそろそろ腫れ始めてるだろう顔をスマートギア越しに見たリーリエが、心配そうな声をかけてくる。
「僕はまぁ、大丈夫だ」
『早く冷やさないとダメだよ。それから、猛臣? バトル、凄く楽しかったよーっ。イシュタルはすんごく強くて、結局あたしとおにぃちゃんでも敵わなかったもんね。またそのうち、戦いたいなぁ』
「なんだこりゃ? フルオートシステムかなんかか? いや、それにしては……」
「僕の人工個性、リーリエだよ。百合乃の脳情報で構成されてる。……百合乃の記憶は、ないみたいだけどね」
「ちょっと待て。じゃあエイナも誰かの脳情報で構成されてるってのか? モルガーナはいったい、何が目的なんだ?」
「わからない。エイナの脳情報の提供者も、モルガーナの目的も。でもたぶん、あいつの目的には、人工個性が必要だったんだと思う」
それほど関連性が強いようには見えないけど、エイナとか、百合乃の脳情報を取り出したこととか、デュオソーサラーである灯理をバトルに参加するよう仕向けたこととかを考えれば、人工個性は何らかの形でエリキシルバトルに関係しているように思えた。
「あいつはいったい、何をさせようとしてるってんだ?」
「さぁね。少なくともエリキシルバトルを楽しむことがあいつの目的ではないよ。僕もそれは、知りたいと思ってるんだ」
そう言って微笑んで見せた僕に、猛臣は不審そうに目を細めて、顔を背けた。
「引き分けのようね。たぶんバッテリ交換をすればまたすぐ戦えると思うけれど、その気はあるかしら?」
戦う気力もなくなった頃に側にやってきた平泉夫人。
一瞬猛臣と睨み合うけど、すぐに再戦なんてのはやる気が起きなくて、僕はため息を漏らして肩を竦めた。
「僕はもう、今日はいい……」
「何だてめぇ。逃げんのか? 負けるのが怖いのか?」
そんなに酷くはないけど、顔の何カ所かがぷっくりと脹れてきてる猛臣に挑発されても乗る気にならない。
側にやってきてる平泉夫人や、僕の仲間たちのことを見渡してから、言う。
「そりゃあ怖いさ。ここにいるエリキシルソーサラーは、全員ね。負ければ願いが叶わなくなるんだから」
「……そうだな。それに、俺様のイシュタルは繊細だし、パーツが特殊だから、やるとしてもパーツ交換と調整をしてからだ。相当無理をさせたからな」
「それは僕も。人工筋を総入れ替えしないと厳しいと思う」
「では引き分けということで。もし再戦すると言うなら、私に連絡を頂戴ね。貴方たちの戦いを見逃すなんて、もったいないもの」
疲れてる僕たちに対して、楽しそうにニコニコと笑ってる夫人にげっそりした気分になる。
「夫人、ひとつお訊きしたいんですけど」
「何かしら? 克樹君」
「なんで猛臣にスフィアの買い取りを辞めるなんて無茶なお願いができたんです?」
それがどうも心の底で引っかかっていた。
性格からして一度した約束を破棄させてくれるような奴じゃない。平泉夫人とは以前からの知り合いのようだけど、何か翻せないような貸しでもあったんだろうか。
楽しそう、というよりも意地悪そうな笑みを浮かべる夫人。
彼女がちらりと視線を向けた猛臣は、怒ってるのとは違う、羞恥の赤に顔を染めているようだった。
「それはここでは秘密ということにしておくわ。まぁ、猛臣君とは以前ちょっとした貸しがあっただけよ」
「そうですか」
どういうことでの貸しなのかはわからなかったが、顔を赤くしながら口を開いた猛臣が、何も言えなくなるようなことなのだけはわかった。
「お疲れ様、克樹」
「うん。疲れたよ、本当に」
差し出してくれた夏姫の手を取って、僕は立ち上がる。
目尻に涙を溜めながら、夏姫はそれでも嬉しそうに笑っていた。
「大丈夫なの? 腫れてきてるよ」
「いつつっ。だ、大丈夫。これでも殴るのも殴られるのも慣れてるから」
百合乃が死んだすぐ後、荒れまくってた僕は学校にも行かずに、喧嘩を吹っかけたり吹っかけられたりは日常茶飯事だった。
さすがにリーリエが稼働開始してからはそんなことはやめたから、ずいぶん鈍ってるけど。
「結局、克樹に迷惑かけちゃったね」
「そうでもないさ。猛臣とは僕が戦いたかったんだ」
『なぁに言ってるの? あたしだって戦いたかったんだからーっ』
「そうだな、リーリエもだったな」
勧められたソファに座って、芳野さんから受け取った救急箱で夏姫から治療を受ける。
見るとあっちの端では、猛臣が芳野さんの治療を受けていた。
「よい戦いでしたね、克樹さん」
「ありがとう、灯理。いまの僕とリーリエの全力だよ」
バッテリが切れてぐったりとしてる風のアリシアを灯理から受け取り、アタッシェケースに収める。
「よくもスフィアカップの優勝者相手にここまで戦ったよ。オレは手も足も出なかったのに」
「僕のは公式戦じゃ使えない手を大量に使ってるからね。あっちもそうだったけどさ」
僕のスマートギアを持っていてくれる近藤に笑む。
「本当に、本当にありがとうね」
「うん。夏姫も大変だったろ。お疲れさま」
「……うん」
今回の件が始まる前の、いつもの夏姫の笑顔が戻ってきたのを確認して、僕もまた夏姫に笑いかけていた。
熱を持ったところに押し当ててもらってる冷たいタオルが気持ちいい。
風林火山を長時間使って、引き分けだけど決着はついて、緊張が途切れた僕は急速に眠気に誘われる。
『お疲れさま、おにぃちゃん。あたしを、ここまで育ててくれてありがとう』
スマートギアのスピーカーから聞こえたリーリエの声音に何か不穏なものを感じたけど、それが何なのか問うこともできない。
「リーリエもお疲れ様」
そう言うのが精一杯で、僕の意識は眠りの中に落ちていった。
●用語一覧
・スフィアドール
スフィアを搭載する人型、ないし獣型のロボット。スフィアドールの登場により人型ロボットが実用化されたと言えるほどに、現在の人型ロボット市場はスフィアドールで占められている。
主に三種のサイズが定義されており、一二〇センチサイズを基本とするエルフドール、六〇センチのフェアリードール、二〇センチサイズのピクシードールがある。それぞれの標準サイズは素材や運動性のバランスから決まっており、標準から外れたサイズのドールも多い。
・スフィア
スフィアロボティクス社が約十一年前に提供を開始したロボット用制御装置。人の小脳に近い機能を持ち、ロボットの運動性を大幅に向上させ、高度なコントロールを可能にした。作中世界ではロボットと言えば一般にはスフィアドールのことを示すほどに普及している。
スフィアに内蔵されている処理装置となるスフィアコアは宝石のような見た目をしたクリスタルコンピュータであり、現在のところ同等や同様のものを新規で開発に成功した会社や個人は存在しない。スフィアロボティクス社とライセンス生産している会社以外からはスフィアが提供されることがない寡占状態となっている。
スフィアドールに使用できるパーツはスフィアが認識できるものに限られているため、形状は人型ないし獣型に制限され、現在のところ人工筋が必須などの問題で運動性や自由度に限界がある。ただし第五世代スフィアでは外部機器の制御に対応し、アナウンスされている第六世代では機械式人工筋が組み込み可能になるとされており、サイズや運動性の制限は今後緩和していく模様となっている。
モルガーナとの関わり合いについては現在のところよくわかっていない。
・エルフドール
全高一二〇センチを基本とするスフィアドール。人に近いサイズのため今後の市場展開が期待されているが、第四世代以降安くなったとは言え、最も安いものでも国産高級車が楽に買えるほどの価格であるため、個人で所有している人は希である。
人工筋やフレームの進化により一三〇センチや一四〇センチサイズのエルフドールも販売が開始されており、業界での目標は一五〇センチサイズとなっている。家政婦や介護要員、業務サポートと言ったものから、人間では危険な深海や宇宙、原子炉内などの局地での使用が想定されていて、一部では利用が開始されているが、価格や運動性、サイズの問題で普及しているとは言い難い。
またヒューマニティパートナーテック社が提供するアドバンスドヒューマニティシステムなどのフルコントロールでの制御により、車の運転や調理と言った高度な作業も行えるが、多くの国では安全性や衛生面の問題から、それらの機能はオミットされている。
エイナがライブの際に使用していたのはエルフドールである。
・フェアリードール
人型や獣型など、様々な形状やサイズで提供されているスフィアドール。標準サイズは全高六〇センチであるが、形状や用途が多岐に渡っているため、あまり関係がなくなっている。
業務用途には配管検査用センサードールや深海調査船に搭乗する人型ドールなどがあるが、一般に任意されているのはペットドールとしてであり、犬型や猫型を中心に、完成品での提供が為されている場合がほとんどとなっている。格安とは言えないものの、スフィアドールの中では一番安く一般に普及しており、作中ではあまり登場しないが、スフィアドールと言えばフェアリードールというくらいに一般には認知されている。
コントロールはネット経由で外部のフルコントロールシステムに接続するか、ドール内部に内蔵した処理装置とデータで動くインナーコントロール、その複合が主。人間が操作することもあるが、一般向けではあまり多くはない。
・ピクシードール
全高二〇センチと、着せ替え人形程度のサイズのスフィアドール。フレームと人工筋で構成され、動くようにつくられているため、着せ替え人形ほどには細身ではない。
作中ではピクシーバトルを行うためのバトルピクシーばかりが登場しているが、それ以外にも業務用途や動かせる着せ替え人形、バトル以外のラジコンなど、様々に利用されている。ただし決して安いものではなく、一番安いものでもフェアリードールと同等、バトル向けの組み立てキットとなると中古の車が楽に買えてしまうほどと高額である。
ピクシードールで一番人気と話題が大きいのはやはりバトル向けのものであり、人工筋一本から購入でき、好きなパーツを組み合わせて自由度の高いドールを組み立てることができる。熱の入れ具合は人によって異なるが、バトルジャンキーな人の中には総額で家を買えるくらいの金額を使っている者もけっこういる。それらの需要は日本だけでなく、世界に広まっており、スフィアカップの世界大会開催を要望する声は大きい。
・フルコントロール、セミコントロール、フルオート
スフィアドールの主なコントロール方式は三つ、所有者がスマートギアを使って一挙一動を制御するフルコントロール、行動方針をコマンドで制御するセミコントロール、行動のすべてを制御システムに委ねるフルオートである。
フルコントロールは視界もスフィアドールのカメラを利用し、自分自身の身体を動かすように制御するためスマートギアが必須となる。ピクシーバトルの猛者のほとんどはフルコントロールを使用している。
セミコントロールは基本方針とコマンド入力による制御方法で、ゲームに近い感覚で操作が可能であり、手軽である。制御アプリによってはかなり細かいコントロールが可能であり、夏姫がブリュンヒルデをコントロールするのに使っている制御アプリは、オリジナルヴァルキリー専用のもので、あれほどの細かな制御を実現している。
フルオートは作中ではアドバンスドヒューマニティシステムくらいしか登場していないが、スフィアドールの制御方式としてはかなり一般的であり、コンパクトなシステムではフェアリードールやエルフドールに制御システムを内蔵することもできる。ピクシードールでは携帯端末にフルコントロールアプリを入れることも可能である。必要に応じてセミコントロールやフルコントロールに切り替えられるアプリも存在する。
ピクシーバトルの加熱とともにフルコントロール、セミコントロールアプリの開発も活発化しているが、スフィアドール業界全体としてはフルオートシステムが一番注目されており、開発競争が激化している。第六世代ないし第七世代から始まるだろう、人間の労働を代替するスフィアドール向けのシステム開発が中心となっている。
猛臣が使用しているフルコントロールとセミコントロールを組み合わせたセミオートは、アプローチとしてh第三世代スフィアドールの頃から存在しているが、外部機器の接続が可能になった第五世代になって意味を持つようになったものである。今後第六世代に向けて一般化していくものと思われる。
・アドバンスドヒューマニティシステム AHS
克樹の叔父、音山彰次が務めるヒューマニティパートナーテック社が提供するフルコントロールシステムのひとつ。
主に人間的な作業や行動をスフィアドールに行わせるためのものであり、医療補助、介護、家政婦、業務補助向けに提供されているサービスで、あたかも人間のような気遣いや表情をつくることが可能であるのが特徴。他社の追随を許さないほどに多岐に渡る作業や行動が行えるため、フルコントロールシステムでは一番のシェアを誇っている。バトルピクシー向けのAHSサービスも開始された。エルフやフェアリードールに内蔵する用のコンパクトな、アドバンスドではないヒューマニティシステムも存在する。
開発には疑似脳の研究に携わっていた彰次が深く関わっており、人間的な動きをおこなうための行動パターンやデータには、人工個性であるリーリエの情報が多く使われている。そのため同等のシステムを他社が開発するのは困難である。
・ソーサラー
スフィアドールをコントロールする人を示す俗称。正式名称ではないものの、スフィアカップでも出場者に対して使われていた。
第三世代の頃、ピクシードールでバトルが行われるようになった頃から使われている言葉であるが、どこで生まれた言葉なのかはわかっていない。いつの間にかそう呼ばれるようになっていた。一説にはスフィアロボティクス社の初代社長が使い始めたと言われている。
主にピクシーバトルを行う人に対して使われていたが、現在では業務などで専門的な操作を行うエルフやフェアリーの使用者に対しても使われる。ドールを組み立てなどを行い、操作を主として行わない人に対してはオーナーという言葉が主に使われている。
・スフィアロボティクス SR社
スフィアドール、スフィアを生み出した会社。発明やライセンスのみの会社というわけではなく、スフィアドールの規格制定の他に、スフィアやドール用パーツ、完成品のドールの製造や出荷も行っている。
設立から十二年ほどでしかない新興企業だが、工場用などの用務用ではない、一般向けのロボット企業としては最王手に上り詰めている。第五世代に入り、外部機器の接続が許可されるようになったため緩和されているが、スフィアドールの内部に使用するパーツはすべてSR社にて認定とスフィアへの登録が必要であるため、スフィアドール市場を実質的に牛耳っている。
・ヒューマニティパートナーテック社 HPT社
克樹の叔父、音山彰次が技術部長として務めているロボット関連企業。設立は二十年を超えるロボット関連企業としてはそこそこに古参で、スフィアドール以前からロボットのパーツなどを製造しており、そうした業務は現在も続けられている。
現在の主力はスフィアドール関係のパーツやソフト、システムで、彰次は主にソフトに関係が深いが、ハードにも触れており、スフィアドール方面の開発業務は彼がひとりでとりまとめている。
克樹が開発したヒューマニティフェイスは所詮はアクセサリパーツであり、エルフやフェアリーにも応用されたり、会社の認知度を高めるのに貢献した商品であるが、金額としてはそれほ大きな割合とはなっていない。
現在最も注目されているのはAHSであり、彰次が社内でかなりの自由を許されているのは、AHSには欠かせない人物であるという点が大きい。
・メカニカルウェア MW社
スマートギアなどのマンマシンインタフェースの開発、製造を行っている会社。本社はアメリカ。現在克樹が使っているスマートギアは、平泉夫人の推薦によりMW社製のプレミアムグレードのもの。
とくに高級なスマートギアで名を知られている会社であるが、一般向けモデルや組み込み用パーツの出荷、スマートギア以外のインタフェースも多種多様に扱っている。
なお、平泉夫人のスマートギアは少し古いモデルであるものの、MW社の特注品。灯理のスマートギアはSR社製であるが、パーツの多くはMW社製。
・スマートギア
頭に被るタイプの複合マンマシンインターフェース。ヘッドギア型が一般的であるが、ヘルメット型や頭に被らず覗き込む形のスコープ型なども存在している。
ディスプレイやヘッドホンの他に、脳波を受信して端末を操作することが可能なBCI機能を搭載し、ポインタの操作やキーボード入力、サンプリングした自分や他人の声、市販のボイスデータを使って口で発声せずに喋ることができるイメージスピークを使うことができる。端末操作に必要なすべての機能をひとつに統合している。
ただし使用には慣れや適正が必要であり、使えない人は努力しても使うことができない。業務向けには単価が高いため使われることは少ないが、ゲーム用途やピクシーバトル用途には一般的となっている。
なお、ディスプレイは液晶式か網膜投影式かとか、どうして一度に複数のポインタ操作が行えるかとかということについては作者も知らないため不明。すごく不思議なデバイスである。
・BCIデバイス
スマートギアを含む脳波で端末を操作するデバイスの総称。スマートギアの他には、第一部第一章で克樹が使用していた、手の平を置くだけで入力操作をすべて可能にするBCIパッドなどがある。
あくまで脳波を受信して操作を行えるデバイスであり、デバイス側から映像や音声の情報を脳に送信することはできない。そのためSDBL世界にはVRMMOなどの没入型ゲームなどは存在しない。
灯理の医療用スマートギアは映像情報を視神経に送信する技術を開発するための実験モデルであり、受信機を体内に埋め込む必要があるため、後天的視覚障害者向けには発展していく可能性はあるが、一般向けになる可能性は低い。
・携帯端末、タブレット端末、スレート端末、据置端末
携帯端末はスマートフォン、タブレット端末はタブレットPC、スレート端末は大型のもので、据置端末は一体型PCに近い形状をしている。形状については様々に存在している。
作中世界ではOSという概念が希薄になっており、端末使用者はサービスとして提供される自分専用の環境を所有する端末に呼び出す、という形態を取っている。自分専用の端末だけでなく、解放された端末で自分の環境を呼び出すと言ったことも可能になっている。そのため端末はあくまで端末であり、環境が主体となっている。
あまり細かいことを突っ込んでも無駄な部分。趣味。
・エリキシルスフィア
約三年前に開催されたスフィアカップのピクシーバトルトーナメントの地方大会で、優勝者と準優勝者に配布された先行型第五世代スフィアのうち、エリキシルバトルに参加した人のもののみを呼称してエリキシルスフィアと呼ぶ。非参加者の贈呈されたスフィアは、特別なスフィアと克樹は呼んでいる。
普通の第五世代スフィアと何が違うのかについては不明。エリキシルバトルアプリの機能のひとつであるレーダーする場合、エリキシルスフィアが受信機として機能する。
エリキシルバトル参加者が参加資格を失うのは、同じ参加者にエリキシルスフィアを奪われたときであるが、第二部でガーベラが奪われた際に近藤が資格を失わなかったことから、手元に置いていないだけでは資格を失わない模様。
・エリキシルバトル、エリキシルバトルアプリ
エリキシルスフィア同士が戦うバトルをとくにエリキシルバトルと呼ぶ。エリキシルバトルを行う際はエリキシルバトルアプリを立ち上げている必要がある。
バトルについてはルールはとくになく、公にしてはならない以外の禁止事項もとくにない。制限がないのと同時に、エイナや主催者への連絡方法もなく、時折エイナから一方的にメッセージが飛んでくるだけである。
・アライズ
エリキシルバトルを行う際に、エリキシルバトルアプリに向かって唱える言葉。解放を意味する。
アライズと唱えて約六倍のサイズとなったピクシードールのことをエリキシルドールと呼び、その状態をアライズ状態と克樹は読んでいる。何故巨大化なのか、六倍なのかといった説明はされていない。
アライズ状態はドールに内蔵しているバッテリの残量によって残り時間が決まり、限界に達してアライズが解除されたドールは自動的にアライズが解除される。また、アライズ中に手放した武器などはエリキシルドールから数十メートル離すか、アライズが解除された際に元に戻るようになっている。能動的にアライズを解除することもでき、その場合はエリキシルバトルアプリに収束を意味する「カーム」と唱える。作中ではカームという言葉はほとんど使われていない。
アライズ状態のドールについては克樹がいろいろ調べているが、詳細はわかっていない。剣などの武器は鋭い刃を備えるようになり、軽金属製のハードアーマーは元の素材以上の強度を持つようになる。手持ちの武器や外部デバイスを除き、アライズ状態では取り外しはできなくなることは確認されている。
・人工筋、フレーム
人工筋やフレームはスフィアドールの基礎構造。スフィアドールはスフィア、スフィアを収納するスフィアソケット、メインフレーム、各骨格となるサブフレーム、人工筋、各種センサー、外装で主に構成される。
人工筋は太ければ太いほどパワーが上がり、逆に収縮に時間がかかるようになる。短いと収縮にかかる時間が短くなるが、かけられる電圧が小さくなる。小型のピクシードールでは規定されてる最大電圧はかなり厳しいが、人工筋の素材の限界ではなく主にフレーム経由で供給される電気の総量の限界の問題であり、電圧を高くすると人工筋の性能は上がるが、フレームの電力周りの劣化が早くなる。また運動量が高くなる人工筋そのものも劣化が進む。
克樹は高い電圧をかけられ、性能も高く、耐久性もある市販の人工筋を構造を見ながら選んでいる。猛臣はできるだけそうしたものを自分で設計して製造している。人工筋の性能は猛臣の使うドールに軍配が上がる。
フレームや人工筋の素材については突っ込み無用。
・nカップバッテリ
ピクシードールに搭載するバッテリサイズの通称。公式にはAサイズバッテリと呼ばれ、AからGサイズまでが存在している。カップと表記するのはあくまでソーサラーたちの間での俗語で、公式に使われることはない。
バッテリサイズが大きければピクシードールの活動時間は長くなるが、バッテリはピクシードールの中でも重い部品であるため、大きなものを搭載すると重心が高くなり、安定性が低下する。胸部のソフトアーマーはバッテリ交換のため剥き出しになっているか、開閉できるようになっている。
第四世代や第五世代のピクシードールでは主にBからDカップのバッテリが使用されることが多い。消費電力の大きいブリュンヒルデはFカップバッテリを使用しており、アリシアはCカップバッテリを主に使用している。
搭載しているバッテリは小型でも、胸部を膨らませている偽カップと呼ばれるアーマー形状をしている場合や、活動時間を犠牲にしたり外部バッテリを接続してAカップバッテリを搭載しているピクシードールも存在している。
・リミットオーバーセット
克樹が使う必殺技、猛臣のスキルに代表される、規定を超える電圧を人工筋にかけることで一時的に性能を上げる方法。
作中世界では人工筋はスフィアドールだけでなく、様々な駆動機械に使われるようになっており、リミットオーバーセット自体は人工筋の使用方法として一般的に認知されている。
性能が上がる一方で、寿命の短縮や発熱量の上昇などのデメリットがあるため、とくに小型のピクシードールで使われることは希である。
デメリットはエリキシルドールでも継承されているため、長時間の使用はその後の性能低下に繋がる。
・脚フェチ
克樹のこと。