境界線上のクルーゼック   作:度会

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タイトルで分かった方もいらっしゃると思いますが、複数のサイトで投稿しているものです。
小説家になろうさん、arcadiaさん、それからsswikiに同じものが置いてあります。
今回は以前に完結していた分に改稿を加えた物となっていますが大筋は変わりません。
それでは。
※それ以外で消せる所は消しました。


旅立ち

「ねぇ…本当にいいの?岡部倫太郎?」

 

鈴羽は不安そうにこっちを見る。

 

「あぁ、俺が決めたことだ」

 

そう。俺は後悔することはない。

 

少なくとも俺だけは。

 

目の前にいる彼女が記憶を失うことを知っている。

 

俺だけが識っている。

 

思えば、まゆりや紅莉栖やダルはよく俺と共にいてくれたと思う。

 

あいつらがいてこその未来ガジェット研究所だ。

 

誰か一人でも欠けてはならない。

 

俺は、ラボメンナンバー001狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真だ。

 

まさかラボメンが増えるなんて夢にも思ってなかった。

 

ただの三人だけのサークルのようなものままだと思っていた。

 

俺は、ラボメンの味方だ。

 

あいつらには幸せな未来を付かんで貰いたい。

 

そして今目の前にいる未来から来た少女ダルの娘である阿万音鈴羽もラボメンの一人だ。

 

ラボメンが困っているのに手をさしのべないわけにはいかない。

 

例え過去に跳んで未来に戻れないとしてもだ。

 

恐らく、もう他のラボメンに会うことはないだろう。

 

縦しんば俺が今の時代まで生きていたとしてもその時はもういい年だ。

 

誰も分かるはずがない。

 

そして、目の前にいる鈴羽も俺と過ごした日々を忘れる。

 

その状況を想像して、一瞬自分が世界から取り残された感覚が背筋に冷たいものを流す。

 

「無理ならいいんだよ?」

 

俺の感情を読みとったかのように鈴羽は声をかけた。

 

それに答える代わりに鈴羽の頭を撫でた。

 

「え…な、なにすんのさ!!」

 

鈴羽は、顔を赤くして距離を取った。

 

「これが答えだよ。す……す、鈴羽」

 

なんだか、はぐらかされた気分だよ。と鈴羽は唇を尖らせた。

 

その顔が面白くて、愛らしくて俺は少し笑みを漏らす。

 

どう言われようとも俺はここに残るつもりはない。

 

俺は現実を受け入れる。

 

このままじゃ、まゆりも鈴羽も救えない。

 

俺は神様でもなんでもないから。

 

同じ時間にしがみつくのはもう飽きた。

 

同じ時の流れを薄く伸ばすのはもうウンザリだ。

 

俺はこの未来を変える。

 

 

タイムマシンの中の造りは思ったよりも簡単だった。

 

「もっと色んな器具があるかと思ったんだが、意外とシンプルだな」

 

鈴羽は、そうかな?私にはこれが普通だから。と俺に問いにそっけなく答える。

 

細かい設定を終わらせた後鈴羽は俺の方に向き直った。

 

「ねぇ、岡部倫太郎?私はこのタイムトラベルをしたあと記憶が消えちゃうんだよね?」

 

鈴羽は悲しそうに俺に尋ねる。

 

あぁ。と俺が頷くと鈴羽は俺から目を逸らした。

 

やはり、辛いのだろう。

 

自分の記憶が消えるのを知っていても過去に跳ばなければならないというジレンマに囚われているに違いない。

 

「ね、ねぇ……岡部倫太郎?」

 

「ん?どうした?」

 

「えーとね」

 

鈴羽は、言いづらそうに手を遊ばせている。

 

普段は見ない珍しい光景だった。

 

滅多に見ない上目遣いの表情にもどこか照れが含まれている。

 

「その、手……手を繋いで貰ってていいかな?」

 

そう言うと鈴羽はおずおずと手を差し出す。

 

「ほ、ほら。だって過去に跳んだらこの気持ちも忘れちゃうんでしょ?岡部倫太郎のことも忘れちゃうし……」

 

鈴羽の声は震えていた。

 

俺は黙って鈴羽の手を握り返す。

 

柔らかい手だった。まゆりの手とそこまで変わらない。

 

この小さな手でどれだけの物を背負ってきたのだろうか。

 

「残念だが、もう、俺がこの手を離すことはないな」

 

慣れ親しんだ厨二病のような言動でしか場を和ますことが出来ない自分を恨んだ。

 

「なら、平気だね。あたしからは離さないよ」

 

その握られた手を見て鈴羽は意を決したようにこちらを見た。

 

「岡部倫太郎。あたしは……」

 

その言葉の続きを聞くことなく俺の体は強烈なGに襲われた。

 

視界が暗転する。

 

吐き気を催す程の強い振動。

 

日常生活では体感することのない感覚。

 

「……くっ!!」

 

頭が痛む。

 

この感覚は……。

 

「せ、世界線は変動した」

 

俺のリーディングシュタイナーが俺の脳に、直感的にそれを伝える。

 

やがて振動は収まった。

 

まだ二人の手は繋いだままだ。

 

お互いに約束は破らなかったのだ。

 

タイムトラベルというたった二人の孤独。

 

「おい。大丈夫か?」

 

手を離して、鈴羽の肩を揺さぶった。

 

「う、うん……」

 

まだ意識が混濁しているのか目をシパシパさせている。

 

鈴羽はようやく目を開けると、ゆっくりとこちらを見た。

 

驚いたように目を丸くするとどこか自信なさげにおどおどしながら俺を見ている。

 

「あ、あなたは誰…ですか?」

 

鈴羽は記憶を失っていた。

 

――そう。

 

分かっていた。

 

――これでいい。

 

覚悟していた。何を今更驚く必要があるだろうか。

 

――これが俺の選択だ。

 




何かあればお願いします。
とりあえず、時間が取れる間に投稿を終わらせたいと考えています。
それでは、失礼しました。
何度も目を通していただいている方には感謝の気持ちで一杯です。

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