境界線上のクルーゼック   作:度会

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出会い

あの後俺たちはタイムマシンをバラバラに分解した。

 

勿論売るために。

 

まぁ、時間矛盾を起こさない為にそこまで売れる部品があるわけではないのだけれども。

 

時代が時代だったためか結構な値段で引き取って貰えて当面の資金は工面出来そうだった。

 

「あの、岡部さん」

 

「なんだ?」

 

部品を換金した後公園に戻ってきた時に、鈴羽は俺に喋りかけた。

 

「このバッジのことなんですけど……」

 

「…バッジがどうかしたのか?」

 

「いえ……私のバッジの番号はNO8じゃないですか。そして岡部さんはNO1。その間

の数字ってなんで空いているんですか?」

 

それに所々削れてアルファベットが読めなくなってますし。

 

と鈴羽はバッジを見ながら言った。

 

「あぁ、それは……」

 

ラボメンだ。と言いかけて俺は口をつぐんだ。

 

「なんだって?」

 

削れてる?

 

馬鹿な。

 

「鈴羽。ちょっとそれ、貸してくれ」

 

「だから、私は鈴羽さんじゃないですって」

 

鈴です。と言いながらバッジをこっちに投げた。

 

投げられたバッジを受け取ると確かにアルファベットの文字が擦れたというか、削れてい

た。何か来てあるようにも見えるが、視認出来なかった。

 

俺のバッジを確認してみても特に変化は見られなかった。

 

「やっぱ、時空を超えた時に擦れちゃったんでしょうか?」

 

だとしたら残念です。

 

と鈴羽は肩を落とした。

 

タイムマシンの中にいるのだからそれも考え辛いのだが。

 

「時空を超えた……」

 

その言葉がやけに耳にひっかかった。

 

時空、時間、時。

 

「世界線か……」

 

確かに1975年に跳んだ際に世界線が動いたのを感じた。

 

だとしたら、バッジの理由も説明できる。

 

 

つまりは、そういうことなのだ。

 

 

「どうかしましたか?」

 

「いや、なんでもない。多分擦れてしまったのだろう」

 

はぁ、残念です。とまた肩を落とした。

 

「まぁ、気にしても仕方がないだろう。大丈夫だ。昔の事は俺がしっかり覚えてる」

 

そう言って頭に手を置くと、鈴羽は二カッと笑った。

 

「そうですね」

 

なら平気です。と鈴羽は言った。

 

さてと……

 

俺達は入った金で1Kのアパートを借りた。

 

普通のアパートだ。

 

金はあるのだからもう少しレベルの高い物件も借りれたのだが、そこまで資金が潤沢では

ないので我慢した。

 

なにより鈴羽が気にいってる様子だったので、俺も不満はない。

 

あらかた、荷物も運び、二人して畳に寝転ぶ。

 

まだ簡単にしか掃除してないせいか、少し埃っぽかった。

 

「しかし……もう少し安くならないものなのだろうか……」

 

「なにがですか?岡部さん」

 

俺の一人言に鈴羽が反応した。

 

「いや、これなんだがな」

 

そう言うと俺は先ほど買った雑誌を見せた。

 

「IBN5100……パソコンですか?」

 

「そうだな。パソコンだ。この時代では最先端の技術だから高くて正直個人じゃ手が出せ

ない」

 

「こんなもの買ってどうするんですか?」

 

鈴羽は心底不思議そうな顔を向けた。

 

「そうだな……ラボメンを救うかな」

 

実際に救えるかどうかは知らないが、少なくとも俺はそのためにやってきたのだ。

 

「へぇ……じゃあなんとしても手に入れなきゃダメですね」

 

鈴羽はそう意気込んだ。

 

「……なんだか、私にも関係がありそうですからね。このパソコン」

 

鈴羽は、そう一人で呟く。

 

やはり何かしらの因縁は感じているのかもしれなかった。

 

「ちょっと夜風に当たってくる」

 

考えても解決しなさそうなので俺は起き上った。

 

「あ、私も行きます」

 

と鈴羽も立ちあがり後ろからついてきた。

 

この時代は2010年に比べて、まだあまり開発が進んでおらず、自然が数多く見られた。

 

「静かですね」

 

「そうだな」

 

最近という言い方もおかしいが、最近こんなにゆったりとした時間を過ごしたのは久々だった。

 

俺達は特になにも言わず無言でブラブラしていた。

 

ふと歩いていると、フェイリスが住んでたマンションが建つあたりに来ていた。

 

当然そんな高層マンションも建っているわけではなく更地に近い感じだった。

 

フェイリス達が生まれるのは、大体あと20年後か……

 

もう会うこともなさそうだな。

 

そう思いながら歩いていると、夜には似合わしくない喧騒が聞こえた。

 

喧嘩か?

 

そう思って野次馬根性で覗いてみると、いかにもというステレオタイプの不良数名と育ちが良さそうで高そうな本を持っていた青年が対峙していた。

 

「だから、ここ通るには交通料いるの!!分かってん?」

 

「ここは公道。むしろ君達がどけ」

 

余程自分に自信があるのか、それとも世間知らずなのか不良を挑発するような言動を見せた。

 

案の定不良たちはガンを飛ばし始めた。

 

「いいのかな。お兄さん。痛いだけじゃすまないかもしれないよ?」

 

そんな脅しに対して青年は、下らないというようにため息をついてその場を通りすぎようとした。

 

その行動で完璧に堪忍袋の緒が切れたのか、不良数名が青年に襲いかかった。

 

「岡部さん。ごめんなさい」

 

「え?」

 

俺の後ろにいた鈴羽が何か呟いた気がしたので振り向くと既に俺の前に立っていた。

 

「多勢に無勢はカッコ悪いですよ」

 

鈴羽の声に不良が注意をこちらに向けた。

 

ゴンッ!!

 

次の瞬間、不良の数名が倒れる。

 

「え?」

 

俺は間抜けな声を出した。

 

鈴羽も予想外だったのか目を丸くしている。

 

「ふぅ」

 

青年が一仕事終えた後のように額をぬぐった。

 

「て、てめぇなにしやがった?」

 

「別に。ただ、この本で殴った」

 

そうやって持っていた本を不良に見せると、確かに少し汚れていた。

 

勝ち目が薄いと悟ったのか、チッと悪態を吐くと不良は倒れた奴らを担いでいった。

 

「私が加勢する必要なかったみたいですね」

 

あはは。

 

勢いよく飛び出てしまった為に引っ込みがつかなくなってしまった鈴羽は照れたように

笑った。

 

その笑みを見て俺は心底安堵する。

 

確かに鈴羽は2010年にラウンダー達を倒しているから心配はいらないだろうが、それとこれとは話は別だ。

 

「大丈夫ですか?」

 

鈴羽は青年に声をかけた。

 

「あぁ、なんだかんだ言ってあいつらの隙を作ってくれてありがとう」

 

本の汚れを軽く払うとその青年は言った。

 

「というか、なぜ、女が先に出てきて男はいつまでもそこに隠れてるんだ?」

 

バレていた。

 

しょうがないので渋々路地から出る。

 

こうして正対して見ると俺と同じ位の年かもしれない。

 

「俺は運動が苦手でな。戦闘要員ではないのだ。なぜなら俺は狂気の……」

 

「偉そうに言うことなのか」

 

青年はため息を吐いた。

 

俺達に敵意が無いと分かったのか先ほどと打って変わって友好的な態度だ。

 

「さて、助けて貰った礼だ。飯でもどうだ?」

 

「え……私達はなにもしてないですよ?」

 

そう言うな。

 

青年は俺達を連れだってそこら辺の店に入った。

 

店内は仕事終わりの会社員達が各々酒に耽っていた。

 

「お、幸ちゃん。お疲れさん」

 

青年が入ってくるのを見ていた会社員がそう言うと、他の会社員も口口にお疲れと言っ

た。

 

「あぁ、気にしないでくれ。みんな父親の会社の社員なんだ」

 

そう言って適当に空いていた席に座った。

 

「さっきは、それなりに助かった。私の名前は秋葉幸高だ」

 

「秋葉幸高……」

 

どこかで聞いたことがある。

 

秋葉……

 

「あ」

 

「どうかしたか?」

 

「あなたは秋葉原でそれなりに土地を持っているか?」

 

「ん?まぁ、親父がここらの土地をかなり持っているのは事実だな」

 

秋葉は、それがどうしたという顔をしていた。

 

この青年は、フェイリスの父親だ。

 

実際に見たことがないから分からないが、恐らく間違いないだろう。

 

秋葉なんて珍しい名字はそうもいない。

 

それに、俺達が出会った場所もフェイリスが暮らしていた高層マンションの近くであった。

 

「そういうお前は学者かなんかか?」

 

秋葉は俺の白衣を見ながら訝しげな表情を見せる。

 

「ふふ、良いだろう。俺の名前を聞くがいい。俺の名前は、鳳凰院凶真だ」

 

「え?岡部さん何を言ってるんですか?」

 

ぐ。

 

鈴羽のせいで鳳凰院凶真の名乗りは失敗に終わった。

 

クスッと笑い声が聞こえた気がした。

 

「で、鳳凰院さん(笑)そっちの彼女は?」

 

「今、お前、(笑)ってつけただろ?」

 

さぁ?と惚けながらも秋葉の顔は笑っていた。

 

「あ、橋田……鈴です」

 

鈴羽が簡単に自己紹介をした。

 

「ふーん。二人ともこれもなにかの縁だ。よろしくな」

 

今日は俺が奢るから食べてくれ。

 

そう言ってメニューを俺達に渡した。

 

それから俺達は他愛もない話をしながら楽しいひと時を過ごした。

 

「中々面白いなお前ら」

 

帰り際にメモ帳から紙を一枚破ってペンでさらさら何かを書いて俺に渡した。

 

「これが俺の電話番号だ。なにかあったらかけてきても構わない」

 

そう言って、俺達と反対方向に歩いていった。

 

あれが、人の上に立つ人なんだと直感で理解出来た後ろ姿だった。

 

そして、俺はその後ろ姿に誰にも聞こえないように礼を言う。

 

ありがとう

 

と。

 

彼がいなければ、フェイリスが生まれなかった。

 

それに、2010年にIBN5100を俺達が手に入れることは無かったのだから。

 


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