境界線上のクルーゼック   作:度会

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さて、時代は移り替わりまして1987年。
彼らはどのようにしているのでしょうか……

わざわざお気に入りにしてくれた方ありがとうございます。


橋田助教

もう十年以上前のことなのか……

 

俺は、無精ひげを手で触りながらテレビを見ていた。

 

「なにがですか岡部さん」

 

コトッと俺の前にコーヒーを置いて鈴羽は俺の前に座った。

 

「いや、別になんでもない」

 

わざわざ悪いな橋田助教。そう言うと鈴羽は止めてくださいと手を顔の前でパタパタと振った。

 

仕事帰りに、鈴羽の研究室に立ち寄ってみたのだが、今丁度一段落ついたようですぐにコーヒーを淹

れてくれた。

 

あれから、12年後の1987年。俺は31歳。鈴羽は30歳になっていた。

 

鈴羽は本当にダルの娘かと今でも疑ってしまうほど顔が整っていた。

 

18の頃に比べてなにか落ち着いたというかなんというか、大人の色香というのかまぁ、なんにせよ綺

麗だった。

 

余程母親の遺伝子が優秀だったのだろう。と会ったことのない鈴羽の母親に感謝した。

 

「というか、その若さで助教とは流石だな」

 

俺が褒めると止めて下さいと露骨に顔を赤くして照れていた。

 

全く30になっても中身を余り変わってないのか可愛らしかった。

 

「そ、そんなこと言ったら岡部さんだって、未だに。『俺の名前は鳳凰院凶真だ!』ってやってたじ

ゃないですか」

 

「う。そ、それは、酒の席での話だろ?」

 

俺は酒が弱い。

 

元々飲みたがりではないのだが、大学に行き始めてからは付き合い程度には飲まなければならず、

度々飲まされていた。

 

その度に、あの鳳凰院のポーズをしてしまうのだ。

 

しかも、なぜか大学時代はウケがよく、たまにせがまれて厨二病的な発言も絡めながらよくポーズを取っていた。

 

……そのせいで、俺もまだ中身が19から成長していないのかもしれない。

 

「岡部さんはの方は平気ですか?」

 

伏し目がちにこちらをうかがいながら、鈴羽は呟いた。

 

「あぁ、問題ないさ」

 

俺がそう言うと、鈴羽は顔をパァっと明るくする。

 

「それは、よかったです」

 

「だから、俺はそんなに危険な仕事をしているわけではないと言ってるだろうが」

 

今、鈴羽は物理学の方面の学科で助教を務めている。

 

俺は、まだ秋葉の助言役をやっていた。

 

ちなみに本当は、俺に研究員の話が来ていたのだが、秋葉は、「お前にはなるべく目立って欲しくない」と言ったせいで断るハメになった。

 

そのせいで鈴羽が助教になっているのだ。

 

俺の仕事は、仕事と言っても会社員のような仕事ではなく事前に大事件や、事故を思い出して、秋葉に伝えるというだけなのだ。

 

一応、怪しまれないように背広を着て会社に行って、社長室の横にある部屋で鈴羽の書いた論文を読んだり、自分で書いたりと、それなりに自由に一日を過ごしている。

 

破格の待遇だと言っても過言ではない。

 

ただ、それだけのことでそれなりの給料を貰っていた。

 

秋葉曰く、仕事が出来る人間はいくらでもいるが、未来を知っているの岡部しかいない。

とのことで、詳しくは分からないが、岡部の活躍に見合った給料だから気にするな。と言われた。

 

秋葉も社長になったせいか、普段は仕事に忙殺されているらしいが、相変わらず夜の散歩も欠かしていなかった。

 

忙しいのにどうしてだと聞くと、秋葉は、

 

「夜の散歩は思わぬ拾いものがあるかもしれないからな」

 

俺を見ながらそう言った。

 

「でも岡部さんの書いたこの論文良く出来てますよ」

 

興味深いです。そう言いながら鈴羽は、鞄の中から俺の書いた論文を取り出した。

 

この間、秋葉の会社にいる時に書いていたものだった。

 

「2010年の時の記憶はありませんけど、もうその時代には過去に電子メールを送る方法が確立されているんですね」

 

まぁ、残念ながら、この論文に出てくる『メールを送れる携帯』とか『42型ブラウンテレビ』などは私には想像つかないんですけどね。と鈴羽は頭をポリポリと掻きながら苦笑した。

 

釣られて俺も苦笑した。

 

そうなのだ。俺が大学時代研究していたのもまた物理学、とりわけタイムマシン理論についてだった

のだ。

 

2010年から来た俺は理論もやり方も分かっている。

 

しかし、俺はそれをこの時代に摺り合わせることは出来なかったのだ。

 

とはいえ、理論は興味深いとして、学会でキワモノ扱いされながらも一部の研究者からは評価されて

いた。

 

しかし、タイムマシンの研究で学会を追われたと聞くと思わず、ドクター中鉢を思い出す。

 

そう言えば、あの人の理論は2000年のジョンタイターの書きこみをそのまま転用したような内容だっ

たなと今更ながらの思い出した。

 

「私達、タイムマシンを捨てたはずなのに結局研究してますよね」

 

「やはり……」

 

「シュタインズゲートの選択だ。って言うですね」

 

本当に昔から変わってませんね。鈴羽は言った。

 

むぅ俺が唸ると鈴羽は満足そうに顔を綻ばせた。

 

……本当は、やはりダルの娘だな。と言おうとしたのだが、もうそんなことどうでもいいかと思いと

どまった。

 

「そう言えば鈴。今日の帰りは遅そうか?」

 

いえ、もうこのまま帰ろうかと思います。

 

そう言うと鈴羽は立ち上がって、流しにコップを置くと荷物を整理し始めた。

 

「もう帰れるのか?」

 

驚いた。てっきり忙しいのかと思って、帰ってくるのは深夜かと思っていた。

 

「岡部さんが迎えにきてくれたのに、帰らなきゃ悪いじゃないですか」

 

鈴羽は荷物を整理しながらそう呟いた。

 

その言葉を聞いて俺の顔が熱を持った。

 

どうもこういう言葉には未だに免疫は出来ない。鈴羽の顔は見えないが、きっと普通の顔をしながら

言ってるのだろう。

 

俺は鈴羽の準備が終わるまでテレビを見ていた。

 

テレビでやっているニュースはリアルタイムだが、俺からしたら、生まれる前の情報なんだなと思う

となんとも言えない感情に包まれる。

 

「さ、帰りましょうか岡部さん」

座ってる俺に向かって鈴羽は手を差し出す。

 

その差し出された手にデジャビュを感じながら俺はその手を取った。

 




さて、今はとりあえず書き溜めた分の話を順番に投稿していますが、時間があれば、1975年に入った大学生活でも書いてみようかと思います。
その際は活動報告の方で報告させていただきます。
それでは。

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