ペルソナQ ~資質ゼロだったはずの少年の物語~   作:甲斐太郎

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不思議の国のアナタ編―⑦

女王を倒すと同時に召喚されていたトランプ兵たちも消滅する。私たちは構えていた武器を降ろし安堵のため息をついた後、周囲にいる皆と一緒に笑いあう。すると私たちを援護するように召喚されたトランプ兵を相手取ってくれていた少年少女たちが、私たちのいる所まで来て話しかけて来た。

 

「やったな!」

 

大きなヘッドホンをかけた少年が率先して話しかけてきた。美鶴先輩は思わず身構え、彼らが何者であるのかを問う。すると答えたのは青い毛皮のキグルミを着たナニカであった。彼?は自分をクマだと名乗っているが、どう見ても……

 

「クマ……という名のサルでしょうか?」

 

「どっからどう見てもクマでしょ!?さっきから3回もクマって言っているのに疑うクマか!?」

 

キグルミを着たナニカはアイギスの言葉に憤慨するように、その場で地団駄を踏む。……限りなくうざったい生き物のようだと思っていたら、話に割り込むようにキグルミの彼をどかした千枝ちゃんが話しかけて来た。

 

「あー、もういいから!ともかく詳しいことは出てから話し……はな……話しませんこと?」

 

「先輩、なんで金持ちキャラみたいになってんすか?」

 

金髪のガタイの良い少年に指摘され、顔を真っ赤にした千枝ちゃんは開き直るようにして強気で返答する。

 

「うっさいな!敬語使うか迷ったら変ななったの!……マーガレットさん、“高校生”ってだけ言うから、歳分かんなかったし」

 

千枝ちゃんの発言を聞いていたらしい女性、その人はエリザベスさんやテオドアと似たような青い衣服を身にまとっていた。そして、金色の瞳と銀色の髪という特徴まで一緒となると、あの2人と何か関係があるのかもしれない。

 

「フッ、年齢の1つや2つ……いえ10や20は同じことでしょう?」

 

「……結構、違うと思いますが」

 

青い帽子を被った知的な少年の指摘を気にも留めない傍若無人さ。エリザベスさんとそっくりだ。確実に姉妹なのだろうと思う。そして、こんな2人に挟まれるテオドアは不憫だ。

 

「……どうやら、敵じゃなさそうだな」

 

荒垣さんがそう言うとマーガレットと彼らから呼ばれた女性は薄く笑って答える。

 

「理解していただけたようですね。私は、エリザベスとテオドアの姉でマーガレットと申します。先ほどこの迷宮の外で、妹たちから事情を聞いて駆けつけました。そして、ここに侍るは我がしもべたち」

 

「何の話だよ!つーか、初対面だっつの!おい、相棒も何か言ってやってくれ……って、何してんの相棒?」

 

ヘッドホンの少年の視線を追うと一組の男女が抱き合っていた。いや、抱き合っている訳ではなく、先ほどの女王とトランプ兵との戦いの折、肉体と心の強さを私たちに堂々と見せつけた目つきの鋭い少女が『ほにゃっ』と表情を崩し、総司くんを後ろから抱き締めて首筋に頬ずりしている。

 

援護に来てくれた少年少女たちも、そんな彼女が普段の姿とかけ離れ過ぎているのか面食らって何も言うことが出来ないでいる。

 

「と……ともかく、詳しいことは後にして、まずはここから出ません?」

 

ヘッドホンの少年が頬を引き攣らせながら提案した。私は周囲を見渡して頷こうとしたが、その前に善くんが告げた。

 

「まだ、あれが残っている」

 

その言葉に部屋にいた皆の視線が大きな宝箱に向けられる。

 

「箱か」

 

「この箱は先ほどのシャドウが守っていた物と思われます」

 

真田先輩とアイギスが宝箱の周囲や本体を周囲から調べ、危険物でないことが確認したのを見て善くんと玲ちゃんが宝箱の前に立つ。玲ちゃんは心配そうに善くんを見ながら呟く。

 

「開けるの?」

 

「ああ」

 

善くんは迷いなく宝箱を開け、中に手を入れ探る。玲ちゃんを含めた私たちが心配そうに見守る中、彼は宝箱に入っていた物を取り出して私たちに見せつける。どうやら宝箱に入っていたのは、ウサギのぬいぐるみのようだ。

 

「ん?足の所にネームタグがあるけど……」

 

ゆかりがぬいぐるみを見ていて気付いた。確認すると英語で“NIKO”と書かれている。

 

「にこ……かな?どういう意味だろう」

 

「ん~……きっと、笑顔って意味!」

 

ゆかりが思案するように首を傾げていると玲ちゃんがそう言う。ゆかりはそれを聞いて、それもひとつの考え方かと頷きながら答える。

 

「ああ、ニコッと笑う、の“にこ”?どうだろうね」

 

すると順平と真田先輩が近づいてきて善くんが持つウサギのぬいぐるみを見ながら話し始めた。

 

「このウサギ、上の迷路んとこで出て来たやつか?……にしちゃ、色が違うか」

 

「あいつを追いかけてたら、ここに来たようなもんだな。善、玲。このウサギに心当たりはあるか?」

 

真田先輩の問い顔を見合わせる善くんと玲ちゃんだったが、

 

「分かんない」

 

玲ちゃんの答えはシンプルだった。それを聞いた真田先輩もそれ以上は追及せず、腕を組んで考え込む。すると、善くんは持ち直したウサギのぬいぐるみを眺めながら小さく呟いた。その言葉を聞き取れた玲ちゃんが善くんを見上げつつ様子を眺める。すると、

 

「4つ……ここには4つの迷宮がある。何かを……隠していて、“番人”が守っている。私にはここでやるべきことが……。使命、……そう使命があった。……なのに、記憶を無くした」

 

善くんが目を瞑り右手で頭を押さえつつ、心に浮かんだ思いを拙いながらも言葉へと変えて行った。それは今後の私たちの行動を決める重要な情報源でもあった。

 

「思いだしたんですか?」

 

アイギスが善くんの様子を見て尋ねると、彼は首を横に振りながらこれ以上は思いだせないと顔を俯かせる。

 

「それだけでも前進であります。“番人”とは先ほどの、女王的なシャドウのようなものでしょうか?」

 

「ああ、そうだ。あのような強大なシャドウが何かを守っている」

 

「そのぬいぐるみが引き金となって記憶が戻ったんでしょうか」

 

「多分そうだ。これに触れたら、何だか……亀裂が入った様に、浮かんできた。玲は……何か思い出さなかったか?」

 

善くんは自分を見上げている玲ちゃんと視線を合わせ、問いかけるが彼女は胸の前でぎゅっと祈る様にして手を握りしめると首を横に振った。その姿はまるで、“失われた記憶を取り戻したくない”ように見えてならない。

 

その様子を見て思ったことがあったのか、宝箱から得たウサギのぬいぐるみは善くんが持っていることとなった。

 

「先ほどのシャドウはこう言った。“ここから出さない”と。今の所はこう考えられるだろう。“誰か”が我々を“意図的に”この世界に閉じ込めている。脱出するための手掛かりは、この世界に以前からいる善と玲の奪われた記憶にあるかもしれないが、その記憶はあと3つの迷宮を巡り、“番人”が守っている物を手に入れれば取り戻せそうだ」

 

「ああ、きっと、その“誰か”が隠したんだ。迷宮の中に、私の記憶を。だが、玲の記憶は戻っていない。玲の記憶はどこに隠されているんだ?」

 

善くんが俯いて手を握りしめていると、外から鐘の鳴る音が聞こえて来た。部屋の中にいた皆が知らず知らずのうちに視線を上にあげる。

 

「また鐘か……」

 

「この鐘、俺たちの方でも鳴ったんですよ」

 

「この鐘に、何か意味があるのか?」

 

鳴り響いていた鐘の音が止むと同時に、風花から通信が入った。

 

『大変です!!ベルベットルームにある“2枚の扉”の鍵が外れそうです!!』

 

「なんだと…!?山岸、詳細を!」

 

『ええと……ベルベットルームに“2枚の扉”があって、“4つの鍵”が掛っていますよね?そのうちの“1つ”がたった今、外れそうになって!エリザベスさんが“扉”は違う空間を繋ぐためのものだと』

 

美鶴先輩に言われ、風花は今得られている情報を繋ぎ合わせたものを説明する。すると会話を聞いていた青い帽子を被った知的そうな少年が自身の推考を述べた。

 

「それはつまり……“出口”だと?」

 

「善が言っていた通りなのか!?」

 

『分かりませんが、とりあえず、戻ってきてください』

 

「4つの迷宮に、4つの鍵か……。偶然だと思うか?」

 

美鶴先輩は近くにいた真田先輩と私に視線を投げかけてくる。私はすぐに首を横に振って答え、真田先輩も美鶴先輩の推論が沿っていると太鼓判を押す。

 

「迷宮を巡り、番人が守る物を手に入れると鍵が開くって事だろ。そこに善の記憶がどの程度絡んでいるか分からないが、ついでに取り戻せるならやることは変わらない。俺らを閉じ込めた“誰か”にとって俺らの迷宮巡りが都合悪ければ。邪魔しに現れるさ。それを叩けばいい、シンプルだ」

 

真田先輩はそう活きこんで左手に右手を打ち付け音を鳴らす。美鶴先輩はそんな真田先輩をじっと見つめる。

 

「…………」

 

「何だ?」

 

「たまにはまともなことを言うじゃないか」

 

美鶴先輩が感心したように言うと、頬を赤くさせた真田先輩が心外だと言い返す。美鶴先輩はそんな真田先輩の姿に小さく「そうか」と呟いた後、成行きを見守っていた面々に向き直り言う。

 

「よし、では戻るとしよう。あまり長居しても危険だ」

 

「俺たちは先に行っています。あとでゆっくり話を……つか相棒の役目だろ、こういうのは!!里中、天城、相棒をどうにかしてくれ!」

 

「えっと、無理っぽい」

 

「うーん、“兄妹”のスキンシップを邪魔するのはちょっと……」

 

千枝ちゃんと雪子ちゃんは状況が分かっているようだが、残りは頭の上にクエスチョンマークを浮かばせ、首を傾げている。すると総司くんは私たちに向かって心配ないと首を横に振って、ポケットからカエレールを取り出した。

 

「じゃあ、君にもこれを」

 

「へ?……あ、これってもしかして」

 

私はヘッドホンの少年にカエレールを渡すと特別課外活動部のメンバーに集合を掛ける。総司くんたちは一足早く使用して、部屋からいなくなった。見れば私たちを援護に来てくれた少年少女たちもカエレールを使用した様子で、キグルミの彼しか残っていない。

 

「ヨースケー!クマを置いてったらいかんクマー!!」

 

『よよよ……』と泣き崩れるキグルミの彼がなんとも不憫で、私はアイギスに回収してくるように頼む。アイギスは頷き、すぐにキグルミの彼に近寄ると背後からでっぱっているところを掴んで引き摺ってくる。キグルミの彼が何やら騒いでいるが、アイギスは気にも留めず私たちの所まで来て、手を離した。『ずべしゃっ』と顔面から床にダイブすることになったキグルミの彼は微動だしない。

 

「ま、いっか。カエレールつかいまーす!」

 

私はカエレールを床に叩きつけ、目を瞑る。そして、目を開くとヤソガミコウコウの不思議の国のアナタ迷宮の入り口に立っていた。

 

そこにはベルベットルームで待機していたはずの風花やエリザベスさん、テオドアの他に見慣れない少女の姿があった。順平なんかは新たな美少女の登場に鼻の下を伸ばし表情をだらしなくさせている。

 

「無事に合流できたようですね」

 

エリザベスさんがそう言うと、私たちと一緒に戻ってきていたマーガレットさんが説明を始める。どうやら援護に来てくれた少年少女たちも私たちと同様、この狭間の地へと迷い込んだようだ。ただし、私たちと違う場所、そして違う時間からだと言う。

 

私は自然と総司くんと戯れている少女と、より女の子らしく成長した千枝ちゃんと雪子ちゃんに目を向ける。その姿を見ていたマーガレットさんは理解が早くて何よりと話す。

 

真田先輩は自分たちと同じ境遇の彼らに興味があるのか、ちゃんと1人一人の顔を見て行くすると、風花たちと一緒にいた少女が話しかけてくる。

 

「他にもペルソナ使いがいるって聞いて、驚いちゃった」

 

「それはこっちもだ……。一体、どういうことだ?特に……」

 

美鶴先輩の視線は総司くんに抱きついたまま、こちらのことなどに興味はないと言いたげに目を細めて頬ずりしている少女に向いている。私が知る彼女と比べ合わせても、ちょっと違和感がある行動に首を傾げる。

 

「やっぱテレビに入ったんすか?」

 

すると金髪のガタイの良い少年が鼻息を荒くして質問してきた。しかし、“テレビに入ったか”なんて質問をされると思っていなかった美鶴先輩の目が点になる。

 

「……は?テレビ?」

 

「待て。君たちが住むところでは、影時間はどうなっている?」

 

「かげじかん?」

 

私たちが知る情報と、彼らが知る情報の方向性が違いすぎて話にならない。どうすればいいかを双方が悩んでいると、マーガレットさんが自己紹介をしてはどうかと提案してきた。私たちはそれに頷き、改めて自己紹介をすることとなった。

 

マーガレットさんは総司くんと戯れている少女を見て、大きくため息をついた。そして、彼女の下へ近寄っていく。それを見ていた少年少女たちが先に自己紹介をするようだ。

 

まずはヘッドホンをかけたオレンジ色の髪の少年。

 

「俺は花村陽介。八十神高校の2年生で、あそこで少年と戯れているやつの相棒ってとこっすね。すんません、いつもはあんなんじゃないんですけど」

 

話を聞いていた真田先輩が荒垣さんと自分のような関係だと言うが、荒垣さんは心底嫌な表情を浮かべている。

 

緑色のジャージを着た活発な少女が周囲にいる人の顔を窺いつつ自己紹介する。

 

「ええと、里中千枝です。やっぱ高2で……な、なんかキンチョーするなぁ」

 

何を言えばいいのか悩んでいる千枝ちゃんの後ろで先ほど自己紹介を終えた花村くんが声色を変えて言う。

 

「好きなものはプティングでぇす☆」

 

「なっ!?……靴痕つけるよ!」

 

いじられていることに気付いた千枝ちゃんが怒りの形相を彼に向けるが、いつものことなのか飄々としている。そんなやり取りを見て風花がゆかりと順平みたいだと笑う。

 

花村くんと千枝ちゃんのやり取りを見ながら、くすくすと笑っていた黒髪の少女が前に出る。

 

「じゃあ次は、私かな?天城雪子、高校2年生です。千枝とかとは、みんな同じクラスなの」

 

澄ました顔で佇む雪子ちゃんを見ながら順平がゆかりに美人だよなと確認を入れる。ゆかりは順平の想い人である少女の名前を口にするが、順平は、『それはそれ、これはこれ』と最低な発言をしたため、ゆかりは冷めた目で見ながら彼の足先を思い切り踏みつけた。

 

「こっからは、高校1年生!」

 

そんな明るい声に導かれ、見てみると風花たちと一緒にいた少女が大きく手を振っている。

 

「私は、久慈川りせ♪」

 

「久慈川……あれ、どっかで聞いたような?」

 

ゆかりに踏まれた足先をさすりながら順平が首を傾げている。

 

「私は戦えないけど、バックアップは得意。よろしくね!」

 

「やはり、風花さんと同系統の能力の方がいらっしゃるのですね」

 

アイギスが頷きながらそう言うと、風花が自分以外の後方支援専門のペルソナ使いの存在に驚いたと言いながら近寄っていく。

 

場が落ち着いたのを見て、今度は金髪でガタイの良い少年が気をつけをした状態で話す。

 

「あー、オレぁ、巽完二…っス」

 

「えー、完二それだけ?」

 

「趣味いっとけー」

 

「ううううっせーよ!」

 

先に自己紹介を終えていた久慈川さんと花村くんに言われて、巽くんは顔を真っ赤にしながら腕を振り払った。その様子を見ていたゆかりが順平にひそひそと何かを言っている。順平も同意しているが……、本当のところはどうなのだろうか。

 

次に前に出て来たのは青い帽子を被った知的な少年。

 

「僕は、白鐘直斗。よろしくお願いします」

 

すると天田くんが白鐘くんの足元にしゃがみこんで、見上げながら言う。

 

「……靴底、厚いですね」

 

「えっ、あっ……」

 

「すごい!一気に身長が伸びる魔法の道具ですね!」

 

「も、もうやめてください」

 

天田くんからの何の疑いもなく尊敬するような眼差しに頬を染めて懇願する白鐘くん……“くん”だよね?

 

「次はクマの番ね!」

 

満を持しての登場で張り切るよう声を荒げる彼であったが、この場にいるほとんどが目を背けている。そんなこと気にもせず、彼は自己紹介を始める。

 

「ここ八十稲羽が誇る地元デパート“ジュネス”の愛されゆるふわマスコット、クマクマー!なーんとこのクマ、キュートなクマ皮を大胆不敵に脱ぎ捨てると……」

 

そう言って震えるキグルミに集中して見ていると誰かに肩を叩かれた。そして振り向くと千枝ちゃんと雪子ちゃんが首を横に振っている。どういう意味か聞こうとしたが、クマくんの演出にため息が漏れたのを見て、見なくていい物であったと納得した。

 

クマくんの演出で微妙になった空気であったが、エリザベスさんが引き締める。今度は私たちが自己紹介する番だ。実を言えば、彼らの要である少女はまだ自己紹介を終えていないんだけれどね。

 

私たちは美鶴先輩を始めとした3年生組から自己紹介を始めていく。自己紹介慣れてない真田先輩がプロテインを薦め始めた頃合いから、自己紹介しつつも皆ぶっちゃけていく。この自己紹介を通して彼らの性格がある程度わかったような気がした。

 

「では、最後に……。というか、まだその格好だったのか」

 

美鶴先輩が呆れたような声を出したのは、当然のことだった。何せ、私たちが迷宮を脱出してからずっと、その少女は総司くんを抱きしめたまま微動だしていなかったのだ。

 

隣に立って2人を見下ろすマーガレットさんも立ち上がらせることを諦めたのか、その状態で説明を始める。

 

「見ての通り、ここで歳端もいかない少年を抱きしめて頬を染めている危ないのが私のお客人、そちらの結城湊様と同じように“ワイルド”の力を保有しております」

 

皆の視線が自然と集中するも、少女は気にも留めず総司くんに抱きついたまま。こちらを見ようとする気配がしない。その姿にちょっとカチンときたのか美鶴先輩とゆかりが一言文句を言おうと口を開こうとしたが、

 

「……鳴上優。これでいいでしょ」

 

少女が名前を告げた瞬間、文句を言おうとした2人は目を見開いた。いや特別課外活動部の私を除くメンバー全員の表情が凍った。そして、信じられないものを見る様にして、少女の動向を見る。

 

「あの、結城さんは驚かないんすか?」

 

花村くんが声を掛けて来た。私は大きく頷くと持論を展開する。

 

「うん、女王と戦う時に彼女から“湊先輩”って言われたし、総司くんが見知らぬ女性にあんなされるがままになることもないだろうし、何よりも私たち特別課外活動部の絆の証である召喚器を持っているしね!」

 

「そうなんすか」

 

と、花村くんが言うと同時に、『カランカラン』という乾いた音がその場に響き渡った。音の発生源は廊下に無造作に転がっていた。今、私と花村くんとの会話にて話題に上がった召喚器。

 

私はその召喚器から目を優ちゃんに向ける。すると彼女は大きく肩を震わせ、大きな声で言い切った。

 

「いらない……。そんな絆なんか、……私はいらない!!」

 

そう言った優ちゃんは総司くんを解放し、その場から走り去った。やっとのことで解放された総司くんだったが、廊下に転がった召喚器を手に取ると私たちに一礼して、優ちゃんの後を追いかけるように走って行ったのだった。

 

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