ペルソナQ ~資質ゼロだったはずの少年の物語~   作:甲斐太郎

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ごーこんきっさ編―①

一通り文化祭を楽しんだ私たちは次の迷宮に行くことしたのだが、風花が探索して得た情報を告げたところ、八高メンバーが驚愕の声を上げた。

 

「2年2組ってウチじゃんか!」

 

一番声の大きかった花村くんに視線が集中する。すると彼はごにょごにょと聞き取れない声で何かを呟いた。どういうことなのか、疑問に思った私は彼と同じクラスである千枝ちゃんと雪子ちゃんを見るけれども、彼女たちもまた苦笑いを浮かべていた。どうやら私たちには聞かれたくないらしい。

 

「文化祭で何をやったの、優?」

 

「合コン喫茶だよ、兄さん。実行委員は陽介」

 

「うぉいっ!!」

 

総司くんに話を振られた優ちゃんは澱みなく彼の質問に答え、私たちに知られたくなかった情報を垂れ流しにした。そんな優ちゃんは花村くんから勢いよくツッコミを受ける。千枝ちゃんたちも半ば諦めた表情を浮かべていた。それにしても合コン喫茶か、私たちからして2年後の同年代の高校生がそんなのをやるんだ、と納得しているとそのことに疑問に思った美鶴先輩が問う。

 

「なんだそれは?」

 

「クラスの出し物で、その……合コンをやるんです」

 

美鶴先輩の問いに答えた雪子ちゃんは申し訳なさそうに告げた。順平がそんなイベントがあるなら八高の生徒になりたいと叫んだのだが、雪子ちゃんは元より千枝ちゃんや巽くんたちもあまり触れてほしくない話題の様で口を閉ざしている。そんな中、玲ちゃんは素朴な疑問を口にした。

 

「ごーこん……って何?」

 

それに答えたのはキグルミを脱いだ状態でさらさらの金髪をなびかせるクマくんだった。

 

「合コン、それは運命の交差点……。この広大な宇宙の中で、赤い糸で繋がるたった1人の相手を探し求め、億千万もの愛の狩人が集う場所……」

 

「わぁ~!この広大な宇宙の中で、赤い糸で繋がるたった1人の相手を探し求め、億千万もの狩人が煮てさ焼いてさ食ってさ!?」

 

「最後急に怖いな……」

 

「それに、それは肥後の蹴鞠歌の歌詞だよ」

 

安定の玲ちゃんの聞き間違いは置いておく。玲ちゃんに嘘を教えたとしてクマくんは千枝ちゃんと雪子ちゃんからお仕置きを受けているが、クマくんへの制裁は玲ちゃんとアイギスにお付き合いを申し込んで即座に振られる形で済むのだった。

 

「つまり……合コンとは随分と高尚なイベントだということだな」

 

「や、違いますから」

 

今までの話を聞いていた美鶴先輩はそうまとめた。うん、生粋のお嬢様でしたね、美鶴先輩。彼女の間違いを正すため、ゆかりがすぐさまツッこんだ。そんなやり取りをしていたゆかりの傍に移動してきた玲ちゃんは尋ねる。

 

「赤い糸って、本当に運命の人に繋がってるの?」

 

「分からないけど……信じたいよね、女の子としては」

 

「……うん。絶対、あるよね!ね、善」

 

期待を込めた瞳で善くんを見上げる玲ちゃん。だが、今までの傾向からすると、きっと彼の事だ。「糸を……食べるのか?」とシュールなことを聞き返してくるかもしれない。私はそう予想して、玲ちゃんが落ち込まないようにフォローする言葉を咄嗟に考える。

 

「そうだな」

 

そう言った善くんは優しく玲ちゃんの頭を撫でた。

 

玲ちゃんの意見に同意して頭を撫でたのである!

 

大事な事なので2回言った。その反応は予想していなかったのか、玲ちゃんも思考をフリーズさせて両手に持っていたフランクフルトを落としている。そんなバカなことがありえるのか、と驚愕していた私たちを余所に善くんは玲ちゃんの前から移動した。その先には総司くんがおり、彼は善くんに向かってぐっと親指を立てている。

 

「「あっ……」」

 

それを見て善くんが何故、あのような玲ちゃんを喜ばせるような行動が取れたのかを理解した私たちは、彼らのやり取りが見えないよう彼女の周りを壁のように取り囲んだのだった。

 

 

 

 

ふと、千枝ちゃんが窓の外を見ながらぽつりと呟く。

 

「あ、まだ0時前。やっぱ止まってんだね」

 

「……何が?」

 

ゆかりが首を傾げながら尋ねると千枝ちゃんは指差す。

 

「外の時計塔。狂ってるか止まってるか分かんなかったけど、やっぱ動いてないみたい」

 

「……いや、止まってはいない。動いている。とても、ゆっくりと」

 

千枝ちゃんの疑問をばっさり切る形で話に加わる善くんの言葉は異様に強く感じた。そのことに気にする様子もなく、千枝ちゃんは納得したように頷く。

 

「あ、そうなんだ。じゃあ時間が合っていないだけか」

 

「あの……もう少し、近くで見てもいいでしょうか?」

 

「名探偵の血が騒ぐか?」

 

「そういうわけでもありませんが」

 

そこに待ったを掛けたのは白鐘さんだった。八高メンバーでもキレ者っぽい白鐘さんの言葉を聞いて花村くんが茶化すような言葉を掛けたが、彼女は気にする様子もなく頷く。その後ろで順平が花村くんの言葉に首を傾げたのだった。

 

迷宮に行くのはちょっと中断して、皆で校庭へと躍り出た私たちは時計塔の前にいる。時間は11時55分を差している。

 

「校庭の真ん中に時計塔を建てるメリットは何でありますか?ただ邪魔なだけではないでしょうか?」

 

「本当ですね。これじゃあ、野球もサッカーも満足に出来そうにないし」

 

アイギスと総司くんが交互に意見を述べる。時計塔の周りを歩いて来た白鐘さんも2人に合流して意見を述べる。

 

「妙ですね。中に続くはずの扉がありません。これでは、どうやって整備を……」

 

「メンテナンスが出来ないために、回転速度が不正確になっているのでしょうか」

 

アイギスの質問に答えようとした白鐘さんであったが、花村くんが腕を組みながら近づいてきて告げる。

 

「つかそもそも、八十神高校にこんなの無いけどな」

 

「無いの?」

 

私が聞くと、白鐘さんが首を横に振った。

 

「いえ、校長先生から何かの折に聞いたことがありますよ。以前は、八十神高校に時計塔があったらしいです。もっとも、外見までは分かりませんが」

 

「……ああ!そうかも!なんとなく覚えてる。でもね、時計塔っていうより、ただの記念碑みたいなものだったような」

 

白鐘さんが校長先生から聞いた話しをすると傍で聞いていた雪子ちゃんが思い出したように話に加わった。だが、歯切れが悪い話し方に、近くにいたメンバーが首を傾げる。

 

「少なくとも、こんなふうに中に人が入れそうな大きさじゃなかったと思う。それに、私が小学校にあがる前に壊されたんじゃなかったかな」

 

「とすると、10年以上前のことですね」

 

「んじゃあひょっとして、オレらタイムスリップしちった!……とか?」

 

雪子ちゃんの話から時計塔のモデルとなったものが10年前に取り壊されている物と知った面々。その中で陽気な声で参加した順平であったが、白鐘さんからの返しは非常に冷静なものだった。

 

「……かもしれません」

 

「え、マジかよ」

 

「何とも言えない、ということです。シャドウがいるような場所で、あまり常識で考えても仕方ありません」

 

順平本人は場を和ませるジョークとして言ったみたいであったが、白鐘さんは逆に真剣に考える方が泥沼に浸かるようだと分かっているかのように振る舞った。

 

「確かに不思議だよね、ここ。テレビに入った覚えもないし、メガネもいらないしね」

 

「テレビ……ってさっきも言っていたよな?何のこと?」

 

「え?テレビに入んねーの?じゃあどこにシャドウ出んだよ?」

 

「影時間にタルタロスに入れば……って、そっか。タルタロスにはオレらしかいねーはずだよな。って、ことは影時間に何をしてんの?」

 

「だから影時間ってなんだよ?」

 

互いの情報の行き違いから、月高メンバーと八高メンバーの中で疑心暗鬼が膨らんで行くような感じがした。私は咄嗟に彼らの言い合いを収めようとしたが、それよりも先に動いた者たちがいた。

 

「優、そっちはどんな感じなの?」

 

「影時間は10月の時点で無くなった。タルタロスは分かんない。だって、鳴上家はその直後に都合で引っ越しが決まって月光館学園から離れたし」

 

優ちゃんから放たれた言葉を聞いて、美鶴先輩の表情が明るくなった。影時間を失くすことは彼女の悲願であることを知っている面々は嬉しそうに頷く。だが、優ちゃんの言い回しには疑問が残る。影時間は無くなったけれど、タルタロスは不明。それと引っ越し?

 

「こっちのテレビっていうのは貴女たちが想像しているソレで間違いない。……私たちは殺人犯を追っているの」

 

「さ、殺人!?」

 

優ちゃんの説明で物騒な言葉が出て、風花が大きな声を上げる。その先の説明は花村くんが受け継いで話を進める。

 

「俺らが住んでる八十稲羽って町で、連続殺人事件が起こっているんだ。殺害方法は、テレビの中に被害者を入れる事。テレビの中はシャドウの世界なんだ。実はこのクマも、そこ出身」

 

「クマは、テレビの中に住んでたの?」「ヨースケたちが来てくれて、クマは外の世界に出て来たクマ」

 

「シャドウのいる世界に住んでいた?……まるで善と玲のようじゃないか」

 

美鶴先輩の言葉を聞いて玲ちゃんが駆け寄ってくる。善くんはその後ろをゆっくりとついてくる。

 

「わたし、クマさんと同じ?じゃあわたしたちも、クマさんみたいにみんなと外の世界に出れる?」

 

「きっと出れるクマ!クマは、ヨースケたちが来るまで、外に出るってキモチも無かったクマ。でも外に出たらとっても楽しくて、もっと早く出れば良かったのにって思ったクマよ」

 

「同じだ!みんなが来るまで、“帰る”って気持ち、わたしも無かったもん!」

 

「……そうだな」

 

玲ちゃんが自分と同じということでご機嫌だったクマくんだったが、最後に善くんが介入したことによって敗北感からか、その場で崩れ落ちた。ただボウガンで狙われないように言葉の最後には善くんを褒める?言葉を持ってきた。

 

「こっから大事な話なんだから黙ってろ」

 

花村くんがそう言うと「回収しますねー」と巽くんと久慈川さんがクマくんの身体を転がして、私たちから離れたところに連れて行った。八高メンバーの連係プレーが光る。

 

「そのテレビの中の世界なんだけど、霧の日に中にいると、自分のシャドウに襲われて死んじまうんだ。んで、ペルソナ能力があれば、テレビの中に入れる。……人を入れることも出来る」

 

「まさか、犯人はペルソナ能力を使って殺人を犯しているということか?」

 

花村くんの話を聞いた面々が渋い表情を浮かべる中、白鐘さんが決意表明の様な物を述べる。

 

「まだまだ分からないことは多いですが、僕たちは、犯人を必ず捕まえます」

 

「そう。必ず、捕まえる。……そして、もう誰も死なせない」

 

優ちゃんが俯きながらだが、強い感情の籠った声を発し私たちは押し黙った。彼女から鬼気迫る物を感じたからだ。白鐘さんもそんな優ちゃんの姿を見て頷き、続きの言葉を紡ぐ。

 

「ともあれ、ここはテレビの中ではないし、おそらくあなた方の言うタルタロスでもない。とすると、この世界について僕たちはほとんど何も知りません。各々の常識は一旦捨て、この世界ならではの“ルール”を知るべきだと思います」

 

白鐘さんはふと時計塔を見上げる。

 

「この時計塔に何かヒントがあるかもと思ったんですが、中に入れないのなら調査も出来ませんね。引き留めてすみません。次の場所へ向かいましょう」

 

 

 

風花が探索して次の迷宮となった場所へ向かうと看板にはデカデカと“ごーこんきっさ”と書かれていた。

 

「やっぱか。早速、トラウマをえぐってくんなくていいっつの……」

 

花村くんは自身が予想した通りの状態になっていて、頬を引き攣らせながら呟いた。見れば千枝ちゃんたちも心なしか煤けている。それを見た総司くんが「大人しく休憩所にでもしていればよかったのに」と精神的に追い詰めている。彼女たちも同様の事を思っていたのか、『ぐぬぬぬ……』と歯軋りしているようにも見える。

 

「サクサク行こうぜ。あと3つぐらいデケエのがいるんだろ?」

 

「そのはずだ。それに私の記憶が取り戻せる可能性もある」

 

「善くんの記憶が戻ったら、この世界についても何か分かるかもしれないね」

 

そんなやり取りをしている八高メンバー+1人は放っておいて荒垣さんと風花、そして善くんが話を進めている。そして、掛け声を掛けようとした美鶴先輩が困ったように表情を曇らせた。私たち月高メンバーと、八高メンバーは協力してこの世界の謎に挑むこととなった。そこで、改めてリーダーを決める事となったのだが、優ちゃんの鶴の一声で決定した。

 

「私はいいです。“結城さん”がしてください」

 

「ふぁっ!?」

 

覚悟はしていたけれど、好感度がゼロを突き抜けてマイナスに行っているんじゃないの、コレ!?ゆかりたちからも不憫なものを見るかのような視線が向けられる。しかし、優ちゃんは言葉を続ける。

 

「当然、他の方々も“名前呼び”は失礼だと思いますので、“名字”で呼ばせてもらいます」

 

そう言った優ちゃんは千枝ちゃんや雪子ちゃんたちの所へ向かってしまった。私は恐る恐る振り向くと、そこにはショックを受けて崩れ落ちてしまった美鶴先輩とゆかり、風花の姿があった。

 

男性陣はおろおろとするばかりで頼りがいがない。唯一、総司君だけが拗ねた妹を見るように「仕方がないなぁ」といった感じで呆れているだけであった。

 

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