ペルソナQ ~資質ゼロだったはずの少年の物語~   作:甲斐太郎

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ごーこんきっさ編―③

一悶着があった機械音声による運命の人診断の後、私たちは迷宮を道なりに進んで、とある広いフロアに出た。周囲を見渡すとフロアの中央付近に、金色の馬に跨った金色のキューピットが佇んでいた。千枝ちゃんが遠目に見ながら呟く。

 

「見た目は弱そうだけど、あれもやっぱり……」

 

「うん。たぶん、F.O.Eだね」

 

私が同意すると、ゆかりが気付いたことを口にした。金色のキューピットの手には玩具のような弓を持っているということを。もしかしたら攻撃してくるのではないかと疑問を投げかける。

 

「ちょっと、待って。動き出しそう……」

 

雪子ちゃんの言葉を聞き、F.O.Eの動きを観察すると、その場から動かずにぐるぐる時計回りに回っているだけのようだ。そのF.O.Eの動きを見ていたゆかりが告げる。

 

「もしかしたら、標的が通りかかるのを待っているのかも……。通りかかったとこを矢で狙っているとか。……ここ、無風だし直線的に飛ぶと考えて、あのF.O.Eの直線上にいるのは気を付けた方がいいかもね」

 

「さすが、ゆかり。同じ武器を扱っているだけあって、的確な意見だね」

 

「それは言いすぎよ、湊」

 

私たちはゆかりの意見を男子チームにも伝え、F.O.Eの動きをちゃんと見極めながら移動して、難なくF.O.Eがいたフロアを突破した。男子チームも美鶴先輩の「今度変な真似をすれば、処刑する」発言で大人しくなった真田先輩とやけに悲壮感漂う八高メンバーに首を傾げつつも総司くんを中心に突破できたようだ。

 

F.O.Eのいたフロアの先はまっすぐ行けばすぐ扉があったが、左に分かれ道があった。その先は行き止まりであったが、地図のこともあるのでちょっと寄ってみる。するとそこにはテーブルの上に、なぜかここにいる人数分のティーセットが用意されていた。

 

「うわぁ……あからさまに怪しい」

 

「どうしてこんなところに、テーブルとティーセットがあるんだろう」

 

千枝ちゃんと雪子ちゃんが訝しげにそれを眺める。私たちの中で唯一、そのティーセットに近づいたのは白鐘さんだった。彼女はポットに手を当てて、『かちゃかちゃ』と音をたてながらだがカップを調べる。

 

「カップに使用した形跡はありませんね」

 

「付近には我々以外の気配はしないであります」

 

白鐘さんの分析とアイギスの探知結果を聞き、怪しい物には近寄らないようにしようと皆に目配せする。私たちの中で最年長である美鶴先輩も大きく頷く。

 

「……先を急ごう。得体が知れないものにかける時間はない」

 

「……」

 

私たちがその場から離れようと来た道を引き返す中、優ちゃんだけが白鐘さんがいる行き止まりへ向かって行く。白鐘さんも自身を迎えに来た様子ではないことに気付き、優ちゃんに声を掛けた。

 

「優さん、どうかしましたか?」

 

「得体の知れないもの、と聞いたら飲みたくなるのが人の性……」

 

「お、おい!ゆ……鳴上、ちょっと待て!」

 

美鶴先輩の制止の声を無視して、優ちゃんは紅茶を一気に飲み干してしまった。その行為を目撃した八高メンバーが彼女に駆け寄り、無事なのか心配そうに尋ねる。だが、当の本人はケロリとしている。

 

「うん。特に問題ないね。みんなも飲んでみれば?」

 

私たちは顔を見合わせる。ここで率先して飲んだら、マイナスの値に行ってしまっている優ちゃんの好感度も少しはアップするのだろうかと思い、私も飲んでみる事にした。私が飲み事に決めたのを聞いた他の皆も次々と紅茶を飲む。香ばしさと適度な甘さが、疲れた体に染み渡る。

 

「てぃーたいむ!紅茶のおともはもちろんドーナツ!」

 

「普通の紅茶だ……」

 

「うん。普通……ふふっ。こんなところで普通……くくっ」

 

玲ちゃんは四次元ポケットからドーナツを取り出して、紅茶を飲みつつ食べている。見かけ倒しの状態に千枝ちゃんがコメントする横で、雪子ちゃんが小さく噴き出している。この状況で普通の物が出てくる、という不可思議な状況が彼女の笑いの琴線に触れたらしい。そんな風にまったりとした時間を過ごしていると、慌ただしい声が頭に響いて来た。それは男子チームのナビをしていた久慈川さんの声。

 

『お姉ちゃん!その紅茶は飲んじゃ駄目ー!男子チームは全員が毒状態になった……って、あれ?』

 

「なんか、男子チームは散々だね」

 

「トラブルというトラブルが起きまくっているであります」

 

「回復は大丈夫なの、りせ?」

 

『うん。総司くんのペルソナでフェアリーっていうのがいて、毒を回復する【ポズムディ】を覚えていたから、男子チームで行動不能になった人はいないよ』

 

フェアリーというのは確か総司くんが最初に手に入れたペルソナの内の1体だったはず。総司くんも私たちと同じように結構、力をつけてきたはずだから弱いステータスのペルソナを消去していそうだけれど、態々残しているのは何か特別な意味があるのだろうか。

 

そんなことを話しながら先に進むと、またあの青い棘が床から突き出ている所に出てしまった。しかも、今度はご丁寧にパワースポットを取り囲むようにして存在している。

 

「はぁ……、またあのイヤーな床だよー」

 

「湊さん、千枝さんの疲労が順調に蓄積中であります。リーダーとして激励の言葉を掛けるべきタイミングです」

 

千枝ちゃんは花より団子派ではあると思うけれど、年頃の女の子にそれを言うのは駄目な気がしたので無難にあとで保健室に行こうと提案した。けれど、千枝ちゃんはさらにげんなりしてしまった。そうだ、ヤソガミコウコウの保健室は現在、エリザベスさんが支配者なのだ。すっかり忘れていた。そんな千枝ちゃんの様子とコメントを聞いて、アイギスが相槌を打って大きく頷いた。

 

「なるほど……、保健室は休むためにあるのですね?」

 

「えっと?……それ以外にどんな用途があるんですか?」

 

話を傍で聞いていた白鐘さんが疑問を口にするとアイギスは自身の持つ知識を告げた。ただし、月光館学園限定の知識を。

 

「月光館学園の保健室は“度胸”を鍛える場なのだそうです」

 

「「「度胸?」」」

 

八高メンバーの声が揃った。何気に優ちゃんも気になった様子で、話に加わってきた。

 

「勇敢な生徒は、保健室の先生が調合したスペシャルな薬を飲むのだとか」

 

アイギスの知識は人から聞いた情報であるので、確定したものではない。が、実際に江戸川先生からもらって飲んでいる身としては、ここで口を挟まない方が賢明だと私は判断して口を閉ざした。

 

「なんか聞くからに怖そうだよね、色んな意味で……」

 

「というかこの話、エリザベスさんは知らないよね?こんなの知ったら、きっと真似するに決まってる」

 

雪子ちゃんと千枝ちゃんが不安を口にしながら視線をアイギスに向ける。アイギスは優しく微笑んで答える。

 

「知らないようでありました」

 

「ああ、良かっ……」

 

八高メンバーはほっと胸を撫で下ろ

 

「なので、わたしが教えました」

 

すことが出来ずにその場に皆でずっこけた。

 

「あんたが教えたんかい!」

 

ゆかりが伝家の宝刀のチョップとともにツッコミを入れると、アイギスはチョップを受けた所を擦りながら弁明する。

 

「そもそも総司さんとフードコートにて“傷薬よりも持ち運びが便利で回復力のあるもの”はないかを話し合っているところに、エリザベスさんが来られ、たまたまそう言った薬の話題になったため、情報を開示しただけであります」

 

「ちなみに兄さんは何か言っていなかった?」

 

「寮に来た頃の風花さんや、“ちえきち”“ゆっきー”“久慈川先輩”の作る“ちみもうりょう”な料理に比べたら味の方は大丈夫だろうっておっしゃっていました」

 

なんだか総司くんの中の親密度が分かる呼び方にちょっとムッとする自分がいることに気付いた。料理関連はあまり触れないようにするけれど、千枝ちゃんのことを“ちえきち”、雪子ちゃんのことを“ゆっきー”とまるで幼馴染を呼ぶように言うって事はそれだけ付き合いが長いって事だ。羨ましい……私は未だに“結城先輩”なのに。

 

『ちょっと、待ったー!納得いかないよ、どうして私たちが作る料理と比べて、味は大丈夫って断言できるの!!私、総司くんよりも美味しい料理を作る自信あるもん』

 

「「「「ああ、それは無理ね」」」」

 

私とゆかり、美鶴先輩に優ちゃんの声がハモった。その言葉を聞いて久慈川さんが涙声で訴えてくる。

 

『皆してひどいよ!お姉ちゃんまで一緒になって……ぐすん』

 

いや、総司くんに料理で勝つのは本当に至難の技だから。私たちが親子丼を作る間に、フランス料理のフルコースを作るくらいにヤバいスペックだから。

 

 

 

話を適当なところで切った私たちは先ほど見たF.O.Eが2体いるフロアに足を踏み入れた。2体の動きをじっと観察すると一挙一動まで同期しているらしく、タイミングを見計らって進む必要がある様子だった。ルートは手前の道か、迂回する道か。私たちは地形を確認し、F.O.Eの動きをしっかりと覚えた後に、手前の道を通って扉まで辿り着いた。

 

「ふぅ……2本の矢の行方を気にすると流石に神経を使うな」

 

「あの天使、弓矢の精度高いですよね。ズレずにまっすぐ打てるんですから」

 

美鶴先輩とゆかりが汗を拭いながら話をしている。千枝ちゃんはゆかりが弓を武器として使用していることを思い返し、すごいなぁと感想を述べる。そんな中、白鐘さんが何かに気付いたようで、その場にいた皆に聞こえる様に話し始めた。

 

「あの……、確かに天使のコントロールもそうですが、あの壁に突き刺さった矢を見た限り、武器に転用できれば探索の役に立つと思われます」

 

「なるほど、確かにそうだな」

 

「えっと、まさかと思いますが……戦って奪えと?」

 

「例えば、の話だ!安心しろ、危険と分かっている状況に飛び込むのはただの愚策でしかない。……明彦には絶対にこの話はするなよ」

 

美鶴先輩は自身が放った言葉の意味を吟味して、表情を曇らせながら私たちに念を押す様に告げた。この“ごーこんきっさ”に入った直後の彼の行動を知っているためか私たちだけでなく、八高メンバーの子たちも神妙な表情を浮かべながら頷いた。

 

『ストップです!そんな皆さんに朗報です!』

 

「うわぁっ!?いきなり、大きな声を出さないでよ、風花」

 

『えへへ、ごめんなさい。先ほど、新たな矢の開発に関してテオさんが依頼を出したそうです。保健室に立ち寄る際はぜひ、気にかけてみてください!』

 

「……ということになってしまった以上、皆の協力が必要不可欠だ。明彦がこのことを知る前になんとかしたい。頼む……」

 

美鶴先輩はそう言うと私たちに向かって深く頭を下げた。私たちはすぐに駆け寄り、そんなことをする必要は無いからと彼女の頭を上げさせる。八高メンバーも優ちゃん以外は協力することは吝かではないようだった。

 

で、次の扉を開けて先に進むと、再び鎖で封じられた扉があった。

 

「これがあるってことは、またあの変な質問が来るって事?」

 

千枝ちゃんがそう言って周囲を見渡していると、不意にあの機械音声が聞こえて来た。

 

【どうもどうも。呼ばれて飛び出て、こんにちは】

 

「どうもどうも、こんにちはであります」

 

聞こえて来た音声に律儀に挨拶し返すアイギス。八高メンバーも彼女がどんなキャラなのかを理解してくれたようで苦笑いを浮かべるだけでツッコミを入れてくることはなかった。

 

【君たちは苦悩の果てに、最初の部屋を見事突破した。だが、君たちの行く道は果てしなく遠いようだ運命を分ける選択が再び目の前に迫ろうとしているぞ。というわけで、お待ちかねの第二問だ】

 

~Q.好きな人には、どうされたい?~

 

選択肢は「猛烈アプローチ」「控えめにアプローチ」の2つ。

 

「うーん、私は控え目がいいかな。強いて言えばだけど……」

 

私はどうせだし、本音で答えることにしてみた。一応、結果がふざけたものであっても一つの指針になりそうだったし。まぁ、まだこの人とこうなりたいっていうのはないんだけれど……。そんなことを考えながら、他の皆の意見に耳を傾ける。

 

ゆ「どっちかというと猛烈?」

 

美「フッ、男ならば堂々と猛烈なアプローチをするのがふさわしい」

 

ア「アウトドアであります!」

 

優「控え目……かな」

 

千「うーん……。控え目?」

 

雪「猛烈アプローチ……(ぽっ)」

 

直「冷静沈着な方……控え目ですかね」

 

玲「善善善善善善」

 

2名ほど自由な発言をしているけれど、こんな感じで本当に診断出来ているのだろうか。

扉を封じていた鎖が無くなり、先に進める様になった。すると玲ちゃんがそわそわしているので声を掛ける。

 

「どうかしたの、玲ちゃん」

 

「うん。運命の相手、まだかな?まだかな?」

 

玲ちゃんに限って言えば、彼女の運命の人は善くん以外には考えられないのだろうけれど、それを言ってしまうのも野暮なのかもと思い、「診断結果が楽しみだね」とだけを告げて先に進むことにした。扉を開けると同時に、入り口の方で鍵が開いた音がした。

 

何かそんな要素はあったかなと地図を見直すと見事に穴だらけであった。私は見なかったことにして地図を閉じて鞄に入れ直す。そして、ショートカットを開通させた先で、大きく重厚な扉があることに気付いた。恐らく、先ほどの音はこれが原因だろう。扉に触れようとするとナビの風花から向こう側にシャドウがいることを告げられる。武器やアイテム、ペルソナをしっかりと装備し直して私たちは扉を開け放った。

 

私たちを待ち構えていたシャドウたちは石化させる状態異常攻撃を行ってきたが、逐一回復しつつ皆でフォローし合い殲滅することに成功する。男子チームも問題なく倒せたということだ。そのまま道なりに進むと階段があった。一度ヤソガミコウコウへ戻ることも考えたが、一度先を見ておいてもいいだろうと思い、私たちは階段を降りたのだった。

 

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