ペルソナQ ~資質ゼロだったはずの少年の物語~   作:甲斐太郎

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幕間―④ 

『煌めく果実のパンナコッタ』

 

地図の更新と荷物の整理とアイテムの補充のため、一度ヤソガミコウコウに戻った私たちであったが、私たちと同様にヤソガミコウコウヘ戻ってきた男子チームの姿を視認した玲ちゃんが駆けだした。彼女の行動に気付いた善くんも心なしか微笑を浮かべたのだが、玲ちゃんが向かったのは彼ではなく、巽くんたちと会話していた総司くんだった。

総司くんの背後から、全速力でぶつかりにいった玲ちゃん。その衝撃を殺しきれなかった総司くんはピンポン玉のように撥ねられ、偶々開いていた窓から外に放り出されていった。

 

「総くん!さっきのデザートはどこ!……って、あれ?」

 

「にいーさーん!?」

 

撥ねた本人は自覚しておらず、愛しの兄のピンチにすぐさま走り出す優ちゃん。そして、取り残された私たちは呆然としながら、ことの成行きを見守ったのであった。

 

 

 

「あはは。なるほど、女子チームには分からないように山岸先輩たちには黙っていてくださいねって言ったのに、心の声が漏れちゃっていましたか」

 

窓から放り出されることになった総司くんであったが、運よく外に生えていた木に引っ掛かって何事もなかった。彼は笑いながらそんなことを言っているけれど、その彼をこんな目に合わせる事になった玲ちゃんを寄越す様、善くんにガンつけている優ちゃん。善くんの後ろにはガタガタと身体を震わせる玲ちゃんの姿がある。

 

「玲さん、迷宮内で僕らが食べていたデザートなんですけれど、模擬店で売っているものではなくて景品なんですよ」

 

「景品?」

 

「ええ、体育館の体感型のゲームをクリアしたらもらえる引換券を集めて交換出来たのが『煌めく果実のパンナコッタ』っていうデザートなんですよ。僕“でも”育てるのを“諦めざるを得なかった”『アイスドラゴンフルーツ』が使われていて大変美味でした」

 

満足そうに頷く総司くんと天田くん。そして、ドヤ顔のクマくん。私たちは『いらっ』と来たのだが、総司くんたちからの立ち位置からではクマくんは見えていないのか、総司くんは微笑みながら私たちに告げたのだった。

 

「商品の数は無制限みたいでしたし、皆さんで挑戦してみてはいかがですか?」

 

 

□□□

 

総司くんの情報を元に体育館を訪れた私たちは体育館をめいっぱい使ったアトラクションがいくつも用意されていた。総司くんはここにある全部のアトラクションを1人でクリアして景品である『煌めく果実のパンナコッタ』を手に入れたらしいので、とりあえず皆でやってみることにした。

 

①体育館のステージ上に設置された巨大もぐら叩き

 

ルールは簡単。縦3個×横3個=9個の穴があいていて、その穴からターゲットのシャドウを模したものが顔を出す仕様。100秒間で100体のターゲットを叩いて回るというもので、残り20秒には怒涛のラッシュが待ち受けている。入り口の横には大きなピコハンが置かれているし、あれで攻撃するのだろう。

 

私より先に来ていたのは真田先輩と荒垣先輩の2人。どうやらどちらが多くのターゲットを倒せるかを勝負しているらしいのだが、

 

「えっと、真田先輩が74回で、荒垣さんが75回ですか……」

 

「待っていろ、結城!すぐに抜き返す!」

 

「はー……はー……。やれる……もんなら、やってみろ……」

 

「でも、先輩方。1位は総司くんの136回ですよ」

 

「「!?」」

 

真田先輩と荒垣さんが私の指差した先を見ると、モグラ叩きの得点板があった。そこには1位から3位までの記録が載っている。ちなみに1位から3位までは全て総司くんの得点だ。上から136回、129回、127回と大台が並ぶ。

 

「……シンジ、正直に言え。やれるか?」

 

「何度かアキに付き合って挑戦したが、……今の得点から60体以上を倒すのは不可能だ。あいつはどうやった?」

 

「分身でもしない限り無理っぽいですよね」

 

私はそんな感想を抱きつつも、とりあえずもぐら叩きに挑戦した。

 

結果は59回。いや、ホントごめんなさい。

 

 

②アトム&ジェリーナ

 

ファンシーな灰色の長身の猫と小柄な茶色のネズミが描かれた看板の下にルールが書かれている。猫に扮したプレイヤーは、ネズミに扮したシャドウっぽいナニカを捕まえればいいようだ。設置されたコーナーは縦10m×横10mの正四角形。

 

ただ捕まえればいいだけならモグラ叩きよりも簡単かな、と思って先に挑戦していたメンバーの様子を見る。すると疲労困憊の様子で、肩で息をしている者が多い。中でもプスプスと白い煙を立ち上げているのはアイギスだ。

 

「どうやっても……捕まえる事が出来ないであります……」

 

「いや、オルギアモードのアイちゃんで無理なら俺らがどうやっても無理っしょ」

 

「どゆこと!?」

 

私が順平の発言を聞いて驚いていると、丁度千枝ちゃんが挑戦するところであった。虎縞の猫耳をつけた千枝ちゃんはターゲットであるシャドウにそろりそろりと近づいて行く。そして、あと1mと迫ったところで飛びかかったのだが、ネズミ役のシャドウは俊敏な動きで千枝ちゃんから遠く離れたところに移動した。それも“目に映らないスピード”で。その後も千枝ちゃんはあの手この手を使って捕まえようとするも、一向に距離を詰められず、制限時間の120秒を以て強制終了となった。コーナーから出て来た千枝ちゃんは生まれたての小鹿のような足取りでフラフラと3歩程歩き、その場に崩れ落ちた。

 

ちなみにルールの横に描かれたランキングにはモグラ叩きと同じように上位者のタイムが刻まれている。

 

「えー……。全部総司くんなのは予想していたけれど、3秒、4秒、5秒って何をしたの!?」

 

「この謎を解かない限り、このゲームをクリアするのは難しいであります」

 

瞬発力を満遍なく発揮し死にかけている千枝ちゃんを介抱しながらアイギスは遠い目をしながらそう分析結果を呟いたのだった。

 

 

③ランニングカラオケ

 

そこには、前方にカラオケ用のマイクが備え付けてあるランニングマシーンが設置されているだけであった。これに挑戦した花村くんと巽くんの話では、ジョギングよりも早いスピードに達するとカラオケマシーンが起動して勝手に曲が流れ始めるらしい。花村くんにはアニメソングが流れ、巽くんには演歌だったらしいけれど。ランニングマシーンで走りながらカラオケを熱唱することもさることながら、顔見知りがたくさんいる状況でこれは恥ずかしいとまともに歌えなかったそうだ。確かに、これは1人カラオケよりも条件が厳しい。顔見知りの前で歌うにはある程度の勇気と度胸が必要なようだ。

 

「さすがの総司くんも75点から85点の間みたいだね」

 

「走りながら、歌いきるだけでもすげーのにな」

 

私と花村くんがそんな風な会話をしていると、巽くんが首を振りながら、アンタたちは何も分かってねぇと前置きして話し始めた。

 

「いや、合格ラインが70点以上なんで、そこまで本気じゃなかったのかもしれないっす。総長の場合」

 

「「総長?」」

 

私たちの視線が自分に向いたことを確認した巽くんは大きく頷いて語り始める。

 

「うっす。総長には以前から世話になっているっす。俺がまだガキだった頃、身体が一周りは大きな中高生たちに絡まれた時に唯一、助けてくれたのが総長だったんすよ。あの時の総長の姿は今でも鮮明に覚えている。……そう、相手が泣いて許しを請うても笑いながら自尊心をへし折りに行く鬼神のようなお姿を」

 

まるで生き神さまを見るかのように語った巽くんを余所に私たちは頬を引き攣らせていた。

 

「今の話、マジかよっ!?ウソだろ、クマの奇行を見ても微笑んでいたし、真田先輩と荒垣先輩の喧嘩を必死に宥め様として右往左往していたのは何だったんだ!?」

 

「敵を欺くにはまず味方からっすね」

 

「敵って誰だよ!!」

 

花村くんのツッコミは激しいけれど、ちゃんと的を射ている。というか、総司くんの子供の頃の話ってあまり聞かないけれど、実はやんちゃしていたのかなぁ。分からないなぁ。

 

 

④迷宮から大脱出

 

体育館の壁に入り口と出口だけある変なコーナーがあった。ルールを読む限りでは、このゲームに参加している間、中の1時間は外の時間の1分に相当するようになるみたいだ。参加人数は最大で5人。閉じ込められた場所に用意された謎を解いて、中の時間設定で5時間以内に脱出すれば挑戦したメンバー全員にクリアの証が貰えるとのこと。

 

「参加しているのは、美鶴先輩と白鐘さん、それとゆかりに風花と久慈川さんか。美鶴先輩と白鐘さんがいるなら、大丈夫じゃないかな」

 

私は参加メンバーの人員を見て大きく頷くと、彼女たちが出てくるのを待った。すると出口の扉が開き、迷宮から大脱出に参加したメンバーがぞろぞろと出てくる。しかし、その表情は暗い。風花と久慈川さんは体育館に出たことを確認するとその場で崩れ落ちて泣きだし、ゆかりは壊れたブリキの玩具のように力なく乾いた笑い声だけを漏らしている。まともそうな美鶴先輩と白鐘さんは出て来た直後から考察しているようなので、彼女たちを刺激しないように声を掛けた。

 

「あの……何があったんですか?」

 

「む、湊か。この迷宮は厄介だぞ。考えれば考えるほど、思考という名の底なし沼に埋まって行くような感じで我々はまったく役に立たなかった」

 

「むしろ、僕たちが苦手としているジャンルで謎が構成されているようで、気味が悪かったですよ」

 

美鶴先輩と白鐘さんがしみじみ言うと、会話が聞こえていたのか風花と久慈川さんが声を荒げて詰め寄ってきた。

 

「ちょっと待って下さい!自信満々で『私に解けない謎は無い!』って言ったのは桐条先輩じゃないですか!料理の『さ・し・す・せ・そ』くらいなら私でも解けたのに!」

 

「そうだよ!直人だって、『伊達に警察に助言していませんよ』って自信満々に言ったのに、ブラジャーの付けた方が分からないなら早く言ってよ!!」

 

「「うわぁああああ!?」」

 

美鶴先輩は風花の口を、白鐘さんは久慈川さんの口を必死に抑えたけれど、私はばっちりと聞いてしまった後だった。顔を真っ赤にして「これは違うんだ」と弁明する頭脳担当の2人の泡食った様子に自然と頬が上がって行くのを自覚する私。あとちょっとで笑うといったところで、もう1人の参加者が口を開いた。

 

「で、あと少しで謎が解けそうだって言って、時間制限を1時間延ばすために、私を生け贄捧げるって言い始めたのは結局アンタたちの誰だったの?」

 

「「「「っ!?」」」」

 

乾いた笑みをこぼし続けるだけであったゆかりが美鶴先輩と白鐘さんと風花と久慈川さんの背後に仁王立ちしている。俯いているので表情は計り知れないが、確実にキレている。何せ、言葉にまったく抑揚がなく、ただ淡々と事実を述べているような声色で気持ちが全然伝わってこないのだ。私は、そっと4人から距離を取った。瞬間、4人から嘆願するような視線を向けられるが、私には対処できない問題だと思って首を横に振り全速力で逃亡する。

 

「少し頭冷やそうか」

 

ゆかりに偶々渡していたサブペルソナの【ジャックフロスト】の氷結属性スキルの全体攻撃が発動したのはその直後であった。

 

で、他の体育館にあるゲームの残りは巷でもよく見かけるものばかりであった。

 

⑤⑥ボールがシャドウなストラックアウト。ただし野球仕様かサッカー仕様かの違い。

⑦『迷宮から大脱出』と同じように体育館の壁に入り口と出口がある迷路、こちらはタイムアタックのようだ。

 

⑧パンチングマシーンは、的がアブルリー系のシャドウとなっているので挑戦者は今の所いない。態々あの大きな舌に向かって拳を突き出すのはちょっと嫌。だけれど、3回攻撃して合計で500以上を出さないといけない。私もゲームセンターでやってみたことはあるけれど、女子の力じゃ厳しいと思う。

 

⑨ダーツ

 

ただし、的は【笑うテーブル】系のシャドウのテーブルの上に浮いているモノである。お皿や花瓶などに点数が振り分けられている。当然大きなモノだと点数は低くなり、小さくて当てにくい物には高得点が割り当てられている。一番高いのは親指大のコインのようだ。

 

 

 

とりあえず体育館にあったゲームを一通りやってみたメンバーを一度、体育館の入り口に集めて作戦会議を行った。そして出た結論は……。

 

「クリア、無理じゃね?」

 

順平のこの一言に集約される。

 

体育館に訪れていないのは総司くん、天田くん、クマさん、コロマルのみで、他のメンバーは全員来ているのにも関わらず、手に入れられた引換券は迷路のタイムアタックが7枚と、シャドウを投げる方のストラックアウトが3枚、シャドウを蹴る方のストラックアウトが2枚。そして、⑩マヨナカ横断ミラクルクイズに参加しまくっている優ちゃんが稼いだ15枚のみ。

 

「ふぅ、クイズはもう問題が出尽くしてしまったみたいで、もはや解答席に座るシャドウたちは私の敵じゃないわ」

 

「さすがお姉ちゃん!」

 

久慈川さんが優ちゃんに抱きついて喜びを体現していたが、彼女の体が冷え切っていることに気付いた優ちゃんがこちらを訝しげに見てくる。私は咄嗟に身体をガクガクと震わせる美鶴先輩と風花に視線を向ける。その傍には、やけにすっきりとした表情を浮かべるゆかりの姿が。

 

「皆さん、お疲れ様です。でもどうしたんですか?こんな入り口で」

 

優ちゃんの追求をどうしようかと頭をフル回転させて悩んでいたら、後ろから声を掛けられた。声に気付いて振り向くと不思議そうな表情を浮かべた総司くんが立っていた。私は嬉々として今の状況を総司くんに説明する。

 

すると、説明を聞いている内は神妙な表情を浮かべていた彼も、私たちが手に入れた引換券の枚数を聞くと噴き出した。私たちが一生懸命になって手に入れた行為を笑うなんてと怒ろうとしたら、総司くんは言った。

 

「皆さん、ここはシャドウが作った空間だって第二の迷宮に挑む前に再確認されていたじゃないですか。結局、自分たちに不利なルールを自ら作ってしまっているんです。この体育館に設けられたゲームのほとんどにはシャドウが使われていますよね?的もそうだし、ストラックアウトに使うボールもシャドウでしょ。つまり、ここではペルソナの力が使えるんです。試しに何かやってみましょうか」

 

総司くんはそう言って、移動し始める。彼がデモンストレーションに選んだ舞台は、パンチングマシーンの所だった。

 

「じゃあ、まずは的の防御力を下げますね。ぬらりひょん、ラクンダ!」

 

総司くんがいつものようにペルソナが描かれたカードを握りつぶすと、彼の背後に後頭部の長い特徴的な形状をしたはげ頭の老人が浮かび上がった。着物をはためかせ、持っていた煙管を差し向けると的のアブルリーが弱弱しく鳴いた。

 

「で、次は自分の攻撃力を上げるので、ペルソナチェンジ!コッパテング、タルカジャ!」

 

総司くんが次に召喚したのは、黒い羽を生やし特徴的なお面をつけた天狗である。天狗が自身の首にかけていた巻物を開くと総司くんの体に淡い光が灯った。

 

「このまま攻撃してもいいんですけれど、一発で500以上のダメージを与えるとボーナスなので、もう一押ししますね。ペルソナチェンジ、モードレッド!」

 

止めを刺す用にと総司くんが召喚したペルソナは白銀の甲冑を来た騎士のような姿をしていた。兜の横には龍の角のようなものが生えていて力強い感じを受ける。

 

「モードレッド、剛殺斬!」

 

総司くんとモードレッドの動きがシンクロし、攻撃力の上がった斬撃攻撃系のスキルが防御力の下がった的のシャドウに直撃した。真上から叩きつけられ、剣の形に凹んだシャドウを見て何人かが痛そうな表情を浮かべ顔を背けている。

 

「よっし、512だ。へへっ、一回の攻撃で500以上を出すと引換券5枚をもらえるんですよ。この他のゲームも似たようなものですよ。迷宮や迷路の壁もシャドウですから」

 

「「「ん?」」」と総司くんの発言を聞いた数人が顔を見合わせた。頬を引き攣らせた美鶴先輩が代表して尋ねる。

 

「鳴上、お前まさか」

 

「もしかして、桐条先輩たちも挑戦しました?あれってむかつきますよね。態々、触れられたくない過去とか苦手にしている分野を狙って問題を作ってきますから。つい、やっちゃっいました」

 

『てへっ』と可愛らしく笑う総司くんだが、やっていることは大問題である。完全に攻略していないと公言したようなものだからだ。数人がそんなのアリかよと項垂れている。そんな中、優ちゃんが総司くんに近づいて行き提案した。

 

「ねぇ、兄さん。私とクイズで勝負しない?」

 

「クイズ?……ああ、ミラクルクイズか。何、自信があるの?」

 

私たちは優ちゃんが問題を全部覚えたという話を知っているので、これは総司くんに勝ち目はなさそうだなと思っていると、優ちゃんから『負けた方が勝者の言うことをひとつ聞く』という賭けも行った上で勝負することになった。クイズの解答席がある所に移動すると、総司くんを見た解答席に座っていたシャドウたちが全員一目散に逃げ出した。

 

「まさか……」

 

荒垣さんが呆れたように総司くんを見ると彼は口笛を吹いて誤魔化そうとしていたが、総司くんはライバルであったシャドウたちを文字通り“排除”してクイズに参加したようだ。嗚呼、今なら巽くんが総司くんを総長と呼んでいた理由が分かる気がする。

 

他の解答者がいないと盛り上がりに欠けて仕方がないので、4つある解答席にそれぞれ優ちゃん、総司くん、花村くん、千枝ちゃんが座った。事前に八高メンバーが集まっての、この行為なので何か意味があるに違いない。

 

【それではクイズを始めます】

 

ごーこんきっさ内で聞こえてくる機械音声とは違う女性の声で、問題が読まれていくみたいだ。

 

【では、第一問。愛家のつ】

 

『ピコン』とボタンを押したのは総司くんだった。観客である私たちは勿論のこと、解答席に座っている優ちゃんたちも唖然としている中、彼はさらりと答える。

 

「火曜日」

 

『『『ガタッ!!』』』と驚愕の表情で解答席に座ったままの総司くんを見る優ちゃんたちの表情は悲壮感たっぷりであった。クイズが始まる寸前まであった彼女たちの余裕が第一問目にして微塵も感じられなくなった。

 

【正解です。問題文は『愛家の通常の肉丼が食べられない日は何曜日?』でした。では、第二問。ま】

 

『ピコン』とボタンを押したのは総司くんだった。問題はたった一言「ま」しか読み上げられていない。私たちは全然検討もつかないので、彼の言葉を待つしかない。

 

「200円」

 

「丸久のがんもかっ!!」

 

問題文が分かったのか、優ちゃんが解答席で悶えている。総司くんは涼しい顔で胸を張っているが、その横で絶望からか俯いてしまっている花村くんと千枝ちゃんがあまりに場違いな気がする。

 

【正解です。問題文は『丸久豆腐店で売っているがんもの値段は?』でした。では、第三問。特出し劇場丸久座でりせの影がつ】

 

例のごとく『ピコン』とボタンを押したのは総司くん。さも当然のように答える。

 

「金」

 

「ちょっと待って、兄さん。なんでそれを知っているの?」

 

優ちゃんの様子が今までと変わり、総司くんの表情の機微を見逃さないような鋭い目つきとなった。何か重要なことが!?と私たちも息を飲んで見守っていたのだが……。

 

「え?優こそ、何を言っているのさ。たかが30回くらいクイズをやり通したくらいで僕に勝てると思ったら大間違いだよ。僕は全ての問題と解答を聞いた上で問題を書き起こしてクイズが早押しでもやれるんだからね!」

 

自信満々に胸を張った総司くんを見て優ちゃんが渇いた笑い声を出しつつ解答席に座る。

 

「あ、うん。そういうことか、何があったのかまでは知らないのね」

 

緊張した空気はクイズに出題される問題とその回答を丸暗記しているという総司くんの一言で終了した。というか、無駄に高スペックな頭脳を文字通り無駄に使っている。結局、優ちゃんたちは一問も総司くんに勝てぬまま、ミラクルクイズは彼の圧勝で終了した。

 

「じゃあ、クイズの前に言っていた負けた方は勝者の言うことをひとつだけ聞くってやつなんだけど。思いつかないから、保留で!」

 

「えー……」

 

完全に魂が抜け落ちてしまったかのように解答席で放けていた優ちゃんは、総司くんのあんまりな発言によって項垂れてしまう。八高のメンバーからは苦笑いが漏れる。

 

「じゃあ、僕はエリザベスさんたちに依頼されているから、他の種目も廻るね」

 

総司くんはそう言うと迷宮から大脱出の入り口に駆けこんで行った。そしてすぐに出口から出てくる。そして入り口から入りなおすという彼自身が説明した通りの力技を見せる。

 

「うわぁ、あの話は本当だったんだ」

 

「とりあえず、攻略の糸口は見えた。正直、鳴上のようにうまくやれるかは分からんが、さっさと引換券を集めて『煌めく果実のパンナコッタ』を食べるぞ」

 

美鶴先輩の掛け声に召喚器を持ちながら移動していく月高出身の私たちであったが、八高メンバーは自信満々で挑んだクイズで完膚なきまでに敗北することになった優ちゃんを慰めるのにもの凄く時間がかかったのだった。

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