ペルソナQ ~資質ゼロだったはずの少年の物語~   作:甲斐太郎

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序章 【嵐の夜に】

9月18日(金)

 

寝坊してしまった。

 

「先に行くね」といってゆかりや風花が出発して30分。

 

やっとのことで髪や色んなものの用意を終えて1階に降りると通学の途中でも食べられるようにとサンドイッチとコップ一杯の牛乳が用意されていた。

 

私はコップを手でつかんで一気飲みするとサンドイッチが入った箱を鞄の中に入れ、用意してくれた本人に声を掛ける。

 

「総司くん、ごちそうさま!」

 

「はーい」

 

台所の奥の方から声が聞こえてくる。私はその返事を聞いた後、玄関に向かう。壁に掛けられた時計を見て、「ギリギリかぁ……」と力なく呟いた。

 

そして、扉の取っ手に手を掛ける寸前、台所の奥にいたはずの総司くんが声を掛けて来た。

 

「結城先輩、まだいますか?」

 

「ん、どうしたの?」

 

「天気予報では一日晴れって言っているんですけれど、一応念のため折りたたみ傘を持ってって下さい。受付のところに置いてありますから」

 

彼の言葉に従って受付を見ると折りたたみ傘が積み重なって置かれている。

 

総司くんは皆に持って行くように言ったみたいだが、今の所誰も持って行っていないようだ。

 

私は一瞬だけ窓の外を見て迷ったが、受付に近づき折りたたみ傘をひとつ鞄に突っ込む。

 

「もー、時間を押しているのにー。もし雨が降らなかったら、晩ご飯一品増やしてよ?」

 

「ははは、望むところですよ」

 

私は総司くんに見送られ、巌戸台駅に向かって走り出す。本来であれば総司くんも一緒に行かないといけないのだが、彼は病気で欠席だ。

 

“台風が来るので色んな物を片づけないといけない病”というありえないものだが、休んで片づけないと間に合わないと言って桐条先輩を言葉でねじ伏せたという経緯がある。

 

「もし休ませてくれないのであれば、屋上の家庭菜園が元に戻るまで寮母の仕事は一切しない」と言い切られれば、桐条先輩の方が折れるしかなかった。

 

私たちの生活の中の食事の部分を一手に担う彼がボイコットしてしまうと、学校での生活もそうだけれど、タルタロスでの活動にも支障が出てしまう。

 

ただ晩ご飯を作るだけならば、飛躍的にその料理の腕を成長させた風花や総司くんの料理の師匠である荒垣さんが作ればいい。

 

しかし、彼が作る料理のようにステータスアップの補正はない。何故だか分からないが、彼が料理を作ると何かしらのステータスアップの恩恵がある。

 

彼の料理に命を救われたことも一度や二度ではない。

 

そのこともあって桐条先輩は総司くんに強く言えず、目を瞑ることになった。まぁ、品行方正な生徒会長さまなこともあって、終始不満そうだったが、私たちのために納得してくれたようだ。

 

『間もなく、ポートアイランド方面の列車が発車いたします』

 

「わぁっ!?ちょっと、待って!乗ります、乗りまーーす!!」

 

掛け込み乗車をしたことによって、アナウンスで叱られたが何とか間に合った。肩で息をしながら、走り出した電車から外の景色を眺める。

 

「いい天気……。この調子だと、晩ご飯はいただきだなぁ……はむ」

 

私は鞄の中からサンドイッチの入った箱を取り出し、頬張るのだった。

 

 

 

放課後、玄関前でゆかりと順平ら生徒たちが立ち往生している。その原因は……

 

「うそ……。あんなに晴れていたのに」

 

「総司の言うとおり、傘を持ってくるんだったぜ」

 

丁度、帰りのホームルームが終わった頃を見計らって降り出した雨は、バケツをひっくり返したような雨となり生徒たちの足止めの要因となった。

 

生徒の中には鞄を頭に載せて走っていく者もいるが、すぐにびしょ濡れだ。

 

それに月光館学園の鞄は学校指定のものではなく、自分が好きなものを使用しているので防水加工がされていないものだと自分自身だけでなく鞄の中身も全滅してしまう。

 

「うぅ、試合には勝ったけれど、勝負には負けた感じだよ」

 

私はゆかりと順平の横で鞄から折り畳み傘を取りだして用意する。

 

「あ、湊。傘を持ってきていたんだ?……いれて」

 

「あー、ずりぃぞ。ゆかりっち。オレっちもいれてくれ、湊」

 

「こ、この雨の中3人は無理だよ!?」

 

傘をさして帰ろうとした私にひっつくようにゆかりが傘の中に入ってくる。順平は面白半分と言った感じで無理やり割り込んできたし。

 

「頭さえ濡れなきゃ大丈夫だってば」

 

「わわっ。ちょっと2人とも!?」

 

確かにゆかりが言うとおり、頭こそ守られたものの寮に着くころには身体はびしょ濡れになってしまっていた。

 

どうしようかと思っていると、勝ち誇った顔の総司くんが人数分のバスタオルを持って出迎えてくれた。

 

「ほら、僕の勝ちですね、先輩方。お風呂は沸かしてあるのでどうぞ」

 

ゆかりたちも朝から総司くんから傘を持って行くように言われていたのだろう。

 

まぁ、天気予報では一日晴れると言っていたから、こんなの予想できる方がおかしいのだけれど、とりあえず……。

 

「ゆかり、どうせだし洗いっこする?」

 

「はぁ!?何を言っているの、湊。って、引っ張んないでよ」

 

「おお、仲がいいこって。総司、なんか温かい飲み物くれないか?」

 

「コンソメスープでいいですか?」

 

「もしかして、晩ご飯用か?悪いな」

 

「いえいえ」

 

順平と総司くんのやり取りを眺めながら私はゆかりと脱衣所に足を踏み入れる。

 

そしてお風呂で温もってまったりした後、脱衣所で気付く。

 

「「しまった!?着替えがない!!」」

 

連絡を入れた優ちゃんが私たちの着替えを持って来るまで、私とゆかりは浴室に缶詰状態になるのだった。

 

 

 

 

9月20日(日)

 

何か胸騒ぎがしてタルタロスに来たけれど、何の変化もなくとりあえずベルベットルームを訪れる。

 

すると部屋の主であるイゴールさんの姿はなく、以前一度だけ見たことのある女性が1人座っていた。

 

「ようこそ、ベルベットルームへ。ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある場所。珍しいこともあるものですね。主がいない間に、あなたがいらっしゃるなんて。改めまして、私の名はエリザベス。不肖の愚弟テオドアの姉にございます」

 

不肖の愚弟って、ひどい言われようだねテオドア。愚かって2回言われているよ。

 

「あの……イゴールさんは?」

 

「あいにく不在にございます。ペルソナの合体でしたら、私にも多少は心得がございますのでお申し付けくださいませ。ちなみに本日は“レギオン”しか召喚できませんので、こちらで宜しいですね?」

 

テオドアとは違った意味で強敵のようだ。何で合体先を指定しているの?

 

しかも、有無を言わせないような傍若無人ぶり。あまり関わりを持つと拙いかもしれない。そんな風なことを私が考えている横で、エリザベスさんは演目を演じる女優のように告げる。

 

「“レギオン”が“軍団”の意……。複数の顔は異なる表情でありつついずれも豊かな苦悶を滾らせており、見ていて全く飽きることがありません。このエリザベス一押しでございます。では早速、合体の儀を…」

 

ちょっ、いきなり!?

 

「姉上、嘘はいけませんよ。姉上でしたら、他のペルソナも召喚できるではありませんか」

 

ベルベットルームにあるいくつかの扉のうちの一つからテオドアが現れる。

 

私はてっきりエリザベスさんがいるからてっきり出て来ないものと思っていた。

 

前回、エリザベスさんとテオドアの上下関係をまざまざと見せつけられているだけに。

 

「あら、テオ……ごきげんよう」

 

「姉上……いえ。結城さま、ただいま主が席を外しておりますので、念のため私も、こちらにいさせていただくことにしました」

 

「念のためってどういうこと?」

 

「主が不在のベルベットルームは、この部屋の存在自体がすこしばかり不安定になるのです。……そして、外の世界は嵐」

 

嵐……もしかして台風のことかな。

 

そう思ってエリザベスさんを見ると彼女は妖しげな微笑みを浮かべ答える。

 

「嵐は、揺さぶるのです。身体だけでなく、その心をも。決心や葛藤、隠してきた何かをも」

 

エリザベスさんは目を閉じ、胸に手をかざす。

 

「嵐の中では、みな目を閉じる。すると、内なる世界が浸食してくる。背けてきた目で、隠してきた何かと、対面せざるを得なくなる。運命、そして“時”をも揺さぶる嵐というものがあるものなのです」

 

そうエリザベスさんが締めくくると同時に鳴り響く警報。

 

テオドアとエリザベスさんは様子の変わったベルベットルーム全体を見回す。その瞬間、ベルベットルームは闇に包まれる。

 

「あら?」

 

エリザベスさんの好奇心たっぷりな声に不安を覚えると同時に見知った気配が増えるのを感じた。

 

そして明りがついたベルベットルームは先ほどと変わった点が。

 

3人しかいなかったはずの部屋の中に、人数が増えていた。

 

「え、ちょっ、何だぁここ!?」

 

「はぁ!?青いし、上がってる?ここ、エレベーター!?」

 

「なんだ、ここは……」

 

順平とゆかり、桐条先輩の声が聞こえたので椅子に座ったまま、振り向くと特別課外活動部のメンバーがいた。

 

あれ、いつもよりも数が多い気がするのはなんで?

 

「どういうことでしょう……」

 

「密室に招かれざる客。……すなわち、この中に犯人がいる!」

 

「一体何の!?」

 

私は思わず正面を向いてエリザベスさんの言葉に突っ込みを入れる。

 

「は、犯人!?」

 

順平が驚きの表情を浮かべ、エリザベスさんの顔を凝視する。見れば他のメンバーも警戒している様子だ。

 

しかし、そんな疑惑の目を向けられたエリザベスさんはどこ吹く風と気にしておらず、その上で、

 

「冗談です」

 

真顔でそんなことを言ってのける。

 

「ともあれ、これも何かの“縁”。そして始まり…なのでしょう」

 

エリザベスさんはテオドアの横に立つと一礼する。

 

「私はエリザベス、そして弟のテオドア。共にこの“ベルベットルーム”の住人でございます」

 

「ベルベットルーム?あ、もしかして、湊のペルソナを呼び出したりするっていう?」

 

「はい。私共はここで、お客人のペルソナ召喚のお手伝いをさせていただいております」

 

「ほ、ほんとだったんだ…!」

 

それはどういう意味かな、風花?

 

確かに普通に考えれば、頭がおかしいと思われるのはしょうがないけれど、それをどうして本人がいる前で言うの。

 

「で、なぜ我々をここに?」

 

「それは私どもにもわかりかねます」

 

真田先輩の問いかけにテオドアが答えるも要領を得ない答えに皆が首を傾げる。

 

が、次のエリザベスさんが告げた言葉にぎょっとする。

 

「平たく申し上げますと、こっちのセリフでございます。ここに立ち入ることができるのは、何かの“契約”をなされた方か、もしくは……」

 

その時、上へ上へと上がっていたベルベットルームが動きを止める。

 

順平が周囲を見渡して一言呟く。

 

「まるで、ジェットコースターを思い浮かべるよな。発射台まで山を上がって行って降りる寸前の……」

 

「ちょっ!?フラグなんか立てなっ!?きゃあああ!!」

 

ゆかりが順平の言葉に反論し終える前にベルベットルームそのものが落下を始める。

 

「下方向へ自然落下しているであります」

 

「そんなこと言われなくても分かりますよっ!」

 

冷静に分析するアイギスと突然の浮遊感に戸惑う声を上げる天田くん。

 

その時、“いないはずの声”が聞こえた。

 

「重力加速度は9.80665m/s2。大体500mの落下だと10秒足らずで到達して、時速は350kmを超えますよ」

 

「怖いこと、さらっと言うんじゃねぇえええええ!!」

 

順平のセリフに同意すると同時にベルベットルームは最下層に到達。

 

私たちは外の世界に放り出された。

 

そして、目を開けるとそこは、見たこともない学校だった。

 

 

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