ペルソナQ ~資質ゼロだったはずの少年の物語~ 作:甲斐太郎
試練を越えた先に宝物庫があるというボーナスゲームの誘惑を断ち切って、第二の迷宮の“三次会”に来た私は階段付近にいるメンバーを見渡し、一際低い身長で目立つ天田くんと丸っこいキグルミ姿のクマくんと一緒にいる灰色の髪が特徴の総司くんの姿を見て内心でガッツポーズをする。ただ“彼”は自分たちの周囲にいないメンバー構成を考えて、大きくため息を吐いている。
「ふむ。総司の懸念通りになった訳か」
「そうですね。でも、まぁなんとかなるんじゃないですかね」
「どういうことクマか、シーフー?」
思案するように腕を組む総司くんを見て、どう声を掛けようかを私が悩んでいるうちに善くんが彼に話しかけていた。しかし、彼らの話に耳を傾けるとどうやら総司くんは別グループになったゆかりたちのことをあまり心配していないようであり、疑問に思ったクマくんに尋ねられても表情は崩れなかった。
「確かに元のペルソナの属性だと順平さんやユッキーとか、真田先輩と完ちゃんみたいに被っちゃっている人が多いけれど、真田先輩は弱点の氷結属性を補うために『ジャックフロスト』をつけているし、完ちゃんは弱点の風属性を防ぐスキルを持っている『ティターニア』をつけているし、なんだかんだで師匠は頼りになるからきっと問題ないよ」
総司くんが男子チームを率いている間、サブペルソナ枠は彼らの弱点を補う構成で配分されていたようだ。
「明彦が氷結属性も使えるようになっているということは、なんとか四属性は揃っているという訳か。しかし、質問の具合によってはこの迷宮を少人数で挑まなければならない事態に陥る可能性も捨てきれない。最悪、自分の気持ちとは違う選択肢を選ぶ必要があるということを皆には十分に理解していてもらいたい」
美鶴先輩がそう言うと納得したように大きく頷く者、どこ吹く風と反応しない者、そして思い人の名前を呪文のように唱え続ける少女と個人の性格が露になったのだった。
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さて、気を取り直し迷宮の探索を再開させた私たちだったのだが、せっかくなので合流した後も戦闘は男子と女子を分けている。そこで司令塔が総司くんな男子チームと私と優ちゃんが指揮する女子チームの連携の差が浮き彫りとなった。
いや、例外はあるけれど。総司くんを人間の頭脳だとすると手足の役割を果たす善くんや天田くんやクマくんの足を引っ張る形になっているのは、意外にも器用そうな花村くんである。本人も気になっているのか、しきりに総司くんやクマくんらとコミュニケーションを図っている。その様子を見て不思議そうにしているのは無論、八高の女子メンバーの優ちゃん、千枝ちゃん、白鐘さん、そしてナビのりせちゃんだ。
「らしくないですね、花村先輩にしては」
「……うん。いくら何でもおかしい」
『足を引っ張っているのがクマなら分かるけれど、花村先輩となるとなー……』
「皆もそう思うよね。総くんが指揮を執っているだけなら、花村だけがあんな風に孤立するようなことにはならないはずだし」
八高メンバー内でのカースト順位が垣間見えた気がする。彼女らの中ではクマくんは余程低い位置に座しているのか、花村くんをフォローするような声が上がっている。うちの順平とは大違いだ。
「ところで、本来のワイルドの力を持つ優さんと結城さんにお尋ねしたいのですが、貴女方はペルソナをどの程度保有することが可能だったのでしょうか?」
白鐘さんの素朴な疑問に私と優ちゃんは咄嗟に顔を見合わせ、同時に口を開く。
「「12体」」
私たちの答えは見事に揃った。その答えを聞いて千枝ちゃんや美鶴先輩なんかはふむふむと頷き、ナビ組の風花とりせちゃんの2人は感心するような声が聞こえてきたのだが、質問を投げかけた当人は腕を組んで首を傾げている。彼女の視線の先にはシャドウの撃退に成功して、ハイタッチして喜ぶ男子チームの姿があった。
「そんなに気になるなら、私が聞いてあげるよ。直人」
そう言った優ちゃんは総司くんの下へトコトコと歩いて近づいて行く。その様子を見ていた白鐘さんが優ちゃんに駆け寄り、何か耳打ちをした。優ちゃんは初め首を傾げていたが頷き、歩みを再開させ総司くんに近づいていく。
シャドウに何もさせずに倒しきって盛り上がっていた男子チームたが、優ちゃんが神妙な表情を浮かべて近づいてきたのもあり、真剣な面持ちで彼女の話を聞く。優ちゃんは事情を説明し終えたのか総司くんを伴って戻ってきた。勿論、彼を慕っている天田くんとクマくんを連れて。
「というか、天田くんはともかくクマくんは会って間もないのに、総司くんとすごく仲が良くなったよね。やっぱり初めての依頼で味方してもらったのが、効いているのかな」
「うーん。優のお兄ちゃんっていうのも効いていると思うけれど、確かにあの懐き方はないかー。あとは……餌付け?」
私がぼそりと呟いた独り言に反応したのは千枝ちゃんだった。千枝ちゃんの話によると、クマくんは花村くんの家に居候しながら八十稲羽の町に住んでいるらしい。大好物はアイスのホームランバー。キグルミ姿で働いて、花村くんのお父さんが経営しているお店のマスコットとなっているようだ。
そんな風にクマくんの日常の様子を聞いていると、白鐘さんが近づいてきて私たちに耳打ちしてきた。曰く「僕に話を合わせてください」とのこと。私と千枝ちゃんは事情が良く分からなかったものの、頷いて肯定しておく。それを見た白鐘さんは大きく深呼吸すると総司くんに向かって尋ねかける。
「すみません、総司さん。ちょっとお尋ねしたいことがあるのですが」
「うん、優から聞いているよ。何でも聞いてくださいね」
真剣な眼差しを総司くんに向ける白鐘さんに対し、彼はニコニコと微笑みを携えている。
「それでは早速。単刀直入にお尋ねしますが、総司さんが保有しているペルソナは現在何体ですか?」
「全部で12体ですね。今、つけているのは『リョウマ』ですけれど、お見せしましょうか?」
「ええ、お願いします」
私には白鐘さんの思惑が分からないけれど、現在の総司くんの戦力を把握するのにいい機会だと思って、彼らの手元を覗き見る。すると総司くんの手の中にカードがたくさん現れる。総司くんは具現化されたカードを一枚一枚、私たちに見えるようにしながら説明していく。
前の階層で毒状態になったメンバーを癒した『フェアリー』を始めとした状態異常回復スキルを得た初期のペルソナに加え、第一の迷宮の最奥にて倒すことになったF.O.Eを倒して手に入れたという『リョウマ』や強力な雷のスキルを扱える『モードレット』といったペルソナも見せてもらった。
「こうやって見てみると、兄さんが得るペルソナって独特ね。日本の英雄や妖怪は勿論だけれど、西洋の英雄や妖精も混じっているし」
「そうですね。話を聞く限り、結城さんは西洋系のペルソナ、優さんは日本に縁のあるペルソナっていう感じがありますし、総司さんは丁度その間っていう感じでしょうか」
「まぁ、結城先輩のことも優のことも知っているし、それぞれが関係しているんじゃないかな」
右手で顎を擦ってちょっとの間、思案した総司くんは自分の見解を呟く。白鐘さんはそんな総司くんの様子をじっと眺め、次の質問を口にする。
「なるほど。……では質問を変えますが、戦闘開始直後にスキルも使わずにペルソナ交換をするのは何故ですか?」
「えっと、ペルソナの中には戦闘開始直後にオートで発動スキルがあるから……。僕の場合はチーム全体の回避力と命中力があがる『マハスクカオート』というスキルを覚えたチュウコを戦闘開始時につけるようにしていますよ」
さすがに我が特別課外活動部の裏方として長い間、支援に特化してきただけある。確かにその部分が低いとダメージが増えるし、戦闘が長引くことに直結してしまうから、総司くんの方法も一理ある。というか、ここに来る前は私がそうしていたし。ただ、それは自分だけ恩恵のあるものだったので、ちょっと皆に対して負い目があるから、これは黙っておこう。
「あの一見、無駄に見えた行為もまた意味があったということですね。それに本来であれば結城さんや優さんも取れていた戦法のはずですし。……総司さんは、そのような戦闘法はどういった経験を元にして思いつき実践するに至ったのですか?」
白鐘さんの質問に総司くんは助けを求めるように視線を泳がしたが、男子メンバーはおろか私たちも助け舟を出すことができない。優ちゃんもやれやれと言いたげに首を横に振る。白鐘さんだけが首を傾げてクエスチョンマークを頭の上に浮かべていることだろう。総司くんは諦めた表情で小さく呟く。
「えっと、その……。ゲームで……」
総司くんの人となりを知る皆が、「そうだろうな」と言いたげな微妙な表情を浮かべるのであった。
さて、白鐘さんの疑問も解決したので迷宮の先に進む訳だが、ここの階層に居るF.O.Eは私たちが正面を向いていると近づいてきて横に移動したり、ムーンウォークしたりすれば微動だしないという特性を持っている。にっちもさっちもいかなくなったら扉から入りなおすと一番初めの位置まで戻る律儀さがある。総司くんじゃないけれど、F.O.Eの動きは規則性があるというよりはゲームのルールに基づいた動きに見える。うん、どうして私がF.O.Eの動きをのんびり眺めることができるのか。その理由は女子チームの前を行く、男子チームのやる気によるものである。
「この手の仕掛けがあるときは、抜け道が近くにあるのが常なんですから、ずんずん進んじゃ駄目です」
と、地図作成に手間取る私の手から皮手帳をひったくった総司くん。ここにくるまでにコツを掴んでしまったのか、指輪のモニュメントをあっさりと発見してくる天田くんとコロマル。クマくんと善くんは探索と地図作成に夢中になっている年少組2人と1匹をフォローしていて、花村くんだけがどう動こうか迷っている状況である。
「……うぅ。こういう場合、相棒だと『黙って私についてこい!』的な雰囲気だから特に考えなくても良かった。けれど総司の場合はまさに究極の協力プレイって感じなんだよな。このチームのために自分は何をするんだって明確な意思をもたないと……。やべぇ、やばいって!俺は何をしたらいいんだっ!?」
花村くんが女子チームの前で赤くなったり青くなったり百面相しながら悶えている。思い当たる節があるのか、千枝ちゃんと白鐘さんが黙り込んでしまっている。そんな中、優ちゃんだけが動き、両手で頭を抱えている花村くんの背後に立つと思い切り蹴飛ばした。呆然とする花村くんの前に仁王立ちして優ちゃんは断言する。
「うだうだ考えてないで、兄さんのところで謎解きを手伝うか、クマたちと一緒に護衛するかしなさいよ!」
「い、イエスマム!」
蹴り飛ばされて呆然としていた花村くんであったが、優ちゃんの檄を受けてクマくんたちがいる所へ走っていく。千枝ちゃんはそんなんだから駄目なんじゃないと頬を膨らませて花村くんを非難するようであったが、彼を見送ったままの状態で佇む優ちゃん。不思議に思った私は優ちゃんの隣に並んで様子を鑑みると、下唇をかみ締め何かに耐えるようにしていた。
「このやり方じゃ駄目だ……。あの頃の、自分で考えず周囲の状況に流されるままだったあの頃から、……私は成長していないじゃない。私は……わたしは……」
迷宮の床に水滴が数度に渡って落ち、小さな染みを作った。嗚咽こそ漏らさないが、優ちゃんは口元を抑え袖で何度も眼を擦って、涙を隠そうとしている。私は咄嗟に彼女の手を握って引っ張り、総司くんらがいる場所から見えない位置に移動し、文句を言おうと開口した優ちゃんの頭を胸に抱え込んだ。優ちゃんは初め、私から離れようとバタバタと暴れていたが、無駄だということが分かったのか大人しくなった。私は優ちゃんの後ろ髪を撫でながら優しく語りかける。
「優ちゃん。貴女が何に苦しんでいるのか私には分からない。けれど、だからといって泣くのは我慢しなくていいと思うよ。総司くんに泣き顔を見られたくないっていうなら私たちが壁になるから、ね!」
「…………」
優ちゃんはだらりと床に向かって伸ばしたままにしていた手を私の背中に回す。そのすぐ後だった。今まで胸のうちに秘め続けた悲哀や後悔を滲ませる様な声で優ちゃんが泣き始めたのは。