ペルソナQ ~資質ゼロだったはずの少年の物語~   作:甲斐太郎

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ごーこんきっさ編―⑦

「どうかしました?僕の格好に変なところでもあります?」

 

フードコートの机の上に用意された様々な中華料理の数々を見て、食欲旺盛なメンバーは目を輝かせ、多少なりとも料理ができる面々は圧倒的な料理の完成度に打ちひしがれる。特に八高メンバーの雪子ちゃんと千枝ちゃんとりせちゃんは用意された料理を一口食べた瞬間に背景ごと真っ白になりつつ敗北者となった。

 

ちなみに総司くんは月光館学園の制服の上に何故かジャックフロストの描かれたエプロンを身につけていた。荒垣先輩や天田くんはそれぞれ黒と黄色のエプロンであるにも関わらずにだ。

 

「いや、なんでジャックフロスト?」

 

「うん?ああ、このエプロン、エリザベスさんに貰ったんですよ。試作品の小籠包の味見を頼んだらお礼にって、無料でくれたんです」

 

「相変わらず、服のセンスは壊滅的なんだね、兄さん」

 

「え?可愛いでしょ」

 

くるりとターンを決めつつ素っ頓狂な持論を展開する総司くんであるが、私たちから見たらジャックフロストが大口を開けて迫ってきているようにしか見えないので、可愛いよりも不気味でしかない。エリザベスさんは何かジャックフロストに恨みでもあるのだろうか。保健室では首を吊らせるような形で飾ってあるし。

 

「まぁ、エプロンの話はいいじゃない。それよりも優が好きなエビチリも用意したんだからさ、熱い内に食べなよ」

 

「いや、別に私はどれが好きっていうのはないよ。……兄さんが作ってくれた料理なら何でも好きだし」

 

「そう?いやでも、早く食べないと玲さんが全部食べそうな勢いなんだよね」

 

総司くんが苦笑いを浮かべながらフードコートの一角を見る。そこには次々に料理が盛られた皿を空けていく食魔人の姿があった。あまりの食いっぷりのよさではあるが、確かに自分の分を確保しておかないとすぐに食べるものが無くなってしまうっていうのは本当みたい。

 

「あついけどおいしい。からいけどおいひい。にがいけどおいしい。つーんってくるけどおいしい。あまくておいしい……」

 

「…………」

 

善くんが寡黙な執事のようにお嬢様な玲ちゃんが淀みなく料理を食べられるようにフォローをしている光景が妙にマッチしていて何ともいえない。この世界にいるエレベーターボーイとエレベーターガールは一心不乱に中華料理を頬張り舌鼓を打っているし。

 

「ねぇねぇ、デザートはないの?」

 

「ベターな杏仁豆腐と香ばしいゴマ揚げ団子の2種類ありますよ」

 

ベルベットルーム組のマリーちゃんもいつのまにかフードコートに来ており、八高メンバーに混ざって頬張っていた様子。彼女がぽつりと呟いた一言に素早く反応したのは総司くんだった。彼に差し出されたデザートにおずおずと手を出すマリーちゃん。そして、一口食べて悶絶する彼女を微笑みながら満足そうに頷く総司くん。

 

「み、湊……?」

 

ゆかりが頬を引き攣らせながら声を掛けてくるが、私はぱくぱくと箸を動かして総司くんたちが作った料理を口に放り込む。彼女は意外なものを見るかのようにしている。するとそこに風花が寄ってきた。私の様子を見て、目を丸くしながら呟く。

 

「湊ちゃん、……もしかしてマリーちゃんに嫉妬してる?」

 

「うっさい」

 

間髪入れずに私が否定するのを見て、くすりと小さく笑みをこぼすゆかり。

 

「湊が嫉妬するって初めてじゃない?いつもは人と人の間に立つことが当たり前だし」

 

「うっさいうっさいうっさい」

 

ぱくぱくぱくぱく。

 

「別に嫉妬なんてしていないもん!」

 

ゆかりと風花はそんな風に言った私に向かってにやにやとした笑みを向けてくる。私は確保していた料理を口に詰め込むと立ち上がってフードコートを後にする。

 

優ちゃんのヘビーな話を聞いた直後だということもあり、私は1人になるために屋上に向かった。階段を駆け上がって屋上へと続く扉を開け放つ。そしてフェンスに寄りかかって霧掛かった空を見上げた。しばらくそうやって空を眺めていると扉の開く音がした。見れば優ちゃんが気まずそうに立っていた。私は彼女に向かって手招きすると、優ちゃんは小さく頷いて寄ってくる。

 

「やっぱり湊先輩は兄さんのことが気になっているんですよね」

 

「それは勿論だよ。総司くんが眠ったままだった今月初めの頃なんて生きた心地がしなかったし、変にペルソナの影響が残って多くのシャドウを呼び寄せることになった時だって、言っちゃあ悪いと思うけれど今まで大型シャドウ戦以上に全力で取り組んだつもり」

 

「確かに意気込みが違いましたもんね。……じゃあ、この世界から戻った後から10月4日までの短い期間の間に何かがあったってことですよね」

 

「そう……だね」

 

私が相槌を打つと優ちゃんは黙り込んでしまった。優ちゃんたちの現在がある以上、総司くんの死は避けられないのだろうか。総司くんが死ななければ、優ちゃんはこんな女番長で女王さまな感じには育たないだろうし、何よりも八高メンバーの様子を見る限り総司くんと関わりのある人物が事件に大きく関与しているのは間違いがなさそうだし。

 

「そういえば、さっきクマに“お仕置き”を実行してきたんですけれど、興味深いことを言っていたんですよ。聞きたいですか、湊先輩?」

 

「あはは。なんか不思議な感じだね、優ちゃん。年齢的には同い年なのに、その呼び方がしっくりとくるよ。それで興味深いことって何かな?」

 

「兄さんと善とクマと完二の4人でダンジョンに入り浸って、レベル上げしていたみたいなんですよ。F.O.Eを狩ったり、第1の迷宮の女王がいた部屋の前に陣取っている大きなカブトムシを倒したりしているって」

 

「あれぇ?それはちょっと聞き捨てならないんだけれど」

 

迷宮内では何が起こるか分からないから、もしも依頼とかで迷宮内に行くときは風花かりせちゃんのナビをつけるっていうのは暗黙の了解になっているはずなのに。私がぷくっと頬を膨らませていると優ちゃんが噴出して笑っていた。

 

「くすくす。湊先輩って、昔は明るい人なんだなって思っていたけれど、明るいんじゃなくて子供っぽかったんですね」

 

「むぅ……。優ちゃんが大人しくなりすぎなんだよ」

 

「そうみたいですね。……それと直人の推理が当たっていました。クマや完二を尋も……2人から聞きだした情報によれば、兄さんは迷宮に潜る前に言っていた12体の他にもペルソナを扱えるみたいです」

 

優ちゃんの口からまたまた物騒な言葉が聞こえてきたけれど、一端スルーする。だって、後者の方が一大事だ。

 

「ちなみに今は何体くらいいるって?」

 

「恐らく20数体かと。中にはかなり高レベルまで上げたものもあるみたいです。というかクマのレベルが私たちよりも10以上になっているって聞いたときはキグルミの中の本体に向かって刀をぶっ刺しました」

 

「うわぁ……」

 

光景がありありと浮かび上がる。しかし困ったな。総司くんがそんなにも暴走かつ隠し事をしているとは思いもよらなかった。恐らく優ちゃんの話を聞く際にポロリとクマくんが零した『無為自然』というスキルを使っているのだろうが、こういうのは現行犯で捕まえて説教しないと止めないだろう。何かいい方法はないものか、と私が悩んでいると再び屋上の扉が開く音がした。

 

「あれ?意外な組み合わせだ。結城先輩と優が並んで会話しているっていうことは……わだかまりは解けたってことかな」

 

「まぁ、そういうことかな」

 

総司くんは優ちゃんの返事を聞き、にっこりと微笑んだ。そして、ゆっくりとした足取りで屋上の隅の方へ行くと持ってきていたダンボールを組み立て、おもむろに被る。その行為を無言で見ていた私たちに総司くんはダンボール越しに告げた。

 

「僕はここにはいないです。…………」

 

総司くんの謎の行為に2人して首を傾げていると荒々しく屋上の扉が開け放たれた。そこに立っていたのは目を三角にして怒り狂うマリーちゃんとタラコ唇となった口元に手を当てて泣いているテオドアの2人。2人はキョロキョロと屋上を確認すると、踵を返して屋上から去って行った。

 

「……兄さん?」

 

「……悪気はなかったんだ。マーガレットさんに味の感想を聞いたら、『こんなもの誰でも作れる。もっと趣向を凝らしたものを持ってきなさい』って言われて、カッとなって『ブート・ジョロキア』を使って作った激辛ゴマ団子を作って渡したんだけれど、何故かばれちゃっていてさっきの2人が犠牲に……」

 

私は『ブート・ジョロキア』という単語を聞いて首を傾げていたのだが、優ちゃんは校舎に向かって十字を切った。聞けば、優ちゃんたちの時代では有名な地球で最も辛い食べ物として認知されているらしい。

 

「というか、食べ物を粗末にするなっていう兄さんにしては珍しいね。大方、マーガレットの言い方はさっきのようなものじゃなくて、もっと頭に来るようなことを言われたってことかな」

 

「……ご想像にお任せするよ」

 

そう言ってダンボールから出てきた総司くんは頬をポリポリと掻きながら私たちを見て言った。

 

「昔、僕が玲さんに会ったことがあるっていったら2人はどう思う?」

 

「「へ?」」

 

総司くんの口から飛び出した、思いもよらなかった一言は私たちの思考と凍結させるのには十分過ぎるものだった。

 

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