ペルソナQ ~資質ゼロだったはずの少年の物語~   作:甲斐太郎

27 / 37
ごーこんきっさ編―⑨

総司くんを始めとした男子数人が私たちに隠れてレベル上げとお金稼ぎをするために迷宮内に入り浸っていた事実は白日の下に晒され、月高と八高含めて最年長かつ生徒会長という座に就いている美鶴先輩の逆鱗に触れた。巽くんやクマくんは彼女のあまりの迫力に腰を抜かしていたが、総司くんと善くんはケロリとしている辺り年齢にしては肝が座り過ぎである。

 

とりあえず、決まりを守らなかった罰はごーこんきっさの攻略が済んだ後ということになったので相変わらず彼らは私たちの前で戦っている。実力を隠す必要がなくなった総司くんは優ちゃんの調べや白鐘さんの分析通り、20数体のペルソナを使ってシャドウを翻弄し、自分たちが優位になるように立ち回る。

 

総司くんの場合、ペルソナに合わせて得意な武器や戦い方が変わるらしく、剣術を使う事もあれば真田先輩のようなボクシング、荒垣先輩のような防御を捨てた攻撃など多種多様。けど、銃を片手にシャドウを跳び箱のように飛び越えたり、シャドウの群れのど真ん中でバレットダンスしたりするのは勘弁してもらいたい。そういうことに慣れていない私たちは絶叫に次ぐ絶叫で生きた心地がしないし。

 

そんなこんなで私たちは総司くんのスペックの高さに呆れつつも、エリザベスさんの依頼もこなしつつ迷宮の探索を進め最後の扉の前に立っていた。残っているのは私と総司くんと善くんと玲ちゃんの4人。私は相手が総司くんになるようにちゃんと質問の内容を聞いていたのだけれど、結局出ることは無く、善くんと玲ちゃんはお互いのことを思いすぎて質問は無視状態だった。問題なのは総司くんである。

 

総司くんは以前の屋久島旅行の際に面識の無かったマリーちゃんの名前を挙げている。加えて彼女に対する接し方が優し過ぎる。マリーちゃんから総司くんはそうでもないけれど、総司くんからマリーちゃんに対する好感度が半年近く一緒に過ごしてきた私たち並に高い気がする。もしも、総司くんの運命の相手がマリーちゃんだった場合、私はどうすればいいのだろうか。応援?それとも……

 

「――先輩?……結城先輩!」

 

「わぁっ!?え、何?」

 

見れば周りはお花畑で私の右手はしっかりと総司くんの左手とつながっている。近くには善くんと玲ちゃんペアもおり、彼らの場合は善くんの右手と玲ちゃんの左手がしっかりとつながっている。これは私の運命の相手は総司くんってことでいいのだろうか。

 

「最後の扉に触った瞬間、床が開いて僕たちは落下したんです。気付いたら手は繋いでいる状態で」

 

「リーダー。君が放心している間、玲と周囲を調べてみたが上の階層へ戻る階段はない。この道の先にある建物しか手がかりはなさそうだ」

 

善くんが左手で指差す先に何か建物らしきものが見えた。ちなみに玲ちゃんはその建物が何なのか想像がついている様子で頬を真っ赤に染めていやんいやんと身体をくねくねさせて喜びを体現しているように見える。

 

私はそっと総司くんと触れ合っている手に視線を向ける。総司くんは善くんと何やら話をしていて気付かない様子だが、私は内心で誓いなおす。ぽっと出のマリーちゃんに総司くんは渡さないと。

 

 

 

 

善くんの言った道の先にある建物に向かう途中、大きなパネルに描かれた私たちの合成写真を見つけた。タキシードを着た善くんにウエディングドレスを着た玲ちゃんがお姫さま抱っこされているものを見て、玲ちゃんは泣きながら喜んだ。善くんもまんざらでは無い様に見えたのは私の気のせいだろうか。

 

ちなみに私と総司くんのは配役が逆であった。総司くんのウエディングドレス姿が妙に似合っていたので何とも言えない。

 

スキップするほど浮かれている玲ちゃんが善くんを連れて建物、美しい白い壁で作られた教会へと足を踏み入れる。私も総司くんと手を繋いだまま彼女らに続いて教会に入ってあまりの神々しさに言葉を失った。

 

教会の奥には光を透かして色鮮やかに浮かび上がるステンドグラスが嵌め込まれている。白い羽が等間隔ごとに降って来て、青い絨毯に華を添える。

 

結婚式を挙げるならやっぱり教会式だよねと心をウキウキさせる私を余所に総司くんは周囲が気になるのか目を配っている。

 

「何か気になることでもあるの?」

 

「ええ。たぶん、シャドウ……それもハートのクイーン並の奴がいます」

 

「ハートのって……まさか!善くん、玲ちゃん!」

 

私が声を掛けるのと教会の奥に居た宣教師が振り向くのはほぼ同時だった。

 

【祈りナ・サーイ……ヒャッフゥゥゥ】

 

私たちや玲ちゃんたちを歓迎するように“4本”の腕を大きく広げる宣教師は低い声で言葉を発し、天井付近に設置された鐘近くまで飛び上がるとガランガランと荒々しく鳴らして、私たちの前に振ってきた。大きく広げた腕の先の手にはそれぞれ聖書のような厚みの本が握られている。私は咄嗟に武器を取ろうとしたのだが、慌てるような声と共に総司くんが近寄ってきた。そういえば、まだ私たちは手を繋いだままだ。

 

『やっとつながった!湊ちゃんたち、無事ですか……って、番人シャドウ!?』

 

『お姉ちゃんたちとはまだ連絡が取れないって言うのに、……解析するね!』

 

後方支援をしてくれる風花と久慈川さんの声が聞こえてくるが、通信が繋がったと思ったらすでに私たちが接敵していることに驚いたもののすぐに気を取り直して解析してくれる。しかし、私たちは片手を封じられている。どうしたものかと私が悩んでいると声が響いた。

 

【誓いナ・サーイ!病めるトキモー?Huu!健やかなるトキモー?Hoo!神ノー?御許ヘー?YOU・SHALL・DIE!!】

 

先ほどまで蕾開いた花のような満面の笑みを浮かべていた玲ちゃんは青い顔で首をふるふると小刻みに揺らし後ずさろうとする。

 

「っやだ……!こないでぇえええ!」

 

そんな玲ちゃんへと宣教師は手を伸ばし……

 

「善さん!」

 

「矢は充填済みだっ!」

 

教会内の空間を飛び交うのは今まで総司くんが使用していた刀と善くんが使っているクロスボウ。放物線を描いて飛んできたそれを手にした総司くんは狙いを定めて宣教師の額をクロスボウで撃ち抜き、善くんは柄を左手で掴むと思い切り振って鞘を投げ飛ばすとその勢いのまま、玲ちゃんへと伸ばされた宣教師の手に突き刺した。

 

「結城先輩、ペルソナを!」

 

「うん、来て!オルフェウス、アギラオ!」

 

ホルダーから外した召喚器を米神につけて引き金を引く。現れた私のペルソナであるオルフェウスが琴を奏でると総司くんが放ったクロスボウの矢付近に火炎系スキルのアギラオが着弾し小規模だが爆発を起こした。

 

【グアァァアア……】

 

4つの手で被弾した顔を押さえて私たちから距離を取る番人シャドウ。怖がる玲ちゃんに無理をさせる訳にはいかないので私は総司くんに目配せをした後、同じタイミングで走り出す。しかし、番人シャドウと私たちの間に複数の棺桶が降って来て接近を許さない。数ある棺桶の隙間の先で体勢を整えた番人シャドウが何かを言っている。

 

【―――わないと誓いナ・サーイ!】

 

「物理攻撃が無理なら、もう一発!オルフェウス、アギラオ!」

 

再び顕現したオルフェウスが火炎系の攻撃スキルを放ち、4本腕の宣教師に直撃する。しかし、先ほどと違って大したダメージが通っていないようで、宣教師の姿をした番人シャドウは腕を天高く上げつつ騒々しい大きな声で言う。

 

【導いてやる・子羊メーン!天罰デッドナウ……】

 

教会内に紫色の雲が発生したかと思うと、紫電が私目掛けて降り注ぐ。脳天から地面に向かって紫電が瞬く間も無く駆け抜ける。意識を一発で持っていかれるほど強力な一撃に視界が霞んだのだが手を繋いだままの総司くんに支えられる。

 

私の迂闊な攻撃の所為で彼にも迷惑を掛けてしまった。申し訳なく思うと同時に自分の駄目さ加減に泣きそうになったのだが、唇に何かの感触があった直後、口腔内に液体が入り込んだ。甘くも苦い微妙な味ではあったが、今にも崩れ落ちそうだった身体が楽になった。

 

「……ど、どうやらアイツはこちらの行動を縛ることができるみたいです。それを破ると今みたいなカウンター攻撃が飛んできますので気をつけてください」

 

「え……あ。う、うん」

 

総司くんの頬には朱が差し込んでいる。

 

私は無意識に左手で唇に触れる。熱い唇の感触が火花のように紫電に痺れたばかりの脳天を貫く。スキルの使用を封じられているから勿論回復スキルも使えない。だから、使える手段はアイテムだけなのだが、教会の床に転がっているのはエリザベス印の『ゲンキ一発!』と書かれたラベルの貼られた瓶のみ。

 

総司くんの右手は私の身体を支えるために使われて、霞む視界の中で唇に何か触れる感覚……ふぁああああああああああ!?」

 

『湊ちゃんっ!?どうしたのっ!!』

 

風花の私を心配する声が聞こえる気がするけれど、自分が総司くんに口移しで回復アイテムを使われたんだって理解してしまった今、落ち着くことなんてできないってば!!しかし、嬉恥ずかしいことに現在の私は総司くんと手を繋いだ状態で逃げ場が無い。

 

意識すると駄目だっ!顔がにやけて身体が火照ってくる。緊張しているって、総司くんにばれちゃう!今更な気がするけど!

 

「とりあえず、私の思いを全てぶつける!くらえ、ふぁいやーー!!」

 

ペルソナは当人の心の機微によって発揮する力が変動する。気分が沈んでいれば威力は弱まるし、心が弾んでいれば余計な威力が発揮される。今の私のように。胴体が“赤く”なったオルフェウスが力強く琴を奏でると番人シャドウを中心に焔の渦が巻き、教会の天井にある鐘をも巻き込んで立ち上っていく。ゴォォオオオ……火は勢いを増していく。

 

すると番人シャドウと私たちの間を阻んでいた棺桶のひとつも焼け落ち、中から何故か順平と雪子ちゃんとコロマルが出てきた。

 

「あっちぃいいい!?」

 

「し、死ぬかと思った……」

 

「きゅーん」

 

順平は教会内を走り回って身体を冷やそうとし、雪子ちゃんはコロマルと一緒に床でぐったりとしている。そうこうしていると火の渦は収まり、中から怒り狂った宣教師の番人シャドウが飛び出てきた。

 

【神に・逆らう・不届き子羊!そんな・奴には・誓ってもら『サクッ』ouch!】

 

「また額に命中か。筋がいいぞ、総司」

 

「あははは……」

 

クロスボウを構えた総司くんが善くんに褒められている。善くんの傍にはちゃんと幾分か落ち着いた玲ちゃんの姿もある。

 

【神の祝福デース!】

 

宣教師の番人シャドウはくるくる回って、本の中身が赤色と緑色の聖書っぽいものを差し出しながら告げる。

 

【ワタシを殴らないと誓いナ・サーイ!えばらないと誓いナ・サーイ!】

 

「とりあえず、順平さんたちは本体に炎系のスキル攻撃。結城先輩は氷系の、善さんは雷系の全体攻撃スキルを棺桶にぶつけてください。僕は風系のスキルを使います」

 

「なるほど、番人シャドウの前に置かれた棺桶の中身はここにはいない仲間たちという訳か」

 

「でもちょっと待って。順平、私の放ったスキルでダメージ受けてる?」

 

善くんと総司くんがきな臭い会話を平然とするので身震いをした私は咄嗟に召喚器を使おうとしていた順平に話を振った。すると、彼は非常に嫌そうな表情で返答する。

 

「『受けてる?』って、可愛い子ぶるなー!ヘルメスで耐性持っていてもやばかったっつーの!」

 

順平と雪子ちゃんがジと目で私を見てくる。ということは、棺桶はあくまで皆の行動を戒めるための枷でしかなく、ダメージ判定はあくまで本体のみである……と。

 

「総司くん、……皆が死んじゃうから作戦を変更しようか。ほら、やる気むんむんのクラマテングはしまいなさい」

 

そんな悠長にしていられるほど余裕はないですよとクラマテングのペルソナカードを懐に入れなおしながら言う総司くんの視線に耐えつつ、皆を出来るだけ無傷に近い形で救い出すことができるように考える。そんな私の気苦労も知らずに……

 

「閃雷」

 

残っていた棺桶全部に小さな雷撃が降り注いだ。下手人は善くん。

 

複数あった棺桶のひとつが砕け散り、中から真田先輩と優ちゃんと巽くんの3人が出てきた。3人は蒸された上に感電したようで時折ビクビクと振動している。これはゆかりがやばいなと私は内心、冷や汗が止まらない。

 

「総司のペルソナが強力で危険であるならば、私なら問題はないだろう、リーダー?」

 

いえ、問題大有りです。

 

 

 

 

宣教師の格好をした番人シャドウを倒すのは奴の言う『誓いナ・サーイ』のルールに従えば、全員揃った私たちの敵ではなかった。むしろ、私たちの攻撃で死に掛ける羽目になった仲間たちに申し訳ない気持ちになる戦いだった。

 

それぞれの属性攻撃スキルを受けないと割れない棺桶ということで私と総司くんと善くんで手分けして当てるっていうことも出来たのだが、私以外の2人はレベル上げ済みで味方を助ける為の攻撃スキルが恐ろしい威力を内包していそうなので結局、サブペルソナを使い分けつつ私だけで破壊することになった。その間、総司くんはクロスボウで番人シャドウを攻撃し、善くんは棺桶から解放された仲間と一緒に攻撃に参加したり、玲ちゃんが回復スキルを使ったりして危なげなく倒したのである。

 

「うわぁっ……兄さんのクラマテング、“疾風ブースター”に“疾風ハイブースター”の重ね掛けしてある……ってことはあの時、善じゃなくて兄さんがマハガルーラを先に放っていたら、私たちは一発で気絶コースだったっていう訳か。湊先輩、ナイスプレイ!」

 

優ちゃんは総司くんが呼び出そうとしていたクラマテングのスペックに戦慄しつつ、私にサムズアップしてくる。内容が分からなかった面々が彼女から詳しい説明を聞いて、驚愕の表情を浮かべながら総司くんを凝視している。

 

「リーダー、もうそろそろいいか?」

 

「ああ、うん。待たせてごめんね、善くん」

 

教会の奥に設置された宝箱に近づく善くん。玲ちゃんは俯きがちに震えていたが、善くんが宝箱に触れようとした瞬間に声を絞り出すように静止の声を上げた。しかし、善くんは一度手を止めただけで、意を決するように宝箱を開け放つ。

 

宝箱の中にあったのは赤い宝石のようなものがついた指輪だった。しかし、玲ちゃんはそれを忌まわしいもののように睨み付けて払いのける。指輪は教会の床を転がって総司くんの足元に。それを拾い上げて掌に乗せた総司くんの下に集まる面々。その時、遥か彼方から鐘の音が聞こえてくる。

 

「ここのじゃ……ないってことは」

 

白鐘さんが天井を見上げながら言う。そういえばこの教会には天井に鐘が設置してあったっけと見上げれば、煤で真っ黒になってしまった鐘のようなものが鎮座している。そういや私が番人シャドウごと燃やしてしまったんだっけ、と冷や汗を掻いていると鐘の音が止む。そして感情的に指輪を振り払った玲ちゃんは青い顔をしながら、善くんに指輪を払ったことを謝る。善くんも少し困惑しながら、玲ちゃんを気遣っている。

 

「善さん、これ」

 

そんな2人に近づいて善くんに拾い上げた指輪を渡す総司くん。彼が手渡した指輪はおもちゃの指輪であった。千枝ちゃんや雪子ちゃんは昔持っていたと話す。宝物だったと。玲ちゃんのあんな姿を見た直後であったため、会話が盛り上がることはなかった。そんな中、話題を変えるように荒垣先輩が善くんに声をかけた。

 

「で、善。何か思い出したか?」

 

「ああ……。私はこの世界で何かを探していた。玲が、泣いたからだ。……だが私にはその“何か”が見つけられなかった」

 

その時の悔しさを思い出したのか善くんは唇を噛み締めるように呟き拳を握り締める。そんな善くんを見て、玲ちゃんもまた何かを言いたそうにしているが口を噤んだまま、また俯いてしまう。ふと総司くんに手渡れたおもちゃの指輪に視線を落とした善くんが口を開こうとしたのだが、

 

「とりあえず、一度ヤソガミコウコウに戻りましょうよ。善さんや玲さんの記憶の混濁とかもあるだろうし、何よりお腹が空きました」

 

あっけらかんとした場違いな総司くんの一言で順平と花村くんがずっこけた。厳しい表情を浮かべていた美鶴先輩たちも肩の力が抜けたようでそれもそうかと頷く。

 

シリアスな空気はどこに行ったのかと私も深く溜息をついていると、総司くんがさっと善くんに近づいて声をかけていた。そして、何かを会話して善くんからおもちゃの指輪を預かる姿を何となく見続けるのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。