ペルソナQ ~資質ゼロだったはずの少年の物語~   作:甲斐太郎

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視点:湊→陽介


幕間―⑦ 

皆で決めた迷宮への立ち入りのルールを破ってレベル上げと資金稼ぎをしていたメンバーの主犯である総司くんに課せられた罰は、彼が扱うペルソナの力が封ぜられたカードの没収である。

 

特別課外活動部に所属する私たちは召喚器を使う事で自在にペルソナを召喚できる。

 

花村くんたち八高のメンバーは自分のペルソナが決まっているので特に発動には問題ないが、優ちゃんと総司くんの場合はペルソナの力が封じられたカードを握りつぶすという工程を挟まないとペルソナチェンジが出来ないのである。

 

「金色の縁のカードは無理みたいだけど……」

 

美鶴先輩の命で総司くんのペルソナカードは私と優ちゃんで管理することになったのだけれど、カードには2種類あることが分かった。

 

カードの縁が黒い物と金色の物だ。そのカードの縁が黒い物を手にした優ちゃんがおもむろにカードを握りつぶすと、総司くんのペルソナカードであるにも関わらず、優ちゃんのサブペルソナカードとして扱うことが出来たのである。ただし、“使用後”は本人の手元に戻るようで困惑した表情の総司くんがカードを届けに来た。

 

ちなみに『無為自然』という“使用した本人を他人に認識させなくする”スキルを持つ『ぬらりひょん』は金色の縁のカードで私たちでは扱うことが出来ない。

 

「ところで美鶴先輩。総司くんのこの罰はいつまで継続するんですか?」

 

「次の迷宮に挑むまでの間だ。少なくともホラー要素に動じない胆力を持つ鳴上をメンバーから外すというのは得策ではない」

 

「私もグロ系は苦手だからなぁ……。兄さんは嬉々として向かっていくタイプだし」

 

そう第二の迷宮であったごーこんきっさの番人シャドウを倒して戻ってきた私たちはベルベットルームにある巨大な扉を封じていた鍵のひとつが弾け飛ぶのを確認した。そして、私たちが帰ってくるまでの短い間に風花たちが次の迷宮を探しておいてくれたのである。

 

ただし、その第三の迷宮というのが『放課後悪霊クラブ』という名前の出し物が元になっているというお化け屋敷系であったのだ。それを聞いていた千枝ちゃんとゆかりの表情が凍りついたのは言うまでも無い。それと対照的であったのが天田くんと総司くんの2人であったのだ。

 

「第一の迷宮も第二の迷宮もかなり大げさになっていたから、次の迷宮もきっと絶叫して気絶してしまうような仕掛けがきっと待っていますね」

 

「なんで嬉しそうに言うかなぁ……」

 

コロコロと鈴が転がるように笑う優ちゃんにちょっと引き気味の私と美鶴先輩。だってと前置きした優ちゃんは携帯電話を操作して、件の“幽霊さん”の画像を取り出した。

 

「私は兄さんに連れられて小さい頃からこういう体験をしているから、ホラー系とかはあんまり怖くないんですよね。だから怖がっている人を見ると、もう少しいじめ……リアクションを見れるように立ち回りたいなぁと思っているだけで」

 

「優ちゃん、本音ががっちり聞こえたよ」

 

苦笑いを浮かべる私たちの前で優ちゃんはてへっと舌を出して笑う。私たちの知る天真爛漫の中学生の優ちゃんの姿がダブって見える。その姿に安心した美鶴先輩であったが、これから私たちを待ち受ける難関の前に遠い目をしながら学校の外を眺めるのであった。

 

 

 

 

第二の迷宮をクリアした俺たちは現在、医務室にいるエリザベスさんが統括している依頼をこなしつつ、装備を充実させるために第一と第二の迷宮を駆けずり回って素材やアイテムを集めている。そんな中、相棒の双子の兄でこの世界では年下となっている総司の姿が目に入った。

 

月高のリーダーや相棒が決めたルールを破ってクマたちを連れてレベル上げをしていた話は俺も聞いている。どうして声を掛けてくれなかったんだと思ったのだが、よくよく考えれば俺は相棒から過去の話を聞くまで、総司とはあまり関わらないようにしていた。

 

むしろ、この世界に来てからずっと精神的に不安定になっていた相棒にばかり気を取られて……。

 

そんな相棒も俺たちに全てを曝け出したことによって、気を取り直している。まだまだ不安定なところもあるだろうが、この不思議な世界から出る頃には今までの相棒とは違う、一回り大きく強くなった姿を見ることができるだろう。しかし、その時の俺はどうだろうと考えるようになった。

 

相棒が成長しているのに、俺が成長しないでどうするっと意気込んだところでどうにもなるわけではないが何もしないでいるよりはと考えている時、ヤソガミコウコウ内を散策する総司の姿を見つけた。

 

「よっ、総司。こんなところで何をしているんだ?」

 

「花村先輩?」

 

「なんだよ、相棒の双子ってことは元の世界じゃ同い年ってことだろ?陽介でいいって」

 

「うん、分かりまし……。いや、分かったよ、陽介」

 

総司は手に持っていた『ヤソガミコウコウ生徒会主催宝探しマップ』というものを見せてくれた。問題を解くことで座標が表示されるようになり、宝箱を開けることでアイテムを手に入れられるアクティビティに参加しているらしい。

 

「これならペルソナがなくても参加できるしね。あ、そうだ。さっきこんなのを手に入れたんだ」

 

そう言って総司がズボンのポケットから取り出して俺に手渡してくれたのは手の平サイズの黄金に輝く恵比寿像だった。手に持った瞬間にジライヤのステータスで目に見えて低い運が大分アップしたような気がする。

 

「クマにも聞いたんだけどよ、総司って知らないはずの俺たちのことを良く分かっているんだな……」

 

「そうだね、完ちゃんやちえきちたちは幼少の頃から知っているし、この世界で初めて会う陽介やクマさんのことをしっかりと見れているからかな」

 

「はぁ……マジで俺たちの時代に何故総司はいなんだ。居てくれたら、俺の苦労を分かってくれるいい関係になれたと思うのによ」

 

「あははは。そういう風に言っているけれど、実のところは苦ではないでしょ?しょうがないと思いつつ、皆のフォローをしてくれる陽介に優たちもきっと頼りにしている部分があると思うよ」

 

「そうだといいがな……っていうかマジでウチのメンバーにも総司が欲しいわー」

 

俺の気苦労を察して慰めというか元気をくれる声掛けしてくれる総司の言葉に、涙腺が刺激を受けて不意に泣きそうになった。そうこうしているとフードコートについた。総司の目的地なのかと周囲を見渡すと、相棒が月高のリーダーやマリーを初めとした女性陣とお茶会をしていた。そして、給仕係りに任命されたのか完二とクマが女性陣からキツイ駄目出しを受けつつ、肩で息をしながらがっくりと項垂れている。

 

「あれって……」

 

「エリザベスさんの依頼の中に『私も遊びたい』っていう項目があったと思う。たぶんマリーさんからの依頼じゃないかな」

 

「とりあえず、別のところに行かないか?下手に近づくと……」

 

「もう遅いよ、クマさんが「シーフ~!助けてクマーー!!」走ってくるし」

 

「マジかよ!目聡過ぎるだろ、クマ!!」

 

クマの狙いは俺ではなく総司だったようで俺はおまけ扱いで女子会が開催されているところについてくることになった。

 

美人系、クール系、可愛い系、天然系、アイドル系と多種多様な女性陣が集まって行う女子会。何の会話がなされているのか分からないが、か弱い男でしかない俺らにとっては厄介極まりない。クマや完二に取りに行かせるのに注文する内容をコロコロ変える。

 

面倒くせーと思っている俺の横で女性陣の注文を聞き終えた総司が完二とクマに指示を出し、テキパキと捌いていく。いつの間にか女性陣の飲み物の甘さ苦さの好みまで把握した総司の自信に満ち溢れた的確な指示によって、いつもではありえない動きを発揮する完二とクマの回転数だけが上がっていく。

 

女子会の給仕係という仕事を追えた彼らに与えられた報酬は女子会に参加していたメンバーに頭を撫でられるだけであったが、2人は奇声を上げて喜んでいたのでこれはこれでいいのだろう。

 

「ちょっと待ってて、陽介」

 

背中合わせに座り込んでいる完二とクマの横にキンキンに冷えたジュースを置いて戻ってきた総司はおもむろに俺にそう言うと、女子会が行われていた机の下に潜り込んでいった。そして、しばらくすると大きな宝箱を抱えて戻ってくる。

 

「こんなでけーのが足元にあったのに、相棒たちは気付かなかったのか?」

 

「うーん。どうも僕のぬらりひょんが使うスキルと同じような効果が宝箱に掛かっているみたいで皆は認識できていないみたいなんだ。その効果が切れるのが」

 

「宝探しマップの問題を解いた人間が近づいた瞬間ってことか」

 

「そういうこと。やっぱり陽介は察しがいいね。元の世界に戻ってもリーダーの優や探偵の白鐘先輩に引け目を感じることなく、自分が思っていることを積極的に発言した方がいいと思うよ。ただし、調子に乗っているときの発言は要注意だけれどね」

 

「耳が痛くなることをさらりと言うなぁ。でも少し、意識してみるよ。ありがとな、総司」

 

そんな会話をしながら総司は手に入れた大きな宝箱を開けた。

 

中に入っていたのは縁が赤色のペルソナカードが1枚だけ。

 

大きさに見合ってないと思いながら総司が手にしたカードの絵柄を見てびっくり。ペルソナカードに描かれていたのは俺と眼鏡を掛けて少し大人びた姿となった総司が背中合わせになって互いに双剣を構える姿。その下に『衝破疾風迅』というスキル名が書かれている。

 

「おぉー……何これ?」

 

首を傾げる総司の横で俺はジライヤのステータスを思い浮かべる。すると条件付であるが総司と同時攻撃が出来るようになっていた。ジライヤによれば俺が『陣風撃』を使用して、総司が『疾風系の攻撃スキル』を使うと発動し、場全体の敵に疾風属性の物理攻撃をした後で強制的にダウンさせる強力な攻撃のようだ。

 

俺は咄嗟に総司の肩を組んで引き寄せると、フードコートに設置されている屋台に向かって歩いていく。

 

「っしゃー!総司、このことは2人の秘密な!きっとこれを使う場面がきっと来るはずだからさ、その時の演出を考えようぜ!」

 

「えぇー!?ペルソナカードは全部出せって言われているから結城先輩たちに秘密にするのはちょっと勘弁して欲しいんだけど……」

 

「固いことは言うなって、大体これは俺たちのコンビ技であってペルソナカードじゃないんだから大丈夫だって」

 

「そ、それもそう……かな?」

 

とりあえず渋っていた総司の説得は済んだので、たこ焼きや焼きそばを購入した俺らは屋上に行って台詞を考える。よくよく考えれば八高のメンバーはほとんどが女子であり、後輩の完二もまたこういった馬鹿話をする相手でもなかったので、結構盛り上がったと思う。悩んでいるような表情を浮かべていた総司もまた、終盤にはノリノリで演出の練習をしていたし。

 

それだけにやはり、元の世界に総司がいないっていう事実が俺に重く圧し掛かる。

 

憧れを抱いていた小西先輩の死を目の当たりにした時とは違う、この言い表すことの出来ない気持ちに蓋をするように俺は笑顔を作り総司に接し続ける。月高の人たちが過去を変えて総司を生き永らえさせてくれることを願いながら。

 

 

 

 

総司さんに聞きたいことがあったので優さんたちに誘われて参加した女子会の後、花村先輩と行動を共にする彼の後を追って屋上に行くと2人で何かの予行練習をしていた。

 

「行くぜっ!」

 

「逃がさない!」

 

「「衝破疾風迅っ!!」

 

「あの2人とも……何をしているんですか?」

 

「「ふぁっ!?」」

 

待てども待てども終わらないので扉を開けて2人に声を掛けると飛び上がるようにして驚く。花村先輩は動悸がするのか右手で心臓を押さえ、総司さんの方はすでに落ち着きを取り戻している。

 

「なんだ、直人かよ」

 

「お疲れさまです、白鐘先輩」

 

「いえ、突然すみません。総司さんにお尋ねしたいことがあって待っていたのですが終わる気配がないので声を掛けさせてもらいました」

 

「……はい?何でしょうか」

 

花村先輩から席を外した方がいいかという目配せがあったものの僕は首を横に振った。花村先輩にも聞いていてもらいたいから。

 

「聞きたいことというのは久保美津夫という方のことです。総司さんには辛い話になりますがよろしいでしょうか?」

 

「美津夫がどうかしたんですか?」

 

当然、総司さんが尋ね返してくる。彼の隣にいる花村先輩の表情が曇ったけれど、僕の話に口を挟んでくる様子はない。

 

「久保美津夫は僕たちの世界で起きた殺人事件を模倣して、とある男性を殺した犯人なんです」

 

「……。詳しい話を聞かせてください」

 

暫く間を置いた後、総司さんは真剣な眼差しを僕や花村先輩に向けてくる。

 

僕は知り得る情報を花村先輩の補足を付け加えながら説明する。マヨナカテレビの噂、花村先輩の憧れの女性・小西沙紀さんの死、テレビの中に入るという特殊な現象、テレビの中の異世界に蔓延る怪物、テレビで有名になった人を狙った誘拐拉致監禁。優さんをはじめとする特別捜査隊の活躍でテレビの中に入れられた人の救出が続いて安堵した矢先、死者が出たこと。その犯人が久保美津夫であったこと。ただ今までのやり方と違うこともあって不審に思った僕が態とテレビで有名になった後、同様の手口でまた事件が起き、真犯人は別に居ることが分かっていること。少し簡略化した説明であったが、すべてを総司さんに伝えた。

 

「その陽介たちの担任を殺したのが美津夫だってことは分かった。虫を殺すのも躊躇うあいつがそんなことをするとは思えないけれど。ところで聞きたいことがあるんだけれどいいかな?」

 

僕たちの話をじっくりと聞いた総司さんが質問をしてくる。僕はどんな質問が来てもいいように深呼吸してまっすぐ総司さんを見据える。

 

「何でしょう?」

 

「優の下に届いたという脅迫状の内容は分かりますか?」

 

「脅迫状の内容……ですか。確か……」

 

「『コレイジョウ タスケルナ』ってカタカナで書かれていたはずだぜ」

 

僕が答える前に花村さんが言葉を挟む。今までテレビに入れて勝手に死ぬのを傍観するだけであった犯人が邪魔をされていることに気付き、特別捜査隊のリーダーである優さんに間接的に接触してきた瞬間の証拠物品である。僕も仲間に入ってすぐのことだったから、よく覚えている。

 

「第2の被害者である小西さんが4月の中旬に亡くなってから、美津夫が殺した教師を除くと10月まで傍観していた犯人がいきなり行動を起こしたっていうのは違和感があるよね。しかも、特別捜査隊を率いている優をピンポイントで特定しているし、誘拐した人を殺すのが目的ならば、救助された後も狙うのが普通でしょ?つまり、犯人の狙いは殺すことではなく、あくまで有名になってマヨナカテレビに映った人をテレビに入れること」

 

「ちょっと待ってくれ、総司。小西先輩や山野アナは実際に死んでいるんだ。テレビに入れただけで殺すつもりがなかったとは言わせな」

 

少し感情的になって身を乗り出してきた花村先輩に待ったを掛けたのは僕ではなく総司さん。

 

「陽介、僕が言いたいのはそうじゃない。どうして、優や真犯人のようにテレビに干渉できる力を持つ人間が他にいないと決め付けているんだと言っているんだ」

 

「「……。は?」」

 

総司さんの指摘は正に僕や花村先輩には青天の霹靂だった。確かにこれまでの捜査で犯人が僕たちと同じペルソナ使いであることは確実である。かといって他にも同じ能力を持った人間がいないとは言い切れないのに、僕はその可能性を切り捨てていた。

 

「僕はその山野アナと小西さんの事件と、ゆっきーや完ちゃんたちが狙われた事件はそれぞれ違った犯人によるものだと思う。脅迫状もたぶんだけど山野アナと小西さんを殺した犯人が傍観の立場でいることに飽きたから優たちを困惑させるために送りつけてきた、いやポストに投函したものと考えられる。陽介や白鐘先輩はどう思いますか?」

 

総司さんが提示した可能性の話に過ぎない考察を聞いて僕の身体は久しぶりに身体の奥底から震えた。花村先輩もまた感情的なってぶつけた言葉に考えもしなかったような切り返しをされて目を見開き、拳をぎゅっと握り締めて僕らに背中を向けた直後、大声で叫んだ。

 

「なんで俺らの世界に総司がいないんだよーーーー!!」

 

キョトンと目を丸くしている総司さんの姿を見ながら、僕もうんうんと花村先輩の意見に肯定するように大きく頷く。

 

この話は特別捜査隊のメンバー全員が認識しておく必要があるものと花村先輩と確信した僕たちは必ず場を設けることを誓うのだった。

 

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