ペルソナQ ~資質ゼロだったはずの少年の物語~   作:甲斐太郎

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放課後悪霊クラブ編―④

「さぁ、行くよー!」

 

総司くんのペルソナの攻撃によって損壊していた2-4の出し物である放課後悪霊クラブの修繕も終わったようなので、メンバーたちを率いてダンジョンに足を踏み入れると合コン喫茶と同様で階層クリアと見なされたのか、私たちの古今東西の悪霊や妖怪に変身する仕様が無くなっていた。この仕様変更に、そういうのに弱いメンバーたちは歓喜している。

 

「とはいえ、薄暗くておどろおどろしいのは、そのままかー」

 

「お化け屋敷アトラクションなのは変わりませんものね」

 

ダンジョン内はうす気味悪く、徘徊しているシャドウも修繕前と変わらない。なのに、私の心は澄み切った青空のように晴れ晴れとしており、襲い掛かろうと近寄って来るシャドウを斬っては投げ、蹴り飛ばしては投げ、八面六臂の大活躍である。ゆかりがボソッと、「湊は気分屋さんだよね」とぼやいた件はダンジョンから出た後に問い詰めようと思う。

 

「前回、総司さんが『総長モード』になった地点に到着したであります」

 

「やめてやめて」

 

「愛する者、大切な者を守るために力を発揮すること。その行為が悪いものとは私は思いませんが、総司さんは違うのでありますか?」

 

「力で相手を屈服させても、いつか溜まっていたものを爆発させる。それが屈服させた僕なら問題ないけれど、そういう輩は大抵自分よりも弱い相手を選ぶんだよ」

 

「……。なるほどなー」

 

総司くんとアイギスが会話しているのが耳に聞こえて来た。会話する総司くんは苦々しい表情を浮かべている。何らかのきっかけがあり『総長モード』を封印したけれど、ペルソナとして『ノブナガ』を手に入れたことで封印に罅が入ったのだろう。ペルソナは自分自身、いわば自分の姿を映す鏡のようなもの。心の奥底に隠し通せたと本人が思っていても、ふとした瞬間に顔を出すということなのだろう。

 

「自由にペルソナを召喚できるっていいな」

 

「確かに」

 

放課後悪霊クラブにて、狼男と牛男になっていた真田先輩と荒垣先輩が召喚器を使いながら、しみじみと会話している。ゆかりもそれに続いて頷き、古今東西の妖怪やら悪霊の姿に変身させられていたことへの不満を口にしていたのだが、3階層に足を踏み入れた瞬間、件の姿に変身することになり、何名かのメンバーが崩れ落ちた。私も例に漏れず、セクシーな淫魔の姿となった。

 

探索を進めるとFOEである「かわいいあかちゃん」に追いかけられるというハプニングがあったものの、何故か照明の下には入ることが出来ないようであり、そのギミックを使って安全な距離を確保して突破。その後も危なげなく進み、新しいFOEである日本人形の姿をしたシャドウが天井から現れたもののその場から動かないので、驚いて腰を抜かしたメンバー以外に被害は出ずに迂回することで突破できた。

 

「廃病院モチーフも定番だね」

 

「夜の学校も中々良かったけれど、寂れた病院もいいですね。シャドウもセンスあると思います!」

 

「……。なんで和気藹々としているのあそこ」

 

「ひぃっ。あ、あそこに血の跡が……」

 

ダンジョン内の様相がガラリと変わった3階層目。優ちゃんと天田くんがお化け屋敷のモチーフのひとつである廃病院あるあるを次々と口に出していく横で、ゆかりと千枝ちゃんと雪子ちゃんがビクビクと産まれたての小鹿のように震えている。私もそこまでお化け屋敷耐性がある方ではないが、総司くんへの愛が勝っているので、どこ吹く風である。その肝心の総司くんは、善くんと肩を並べて自身が持つペルソナカードのいくつかを貸し出していた。

 

病院独特の冷たさのある廊下を進む。この階層でも暗闇の部屋があり、謎解きやら鍵探しやらに取り組むことになったが、上の階層でやって来たことを奇襲を仕掛けてくるシャドウに気を付けながらやるだけなので、常に回復行動を取りながら進めば特に障害にぶつかることなく終わる。途中、天井にぶら下がる形で驚かして来るだけのFOEに接触してしまって戦闘になったが、高レベル帯の総司くんを始めとした裏でレベル上げしていたメンバーのおかげで壊滅するようなことにはならなかった。そんな彼らの活躍を見て、仲間外れにされた真田先輩と荒垣先輩が総司くんに熱い眼差しを向けている。

 

そして、現在。

 

「絶対に総司くん、こうなるって分かっていたよね!」

 

「念のためと強く言われて持たされたが、即死スキルが完全に防ぐことが出来ると分かっているのは心強い。玲にも高レベルかつ高耐久のペルソナカードを渡しているのを見た。だから、きっと大丈夫だ」

 

「先読み能力高すぎるって!本人は他のメンバーたちとどこかの部屋に閉じ込められているみたいだけど、運よく免れた私と善くんと玲ちゃんにピンポイントで自分が持っているペルソナカードを貸し出すって、こうなるって分かっていたってことじゃん。もしかして、2周目なの!?」

 

私は総司くんに貸してもらった『リョウマ』の固有スキルで斬撃と突撃の2つの属性を織り交ぜた攻撃を用いて、奇襲を仕掛けて来たシャドウを倒した。善くんは総司くんに貸し出されたペルソナカードで状態異常系はほぼ無効化されるため、回復重視で攻撃を担ってくれている。私と善くんは細い一本道で作られた足場で浮遊するシャドウの相手をしなければならないという状況に追い込まれているが、総司くんのさり気ないフォローにより対処出来ていた。その下で漆黒の闇の中を玲ちゃんがたった1人でFOEだらけの部屋を走破しなければならないこと以外は。どうやら私と善くんが歩く一本道が玲ちゃんがいる真っ暗な部屋での正解の道のようであり、ナビゲーターである風花とりせちゃんは私たちが進まないと玲ちゃんに指示が出来ないようだ。同レベル帯とはいえ、物量で押されたら2人しかいない私たちでも苦戦しそうなところであるが、総司くんが善くんに貸し出したペルソナカードは、これまでの常識を破壊する強力なスキルを有していた。

 

「リンクスキル(2)。最も近くにいる前衛と後衛のパッシブスキルを共有する。これには能力増強スキルも適用される。正に、この時のために用意されていたと思われても仕方がないな」

 

「総司くんが機転を利かせたって言えばそれだけだけど、あーもう!もやっとするなぁ」

 

私と善くんが一本道を終点まで歩き終えて、下にいる玲ちゃんとタイミングを合わせて扉を開ける。すると、謎の力によって引き離されていた総司くんを含む他のメンバーたちとあっさりと合流できた。私はにこやかに微笑みながら総司くんに近付き、リンクスキルを持っているペルソナカードを要求したが、レア物らしくて善くんに貸し出したペルソナカード以外に所持しているペルソナはいなかった。

 

「総ちゃん。ちょっといい?」

 

「玲さん、どうされました?おやつ、食べますか?」

 

「食べたいけど、今はいい。それよりも総ちゃんって……」

 

その時、トコトコとやってきた玲ちゃんが総司くんに借りていたペルソナカードを返却する際に、小声で何かを確認し始めた。結構近くにいた私や善くんにも聞こえないくらい小さな声での応酬だったが、突然総司くんがその場に崩れ落ちた。何事かと思い近寄ると、そこそこメンタルが強い総司くんが床に四つ這いとなってショックを受けていた。

 

「心に結構刺さる。昔、優と口喧嘩した際にも言われたことあるけど、他人に言われるとダメージが予想以上に大きい」

 

「ごめんね」

 

「いいんです。それを踏まえた上で、玲さんはこれからどうされますか?」

 

「もう少しだけ時間が欲しいかな」

 

「分かりました。玲さんの気持ちを尊重します。でも1人で過ごさずに、結城先輩たちや優たちと一緒に楽しい時間を送ってくださいね」

 

「ありがと」

 

そう言うと玲ちゃんは離れ離れになっていた善くんに思い切り抱き着く。彼の腕にスリスリと自分の顔を擦り付けるような仕草に、善くんはどうしたら良いのか分からずに近くにいる人たちに助力を願ったが、哀しいかな。周囲にいる人物たちに、カップルはいないのである。総司くんだけは、玲ちゃんを甘やかす方向で接するように無知な善くんを誘導していた。私はそんなことをしている総司くんを横目に優ちゃんを手招き。善くんへの指導を終えた総司くんを呼んで部屋の隅で事情聴取する。

 

「以前、屋上で言っていた『玲ちゃんと会ったことがある』って本当の話だったってこと?」

 

「まぁ、そうですね」

 

「ここが廃病院に切り替わった瞬間の玲ちゃんの様子を見るに、相当なトラウマがあるみたい。あんまり考えたくないけれど、兄さんが玲ちゃんに『想い出』を作るように促したってことはそういうことだよね?」

 

「察しが良くなったね、優。僕は嬉しいよ」

 

「兄さん。私は真面目な話をしているんだけど?」

 

「仕方がないじゃん。僕が“彼女”に会ったの、2歳の頃の話だよ!叔父さんの家に遊びに来ていた時に優が風邪をこじらせて緊急入院した時の。警察官になりたてで子育て未経験者の叔父さんと2人きりは流石にヤバいと判断した母さんが僕も連れて、優に付き添って行った病院に彼女がいたんだ」

 

私は優ちゃんと顔を見合わせて静かに頷いた。玲ちゃんはすでに現実世界において亡くなっている。そうなってくると、この世界はいったい誰がどんな目的で作り上げたのか、考察が必要になって来る。当初は私たちペルソナ使いを閉じ込めるための世界だと思われたが、テオドアやエリザベスさんが言っていたように、嵐によって人の心が乱れた結果、私たちは偶然にも巻き込まれたのではないか、と。

 

「そもそも、2歳の頃の僕は色々な意味で不安定な時期で。イヤイヤ期に突入していたこともあってか天邪鬼がピークで天元突破してて思い返したくない黒歴史状態なんだけど、彼女との出会いはいい転換になったと思うよ。まぁ、母さんに大人しくしててねって言われたから病院中のナースコールを押しまくって看護師さんたちと地獄の鬼ごっこをしている中で、彼女に話しかけられるまで存在に気付かなかったんだけど」

 

「「想像以上だった」」

 

「片やエネルギッシュな2歳児、片や風前の灯火な彼女。どう考えても水と油じゃない?最初は彼女も年上らしく窘めるだけだったんだけど、そこにいるのは天邪鬼でイヤイヤ期ピークの幼い怪獣な僕。彼女が窓の外を見て、『外に見える木の葉っぱが全部落ちる頃に私は死ぬ』みたいなことを言ったから、そのまま窓を開けて木に飛び移って葉っぱを彼女の目の前で全部引き千切ってやった」

 

「「……」」

 

「彼女はぶちキレて、ベッドから降りて窓の近くに立って僕に文句を言って来た。僕はそれに中指を立てて応戦。傍から見れば、言葉に意味なんてない感情が先走る子どもの喧嘩だったと思うけど、彼女にとっては初めての喧嘩だったらしい。ちなみに僕は飛び移った木が想像よりも高くて降りられず、ナースコールの件で般若と化した看護師さんたちに助けてもらってそのまま説教だった」

 

「私。兄さんは完璧超人で何でも出来るって思って、そこそこの期間を悩んできたのに……」

 

「これはひどい」

 

「優は3日間入院したので、僕はその間ずっと彼女と過ごしてた。ボードゲームをして負けたら盤面をひっくり返し、しりとりをやれば知識量でマウントを取られ、病院食を碌に摂れない彼女の前で当時嫌いだったピーマンを涙目になりながら食べ……。思い返せば思い返すほど、クソ野郎だな、僕」

 

「いや、そんなことないよ。きっと玲ちゃんにとって、総司くんの行為はきっと……」

 

「救いだった。たぶんだけど」

 

総司くんの独白でこの世界の核心に迫る情報を得ることが出来た。メンバーたちとどこまで話を共有するかは、後で優ちゃんとすり合わせをする必要があるが、問題となってくるのはそんな過去を持つ玲ちゃんと共に行動している善くんだ。総司くんも流石に善くんとは知り合いでも何でもないらしい。

 

私たちの神妙な様子にメンバーたちが声を掛けてくるが、詳しいことはダンジョンを攻略した後に話すと告げて、探索を再開させる。3つ目のダンジョンということで謎解きギミックも面倒で手間が掛かるものばかりだが、これまで探索に消極的だった玲ちゃんが率先して意見を出す姿に何人かが違和感を抱いたみたいだ。最も困惑しているのは善くんだけれども。

 

放課後悪霊クラブの4階層目に到着したのだが、相も変わらず出てくるFOEの「かわいいあかちゃん」。また追われるのか、と私たちはげんなりしていたが総司くんが巽くんとクマくんを誘ってFOEを迎え撃つ。戦い方は簡単だ。総司くんがFOEを弱体化させて、巽くんとサブペルソナ効果で電撃スキルが使えるクマくんが交互に攻撃してダウンさせ、FOEが態勢を崩している隙に男子メンバーたちがフルボッコにする。「いい汗かいたー」と言わんばかりに、額の汗を拭う仕草を見せる総司くんに対し、ゆかりが思わずツッコミを入れる。

 

「もしかして、最初から撃退出来てた?」

 

「僕らが『古ぼけたお人形さん』を倒していたの、岳羽先輩も見ていたじゃないですか。基本的に後から出てくるFOEの方が強いんだから、かわいいあかちゃんの方も倒せますよ。これまでは誰もかわいいあかちゃんに対して、リアクションが無かったから従っていただけで、結城先輩から『追われるの面倒だなぁ』って思念が見えたので撃退しました」

 

「雷撃スキルが弱点ってことは、俺のポリデュークスのレベル上げに使えるな」

 

「そうですね。経験値はごーこんきっさの『えんげーじキング』の方が実入りが良いんですけど、あっちは行動阻害に加えて、全体物理攻撃してくるので、倒しやすさはこっちのFOEの方が」

 

「総司」

 

「はい。何ですか、明彦先輩?」

 

「それを聞いて、俺たちが有利なFOEを相手にすると思うか?」

 

「いや、何で周回し終わった方に行くんですか?このダンジョンのかわいいあかちゃんと古ぼけた人形を倒してレベル上げして、ここのボスを倒した後に鎮座するFOEを周回するんですけど?」

 

「「「「……は?」」」」

 

同じ日本語を話しているはずなのに、意思疎通が取れずに総司くんのレベル上げ行為に参加していないメンバーたちが揃って首を傾げた。そこから白鐘さんの事情聴取が始まり、総司くんのレベル上げ行為が紐解かれて行く。各ダンジョンのボス部屋は、ボス討伐後にボスよりも強いFOEが鎮座することになる。不思議の国のアナタであれば大きなカブトムシがいて、ごーこんきっさのボス部屋には全身が金色の大きな髭付きジャックフロストみたいなFOEがいるらしい。基本的に総司くんはクリアしたダンジョンに再突入してFOEを倒し、ボス部屋に出現するボスよりも強力なFOEを討伐、一旦階層を昇降しなおして再出現させたFOEを討伐するというのを繰り返すらしい。

 

「そんなのをナビの私たちに黙ってやっていたんですか?(#^ω^)」

 

「完二、クマ。そのダンジョンから出たら話があるの。(# ゚Д゚)」

 

話を静かに聞いていた風花とりせちゃんの怒気が籠った声が脳内に響く。巽くんとクマくんが震えあがっているところを見るに、相当な虎の尾を踏んだ模様。個人的な通信に切り替わったので、主犯格の総司くんに矛先が向いていると思うのだが、彼自身はどこ吹く風とダメージが一切なさそうだ。

 

「しかし、一つ目のダンジョンに出てくるカブトムシ型のシャドウも相当な強さだったが、あれに連なるFOEを何度も倒してレベル上げか。鳴上が連れて行ったメンバーたちの急成長の意味が分かったな」

 

「それを私たち全員でしない意味が分かんないんだけど」

 

「それはクマね、ゆかりちゃん。師父(シーフー)曰く、大抵の人は作業だから飽きるらしいクマ。ボスと違って、FOEには行動パターンがあるクマ。弱点を受けてダウンした後にどんな行動を取るのか決まってるから、火力を出せるようになって、短い時間で倒せるように安定してくると飽きるようになるらしいクマ。クマたちは、そんなこと思っている暇は無いクマけどね」

 

「総長は自分が所有するペルソナを最終スキルを取得するまで周回し続けるからな。それは俺たちに貸し出すサブペルソナも例外じゃない。普段は姉御たちが気遣ってタケミカヅチの弱点を消すサブペルソナを持たせてくれるけど、俺たちが慣れて来たと判断したら総長はむしろ、ハイリスクハイリターン性能のペルソナ持たしてくるっす。タケミカヅチよりも弱点が多いものを持たされた時は……死ぬかと思った」

 

「あと人数が少ない時の方が経験値の配分が高くなるクマ」

 

「なるほど。効率を求めると少ない人数で、数を回す方がリターンが多くなる訳ですね。山岸先輩や久慈川さんを頼らないのは、彼女たちも経験値配分の対象になってしまうからですか」

 

「総長曰く、レベルがカンストすれば、自分に入る分だった経験値がそのまま他のメンバーや所持ペルソナに分配されるから、少人数でっていう縛りは無くなるらしいっす」

 

巽くんの話を聞いて、レベルのカンストが視野に入るくらいに達しているってことなのかなと思って私と優ちゃんが総司くんを見るとにこやかな笑みを浮かべて手を振って来た。違う、そうじゃない。そんなこんなありながらも放課後悪霊クラブの探索を進め、私たちは血のように赤いランプが点灯し、不安を煽る手術中文字が躍るボス部屋の前に辿り着いた。

 

 

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