ペルソナQ ~資質ゼロだったはずの少年の物語~   作:甲斐太郎

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放課後悪霊クラブ編―⑤

3階層と4階層が廃病院モチーフだったこともあり予想付いていたことだが、放課後悪霊クラブのボスは緑色の手術着を身に纏う医者らしきシャドウと色違いのナース服を着た看護師姿のシャドウが2体。医者は何故か抜歯用の巨大なペンチらしき器具を持ち、2体の看護師は巨大な注射器を抱えている。

 

「ボスの名称は『優しいドクター』、『おとなしいナース』、『世話好きなナース』の3体のようです。アナライズは失敗しました。再度、集中してみます。それまでの間、皆さん気を付けてください」

 

「風花が解析に失敗って、今までそんなこと無かったよね?」

 

「一筋縄ではいかないということか。総員、油断するなよ!」

 

桐条先輩の掛け声を聞いてか、おとなしいナースが私たちの方を見る。肌は白く、まつ毛まで綺麗に整えられているが、鼻の上辺りまで隠したマスクと奈落のようにどす黒い瞳が私たちの恐怖心を駆り立てる。

 

『お注射しましょうねぇ』

 

おとなしいナースが注射器の針を床に刺すと同時にボス部屋に薄紫色の煙が漂い始める。後方でドサドサと倒れる音が聞こえて来たので振り向くと、何人かのメンバーが床に崩れ落ちていた。寝息が聞こえて来たので即死スキルではないことは確かだけれども。1層目のボスは雑魚を無限に呼び出して、2層目は仲間たちを人質に取った上に盾代わりにして、今回のボスは状態異常を押し付けてくるなんて、性格が悪すぎる。

 

「結城先輩、睡眠無効か状態異常耐性持ちのペルソナ、人数分ありますか?」

 

「睡眠無効が2体しかない。耐性持ちも1体だけ」

 

「起こせるメンバーに制限か。優を起こして僕が持っている睡眠耐性のアクセサリーを持たせるので、起きている内に睡眠無効のペルソナを渡してください。戦闘メンバーは結城先輩と優、善さんと玲さんを固定で。眠ったメンバーの守護は僕がするんで、結城先輩たちはボスとの戦いに集中してください。善さんと玲さんは結城先輩と優の回復優先で」

 

「分かった」

 

「うん、まかせてっ!」

 

総司くんの指示に善くんと玲ちゃんがすぐに動き出す。総司くんは、片膝を付いて眠りこけていた優ちゃんの目の前でパチンと手を叩くと、くらっとしながらであるが彼女が飛び起きる。総司くんが「麻酔の煙」と短く告げながら、優ちゃんに小さな鏡のアクセサリーを持たせるのを見届けていると、もう1体の世話好きなナースが注射器に入った液体を天井に向かって散布し始めた。

 

『少し大人しくしていてちょうだい』

 

薄水色の煙が部屋の中を満たしていく。その効果はボスたちの能力の解析に勤しむ風花の横で頑張っていたナビゲーターを務めるりせちゃんによって明らかにされる。

 

「皆、気を付けて。攻撃、防御、素早さと命中が2段階ずつ下がっているよ!」

 

「ということは……」

 

残った『優しいドクター』の役割を察した私は苦笑いを浮かべる。何ていうことはない、手に持った巨大なペンチを振り回すだけで、弱体化した敵を倒せるのだから、求められるのは圧倒的な攻撃力。優しいドクターは眠りこけているメンバーを見据えてゆっくりとした歩みで動き始めている。むざむざと殴られるのを見届ける訳には行かないから、私たちは優しいドクターを攻撃しようとした。が、

 

「サポート役のどっちかが回復役のはず!優先順位はそっちが先!」

 

「総司、どちらが可能性が高い?」

 

「ピンク色のおとなしいナース、最悪は2体共!下手したら蘇生スキルを持っているかもしれないから、体力調整が必須かも!というか、機械の身体なのに寝るな!」

 

「おおうっ!?であります」

 

ボス部屋に鈍い音が響いたかと思えば、総司くんの蹴りで起こされたアイギスが周囲を確認し、彼からペルソナカードを受け取り戦線に復帰しようとして、優しいドクターのターゲットにされているメンバーの移動を言い渡されて、しょんぼりとしている。その時、結構な精神力を使ってアナライズを実行していた風花より、おとなしいナースの弱点が明かされた。

 

「お待たせしました。おとなしいナースは光と闇に耐性がありますが、氷属性が弱点です。続いて世話好きなナースのアナライズを実行します。戦闘のサポートはりせちゃんにお任せします!」

 

「分かってる!皆、大船に乗った気持ちでいてよね!って、優しいドクターが溜めに入った!広範囲攻撃が来る!」

 

「アイギスさん、皆を僕の後ろに!力の見せ所だよ、『ベンケイ』!」

 

総司くんが優ちゃんや千枝ちゃんたちと同じようにカードを握り潰す仕草を見せる。握り潰されたカードは光の粒子となって、総司くんの背後にペルソナを模っていく。現れたのはいつか見た白頭巾を被った巨体を持つペルソナ。優ちゃんが召喚する『義経』の家来である『武蔵坊弁慶』が顕現する。主を守るためにその身を犠牲にした『弁慶立ち往生』は歴史に名を遺しているくらい有名である。だが、総司くんは優しいドクターの攻撃をそのまま受けるつもりは毛頭ないらしく、攻撃力を飛躍的に増加させるチャージを唱えている。眠ってしまったメンバーたちを護ると言ったのは総司くんだ。優しいドクターは総司くんとアイギスに任せて、私たちはおとなしいナースと世話好きなナースをどうにかするしかない。

 

闇雲に攻撃するだけではナースたちは倒せない。総司くんの最悪の想定が当たって、どちらのナースも回復スキルを使用してきた。途中、優ちゃんが提案した方法を取ることにして私は善くんと共に世話好きなナースを集中して攻撃する。途中でお世話好きなナースのアナライズを終えた風花の報告が入った直後、目の前にいた世話好きなナースが私たちへの攻撃を中断して回復スキルをおとなしいナースに打った。そこでりせちゃんによる戦闘解析報告が入る。

 

「同レベル帯のシャドウに対してお姉ちゃんの通常攻撃は60前後のダメージが入る。現在は攻撃力が2段階下げられた状態だから、3分の1になっていると仮定。お姉ちゃんの65回の攻撃の後に回復が入ったってことは、1300くらいがおとなしいナースのボーダーライン。倒されるギリギリで回復するのはリスクしかないから、残っている体力は2割か3割だと思う」

 

「世話好きなナースも似たようなものかな?」

 

「多分そうかもしれないけれど、シビアだね。片方の回復行動を封じながら20回くらい攻撃するか、弱点スキルで倍のダメージを狙うしかない」

 

「我々のスキルは弱体化の影響で雀の涙ほどのダメージしか通らない。これが桐条や天城だったら、違うのだが」

 

「皆さんにお知らせです。優しいドクターの弱点が分かりました。風属性のようです。それと、湊ちゃんと優ちゃんに総司くんから質問です。睡眠耐性のペルソナの数が少ないのは分かりましたが、毒耐性の防具やアクセサリー、ペルソナはメンバー分はありますか?」

 

「なくもないけど……」

 

「それならば、早急に付け替えをするようにしてください。ただし、湊ちゃんたちはそのままです。キツイと思いますが回復で凌ぐようにしてくださいね。寝ちゃったら元も子もないので」

 

「なるほど、敵が部屋全体に眠りと弱体化の煙を充満させるなら、こっちは毒を撒き散らすってことね」

 

私と優ちゃんが振り向いて総司くんとアイギスを見ると、左手がぐちゃぐちゃに折れている上に、頭から流血して月光館学園の制服を真っ赤に染めた彼がいた。アイギスも身体のあちこちをスパークさせつつ、優しいドクターの攻撃をいなしている。優ちゃんが召喚器を取り出して『ヨシツネ』を召喚しようとするのを私は咄嗟に止める。するにしても、おとなしいナースと世話好きなナースの体力をギリギリまで削った後だ。

 

「湊先輩っ!」

 

「優ちゃん、堪えて!」

 

大好きな兄を喪ったことがある優ちゃんは、犬歯剥き出しの怒気を漂わせて、爆発寸前の爆弾みたいな気配を漂わせていたが、総司くんの高笑いを聞いて、キョトン顔を浮かべる。高笑いの発生源を見れば、流血してハイになっているのか、総司くんはエリザベス印の回復薬を飲み干して瓶を投げた後、綺麗に再生した左腕を大きく振るいながらペルソナを召喚し、風属性スキルで優しいドクターを切り刻んでいる。

 

「はーっはっはっはー!温いぞ、ドクターっ!見ろっ、“俺”はまだピンピンしているぞ!『フウジン』、もう一発ガルダインだっ!」

 

「いつの間にか、総長モードに突入してる。ペルソナも風神雷神のあれですよね、湊先輩」

 

「この世界に来て、総司くんの色んな顔を見れたのは嬉しいんだけどさ。普段は『命大事に』な総司くんが好戦的になると同時に『絡み手?防御?はっ、知らないな!ガンガン行こうぜ』になるのはいただけないんだけど」

 

総司くんの総長モードを見て冷静になった優ちゃんと一緒にナースたちの相手をしつつ、強制的に眠らされているメンバーたちの防具やアクセサリーを毒耐性があるものに変更していく。準備を終えたことを私が風花に伝えると、総長モードの総司くんがギアを上げた。そして、優しいドクターに対して風属性スキルを叩き込んでいた『フウジン』の固有スキルを発動させる。

 

『黄気土湿(おうきどしつ)』という言葉が聞こえて来たが、風花によると造語らしい。風神が黄色い息を吐いて厄害をもたらす、邪神・疫病神としての一面を持つ風神から来ているのだろうとは、文学少女な風花の意見である。うん、私たちナースと戦闘しているメンバーは睡眠耐性のアクセサリーやペルソナを外せないので、状態異常無効のサブペルソナを持たされた善くん以外は、モロに影響を受けている。

 

「呼吸する度、吐血する程の猛毒なんですけどっ!?体感だけど、4分の1持っていかれてる気がする!」

 

「ナースたちも藻搔き苦しんでる。というか、優しいドクターも毒耐性がないみたい。……うっ、ごぱぁっ!?」

 

「生命の杯!ごぷっ。生命の杯!ごぽぉ。生命の杯!ごぶろばぁっ!?」

 

「玲、無理をするな。私に貸し出されている『アサシン』を君に渡そう」

 

「いいよ、善。今、最高に生きてるって感じがするから。だから、だいじょう……おろろろろろ」

 

「玲っ!?」

 

その後、ボス部屋にいて毒耐性のない私たちは総司くんのフウジンが垂れ流す猛毒の息によるスリップダメージを受け続け、戦略をミスした者から倒れて行った。つまり、毒耐性のない優しいドクターの回復を優先したナースたちが毒に苦しみながら消滅して行ったのである。それはつまり、強制的に眠らされて、弱体化していたメンバーたちが目を覚ますことに繋がる。そして、目を覚ましたメンバーが真っ先に目撃するのは高笑いしながら優しいドクターを切り刻む総長モードの総司くんで、その後に吐血しながら弱った私たちだ。素早く状況を察した桐条先輩たちが弱っていた優しいドクターを介錯し、戦闘は終了。ハイになっていた総司くんも流血し過ぎた結果、優しいドクターの消失を見届けた後に気絶。それに併せてフウジンも消えたので、猛毒の息も消えた。

 

「あー。やっぱりー」

 

「玲。見るのが辛いなら、私がそれを持とう」

 

「ううん。いいよ、これは私の物だから」

 

ボスが消滅した後、部屋の中にあった大きな宝箱を締め付けていた鎖が弾け飛んだ。宝箱の中に入っていたのは、一房の髪の束。事情を理解出来ないメンバーたちは首を傾げているが、玲ちゃんがそれを自分のポーチに入れたのを見て、数人が察したようだ。その後、ベルベットルームの鎖が動き出したことを聞いた私たちはカエレールを使ってダンジョンの外に出る。皆でまとまってベルベットルームへ向かう途中、急に服の裾を引っ張られたので振り向くと玲ちゃんがいた。

 

「あの、リーダー。ウサギの人形と玩具の指輪、今は誰が持っているか分かるかな?」

 

「多分、総司くんが持っていると思うよ」

 

「分かった。総ちゃんが起きたら聞いてみるね。ありがと」

 

雰囲気が変わった玲ちゃんの後ろ姿を見送ると、善くんが彼女の変わりように困惑した様子で私にその原因を尋ねて来た。いずれ玲ちゃんから説明があるよ、とだけを伝えて私はベルベットルームへと向かう。残された善くんは、悔しそうな表情を浮かべながら私たちの後に続いてベルベットルームへと足を踏み入れた。

 

ベルベットルームの中央に鎮座する大きな2つの扉。ここに来た時は4つの色がついた鎖で雁字搦めになっていたが、その鎖も残り一つだけ。そのタイミングで気絶していた総司くんが目覚めたので、解散することになったのだが、ダンジョン内で濁した件を聞きたいとほとんどのメンバーが残った。いなくなったのは、善くんとデートすると言ってベルベットルームから出て行った玲ちゃんたちだけ。真剣な眼差しを向けてくるメンバーたちに、私はこれまでに得た情報を慎重に取捨選択しながら話した。

 

 

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