ペルソナQ ~資質ゼロだったはずの少年の物語~   作:甲斐太郎

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アナタ編―①から書き直しています。


不思議の国のアナタ編―②

エリザベスさんが担当する保健室に運び込まれたコロマルを除いた特別課外活動部の面々の治療費は合計で1800円。現実世界においては大した金額ではないが、この世界においてはちょっと問題のある金額だった。何せ、私たちは売れる物を何も持っていない上に無一文だったためだ。

 

その所為で無傷であったコロマルと善くんと玲ちゃん、そしてペルソナ能力に目覚めたばかりの総司くんの3人と1匹のパーティーで不思議の国のアナタの迷宮に挑むこととなった。私たちの治療費を稼ぐために。

 

ゆかりや美鶴先輩なんかは自身の無力さを嘆きながら、天井をじっと眺めてながら待つ他に方法がなかった。

 

 

 

■■■

 

総司くんたちが3回くらい迷宮に籠ってシャドウを倒して素材を集め、テオドアに売るという作業を繰り返し、エリザベスさんに治療費をきっちり払い終えてくれたので、毒々しく変貌した保健室からやっと解放された。その後、私たちは作戦会議も含めて、フードコーナーへ移動する。

 

「……ペルソナの弱体化は予想していなかったな」

 

美鶴先輩がそう呟くと、皆がウンウンと頷いて同意する。とはいえ、ペルソナ自体はまた鍛えればいいだけの話なので、そこまで問題ではない。ここで重要なのは私たちを全滅寸前まで追い込んだ、あの巨体のシャドウクラスの敵がうろついているのかどうかである。あんなものが普通に出てきたら、毎回こんな目に遭うのだ。億劫にもなる。

 

「総司、中の様子はどうだった?」

 

「あの大きな奴は見かけませんね。とはいっても入り口付近で寄ってくるシャドウを狩っていただけなので、断言はできませんけれど」

 

順平が振った話しにちゃんとした答えを述べる総司くん。

 

私たちを全滅に追いやったシャドウを1人で撃破した彼の能力がこれからの肝になりそうだと思っていたら、総司くんは罰が悪そうな表情を浮かべながら話し始める。

 

「えっと、僕の能力なんですけれど。複数のペルソナを交代して戦うことができます。ただ、現在所有するペルソナは火の魔法スキルを持つ『キジムナー』と氷の魔法スキルを持つ『フェアリー』だけなんですよね」

 

あはは……と苦笑いしながら告げる総司くん。どうやら、そう簡単には進ませてくれないらしい。

 

総司くんは器用貧乏と言っていいのか、使用する武器にこだわりはない。なのでメンバーに組み込もうと思ったら、足りていないなという武器を持たせてメンバーにいれることが可能だ。今は2体しか保有していないペルソナも、もしかしたら戦いの中で得て行くかもしれないのでそう悲観することではないと思う。

 

それとは別に問題がひとつある。それは迷宮のマッピングが出来ないこと。

 

これの解決策は善くんから齎された。善くんが持っていた“皮表紙のノート”に地図を私が書きこむことによって、何故だか分からないけれど風花のルキアも地図を見れるようになったのだ。

 

「で、地図を書きこみつつ全員で先に進む訳ですけれど、これからは先行する班と後方で待機する班に分けようと思います。緊急事態が起きた時は全員でふるぼっこします。今回はレベル上げということで、後方には治療費集めに奮闘しつつレベルを上げた総司くん、コロマル、善くんと玲ちゃんに詰めてもらいます。残りはローテーションしつつ、レベル上げです」

 

治療費集めという名目で総司くんらが集めた素材によってテオドアが新しい武器や防具、道具を作ったので出来る限り装備を新調した私たちはいざ、不思議の国のアナタの迷宮に足を踏み入れる。

 

『んー……この出し物はとっても広いみたいです。構造も複雑そう……タルタロスと随分違うみたいで、地形やシャドウの詳細な位置までは分からないです。すみません……』

 

風花の気落ちするような声が響く。それを聞いた美鶴先輩が頷き、私を見てくる。というよりも私が所持しているノートをだけれど。

 

『それと……皆さんが最初に戦ったシャドウと同じ反応がちらほらとあります』

 

「ウゥ~……」

 

「リベンジマッチと行きたいが、……今は無理だな」

 

コロマルは威嚇するような唸り声を上げたが、真田先輩はいつものように強者との戦いに燃えるような発言はせずに自身の拳を握ったり開いたりしていて調子が悪そうだ。

 

『他にいるシャドウとは違って、とりわけ強そうなので、区別して呼びますね。えっと……』

 

「フューシス・オイケイン・エイドロン」

 

「……何だと?」

 

善くんが突然言い出した言葉に疑問を投げかける美鶴先輩だったが、善くんは聞き取れなかったものと思い、先ほどよりも大きな声で繰り返す。

 

「フューシス・オイケイン・エイドロン」

 

「2回言われても!つかどーいう意味だよ」

 

順平のツッコミはごもっともだった。私やゆかりもそうだが、英語に強いはずの美鶴先輩も首を傾げていることから結構難しい言葉のようだ。順平に分かるはずもない。

 

「そのままだが?」

 

善くんは何を言われているのか分からないと言いたげに首を傾げた。これじゃあ埒が明かないなと思っていたら、天田くんが隣にいた総司くんに尋ねていた。

 

「どういう意味なんでしょうか?」

 

「えっと……。フューシスが『自然』、オイケインは『住む』、エイドロンは『幻影や幽霊』を指すから、『そこにいる幻影』って意味なんじゃないかな」

 

「総司さんって、物知りですよね」

 

天田くんは尊敬の眼差しで総司くんを見ている。総司くんは後頭部を掻きながら照れるように顔を背けている。ほほう、『そこにいる幻影』とな。言い得て妙だ。

 

「……まあいい、それを使わせてもらおう。略称は“F.O.E”でいいな。」

 

『“F.O.E”ですね、分かりました。このF.O.Eですが、おそらく今の皆さんでは勝てる相手ではありません。見た目で分かると思いますから無理せず避けてください』

 

風花の忠告に真田先輩が俯く。彼の本心では回避や逃走は認めることは出来ないが、現在の戦力を鑑みるに無理を犯すのは愚の骨頂だと思っているのかいないのか。口を噤み反論することもない。

 

『では皆さん、気をつけて行ってきてくださいね。私も頑張ってバックアップしますから!』

 

私たちは周囲に警戒しながら迷宮を先に進み始めた。

 

 

 

 

私たちが再び迷宮に挑んで最初に戦ったシャドウとの戦いを終え、思ったのはただひとつ。

 

「「「弱っ!!」」」

 

現れたのは臆病のマーヤ2体と笑うテーブルが1体。タルタロスでお馴染みの敵であったが巨体のシャドウのインパクトが強すぎて、全力で戦ったら一撃で消滅した。これには拍子抜けで、思わず皆で苦笑いをしてしまったほどだ。戦いの後に残された素材の他に落ちていた白紙のカードも回収しつつ、私たちは先に進む。

 

前回引き返した扉を通り抜けると正面に大きな時計が見えた。美鶴先輩は何かに気になったようだけれど、何も仕掛けのようなものも見当たらなかったので、私は地図上に“?”と書き込んで先に進む。美鶴先輩は名残惜しそうにそれを見ていた。

 

途中で見つけた宝箱から『命のベルト』という装備アクセサリーを回収しつつ先に進むと、先ほど“?”を記した所の反対側に来た。

 

「全員、止まってくれ!」

 

美鶴先輩は私が持つ地図を覗き込んで、私が書きこんだ印を見て頷く。

 

「この壁の時計は先ほどの壁にあったものと同じだ。各自地図を見てくれ」

 

美鶴先輩がそう言うためメンバーの皆が地図を見て、目の前の時計を凝視する。美鶴先輩も腕を組んでどうしたものかと考え込んでいる。

 

「やはり先ほどの壁の反対側か。なにか仕掛けがあるのかもしれない。ここは慎重に調査を……」

 

美鶴先輩が時計を見つつ考え込んでいる横で、順平が何かを発見する。

 

「おっ?スイッチはっけ~ん!」

 

「ま、待て!伊織!」

 

「あひゃ!?」

 

順平がスイッチのようなものを押した瞬間、一瞬だけ視界が暗くなったが身体には何も異常はない。だが、ふと顔を上げると視界に映るものが変わっていた。

 

「……あれ?」

 

周囲の状況を見るに先ほど通った場所に出たようだ。美鶴先輩も同じ考えなのか頷く。

 

「とすると、この時計は【通り抜けが出来る仕掛けの目印】ということか」

 

「仕掛けは向こう側にしかないんすかね?」

 

順平の疑問を聞き、時計を調べる美鶴先輩。するとすぐに結論に達したようだ。

 

「いや、どうやらこちらからも通れるようになったようだ。一度仕掛けを発動させれば両側から通れるんだろう」

 

「おおー。便利っすねー」

 

「感心している場合か、まったく!慎重にと言った傍から……。いいか、ここはシャドウの巣窟だ。今後はもっと慎重に進むんだ」

 

「ス、スイマセン」

 

美鶴先輩の窘めるような説教に面目ないと頭を下げる順平。だが、美鶴先輩もひとつ見落としている部分がある。

 

「後続がいませんね、美鶴先輩」

 

私の指摘にようやく気付いた美鶴先輩は周囲を見渡し、声を荒げる。

 

「何?……鳴上・アイギス・天田・コロマル・善と玲はどこだ!?」

 

「せんぱーい、こっち側です」

 

壁を挟んだ向こう側から総司くんの声が聞こえてくる。こちら側にいるのが私、順平、ゆかり、美鶴先輩、真田先輩、荒垣さんの6人なので、この仕掛けで通れる最大人数は6人なのかもしれない。

 

「下手したら戦力が分断される危険性もあるのか。気をつけなければならないな。湊、この仕掛けのことは地図に書いておいた方がいいだろう。使用する際は周囲の状況に注意するのも忘れずにな」

 

「はい!」

 

私たちは時計のスイッチに触れ、総司くんらがいる所に戻る。

 

 

 

 

そして次の扉をくぐると、私たちが初めて戦ったものと同じ姿のシャドウがいた。私は思わず身構え、他のメンバーも戦闘態勢を取るが一向に襲いかかってこない。

 

私たちが首を傾げていると総司くんと善くんとアイギスが前に出て、冷静に相手の動きを見る。

 

「なんだか動きがおかしいですね」

 

「そうだな」

 

「確かに戦闘態勢を取ろうとしないばかりか、こちらに興味を示さないであります」

 

『そう言われれば……』

 

3人の分析にバックアップの風花も加わる。私たちも構えていた武器を降ろし、しばらく相手の動きを見る。するとあのシャドウが結構規則的に動いていることが分かる。決められた場所をメリーゴーランドのように回っているような……。

 

「うん、ホントだね。あそこの池の周り、なんかあるのかな?」

 

ゆかりがそう言うと、コロマルが吼える。それを聞いたアイギスが翻訳して代わりに告げる。

 

「“あそこはF.O.Eの縄張りだ。進入してアイツに突撃すれば、容赦なく襲われる”……とコロマルさんが警戒しています」

 

「お……おう。さすが、縄張り争いの世界に生きてるだけあんな……」

 

「それなら、やっこさんの動きを読んで避けられるってことだな。……アイツらみたいに」

 

語尾を濁した荒垣さんの言葉を聞いて、その場にいたメンバーが巨体のシャドウ、F.O.Eに視線を向けると総司くんと天田くんの2人が後ろをついて歩いていた。真後ろにいるにも関わらず、自分たちに興味を持たないF.O.Eを背後から指差して笑っている。

 

「「「って、何やってんのー!!」」」

 

私とゆかりと美鶴先輩の声が重なって響き渡る。しかし、そんな声にも興味を抱かないF.O.Eは相変わらず池の周りをぐるぐる歩き回っている。ちなみに総司くんと天田くんはF.O.Eの縄張りからすでに向こう側に抜けており、私たちに手を振っている。

 

「……とりあえず、オレたちも行こうぜ、湊っち」

 

「うぅ、どんなに大人びていても総司くんも天田くんも子供なんだよね」

 

私たちはタイミングを見計らってF.O.Eの縄張りを抜け総司くんたちと合流した後、先に進む。

 

その途中、天田くんが下層に降りる為の階段を見つける。どうやらこの迷宮はタルタロスとは違い、下に向かって進む必要があるようだ。風花からの報告で下層にもシャドウはいるらしいことが分かった。

 

その後も周囲を警戒しながら進むんで行くと、今までとちょっと雰囲気の違う場所に出た。というか、

 

「な、何これ?地面が光ってんだけど……」

 

「オーラじゃね?スピリチュアル的なアレ」

 

ゆかりと順平が光っている場所に入らないで何か話をしているが、興味を持ったアイギスが意見を言う。

 

「パワースポットと呼ばれる霊場でありますね。“ゴリヤク”なるものをもらうため、主に女性が集う観光地であります」

 

「そーそー!アイちゃん、良く知ってんじゃん?」

 

「それとここは違うと思うけど……って、二度目はないから」

 

順平の意見にため息をついていたゆかりであったが、光る地面の所に入ってしゃがみこんでいる総司くんと天田くんを見て首を横に振った。私たちは身体に害はないのかを尋ねるもどうということはないとのこと。代わりに何かアイテムを見つけたようだ。

 

『それ!シャドウを倒した時に落とす“欠片”と同じ気配を発しているようです。テオさんに渡して見れば、装備や消耗品にしてくれるかも!』

 

私は風花のナビ―ゲートの声を聞きながら、アイテムを自分のバックに入れようとした総司くんの肩をしっかりと握る。そして、彼が手に入れたアイテムを全て没収した後、ここを後にする。

 

途中、虚言のアブルリーという初見のシャドウが襲いかかってきたものの難なく撃退でき問題なかったが、玲ちゃんがシャドウのその形状を見て一言。

 

「あれだけ口が大きかったら、色んな物をいっぱい食べれそう」

 

という発言にそれはどうなんだろうという雰囲気が漂う。善くんはそうだなと軽く流すし。

 

そんなことを思っていたら行き止まりに行ってしまっていた。引き返そうとしたら玲ちゃんが床に落ちていた小さな箱を見つけた。派手な色彩で善くんは警戒した方がいいと言う。風花に尋ねるも特に怪しい気配はしないとのこと。

 

そんな中、順平が前に出てきてその箱を持ちあげる。そして、マジックボックスだと呼称して、玲ちゃんが持っていたアメリカンドッグを入れると箱をぐるりと回して、箱を開けながら言う。

 

「じゃーん、美味しくなるのでしたー」

 

「わーい!2本に増えてるー!」

 

順平としては場を和ませようとしたのかもしれないけれど、それは順平の思惑とは違う方向に働いた。何せ、玲ちゃんのアメリカンドッグが2本に増えていたからだ。玲ちゃんは大喜びし、両手に1本ずつもって頬張る。

 

「……へ?」

 

順平は首を傾げながらその箱を置く。ゆかりや他の皆から向けられる視線にどう答えればいいのか分からない順平はマジシャンイオーリと名乗ったのだった。私は傷薬を箱に入れて、数度振ってから開ける。傷薬は2個に増えていた。

 

次の扉を開けるとそこには階段と大きな宝箱があった。階段はここまで来る途中で見たものに間違いがなさそうだが、気になるのはこの大きな宝箱。今まで通路にあった宝箱と同様、簡単に開くだろうと思われていたそれは開かなかった。男3人が力を入れるもビクともしない。加えて鍵穴がない代わりに地図の様なものが描かれている。

 

「結城先輩、ちょっと地図を貸してもらっていいですか?」

 

総司くんがそう言うので快く貸すと、彼はペンを持ってすらすらと何かを書きこんでいく。そして、その地図を宝箱の地図の様なものが書かれているところに押しつけると、鍵の開く音がした。

 

総司くんはすることが終わったのか、私に地図を返し大きな宝箱の前に座らせる。宝箱に手を掛けると何の抵抗もなく、開ける事が出来た。中身をメンバーで覗き見ると入っていたのは小さな光る石であった。

 

なんだろうと思って、ぎゅっと握りしめると淡い光を放つ。その光は戦闘で体力の減っていた身体にしみわたり力となる。どうやら回復アイテムのようだ。しかも傷薬と違って使用しても無くならない様子。私はそれをいつでも使える様に制服のポケットに入れ、階段を降りるのだった。

 




平成28年1月21日追記

~総司のペルソナリスト~

赤 有馬さま案
太陽キジムナー レベル2

耐性 火
弱点 氷

使用スキル
アギ、スクカジャ(3)、ソニックパンチ(4)、マハラギ(6)、アギラオ(8)、

※定番の低レベル帯のペルソナたち第一号さんです。


女教皇フェアリー レベル3

耐性 風
弱点 斬

使用スキル
ブフ、ディア(4)、ポズムディ(5)、スクンダ(6)

※これはP3でいうアプサラスポジなペルソナですね。
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