ペルソナQ ~資質ゼロだったはずの少年の物語~   作:甲斐太郎

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不思議の国のアナタ編―③

階段を降りると周囲の雰囲気が変わった。壁は紫色の葉をつける木々に変わり空には黒い雲がかかっているように見える。

 

「先ほどの階で終わり、とは行かないようだな」

 

美鶴先輩が腕を組みながら呟いた。とはいっても落胆している様子はない。むしろ当然と思っていたように周囲の様子を調べ始める。そんな中、善くんと玲ちゃんが互いを気遣うような発言をして場を和ませる?

 

「……玲、大丈夫か?」

 

「……うん!みんながいるし、善もいるから怖いけど、平気だよ」

 

「それは良かったであります」

 

アイギスが微笑みながら玲ちゃんに言うと、彼女は自分の手を胸に当てつつ話し始める。

 

「あのね、この場所、ずっと気になっていたんだけど、怖かったんだ。みんながいるから、入れてね、すっごく楽しいよ。ありがとう!ございます!」

 

まっすぐな気持ちをそのまま言葉にして言い切った玲ちゃんに、私たちはそれぞれ大きく頷いて返事としたのだが、1人だけ浮かない表情を浮かべる者がいる。善くんだ。彼は玲ちゃんとは真逆に眉を顰め浮かない顔をしている。

 

「…………」

 

「善?どうしたの?どっか痛い?」

 

「違う。……よく分からない」

 

玲ちゃんの質問に自分でも要領を得ないのか首を横に振って、不安を口にする。

 

「玲、私と共にいてくれるか?」

 

「うん、もちろん!」

 

玲ちゃんはそんな善くんの問いに笑顔で答える。私は微笑ましいものと見ていたが、天田くんには居た堪れないもの、順平は元の世界にいる女の子を思い出し惚気て、ゆかりはそれを適当にあしらう。

 

『玲ちゃんも善くんも、早くここから出して上げられるといいですね』

 

「ワン!」

 

「だね。ふふ、コロマルも張り切ってる」

 

風花の言葉に賛成するように鳴いたコロマルの頭を撫でながらゆかりも頷いたが、美鶴先輩の発言を聞いて表情を曇らせる。

 

「あくまで最優先は、我々が出ることだ。それを忘れるな」

 

「……あ、はい」

 

急に沈黙が降りた。

 

 

 

「そ、そういえば、玲ちゃんも善くんも、ペルソナで戦わないよね」

 

「ぺるそな……。ああ、君達の“心の力”のことか。そうだな、私と玲には使えないようだ」

 

「シャドウと戦えるのはペルソナ使いだけってきいていたけど……」

 

「こんなシャドウが出るとこにいたんだし、テキオーしたって感じなんかね?」

 

「そんなこと……あるのかな」

 

ゆかりが空気を変えようと話題に上げたのは善くんと玲ちゃんのペルソナ事情。ゆかりの言うとおり、私たちはシャドウに対抗できるのはペルソナ使いだけだと思って戦ってきた。確かにこんな特殊な条件下なのだから、順平の言うように適応したっていうのもなくもない話ではあるがすっきりとしない。

 

そんな会話を行っているゆかりと順平に近づいて行く美鶴先輩とアイギス。

 

「この場所自体がイレギュラーだ。正常や異常の区別すら難しい。この体験はいい研究内容になるだろう。……無事に帰れたら、な」

 

「異常ということなら、リーダーと総司さんのペルソナについても同じことが言えるであります。変幻自在に多数のペルソナを操るリーダーが、こちらに来てからオルフェウスしか召喚していませんし、総司さんは迷宮に入る前に言っていた2体に加え、光属性の即死攻撃スキルを持つ『スネコスリ』を召喚出来るようになっているであります」

 

「それはそうだけど……というか、総司くんはいつの間に」

 

私は後ろの方で天田くんや荒垣さんたちと会話している総司くんの様子を見る。先行班と後続班に分かれても結局は戦闘を行う他に方法がないのなら、2つに分けて行動する意味もないのだけれど。

 

「君も他の力を喚べるのか?」

 

善くんが質問してくるが、そんなの私だって知りたい訳で。

 

「何故、今は喚べない?」

 

善くんに言われ、再度ペルソナを確認するも、そもそも“オルフェウス”以外のペルソナを持っていない。手元にあるのはシャドウを倒した時に得た“白紙のカード”があるだけだが……。

 

「“白紙のカード”……?」

 

私がそれを持って悩んでいると荒垣さんが様子を見に来て呟く。そして、数瞬思考した後、とある提案を行う。それはベルベットルームの住人であるエリザベスやテオドアに相談してみればいいのではないかということ。

 

「そうだな……もしこの先もリーダーがペルソナを付け替えられないとしたら、戦力に大きな痛手だ。さすがにペルソナに目覚めたばかりの鳴上を戦闘の中心に置く訳にはいかないし、厳しい戦いになる前に、一度ベルベットルームで話を聞きたいな」

 

「分かりました。すぐに戻りましょう」

 

私はそう言うとテオドアのお店で購入したカエレールを取り出す。

 

「使い方は忍者が煙幕を張るみたいに、こうっ!」

 

私がカエレールを床に叩きつけると閃光が私たちを包み込み、次の瞬間には不思議の国のアナタの迷宮の入り口に飛ばされていた。テオドアも便利な道具を作ってくれたと思う。おかげで帰りの心配をする必要が無くて助かる。

 

さて、迷宮から戻ったことだし白紙のカードのことや新しいペルソナが手に入らないことについて聞きに行かないと。そう思いつつ、私は皆を引き連れてベルベットルームへ向かう。

 

「ここがベルベットルーム。……?あの2枚の扉は何でしょうか」

 

「それが分からないのです。ご覧の通り、鍵が掛っているので奥を確かめようもございません。無意味な事は起こらないこの場所……。いずれその役割が私どもの前に現れてくることでしょう」

 

アイギスの質問に答えるエリザベスさんもここで何が起こっているのかを完全には把握できていない様子。彼女に聞いても埒があかないと判断した美鶴先輩は私たちよりも先に閉じ込められていた善くんと玲ちゃんに尋ねる。

 

「……善、玲。君たちはこの扉を知っているか?」

 

「んー、知らない」

 

「分からない……。が、おそらく、君達の場所に繋がっている」

 

君達の場所に繋がっている。つまり、この扉の先には元の世界があるかもしれないということ。

 

「出口と言うことか?何故分かる?」

 

「君達が来るまで、この小屋自体が存在しなかった。だからここは、君達の場所であり、そこにある扉は君達の扉だと……。そんな気がするだけだ。確証はない……忘れてくれ」

 

「…………」

 

美鶴先輩は扉に近づくとノブを回し、扉を開けようとしてみるが4つの鍵に阻まれ開けることはできない。

 

「やはり、開かないか。今は放っておくしかないようだな」

 

腕を組んだまま思考に耽ってしまった美鶴先輩を見て、アイギスが一歩前に出る。そして、エリザベスさんを見ながら告げる。

 

「では、本題に入らせていただきます。我らがリーダーが新しいペルソナを入手出来ていないのはどういう了見か聞きに来たであります」

 

「まぁ……何故でしょう?」

 

エリザベスさんの切り返しに私たちはずっこける。ゆかりや順平は「今の間はなんだ」と文句を言っているが、この切り返しを予想していた総司くんや天田くんたちは苦笑いしながら事の成り行きを見ている。

 

「こっちのセリフでございます」

 

アイギスなんかはエリザベスさんのセリフの真似をして返すくらいだ。順平が後方で小さく口調がうつっていることをツッコムが誰も指摘しようとしない。

 

「では、それほど慣れてはおりませんが、少々観てみることにいたしましょう。そちらへお座りください」

 

私はエリザベスさんに言われるまま、ソファに座った。自分の右隣にはゆかり、左隣にはペルソナ能力に目覚めたばかりの総司くんが座らされる。

 

エリザベスさんは私たちの前にタロットカードを慣れた手つきで広げる。このタロットカードは私たちの定めを観る為のものらしい。そう言って彼女はテーブルの上に20枚ほどのカードを広げた。

 

そして、私の目の前のードを1枚めくった。

 

「“塔”……?」

 

エリザベスさんはめくったカードを凝視している。私はそんな彼女を見ながら、ここにはいない少女のことを思い浮かべた。どうして総司くんがここにいて、優ちゃんはいないのか。もしかして、これにも何か意味があるのではないか。

 

「な、何なの?」

 

「分かりません」

 

「……は?」

 

ゆかりがカードを凝視したまましゃべらない彼女に尋ねると返ってきたのは意味を為さない言葉。意味が分からないよとゆかりは私を見てくる。

 

「カードの絵……アルカナは多様な解釈ができるもの」

 

エリザベスさんは塔のカードを手に取り、皆に見える様に顔の横に持ちながら言う。

 

「今は“塔”が出たことではなく、“愚者”が出なかったことが重要な意味を持っております」

 

「愚者?……バカモノってこと?」

 

エリザベスさんの話を聞いた順平がそんな失礼なことを言ってのける。それを否定するようにエリザベスさんがすぐに訂正をいれる。

 

「いいえ。“愚者”は数字の0……“始まり”そして“無限の可能性”を意味するアルカナ。その意味の通り、お客人は多数のペルソナを自在に使いこなしていらっしゃる。私共はその能力を“ワイルド”と呼んでおります」

 

「ワイルド……」

 

「ですが、この場所の影響でしょうか、本来の“ワイルド”の力は形を変えている様子」

 

ゆかりの呟きに答える様にエリザベスさんは自分の分析結果を話す。そして、私をまっすぐ見ながら彼女はそのまま言葉を続ける。

 

「あなた自身の“オルフェウス”はここで外すことはできないようです」

 

「付け替えが出来ない……ということか?それでは、戦力に大きな痛手だがこの際、仕方がないか」

 

美鶴先輩が私を気遣うようにそんな言葉を掛けてくれた。しかし、エリザベスさんの話はまだ終わっていなかった。私のワイルドの力は失われた訳ではないと断言したのだ。

 

「まさしく“無限の可能性”……。こんなことって」

 

「ど、どういうこと?」

 

とは言ってもエリザベスさんにとってもこれは予想だしなかったことなのか戸惑いを感じられる。その戸惑う姿に不安を覚えたゆかりが尋ねる。

 

「付け替えられないペルソナの“他に”、“もう1体のペルソナを付けられる”ようなのです。そしてその“もう1体”はご自由に召喚できる。つまり、付け替えが可能のよう……」

 

「同時に2体……ですか!?」

 

風花が驚きの声を上げる。確かにペルソナを2体同時に召喚出来れば、付け替えられないペルソナがあるとはいえ、戦略が大いに広が

 

「ただし、付け替え可能な1体の方は本来の力を発揮できず、補助的な役割と捉えた方が宜しいかと。“オルフェウス”が“メイン”とすると付け替え可能なペルソナは“サブ”……。その2体を同時につけていられる。そうお考えになるといいでしょう」

 

らなかった。そんな甘い話しある訳ないかと大きくため息をつく横で、順平が驚愕の表情を浮かべながら言う。

 

「“ワイルド”すげーな……」

 

「そして、もしや……。少々お待ち下さい」

 

エリザベスさんは、テーブルの上に20枚ほどのカードを再び広げた。そして、ゆかりの目の前のカードを1枚めくる。めくられたカードは『愚者』。

 

「“愚者”……こんなことが……」

 

「え、え、何?私もワイルドとか……ハハ、まさかね」

 

「岳羽ゆかり様だけではありません。鳴上総司様以外の全員に“愚者”の加護が出ていらっしゃいます」

 

「へっ?」

 

「おろ?」

 

私の両隣に座った2人から別々の意味の声が聞こえた。

 

「全員に……?」

 

「ご自分のペルソナを“メイン”とし、付け替え可能なペルソナを“サブ”として、同時につける。皆様方にも、それが可能なようでございます」

 

「2体って、なんか信じられないです。けど、強くなった気がしますね!」

 

天田くんが率直な気持ちを言葉にすると、特別課外活動部の面々はそれぞれ頷いた。けれどそれを告げたエリザベスさんと左隣に座る総司くんはそこはかとなく不安そうだ。

 

「ですがこんなイレギュラー……何故?“愚者”の力が強まったような……。まるでワイルドがもうお一方いらっしゃるよう。まさか、この2枚の扉の片方は……」

 

「ワイルドがもう1人……?それは総司さんではないのですか?」

 

アイギスがそんな質問をするとエリザベスさんは首を横に振った。だけれど迷宮内で見たペルソナの付け替える能力は本物だった。扱うペルソナは弱い物ばかりだったけれど、私も戦いはじめた頃はあんなものだったし。

 

「鳴上総司様のペルソナに関しては、私共の管轄外。触れることも観ることも叶いません。もちろんお客人の手助けとしてのサポートもすることができません」

 

皆はサポートと聞いて首を傾げているが、私には意味が分かった。総司くんはペルソナを合体することもペルソナ全書からも好きなペルソナを購入し召喚することもできないのだということを。彼は手に入れたペルソナを地道にレベル上げしていくか、消滅させて入れ替えて行く他に方法がないのだ。それではかなり制限がついてしまう。

 

しょんぼりと項垂れる総司くんを見て話題を変えた方が良いと判断した私は周囲を見渡す。すると善くんの横で話を聞いていた玲ちゃんが『とたたっ』とエリザベスさんの近くに駆け寄ってきて尋ねる。

 

「わたしも善も、ペルソナ使える?」

 

私たちの話を聞いていて、もしかしたらという希望を抱いて尋ねた玲ちゃんであったが現実は無情であった。

 

「……失礼いたしました。善様と玲様はペルソナをそもそもお持ちでないので不可能かと」

 

「そっかー……。ペルソナ、かっこいいのになぁ」

 

玲ちゃんはそんなことを呟きながら定位置である善くんの横までトボトボ歩いて帰っていく。代わりに美鶴先輩が前に出てくる。

 

「善と玲がペルソナを持っていないのはどういうことだ?シャドウと戦うのには必須ではないのか?」

 

「……それはおそらく、この場所自体の謎と深く関わることではないでしょうか。ここは“狭間の地”。意識の深いところにそっとたゆたう浮島のような場所。本来、生身の人間がいるような場所ではありません。そこにいらしたのであれば……例えば、ペルソナやシャドウといった存在と同一化したのかも」

 

「善くんたちがペルソナ!?」

 

「ペルソナやシャドウが自我を持つなんて聞いたことが無い!」

 

「あくまでも私の仮説……でございます」

 

「だが……。まぁ、今は何も分からないか」

 

「では、皆さまこれはお持ちですか?」

 

エリザベスさんはそう言って白紙のカードを取り出した。私はこれまでのシャドウとの戦いで得ていたカードを鞄の中から取り出すと机の上に置いてエリザベスさんに手渡す。エリザベスさんが力を籠めると、白紙だったカードに絵柄が徐々に浮き上がっていく。そして、ついには白紙のカードたちはそれぞれペルソナへと変化した。

 

『剛毅ザントマン』

『魔術師アガシオン』

『法王アンズー』

『恋愛ピクシー』

『刑死者コロポックル』

 

レベルは2~3で弱いけれど、組み合わせ次第では使える物になると思われる。話が済んだので作戦会議を行うことになり、皆がベルベットルームを後にしていく。

 

私も立ち上がって皆の後を追おうとした時、エリザベスさんに呼びとめられた。

 

「お客様、先ほどは本人がいたため説明するのが躊躇われましたが、貴女さましかいないこの場で警告をさせていただきます。お気をつけなさいませ、鳴上総司様は危険です」

 

「危険?どういう意味ですか?」

 

「彼のアルカナは愚者……いえ、“逆位置の世界”に固定されています。様々な解釈が出来ますが、『何か避けられない運命を変える為に、自らの命を終わらせ、その人生を捧げる覚悟を持たれている』ようです。この世界で少しでも彼のありようを変えられるように行動された方がよろしいかと思われます」

 

そういうとエリザベスさんもベルベットルームを後にして、私だけが残される。

 

「総司くん……」

 

私はしばらくの間、そこで立ち尽くすことしかできなかった。

 




平成28年1月21日追記

~総司のペルソナリスト~

paluさま案
正義スネコスリ レベル4

耐性 光 闇
弱点 斬 打

使用スキル
ハマ、ディア(5)、パトラ(6)、かみつき(8)、メディア(10)、メパトラ(12)

※P4が日本神話を基にしたペルソナが多いということで、本作においてはスネコスリのような妖怪もばっちこいです。ちなみにスネコスリは岡山の妖怪みたいですよ。
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