ペルソナQ ~資質ゼロだったはずの少年の物語~ 作:甲斐太郎
ベルベットルームから出た私たちは作戦会議をするためにフードコーナーに移動する。
白紙のカードからペルソナへと変化したのは5枚。私はじっくりと能力を見て首を傾げる。元の世界で得る事の出来たペルソナの能力とスキルが違うためだ。
「アンズーとピクシーはともかく、ザントマンとアガシオンとコロポックルのこれは……」
私の呟きにメンバーの視線が集まる。私は情報共有するため、ザントマンが書かれたカードを持って説明する。
「例えば剛毅ザントマンですけど、レベルは3でHPをやや上げます。そしてスキルには壊属性の小ダメージに加え中確率で睡眠効果を与える『まどろみパンチ』と非戦闘時に周囲にある宝箱の位置を地図上に表示する『財宝ハンター』というものを持っています」
私が皆の様子を見ると腕を組んで眉を顰めたり、隣にいる人と話をしたりして、あまり要領を得ていない様子だ。ただ順平、総司くん、天田くんの3人は元の世界で慣れ親しんだ“ゲーム”の経験が生きているのか、メンバーで唯一納得するように頷いている。
「メインペルソナが持っていない属性攻撃を持つサブペルソナをつけて、あらゆる局面に対応できるようにするっていうのが基本的な行動になりますね」
「そうだなー。元々回復スキルを持つゆかりっちに、回復スキルを持つサブペルソナを持たせても重複するだけで無駄だしな」
「それと同じで各属性魔法スキルを持つサブペルソナは、その属性魔法スキルを持たない人に持たせるのがいいと思います」
きっと意見を言ったのが順平だけだったなら、『ゲームと一緒にするなー』ってツッコミが入ったのだろうけれど、総司くんと天田くんも加わるとこんなにも説得力がある。
「じゃあ、とりあえずお試しで先行する班のメンバーがそれぞれ持って戦ってみようか。5枚しかないから善くんと玲ちゃんは入ってもらうとして……レベルの低い順で順平、ゆかり、天田くん、総司くんは持てないからパス。えっと美鶴先輩お願いします」
「…………」orz
四つ這いで落ち込む少年の姿が見えるが、ここは置いておくとして集まってきたメンバーの前にペルソナカードを置き、先ほどの意見を念頭に振り分けて行く。とはいっても選択肢はそれほど多くはないのであまり悩むことはない。
「じゃあ、順平がザントマン。アガシオンはゆかり。アンズーは美鶴先輩で、ピクシーは天田くんに持ってもらおうかな。コロポックルは私……いや、風花がつけてみて?」
「え、私がですか?」
風花は首を傾げながらも私からペルソナカードを受け取る。すると予想通りサブペルソナの恩恵を受ける事ができたようだ。それを見た真田先輩や荒垣さんが色々工夫する必要がありそうだと言っている。
「湊さんはサブペルソナをつけなくてもいいんですか?」
天田くんが心配して声を掛けてきてくれたが、今までなくてもどうにかなっていたので問題ないよと自信を見せる様に胸を張る。すると椅子が傾き転びそうになった。それをゆかりに指摘されて気付いたが、シャドウの素材を入れていた鞄がそこそこ膨れているので、不思議の国のアナタに再度潜る前に、テオドアの店『てづくりこ~ぼ~』に寄ることにしたのだった。
■■■
装備とアイテムを調達した後、再び迷宮に挑戦することになったのだが……。
「つーか、またあそこまで歩かないといけないのか。だりーなー」
順平が手を頭の後ろで組みながらそう言った。確かにゲームであれば『最終到達階から始める』というご都合主義理論が使えるが、私たちにとっては現実。そう甘い話はない。私はさっさと諦めて地図を見る。
「えっと階段がある所までの最短ルートは……って、あれっ!?」
私は思わず地図を凝視する。私が前回書いた地図はお世辞にも見やすいものではなかった。通り抜けることが出来る壁には“?”マークを置いたり、F.O.Eが歩く所に“⇒”を書いたりしてごちゃごちゃとしていた。途中で地図を確認した美鶴先輩が「前衛的なナニカだな」と呆れていたように、とても見れたものじゃなかったのに。
「もしかして、総司くん。宝箱を開ける為に何か書きこんでいたけれど、君がやったの?」
「ええ、まぁ。他の皆さんも見るんだし、見やすい方がいいと思って。それと結城先輩、階段のところに行くなら、F.O.Eがいる部屋の手前のここを通り抜けるとすぐですよ」
総司くんが地図上のとある場所を指差すと確かに“⇔”のマークが浮かび上がっており、通れるようになっていることが分かる。私は宝箱と階段に目が奪われて、見落としていたが誰かが通れるようにしておいてくれたらしい。
「一応、私が書くけど。また後で綺麗に書き直してもらってもいい?」
「そのくらいお安いご用ですよ」
総司くんはそう言うと真田先輩や荒垣さんがいるところに下がっていった。私はその後ろ姿を見送った後、先行するメンバーを率いて迷宮内を進む。サブペルソナの恩恵によって得た、自分のペルソナが持ちえないスキルを使った面々はむず痒そうな表情を浮かべながらも使いこなしている。ふと後続メンバーが気になって振りかえるとあちらもシャドウと戦っていた。サブペルソナを持たない後方メンバーだが、多種多様なペルソナを操る総司くんを戦いの軸にすることで危なげなく戦うことが出来ている。
F.O.Eがいる部屋の前の壁を通り抜けて階段の前の部屋で後続を待つとすぐに彼らも来た。そして、先頭にいたアイギスが私に近づいてきてカードを2枚渡してくる。どうやらシャドウとの戦いで得たらしい。新しく加わったペルソナは『愚者スライム』と『隠者アズミ』の2体。
「……スライムの方は致命傷を受けても耐え切る『食いしばり』と敵を毒状態にする『ポイズマ』を持っている。アズミの方は氷属性のブフと倒した敵の素材入手確立を上げる『豊漁祈願』か」
ちなみにスライムの絵面を見た人にはデザイン的に不評のようで私がつけることになり、アズミの方は後方メンバーで氷結属性になにかと因縁のある真田先輩につけてもらうことになった。
迷宮の第2層に降りたが、特に変化はなく。私たちは周囲を警戒しながら先に進む。総司くん率いる後方メンバーは私たちが先に行くのを確認しつつ周囲の探索を行っている。敵シャドウの種類も変わらないようなので、今の所はなんの支障もない。
たまに扉の先にシャドウが待ち構えていたりするものの、風花のバックアップによってそれが分かるので先制攻撃を仕掛けられることもなく、私たちは冷静に対処出来ている。そして、シャドウのいない広い空間に入ったところで順平がだらしなく座りこんだ。
「ハァ……けっこー歩いたっすね。ちっと休んで行きません?」
「なんだ、この程度でヘバるなんてだらしないな。身体が鈍っているんじゃないのか?」
「もう少し、普段から運動をされるべきだと思いますよ。順平さん」
そんな順平の姿を見て、真田先輩や天田くんといった後からやってきたメンバーが口々に言って行く。順平がぶーたれながら、同意を求めるような声を上げる。
「えー、絶対オレだけじゃないっすよ。ね?玲ちゃん。ねー?」
「あ、はい!おなかは当然すいてます!」
「それでは、食欲を刺激しそうなこちらの場所で、少々の休憩を提案するであります」
そう言うアイギスの言葉に従って周囲を見渡すと大きなお菓子のようなものが、壁に飾りつけられている。それを見たゆかりが、
「確かに美味しそうだけど、さすがに食べれないよね?」
「このザラつく手触り、漂うインク臭……。ずばり、パルプ100%であります!」
「そっかー、ぱるぷか!」
アイギスが手に持ったタルトを模ったソレを見て、嬉しそうに言う玲ちゃんに私は咄嗟に制止するように声を掛けようとしたのだが、一歩遅かった。玲ちゃんは唖然とする私たちの前で、その“手作りタルト”の端を口に含み咀嚼し始めた。
「はむはむ。うん、不思議な触感のお菓子だね。ぱるぷって……うえっ」
「紙だよ紙!!」
「誰か水を持ってない!?」
ゆかりの慌てる声に気付いた総司くんが鞄の中から何故かペットボトルに入ったウーロン茶を取り出し、キャップを開け玲ちゃんに持たせる。玲ちゃんは渡されたウーロン茶をごくごくと飲み干していく。
「なるほど……いくらリアルとはいえ、ここは童話本の世界。当然、周りも無機物ということか」
美鶴先輩は冷静に状況分析をしているが、そもそもここは“ヤソガミコウコウ”の文化祭の出し物のひとつ。手作り感があるのも、元々が人が作ったものをベースにしてシャドウの力が加わり迷宮化したものなのではないだろうか。それならば、飾り付けにああいった紙で作ったお菓子を壁に張っていたとしてもおかしくはない。
「でも、食べられなくて良かったかも。これがマジのお菓子だったら、体重やばいどころじゃないし」
「ゆかちゃん、お菓子嫌いなの?」
「ゆ、ゆかちゃん?なんか……カワイイな。お菓子は好きだよ、女子ですし。玲ちゃんはそれだけ食べててよく太んないね」
ゆかりがそう言うと異次元ポケットから取り出したタコ焼きをほっぽり出して、玲ちゃんは善くんに向き直って慌てたように尋ねる。
「太る……善、わたし太った?」
「変わらない」
「なんだぁー」
善くんの返答を聞いてしょんぼりとした言葉を呟いた玲ちゃんは、ポケットからフランクフルトを取り出すと頬張った。まだ食べますか……。
「残念なのか……うぅ……うらやましい」
太らない体質な玲ちゃんを見て、美味しいご飯やデザートが出される日常で、部活で汗を流したり、タルタロスでシャドウを相手に戦って汗を流したりして、必死になって体型を維持している女の子代表が悔しそうに彼女を見ている。
そんな中、メンバーで唯一の小学生である天田くんが素朴な疑問を玲ちゃんにぶつける。
「玲さんは、嫌いな食べ物とかないんですか?苦いピーマンとか、苦いコーヒーとか」
「うーん……ぱるぷ」
「食べ物じゃないです……」
天田くんはなんだかガッカリした雰囲気で目線を下に向ける。そんな天田くんの横で総司くんがメモをとっているがそれは意味のない代物となった。何せ、玲ちゃんは……
「味がある食べ物なら、何でも好きです!」
「範囲広すぎだ」
荒垣さんがツッコンだように嫌いなものなど存在しないと言い切ったのだから。腕を組んで話を聞いていた真田先輩が指を鳴らして、玲ちゃんにとあるものを手渡す。
「わぁ、これケーキ?」
玲ちゃんに手渡されたそれは一見すると棒状のお菓子だが、私たちが知る真田先輩がそんなお洒落なものを持ち歩いているはずがない。そんな確信めいたことを思っていると案の定、それはプロテインバーであった。玲ちゃんは真田先輩に促されるまま、それを口にする。
「……ん~、粉っぽい!おいひい!!」
「これ1本で、なんとタンパク質が20グラム以上補給できる。摂取すると、体中に力がみなぎり、血沸き肉躍る魔法の食べ物だ」
「摂取すると、体中に力がみなぎり血したたる肉が焼き放題の踊り食いする魔法の食べ物!?」
玲ちゃんの盛大な聞き間違いに順平とゆかりが噴き出した。ちなみに真田先輩の偏ったプロテイン知識を正すため、タンパク質を効率よく吸収するために必要な必須アミノ酸を多く含む食品について、総司くんが天田くんとアイギスと風花に説明している。
私は視線を玲ちゃんたちに戻す。すると真田先輩がジェスチャーをしながら熱く語っているところだった。
「ああ、そうだ!鍛錬すれば、いずれ熊だって素手で倒せるようになるぞ」
「熊を素手で?……本当か?」
玲ちゃんの隣で話を聞いていた善くんも興味を抱いた様に少し反応した。その様子を見かね、荒垣さんが話に加わる。
「いい加減にしろ、アキ。こいつら本気で信じるだろ」
「嘘を言ったか?」
「素手で熊を倒せるまでプロテイン食う気か?この脳筋バカが」
「おい……今、バカと言ったか?」
荒垣さんの余計なひと言に険悪な雰囲気になった2人は広場の中央で眼を飛ばしあう。それを見た順平とゆかりが話している。
「2人になると急にガキっぽくなるよな、あのヒトら……。昔からあんななんかね?」
「知らないって……。桐条先輩に任せておけばいいなんじゃない?」
彼らの話題に上がった美鶴先輩の姿を探そうと周囲を見渡そうとすると善くんが話しかけて来た。
「湊。結局、プロテ……とやらを摂取すると、どうなるんだ?」
私は真田先輩の話に、総司くんが説明していた必須アミノ酸の話を加え、筋肉を効率よくつけるのに有効であることを話す。話を聞いていた善くんは良く分かったと感謝の言葉を述べてきて、ゆかりからも合格点をもらう。
ちなみに上級生2人の口喧嘩は呆れ気味の美鶴先輩に止められるまで続くのだった。
休憩を終えた私たちは扉を開け迷宮の奥へ進む。その中で、私たちは1冊の美麗な装飾の絵本を見つけた。天田くんと総司くんがそれを拾うと表紙には四つ葉のクローバーが描かれている。
「なんでしょう、これ?」
「“飛び出る絵本”か。昔、優に読んで聞かせたっけ」
総司くんの何気ない発言に私たちは鳴上家の家庭事情を察した。双子の妹に本を読んで聞かせる兄って、両親が家にいないっていうことを暗示しているようだったから。
「……ごほん。怪しいな、それは」
「確かに、この世界にあるものだからな。何が飛び出してきても不思議はねぇ」
確かに美鶴先輩と荒垣さんが言うとおり、ここにはシャドウがいる。何が起きても不思議ではない。
「表紙には四つ葉のクローバーが書かれているよ?食べていいって事?」
「どうしてそうなった」
「総司、天田。とにかく開くぞ!シャドウなら望むところだ!」
「お前もどうしてそうなった。……って、お前らこっち向けて開けようとすんな!」
見れば総司くんと天田くんは絵本を私たちの方へ向けて、自分たちは背表紙の方から絵本を観音開きにしようとしている。私たちは咄嗟に戦闘態勢を取ったのだが……
「よ、四つ葉のクローバー?」
絵本の中から飛び出してきたのは、四つ葉のクローバーだった。いや確かに表紙には描かれていたけれど……。
「皆さん、見てください」
そう言う天田くんの声に導かれ、絵本の表紙を見ると先ほどまで描かれていた四つ葉のクローバーは跡も形もなくなっていた。
「飛び出るってそこから!?」
「満を持してのツッコミに一同、ほっとしているであります」
「あ、ど、どうも……」
にこやかにほほ笑むアイギスに毒気を抜かれたゆかりが項垂れる。
私が苦笑いしながらそんな2人のやり取りを見ていると、天田くんを抱えて逃げ回る総司くんの姿が映った。追いかけているのは荒垣さん。結果はどうあれ、彼らのした行動は許されないということなのだろうか。……あ、カストールの攻撃で2人とも飛ばされちゃった