ペルソナQ ~資質ゼロだったはずの少年の物語~ 作:甲斐太郎
始まりは突然だった。
迷宮を進む私たちの前にピンク色のウサギっぽい物体が現れた。シャドウとは違う感じなので、原作にもウサギは登場することから調べようと捕まえることになったのだが、
「このウサ公、待ちやがれ!」
「総司さん、そっちです!」
「なっ、僕を踏み台にした!?」
「げふっ……」
「真田サーン!!」
「明彦がやられた!」
「「「この人でなし!!」」」
シャドウでも何でもないたった1匹のウサギを相手しているだけなのに何だろう、このカオス。皆、ちょっと頭に血が上りすぎなのではないだろうか。
「とりあえず、……マハブフ」
■■■
「えっと、皆。落ち着いた?」
ガクガクと身を縮みこまらせて震えるメンバーを前にして、私は落ち着くように促す。そして、あのウサギが私たちの手が届かないギリギリの距離を保って逃げていることと、地図を見せながら効率よく相手を追い詰めて行く必要があることを説明する。
それに私たちは2班いるのだから、最初から挟撃していればこんなみじめな思いをしなくて済んだのだ。
「落ち着いたけど、止める方法は他にもあったでしょ!氷結属性が弱点な真田先輩と運が悪かった総司くんが再起不能状態じゃない!!」
ゆかりの鋭いツッコミを受けて私は視線を逸らす。その視線の先には気絶してしまった真田先輩と総司くんが静かに横たわっている。
私は鞄を触り、集めて来たシャドウの素材と取得アイテムの整理もあるし、一度帰還することを提案した。皆は倒れている2人を見て、仕方がないと頷いたので、私はカエレールを使い皆とヤソガミコウコウへ戻る。
出迎えてくれた風花と一緒に、毒々しい変貌を遂げた保健室に足を踏み入れた私たちは気絶してしまった2人をエリザベスさんに預けた後、テオドアのてづくりこ~ぼ~に立ち寄り、素材を売って装備品とアイテムの補充を行う。
2人が回復するのを待って、再度迷宮に行こうとして、私は立ち止まった。
「そういえば、総司くん。ペルソナはどのくらい増えた?」
私が総司くんに向かって振り向くと、皆の視線も自然と彼に向く。総司くんはちょっと待つように言うと腕を組んで悩み始めた。すると私たちが使っているサブペルソナと同じような感じでカードとして彼が保有しているペルソナが具現化した。そして1枚1枚手にとって、彼は保有しているペルソナを説明していく。
「えっとキジムナー、フェアリー、スネコスリまでは皆さんの知る通りです。で、あれから増えたのは壊属性スキルを持つ『ゴブリン』と雷属性スキルを持つ『チュウコ』ですね」
私は総司くんが保有するペルソナを確認して行く。
『太陽キジムナー』耐性・火、弱点・氷。スキルはアギ、マハラギといった火炎攻撃とスクカジャを持つ。
『恋愛フェアリー』弱点・雷。スキルは回復魔法とブフといった氷結魔法を持つ。
『正義スネコスリ』耐性・光と闇、弱点・斬と壊。スキルは即死系のハマと回復魔法。加えて状態異常回復も使える。
『愚者ゴブリン』弱点・火と光。スキルは突撃やアサルトダイブといった物理攻撃と自身の攻撃力を上げるタルカジャを持つ。
『隠者チュウコ』耐性・雷、弱点・風。スキルはジオ、マハジオといった電撃攻撃と相手の防御力をさげるラクンダが使える。
「ガル系とムド系以外は全部、総司くんでカバーできるようになったってことだね。となるとコロマルにガル系の魔法スキルを持つサブペルソナを持たせれば、後方に憂いはなくなる訳だ」
「あ、僕は後方組確定なんですね。……別に構いませんけれど」
総司くんはいじけるようにしてコロマルと戯れる。メンバーの構成上はこうしないといけないのだ。それに総司くんは元の世界でもコロマルと一緒にいることが多くて、コンビネーションは抜群だ。
実際、私たちが敗北することになったF.O.Eとの戦いの時もコロマルは総司くんの動きを阻害しないようにうまく立ち回りながら、援護できていたし。私たちはコロマルと一緒に戦おうと思ったら、アイギスに翻訳を頼まないといけないのでちょっとした間ができてしまうし、メンバー構成はこれがベスト。
「順平たちのレベルも上がったし、メンバーも入れ替えよう。美鶴先輩はストッパーとして残ってもらうとして、真田先輩と荒垣さん、天田くんとアイギスが先行組に。サブペルソナは現在『ザントマン』『ピクシー』『アンズー』『アガシオン』『コロポックル』『スライム』『アズミ』『アプサラス』の8体。先に手に入れていた5体はレベルアップして、もう覚えるスキルはないっと」
先行組のメンバーの特性を簡単にまとめるとこうだ。
私は斬・火。
美鶴先輩は突・氷。
真田先輩は壊・雷。
荒垣さんは壊・無。
天田くんは突・雷と光。
アイギスは壊・無。
メンバーの中で魔力が高い美鶴先輩に火のスキルを持つアガシオン、天田くんに風のスキルを持つアンズーを渡す。成長することでジオと電撃耐性を覚えたコロポックルを電撃が弱点なアイギスに渡し、ブフと氷結耐性を持つアズミはそのまま真田先輩に持ってもらうことで弱点をカバー。荒垣さんには物理攻撃スキルを持つザントマンを持ってもらう。私は回復を担うためにピクシーを所持する。
余ったスライムとアプサラスはそれぞれ順平とコロマルに渡す。ただ順平は嫌そうな表情を浮かべていた。やはり万人受けするビジュアルじゃないものね、スライムって。
「これで準備オッケーかな?」
「あとはテオさんのところで帰還用アイテムと回復アイテムの補充ですね。何が起こるか分かりませんので準備していくに越したことはないですよ、皆さん」
風花の確認の声に皆が頷くのを見て、私たちはてづくりこ~ぼ~へと足を進める。そんな中、善くんと玲ちゃんが総司くんに歩きながら何か話しかけている。
「じ~……」
「えっと、善さん。何で玲さんは僕を……いや、僕の鞄を見ているんですかね?」
「……恐らく、君の鞄の中身が気になるのだろう。先ほども迷宮内でウーロン茶を取り出していただろう」
「ええ。このヤソガミコウコウで購入したアイテムを入れていますから。……もしかして、あとで乾くんと一緒に食べようと思っているスイートポテトを狙って」
「総司くん!どこで買ったの?わたし、まだ食べてない!!」
「う、うわぁっ!?善さん、助けて」
玲ちゃんは目の色を変えて、総司くんに襲いかかった。いや、総司くんから鞄をひったくろうとしている。善くんはどうしたものかと悩んでいたが、玲ちゃんを諌めることにしたらしく、彼女を抱きかかえた。
そして、総司くんに申し訳なさそうにしながら、スイートポテトをくれないかを交渉している。結果、総司くんは渋々スイートポテトを差し出し、代わりに玲ちゃんからもらったドーナツ×2を鞄になおす。
「甘くておいし~」
「玲、場を弁えてくれ。そして総司、すまない」
「いえ、また買えばいいですし。もらったドーナツもおいしそうなのでかまいませんよ」
デザートを食べて頬を桃色に染めて悶える玲ちゃんの後ろで男2人が同時にため息をつく。可愛い女の子には男の子は振り回される運命なのだよ。私はそんなことを思いながら、皆の後を追ってテオの店に入った。
■■■
そして件のウサギを追って不思議の国のアナタの迷宮の第3層に降り立つ。またも雰囲気が変わり、今度はまるで城壁内にいるような錯覚を覚えるような風景だった。一変した光景に息を呑む面々。中でも玲ちゃんは身体を震わせ、隣にいる善くんにしがみつく。
天田くんが身体を震わせている玲ちゃんに怖くないかを尋ねると彼女は、まるで自身に言い聞かせる様に大きな声で答えた。
「これはいわゆる武者震いというやつで震えて体温を上げることで胃の消化が良くなって脂っこいものが食べられる!」
「武者震いって、そういうもの……かなぁ?」
「わたし、頑張ります。みんなと、帰りたいからです!乾ちゃん、よろしくお願いします!……むぐ」
玲ちゃんは怖さを払拭するために言い終えた後、ポケットからタコ焼きを取りだして食べ始める。善くんは玲ちゃんからお願いされる形になった天田くんを見下ろしている。
彼の視線に何かを感じた天田くんはきょろきょろと周囲を見渡し、目的の人を見つけると駆け寄って彼の背後に隠れた。いきなり盾にされた総司くんは首を傾げている。
「おーおー、王子さま妬いてるで」
順平がその様子を見て茶化す様にいうと、玲ちゃんがタコ焼きを食べるのをやめて期待を籠めた瞳で善くんを見上げる。
「妬いてる?善、妬いてるの?」
「やく?何をだ?」
しかし、残念ながら善くんはそこまで女心を理解できていなかった。いや、恋愛経験値が足りていないようにも見える。私とゆかりの見立てだと善くんと玲ちゃんは相思相愛っぽいので時間をかければお似合いのカップルになるだろう。これは善くんの恋愛方面の教育も必要となるかもしれない。だが、今はレベル1の彼に玲ちゃんの気持ちを察しろというのは無理な話な訳で。
「妬いてないの?」
しょんぼりといった感じで肩を落とした玲ちゃんを慰める術は、今の善くんは持ち合わせていないだろう。その証拠に彼は勘違いしているし。
「だから、何をだ?私が今何かを焼いているように見えるのか?」
「見えない……」
「善くんって、結構ニブイ?」
「いや、あれは恋をしたことがないんだよ、ゆかり。でも素質はあると思うから、これからに期待だね」
私とゆかりが話している横で、順平が玲ちゃんを褒めて善くんに思い切り睨まれるということがあったが、大した問題はなくこのまま探索を進めようとした瞬間、風花の声が聞こえて来た。
『皆さん、お疲れ様です!エリザベスさんからお話があるそうなので、ベルベットルームまで来てください。とってもいいことみたいですよ!じゃあ、待っていますね!』
通信が切れるのを待って、何人かが口を開く。
「「「うさんくさいな」」」
「これまでのエリザベスさんの言動を振り返りますと“いいこと”である確率は高くないと思われます」
アイギスはそう言うけれど、あのエリザベスさんを放置したまま探索を続けることの方がリスクが高い気がするので、皆にそのことを伝える。するとアイギスが、
「低い確率に賭けるということですね。潔いであります。では、忘れない内に行くであります」
と、言って手を大きく振り上げた。その手にはいつのまにかカエレールが握られている。
「使用する際はニンジャーのように投げるであります!」
彼女はそのまま床に思い切り叩きつけた。使用方法は間違っていないけれど、少々やり過ぎではなかろうかと思ったのは、カエレールが床にめり込んで光を発さなくて、皆が頭の上にクエスチョンマークを浮かべていたら、いつのまにかヤソガミコウコウに戻っていたからだ。
「……ともかく、ベルベットルームに行きますか」
「そだね」
若干疲れ気味のゆかりたちを伴って私はベルベットルームに入っていく。
エリザベスさんから齎されたのは、ペルソナの合体についてのことだった。2体以上のペルソナの合成をすることでペルソナは強力な力を得て、戦いや探索を助ける。それに加えて、今までに召喚したことのあるペルソナは全書と呼ばれる辞典から費用を払うことで召喚できるようになった。まぁ、私にとっては慣れ親しんだシステムである。
ここに来る前にロクでもないことだと思っていた面々から、何故かため息がこぼれる。
「普通に“いいこと”だったな」
「ガッカリであります」
そんなことを言う荒垣さんとアイギスを放っておきつつ、私は早速ペルソナの合体を行う。
対象はアガシオンとアンズーの2体。テーブルの上に置いたペルソナカードが浮かび上がり、上空で重なり光となって落ちて来たものをエリザベスさんが器用にペルソナ全書で挟み込んで受け止める。そして、私に向かって差し出す。生み出されたのは『女教皇アメノウズメ』元々覚えていたハマに加えてアガシオンとアンズーが持っていたスキルであるアギとガルを持つペルソナである。
それを見ていたメンバーから拍手喝采が沸き起こる。それによって気を良くしたエリザベスさんから強烈な視線を感じる。彼女の目がもっと寄越せと言っているような気がするけれど、手持ちが少ない今、無暗やたらにサブペルソナを減らすのは愚の骨頂。私はまた来るからと言って、その場を後にするのだった。
さて、不思議の国のアナタの迷宮第3層だが、水が足りていないのか枯れ気味な花を見つけたり、一方通行な抜け道を通って迷ったり、白いバラを必死に赤く塗る兵隊さんたちにほっこりしながら先に進む。
ちなみの一歩通行な抜け道によって迷路となっていた場所だが、私たちが行き来するのを眺めていた総司くんが地図を書いたことによってあっさり突破できた。私と一緒に歩き回ることになった先輩方には本当に申し訳ないことをしてしまったと反省。
そして、歩みを進めた私たちは運命の再開を果たす。
「あ、ウサギ!今度こそ逃がさないんだから!」
「捕獲モードに入ります」
私たちの姿を見て逃げて行くウサギを追って走り出そうとする面々をとにかく落ち着かせる。そうやって無暗に追いかけては今までの二の舞になると。
「まずは周辺状況を調べるのが先決ですよね、結城先輩」
「うん。ここがどんな風な作りになっているのかを見極めて行動しないと」
私たちは周囲の状況を見ながら動き、先行班と後方班で連携することでいとも容易くウサギを袋小路に追い詰めたのだが、その袋小路には例の額縁が飾ってあった。皆は気付いていないようで息をまいているが、アイギスがウサギに跳びかかろうとした瞬間、ウサギは額縁をぶち破って逃げてしまった。
「目標、逃亡しました。追尾態勢に変更します」
「はぁ、どうやっても捕まえられない気がする……」
アイギスとゆかりがそんなことを言う横で、私は地図を広げる。もし、ここで片方がこの額縁を通ってウサギを追い、もう片方の班が待ち伏せすれば一網打尽なのではないかと思う。
「結城先輩、僕たちはここの角であのウサギがくるのを待ち構えますので、先輩たちを連れて追ってください。挟撃しましょう!」
「それがいいか。うん、お願い。総司くん」
総司くんはしっかりと頷くと、順平やゆかりたちのところに行って作戦を説明する。彼らの様子を見ていると理解してくれたのか、親指を立てて作戦を了承したとの合図を貰う。私はそれに頷き、美鶴先輩たちを連れて破られた額縁を通って向こう側に出ると、きょろきょろと周囲を警戒していたピンク色のウサギを追いたてる。
「待てこらウサ公!」
「次は逃がさん!」
荒垣さんと真田さんが互いに競い合うようにウサギを追いかける。それを見ている美鶴先輩の額に青筋が浮かびつつある。私はアイギスと天田くんに近づき、これは拙いかもとメンバーの班分けをミスったことを後悔する。
それはともかくこの先を曲がれば、総司くん率いる後方班が待機する場所という所に出た。タイミングを合わせて正面から順平とゆかり、コロマルがウサギを迎え撃つ。こちらも真田先輩と荒垣さんがウサギを捕まえようと迫る。
ウサギには逃げ場がなく、これでお終いかと思われたが、ウサギは今までにない俊敏さで急ブレーキをかけると包囲網を作りだしていた面々の顔を踏んで抜けだし、上へジャンプした。
このままではまた鬼ごっこになってしまうと思われたが、上空に飛び上がったウサギを通路の“横から”飛び出してきた総司くんが蹴り飛ばすことでウサギは袋小路の方へ飛んでいく。
「よし、予定通り!」
そんなことを言ってのける総司くんを怨みがましく見上げる順平や真田先輩たちの顔にはウサギの足跡がくっきりと残っている。
「と、とりあえず、追い詰めましたよ!ここならどうですか!」
袋小路の奥で倒れたままピクリともしないウサギに向かって天田くんが言う。だが、この袋小路にも例の額縁が飾られており……。案の定、ウサギは跳び起きるとぶち破って行った。
「また、壁に突っ込んだな」
善くんが冷静に言うと、天田くんは大きくため息をついた。いつになったらこの鬼ごっこは終わりを迎えるのか。そんなことを言いたげだ。そんな中、額縁に開けられる穴を見ながら、美鶴先輩が呟く。
「素朴な疑問なのだが、ウサギはなぜこのような形で飛ぶのか。大の字に見えるが……」
「ウサギさんはこう飛ぶよ!私のお友達のウサギさんも、寝るときとか飛ぶときとか、こうやって手足を広げてるもん!」
「な、なるほど……。変わったタイプのウサギもいるんだな」
美鶴先輩は納得できないと言いたげだが、夢見る玲ちゃんのことを考えてそれ以上の言葉は紡がなかった。さすが生徒会長、空気をよめるんですね。
「おい早く行こうぜ」
蹴られた部分を手で擦りながら荒垣さんがそう言うと、他の面々もそれぞれ額縁に開けられた穴を通って行く。その先にあった扉には南京錠がかけられていた。鍵穴も小さく、それ専用のものを探してこないといけないようだ。何せ、アイギスが壊そうとしてもビクともしないほど、衝撃に強い素材が使用されていたのだから。かといって、今まで通ってきた道にそんなものはどこにもなかったので、ここら辺を探索することになった。
周囲を探索すると風花から扉の反応があるというので集まると、そこには扉などなかった。代わりに無色透明の液体が入った瓶がいくつかテーブルの上に置かれているだけで。
するとコロマルが小さく吠えたので、見てみると足元に小さな青い扉があった。
『あ、きっとそれです!その扉の奥に、何かありそうですが……』
「奥と言ってもな……かなり小さな扉だ。コロマルでも無理だろう」
「美鶴さん、こんなものがありました」
そう言ってアイギスが美鶴先輩に渡したのはテーブルの上に置かれていた無色透明の液体が入った瓶。ラベルには“DRINK ME”と書かれているようだ。
『それ、アリスに出てきませんでした?確か、飲むと小さくなるドリンクだったはず』
子供の頃に読んでいたという風花の説明を聞いて、美鶴先輩は明らかに怪しむ目でそれを眺める。風花の言葉を独自に解釈した玲ちゃんの言葉に皆が突っ込んだり、話を広げたりしている中、アイギスがテーブルの上に置かれている瓶の内の1本を持ってきた。
「成分を分析して宜しいでしょうか?金属を劣化させるような成分は入っていないようですので」
「うん、お願いするよ」
「了解しました」
アイギスはそう言うとキャップを外し、一気に飲み干す。ゆかりが寄ってきて、何にも異常はないかを尋ねる。
「……どう?」
「ほんのりフルーティであります」
「いや、味じゃなくて」
「身長、体重、そしてスリーサイズにも変化は見られません。加えて、人体に害を及ぼす物質は入っていないようです」
アイギスの分析を聞き終えた私たちはとりあえずこれからどうするかと顔を見合わせる。この小さな扉の先に何かがあるということは風花のアナライズで分かっているのだが、先に進む手段がないとなると……。
「毒でもねーし、小さくもなんねーか……。意味ありげだけど、効果ないんじゃん」
「どうしたものか。なぁ、明彦、荒垣……」
そう話を振った美鶴先輩の視線の先では仲良く2人で言い争いをしていた。しかもしょうもない内容で。美鶴先輩はその光景を見て、頭を抱える。言い争いをする2人を見ながら順平が疑問を口にすると、美鶴先輩がその疑問に答えて行くのだが、次第に2人の言い争いはヒートアップしていっている。そして、何故か“人畜無害”で“フルーティ”な味のする液体の入った瓶を飲むことになっていて彼らは互いに負けるかと一気に飲み干した。
「あ、やっちった……」
「ったく、馬鹿が……」
順平と美鶴先輩が真田先輩と荒垣さんの様子を見ながら言う。
「あれ、そういえば総司くんの声がさっきからしないけれど……」
私は周囲を見るが、彼の姿が見当たらない。代わりに善くんと玲ちゃんと天田くんの視線が同じ所に向かっている。その視線の先には開いた小さな扉が……。
「……もしかして、総司くん?」
「はい。ここに最初に到着したのは総司さんで、「のどが渇いた」と言って鞄を探していたんですけれど、玲さんにウーロン茶を上げてしまってないことに気付き、そこにあった瓶の中身を飲み干していたんです。で、皆さんが話し合っている内に総司さんは小さくなってしまって、待つのもなんだからと言って中に入って行っちゃいました」
「そこそこ待っているのだが、出てくる気配が無い。中で何かが起こっているのかもしれない」
天田くんと善くんの話を聞いた私はテーブルの上に残っている“DRINK ME”と書かれたラベルの貼ってある瓶を手に取ると一気に飲み干す。あまりの男気のある行動に玲ちゃんがおおーと声を上げた。
飲み干した私は、同様に液体を飲んだ先輩たちを見て頷いた。ドリンクの効果は覿面のようで彼らは美鶴先輩に抓まれた状態で言い争いをしている。私の視界もどんどんと小さくなっていく。気付けば人形サイズになっていた。
私は深呼吸をした後、扉をくぐって総司くんの後を追った。扉をくぐってすぐに彼の姿は確認できたけれど、その背中は途方に暮れていた。私が声を掛けながら近づくと理由はすぐに分かった。
「いたいた。総司くん、鍵は……あった?」
「あ、結城先輩。ええ、あそこに……」
彼が見上げる先には垣根の枝に引っかかった状態の鍵がぶら下がっていた。1人ではどうやっても届かない高さだ。総司くんは振り返ると、意見を言ってくる。ここは何人かで組体操して、取るしかないと。私は真田先輩と荒垣さんがドリンクを飲んで小さくなっていることを伝える。すると、ギリギリで足りるかなとことだった。
「じゃあ、2人を迎えに行こうか」
「いや、その必要はなさそうですけれど、……何かあったんですかね」
「…………」
私と総司くんが見たのは扉の所で息も絶え絶えにうつ伏せで倒れる真田先輩と荒垣さんとゆかりの姿だった。特にゆかりは何故か何かに全身を余すとこなく舐められたようにびちゃびちゃでエロイ。ただ近寄るのはいやな感じだ。
「……もしかして、コロマルかな?僕が小さくなった瞬間、コロマルがなんだか興奮しているような気がして、その視線に寒気が走ったから急いで扉の中に駆けこんだんです」
「そういうことはちゃんと誰かに言って行こうね。……ゆかりー、大丈夫?」
私は入り口の方で倒れる3人に近づかないで、その場から声を掛ける。
「ハァ……ハァ……も、死ぬ……」
「ハァ……ゴホッ、ハァ……。いい、トレーニングだな……」
「ハァ、あんま、走らせんな……オエッ……」
うつ伏せのまま、そんなことを言う彼らには悪いけれど、これから一働きしてもらわないといけない訳で。私が総司くんに目配せすると、彼は大きく頷き彼らに下へ歩いて行く。
「おい!?なんだ、いきなり!」
「持つところを考えろ、なんで足なんだ!?」
総司くんは何も言わず真田先輩と荒垣さんを引き摺って行く。うまいことにコロマルにあまり舐められた形跡のない足の部分を掴んでいる辺り、彼の観察眼の高さがうかがえる。総司くんは真田先輩と荒垣さんを無理やり立たせると正面から抱き合わせて、台になるように促す。鍵がある高さにはあと1人と半分の高さがあれば届きそうだ。
「真田先輩と師匠には上を見ないように言いくるめて来ました。岳羽先輩……はこのまま寝かしておきましょう。足りない高さは結城先輩を僕が肩車することで補うことにしましょう」
「ふぁっ!?」
私は思わず、倒れ伏したままのゆかりの様子を窺う。しかし、彼女はまだ動くこともできないくらい、丘の上に上げられた魚のようにぐったりしている。それに、コロマルの唾液でびちゃびちゃなのも気になるし……。私は枝に引っかかった鍵を睨みつける。
「背に腹は代えられないってことか……うぅ……」
私は諦めて総司くんに肩車してもらう。彼は華奢に見えるが、制服の下にはしっかりと鍛え上げられた肉体を持っているので私を肩車しても軽々と立ち上がった。そのまま彼は少し助走をつけ、飛び上がると真田先輩と荒垣さんが作った台に飛び乗る。
「「ぐっ!?」」
台となっている2人から苦悶の声が上がる。だが、そのおかげで鍵はちょうど私のお腹の前に来るくらいなので難なく取ることができた。うん、難なく取ることが出来たのだ。
恐らく、真田先輩たちが作ってくれた台に乗れば、その上に乗った総司くんが背伸びすれば取れるくらいの高さだったのだ。それに気付いたのは総司くんに降ろされた後だったけれど、彼に悪気はないようだったので深くは追求できなかった……。
小部屋の外に出ると自然と身体の大きさが元に戻った。
「あ、戻ってきた!お帰りなさい!」
「ハイ……タダイマ……」
玲ちゃんの明るい声が響くが、返事をするゆかりに元気はない。玲ちゃんは気遣うような言葉をかけるが、ゆかりは首を横に振って話しかけないでオーラを出す。
「鍵は取ってきたぜ」
「よくやったな、ブリリアント!」
荒垣さんが小部屋で回収してきた鍵を美鶴先輩に手渡す。美鶴先輩は口角を上げて、私たちを褒めるが、足元にいたコロマルが一鳴きすると荒垣さんと真田先輩とゆかりの肩がびくりと跳ねる。
「ワンッ」
「く、来るな!」
「クーン……」
「少し、野生が過ぎた、反省している……とのことです」
近寄ろうとしたコロマルをすごい勢いで拒絶する真田先輩。そんな彼の姿を見て、コロマルがしょんぼりしたように情けない声で鳴く。その心象をアイギスが言葉にすると、彼らは居た堪れないような雰囲気を醸し出すが、先ほどの恐怖体験が尾を引いているのは丸わかりである。
「とりあえず、さっきの南京錠の場所に行きましょうか。そして、扉を開けたら一度ヤソガミコウコウに帰りましょう。岳羽先輩のためにも」
総司くんがそう言うとメンバーの皆がゆかりの現状を見て、一斉に大きく頷く。
「ねぇ、湊。私、泣いてもいいよね……」
「うん。シャワー浴びたら、私の胸を貸してあげるね」
「うぅ……」
ゆかりはヤソガミコウコウの体育館にてシャワーを浴びるまで、どんよりとした空気をまとったままであった。
長かった。本当に長かった。やっと再会だ!
平成28年1月21日追記
~総司のペルソナリスト~
・冒頭に総司がつけていたペルソナは弱点が氷のキジムナーでした。
赤 有馬さま案
愚者ゴブリン レベル5
弱点 火 光
使用スキル
突撃、タルカジャ(6)、スクンダ(7)、アサルトダイブ(11)
※ファンタジー世界では毎回出てくる彼らです。総司くんのイメージでは体表は緑色で、手にはこん棒を持っています。
隠者チュウコ レベル6
耐性 雷
弱点 風
使用スキル
ジオ、ラクンダ(7)、マハジオ(9)、ラクカジャ(10)、コーチング(11)
※狐の妖怪です。とはいってもチュウコなんてものはいないのですが、P4に出てくる隠者コミュの狐が大きくなったもの、もしくはデジモンのキュウビモンを思い浮かべてもらえればいいです。