ペルソナQ ~資質ゼロだったはずの少年の物語~ 作:甲斐太郎
南京錠の掛っていた扉を抜けると件のウサギを再度発見する。すぐに追おうと動こうとする面々だったが、風花から同じフロアにF.O.Eがいることを聞いて、すぐに立ち止まった。
見ればバラを赤く塗っていたトランプ兵が2体いる。後方班の総司くんとコロマルがすぐにフロア内を調べ、赤いバラが2か所あることを教えてくれた。総司くんにじょうろを渡し、私たちがその場で待機していると思い思いに動き回っていたF.O.Eが何かに引き寄せられるように私たちの視界から消えて行った。
その直後に戻ってきた総司くんとコロマルと合流した私たちはピンク色のウサギを追いかけるが、またしても額縁を破って逃走されてしまう。
「いつまで、この追いかけっこって続くんだろ」
ゆかりがげんなりとした様子で話すと風花が慰める様に声を掛ける。
『この階層もあと少しだから、頑張ってゆかりちゃん』
バックアップを担当している風花がそういうなら、この階層も終わりが近いということなのだろう。私は皆に目配せをした後、破られた額縁の穴を通って先に進む。進んだ先のパワースポットでアイテムを回収した後、先に進もうとしたら善くんと玲ちゃんが行き止まりに白いバラの花が咲いていることに気付いた。
「ワンワン!」
コロマルが大きく尻尾を振っている。どうやらバラの花に戯れているようだ。その様子を見ていた荒垣さんがコロマルに尋ねる。
「オマエ、バラが好きなのか?」
「ワン!」
律儀にお座りをして返事をしたコロマルに荒垣さんは『フッ』と笑って、その白いバラの花を回収する。回収する際に棘で指先を切った様子だったが、彼は気にすることなく花を潰さないように丁寧に鞄へ直していた。
「おーい、湊。この先にF.O.Eが3体いるって風花から連絡あったよ。……って、荒垣先輩、その手どうしたんですか?」
「ん、いや。なんでもねーよ」
「ワンワン」
「そうなんだ。まあいいけど、早く行こう。真田先輩が単独で突撃しそうなんだよね」
ゆかりはそう言って駆け足で戻っていく。私は荒垣さんやコロマルに目配せをした後、皆がいる場所に向かった。するとすでに扉が開いており、様子を見るに真田先輩が突撃した後だった。
「あんの脳筋バカが!俺たちも行くぞ」
「ワン!」
荒垣さんとコロマルが急いで駆けて行くが、皆は扉から少し行ったところで立ち往生していた。
「えっと、状況は?」
「3体のF.O.Eとバラが3か所に設置されています。バラの配置と動きは分かりましたので、地図を貸してもらってもいいですか?」
私は総司くんに地図を手渡し、彼の作業を眺める。まるで答えが分かっている様にさらさらと書きあげて行く彼の手際に、その様子を見ていた皆が感嘆の声を上げた。総司くんは書きあげた地図を床に置いて皆に見える様にした後、誘導する順番を説明していく。
「えっと、このフロアにいるバラを塗る兵隊さんは自分にとって一番近い白いバラを塗りに行くという習性を持っています。それを利用して、まず一つだけ飛び出ているバラを白くして、左右どちらかの兵隊さんを足止めします。その後、ここに隣接しているバラを白くすれば、自然と階段への道は開けると思いますよ」
何の澱みもなく説明し終えた総司くん。順平や真田先輩が彼を小突いて褒め、天田くんは出来る男の見本ともいえる総司くんを尊敬の眼差しで見つめている。
「ふむ、それでは湊」
「はい。総司くんの案で一度やってみます」
とは言ったものの、総司くんがあれだけ自信満々に説明していたことが外れるということ自体がありえない訳で、私たちはあっさりとF.O.Eが3体いるフロアから離れることに成功するのだった。そして、階段を降りる前に周囲の探索をして、道を開通させ宝箱を回収した後、私たちは階段を降りて新たな階層へと向かうのだった。
降り立った階層は今までと違い一本道だった。風景は全体的に赤くおどろおどろしい雰囲気を醸し出しており、まさにボス部屋に続く道のようだ。その一本道を進んでいくと、上の階層で散々私たちをひっかき回してきたウサギが鎮座していた。
「ウサギ、こんなとこにいたよ!」
「あれ、コイツ逃げねーのな。んじゃ、今の内に捕まえて、と……」
そうやって順平が近づいて行くと、周囲をきょろきょろと見回しているだけであったウサギから強烈な光が発せられる。思わず目を瞑った私たちが目を開けると、そこにはウサギの姿は影も形も残っていなかった。
『ウ、ウサギの気配が完全に消滅しました!』
風花の声を聞いて、私は結局あのウサギは何をしたかったのだろうと首を傾げる。すると、善くんが俯きながらぼそっと呟いた。
「ウサギ……。どこかで……。……ダメだ。何も思い出せそうにない」
彼は玲ちゃんと一緒に何者かに記憶を奪われた上で、この狭間の世界に閉じ込められている。さっきのウサギは彼の奪われた記憶と何か関係があったのだろうか。善くんは考えを振り払うように顔を横に振った後、玲ちゃんに話しかける。
「……玲、大丈夫か?」
「……うん。ここを出るって、決めたもん」
「ああ、そうだな。先へ進もう」
そう言った善くんが私を見つめてくる。私は何も言わずに頷き、皆の先頭に立って奥へと足を進めて行く。すると、明らかに異質で大きく堅牢な扉があった。
「完全にボスがいますよって感じだなー」
「結城先輩、ここにはシャドウの気配もなさそうですし、一旦休憩しませんか?僕たちはそれほど傷ついていませんけれど、先行班の先輩たちは結構戦闘していましたし」
「それも……そうだね」
私たちは円形になって座って、傷ついている人は傷薬を使って治療をしたり、腹ごしらえをしたりして準備を整える。ここの迷宮に訪れる前に準備していたという総司くんは、鞄からドーナツと紙パックに入ったコーヒー牛乳と抹茶オレを取り出すと天田くんに渡す。ドーナツとコーヒー牛乳を貰った天田くんは満面の笑みを浮かべながら総司くんにお礼を言って頬張る。まるで仲の良い兄弟の一コマを見ているようで、何だか気分がほっこりとする。
「総司って優ちゃんに不満なんか抱いていなかっただろうけれど、やっぱり男の兄弟も欲しかったんじゃねーかな?よくよく考えれば、天田少年が寮に来た日からずっと優しかったしな」
「そう言えばそうだよね。風花が勝手に台所に侵入しようとしたら、『キッ!』と睨んで追い返していたのに、天田くんはむしろ呼び込んでいたし」
『うぅ……。ずるいです……』
風花の悔しさを物語るような心の声が聞こえて来た。私は風花をフォローするためにゆかりたちに声をかける。そう風花のフォローをするためだ。何もやましいことはない。
「ゆかり、前提条件が違うよ。風花が総司くんを手伝おうとした時のレベルはどっちかって言うとマイナスだったじゃない。今の風花のレベルだったら、きっとあの頃の総司くんも快く台所に入れていたと思うよ」
「……それもそうだね。むしろ、風花のあの“バイオテロ”があったから、総司くんは巌戸台分寮に来てくれることになったんだしね。……風花、ごめん!」
『……はぁ、そこまで酷くなかったと思うんだけれど……』
5月の満月戦の後、私たちの仲間となったばかりの頃の風花の料理の腕は、お世辞にもうまいと言えるレベルのものではなかった。むしろ料理の形をしたナニカだった。それをたった3カ月で人並みレベルまで、彼女の料理の腕を向上させることが出来たのは総司くんと荒垣さんの指導があってこそ。
「というか、最近さ。天田くんの料理の腕がかなり上達したじゃない。ま、総司くんの英才教育を受けているから当然と言えば当然なのかもしれないけれど。正直、まずくない?」
「「確かに!」」
このままでは巌戸台分寮の台所を預かる人間の半分は年下の男の子という事態に陥るのも時間の問題だ。かといって、料理を手伝おうと思っても鉄壁のガードがあるので、私たちは外部で練習しないといけない。っていうか、この状況はすでに詰んでいるじゃ……。
「よしっ、休憩はもういいだろう。湊、号令をかけてくれ」
美鶴先輩が立ち上がるのを見て、私たちは話を切り上げ立ち上がる。そして、門の様な扉の前に立って触れると、風花から警告を受ける。
『ちょっと待って下さい!その扉の先から、とても強力な気配を感じます!準備は整えていると思いますが、しっかりと心構えをしてから開けるようにしてください!』
私は扉に触れながら後ろを振り向き、メンバー1人ひとりの顔を見て行く。彼らは頷きを持って返してくれた。なら、何も怖がることはない。私は扉を開け、先に進むのだった。
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扉の先に進むと大きな宝箱を愛おしそうに抱きしめ頬ずりする巨大な女王のようなものがいた。身の丈が私たちの軽く3倍はありそうなソレに、私たちは思わず身構える。
『気をつけて!この迷宮で、最も巨大な反応です!』
「ボスのお出ましと言う訳か」
風花の言葉ににやりと不敵に笑う真田先輩の姿に私は安堵の息をつく。どうやら異様な相手に飲まれているメンバーはいないようだ。元の世界で伊達に修羅場をくぐってきた訳ではないということだろう。私もしっかりと正面にいる大きなシャドウを見据える。
【危険!危険を感じるぅぅぅ!駄目よぉぉ!これは渡さないィィ!!】
「喋った……?」
美鶴先輩の呟きに皆が顔を見合わせる。私たちがこれまで戦ってきたシャドウに言葉を話す相手は存在してこなかった。初めての事態に困惑する者もいる。
【アンタはずっとここにいるのぉぉ!絶対にこの世界から出さないわよォォ!】
「いいえ、出てやるであります」
「ああ、私達はここから出る。そう決めたんだ」
アイギスと善くんが私たちの総意を言葉にして、巨大なシャドウにぶつける。しかし、その巨大なシャドウは右手に持っていた扇を口元に近づけると肩を震わせ……
【ふ…ふふ……ふふ、うふふ、ふふふふふふふふふぁぁああああっはっはっはっはっはっ!】
大きな声で高笑いし、私たちを見下ろしながら告げる。
【ああ、おかしい、面白いわァァ……。アナタが出してくれるんですってェェ?な~んてお優しいのかしらねェェェ?】
明らかに私たちを見下すような発言に、武器を握る力が増すのを感じる。順平や荒垣さんも唇を噛みしめ、巨大なシャドウを睨み上げている。天田くんとゆかりは巨大シャドウの挙動を逐一観察するようにしている。
「言葉からして、このシャドウが我々をこの世界に留めているようだな」
「“これは渡さない”つったな、後ろのヤツのことか?」
「さあな。マトモな話が聞ける相手ではなさそうだ。腕がなるだろ、結城?」
「ええ。でも慎重にいきましょう」
私は真田先輩の問いにそう答え、武器である薙刀を大きく振って構える。
「出力最大!行くであります!」
アイギスの言葉を皮切りに特別課外活動部の面々が次々と戦闘態勢に移行していく。それに合わせ、巨大なシャドウの雰囲気が変わる。
【渡さないィィィッ!!来なさい、アンタたち!ロイヤル❤ストレート❤フラッシュ!】
巨大なシャドウがそう言うと、私たちの前にトランプの柄をした小型のトランプの兵隊が現れた。数は……
「結城先輩!敵は小型トランプ兵52体、ジョーカー柄のトランプ兵……いやF.O.Eが2体です!」
「っ!?風花、F.O.Eの解析をお願い!」
『分かりました!』
総司くんの的確な戦況分析によって、ほぼタイムロスなしで風花に指示を出すことが出来た。私はその場から一歩引いて、戦場となった部屋全体を見渡す。部屋の奥に巨大シャドウ、その前に部屋を埋め尽くさんと召喚された52体の小型トランプ兵。総司くんの言うジョーカー柄のF.O.Eは部屋の左右に1体ずついる。
『解析結果です!名前は女王を守る兵隊さん。レベルは18で今の皆さんの戦力では格上の相手で倒すことはほぼ不可能です!』
風花の解析結果を聞いて、皆の顔に緊張が走った。思い出されるのは、この不思議の国のアナタの迷宮に初めて挑んだ時に味わった敗北が頭をよぎる。構えていた剣先が少し下がったその瞬間、総司くんの檄が部屋中に響き渡った。
「結城先輩!しっかりしてください。左のF.O.Eは僕とコロマルで引きつけますので、あとはお願いします。行くよ、コロマル!」
「ワオォオオン!!」
総司くんは片手剣を構え、コロマルと共に部屋の左側にいるF.O.Eへと向かって行く。風花は倒すことは“ほぼ不可能”って言っていた。なら可能性はゼロじゃないってことだ。なら、私たちが取るべき手段は……。私は目を見開いて声を張り上げる。
「真田先輩、荒垣さん、天田くん。右側のF.O.Eの相手をお願いします」
「よし、任せろ!」
「天田、無理すんじゃねーぞ!」
「子供扱いはやめてください」
拳を鳴らして部屋の右側に駆けて行く真田先輩の後を荒垣さんと天田くんが追って行く。私は続けて、残っている皆に声を掛ける。
「残りのメンバーで部屋中央の小型トランプ兵を殲滅し、奥の女王を撃破します!」
「よっしゃー、切り込み隊長いっくぜー!」
「目標を撃破するであります!」
「岳羽、合わせろ!」
「了解です!」
「玲、君は下がっているんだ」
「みんな、がんばれー!」
「特別課外活動部S.E.E.S……。吶喊します!」
「「「「「おおおーーー!!」」」」」
不思議の国のアナタの迷宮最終層の戦いはこうして火蓋が切って落とされたのだった。
どれくらいの時間が過ぎただろうか。
私たちが相手することになった小型のトランプ兵は数こそ多いが弱かった。ただ私たちの攻撃やスキルでは一撃で倒せず、何回か攻撃して撃破するしか方法が無い。相手の防御力を下げれば一撃で倒せるが、その分精神力を浪費することにつながり建設的ではない。何せ、こいつらは倒しても倒しても奥にいる巨大シャドウが召喚し直すからだ。
「湊、また20体くらいが一遍に召喚されたよ!」
「反則技もいい加減にしやがれであります」
「くっ……マハブフ!」
私は周囲にいた小型のトランプ兵を多数の相手に攻撃が出来る魔法スキルを使って薙ぎ払い、ゆかりとアイギスの近くに移動する。移動中も薙刀を使って、近くにいるトランプ兵を斬るのを忘れない。
善くんは玲ちゃんを守りつつ部屋の入り口の所で戦い、美鶴先輩は順平と背中合わせで死角をなくし戦闘しているが、小型トランプ兵の波状攻撃に無傷とはいかないようで、彼女の服の至る所に血が滲んでいるのが見える。
真田先輩たちや総司くんたちが戦っているのは、上の階層で見て来たF.O.Eよりも強い敵だ。倒すことはほぼ不可能という風花の解析結果が出ている以上、部屋の中央で戦う私たちに奴らの目が行かないように足止めするのが彼らの役目だが、真田先輩たちの方は少々分が悪いようだ。
「総司さんとコロマルさんのコンビネーションは素晴らしいであります」
私と同じように戦いながら戦況を見ていたアイギスが総司くんたちの戦いぶりを見てそう告げた。コロマルのフットワークを生かしたヒットアンドウェー戦法を総司くんが多種多様のペルソナを使い分け、相手の防御力を下げたりコロマルの攻撃力や回避力を上げたりなどして援護することで、2人という少人数でありながら強大な力を持つはずのF.O.Eを完全に抑え込んでいる。
「湊、アイギス、危ない!」
ゆかりの声で気付いた時には、私たちはトランプ兵の攻撃を避け切れなかった。致命傷は受けなかったものの、武器を取りこぼした私に群がるトランプ兵を振り払う力はない。思わず目を瞑りそうになったが、
「はぁあああ!」
「どりゃぁあああ!」
私に群がろうとしていたトランプ兵を斬り裂いて、手を差し伸ばしてくれた2人に感謝の言葉を述べる。
「ありがとうございます、美鶴先輩。順平」
「ふっ、お互い様だ。……伊織、あれを」
「ほいよ、湊っち。今度は落とすなよ」
順平から私の武器である薙刀が渡される。どうやら拾ってきてくれたらしい。だが、私の窮地を救ってくれた彼らもまた満身創痍であり、体力が切れるのも時間の問題であることが窺える。
「しかし、キリがねーな!」
「奥に控える“女王”に辿りつく前に、我々の体力が消耗すると思われます」
「回復が追いつかないよ!」
部屋の中央でトランプ兵の相手をしてきたメンバーが自然と集まってくる。順平は自分の袖で汗を拭い、アイギスは近寄ってくるトランプ兵に弾丸を叩き込む。ゆかりは私たち1人ひとりに回復魔法をかけるが、彼女が言うとおり回復が間に合っていない。
回復魔法が使えるのは、メインペルソナで使えるゆかりと、サブペルソナによって使えるようになっている天田くん、そして“本来”のワイルドの力であらゆるペルソナを扱える総司くんの3人のみだ。戦力が分散させられている以上、ゆかりに負担がかかるのは当然のことだ。だからといって、私たちにとって格上であるF.O.E相手に回復なしなんていう無理をさせる訳にもいかない。
すると、入り口の方で戦っていた善くんが声を張り上げた。
「全員、撤退してくれ、私が殿をする!」
「お前だって、ボロボロじゃねーか!」
順平が怒鳴り声をあげると、善くんは唇を噛みしめて俯く。彼もこの状況が拙いということが分かっているのだ。私たちが全滅するのも時間の問題だと。
「せめて、少しだけでも休めれば……」
美鶴先輩がそう呟く。しかし、それは叶わないことだと分かっているからか、彼女は力なく肩を落とす。
「とはいえ、こんな状況じゃ……」
その時、私たちの誰もが予想していなかったことが起きた。
「よう、待たせたな!」
聞いたことのない男の子の声に、私たちは一瞬だけ自分の身が戦いの最中にあることを忘れ、声がした方へ身体ごと向きを変える。
「な、なんだぁ!?」
「なんなの、ってか、なんなの!?」
入り口に善くんと玲ちゃんの他に8人の男女が立っていた。
そんな彼らの中央にいるのは灰色の髪を腰の辺りまで伸ばした目つきの鋭い女の子。彼女は肩に乗せていた刀を右腕一本で軽々振るうと、しっかりと部屋の奥にいる女王を見据えると告げた。
「……突撃」
たった一言だったが、彼女の横にいた少年少女たちが私たちを助けようと駆け寄ってくる。
『敵はトランプ兵だよ。物理攻撃全般、魔法攻撃全般が弱点。みんなやっちゃえー!』
風花と違った感じの明るい声が頭に響いてくる。私たちの助けとなってくれる少年少女たちは、私たちのように召喚器を使わずにペルソナを召喚し戦っている。
大きなヘッドホンをはめたオレンジ色の髪の少年は苦無を二つ持って、軽やかなフットワークで敵を斬り裂き、ゆかりと同じ風属性の魔法スキルを使っている。
緑色のジャージを着た短髪の女の子はカンフーに良く似た体術を用いて、トランプ兵を蹴り飛ばす。怯んだところに氷結魔法をぶつけ消滅させる。なんか見覚えがあるな……。
「って、千枝ちゃん?」
「あれ、結城さん!?……って、おわぁっ」
「危ない、千枝。コノハナサクヤ、マハラギ!」
火炎属性の魔法攻撃で周囲にいたトランプ兵を燃やしつくしたのは、赤い衣服を身にまとった黒髪の少女。って、彼女もまた見覚えが……あ。
「天城旅館の雪子ちゃん!?」
「ふぇ?……あ、月光館学園のお姉さん?」
私が知っている彼女たちとは違い、女らしく成長した姿だけれど見間違うはずもない。
「と、とりあえず今は戦闘に集中しましょう!」
「う、うん。そうだね」
私は彼女たちから離れると、ゆかりたちの所がいる所へと移動する。改めて援護してくれている少年少女たちの様子を見る。
金髪でガタイの良い少年は鉄板の様なものを振り回し、近くにいるトランプ兵を蹴散らす。多少攻撃を受けてもビクともしていないところを見るに、見た目通り体力は有り余っているようだ。
青い帽子を被った少年は拳銃を使って的確にトランプ兵を撃ち抜いている。敵の攻撃を予測し、回避しているところを見るにかなりの場数を踏んできているように見える。
そして、何故かキグルミが戦っている。その体躯を利用したトリッキーな動きで敵を翻弄して倒しているので、実力はあるのだろうけれど、何故キグルミを着て戦う必要があるのか。謎だ……。
『お姉ちゃん!何で戦わないの?』
バックアップの明るい少女の声を聞き、入り口に目を向けると千枝ちゃんたちに号令をかけた少女が佇んでいた。彼女は鋭い目つきで私たちを睨んでいる。何を言われた訳ではないけれど、その雰囲気に蹈鞴踏む。
「ちっ……。りせ。私はこの“ヒトたち”のために戦うんじゃない。陽介たちを助けるために戦う。これ以上、とやかく言わないで」
少女はそう言って刀を構えると、部屋の中央に駆けて行く。立ちはだかったトランプ兵の数体を一撃で葬ると、一刀両断の文字通り圧倒的な強さでトランプ兵を狩り取って行く。
「なっ!?私たちが何度か攻撃しないと倒せない相手を、ああも容易く……」
「な、なんだあいつら?強えーな!」
「ていうか……ペルソナ使い!?」
美鶴先輩やゆかりたちの驚愕する気持ちは分かるけれど、私は鋭い目つきの少女のことで頭がいっぱいで話に加わる余裕が無かった。鋭い目つきの少女は中央にいたトランプ兵をあらかた片づけると真田先輩たちが戦うF.O.Eに攻撃する。
目つきのように鋭い剣戟でF.O.Eをも圧倒する彼女に私たちは唖然となる。攻撃を受けていたF.O.Eが向きを変えた頃には、目つきの鋭い少女は身を翻し、今度は総司くんたちが戦っているF.O.Eを攻撃する。
しかし、精彩さを欠いたのか彼女が振るった刀はF.O.Eの武器に当り、大きく弾かれた。
『お姉ちゃんっ!避けて!!』
バックアップの少女の叫びが響く。だが、そこにいるのはただのペルソナ使いじゃない!
「コロマル!」
総司くんが指示すると同時に飛びかかるコロマルは、少女を攻撃するためにガラ空きとなった背後からサブペルソナによって使えるようになっている中ダメージを与える壊攻撃『アサルトダイブ』を放って、F.O.Eをダウンさせる。そして、
「ペルソナチェンジ!コッパテング、ガルーラ!!」
げっ、総司くんがまた新しいペルソナを得ているし。もしかしたら、この戦闘中にも得ていたのかもしれないけれど、とにかくガルの上位魔法スキルを受けたF.O.Eは消滅した。そして、総司くんは目の前に手を伸ばし、その手を握ると一枚のペルソナカードが現れた。
その後、総司くんは武器を弾き飛ばされた少女に手を差し出して、固まった。
どうしたんだろうと私たちが思っていたら、F.O.Eを倒されて焦った部屋の奥にいた女王が再度トランプ兵たちを呼び出してしまう。
「くっ……せっかく彼らが数を減らしてくれたというのに……」
美鶴先輩がそう嘆いていると、助けに来てくれた彼らも入り口の方へ下がってきた。
「ちっくしょー、せっかく格好良く助けに来たのに」
「ていうか、際限なく呼び出すとか反則っしょ!」
彼らも私たちと同意見らしいが、さて困ったことになった。彼らの参入のおかげで大分体力は回復したが、トランプ兵は無限とも呼べるくらい際限なく召喚されてしまう。
どうしたものかと思っていたら、鋭い目つきの少女が涙を流しながら、入り口の方へやってきた。
「ど、どうしたんだよ!?相棒!!」
「ううん、陽介。気にしないで、今の私の気持ちは誰にも止められない。こんな雑魚、私が蹴散らす。だから、奥の女王は任せます。……“湊先輩”」
少女は懐から銃の様なものを取り出すと、皆が見守る中こめかみにそれをあてがう。
美鶴先輩やゆかりたちが息を呑む。だって、彼女が持っているのは特別課外活動部のメンバーしか持ちえないはずの代物なんだから。
目つきの鋭い少女は、そんなギャラリーの驚きに気づかず、一思いに引き金を引いた。
「敵を全て斬り裂きなさい!ヨシツネ、八艘跳び!!」
彼女が召喚したペルソナの攻撃は部屋全体に及び、女王によって召喚されたばかりのトランプ兵も真田先輩たちが相手にしていたF.O.Eもすべて倒してしまい、部屋に残っているのシャドウは女王だけとなった。
【こ、こんなバカなことがぁぁ、あっていいはずがないィィィィ!!】
ヒステリックな声をあげて暴れる女王だが、冷静さを欠いている今なら。
「皆、総攻撃。行くよ!」
私の掛け声を聞いた特別課外活動部の皆は部屋の奥に向かって駆けだす。
正気に戻った女王が再度トランプ兵を召喚するが、その頃にはすでに私たちは女王を攻撃できる位置まで来ており、トランプ兵の相手は“成長した優ちゃん”たちが受け持ってくれている。
私たちは安心して、女王の相手が出来、倒すまでそう時間はかからなかった。
こうして不思議の国のアナタの迷宮、最後の戦いはこうして幕を閉じるのであった。
平成28年1月21日追記
~総司のペルソナリスト~
公孫樹さま案
隠者コッパテング レベル14
無効 風
使用スキル
ガル、マハガル、タルカジャ、スクカジャ(15)、電光石火(17)、疾風斬(18)、ガルーラ(19)
※感想で頂いた案より取得レベルを下げ、スキルも変更しています。けれど、女王に到達時点でガルはガルーラへと変わっています。
※女神転生シリーズでは毎回お世話になるペルソナですね。黒い大きな羽、赤いラインの入った不思議な仮面をつけた天狗さんです。