ブロッカーとハッカー達の紡ぐ進化の物語   作:夕凪 琥珀

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一話 とあるチャットルームでの異変

──電脳空間"EDEN"。今や知らぬものはいないだろうと言われるほどの大企業カミシロ・エンタープライズが開発、運営する次世代型Webサービスの名称である。ここでは画面上のやり取りではなく、バーチャルリアリティとしてWeb上の情報を感覚的に体感できるようになっており、アカウントさえ所有していれば買い物から企業間の商取引、さらには行政手続きなどあらゆるサービスをこの空間内で行うことが出来る。接続方法は専用のブース「EDENスポット」で「デジヴァイス」を接続することでアクセスが出来る。(ちなみに、デジヴァイスはEDENにアクセス出来るほか通常の携帯と同じ役割も担っており、形も電話型からゲーム機型果てはメガネ型などもあり、ファッション性も非常に高くなっている)なお、犯罪防止のためユーザは現実世界と同じ顔のアバターで入ることが義務付けられている。

 

しかし、カミシロは次世代型Webサービスの他に従来のWebサービスも同様に運営している。そんなサービスのひとつのとあるSNS、名前は"エンジョイチャット"。ここでは自分でカスタマイズしたアバターを使ってネット上の人たちとやり取りが出来る。ここのとある鍵付きのチャットルームでは今日もまたいつものメンバーが集まってとりとめもない話をしている。

 

「んー、今日は特に面白そうな話題は無しかな?まあ、こいつらとはただ駄弁るだけでも楽しいけど」

 

そのメンバーのうちの一人である九条天理、アバターネームブロックマンは彼らの会話を読みながら独りごちる。ここにいるメンバーは曲者揃いで、たまに物凄く興味深い話を持ってきたりするのだ。ただし、今回は特に収穫はなさそうである。そう結論付けた天理は彼らの会話に混ざることにした。しかし、それよりいくらか早くチャットメンバーの一人である飴玉にワンピースをくっつけたような全身ピンクのアバターのアッキーノが天理の望んでいた興味深い話題を持ち込んできた。

 

「みんな、デジモンってしってる?」

 

「...デジモン。どこかで聞いたことがあるな」

 

天理が記憶を掘り起こしているとこの部屋の管理人である三角顔でそれにあわせたようなとんがり帽子が特徴のブルーボックスがそっけなく返し、それに続いてリセ○トさんが色白でじじいになったような見た目のふぁんた爺が質問に答えた。

 

「なんだよそれ」

 

「知ってる。デジモン・プログラムだろ?ハッカーが使ってるヤバイプログラムだ」

 

ふぁんた爺の発言によって思い出した内容は大したものではなかった。天理はデジモン・プログラムの噂を聞いたとき興味を引かれて初めは調べようとしていたが、ハッカーたちが使用するプログラムであると聞いたときにそんな気持ちは消え去り、結局調べることはなかった。そのため天理が知っているのは名前とハッカーが使用しているという二点しか把握していない。しかし、今回またその名前が出てきたことにより今度は調べようという気持ちになったらしい。天理は物によっては別の方法で使用することを考えながら会話を辿っていく。

 

「ヤバイってどのくらい?」

 

この発言をした奴はAI◎BA。照る照る坊主を基本とし、頭が黒、下が黄色になっており右目が◎左目が×のよく分からない顔をしている。よく分からないと言えばこいつの性別もよく分からない。男らしい発言をしたかと思えば、女みたいな口調だったりする。ネカマなのか何なのか。まあ、調べる気もねえからいいが。

 

「セキュリティを突破してデータを盗んだり、パスが必要なフォーラムに侵入したり、とにかくろくでもないことばかりだ。奴らが起こす事件はたいていこのプログラムを使っているらしい」

 

「デジモンやば!www」

 

「友達もアカウント盗られたって言ってたよ」

 

こいつはあるじゃNON。まあ、アヒルだ。それ以上でも以下でもない。

 

「うそ~」

 

コレはラブ★クラッシャー。ぶっちゃけキモい。リンゴの顔が付いたサラリーマンを想像してくれれば概ね間違いないだろう。

 

「それいつの話?」

 

こいつはU@はらぺこ。天然で面白い。俺は割と気に入っている。

 

「野放しのデジモンがうろついてるエリアもあるって話だ」

 

そして最後の一人闇夜の堕天使。紫で鼻があるスライムだ。名前からして中二病だと思うが気にしたら負けだ。まあ、面白いのに変わりはないしな。これでここのメンバーは全員紹介したか。ああ、ちなみに俺は五角形の盾に手足が付いたようなものを思い浮かべてくれればだいたいあってる。

 

ア「デジモンってうごくんだw」

 

ふぁ「なんか、本当にモンスターみたいなアバターのプログラムらしい」

 

ある「デジモン=デジタルモンスター」

 

ア「それだ!www」

 

U「ねえそれいつの話?」

 

ブロ「誰かはらぺこの相手してやれよ。全員無反応とか可哀想過ぎるだろ」

 

そんな風にデジモンについて話していると突然

「ナビットくん」がログインしました

というコメントが画面に浮かび上がり、中央の床からノコギリが出現した。そのノコギリはそのまま床を円形に切り取り、それが終わると床が開き中からナビットくんが現れた。ナビットくんとは、EDENの公式マスコットキャラクターで、普段はEDENエントランスと呼ばれる全ユーザに一般開放されたエリアに常駐している。しかし、イベント時など特別な催しを開くときには開催地に赴きイベントを盛り上げるために活躍したりしている。形状はマウス型の下半身にフットボール型の顔をしている。

 

ナビ「やあ、みんな。こんにちわ!」

 

ある「ちょwwwナビットくんwwwww」

 

ラブ「え?あのEDENの公式マスコットの?」

 

ア「うんえい!?PR!?w」

 

ふぁ「まさか。こんなところにEDEN公式が来るわけないだろ」

 

ブル「...つうかここさっき鍵かけたよな。おたく、誰?」

 

U「というよりこんにち「は」ですけど。それ以前にこんばんはですけど」

 

ブロ「お前はまたずれてるというかなんというか。とりあえず今気にするところはそこじゃない」

 

突然の公式キャラクターの登場に皆騒然とする。この展開にテンションが上がるもの、唐突な出来事に戸惑うもの、驚きながらも面白そうだと思うもの、仲間の発言に疑問を投げかけるもの、冷静に状況を把握するもの、発言に対する指摘を行うもの、それに呆れるもの。十人十色とはよく言ったもので全員がそれぞれ違う反応を見せており、彼らの性格の一端がでているだろう。

 

ア「あ、もしかして:ハッカー!?」

 

今回の話の中に出てきていたからだろうか。普段はあほの子を地でいっているアッキーノが中々確信付いたことを言った。

 

ラブ「うわさをすればwww」

 

ある「マジで!?」

 

ナビ「そうだよ。ぼく、ナビットくんだよ。ハッカーだよ」

 

そして、どうやらそれは正しいらしく、ナビットくんと名乗った偽者は正真正銘のハッカーらしい。とはいえ、この部屋は鍵付であり、さらにいえば公式キャラクターが何の連絡もなく突然こんなところに来たりすることもないので何人かは入ってきた瞬間から分かっていたことではある。その偽ナビットくんは言いたいことがあるらしくそのまま続けて発言をした。

 

ナビ「きみたちにすてきなプレゼントがあるんだ。あした、EDENにログインしてね!絶対だよ!ログインしてくれなきゃ、ハッキングしちゃうよ!じゃね★」

 

言いたいことだけ言うと偽ナビットくんはそのままログアウトしていった。残ったのは「ナビットくん」がログアウトしましたという文字と数秒の沈黙だった。それもすぐに終わり、メンバーは好き勝手に言いたいことを言い合っていく。

 

ふぁ「何だ今の。マジモンのハッカーか?」

 

ア「なわけないってwww」

 

ラブ「いたずら...よね?」

 

ここら辺までは大して問題もなく話が進んでいた。きっとこのままであれば、数日後には笑い話になっていたであろう。ハッキングするなどと言ってはいたが、実際にされたところで運営にいえばどうとでもなる。だから、あんな脅しには乗らず数日大人しくしていればいいだけの話なのだ。ちょっとビックリしたけど、面白かったねと、きっとその程度で終わっていたはずなのだ。しかし、天理曰くのメンバー内のあほのこ担当であるアッキーノが本来辿るべきであった道筋を曲げてしまった。

 

ア「オモシロそうじゃん!いってみよ!?」

 

この、何も考えてなさそうな最悪な発言によって。もちろんメンバーは誰一人として何も言わない。先ほどの数秒の沈黙とは違い、全員がその発言に絶句しているのだ。こいつは何を言っているのか、と。まあ、天理は一人部屋で爆笑していたが。それがチャットでやり取りをしている彼らに届くわけではないので割愛する。そして、その沈黙に何を思ったのかアッキーノが挑発するように続けて言った。

 

ア「あれ?ひょっとして、みんなビビッてる?ww」

 

とはいえ、そんな挑発に乗るほど全員子供でもないので相変わらず沈黙は続く。そこで、この部屋での兄貴分担当のブルーボックスが皆を代表して質問をする。

 

ブル「正気か?相手が本物のハッカーだったらどうする?」

 

ア「そんなわけないじゃん!EDENのイベントのプロモかなんかでしょ?まあ、ハッカーのほうがオモシロそうだけど!www」

 

ブル「止めても無駄みたいだな。...仕方ない、俺も付き合うよ」

 

ア「え!?つきあえ!?いきなりコクられたwww」

 

ブル「...言ってろ」

 

どうやらアッキーノは本物のアホらしい。言うに事欠いて本物のほうが面白いと抜かした。さすがの兄貴分も説得は無理と判断したらしい。危険があるのは承知で同行することにしたらしい。こういうことがサラッと出来るから皆に兄貴分として慕われているのだろう。天理もその人の良さにはかなり好感を持っており、ブルーボックスの言うことは他のメンバーよりは遥かに守っていたりする。とはいえ、聞かないときは聞かないが。

 

ア「ほかにいっしょにいくひと!」

 

ブルーボックスの発言で調子付いたのか、先ほどの沈黙を無視して質問をする。もちろんここにあほのこはひとりしかいないため話に乗るわけがなく。

 

ふぁ「君子危うきに近寄らず」

 

ある「PASS!」

 

ラブ「同じくラブりんも」

 

一人、また一人と去っていく仲間たち。最終的に残ったのは参加表明をしたアッキーノとブルーボックス、そしてAI◎BAとブロックマン(九条天理)の4人だけになった。

 

ア「みんなつまんないな~。せっかくなんだからたのしめばいいのに!ふたりもそうおもうでしょ?」

 

ブル「悪いことはいわねえ。辞めといたほうがいいぜ。犠牲者は俺だけで十分だ」

 

ブロ「残念ながら聞けねえ話だ。こんな面白そうな話乗らなきゃ損だろ」

 

ブル「...はあ。お前はそう言うと思ってたよ。どうなってもしらないからな」

 

ブロ「お気になさらず。自分の身くらい守れますわ。で?AI◎BAはいくのか?」

 

AI「...行く!!!」

 

こうして、残った4人で明日EDENに行くことに決め、その後はまたいつものように他愛のない話をしてその日は終わった。この選択が自分たちの運命を大きく変えるとも知らずに。

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