それでは、どうぞ
翌日。待ち合わせの時間の半刻ほど前になり、特に必要もない準備を終わらせた天理はEDENにログインする事にした。念のために自分の状態を鏡で確認する(とある関係上自分の身だしなみはきちんとしなければならないため、天理の住む場所には大きな姿見が置いてある)。
180あるかないか位の高めの身長、細過ぎず太過ぎずな体型。髪は軽い天然パーマで、全体的に緩く曲がっている。髪も肌も白く、眼だけは透き通った深紅の瞳をしている。先天性白皮症通称アルビノのようだ。時折見せる鋭い双眸は面影もなく、今は普段の眠たげな表情をしている。服装は白の無地のシャツの上に群青色のジャケットで、胸元には十字架のロゴが入っている。下は黒のズボンに二重のベルト、腰にはポーチをつけており、小物が何点か入っている。デジヴァイスは左腕につけているブレスレットで、時計代わりにもなっている。色は白一色のシンプルなもので、一本の紐を二重に交差させて巻き付けたような形状をしている。
普段通りであることを確認して、ようやくEDENへログインする。目指す場所はハッカー達の巣窟、クーロンである。ちなみに元々の集合場所はEDENエントランスだったのだが、どうせハッカーの仕業だろうと当たりを付けている天理は勝手気ままにクーロンへと訪れたのだ。
「ここに来るのも久しぶりだな。用事もなかったから当たり前なんだが」
場所はクーロンLv1と呼ばれる場所で、一般のユーザが来るようなところとは違い、どこか薄暗い感じのする場所になっている。レベル性なのはレベルが元々階層という意味だからだと思われる。
「さて、まずはガラクタ公園にでも行きますか。と、言いつつもう着いたわけですが」
「ガラクタ公園」とは、クーロンLv1の入り口にある場所のことで、発着ポイントからすぐにあるここは弱いハッカー達の溜まり場になっているとか。ともかく、目的地に着いた天理は二つの人影を見つけ、それに近づいていく。およそ警戒らしき警戒もなく、実にフランクな様だった。
「あれれ?BBにアッキーじゃん。ここは集合場所じゃないよ?何してんの?」
「なぜ自己紹介もしてないのに分かるのかはお前だからで納得するとして、俺らはあいつから連絡があったんだよ。ご丁寧なことにURLまで付けてな。というかその発言。おたく、勝手に一人でここに来たな?」
「む?その呼び方、さてはあなたがブロックマンね!こっちでははじめましてだね。あたしはアッキーノ!本名は白峰ノキア。ヨロシク!」
二人に話しかけると片方は呆れつつ、片方はどことなく嬉しそうに言葉を返してくる。ちなみに、天理はメンバーの何人かは略称や愛称で呼んでいる。理由は呼びやすいからだそうだ。天理はEDENで初めて合った二人と情報共有を兼ねて会話をすることにした。
「BBの言っていることは置いといて、自己紹介をしようか。俺がブロックマンだ。現実の名前は九条天理。まあ、よろしく頼む」
「...はぁ。まあいい。俺は真田アラタだ。好きに呼んでくれ」
「おう、よろしくアラタ。ところでノキアよ。その服装は一体なんだ?」
「ん?何って、可愛いでしょ?あ、もしかしてテンリってばあたしのエロカワボディにメロメロになっちゃった?いやー、あたしってばほんとに罪な女よね」
「いや、ねえよ。俺が言ってんのはその有り得ない痴女服について聞いてんだよ。おい、話聞けよ。...なあ、アラタ。どう思う?」
天理がこう思ってしまうのも無理からぬことであろう。ノキアの服装は青い布地を二つ用意して、それを紐で繋ぎ合わせたような構造をしている。正面から見ればただの丈の短いワンピース(それでも、太ももの半分より上のギリギリな所)に見えるだろうが、少し位置をずらせば左右が完全に露出していることが分かるだろう。見せパンというやつなのか、腰あたりには服をつないでる紐とは別の黒い紐が見えている。それらを隠すためなのか、申し訳程度にピンクの上着を羽織っている。しかし、サイズがワンランク大きいわけでも、前を締めているわけでもないので効果はあまりない。ちなみに、アラタは青いつなぎに白いパーカーで、つなぎにはあれこれとバッジがついている。
「...俺は知らん。服なんざ個人の自由だろ」
「なるほど。アラタはムッツリと」
「お、おいおい、言いがかりも程々にしろって。今のはほら、あれだ。女子ってそういうもんだろ?だから俺はムッツリじゃねえよ」
「んなムキにならなくても...ところで、アイバも偽ナビットくんもまだこないっぽいけど、俺達はどうする?」
「どうするって、ここに呼ばれたんだから、待ってればいいでしょ?あたし達に出来る事なんて特にないし」
「そう言えば、クーロンには白い幽霊の噂があったな。俺、ちょいそのユーレイ探してくるわ」
「ふーん?何でもいいけどあんまり遅くならないようにね~」
「え、ちょ!こんな美少女ほったらかして一人で勝手にどっか行くとか!有り得ないんですけど!」
「すぐ戻る。あと、テンリがついてんだろ。んじゃ、行ってくるわ」
結局あーだこーだと文句を言うノキアは無視してアラタはクーロンの奥へと入り、残りの二人は留守番をする事になった。自分の発言を無視され不機嫌になったノキアはその怒りを天理にぶつける(愚痴を言う)ことでストレスを発散させていた。天理は天理で、「こいつは一人だったら絶対今頃ビビッてただろうな~」という考えが頭に浮かんだため、仕方なくその愚痴に付き合っている。そんなことをかれこれ30分、天理が疲れ果ていい加減止めようかと思案しだしたころ、救いの手を差し伸べるかのように一人の人間がその場に現れた。それに気づいた二人はそろってそちらに注意を向ける。
「おまたせー!AI◎BAこと、相羽アミです!」
「あっ、どもども、アッキーノです☆こっちでは、はじめましてだねー。てゆーか、あたし白峰ノキア!ヨロシク!」
現れたのは一人の少女だった。ノキアよりも濃い目の赤い髪に、真ん中に◎が描かれた全体的に黄色いシャツ。右手には黒いグローブがついている。下は、黒の短パンに膝上まである黄色のニーソックスをはいている。全体的にかなり派手な色合いで、ついでとばかりに胸はトレンドマークの◎が歪んでしまうほどに強調されており、男なら思わず見てしまうだろう。しかし、扇情的な二人を見ても全く無反応な天理は爆弾発言をする。
「...お前、マジで女だったのな」
「...それは一体どういう意味なのカナー?場合によっては肉体言語も辞さないよ?」
「オーケー。落ち着け。今のは言葉の綾ってやつだ。決して悪意があっての発言ではない。だから今すぐその拳を下げたまえ」
前々から性別が分からず、もしやネカマかとすら疑っていただけあって目の前に女の子女の子した本物が現れたことによって思わず心の声が出てしまったらしい。しかし、プルプルと震えつつ拳を握っているところを見て自分の失態を把握したらしい。すぐさま誤解であることを告げ落ち着かせる。アミのほうも冗談だったのか直ぐに落ち着いた。
「で、今のは一体なんだったの?えーと、ブロックマン?」
「あ、ああ。九条天理だ。好きに呼んでくれ。で、さっきのだけど俺はお前のこと男だと思ってたんだよ」
「やっぱ殴ってもいいよね?これ絶対私許されるよね」
先ほどのことを全く反省していないのか同じ過ちを繰り返す天理。しかし、アミの状態を見てさすがに不味いと思ったらしい。今度はきちんと謝罪した。
「いや、すまん。今のは俺が悪かった。だが俺の言い分も聞いてくれ」
「...はあ。次はないからね?」
「り、了解した。さて、先ほどの発言だが男だと思ったというのは少し御幣があったな。正確には性別が分からなかった、だ」
「...なんで?」
「いや、考えても見ろよ。一人称は使わない。口調は別に女と特定できるようなものでもない。偶に男らしい発言をする。どう考えても男じゃないか?と思うぐらいするだろ」
「2つ目までは、まあ私が悪かったとして、最後のは何!?私別に男らしいこと言ってないよね!?」
「いや、あるって。例えば昨日の行く!!!とか。女の子だったら普通私も行く~!とかじゃないか?」
「むむむ。...わたしそんなに男の子っぽくないよね!?ノキア!!」
「...うぇっ!?あたし!?そ...そうね!アミっちはちゃんと女の子らしかったって!うんうん。このあたしが保障してあげる!」
「...納得いかない」
言葉通り、よほど納得がいかないのだろう。腕を組んで頭を下げてウンウンと唸っている。しかし、すぐに別のことに気づいたのかハッと顔を上げてノキアたちのほうを見た。
「そういえば、ブルーボックスは?ここに呼び出されたときに他のみんなはいるって聞いたんだけど」
「来てますよ!?来てますが何か!?」
「え、ちょっとノキア急にどうしたの?」
天理はアミの発言を聞いてからこうなるだろうと思っていた。なぜならアミが来る直前までその事で愚痴を聞いていたのだ。およそこうなることは火を見るより明らかであった。そのため、さっきの二の舞にならぬよう一歩後ろに下がり、気配を消しばれないように努めることにした。
「ちょっと聞いてよ!信じられる!?あいつさ...”俺、ちょいユーレイみてくるわ”とかとか言って一人でどっかいっちゃったんだよ!?あいつ、そーゆうとこあるんだよね。ジコチュー的な!?イケメンだからってチョーシのっちゃってるみたいな!?大体、何?白い少年の幽霊?噂になってるだかなんだか知らないけど、みつけてどーすんすか~?てゆーか電脳空間でユーレイとか非科学的だし?意味わかんないし、怖くともなんとも――」
「...うらめしや~」
「どぅわひょんぬわぎゃーーーーーーー!!!」
しかし、今回の愚痴は始まってものの数秒で終わってしまった。理由は見たまま、話に出ていた張本人が軽くノキアを驚かし、それにノキアが過剰反応したためだ。それにしてもこの反応、女の子がしていい驚き方ではない。アラタは若干引いているし、天理は体を震わせている。
「ちょ...ビビりすぎだっての」
「な、なんだ、アラタじゃん。ただのアラタじゃん。...ゆ、ユーレイかと思った」
「ぷっ。くっくっく...あっはっはっはっは!!"ユーレイかと思った"だってよ!!チョービビッてんじゃん!おもしれー!!」
「て、テンリ君笑いすぎだよー?さすがに、...失礼、だよっ...っぷ。」
「お前ら二人とも落ち着け。ノキアのやつ若干涙目だぞ」
「!!な、泣いてないし!別に怖くもなんともなかったから!マジだから!」
「くくく。悪かったよ。ところで、二人は自己紹介しないの?」
「ん?ああ、そうだな。こっちで会うのは初めてだし、それくらいはちゃんとしねーとな」
天理の言葉に同意する形で二人は軽く自己紹介を始める。とは言っても名前を教えあうだけなので簡単に終わり、それを見ていたノキアはまたしてもアラタに関する愚痴を言い始める。
「もう分かっちゃってると思うけど、これがブルーボックスの中の人だよ!何か、イメージちがくない?向こうでは頼れるアニキっぽいじゃん?でも、こっちではブアイソだし、ジコチューだし、目つきワルイし、イケメンの無駄遣いってゆーか?」
「...アホは放置で頼むわ」
「あ、あはははは」
「それはいいから、何か成果はあったの?」
「いや、ナビットくんらしきものはまったく。呼び出したんだから近くにいると思ったんだが、こりゃ当てが外れたかもな」
「え!?ユーレイ探してたんじゃないの!?」
「ま、そのついでにな」
「ノキアはもうちょっと思慮深くいこーぜ。俺らの兄貴分がこの場面でお前みたいなビビリな女の子放置して自分の気の向くままに適当に行動とかするわけないだろ。俺じゃないんだから」
「ビビッてないって言ってるじゃん!ほ、ほんとに怖くなかったもん!」
「お前はどうしてそう恥ずかしいことをつらつらと。いや、そんなことより今日は何か様子がおかしい。ここはいつもなら一人や二人ハッカーがいてもおかしくはない。なのに今日は人っ子一人いやしねえ。もしかしたら――」
「やあやあ、みんなおまたせ。ナビットくんだよ。集まってくれたよいこの君たちに、プレゼントだよ!これは、世界を変える
アラタが何かを言いかけた刹那、そのアラタのデジヴァイスの通信ごしに件の偽ナビットくんが現れた。しかし、今回もまた前回同様言いたいことだけ言ってさっさと通信を切ってしまった。その直後、通信切れのときの音とは別に何かが起こったと思わせるノイズの音が聞こえた。音の発生源はそれぞれのデジヴァイスからのようだ。
「な、なに...コレ?」
「ハッキングだ!俺たち全員ハッキングされている!」
「ハ、ハッキング!?」
「新規プログラム――『デジモン・キャプチャー』がインストールされました」
デジヴァイスの無機質な音声が言うには、チャットルームで話題になったあのデジモンに関する何かが強制インストールされたらしい。それを聞いてアラタは舌打ちをし、天理は感嘆の声を上げた。
「ちっ、俺の
「へえ?俺のデジヴァイスにもデータを流せるなんて、一体どんな人物なのやら」
「で...でじもん...きゃぷちゃー?」
「最近ハッカーたちの間に出回っているハッキング・ツールだ」
「ねえねえ、アラタ。もしかしてこのデジモンって...あの、デジモン?」
「ああ、ノキアが興味津々だった、そのデジモンだろ」
言いながら、アラタは半透明のタッチパネルを呼び出し、何かの操作を高速で行っていく。どうやらこういう作業にかなり慣れているようだ。読み取った情報を他のメンバーに口頭で伝えている。
「ふ~ん。特定のデータ...デジタル・モンスターをスキャンして"
「え?え、え、え!?...デジモンってハッカーが使うヤバイプログラムなんだよね!?じゃあじゃあ、じゃあじゃあじゃあ...あたしたち、ハッカーになっちゃったわけ!?」
「そう言えなくもないかもな。ま、別にいいだろ。いまどきハッカーなんざ珍しくもなんともねえし」
「いや、言えねえよ。アラタ、お前楽しそうに適当言うなよ。ノキアのやつ若干錯乱してるぞ」
「や、ヤダヤダヤダ!ハッカーなんてヤバイよ...絶対ヤダよ...!い、いらない。こんなプログラム、捨てなきゃ」
「というより、なんでノキアはあんなにビビッてるの?昨日はあんなに勇んでたのに」
「実際こんなことになるとは露ほどにも思ってなかったんだろ。こいつアホでビビリな割に行動力だけはあるからな」
天理とアミが議論している横でノキアは指を震わせ拙いながらもデジヴァイスを操作していた。どうやら、データを削除してこの事をなかったことにしたいようだ。しかし、すぐに声を荒げ、異変を伝えてきた。
「う、うそうそうそ!?アンインストール...できない!?」
「やめとけ、プログラムにプロテクトがかかってる。無理に削除すると、何が起こるかわかんねーぞ」
「えっ?それはちょっと怖いなー。まあでも、何もしなければ大丈夫でしょ?それなら――って、あれ?」
会話の途中で唐突に言葉を切ったアミ。疑問の声とともに顔を逸らすと、全員が同じ方向に視線を集めた。眼を向けた先には何らかの影が、走り去っていく光景がちらりと視界の端に映った。それに対してアミは声を上げる。
「もしかして、ナビットくんじゃない?もしくは噂の白いユーレイとか!?」
「...逃がすかよっ!」
「ふむ、ユーレイは今は然程興味はないけど、偽ナビットくんなら面白い。俺も追いかけるとしようか」
アミの言葉を聞いてかどうか、アラタは我先にといち早く追いかけ始め、天理も少しの間だけ考えをまとめて、同じように追いかけていった。後に残るのは置いて行かれたアミとノキアの女の子二人組。
「な、なんで二人とも追いかけるのよ。あたしは嫌だよ!?帰るから、もう帰るからね!?」
そう言ってここへ来るときに通った発着ポイントへ戻ろうとするノキア。しかし、その道の途中には先ほどまではなかったおおきな壁が出来ていた。FIREWALL Lv.1と書かれたそれは、半透明でデジタルな状態になっている。
「な、なにこれ?さっきまでこんなのなかったじゃん。これも、ハッカーの仕業ってこと...?先へ進めってこと...?あたしたちをここから帰さないつもりなの?」
「アラタたちが危ないかもしれない!追いかけよう!」
「やだ、いかない...あたし、行かないから!」
行動しようとするアミとは正反対に怖くて身動きが取れなくなってしまったノキア。このままこうしていても仕方がないと思ったアミは不安は残るもののひとまず先へ進むことにした。この先にナニカがあると信じて。
ノキアの口調が安定しない。言い訳としては、元々あの子の口調って安定しないよね!っていう
だめですかね?だめですね、はい
次話はもっと遅れる予定です