なんか真っ黒なところで真っ白な奴に突き飛ばされる夢見たぞ!誰だアイツ!
その二、武器は装備しなければ意味が無いぞ!
「行って来まーす!」
「はーい。いってらっしゃい」
つまずきながら靴を履き優子は学校に向かった。
暖かな風が頬を撫でる。
寝癖のついた髪を抑えながら、使い始めて1年経った、少し錆の浮いた自転車にまたがる。
優子の通う学校は家からそう遠くない場所にあるのだが、如何せん時間が時間なので、あらん限りの力を込めてペダルを漕ぐ。
「優子ちゃん、おはよう」
「おはよっ!おばあちゃん!」
「ほんとに明るくなったねぇ、昔とは大違いだ」
「えー、そんなことないよぅ」
2軒隣に住む老婆との会話。そんなことをしている間に時間はどんどん過ぎていくのだが、老婆の言葉を無視するようなことは無かった。そもそも無視をするという選択肢が存在しなかった。
優子はこの街が大好きだ。自分の生まれ育ったこの街。そこに住む人々。全てが優子にとって大切なものだった。
カチッ、カチッ、
「あと2分・・・」
家を出てから10分弱、ようやく学校の正門につく。
「ハァッ・・・ハァ・・せぇんせー、おはようございまぁーす」
「おう。おはよう、内原。今日もギリギリだな」
どうやら常習犯のようである。
「ぜぇーんぜん、あと二分あるならヨユーですよ、ヨユー」
反省していないようだ。
「正確には、あと1分と25秒なんだけどな」
「嘘っ!間に合えー!」
「ははっ!朝から笑わせてくれるなー内原は」
「そうですね」
「うわっ!いつからいた、ってかお前も早くいけ!」
バァーン!
教室の扉が壊れそうな勢いで開いた。
「ハッ・・ハッ・・・」
「お、おはよう・・・優子・・」
「おはよう・・・美佳ちゃん」
「はよっす。今日は遅刻しなかったみたいだな」
「今日も、だよ・・・剛太くん」
クラスメイトの橘 美佳と金本 剛太。
美佳はおっちょこちょいの優子の保護者的存在で、剛太はいつも人を笑わせようと突拍子もないことをするクラスのお調子者だ。二人は優子のかけがえのない友達だった。
「あ、そういえばさー今日って特別な日らしいよ」
「なんだ?なんかの記念日か?」
「えー、でもカレンダーには何も書いてなかったよ?」
「舞姫さんがさー、今日はとんでもない事が起こるって」
「舞姫さんって隣のクラスの?」
「そう、でさーー」
キーン コーン カーン コーン
「やべ、俺席戻るわ」
「私も。じゃね、優子」
「うん、じゃねー」
「うーい、みんな揃ってるかー、SHR始めるぞー」
「起立、気を付け、礼、着席」
「じゃあ、出席確認するぞー」
担任の教師が間延びした声で生徒一人一人の名前を呼ぶ。
「富谷ー」
「はーい」
「内藤ー」
「おーい、内藤ー?何だまたアイツ休みかー?全く、もう二年生だぞ。いつまでも一年生気分じゃイカンなー」
その後は一人の欠席もなく、教師の話は日課の確認に進む。
「えー今日はー」
その時だった。
きゃぁああーーーーーー!!
不意に教室に響き渡る悲鳴。あとに続く争うような乱暴な音。
どう考えても虫が入ってきたレベルのものではなく、もっと恐ろしい、尋常ならざることが起こっているに違いなかった。
朝の眠たげな雰囲気が緊迫感溢れるものに塗り替わる。
「何!?なんかあったの!?」
「やべぇってこれ!どうしたんだ!?」
「落ち着けみんな!俺が見てくる!戻ってくるまでここを動くな!」
教師がそういったのも束の間、後ろの壁にみるみる亀裂が入り、
ドガシャーン!
わざわざ教師の手を煩わせる必要もないとばかりに、この騒動の元凶が顔を出す。
それは大きく筋肉質な体に一枚の布を巻きつけただけの格好をした巨人だった。
特異な点を上げるとしたら、体に対して小さすぎる頭についている、充血して真っ赤になった大きな大きな一つの目。
その姿はまるでゲームやマンガで出てくるサイクロプスそのもので−−−−−−−−
グゥウオオオオオオオォオオオオオオ!!
突如として現れた次元を超えた存在に呆然としていた生徒達も、獣を思わせる野太い雄叫びに一気に現実に引き戻された。
「きゃあぁぁああああ!!いやぁああああ!」
「うわぁあああぁああああ!」
先程までは教師の体面を保っていた男も今度ばかりは自分の事だけで精一杯だった。
襲い来る巨体から逃げ惑う生徒。しかし混乱状態では思うように動けない。
「おい!邪魔だ退けろ!」
「お前の方が邪魔なんだよ!」
廊下はすでに秩序を失った人の群れがひしめき合っていた。その波にもまれながらも比較的小柄な優子はなんとかおしくら饅頭状態を抜けだした。
「はっ、は!なんなのあれ!?」
兎にも角にもこの場所から離れようとがむしゃらに足を動かす。
「ど、どどどうすれば!どうすればいいの!?は!とにかく遠くに行こう!」
優子は単純だった。
「ええーと、ここから遠いのは・・・屋上だ!」
単純な上に馬鹿だった。
ダダダダダダダンッ!ガシャーン!
屋上の扉を乱暴に開ける。
「ふん!・・・よし!」
首を左右に向ける。ついでに上下にも動かしてみた。
抜けるような青空の下、ビクビクしながら首の運動をする姿は実に滑稽だった。
「はぁー・・・なんなのよぅ・・・」
先程と同じような疑問を持ちながら腰を下ろす。
「美佳ちゃん、剛太くん、はぐれちゃったなぁ・・・」
日陰の少し湿った地面に手をついた時、指先に何かが触れた。
「ん?」
疑問に思いながら視線を下にやると、
目が合った。
「ひっ、ひぃいいい!?」
日陰に光る2つの目がこちらをじぃっと見つめていた。
後退る優子にその瞳の持ち主がゆっくりと近づく。
日陰から日の当たる所に移ると、ハッキリと姿を見ることができた。
まず目立つのは子どもと見間違う低身長。いや、実際子供なのかもしれないが、いくつものシワが刻まれた醜悪な顔がその可能性を否定していた。
ジリジリと近づいてくる背を丸めた緑色の体。大きさで言えば優子のほうが一回り大きいのだが、もともと臆病な性格の上、混乱しきった頭ではこれと戦おうなどと言う考えは出てこなかった。
ドン
とうとう背中が壁に付いてしまった。コンクリートの壁の冷たさが服を通して伝わってくる。
「いや・・・来ないでぇ・・」
涙目で訴えるものの相手はまるで聞く耳を持たず、石で作ったナイフを手の中でくるくると回す。
一歩、二人の距離が縮まる。まるで焦らすかのようにゆっくりと。
二歩、普通の人間ならば手の届く距離。しかし、二人には少し物足りない。
三歩、もうすぐだ。すぐに彼女の柔らかな髪に触れられる。嬉しさに舌なめずりをしながら、ナイフを逆手に持つ。
四歩、もう目と鼻の先だ。高鳴る胸の鼓動を感じながらナイフを振り上げそして、振り下ろ
そうとした手が誰かに止められた。
苛立ちを隠そうともせず邪魔者を睨みつける。逆光で顔が見えない。この無神経野郎・・・
「内藤くん・・?」
本編は毎週月曜日くらいに投稿しようかな。