ユウシャの心得   作:4月の桜もち

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前回のあらすじ


無理だわー、モンスターとかまじムリだわー。
絶体絶命だわー。


その三、旅は道連れ世は情け。

チラリとこちらを見やる。その琥珀色の冷えた瞳に込められた感情を読み解くことは優子にはできなかった。

 

背の高い影が手首を捻る。すると、それに合わせて小人の腕も捻られる。

あたり前に曲がる方向とは逆の力を受けて、細い腕にビリッとした痛みが走った。

たまらずナイフを落とし逃れようと首を振ると、いきなり視界に地面が迫ってきた。

足払いを食らった小さな体は、いとも簡単に転がされ、起き上がろうと頭を上げると、微塵の容赦もなく鼻先に靴が叩きこまれる。

踏み潰された顔は前よりも醜く整形されており、自尊心を傷つけられた小人そのまま気を失ってしまった。

 

 

「うわぁ・・・」

 

あまりにも手慣れた動作に感心していた優子は改めて内藤を見る。

内藤 剣也は学校に蔓延る噂の通りの鼻つまみ者、いわゆる不良少年だった。

 

ガッシリとした体躯、襟足の長いオールバックの黒髪、釣り上がった眼と引き結ばれた口元、手首から少し顔を出した何かの紋様のようなもの。

その全てが鋭く、触れれば切れてしまいそうな雰囲気を持っていた。

 

コツコツと靴を地面に打ちつけながら獲物を仕留めた狩人がこちらに近づいてくる。

 

「おい。」

「はっ、はひぃ!」

「お前・・・」

 

ガッと頭を掴まれ顔を覗き込まれる。

限りなくゼロに近い距離にまで近づき、何かを確かめるようにまじまじと見つめる。

親しくもない男に無言でこんなことをされては優子もたまったものではない。

 

「あ、あのぅ・・・」

「行くぞ」

「は?えっ!?」

 

腕を引っ張られ強引に立たせられる。

遠慮の無い強さだったので前につんのめって倒れそうになるが、剣也の逞しい腕は難なくそれを受け止め、手を繋いだまま歩き出した。

 

「ちょっ!ちょっと待って!行くってどこに!?」

 

優子の言葉を無視してどんどん歩を進める。何か目的の場所があるのか、剣也の足取りに迷いは微塵も感じられなかった。

屋上から下へ降り、現在二階の西側階段。優子のクラスのすぐ隣。最初に騒ぎが起きたところに最も近いところだ。

 

「内藤くん!?」

「うるせぇな、さっさと足動かせ」

 

ビクッと体を震わす優子を気にもとめず、件の教室の扉に手を掛ける。

ガラガラと音を立てて開いた戸の先に見えたのはある女生徒の後姿。

 

毛先が切り揃えられた烏の濡れ羽色の長い髪。

その美しい髪の持ち主が凛とした声で何かを呟く。

 

「・・・時空を司りし神の創り給うた厳粛なる門よ

、与えられし命に従い彼の者をここに召喚せよ!」

 

彼女の唇から放たれる言葉に答えるように教室中に光が舞う。それらはだんだんと収束していき、光り輝く門を形造っていく。

 

「我、舞姫 斎の名の下答えよ、汝の名はアベル・カサルティス!」

 

斎という少女が何者かの名前を呼んだ時、固く閉ざされた門の扉がゆっくり開く。

 

三人が見守る中から現れたのは金糸の髪と萌える若葉色の瞳を持った、一人の少年だった。

 

少年は扉から一歩出て肩を回す。

 

「はぁあー、やっとこっちに来れた。疲れたよ」

「おつかれのとこ悪いけど、休んでいる暇なんか無いわ。もう異変は起こっているんだもの」

 

二人は向き合い言葉を交わす。

 

「ところで後ろの二人は誰だい?」

 

少年が少女の後ろを指差しながら疑問を口にする。

少年の指に釣られて少女が振り返り、眉根を寄せる。

どうやら今まで優子、剣也の存在に気付いていなかったようだ。

 

「貴方達何者?」

「えと、私はー」

「人に尋ねるより自分が名乗るのが先じゃねぇか?」

 

剣也が敵意も顕に低い声で返す。

質問に答えなかったのが気に食わなかったのか、斎がぶっきらぼうに言葉を吐く。

 

「先に質問をしたのは此方よ。質問に質問で返すなんて馬鹿なことしないで頂戴」

「んだとテメェ・・・」

「まぁまぁ、落ち着いて二人共!斎も挑発するようなこと言わないの!」

 

険悪な雰囲気の二人を少年が宥める。

フンと鼻を鳴らしそっぽを向く少女の代わりに、少年の方から自己紹介をする。

 

「ごめんね、いきなりでびっくりしたでしょ。

ボクの名前はアベル・カサルティス。こっちの女の子は舞姫 斎だよ。君達の名前は?」

 

にこやかな顔で尋ねるアベルに、釣られてにへらと笑いながら答える。

 

「私は内原 優子だよ。こっちの人は内藤 剣也くんってーー」

 

言い終わらないうちに、剣也が優子の頭を殴る。

 

「痛った!何すんの!?」

 

目に涙を浮かべながら訴える優子に冷ややかな視線を送りながら怒気を孕んだ声で言う。

 

「こんなわけわからん連中に名乗るバカがいるか」

「わけわからなく無いよ!アベルくんと舞姫さんだよ!」

「名前なんか知るか!こんなところでこんなことしてりゃあまともじゃない奴だってすぐにわかるだろ!」

 

あまりの剣幕で声を荒らげる剣也に面食らって思考が停止している優子。

 

「はは、彼の言うとおりだ。この状況でボク達ほど怪しい人物は他にいないだろうね」

 

苦笑いをしながら、アベルが自分達について語る。

 

「ボク達はこの世界の人間じゃない。違う世界から来たんだ」

 

「私は違うわよ」

 

不機嫌な声で斎が訂正する。

 

「ああ、ごめんごめん。斎の祖先とボクは、だね」

「あ!だからそんな服着てるんだぁ」

 

少しズレた観点から納得する優子。

 

「簡単に信じてしまうのね」

 

その単純さに呆れた表情を見せる。

と、斎が何かに気付いたようだ。

 

「アレは・・・」

「どしたの?・・・もしかして、この子?」

 

ヒソヒソと話をする二人。

優子は首を傾げ、剣也は疑うような表情だ。

 

少し時間があって、何かを決めたのかアベルが頷き、こちらに顔を向け、質問をする。

 

「キミ達ここに来るまでに魔物を見た?」

「魔物?」

 

優子はここに来るまでのことを思い出し、顔を青ざめさせる。

どんどん顔色が悪くなっていく優子を見て、

 

「どうやら見てきたみたいだね」

「ねぇ!あれってなんなの!アベルくん達はなにか知ってるの!?」

 

少々ヒステリックな声で問う。

 

「知ってるも何も、あれはボクの世界のものだからね」




昨日寝落ちしてしまた。やっちまったんだぜ。

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