Fate/ragnarok gate   作:フーリン式

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早眞冬児――5

 壬生家の屋敷に到着した頃にはもう完全に日は落ちていた。

 屋敷はいつにも増して静かで、広い敷地のどきにも灯りらしきものは灯されていない。

 暗闇。それが唯一この屋敷に確定している現象だ。

 階段を登り、屋敷の門を潜った瞬間。魔術師ではない自分でも理解できる程の悪漢が背筋を凍らせる。

 悪漢は命じる。只一言、それ以上進んだら殺す。

 

「普通じゃないよな」

 

 冷や汗をかきながらも敷地内を進む。

 進めば進むほど悪漢は小さくなったがそれでも頭痛にも似た吐き気は収まらない。

 屋敷の扉に手をかけて鍵が掛かっていないことを確認すると、できるだけ物音をたてないように屋敷の中へと足を踏み入れる。

 長い廊下のどこにも灯りは付けられておらず、家の中もまた暗闇に支配されていた。

 相手は何者かわからない。そんな相手に丸腰という訳にもいかないので玄関前にあった箒を手にし長い廊下を歩く。

 冷静さなんか保っちゃいない。今にも走り出したいぐらいだ。

 でも、それでは恋人をあんな目に合わせた奴を殴れない。

 震える心を力で制して、冬児は1人孤独な戦いに挑んだ。

 

 長い廊下を抜けると中庭が見える縁側へと出る。

 ここに来るまでに人は愚か、生き物の気配はまったく無く、虫の音一つ聞こえない。

 

「クソッ……いったいどこ」

 

 その瞬間、どすりという鈍い音が自分の背中から聞こえた。

 静寂に包まれていた屋敷に、大量の液体が床に落ちる音と刃物が抜き取られるときに鳴る独特の金属音が響く。

 

「っぁ、あぁあぁっ!!!」

 

 痛みを噛み締めながら片手に持った箒を背後に叩きつけるもそこには何も存在していなかった。

 初めて経験する痛み。

 あえなくして壁に持たれかからなければ立てなくなってしまう。

 床に溜まった真紅の水たまりはどんどんとその体積を増やしていく。

 意識が無くなる前に、いや意識を無くしてはならない。

 そのためにも冬児は大きく口を上げて叫んだ。己への喝も込めて、全力で。

 

「ッッ!!何処のどいつだ!!隠れてねぇで出てきやがれ!!!」

 

 こんな馬鹿みたいなことをしても返答は無いと思っていた。

 

「――ッハハッハッハッハハハ!ごめん!!吹き出しちゃったよ!!」

 

 カツン、カツンと闇の中から男が歩いてくる。

 すぐにその姿は月光に晒され、黒のジャケットを着た青年が現れる。

 身長は170㌢ほど。細身ではあるが、首や手の肉付きがしっかりしている健康体と見られる。

 

「お前」

「誰だって?それともなにしてるかだって?いいよ、どっちも答えてあげるさ。

名前は平桔平。歳は22、職業バイク店従業員、趣味はバイク乗ることでーす」

 

 この場に似合いもしない軽い口調でこちらの反応も確認しないまま話は進められていく。

 大丈夫、動こうと思えば目の前の敵の頭を箒で割るぐらいはできる。

 

「なにしてるかっつうと、まぁ客観的に言うと強盗つぅか。まぁでもそれは世間体の話だし君にはこっちの方で伝えたほうがいいかなぁ」

 

 男はニヤリと笑って冬児を指差す。正確にはその背後。

 

「“魔術師”殺しってやつ」

 

 瞬間、背後へと振り払った箒の柄は今度こそ、相手の刃物と激突する。

 しかし衝突したのは木で構成されている箒と、僅かな力加減で内蔵まで到達する、おそらく獣を狩るための山刀だ。

 直後、当然ながらこちらの箒は二つに別れる。

 信じられなかった。

 箒が割れたことではない。

 箒を割った山刀が誰に持たれる訳でもなく、一人でに浮いて殺しにかかったことにだ。その山刀自体も、ゆらゆらと蜃気楼のように揺れ動き形がつかめない。

 勿論、さっきのだけで攻撃が止むことはない。

 こちらの武器が無くなったことに好機を感じたのか、それとも本気で殺しにきただけなのか。

 殺すことを目的とした攻撃は絶えず冬児の命を狙ってくる!!

 

 首。

 

「っがぁ!!?」

 

 手首。

 

「っぁぁっ!!!」

 

 胸、胴、太腿。

 

「いぐぁっ!!!??」

 

 体中を次々と見えない何かに山刀によって切りつけられる。

 止めようと防御に回した両手も結果は同じこと。

 切りつけられて出血量を増やすだけだ。

 

 ――やばい。このままじゃやばい。

 

 逃げるしか、逃げるしかない。

 

「とか考えてたんだろ?」

 

 後退していく身体の右腹に容赦ない回し蹴りが打たれる。

 

 「がぁっぁっ!!!」

 

 木で作れられた屋敷の壁にぶつかり力が入らなくなる。

 身体がダルい。

 頭から壁に激突したせいか考えることが難しくなってきた。切り傷とは別に頭からも出血していた。

 前方からの猛攻に気を取られて、後方にいる黒のジャケットの男に気が回らなかった。

 それほどまでに前方にいる何かの攻撃は人間離れしていたのだ。

 例えるのならそう。万人でも止めることのできない雪崩のように。

 消えかけた意識でもまだ音だけは聞きれた。

 地べたに這いつくばった自分の背後の壁がなにかの拍子で崩れ落ちた。

 

「おっおぉーすげぇ。なにこれ隠し通路?こんなことできんの魔術師って」

 

 黒いジャケットの男の軽い声が聞こえる。

 それに対して応える声はどこにもない。

 しかし彼は何かに語りかけるように話を続ける。

 

「さて、これ殺したらさっさと行きますか。

――えっ?なにぃ、殺しちゃダメなの?

ダメじゃないけど先にあっちの息の根止めてから?効率厨だねぇ……。でも、あの女凄かったなぁ」

 

 男は調子に乗ったのか、軽口のトーンを早くする。

 

「ぐちゃぐちゃの肉片必死に動かしてなんとか生きようとして。ああいうの何て言うんだっけ。無様?滑稽?まぁなんでもいいや」

 

 それはそこにいる何かに向けられた言葉だ。

 彼女を馬鹿にしている軽口。

 

「うっぁ、おおぉおおおおおおっおおっ!!!」

 

 歯を食いしばり、全身をなんとも言えない苦痛が襲ってもそんなものは理性を捨てればなんとかなる。

 一度でいい。

 起き上がってこのむかつく外道を後悔させてやるぐらいぶんなぐれたら死んでもいい。

 だから筋肉を断ち切ってでも立ち上がれ。

 

「うっおおおぉっおおっおお!!」

「うるさいよ。もうお前には興味ない」

 

 やっと思いで床から離れた顔を正面から蹴り上げられた。ブーツの底が正面から当たり一瞬身体が宙に浮かび、背後から階段に堕ちていく。転がり落ちていくと言った方が正しいだろう。

 すぐにジャケットの男の姿が視界に入らなくなり暗転する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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