Fate/ragnarok gate   作:フーリン式

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早眞冬児――7

またも瞬間。

 

「ッ!!?」

「あがっ!!?なっなんだこれ、ぐぁっ!!?」

 

 空気の流れが変わり、なにかを発動した少女とそれに守られている自分以外のあらゆるものが、外側へと押し出される。

 社は粉々に砕け木屑に変わり、地面に散らばっていた石や砂などの砂利はなんの抵抗もな例外なく壁に向かって吹き飛ぶ。

 人体が壁にぶつかる音もまた出現する。

 しかしそれは、ジャケットの男でもなければ、俺と少女の二人のどちらかという訳でも無い。

 視界に映らない暗殺者ーーアサシンだ。

 音がした壁は確かに割れていた。なにか小さなものが石で作られた壁にめり込んでいる。

 

「ッ!!……なんだお前………!!」

 

 黒ジャケットの男は超常現象を起こした相手を睨みつけている。

 対して少女は、男と、めり込んだ壁、両方に警戒を払ったまま水平に上げた片手を下げる。息ひとつも乱さず少女は笑いかける。相手は冬児ではなく睨みつけているジャケットの男に対してだ。

 

「なんだと言われてものう。私もまた、そこにめり込んでおるお主の相方と同じ英霊なのだが」

 

 その挑発にもとれる言葉に対しての怒りを、男は少女にではなくひび割れた壁に対してぶつける。

 

「おいっ!!おい、いるんだろ!!俺がピンチなんだから、“宝具”でもなんでも出して助けろよ!!」

 

 それに対しての壁の反応は無し。

 が、代わりに三秒後、返事は現象となって返される。

 凍てつく。空気ではない。温度ではない。

 

「ーー“マナ”が凍っておる……」

 

 ふいに横に居る彼女が呟いた。

 凍てつく何かはひび割れた壁の前に集まり形を創っていく。

 それはアニメや漫画によく登場する魔方陣のようだった。歪な形の魔方陣が完成していくと共にそれを知らせるための轟音が鳴る。

 浮遊している魔方陣の先に、なにか、いや見えた。

 魔方陣の先に、白い少女が壁に背を預けており、親しいものの名前を呼ぶように口を開いているのを。

『“祝津の猟犬”』

 

 

 

 直後、魔方陣が形を変え、一つの生命としてこの世界に出現する。

 それは巨大な獣の姿をしていた。

 四本の足を堂々と地につけ、生まれたばかりだというのに、どれが自分が狩るべき対象なのか理解しているようだ。獣の赤い目は俺と少女のことを離さず食らいつけるように捕らえている。

 男は自らは猟犬に近づこうともせず未だに階段の上に留まったまま声を荒げる。

 

「はっ、はは!!よくやった!!ほら早くやれよ!!俺にもっとすげぇを殺しを見せてくれよ!!」

 

 その言葉に返事はない。

 だから返事の代わりはまた現象として表される。

 

「━ー--━--━ー━━-ー--!!!」

「ッ!!」

 

 文字にできないような雄叫びが空間に反射すると共に獣が疾走する。

 常人の俺には視界に捉えることすらできなかったが、少女はすぐに自分の前に立ち両手を前に伸ばす。

 一瞬という時間も経過せず空間に衝突音が反射する。

 衝突物の片方は、少女が出現させた障壁で、もう片方はその障壁と激突したことで勢いを無くし姿を現した巨大な獣。

 しかし、明らかに少女が出現させた障壁の方が押されていた。

 獣は勢いが無くなったことを理解したのか、障壁を踏み台にして壁の前へと戻っていった。

 巨大な獣。それを受け止める少女。見えない敵。

 こんな非現実的状況で発した冬児の言葉は、

 

「っ、なんなんだよ……」

 

 なんて間抜けな感想だった。

それに気がついた着物の少女は倒れ混むとも捉える座り方で冬児の方に距離を詰めた。

 

「主様よ。率直に申すが、お主、今回の戦いに偶然巻き込まれた、と解釈してよいのだな?」

「今回の………戦い?」

 

 巻き込まれたのは事実だ。

 それを聞いて、少女はわかりましただけ言うと、やや音量を大きくした口調で話を続ける。

 

「では、我がスキを作る。お主はその隙に逃げろ」

 

 淡々と彼女は簡単な作戦を口にし、それに対して驚いたのは勿論聞き手である冬児自身だ。

 

「なっ、それでお前はどうするんだよ!!もしかして俺の代わりに死ぬとでも言うつもりかよ!!」

「ふむ。その気はないが、元よりこの身は主を守るために存在するもの。お主に死なれては元も子もない。

なに、お主が『欠片』を所有している限り、また新たな英霊がお主に力を貸すだろう。だから構わん。早く行け」

 

 淡々と話を続ける少女が何者で本来は何をするためにここに出現したのかはわからない。

 だが、『自分が死ぬ』なんてことを簡単に受け入れる女の子に対して、冬児は無償に腹が立っていた。

 

「んなもん許すか」

「んっ?」

「んなもん許すか!!」

 

 こんな叫び声に対しての彼女の反応は勿論キョトンとした間抜けな顔だ。

 自分でも何でこんなことを言ってるのかわからないのに、彼女がわかるはずがない。

 

「俺が一番嫌いな奴はな!!なんかのためだとか、理由なんかないとか、ようはふざけたことを理由にして死のうとする奴だ!!

軽々しく自分の命投げ出そうとしてんじゃねぇぞ!!!命ってのはどんな状況だろうと自分のために、身勝手に使うもんだ!!誰かのために使おうなんか考えんじゃねぇ!!」

 

 これは身勝手な考えだ。冬児と少女と、自分の彼女の影を重ね合わせて、理想を押し付けているだけにすぎない。

だからなんだ。

 いくら身勝手だろうと構わない。

 冬児はそんな奴等に対して変わらずこう言うのだから。

 

「命を無駄にするな!!」

 

 立ち上がった体は即座に男に向かって駆け出した。

 全くの考え無しということはない。

 今、獣の意識は少女に向いている。

 なら今現在の目標は、その主と思われる黒ジャケットの男の方だ。お互いのコンディションが万全なら五分、が今の俺は重症と言っていいほど怪我を負っているから肉体的には冬児の方が不利。

 しかし奴は度重なる非現実的現象の連続で精神が不安定になっている。あいつは冷静じゃない。

 たぶん黒ジャケットの男は“魔術師”とか、そういう類いの人間ではない。冬児と同じように偶然、あるいは他の理由でこんな世界に足を踏み入れたただの人間 

 そんな平凡な男には負けない。

 黒ジャケットの男も冬児の奇行にも思える行動に気がついたのか階段の上で身構える。が、遅い。

 それより早く一段目にたどり着いた冬児は、ほとんど感覚を無くした右足の裏をおもいっきり地面に叩きつけ、もう片方の左足を振り上げそのまま男に叩きつける。

 

「ッ!!?」

 

 冬児自身ですら自分のずたぼろの体がここまで動いてくれるとは思わなかったのだ。男の方も予測できず対応が遅れ、左足の踵は相手の脳天に直撃する。

 

「あがぁっ!!?!?」

 

 体制を一気に崩した相手に、右手で作った拳で二撃目をくらわせようとする。

 しかしそんな軽い判断が、現実に赦されることは少ない。

 直後。またも背筋に走る悪感。

 あの巨大な獣が自分を標的に定めたのだと思って振り返った。

 しかしそこに獣の姿はない。

 ならその悪感の正体など解りきっている。

 壁にめり込んでとっくに動けないと勝手に判断していた、見えない敵がここには存在しているのだから。

 風を切る音すら発生させない完璧な隠密能力。そこから繰り出される、鋭利な刃物による斬撃。

 回避は不可能。しかし悪足掻きはできる。

 体制をずらせ。致命傷を受けてはならない。

 とっさに身体を前転させた結果、山刀が切り裂いたのは冬児の肩甲骨辺りだった。

 浅いか深いか。どちらともいえない微妙な加減で切りつけられた。

 自分から前転したことも合わさり、歯止めを無くした俺の体は、またも壁へと激突する。呼吸を正す前にジャケットの男が空間に反射するほどの重い足音を発てながらこちらに近づいて来た。そこから男の苛立ちが聞き取れる。

 男は苦悶に顔を歪めて、怒りに震えた右足を振り上げる。

 

「くそっ!!ガキが!!なに調子にのってんだよ!!」

 

 振り上げられた右足で、腹部へと容赦ない蹴りが入れられる。

 同じく浴びせられる罵声には、敗北を知らない子供が、負けた言い訳をするようにも見えた。

 

「あぁ、もうかくてー。お前魔術師じゃねぇし、殺るの楽しそうじゃないから“アサシン”に殺させようと思ってたけど。殺っちゃう?一般人殺すとかもう飽きたけど、お前は特別な」 

 

 本人は憤怒の表情を消して笑顔を作っているつもりだろうが、つき一眉がピクピク動いているし、この笑顔は作りものなんだろう。

 男はジーンズのポケットから折り畳み式の大型ナイフを取り出し、さっそく刃の部分を露にする。

 

「まずは両の手首と足首を切って抵抗できないようにして、そのあとバイクで引きずってやる。おい“アサシン”!!とっととその女サーヴァントを殺せ!!お前の宝具は強いんだろ!!」

 

 男は背後にいる自分のパートナーに怒鳴り付けるように命令する。よっぽど蹴られたことが気に入らなかったのか。

 しかし、それに対する返事はなかった。

 最初は、今まで一言も言葉を発さなかった見えない敵がまた言葉を発さなかっただけかと思ったが、獣さえ声をあげない。 

 

「おい、聞いてるのかアサ」

 

 ジャケットの男も不審に思ったのか、たまらず振り替える。

 後から思えばそれが、言うなら彼の死亡フラグだったのかもしれない。

 

「シン………」

 

 呆然としているジャケットの男の影から冬児にも見えた。

 言葉を発せない獣は自慢の雄叫びもあげず動きを止め、

言葉を発さない暗殺者はそのスキルを解いて、あるいは解かされて白く小さな身体世界に出現させ、言葉を発する少女はその両方に自身の両手の平を向けていた。

 少女がこちらの視線に気がついたのか、やや顎を上げて目線をジャケットの男に移す。

 

「おや、ふむふむ。もしかして我待か?しばし待て。もう少しで終わる」

 

 ついさっき獣と衝突したとき、障壁を展開していた彼女の表情には焦りがあった。それは暗殺者の最強の『武器』である獣に対して脅威を感じていたからに他ならない。

 しかし今の彼女の表情は一点の曇りもない笑顔。

 屈託のない少女の笑顔ではない。妖艶さを醸し出す美女の企み顔。

 

「ひっ…!?」

 

 それに圧倒されたのか、男は二三歩後退する。

 自身の苦境をやっと理解したのか、先程のよりも怯えた様子で、姿を現した白銀の少女に向かって声を荒らげ、腕を横に振る。

 

「おいアサシン!!隠れるぐらいしか脳のないお前が何で姿を現してるんだよ!!さっさと消えて、その女殺せよ!!」

 

 白銀の少女は姿を現しても、声を出すことはなかった。

 見たところ、こちら側の着物の少女より歳が下に見える程の幼い容姿。白銀の髪を後ろに束ね、同じく全身に纏うは白装束。動きにくそうなあの服装で今まであんな攻撃を繰り出していたというのか。

 いや、それ以前に白銀の少女といい着物の少女といい、『何故あんなことができる』?と疑問を抱くべきだろう。

 だが冬児は知っている。知りすぎる程に理解している。

辛抱を切らしたのか男が目を見開いて叫ぶ。

 

「おいこらアサシン!!何止まってんだよ!!早く殺せぇ!!」

「叫ぶな。我の主様の鼓膜に傷がついたらどうするつもりだ。そこの暗殺者は動かないのではない。動けないのだ」

「あっ!?!」

 

 キャスターが指さすのはアサシンと呼ばれる少女と巨大な獣の足元。

 そこには不可解な現象が起こっていた。

 アサシンやあの巨大な獣の足元に、直径1メートル程の紫の紋様が出現していたのだ。その上に立っているものたち同様、紫の光る紋様が動くことはない。ただ怪しく輝くのみ。

 

「あれは………」

「結界の発動だ」

「結界、だ?」

 

キャスターの言葉に反応するジャケットの男。

 

「我の鏡。

これはその身にこの世に余分な影響を与えるほどの魔力が映った場合、それと、それに繋がるあらゆるものの行動を停止させる。

要はそこの犬ころが動き回ってくれたおかげで、鏡に見事に映ってくれ、お主達の動きは停止させられることができた訳だ。今、現在の世界ではそこのワンちゃんとダイレクトに繋がっているのはその暗殺者だけのようだから同じように止まってるのだ」

 

 境内前に立てられている鏡を見ると、鏡もまた紫の輝きを放っていた。

 いや、あれが中心、核なのだろう。

 信じられない話ではあるが、あの鏡は映したものと、それに繋がる・関係するものの動きを止めるようだ。その繋がりの有効範囲がどこまでのものかはわからないが、実際にあれほど俊敏な動きをしていた暗殺者は構えたまま止まっている。

 

「そっそんなデタラメなもんありかよ!!」

「この程度でデタラメだなんて……

本当に今回の参加者は素人ばかりなのだな。ただ単に動きを止めた程度の話だろう。大丈夫だ、お主にはなにも酷いことなどせんよ」

 

 だってそれは、と言葉が続けられ、彼女の瞼が少し下がり、隙間から僅かに見える黒の瞳がこちらを映す。

 

「先程の啖呵、実に良かった。我は気に入ったぞ主様。

だからそやつの処遇はお主に任そう。それはお主がするべきことだ」

 

 着物の少女は目だけをこちらに向けて変わらない笑顔で口を開いた。

 気がつくと自分は立ち上がっていた。

 立ち上がって、拳を作る。

 

 

 両足で地面に立ててるのが不思議なくらいだ。

 まだ右手に力が入るのが嘘みたいだ。

 カグラをあんな目にしたこいつをまだ殺してないのが馬鹿みたいだ。

 

「うぉおおおおおおぉおおおお!!!」

 

 大きく右足を前に踏み出して、全体重をかけ、

 

「ひっ」

 

 奴の顔面に拳を叩き込む。

 

「ぶべらぁっ!!??」

 

 振り返ったばかりのジャケットの男は、顔面を全力で殴られよろめく。

 口が切れたのか歯が折れたのか。口から少量とも大量ともいえない血を流していた。

 

 ――だからなんだ

 

 そのまま二撃目。

 今度は相手の後頭部を掴み、左足を曲げた状態で上に跳ぶ。

 すると左足の膝は気持ちよく相手の鼻にめり込む。

 骨を粉砕した音が響き、

 

「ぴぎゃぁぁぁぁぁ!!!」

 

 同時に男の奇声も空間に響いた。

 

 ―だからどうした

 

 相手の後頭部の髪を引っ張り上げると、ボロボロに腫れ上がった顔が、こちらに助けを求めるように見つめている。

 それは希望だ。

 こんなに酷くても自分は助かるだろう、という僅かな望み。ごく普通の一般人がいつも考える、『自分は死なないだろう』という心の現れ。

 違う。人間は死ぬんだよ。

 そんな理想なんか認めない。 

 お前は助からない。救わせない。

 この世界に足を踏み入れた時点で、お互い、とっくに普通などでは無くなったのだから。

 自分の頭を大きく後に引き、目だけは奴の額を見る。

 

「ひっぃっ、たったすけ!!」

「誰がたすけるかぁぁぁ!!!!」

 

 後退させて自分の頭部を、相手の額目掛けていっきに振り下ろした。

 結果、双方鈍い音をたてる。

 決して美しくない音だが、冬児にはそれが、KOを知らせるボクシングのゴングの音のように聞こえて……。

 目の前の男が崩れ去った後も……しばらくその音に身を任せていた。

 

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