Fate/ragnarok gate   作:フーリン式

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戦支度

○【同時刻・イタリア】

 

 丑三つ時。日本ではモンスターが出ると言われている不気味な時間帯に親に部屋に来るよう言われ、大規模マフィアの若頭ライグンルは憂鬱な気分だった。

 

「はぁぁぁ……」

「大丈夫よライン!!頭目だってこんな時間にお叱りなんかしないだろうし!!」

「そうっですよ!頭目がご病気だからボス代理してるラインさんに労りの言葉とかかけてくれるだけかもですよ!!」

「あー、もしかしたら遂に正式にボス継げ、とかかもっすね」

「………うっ!!」

 

 不吉なことを聞いてお腹が痛くなってきた……。

 

「うっうぅ………」

「ヴァッファンクーロ!!!おいっルツ!!てめぇなにライン不安にさせてんだよ!!」

「そうだぞ!!ラインさんはファミリーの跡継ぎになるつもりはねぇんだぞ!!?」

「いてっいてっ!!?えっそっそうなんすかぁ!?」

 

 縮こまった背後でフランとマークに殴る蹴るされるルツに目を向けて、もう一度立ち上がる。

 後ろの三人は頼りないラインのことを心配して夜中にトイレに行くように親のもとまで付いてきてくれたのだ。

 

「ねぇみんな」 

 

 ラインが声をかけるとフランとマイクも足蹴りをやめボロボロになったルツも片目を瞑ってラインを見つめる。

 

「かっ帰っちゃダメ、かな……?」

 

 身体が震えていた。

 逃げ腰の自分が病魔に犯された親からも逃げると言ってそれでもなお震えているのだ。

 涙腺が刺激されて涙が溢れそうだ。

 自分の情けない姿に、目の前の金髪の女性は呆れることもダメ出しをする訳でもなく、眉を下げた安穏の笑みで見つめ返してくる。

 ラインを見つめる他二人も、彼にやる気を出させるのは彼女の仕事だとわかっていて口を出さない。 

 

「ライン。ラインはやるときはちゃんとやる子だってアタシも、後ろにいる二人もファミリー全体が解ってるけど、そのアンタがやるべき時を見間違えてどうするの」

 

 ラインが声を出そうとする隙も与えずフランは目の前の気弱男子の胸ぐらを掴み一気に引き寄せる。フランの紅いマグマのような瞳は真っ直ぐに対照的なラインの蒼い目を見つめ直す。

 

「フランはアンタ、気づいて無いかもしれないけあたしはアンタのこと大好きだよ」

 

 いやいやそれは流石に気づいてるだろ、とマークとルーツが手を横に振ると、

 

「えっ」

「気づいてなかったのかよ!!!!!?」

 

 フランも一旦気を抜くように見せながらもすぐに眉を立てて真剣な表情に戻る。

 

「アンタはアタシが“こんな身体”になっても変わらず接してくれた。アンタがいたから、アタシはファミリーという名の新しい居場所に出会えた。

だからアンタも。仮にもアンタの居場所をくれたアンタの父親に、恩を返さきゃいけないでしょ?」

 

 僅かに息を呑む音。

 ラインの表情には不安と迷いが口元の震えで現れていた。

 だがそれもすぐに終わる。自分のことを信頼してくれる仲間が後押ししてくれたんだ。ヘタレな自分の心に鞭を打たねばならないとそう心に決める。

 親にいる部屋の方へ体を向け、一度涙目で背後に振り返る。

 

「に、逃げ出しそうになったら、拳で止めてね…………?」

「オーライ、任しといて」

「了解です!」

「うぃっす!」

「てめぇらがライン殴ったら殺すからな」

「ええぇええっ!!!?そりゃねぇぜ姐さん!!」

 

 愉快な仲間達を背に決心の意を口から吐き、赤い扉をノックする。

 会うのは実に何ヶ月ぶりだろうか。最後にあったスーツを着た父親の姿を頭に思い浮かべ、ドアノブに手をかける。

 

 

 

 意を込めて入った部屋の中は、頭に思い浮かべていたものとは大分違っていた。

 部屋に入る前。自分が思い浮かべていたのは、部屋の中で葉巻を堂々と吸う父の姿。治療なんかも薬を適当に机の上にばら撒いている、そんな程度のものだと思っていた。

なのに現実は違っていた。

 夥しい程の医療器具。まるでウィルス系のパニックホラー映画で見るような完全隔離カーテン。その透明なカーテンの向こう側にある巨大なベットに寝かされている牛蒡のようにやせ細った老体。

 ラインの父だ。

 前見たときとは変わり果てているがそれは父だった。

 当時は悪名の一つに数えられていた自慢の金髪も今ではほとんど白髪へと変わっている。

 思い瞼を開いてこちらを確認し、父はゆっくりと手を挙げこちらに来いと命じる。躊躇うことなく父の元へと歩みその手を握り彼の呼びかける。

 

「父さんッ!!」

 

まるで古いコンピュータのように、時間をかけてこちらの呼びかけを理解した父は乾いた唇を必死に動かし言葉を作る。

 

「ライングル………しっかりやっているか……?ファミリー………のことはお前に任せっきりだった、からな………」

「父さん……!!」

「えぇラインはちゃんと役目を果たしてますよ、頭目」

「………フランレル……か?」

 

 自分の背後に居る三人にも気がついたのか、視線は自分一人から後ろの三人にも向けられる。

 

「いっ………いいおんなに、なったぁ………俺があと、10年若けりゃ………ごほっ!!!だっいてやったのになぁ……」

「頭目、あまり喋られてはお身体が」

「うるせぇ……な、わかっ、てるよ。薬飲んだから少しなら話せる……」

 

 父を注意した男は父の側近だろう。何度か顔を見たことがあるし、胸につけてあるバッチは幹部クラスが持っている物だ。

 父がその男に合図をすると、男はこちらに向けてスーツケースを開く。

 中に入っていたのは―――なんの変哲もない金属の欠片だった。

 背後から息を発しようとする声が聞こえる。おそらくマークとルツが発言しようとしているんだろうけど、二人は当然頭目や幹部クラスに質問できる立場にいない。

 だから質問するのは自分の役目だとラインは悟った。

 

「それは?」

「ごほっごほっ!!!そいつぁなぁ…」

「頭目、ここは私が」

 

 咳き込む父を抑えてくれた男はこちらに向けて無表情のまま口を開く。

 

「ボス代行や後ろの三人はもうこのファミリーにいて長いですがら承知の上でしょうが、我らがラースファミリーが25年前から魔術師共と関係を持っていることは知ってますね。

それもこれも魔術師達の数の激減から来た資金援助もくろみなんですけも……とにかく。我々は今まで、ある魔術師達のグループと手を組みその力を金で買っていました」

 

 そのことは知っている。魔術なんて奇想天外なものは存じ上げないがそれぐらいは自分も知っている。

 が、最後の言い方には疑問があった。

 

「何で過去形なんですか?」

自分が言おうとしたことをフランが代弁すると、男は少し口黙る。そのとき父親に許可をとるために目線を逸らしたのをラインとフランは見逃さなかった。

 

「………魔術師の連中が報酬の金額に文句を申し始めたのです。しかも実質、今までの三倍」

「三倍!!?」

 

 仲良く反抗したマークとルツを見て、父が咳き込みながらも言葉を紡ぐ。

 

「元々奴等は我らよりも表側の世界に顔を出さないものだ……俺達のようなものたちと交渉をすること自体昔は考えられなかったぜ…」

 

 そこで少々溜めを作ってから父はラインに目を向ける。おそらく咳き込んだせいで喉が枯れているからだろう。

 息子としてはもう無理はして欲しくないのだが父は構わず言葉を紡いだ。

 

「だがどんなものにも終わりは来る。それが遥か昔から栄えた魔術師共の血統でもな……奴等、自分達と同種の者が減り力を無くすの恐れて俺らのようなヤクザもんからも資金を得ようしてやがんだよ」

「でも何でいきなり報酬の値上げなんか……」

「そいつの答えがこいつだよ」

 

 父は自然な形で葉巻を吸おうとしたのをマークに止められながら、舌打ち混じりに幹部の男が持ったスーツケースの中身を親指で指差す。

 再度確認してもケースの中にあるのは骨董品かなにかの欠片だけである。

 

「お前にはこれが何に見える?」

「えっ、え、と……」

「欠片に見えます、地頭」

 

 口籠るラインの代わりに答えてくれたフランの顔を見上げると、何も言わずニッコリと笑い返してくれる。その様子を見て父は苦笑し、話を続けようと欠片を触れないように指差す。

 

「聖杯の欠片、とかいうやつらしくてな、奴等はこれを狙ってるらしい。お前ら、いかにヤクザやってても聖杯の名前ぐらいは聞いたことがあるだろ」

 

 父は自分やフランだけではなく、後ろの二人にも問うように笑ってみせた。

 

「円卓の騎士とかが出る伝記の盃と何処かで聞いたような」

「よく知ってるなマーク」

 

 いっいえ、と返したマークの表情はどこか誇らしげに、それでいてどこか照れていた。

 

「まぁこいつはそれとはまた違うんだが、説明するとちと長くなる。

だからここから先の話を聞いて俺がボケたなんて思わねぇでくれよ息子共」

 

 そうして父は病魔に蝕まれている身体に鞭を入れながら、彼らのこれから先の運命を語る。

 

 

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